面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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強装弾と魔国のスパイ
いつの間にか40話突破!…のはずなんだけど?とにかくみんなありがとう!


再びパルフェムと住人全員でダイニングのテーブルを囲む。

ピーネはルーベルが日曜大工で作ったお子様椅子にご不満な様子。

あと、態度には出さないけどルーベルもパルフェムへの警戒を解いてない。

そんな事を知ってか知らずか、彼女は嬉しそうに皆と語らう。

 

「とまぁ、そんなわけで彼女があの馬鹿2匹を一緒に追っ払ってくれたのよ」

 

「また皆さんとお会いできて嬉しいですわ!」

 

「なるほどな。

なーんか、外がいつも以上にうるさいと思ったら、そんなことがあったのか。

ただ二人の喧嘩がヒートアップしてるだけかと思ってたぜ」

 

「とにかく、誰かが怪我する前に戦いが収まってなによりです」

 

「今頃どっかの岩に激突して潰れたトマトになってるかもね、アハハ」

 

「は~い、お茶が入りましたよ」

 

「ありがとう、ジョゼットさん!」

 

皆が、それぞれ好みのお茶をジョゼットから受け取る。

前にも言ったけど、ジョゼットの家事スキルが向上したから、

こないだ小遣いを月500Gにアップしてやったのよ。

そう通達したら、ジョゼットがバジリスクと見つめ合ったみたいに、

硬直して動かなくなったもんだから、急いで2,3発ビンタしたら、

やっと正気に戻ったの。

 

“一体どうしたってのよ、いきなり”

 

“はっ!?いえ、里沙子さんが自分から出費を増やすなんて言い出すものだから、

きっとわたくしは、里沙子さんに化けた這い寄る混沌に魅入られてしまったのかと”

 

ついでに軽くもう一往復ビンタしておいた。本当にこいつは。

雉も鳴かずば撃たれまいって言葉は、この世界には伝わってないみたいね。

余計なこと言わずに受け取ってれば、痛い思いせずに500Gもらえたのに。

何も考えずに喋る癖はまだ治らないみたい。

 

「ピーネも、もう窓に張り付く女に怯えなくていいのよ」

 

「だ、誰が人間なんかを怖がったりなんかするもんですか!それにこの椅子!

赤ん坊でもあるまいし、

階段とミニ背もたれ付きの椅子なんてレディにふさわしくないわ!」

 

「あら、そう?毎晩夜中にカシオピイアを起こして、

トイレに同行させてたお子様の台詞とは思えないわ。

無口なこの娘ならバラさないと踏んだんだろうけど、うぷぷ」

 

「ちょ、喋ったの!?カシオピイア!」

 

「……喋ってない。お姉ちゃんが鋭いだけ。眠い」

 

「なんだよー、せっかくお前のために作ったのに」

 

「クスクス……」

 

静かな笑いを浮かべて、あたしらの馬鹿話に聞き入るパルフェム。

三人寄れば文殊の知恵って言うけどありゃ嘘ね。

女6人集めたところで、知恵どころか恥の活造りしか出やしないじゃない。

彼女の声を聞いたルーベルが、水を一口飲むと、パルフェムに話しかけた。

 

「なあ、皇国の偉いさんが、なんでまたこんな遠くまで来たんだ?」

 

「もちろん、嫌がる里沙子さんを無理矢理攫いに来ましたの」

 

ルーベルは何も言わずにただ彼女を見据える。

今度は無闇に銃を抜かないあたり、彼女が本気じゃないことはわかってるみたい。

 

「……ふぅん、こんな飲んだくれで良けりゃ持ってけよ」

 

「それ酷いんじゃない?」

 

「酷い。お姉ちゃんはワタシのお姉ちゃん」

 

「あらら、予想外に反応が薄くて残念ですわ。もちろん冗談ですけど、

もう少し慌ててくださらないと、パルフェムの立つ瀬というものがありません。

たまたま休暇が入ったから会いに来た、それだけですの」

 

「そうは言っても、あなたもいい趣味してるわよね。

実際ルーベルの言う通り、ただ日本に生まれただけの呑兵衛の何がいいんだか」

 

「あなたはご自分の魅力に気づいていなくてよ、里沙子さん。

こうして沢山の仲間が集まっているのは、あなたの意思によるものではないでしょう?」

 

「まぁ……私がここにいるのも、里沙子との縁があったからだしな」

 

ルーベルがカラになったコップの底を眺めながらつぶやく。

 

「そうですね。わたしがここに来た目的は留学でしたが、

勉強だけでなく、ここに居て楽しい、という思いも確かにあります」

 

「私は!自分だけの世界を見つけるまで、寝床として使ってるだけだからね!

……里沙子なんて嫌いなんだから」

 

エレオノーラとピーネもそれに続く。あ、ひとつだけ例外が。

 

「そうだ、ジョゼットに関してはあたしの意思で住まわせてるわ」

 

「里沙子さん!やっぱりわたくし達の間には厚い友情が」

 

「雑用係がいなくなったら不便だしね」

 

「時々旅に出たくなるんです」

 

パルフェムが扇子で口を隠しながら声を抑えて笑い出す。

こればっかりはしょうがないわ。

傍から見たら、こんな変人ファミリー、笑いのネタにしかならないだろうし。

だからって、このメンバーが全員、

休日潰してでも河原でバーベキューやりたがるようなリア充だったとしたら、

今頃あたしの頭はクルクルパーになってたと思う。結局現状が一番落ち着くってことね。

人の目気にしたってしょうがないわ。

 

「んんっ、ふわあ……あら失礼」

 

パルフェムが大きく伸びをしてあくびした。

何の足しにもならないやりとりに退屈したのかしら。

 

「どうしたの、眠いの?」

 

「少し。今、皇国は夜中ですから。仕事帰りに思い立って飛んできましたの」

 

「ちょっとあたしの部屋で休んだら?階段上がって突き当り」

 

「まあ!里沙子さんのベッドで眠ってもよろしいの?」

 

「成り行きとは言え、アホ共の処理に付き合わせちゃったからね。

一番大きいベッドで寝る権利を与える」

 

「わーい!里沙子さんの香りに包まれて寝るなんて、

海を超えてきた甲斐がありましたわ!」

 

「妙な表現するんじゃないの!あと、晩飯くらいは食べていきなさいな。

ジョゼット、今夜は1人前追加ね?」

 

「は~い。とっておきのチーズグラタンを焼きますね」

 

「ジョゼットさんもありがとう!では、わたくしは暫しの間失礼……」

 

そしてパルフェムが2階へ向かおうとしたけど、はたと足を止めた。

振り向くことなく彼女は告げる。

 

「……そうそう、里沙子さん」

 

「何?」

 

「里沙子さんを狙っているのは、わたくしだけではなくってよ。

戦うとすれば、きっと敵は強大な戦力を備えてくるはず。

あなたも強力な手札を揃えることをお勧めしますわ」

 

「おい、それどういうことだよ!」

 

「敵、とおっしゃいましたが、魔王が倒れた今、戦うべき相手など一体どこに?」

 

「今の段階ではこれ以上のことは言えませんわ。

ひょっとしたら何も起こらない可能性もゼロではありませんし、

こちらから仕掛けたら、向こうに引き金を引く口実を与えることになりますから。

それでは失礼~」

 

「待てよ、何か知ってるなら話していけよ!里沙子の味方なんだろう!?」

 

「ルーベル、落ち着いて。パルフェムの本意はともかく、

あたしの武器もそろそろ物足りなくなってきたのは事実なのよね」

 

「あいつの言うこと真に受けるのかよ!」

 

「聞いて。アホ相手とは言え、今日の戦いに勝てたのも、パルフェムがいたおかげ。

今のままじゃ、今後一人で対処できない相手が出てくる。そんな気がするの」

 

あたしは左脇ホルスターから、Century Arms M100を抜く。

黄金色のフレームが鈍く輝く。こいつも効かない敵が増えてきたわね。

夕食までにはまだまだ時間がある。

パルフェムが起きるまでやることもないし、彼女に相談してみましょう。

 

「エレオノーラ、悪いんだけど、帝都まで連れて行ってくれないかしら。

会いたい人がいるの」

 

「もちろん構いませんが、どちらまで?」

 

「あたしの銃を強化してくれる、かもしれない人」

 

「ああ、なるほど!きっとあの方なら、銃にも詳しいでしょう」

 

「なんだなんだ?私にも教えてくれよ。っていうか私も連れてってくれよ」

 

「用事が済んだらとんぼ返りだし、

あのおっかない店主にわざわざ会いに行きたいなら別にいいけど」

 

「あ……やっぱいい」

 

ルーベルも行き先に察しが着いたようで、椅子に戻った。

あたしとエレオノーラは手をつないで、彼女の“神の見えざる手”で、

少し懐かしさすら感じるほどの帝都にワープした。

 

 

 

「では、いつもと同じく、聖堂で待っていますので」

 

「ごめんね、すぐ済ますから」

 

大聖堂教会前でエレオノーラと別れたあたしは、

目的の店を目指して、歩き慣れたルートを通る。到着まで徒歩で約15分。本当久しぶり。

あの薄暗い路地の先が目的地よ。シガニー・ウィーバーは元気かしら。

 

屋根も壁も真っ黒で、ショーウィンドウにガラクタが転がるだけの店の佇まいは、

相変わらず客を歓迎する気など一切ない。ドアを開いて中に入る。

カウンターの奥には、やっぱりツナギ姿の黒鉄の魔女ことダクタイル。

険しい顔で新聞を読みながら話しかけてきた。

 

「……いつものうるさい連中はどうしたんだい?」

 

「今日はちょっとした用事だから、あたし一人」

 

「用事?金になる仕事なんだろうね。あんたが勝ったせいで50万儲け損ねた」

 

「もちろん依頼よ。あたしの銃を強化してほしいの。

錬金術士でもある、あなたならできると思って」

 

「ああ、大抵の銃ならお手の物さ。出しな」

 

カウンターに、ピースメーカーとM100を置く。

でも、それを見たダクタイルが不機嫌そうな顔を更にしかめた。

 

「あんた、この銃手に入れてからどれくらい経つ?」

 

「う~ん、中古品だから正確にはわからないけど、買ってから半年くらいかしら」

 

「何発撃ったか知らないが、2つとも寿命が近づいてるよ」

 

「寿命!?これ、もう撃てないってこと?」

 

「当たり前だろう。銃ってのは、火薬を爆発させて弾頭を打ち出す武器だ。

発砲すると当然内部から強力な圧力が掛かる。いくら頑丈だろうが、

何百発も撃てば、銃身が圧力に耐えきれなくなって、いつか暴発する。

次にこいつで戦ってたら、あんた死んでたよ」

 

「間に合ってよかったって言えるのか、正直微妙だけど。

……ねえ、これどうにかならない?

数だけの敵なら瞬殺できるピースメーカーと、一発の破壊力が飛び抜けてるM100。

両方揃わないと意味がないの。ドラグノフはやっぱりあたしの体に合わない」

 

「耐用年数回復なら、拳銃1丁につき40年延長で2万5千Gだ。30分待てば今やってやる」

 

「本当!?お願い、両方直して!」

 

「待ってな、今取り掛かる」

 

あたしはほっと胸を撫で下ろした。危うく命綱がなくなるところだったわ。

ダクタイルは2丁の相棒を持って作業場に引っ込み、

魔法陣が描かれ、煤で汚れた台の上に置いた。

銃の側には素材らしき細い鋼鉄の棒を5本程度並べる。

用意ができると、彼女は台の縁に手をついて、呪文を詠唱した。

 

「綻びし鉄鎖の絆、見えざる手と手を取り合い、今一度其の命を紡ぎ出せ!

メタルリバイブ!」

 

彼女が詠唱を終えると、魔法陣が魔力で光り、

あたしの銃をグリーンの半透明なドームで包み込んだ。

鋼鉄の棒が少しずつ空中に溶け出し、銃に染み込んでいく。

それを確認したダクタイルがカウンターに戻り、また椅子に座って新聞を読み始めた。

 

「30分。そこで待ってな」

 

「ねえ、修復が終わったら、強化もお願いしたいんだけど、それっていくらくらい?」

 

「拳銃は1丁10万Gだ」

 

正直迷う。確かに銃の強化は必要だけど、既に魔王戦の前にここで何十万も使ってる。

暮らしには困らないとは言え、

これからはあまり湯水のように使える状況でもなくなった。

M100だけ頼もうかしら、そんなことを考えて返事に詰まってると、

見かねたダクタイルが新聞をテーブルに投げ出してあたしに尋ねてきた。

 

「あんた、魔法は勉強してんのかい」

 

「え、魔法……?」

 

「え、じゃないだろう。

あれだけ時計改造したり、マナを蓄えたりして、魔法使いになったんだ。

魔術書の一冊くらいは読んでるんだろうね」

 

すっかり忘れてた。いつの間にかクロノスハックに頼りっぱなしで、

あたしも魔力を操れるようになったことに気が向いてなかった。

 

「馬鹿だね、とんだ宝の持ち腐れじゃないか」

 

ダクタイルは立ち上がると、

奥の棚からすっかり色あせた本を2冊取ってきて、手で払った。

舞い上がるホコリに二人共軽く咳き込む。あたしは一冊を手にとって表紙を見る。

小さな銃弾が大きな銃弾に変化していく様子を、簡易的に表す図が描かれている。

 

「ゴホゴホ!私に頼む金がないなら、自分の魔法でやるこった。

もっとも、それで強化するのは銃弾の方だけどね」

 

「銃弾?」

 

「今あんたが持ってるのは、弾倉やシリンダーに働きかけて、

中の弾を強装弾に変化させる魔法」

 

「強装弾って、通常より多く発射薬を詰め込んだ強力な弾よね。

これを覚えれば、あたしの銃も相対的に強化されるってことでいいのかしら!」

 

「そう。逆にこっちは火薬を減らして、威力と引き換えに、

反動を極限まで抑えて発射レートを引き上げる軽装弾に変える」

 

「これを覚えれば、多少威力は落ちてもM100でファニングができるかも!

両方買うわ、いくら?」

 

「本なら1冊5000Gでいい」

 

「2冊ともちょうだい!」

 

あたしはカウンターに1万G置いた。

ダクタイルはそれをレジに収めてから、軽装弾の本を差し出す。

これで新しい力は2つ揃ったわけだけど、一体何と戦えっていうのかしら。

あの娘の考えは読めない。と、考え込んでたら、ダクタイルが信じがたい事を言った。

 

「あんたも物好きだね。こんなゴミ同然の魔術書に1万も払うなんざ」

 

「ゴミ!?本当だとしても客の前で言う?普通!」

 

「大昔に知的財産権が切れたほとんどタダの代物さ。

魔法の次は目利きと値切りを覚えるんだね」

 

そしてまた新聞を広げる。確かに1万くらい、いいんだけどさ、いいんだけどさ!!

……あたしはなんだか腑に落ちない気持ちを抱えながら、

銃の強化が終わるまで強装弾の魔術書の立ち読みを始めた。

クロノスハック習得前に、マリーの店でちらっと見た時は、

意味不明でしかなかった魔術書も、今ならわかる。

 

まずは左手に魔力を集める。次に球体をイメージして、

内部に火薬を増幅する文字列、圧縮する文字列、銃弾の形状を固定する文字列、

その他諸々を立体的に絡み合わせる。

全ての文字列が噛み合い、準備が整ったら、術者が詠唱。

銃で言うならトリガーを引く。なるほどね。

 

実戦で落ち着いて一連の動作をするには、完全に頭に叩き込んで、

何度も練習するしかなさそう。だけど、新しい力が手に入ったのは収穫よ。

はっきり言って、これ以上どうでもいい戦いなんかしたくないんだけど、

抵抗もできないまま殺されるのはもっと嫌だからね。

面倒だけど必要最低限の備えはしておきましょう。

 

でも、このくらいの厚さなら、C#の手引書熟読するよりずっと楽だわ。

軽装弾の方もなんとか行けそうね。

あたしが2冊目を手に取ろうとすると、店の奥からチン!という音が聞こえた。

 

「ん、終わったね」

 

ダクタイルが奥に引っ込む。もしかして今の、修復完了の合図?

そういう魔法なのか、彼女の遊び心か知らないけど、電子レンジでもあるまいし。

そう言えば、この世界に電子レンジってあったかしら。

あったとしても冷凍食品が存在しないからイマイチ影が薄くなりそうだし、

温めならうちのオーブンで事足りてるから考えたこともなかったわ。

思えばミドルファンタジアの技術レベルって

 

「…い!おい、なにボケっとしてんだい!」

 

「あっ、つい考え事してたわ」

 

「まったく、それで良く魔王に殺されなかったもんだ。できてるよ」

 

カウンターを見ると、新品同様に磨かれ光を放つ、あたしの相棒たち。

手に取ると、確かに何かが違う。上手く言えないけど、

なんというか、グリップの手に食い込む感触とか、銃身の重量感とか。

 

「5万だよ」

 

「うん、ちょっと待ってね」

 

あたしはトートバッグから財布を取り出すと、麻袋に詰め込んだ金貨を苦労しながら、

コインケースで計量しつつ500枚取り出した。

今回は事前に料金がわからなかったから、多めに持ってくるしかなかったのよね。

この面白くもない料金支払いシーンはいつ以来かしら。

ダクタイルもイライラしながら待ってる。

 

「終わった。5万Gあるはずよ」

 

「まどろっこしいね!袋ごと渡しゃ、計算機で一気に数えてやるのに。

ちょっと入れすぎを見落とす可能性はあるけどね」

 

「悪いわね。もう大富豪って呼べるほどの金持ちでもなくなったの。

金貨1枚も無駄にはできないわ」

 

「まあいいさ。とにかく修復は終わった。

金属分子の結合も強化してるから好きなだけ撃ちまくって大丈夫だ。

そいつらがぶっ壊れる前にあんたがぶっ壊れる方が先だから安心しな」

 

「それは頼もしいわね。じゃあ、あたしはこれで帰るわ。魔術書の勉強もしたいし。

またね」

 

「ああ。次はもっといい仕事持ってきな」

 

あたしはホルスターに若さを取り戻した銃を差すと、ダクタイルの店から出ていった。

早く帰らなきゃ。エレオを待たせてるし、もう軽装弾の魔術書も読みたい。

いい気分で大聖堂教会に向けて足を早めた。

 

……んだけど、このまま帰るわけにも行かなくなった。

気づかれてないと思わせなくちゃ。誰かが尾行してる。

あたしは帝都の中心の外れ、複雑な路地を縫うように早足で歩きながら、

相手の集中力を削ぐ。奴も必死にあたしを追いかける。

背中で距離を測りながら、タイミングを待つ。よし、次の角ね。

あたしは突然ダッシュし、角を曲がった。慌てた足音が走ってくる。

奴が路地を飛び出した瞬間。

 

「死にたいなら追跡を続けなさい」

 

「なっ!」

 

その人影に、さっきに命を吹き込んでもらったばかりのピースメーカーを突きつける。

鈍色に光る銃身に圧倒された謎の人物が動きを止める。

あと少し、というところで手が届かない微妙な距離を保ちながら、

あたしは尋問を始めた。

 

「あたしの質問に答えて。

他のことをしたり、あたしがイラッとしたら、あんたの額に穴が空く」

 

「……そんなもので、私が殺せるとでも」

 

ようやく口を利いた追跡者は、魔女だった。

20代半ばってところで、典型的な魔女スタイル。

白い三角帽子に、足元まで裾が伸びるグレーのローブ。

そんな格好でよくここまで追いかけっこできたもんだわ。

 

「ご希望ならもっと大きい銃もあるけど」

 

今度はM100を抜き取る。やっぱり黄金のボディが新品のように輝き、

謎の魔女を睨みつける。さすがに今度は大砲のような銃にビビったみたい。

 

「や、やめて!私は頼まれただけ!」

 

「誰に?」

 

「それは、言えない……」

 

「左手にバイバイする?」

 

ガチッと2丁拳銃のハンマーを起こすと、魔女が青くなる。

 

「やめてったら!……私は、魔国の命を受けて、お前を監視していた工作員」

 

「魔国?まあいいわ、続けて。なんで魔国とやらがあたしを監視する必要があるわけ?」

 

「馬鹿め、少しは世界情勢を学ぶことね!お前がアースからもたらした軍事技術で、

魔王に深手を負わせたことは既に世界中に知れ渡っている。

私の任務はお前の行動を把握し、隙あらば拘束し本国に連れ帰ること」

 

「あたしを?何のために。

ついでに今ちょっとイラッと来たから言葉気をつけたほうがいいわよ」

 

体をなぞるようにM100の銃口をゆらゆらさせる。

 

「くっ!……お前がこの国にもたらした近代兵器の技術を接収し、主要国で分配する。

皇帝の口先だけの専守防衛など信用できるものか!何もかもお前のせいだ!」

 

「昔、某アニメで国家ぐるみの犯罪は罪に問われないって言ってたんだけど、

あれだけは帝国の外に出すわけにはいかないの。

理由を説明する気はないし、説明されないとわからない連中には、

なおさら渡すわけにはいかない。そろそろ、さよならね」

 

「何をするの、やめて!」

 

怯える魔女にピースメーカーを1発。

人気の少ない路地とは言え、整地された道路が伸びる帝都を銃声が駆け抜ける。

 

「……え?」

 

魔女の足元に弾痕1つ。意図のわからない発砲に戸惑う彼女。

 

「魔国だかなんだか知らないけど、

あんたを殺すより雑巾を絞るように事情を吐かせた方がよさそうね。

ちょっと待ってなさい。今の銃声を聞きつけたお巡りさん達が迎えに来てくれるから」

 

あたしの予想通り、間もなくAK-47を抱えた兵士達が駆けつけてきて、

魔女を取り囲んで自動小銃を突きつけた。

 

「お怪我はありませんか!斑目女史!」

 

「大丈夫です。奴は魔国からわたくしを監視、拉致して、軍事技術を持ち帰るよう

命ぜられていたようです」

 

「わかりました。

おい、封魔の鎖を持て!皇帝陛下にも連絡、魔国のスパイ行為を確認!」

 

「はっ!お前、立ち上がって壁に両手を着け!」

 

「くそっ!離せ、離せこの……うっ!」

 

その時、名もなき魔女が急に苦しみだし、胸のあたりを押さえてその場に崩れ落ちた。

目が真っ赤に充血し、呼吸もままならない様子。

 

「あああ……うぐう、がはっ!!」

 

苦しみぬいた後、とうとう大量に吐血。レンガの歩道が彼女の血に染まる。

それを最後に魔女は動かなくなった。

……多分、事前に口封じの毒か何かを仕込まれてたのね。

 

 

 

サラマンダラス要塞 城塞 円卓の間

 

あの後、要塞まで同行を求められた後、軍の馬車で一度エレオノーラを迎えに行って、

皇帝陛下に直に経緯を説明することになった。あたし達以外には書記官が1人いるだけ。

 

「まずは、無事でなによりである、里沙子嬢。

エレオノーラ嬢が巻き込まれなかったのが、不幸中の幸いであろう」

 

「お手数をおかけします、皇帝陛下」

 

「里沙子さんを助けて頂いて、ありがとうございます」

 

「何を言うか、スパイは我が国に対する敵対行為。国家が総力を上げて撃退せねば。

では早速だが詳しい事情を教えてもらいたい」

 

「はい。わたくしが魔道具屋から帰る途中、不審な気配を感じたので、

裏路地に誘い込んで銃を突きつけたところ、

はっきりと魔国というところから派遣された工作員だと言いました」

 

「MGDか……あの女狐め」

 

「あの、一つお伺いしてもよろしいでしょうか。

魔国とはどのような存在なのでしょうか」

 

「正式名称、魔術立国MGD。産業、経済、政治。

あらゆる分野が魔法を中心に動いている、実体のよくわからない国だ。

何しろ徹底した情報封鎖で、外部に何一つ情報を漏らさない」

 

「そんな国があるなんて知りませんでしたわ。

このサラマンダラス帝国と桜都連合皇国くらいで」

 

皇帝は困った顔で大きく息をついた。

 

「皇国を知っているということは、

既にパルフェム嬢がそちらを訪ねたことがある、という認識で間違いないか?」

 

「はい。……というか、今も家に遊びに来ています」

 

「他の連中よりマシな部類とは言え、

観光ならせめてパスポートに印を押してから楽しんで貰いたいものだ」

 

「他の連中?」

 

「この世界に大小含めて約150の国家があるのだが、

サラマンダラス帝国を含めた4つの先進国が存在し、

これらの動きが他の国々の経済に影響を与えているのが現状だ。

まず、貴女も知るところのサラマンダラス帝国、桜都連合皇国。

続いて中立国家ルビア、そして今日、里沙子嬢を狙った魔術立国MGDだ」

 

「その、MGDという国は何のために武装強化を目論んだのでしょう……」

 

「実はMGDだけではない。

皇国を除き、他の先進国も我が国の軍事力を快く思っていない。事情は様々であろう。

その魔女が言っていた通り、帝国の専守防衛を信用しておらず、疑心暗鬼に陥り、

自らも武力を強化しようと考えるもの。

強力過ぎると言って良い、アースの武力を紛争状態の小国に売りさばこうとするもの。

いずれにしても、どの国も里沙子嬢を手にするためなら、

どのような手段に出てもおかしくないということである」

 

う~ん、先進国だけでも国が4つあることすら知らなかったわ。

ひょっとしたらパルフェムが言っていた“敵”ってこいつらのことかしら。

 

「あの、皇帝陛下!」

 

「なにかね」

 

「桜都連合皇国について詳しく教えていただけないでしょうか。

パルフェム…じゃなくて、首相はあまりそういった武力強化や、

外貨獲得に積極的な人物とは思えないのです」

 

皇帝がまたひとつため息。やっぱり彼女には手を焼いてるみたいね。

 

「あの少女については、そう深刻になるだけ無駄だと言っておこう。

首相としての仕事は完璧にこなしており、

サラマンダラス帝国とも比較的良好な関係を築いているが、

知っての通り、好奇心の赴くままフラフラと動くものであるから、

周りの者はたまったものではない。

……おっと、話を戻そう。とにかくMGDには正式に抗議しておく。

奴らのことだ、どうせ知らぬ存ぜぬだろうが」

 

あたし達の会話の間に入り込むように、

書記官が叩いていたタイプライターを思わせる機械が1枚の紙を吐き出した。

彼は素早くそれを皇帝に手渡す。皇帝が速読で目を通すと、顎に指を当てて告げた。

 

「うむ、死亡した魔女の検死の結果が出た。

外傷なし。毒物の類は検出されず、魔術による攻撃を受けた形跡もない。

原因不明の内臓出血による失血死。なるほど、奴らのやり口と見て間違いない」

 

「やり口?ですか」

 

「里沙子さん、

間諜の魔女には、あらかじめ所属する組織に呪いを掛けられるのが普通なんです。

もし、今回のように正体がばれ、機密漏洩の疑いが生じると自動的に発動し、

死に至らしめる。そして、発動後は自動的に魔術式を解除し、痕跡も残さず消えていく。

……今に始まったことではありません」

 

エレオノーラが補足してくれた。

この世界に来てから半年くらい経つけど、ほとんどなんにも知らなかったことに気づく。

この島国が世界の全てだと、どこかで思ってた。

 

「その通り。里沙子嬢、気をつけられよ。

今日の一件でMGDが貴女の確保に動き出したことは明らかだ」

 

グッドタイミングと言えるのかわかんないけど、銃を修復して新たな魔法を手に入れた。

頭のおかしな国と戦う準備はできてる。今度マリーの店も覗いてみましょう。

他に役に立つ魔法があるかも。

 

「かしこまりました。今日は力をお貸しいただき、ありがとうございました」

 

「構わぬ。貴女は自分の身を守ることだけを考えよ。

我輩らもこれまで以上に緻密な警戒網を敷く」

 

「わたしには祈ることしかできませんが、どうか里沙子さんをお守りください」

 

エレオノーラが両手の指を絡めて、祈りを捧げる。ちょっと、どうすんの、これ。

帝都に来てから2時間ちょっとで状況がすっかり変わっちゃった。

 

「もうじき日が暮れる。今日は戻られたほうが良い。

大聖堂教会までは部下に送らせよう。

聞けば、里沙子嬢はエレオノーラ嬢の魔法で帝都に行き来しているらしいが」

 

「はい、お気遣いありがとうございます。……では、わたくし達はこれで失礼します」

 

「絶対に里沙子さんは何者にも渡しません。家に帰れば心強い仲間がいますから」

 

「うむ。魔王の野望を打ち払った我々に不可能はない。

必ず貴女を守り抜くと約束しよう」

 

皇帝の心強い言葉に見送られて、あたし達は要塞を後にして、

軍用馬車で大聖堂教会まで送ってもらった。

手を振って馬車を見送ると、もう夕陽が落ちて空が赤く焼けるだけ。もう帰らなきゃ。

 

「エレオノーラ、帰りましょうか。

変なことになっちゃったから、急いでみんなに知らせなきゃ」

 

「そうですね!では、手を」

 

あたし達は手を握りあって、“神の見えざる手”で我が家にワープした。

 

 

 

我が家に戻ると、とっくに日は暮れていていて、聖堂の明かりが点けられていた。

みんなに、帝都での出来事を報告しなきゃ。

ダイニングに駆け込むと、パルフェムはもう起きていて、

ジョゼット達は夕食の準備で忙しそうだった。

 

「みんな聞いて!」

 

「お、帰ったのか。どしたどした」

 

「お姉ちゃん、おかえり……」

 

「何かあったんですか~?」

 

「里沙子さんのベッド、最高の寝心地でしたわ。あなたの香りが最高のアロマに」

 

「悪いけど突っ込んでる暇ない。ちょっと厄介なことになったのよ。

飯は少し我慢してあたしの話を聞いてちょうだい!」

 

それから、ちょうど集まっていた全員に、今日の事件を説明した。

MGDって型番みたいな名前の国が、あたしの身柄及び兵器の知識を狙ってるってこと。

実際スパイに狙われて、あたしを捕らえ損ねたそいつが、何某かの組織に消されたこと。

その後、皇帝陛下と話し合ったことを掻い摘んで説明した。

 

「スパイだって!?マジかよ!」

 

「本当よ。魔国ってとこが、あたしごとアースの技術狙ってる」

 

「杞憂に終わることを願っていましたが、

とうとう魔国が動き出したということですのね」

 

パルフェムが珍しく真剣な表情で考え込む。

そうだ、外交に長けている首相である彼女に尋ねてみましょう。

 

「ねえパルフェム。MGDってどういう国なの?」

 

「一言で言えば、“守りの国”ですわ。

自国の情報は明かさない。他国の武力増強は徹底抗議で手段を選ばず阻止する。

あの国にもそれなりの軍事力はあるはずなのですけど、

臆病とも言えるほど武力に対して過敏ですの。

彼らに言わせれば“平和主義”らしいですけれど、胡散臭さが隠しきれてませんわ」

 

「単純に弱いんじゃねーの?」

 

「それはないかと。

MGDは、魔女の中でも特に選りすぐりのエリートを集めた空撃部隊を抱えていますの。

高高度から爆破魔法を放ち、音速で空を飛び回り、

魔力の矢を連射して地上の敵を薙ぎ払う。まともに戦うと面倒な敵ですわ」

 

「う~ん、奴らが何したいのかイマイチわかんないわねえ。

平和主義の割には工作員まで送り込んでアースの兵器を欲しがるし、

それを先進国で分配するとも言ってたわね」

 

「パルフェムなら、里沙子さんさえ手に入れば、

この際他はどうでも構いませんけど!うふふ」

 

隣に座ってたパルフェムが、あたしの腕をペタペタ触ってくる。

本当にこの娘はなんというか。なんだか張り詰めてた気が緩んじゃったわ。

考え込んでもわかったことと言えば、結局相手が動くまで何もわからないってこと。

 

「これ以上話してもどうにもならないみたいね。

ごめんね、みんな。夕食の支度手伝うわ」

 

「大丈夫ですよ~後はオーブンに入れたグラタンの焼き上がりを待つだけですから」

 

「あー里沙子が変な敵作るせいでお腹ペコペコ」

 

「ごめんごめん、ピーネ。一口あげるから」

 

それからあたし達は、ジョゼットのチーズグラタンとフォッカチオでお腹を満足させた。

ファミレスのグラタンとか、石焼ビビンバの店って、

ガチガチにこびりついた汚れはどうやって落としてるのかしらね。

皿を洗った後、私室に向かうとパルフェムに呼び止められた。

 

「里沙子さん」

 

「パルフェム。どうしたの?」

 

「そろそろお暇しようと思いまして。半日後には仕事が始まりますので」

 

「そう。ろくなもてなしも出来なかったけど、まともな客なら歓迎よ。

またいらっしゃい」

 

“まとも”の基準は、これまでこの教会に来た客の中での比較になるけど。

 

「やったー!これからは毎週来ちゃおうかしら」

 

「総理クビになっても知らないわよ」

 

あたし達は、聖堂に集まってパルフェムを見送る。

彼女は帯に差した扇子を広げ、最後に皆に別れを告げた。

 

「皆さんの歓迎に感謝しますわ。

多分、1,2週間後くらいにまた来ると思いますが、今日のところはお別れを」

 

「また来いよって言いたいとこだが、いろいろ片付くまでしばらくかかりそうでな」

 

「あなたの国にも、マリア様の御光が在りますように」

 

「いいこと?今度来る時はヴァンパイアに相応しい貢物を持ってらっしゃい」

 

「こーら」

 

「ふふっ、では次に来る時は、甘さとしょっぱさがたまらない、

名店の桜餅を秘書に用意させますわ。……それでは」

 

──我が心 異国の地より 桜乞う

 

詠み終えた瞬間、彼女の姿が消えた。やっぱり便利な魔法ね。

彼女を見送ったあたし達はそれぞれの部屋に戻る。

私室に戻ったあたしは、ダクタイルの店でボラれた魔導書のうち、

まだ手を付けてない軽装弾の本を机に広げた。

 

「さて、もうひと頑張りしましょうか」

 

 

 

 

 

魔術立国MGD 宵闇岬

 

大海原を臨む真っ黒な岬に二人の人影。

弱く光を吸い込む闇鉱石の粒子を多分に含む地質により、昼間でも薄暗い。

ここで彼女達は太陽を沈みゆく様を見つめていた。

 

ひとりは魔国総帥ヘールチェ・メル・シャープリンカー。

もうひとりは、地球の基準に照らし合わせるなら、

まだ高校を卒業しているかいないか、という少年。

 

ただ、その若さに似つかわしくない白髪が多く交じった髪、痩せ型長身の体型。

ぼんやり宙を見る窪んだ目……そして、両手を戒める頑丈な長方形型の手枷。

持ち上げることすら難しい鋼鉄製の手枷には、何本も棒状の封魔石が仕込まれているが、

彼の大きすぎる魔力を完全には抑えきれない。

 

ヘールチェが、左手の中指にはめた指輪を見つめると、

それまで宝石が放っていた光が、ゆっくりと消えていった。

 

「……あの娘が、逝ってしまいました。必ず戻ってくると言っていたのに」

 

悲しみを飲み込むように語るヘールチェ。

 

「あの国が、ただ一歩引いてくれてさえいれば、こんなことには……!

確かに我が国を支えるのは卓越した魔法の技術。

しかしそれを支えるのは、純粋で濃いマナを放つ神界塔あってのこと。

古代に神から賜った巨大なアーティファクトが力を失いつつあります。

それが完全に消失すれば、私達には何も残らない。

もし、丸裸になった魔国にアースの兵器で攻め込まれたら……考えただけで恐ろしい!」

 

魔国の中央には神界塔と呼ばれる、個体化したマナで構成される巨大な塔がある。

この塔が発する、通常より純度も魔力も高いマナを頼りに、MGDは発展してきた。

だが、近年神界塔の力が弱まりつつあり、

半世紀を待たずして塔は消え失せる、と唱える学者もいる。

 

そうなれば、高濃度マナで起動するMGDの複雑なほぼ全ての魔術は停止。

インフラを始め、経済はおろか、食糧生産、流通網もストップする。

なぜ存在しているのかすらわからない塔の修復は、全く目処が立っておらず、

今の所、国の崩壊を座して待つより他なかった。

 

「……ごちゃごちゃうるせえよ、クソババア」

 

彼女が、自ら放った魔女の冥福を祈っていると、手枷の少年が暴言を吐き捨てた。

 

「要するに失敗したから死んだんだろうが、あのバカは。

どいつもこいつもバカばっかりだ、この国は。

自分で個体マナも作れねえくせに、

クソデカいだけの塔にテメエの命預けてきた結果がこれだ。笑わせんな」

 

「口を慎みなさい、魔女(ヘクサー)

国はともかく、死んでいったあの娘の冒涜は許しません!お前など、

本来ならマグマの奔流で骨だけにされても文句の言えない立場なのですよ!」

 

「御託はいいんだよ、ババア!さっさと殺らせろ。どこだ、どいつを殺しゃいいんだ!」

 

「暗殺ではなく、捕獲です!

もし彼女を死なせたら、MGDが総力を上げて今度こそお前を処刑します!

それが嫌なら、さあ、よくご覧なさい!」

 

ヘールチェがヘクサーと呼ばれた少年の手枷に、左手の指輪をかざす。

指輪から手錠に一本の光が届くと、手枷のつなぎ目部分から、映像が投影された。

ターゲットの画像と、大まかな位置情報。

それを見たヘクサーが顔を歪ませ不気味に笑う。

 

「うへへへ……こいつかぁ。魔王ぶっ殺したクソ女は。

あいつはよう、俺の獲物だったんだよ。わかるか?

俺はなぁ、好き勝手しやがる鼻持ちならねえ女を見るとクソムカつくんだよ!

だから、魔法しか取り柄がねえくせに、

偉そうなツラして歩いてる魔女連中をぶち殺してきたんだ、今までよォ。ヒヒヒ」

 

「……任務を達成し監視付きの仮釈放を得るか、

懲役1572年を拘束衣に包まれて過ごすか、

お前の運命は二つに一つよ。もうお行きなさい」

 

「アヒャヒャヒャ!行くぜ行くぜ行くぜえぇぇ!!」

 

ヘクサー。つまり男の魔女は、

手枷の重量で前かがみになっていた上半身をグォンと上げ、

宵闇岬を駆けて、海に向かって跳躍した。

崖から転落したと思われた次の瞬間、彼は急上昇し、

サラマンダラス帝国へ向けて、戦闘機のようなスピードで飛び去っていった。

 

「……時間が、ないのです」

 

そんな彼の後ろ姿を、不安を抱えながら見守るヘールチェだった。

 

 

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