昭和歌謡って良いわよね。絶対新曲が出ないから、ゆっくり名曲を発掘できるもの。
サラマンダラス要塞 円卓の間
先日のヘクサー襲撃を受け、激怒した皇帝は、
魔国総帥ヘールチェ・メル・シャープリンカーを呼び出し、
大テーブルで向かい合っていた。他には議事録作成の書記官がいるだけだ。
皇帝がヘールチェを睨みつけながら、しかし、声を荒らげることなく語り始めた。
「……我輩の記憶では、貴国は確か“平和主義”を掲げ、
他国の軍備増強に反対の立場を貫いていたのだが、我輩の記憶違いだったのだろうか」
「いいえ、その通りです……」
「我が国が何か貴国に敵対行為と受け取られるような行動を取ったことがあるだろうか」
「……ありませんわ」
「では斯様な狼藉をどう説明する!!
口先だけで平和主義を謳いながら、我が国の専守防衛は真っ向から否定し、挙げ句、
不意を突いた先制攻撃で甚大なる被害をもたらした!
魔術立国MGDは我がサラマンダラス帝国を侮辱しているのか!?」
怒りが頂点に達した皇帝がテーブルを殴る。ヘールチェも思わず身が固くなる。
「貴女が放ったヘクサーなる魔術師の攻撃により、領地のひとつが壊滅状態に陥った!
幸い有志の能力者により、ヘクサーは無力化され、人的被害はなかったが、
街は今も復興の途中である!
繰り返しになるが、これは国際法を無視した卑劣な先制攻撃であり、
宣戦布告であることは言うまでもない!」
「おっしゃる通りです、しかし決して宣戦布告などでは!私達はただ……」
ヘールチェは、肘掛けを少し握りながら、皇帝の怒りを身に受ける。
だが、全ての事情を公表することもできないジレンマに陥っていた。
「では、なんだというのかね。
シャープリンカー女史、貴女はもう少し賢い女性だと思っていたのだが、
我輩にはもう貴女のことがわからぬ!
世界情勢を見ても、戦を仕掛ける状況でもなかったではないか!」
皇帝はグラスの水を一口飲んで口を湿らせる。
「……ふん。少し、興奮しすぎた。まず、聞こうではないか。ヘクサーとは何者だ。
報告によると、奴はハッピーマイルズをまるごと吹き飛ばすほどの
魔力を秘めていたという」
「……そんな人は知りません」
皇帝はヘールチェの目を真っ直ぐに見つめる。
焦りつつ僅かの間、思考を走らせた末に、彼女はそう答えた。
「なるほど、そうか。そう答えるのか……君」
「はっ!」
書記官がバインダーに挟まれた一枚のメモを皇帝に渡した。
皇帝はそれを指先で挟んでヘールチェに見せる。
「これは、彼からの伝言だ。読み上げよう。
“ババアにこう言え、俺の事しらばっくれやがったら、俺が何もかもぶちまける”
以上だ。少々粗雑な言葉で申し訳ないが、
文書の性質上ありのままを伝えさせてもらった」
「えっ!?」
「ふむ、貴女は今ヘクサーについて関与を否定した。
よって我が軍は文書の通り、彼に更なる事情聴取を行うことに決めた。
魔国に関して洗いざらい喋ってもらうとしよう。
宣戦布告も行わず、他国に爆弾を落とす危険な国について、
他の国家と情報共有し、警戒網を張ろうとも考えている。
このまま何ら誠意ある回答が得られない場合、
報復措置として帝国と同盟を組む非先進国15と共に、
経済封鎖、銀行口座凍結、関税の1000%引き上げ等に踏み切らざるを得ない」
皇帝の決定に青ざめたヘールチェが思わず立ち上がる。
「どうかお待ち下さい!確かにヘクサーを放ったのは、私です!
虚偽の回答をしたことも謝罪します!
だから、どうか、我が国の内情を世界に広めることだけは、待って頂きたいのです!
ヘクサーへの事情聴取には、何卒お時間を!」
「その、“ちょっと待ってくれ”の間に、MGDお抱えの空撃部隊を編成する、か。
フッ、構わんよ。我々も専守防衛に則って、国に仇なすものから民を守り抜くだけだ」
「違います!決してそんな事は考えていません!」
「もはや貴女の言葉に何の信憑性もないことは、ご理解頂けているだろうか。
後ろ暗いところがなければ、
我が国で大規模な破壊活動を行った犯人の事情聴取を止める理由などないはずだが」
皇帝の側に駆け寄って、ひざまずいて懇願するヘールチェ。
書記官が銃に手を掛けようとしたが、皇帝は手で制した。
「お願いします!詳しくは申し上げられませんが……
我が国は窮地に立たされているのです!全てが公になれば、
マグバリスの乱暴者が喜び勇んで銃や大砲を持って押し寄せて来ます!
魔国の民に、どうかお慈悲を!」
「他国の民を危険に晒しておいて何を宣うか。……と、言いたいところであるが、
別の当事者への意見聴取がまだであった。正式な結論を出すのは時期尚早であろう。
シャープリンカー女史、当分は要塞の客室に留まってもらう。
仮にも一国の首脳に監視など不躾なものを付けるつもりはないが……
貴女の行動が招く結果については、責任は持てない。そこは理解していると信じている」
「ああ、寛大な心に感謝します!また、謝罪が遅れて申し訳ありません!
ヘクサーの破壊行為の責任は全て私にあります!
後日きちんとご説明させていただきますが、
決して侵略を目的とした行動ではなかったのです!」
「そもそも貴国について何か分かった試しなどないが、
此度の件でますます貴女方がわからなくなった。君、彼女を部屋にお連れしろ」
「はっ。……総帥、どうぞこちらへ」
「本当に、申し訳ありません。失礼します……」
書記官とヘールチェが退室し、ドアが閉じられると、
皇帝は椅子の背もたれに身を預けて、一息ついた。
一体あの国は何を考えているのか、話していても意図が読めない。
確かに魔国との政治的関係は良好とは言えなかったが、
貿易は盛んで両者利益を上げていたはず。
戦争がしたいなら、ただ宣戦布告の手続きを経れば良いものを。
……あの女性には済まないが、また要塞に足を運んでもらうことになるだろう。
サラマンダラス帝国軍 ハッピーマイルズ基地
ハッピーマイルズ中央にある軍事基地。近隣には領主の邸宅もある。
ここの領主つっても、この物語始まってから影も形も現してないけど、
とにかく存在はしてるのよ。
あたしは今日、シュワルツ将軍に招かれて、
この基地で新兵器の完成を見届けるところなの。
こないだ皇国から来たタグチさんことナイトスラッシャーが、忍者ヒーローになって、
一緒にヘクサーっていう襲撃者を退けた事件は覚えてるかしら。
彼が最終奥義を放って破損した変身デバイスを置いていったんだけど、
それを軍が分析して、変身能力を再現したらしいの。
この世界に、改造スマートフォンの半導体や電子回路をどうこうする技術力は、
なかったと思うんだけど、どんな裏技使ったのやら。
とにかく現物を見せてもらいましょう。
……おっと、その前に基地の外観だけでも説明ときましょうかね。
後々必要になるかも知れないし。
まあ、やっぱり帝都の要塞よりは手狭ね。
一階建ての武器庫、宿舎、事務所らしき建物が合計3棟。
あとはやっぱり要塞のより小さめの訓練用グラウンド、射撃演習場。
今、そのグラウンドの隅であたしと将軍、そして大勢の兵士が集まって、
一人の兵士を眺めてる。気のせいか彼も若干緊張気味な感じ。
「リサ、今日はよく来てくれた。
他国の強大な侵略者を退けた戦士の装備を、完璧とは行かずとも復元に成功したのでな。
共に彼と戦った貴女の意見を聞きたい」
「お招きいただきありがとうございます、将軍。
彼の装備の核となるスマートフォンの仕組みには少しばかり知識がありますので、
なにかしら意見は申し上げられるかと」
「それは心強い。では、さっそく変身してもらう。君、やってくれたまえ!」
「はっ、了解しました!」
彼は側にあるトランクから一本のベルトを取り出した。
これで変身するとか仮面ライダーみたいね、って……あれ!?
焼けて壊れたスマホが直ってる!
ベルトのバックルに据え付けられたスマホが元通り直ってるのよ奥さん!
これにはあたしも、おどろ木もも(略。
「将軍、ベルトの修復は一体誰が?あれは人間の指ではつまめないほど
微細な部品を大量に使用していますし、そもそも電子基板が焼け焦げて……」
「まぁ、聞きたいことはあるだろうが、まずは実機の性能を見てもらいたい。
さあ、続けてくれ!早撃ち里沙子が見ておるぞ」
「了解!」
兵士がベルトを腰に巻いて、Googleのマイクアイコンを押す。
あたしが目を細めて、その様子を見るけど、小さくて見えづらい。
ルーベでも持ってくりゃよかったわ。婆さんみたいなことを言ってると、
彼が“認識しています”を表示し続ける画面に宣言した。
「変身!」
同時に、ピガガガ……、という聞いたことのないビープ音と共に、変身処理が始まった。
>SATSへようこそ。只今起動中。しばらくおまちください。
おお、喋った。
驚いているうちに彼を光の粒子が取り巻いて、やがて全身を覆うアーマーになった。
周りの兵士もどよめく。見た目はFalloutのパワーアーマーみたいに無骨で重厚。
いかにも強そうだけど、肝心なのは性能。
変身した彼は無言で6あたりのボタンをタッチ。
すると、右腿あたりがガシャンと開いて、巨大なオートマチック拳銃が姿を現した。
「魔術装甲専用銃・バトルクーガーMK48。人間には扱えぬ重さと反動であるが、
威力も魔獣を一撃で倒せるほどで、射程距離も申し分ない。
地平線に隠れない限り、どこまでも敵を追いかける」
口径から見ると44マグナムは軽く超えてる。デザートイーグルをベースにして、
銃身を一回り大きくしてバレルを思い切り長くしたような感じ。
彼がバカでかい銃を手に取ると、
グラウンド北端に設置されていた厚い鉄板に狙いを定め、5発発射。
思わず耳を塞ぐけど、手を通して鼓膜がビリビリする。弾丸は全弾命中。
鉄板は大きな穴が開き、
撃ち終える頃には足元にわずかに鉄くずらしきものを残すだけだった。
思わずあたしも言葉を失う。
「これは……とても言葉にならないほどの性能です。これほどの物を一体誰が?
いくらナイトスラッシャーが残した装備の状態が良好でも、
この世界に半導体やフラッシュメモリを製造する
精密技術はなかったと思うのですが……」
「うむ、リサのお墨付きを得られて、皇帝陛下もさぞお喜びであろう!
確かに、スマートフォンなるアースの機械は、
街の修理屋では手も足も出ないほど複雑であったが、
まあ、なんというか、我の姪がアースの技術に通じておって「はーい!」」
将軍の声を遮って、元気のいい声が飛び込んできた。
そして、どこに隠れていたのか、白衣を着た女性が彼に飛びついた。
その鎧、装甲が何枚も重なってるから肉挟んだら痛いわよ。
「ええい、落ち着かんか、アヤ!」
「シュワルツおじさま、今アヤのこと呼んだでしょう!?
変身システムのことが知りたくて?いいわよいいわよ!
アヤの知識は全帝国民が注目すべきなので、あーる!」
「離れろと言っている!
もう二十歳にもなったのだから、少しは落ち着きというものを身につけよ!」
「わかったのであーる……おじさまの肩は顎を乗っけるのに最適なのに」
「我のショルダーガードは顎を乗せるためにあるのではない。早く下りるのだ」
将軍と謎の女性のやり取りをぽかーんと見ていると、
今度はあたしにロックオンしてきた。
「あは!あなたが早撃ち里沙子で、
処刑人里沙子で、殺し屋里沙子で、命知らずの里沙子なのね!
会いたかったので、あーる!」
「ちょっと待ちなさいよ!まともなやつ、最初の1個しかないじゃない!
誰が誰に断ってそんな意味不明な二つ名付けた!?」
「二つ名は世の中が生み出すものであって、
その人物の社会的貢献、あるいは罪罰を示すものだから、大切にすべきであーる」
「ふざけんじゃないわよ!これから酒場に行く度、なんて呼ばれるかわかりゃしない!
そもそもあんた誰!?」
「むふ。自己紹介が遅れてかたじけのうござる。
アヤの名は、アヤ・ファウゼンベルガー。
シュワルツおじさまの姪で、国立サラマンダラス工科大学卒。
こう見えても機械工学、電子工学の博士号を持っていて、
錬金術、雷属性、無属性魔法各種に通じているので、あーる。えっへん」
そう言って胸を張る変な女は、さっきも言ったけど白衣を着ていて、
黒のセミロングに大胆な白のメッシュを入れてる。
ひょっとしたらブラックジャック意識してるのかしら。あとは、牛乳ビンの底。
つまり、分厚い丸眼鏡よ。
将軍の親族とは思えないトンチキ女にとりあえず疑問をぶつけてみる。
「……はじめまして。
あの変身ベルトに使われてるスマートフォンを直したの、もしかしてあなた?」
「当たり前田のなんとやら!
そう、このアヤが、あの叡智の箱に再び命を吹き込んだので、あーる!」
「でも、どうやって?
あれに入ってるのは、熟練の鍛冶だろうが人間が作れるような部品じゃないわよ」
すると、アヤがチッチッチッと指を振った。
「そこが世の人々の限界なわけですよ。人は空ばかりを見て無限の世界を夢見るけれど、
手元に収まる小さな箱にこそミクロの世界が無限に広がっているので、あーる」
「う~ん、具体的にどうやったのか教えてくれると嬉しいかも」
「その機械が壊れる前まで時間を巻き戻してあげるのだー!
焼けた基盤にも生き残った部分はある。
そこを十分に観察し、壊れた部分はどんな機能をしていたのか、
想像と分析を繰り返し、少しずつ修繕する。
もちろん元の部品をそのまま再現ってわけにゃあ行かないんだな、これが。
そこで役立つのが魔法の技術。錬金術で溶けた部分をバイパスして、
機械に残っている記憶をもとに、
同じ機能を持つ魔力の回路を作ってあげるので、あーる!」
「ごめ、最後のほうがよくわかんない。機械の記憶って一体なに?」
「形あるものには、どれもあるべき形の記憶がある。
石は丸くて硬い。木は背が高くて葉っぱが生えてる。そんなふうにねー
リサが知りたいスマートフォンの修繕方法は、この性質を利用したもの。
ぶっ壊れてもあまり時間が経ってなければ、物は自分の姿を覚えてる。
錬金術はその記憶を呼び覚まして、素材となる触媒を足して、元に戻して上げるのだ!
それでも手に負えない時は、アヤ達プロの出番。
さらに高度な錬金術で、魔力の塊に物の記憶を宿して失った部分に移植し、
補修してあげるので、あーる!
う~ん、スマートフォン内部の小さな記憶媒体が無事だったのは不幸中の幸い!」
「ふーん。わかった、ありがとね。あと、今サラッとあたしのことリサって呼んだけど、
あたし達、初対め「しかーし!」」
あたしの言葉をぶちぎって、話を続けるアヤ。気が済むまで喋らせるしかなさそう。
それはともかく、物の記憶か……やっぱりこの世界には知らないことが一杯だわ。
「壊れて時間が経ちすぎたもの、経年劣化は直せないのだー!悲しきことに!
なぜなら、時の流れとともに、物がその状態を在るべき姿だと記憶してしまうから!!
それは人とて同じこと!すなわち、昔の戦争の傷跡や、失った片腕などは、
光属性の回復魔法でも治せない!
リサもそのきれいな顔をふっ飛ばされないよう、気をつけるべきで、あーる!」
「もうリサでいいわ。とにかく注意する。よろしくね、アヤ」
やっと終わった。あたしは彼女に手を差し出す。すると瓶底眼鏡を掛け直して、
「おぉ~?リサは運命線が長いでありますなぁ。
これからも不思議な事に沢山遭遇すること間違いなし!アヤは趣味で手相占いも」
「握手を求めてんだけど!」
「うへへ、これからもよろしくであーる。
皇帝陛下にアヤが復元した変身システムを見てもらうのが楽しみなのだー!」
アヤが袖が少し長過ぎる手でやっと握手した。白衣のサイズなんとかなさいな。
なんか酔っぱらい相手にしてるみたいで疲れたわ。
彼女が変身解除した兵士から変身ベルトを受け取ると、いそいそとトランクに詰める。
蓋にSMART BRAINとでも書いときなさい。ちょっと箔が付くわよ。
将軍の姪とは思えない変人からようやく開放されると、
馬に乗った兵士がやってきて、彼の近くに馬を停めて駆け寄ってきた。
「皇帝陛下から、ハッピーマイルズ領の将軍に伝言であります!」
兵士が封蝋で閉じられた手紙を将軍に渡し、彼はすぐ中身を確認した。
「ご苦労……うむ。確かに受け取った。皇帝陛下にすぐ向かうと伝えてくれ」
「かしこまりました!では、失礼いたします!」
兵士の彼は馬に乗って、あっという間に帰ってしまった。あたしも帰ろう。
変身システムは、この物理オタクがいい感じに仕上げてくれるでしょう。
「将軍、本日は素晴らしいものを……」
「待ってくれ、リサ。突然ですまないが、貴女も帝都に来てもらいたい。
……先日の件だ。首謀者と呼べる人物を要塞に留めている」
先日の件と言えば、ヘクサーしかいない。皇国から来たヒーローがいなければ、
この領地があたしごとメチャクチャになっていたのは想像に難くない。
「わかりました。出発はいつですか?」
「すぐにでも出発したいところだが、貴女にも支度が必要であろう。
済まないが一日で準備を整えてほしい。あと、家族の方たちの同行はご遠慮願いたい。
国の動きを左右する重要な会議が行われる予定だ。情報の漏れる可能性は極力排したい」
「では、そのように。時間はいつくらいに?」
「朝の8時頃、ハッピーマイルズ教会に迎えに行く。
リサの都合を無視して申し訳ないが、あまり猶予がないのだ」
「とんでもありません。明日8時にお待ちしております。
では、今日のところは失礼致します」
将軍に一礼して軍基地を後にすると、後ろから
『アヤも一緒に行くからねー!
アースの話をいっぱい聞かせて欲しいので、あーる!』と、
変人の声が聞こえてきたけど、無視して家路についた。
途中、街の市場や戦場になった広場が見えるところを通るんだけど、酷い有様なのよ。
広場の石畳は荒々しく砕かれて土が見えてる。
心のオアシスの酒場も窓ガラスが全部破られてるし、
市場の屋台は、台風の直撃こそ避けたものの、その暴風で倒壊したり、
店ごとふっ飛ばされて、営業再開は当分無理ね。
いつもは大嫌いな市場だけど、大事な商売道具を破壊されて嘆いている店主達を見て、
何も感じないほど心は死んでない。多分。
将軍は首謀者を捕まえたって言ったけど、“一発なら誤射”とかほざいたら、
で、家に帰ったあたしは、急いで荷造りを始めた。
たまたま部屋から出てきたルーベルが、開けっ放しにしたドアの向こうから、
あたしの様子を見て不思議に思ったらしい。
「何やってんだ、里沙子?どっか出かけるのか」
「明日からしばらく帝都に行くことになったの。ちょっといつ帰れるかわかんないから、
家のことは頼むわね。朝8時には迎えの馬車が来る。」
「どうしたんだよ、いきなり。帝都ならエレオノーラに頼めばいいじゃん」
「将軍達と一緒に行くからエレオの魔法じゃ無理なの。ほら、ヘクサーの件よ。
アレを放った奴を要塞に実質投獄してるから、会議兼事情聴取」
「犯人が捕まった!?じゃあ、私達も」
「ごめん。国の先行きが決まる重要な会議だから、
参加者は最低限にしなきゃいけないの。
……下手したら、MGDと戦争になるかもしれないから」
「そうか……危ないことはすんなよな」
「言われるまでもなく、そんな面倒なことご免だわ」
そう答えると、あたしはトランクをパタンと閉じた。
翌日。家の前で馬車を待っていると、みんなが見送ってくれた。
「里沙子さん。なるべく早く帰ってきてくださいね?みんな心配なんです……」
「わかってる。あたしがいない間、みんなの食事頼むわよ」
「ねえ、里沙子……」
ピーネが浮かない顔で、もじもじしている。言いたいことがありそう。
「どうしたの、ピーネ」
「その、会議ってのが、上手く行かなかったら、また戦争になるの?隕石が降るの?」
「そうならないように話し合うの。
確かに魔国は今の所この国の敵である可能性が捨てきれない。
でも、世の中には戦争の最中でも平和を求める人が必ず存在するの」
「人間に……?ふん、誰よそれ」
「相手の出方で決まるものだから、今は何も言えない。
戦争が始まったらあたしの負けだもの。でも約束する。
もうロケット弾が降るようなことには絶対しない」
「うん……」
「ピーネちゃん、里沙子さんを信じましょう。
きっと彼女なら魔国との開戦という最悪の事態は避けてくれます」
「わかった。なにか、お土産買って来なさいよね」
「美味しいロールケーキがあるの。みんなで食べましょう」
「あ、馬車が来たぜ」
ルーベルが差した方を見ると、将軍と護衛の兵士を載せた頑丈な馬車が2両やってきた。
馬車が教会の前で止まると、将軍が降りてきて、
地に足を乗せると、彼の鎧がガシャンと音を立てた。
「皆、おはよう。……リサ、来たばかりで済まないが時間がない。早速出発しよう」
「はい、すぐに。ルーベル、あたしがいない間、ここをお願い」
「任せろ。里沙子はお前にしかできないことを果たしてこい」
「うん。ちょっとした長旅になるだけよ、心配しないで」
あたしと将軍が馬車に乗り込み座席に着くと、いきなり白い物体が飛びついてきた。
「アーハハハ!おはようリサ!アヤはおめめパッチリすこぶる快調で、あーる!」
「やめんかアヤ!これは遠足ではないのだぞ!」
将軍が笑い続けるアヤを引っ剥がして、無理やり席に座らせた。あーびっくりした。
勘弁して、朝は弱いのよ。あんたのテンションにはついていけない。
将軍が合図を出すと、馬車が動き出した。みんなが手を振って見送ってくれる。
魔国の連中がなに考えてるのか知らないけど、あたしの寝床がなくなるようなら、
世界地図から抹消する必要があるわね。
馬車に揺られることしばし。美しい田園風景を見ながらも、うんざりした気分になる。
魔王殺したと思ったら、今度は人間と戦う羽目になるかもしれないなんて、
マヂふざけんなって感じ。正直、会談自体も面倒くさいからやりたくない。
魔国とか初めからなかったことにならないかしら。
そういえば、魔王倒して得したことって、
馬車の乗り心地が良くなったことくらいしかない。タイヤの普及でね。
あとは……マリーが報奨金100万G持ってきたけど、
あれはカシオピイアの生活費やお小遣い、それとあと、
いつか結婚式を挙げたり嫁入り道具を買う資金に置いときたいのよね。
……で、さっきからワクワクした視線をこれでもかとぶつけてくるアヤ。
時々将軍を何かをおねだりするような目で見る。
知らんふりをしていた彼も、ついに耐えかねたらしい。
「リサ。済まぬが少々アヤの相手をしてやってはもらえないだろうか」
「え、ええ、喜んで。アヤさん、少しお話ししましょうか」
「んふふ、キタコレ!アヤでいいよん、あたしもリサって呼ぶからさ!」
既に断りもなく呼んでた気が。
「アースの技術に興味があるのは昨日話したよね、話してないかな?どっちでもいいや。
スマホの他にアースを代表するテクノロジーにアヤは大変興味がある!」
「やっぱりパソコンかしら。昔は高くて一部のマニアしか持ってなかったけど、
今はもう一家に一台はあるの。
スマホは小さくなったパソコンだと思ってもらっていいわ」
「ふむふむ」
「一番の特徴はインターネットね。
世界中のパソコンやサーバーっていう大きな処理を行うパソコンに接続して、
情報収集したり、見ず知らずの人と一緒にゲームしたり。
あと、ビジネス的用途ではメールっていう電子文書をやりとりしたりできるわ。
形がないから、この前将軍に届いたような手紙を、
この星の反対側からでも一瞬で送れるの。
リアルタイムで遠距離の会議室にいる相手と打ち合わせすることだってできる。
スマホでも出来なくはないけど、やっぱり小さい分CPUやメモリの性能差があるから、
多人数で同時にゲームしたり、容量の大きい動画を見るとカクついたりする」
「ほうほう……あ、ひとつしつもーん!」
「アヤ、馬車の中である。わざわざ手を挙げる必要はない……」
ライオン髪を振って嘆く将軍の心などつゆ知らず、
好奇心の塊はずっとあたしに食いついてくる。
「そのインターネットだけど、通信するには媒体が必要だよね?
魔法が存在しないアースなら尚更。
一体どうやって世界中のパソコンと接続しているのか、
それとインターネットの成り立ちについて。
世界中の端末に接続する情報網をどのように構築したのか、
アヤは非常に気になるので、あーる」
将軍の隣で居眠りこくほど女捨ててないつもりだけど、アヤがいる限り心配なさそうね。
悪い意味で。
「簡単に言うと、インターネットはアメリカっていう大国が、
軍事目的で研究してたのが始まり。
核戦争っていうカタストロフィが起こっても通信を確保できるよう、
蜘蛛の巣のように通信網を張り巡らせることによって、
切断された部分を迂回させるっていうのが基本的な考え」
「な~るほど。で、肝心の通信媒体は?」
「落ち着きなさいな。まず代表的なのは有線ね。家庭用のパソコンは大体これ。
多分一番普及してるADSLっていうネットの世界につながる電話回線は
アナログ信号なんだけど、パソコンのデータはデジタル信号。
だからパソコンと電話回線の間にモデムっていう信号を変換する装置を、
LANケーブルという特殊なコードでつなぐ必要がある。
まず有線はここまで。わかってもらえた?」
「うんうん!アヤは続きを求めている!」
「次は無線ね。これはスマホだったり、ノートパソコンっていう
ビジネスマンや忙しい学生が主に持ち歩く、その名の通りノート型二つ折りパソコン。
共通してるのは、手軽に持ち運べる端末で、文字だけを送ったり、
出先で文書を作ったり、それほど重くない仕事をする人が主なユーザーだってこと。
スマホにしろノートにしろ、目に見えない電波で情報をやりとりしてるんだけど、
それを可能にしてるのが、国中に立てられたアンテナ。
通話品質を確保するために、電話会社が到るところに立てまくってる。
あと、通信衛星とかもあるんだけど、宇宙の話とか絡んでくるからまた今度ね。
無線に関しちゃこんなところ。これでいい?」
「うん、ありが…いや、まだあるのであーる!」
「……どうぞ」
「リサはインターネットをどっちの方法で使ってたのかな。
使い心地とか感想も聞きたい!」
「両方ね。家ではずっとデスクトップ、つまり演算機を据え置いて
モニターにその処理内容を表示するタイプのパソコンでネットやってたんだけど、
ネットがなかったらとっくに自殺してたわね。
もう生活も娯楽も情報もネットなしじゃ回らない。
ここで生きてられるのは、美味いエールと召使いに家事を押し付けた食っちゃ寝生活、
それとありがたくもない騒動で死ぬことを忘れてられるからよ。
スマホはメールとか母さんとのメッセージのやりとり。
あと、そうねえ……大きな不満がひとつ」
「えっ、なになに。そんな夢のシステムのなにが?」
「バカでも使えるってことよ。
多分クソガキか、実生活じゃろくに異性と会話もできないクズが、
掲示板っていう誰でも書き込みができる場所に、必ずと言っていいほど現れるの。
誰彼構わず悪口を書き込んだり、無意味な連続投稿で場を荒らすのよ。
それと、最近になって現れだしたのが、ユーチュー○ーっていう、
人様に迷惑かけて再生数稼いでるパッパラパー。
あたしはよくわからないんだけど、YouTubeっていうサイトに動画を投稿して、
沢山再生して貰えると、サイトの運営から金が入るらしいのよ。
だから再生数欲しさに、人の邪魔になる所で悪ふざけしたり、
業務妨害罪に当たるような迷惑行為で客の目を引くのよ。
異論は認めるけど、あたしは国際的なネット警察を組織して、
動画運営サイトに無条件でこういうバカの情報を提供させて、
逮捕・執行猶予なしの実刑判決に処することを提唱したい」
「ふむむ……夢のような世界にも影の部分はあるってことかー。なるほどー」
最後まで聞いてくれてありがとう。なんだか今回は説教臭いし、今更知識全開だし、
なによりストーリーがちっとも進んでない。
今度あいつに、無理に書くくらいなら、
時間かけてノートにでもアイデア整理しろって文句言っとくわ。
それからもアヤの質問攻めに会いながら時間を潰していると、
すっかり半日経って、帝都の明かりが見えてきた。
街の中心部に入ると、馬車がとあるホテルの前に停まり、将軍に降りるよう促された。
「リサ、ここで降りるがいい。今夜はもう遅い。会談は明日になるだろう。
既に予約済みであるから、フロントで名を告げると客室に案内してくれる」
「将軍はどうなさるのですか?」
「一度要塞に顔を出す。今夜は泊まり込みになるだろう」
「それでは!アヤも夜を徹してリサの秘密をチェックチェー…グェッ!」
「いい加減にせぬか!リサは丸一日お前の相手で疲れておる!
お前はこれから皇帝陛下に、
例のスマートフォンと変身ベルトの分析結果をご説明するのだ!」
「オェッ、おじさま、襟首を掴まないで……」
「アハハ……」
「ではリサ。明日も同じく8時頃に迎えに来る。今夜はゆっくり休んで欲しい。
さらばだ」
将軍はアヤを馬車の中に放り出すと、去っていった。長旅の後なのにご苦労様。
あたしもうクタクタ。お言葉に甘えてホテルにチェックインした。
なかなかいいホテルを用意してくれたおかげで、ベッドもタオルも清潔。
シャワーを浴びてガウンに着替えると、ベッドに飛び乗るように大の字になった。
同時に一日馬車に揺られた疲れが、遅れたように身体に沈み込んでくる。
もうこのまま寝ようかしら、と思ったら、今朝ピーネと約束したことを思い出した。
例え戦になろうとも、平和を求め実現する。二度とロケット弾を降らせない。
……あたしにできるのかしら。
歴史は繰り返すっていうけど、あたしの勘だと、戦争が近づいてる。
その時どう動けばいいのかしら。
こりゃSEの専門外だわ、と考えを放り出そうとしたとき、
学生時代に習った歴史を思い出した。
「いざとなったら、これ、提案する他ないわね」
正解でもあり間違いでもあったあの構想。温故知新。
間違っていた部分を削ぎ落として、未来へつながる糸口を結びつける。
他に方法はないわ。できる限りの心づもりをしたあたしは、今度こそ眠りに落ちた。
翌朝。あたしは身支度を整えて、ホテルをチェックアウトすると、
エントランス前で将軍を待った。
それほど待たずに将軍が来てくれて、あたしは昨日と同じ馬車に乗り込んだ。
「よく眠れたか、リサ?」
「ええ、おかげさまで。良い部屋を用意して頂けたので」
「今回貴女は賓客なのだ。堂々としていれば良い」
「そうよお!リサの存在はアヤの知的好奇心をくすぐりまくりなので、あーる!」
こいつを忘れてた。頭を抱える。なんで2人しかいないのに頭がガンガンするんだろう。
「……アヤもおはよう。朝は苦手だから大声は控えてくれると姉さん嬉しいわ」
「お任せあれ!アヤとしてはリサと一緒の部屋に泊まりたかったのであーるが、
仕事が深夜まで伸びて結局要塞に泊まり込み!まさに痛恨の極み!
あ、ところで昨日のインターネットの話について疑問が……」
「馬鹿者!これから重要な会談があるのだぞ!浮かれるのも大概にせい!」
「しょぼーん、ごめんなさい、おじさま……」
死ぬかもしれない。
アヤを止めてくれたことにはお礼を言うけど、貴方の声も爆発音のように頭に響くの。
みんな知ってた?馬車ってものは便利なもので、
歩かなくても目的地に連れてってくれるの。
要するに、好きなタイミングで場面転換できるから、
実力のないSS書きにとっては便利な要素なの。と言うわけで、要塞に到着。
門番にゲートを開けてもらい、馬車のまま中に入る。
時間にしちゃ10分くらいだけど、
濃いメンツと同席して30分くらい揺られてたような気がする。
少々ふらつきながら馬車から降りて、久しぶりに来る要塞を見渡す。
まあ、用事もなしに来る所じゃないからしょうがないけど。
……あら?城塞のテラスに新しい装備が並んでるわ。
三連装の大型機銃のような外観は、高射砲?
「ねえ、あれって……」
「その通りであーる!リサが残した銃火器の設計図を元に、アヤが開発した三連対空砲!
車輪付きで移動もラクラク、仰角調整も自由自在!
更に魔力反射式ソナーを利用し、空を海に見立てた近接信管によって……」
「そこまでだ。行くぞ馬鹿者。リサ、案内しよう。こっちだ」
アヤは将軍に首根っこを掴まれて連行されていく。
あたしはただそれについていくだけだった。他にどうしろってのよ。
サラマンダラス要塞 円卓の間
話の肝にたどり着くまで何をダラダラやってたのかって話。テンポ上げて行くわよ。
あたし含むヘクサーが起こした事件の関係者が席に着いた。
まずは皇帝、隣に魔国の総帥っていう人が座ってる。
更に将軍、リサ。あとヘクサーは後ろ手に縛られて、
兵士にAK-47を突きつけられたまま立たされてる。
「皆の者、よく集まってくれた。先日ハッピーマイルズで起きた事件。
諸君も良く知っていると思う。
その首謀者たる魔国総帥ヘールチェ・メル・シャープリンカー。
彼女の処遇と共に、今後魔国との政治的交流を決定したいと思う」
首謀者、と言われている魔女姿の中年女性は、何も言わず伏し目がちのまま座ってる。
「先の事件は明らかに悪意ある先制攻撃であり、
ヘクサーを放ったことは本人も認めている。
未だ戦争が勃発していないのが不思議なほどであるが……
実際、ヘクサーと相対した当事者の斑目里沙子君、
ハッピーマイルズ領将軍のファウゼンベルガー氏の意見を聞いていない。
魔国への処置はどうするかは二人の意見を加味して決めようと思う」
皇帝があたし達に意見を求めようとした時、彼の後ろから、小さな姿がぴょんと跳ねた。
──わたくしをお忘れじゃございません?お・じ・さ・ま
パルフェム!?あの娘がいつもの振り袖姿でニコニコ微笑んでいる。
なんで?ありきたりだけどそんな言葉しか出ない。
「……パルフェム嬢。これはサラマンダラス帝国の先行きを決める会合。
外部の意見は無用である」
「あら冷たい。
友好国である帝国が、魔国から攻撃を受けたと聞いて飛んできましたのに。
もちろん野暮な口出しなど致しませんわ。ただ……会議の結果によっては、
皇沙共同防衛条約に基づいて、MGD本土に武力行使も止む負えませんから」
魔女姿のおばさんの顔色が悪い。この人がなんのためにヘクサーを放ったのか。
黙り込んでるからなんにもわかんない。
「……席に着かれよ」
「やったー!ごきげんよう、里沙子さん!」
「んああ、久しぶり……」
パルフェムがやっぱりあたしの隣に座る。
ん、武力行使!?なんか笑顔で物騒なこと言ってたんだけど。
あたしに発言の順番が回ってきたら、なんとか話の方向性を変えなきゃ。
っていうか、おばさんも黙ってないでなんか言ってよ!まだ発言権ないんだろうけど!
「まずはファウゼンベルガー将軍、貴殿の意見を伺いたい」
「先の攻撃によって、ハッピーマイルズの中心街は計り知れない打撃を受けました。
通常なら即座に反撃に出るべきであると考えますが、
斑目女史の意見と、魔国総帥の弁解がまだ得られていません。
申し訳ありませんが、私の結論は、後にさせて頂きたいと思います」
「もっともである。では、斑目女史。貴女の意見を」
ペンネーム“勝手にどんぶり物に黄身乗せんな”さんからのリクエストで、
「ハチのムサシは死んだのさ」をお聞きいただきました。
あれムカつきますよねえ。あたしも生卵嫌いなんですよ。
さあ!スタジオではいきなり戦争するかしないかで激論の真っ最中なんですけど、
どうすれば穏便に事が運ぶのか。リスナーの皆さんから、
スマートなご意見を大募集しております!FAX番号078-xxx……
ああ、馬鹿やっている間に時間が過ぎていく!とりあえず金よ金!
世の中大抵のことは金でカタが付く!
「あの、わたくしとしては、開戦に至った場合、敗れた国だけでなく、
戦勝国にも莫大な損害をもたらします!
よって、今回は人的被害がなかったことを踏まえ、MGDには相応の賠償金を支払わせる、
ということで、どうか、な~と、思うんですけど……」
死―ん。冷たい石の壁にあたしの声が響く。なんか言ってよ。みんな黙ってないでさ。
……ん?よかった!皇帝陛下がようやく口を開いてくれたわ!
「ふむ、賠償金か……確かに戦争を始めるとなれば、
兵力の投入、兵站に膨大な予算を割かねばならぬ。そして無傷の勝利は存在しない。
つまり多かれ少なかれ兵士の命が失われることを意味する。
なるほど、無為な犠牲を払わず、
此度の損害及びそれに付随する経済的損失の賠償で手打ちにする。
正直あまり納得は出来かねるが、それが一番であろう。
……シャープリンカー女史、賠償額がいくらになろうと払い切る覚悟はあるな?」
「はい!必ず……」
その時だった。
ふと窓の外を見ると、ゴーグルを掛け、黒いローブを着た人間が飛んできた!
そいつが両手に持ってる鐘を鳴らすと、鐘の前方に水色の魔法陣が現れ、
中から真っ白に凍る氷柱が機関銃のように放たれた。
氷柱は円卓の間に何本も飛び込んできて、分厚いテーブルを貫き、
砕けた氷が部屋中を跳ね回り、皆、パニックになる。
「え、何!?魔女が撃ってきたんだけど!」
「リサ、あれは魔国の空撃部隊である!」
「おのれ女狐め!やはり時間稼ぎであったか!マグバリスに劣る野蛮人め!」
皇帝が魔女の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけている。
「違います!信じて下さい!どうしてあの娘達が!?私は何も!」
「ではこの状況をどう説明する!!」
「皇帝陛下、第二波が来ます!壁に隠れてください!」
今度は緑色の魔法陣を作った魔女が攻撃を仕掛けてきた。
両腕の魔法陣から、ミサイルのように大きな岩の槍が放たれる。
「みんな避けて!」
全員部屋の隅に避けたけど、重い岩の塊が、石を積み上げた壁を突き破り、
土煙を上げた。
城外でも戦闘が始まった。警鐘が鳴らされ、三連対空砲の銃声が響いてくる。
空から爆発した近接炸裂弾の爆音が打ち付けてくる。
「ケホケホッ!どうなってんのよ、これ。アヤ、大丈夫?」
「らいじょうぶれふ……アヤの最高傑作を皇帝陛下にお見せするまでは……」
「ああ、あんたは大丈夫そうね。あの連中一体何?」
黒いローブを着た魔女が編隊を組んで明らかにこちらを狙っている。
とにかく状況がわからない。あのおばさん魔女が嘘ついてるようにも見えない。
かと言って他に攻撃を受ける理由が……
「……教えてやろうか」
「えっ?」
その時、ヘクサーがうつむきながらニヤリと笑った。そして、苦しそうな声を上げて、
何かを吐き出した。
カラン……
高い音を立てて転がったのは、小さな音叉だった。
魔王との戦い以来、何度も見た、あの音叉。それがなんでここに?
「カカカ……いろんな部屋連れ回される途中、軍服の女からスリ取ったんだよ。
こいつが何かくらいは俺にも分かるし、魔国への周波数なんか覚えてて当たり前だ」
「まさかあんた……!」
「しんどかったぜぇ、鉄の棒一本食道に収めとくのはよォ!
……だが、こいつのおかげで楽しいパーティーになりそうで嬉しいぜ!
これって便利なもんだよなぁ?魔力がなくても使えるしよぉ。
言うまでもなく軍のアホ共を焚きつけたのは俺だが、簡単なんだよこれが。
“トップが危ない”の一言で済むからなァ!
“酷い拷問を受けている”“指が2本なくなった”“早く助けて”
俺が言ったのはこの3つだ。たった3つ。
それだけで後先考えず、頼まれてもいねえのに突っ込んでくるんだから、
やっぱりバカだよなァ、魔女って奴はよう!アハハ、ゲヘヘ、ウヒャヒャヒャ!!」
「こいつ!」
ヘクサーを撃ち殺してやろうかと思ったけど、また氷柱の機銃弾が飛び込んできた。
ヤバいわね!壁が崩れて遮蔽物がどんどんなくなってる。
あたしはクロスハックで時間を止めつつ、M100の銃弾を魔法で強装弾に変化させた。
これでスナイパーライフル並の射程距離になったわ!
時間停止を解除すると、銃砲店でオーダーメイドしたスコープを取り付けて、
空撃部隊に反撃を開始。
「みんな耳塞いで!」
全員が両手を耳に当てると、あたしは飛び回る武装した魔女をスコープに収め、
中央よりわずかに右上を狙い、発砲。
大砲のような銃声が大空に轟き、空撃部隊を一瞬怯ませた。一発命中。
遥か向こうで、血に塗れた物が空に舞う姿が見えた。あんまり近くで見たくはないわね。
接近してきたらピースメーカーに切り替えましょう。
床に転がった音叉から、魔女達の声が聞こえてくる。
“エリオットが被弾!奴らにやられたわ!”
“今すぐ総帥を解放しろ!”
“人道に反する蛮行に断罪を!”
硬い床の上で音叉がビリビリと震えていた。