面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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ダサさと個人的趣味はもうこの企画のウリにするしかないけど、愚痴だけは書くなって叱っといたから。

空撃部隊の激しい攻撃はなおも続く。

みんな遮蔽物に隠れながら、反撃のチャンスを待つ。

あたしがM100強装弾で地道に撃ち落とし、テラスの三連対空砲が近接炸裂弾で迎撃し、

ヘクサー監視役の兵士がAK-47を連射する間に、

皇帝がフルーチェみたいな名前の魔女を怒鳴りつける。

 

「シャープリンカー!関与を否定するなら今すぐ奴らを撤退させろ!!」

 

ヘールチェ(ああ、思い出せた)は、左手にいくつかはめた指輪に向かって叫ぶ。

 

「は、はい、今すぐ!空撃部隊の皆さん、どうして来てしまったのですか!?

直ちに攻撃を中止してください!ヘクサーの言葉に惑わされてはいけません!」

 

“ママ、ご無事だったのですね!?”

“我々を下がらせろと脅されているのですか?でも大丈夫です!”

“安心して下さい、すぐ救出に向かいます!”

 

「違います!ほら見て、この通り指も無事です!お願い、今すぐ攻撃をやめて!」

 

“みんな騙されないで、沙国の罠よ!”

“義指を付けられてるに決まってる!”

“ママを取り戻して、私達で沙国の虐待行為を世界に告発しましょう!”

 

本人が無事だって言ってんのに、なんでヘクサーの言葉を優先しちゃうのかしらね。

フルーチェもフルーチェよ。奴らの意志かもしれないけど、

部下にママって呼ばせてるあたり、ちょっとキモいわ。

近接炸裂弾で、快晴の空に小さな黒雲がいくつもできる。

何人も榴弾の破片を食らって墜落していくけど、

彼女達は素早く陣形を組み直し、反撃してくる。

 

「ヘクサーが面白半分で戦争を起こそうとしてるの!私の話を聞きなさい!」

 

「もう良い!奴らが貴様の差金でないのなら、お前自身が奴らを殺して証明せよ!」

 

「えっ、そんな事は!皇帝陛下、お願いです!彼女達は私の娘同然で……」

 

「今、選べ!首都にまで攻め込んで来た連中を撃退するか、

我が国と戦い全てを失うか!」

 

「……っ、ごめんなさい!」

 

ヘールチェは嘆きを顔に浮かべるように、目を閉じながら魔法の発動を開始した。

 

「怒れ雷帝!太古に眠りし汝の裁き、虚空の邪悪を薙ぎ払え!ライトニングワールド!」

 

叫ぶように魔法を詠唱すると、大空に黄色く輝く大きな球体が現れ、

次の瞬間、それは稲妻の爆弾のように弾けて、空全体を覆う雷撃の網となり、

宙を舞っていた空撃部隊を一網打尽にした。

稲妻に焼かれた魔女達が墜落し、あっという間に部隊は壊滅状態になった。

 

“ママ……?どうして……”

 

「ごめんなさい、ごめんなさい!……全部私のせいなの!!」

 

泣いてるヘールチェには悪いけど、あたしらに取っちゃ大助かりよ。

 

“貴様らァ!……よくもママに私達を殺させたな!!”

 

でも、まだ油断は禁物!雷撃を並外れた身のこなしで回避したエースが、

両手の鐘を鳴らして、今度は前方に巨大な火炎弾を造り出した。

あれ食らったら室内全焼するからヤバいなり!

あ、今の語尾は予測変換で出てきて、面白くて使っただけだから気にしないで!

Google日本語変換って便利よね!ヘクサーはただ、笑っている。

 

「ああ、アア、マジで笑えるよ!神が存在するならよォ、贅沢は言わねえ。

戦争が勃発する瞬間までは生かしてくれ。

空撃部隊も頑張って、悪い王様をぶっ殺してママを助けなきゃ駄目じゃあねえか。

ヒヒ、ヒハハハ!!」

 

後でこいつは日本刀でケツバットね!とにかく今は敵機撃墜に集中。

M100で狙撃するけど、恐らく部隊最速のエースに当たる気配がない!

やっぱり拳銃で長距離の狙撃って無理があるのかしらね。

残念だけどドラグノフは持ってきてない!

 

「お願い、誰か早く奴を撃ち落として!」

 

「空が爆炎で曇って、上手く情景が詠めませんわ!」

 

「くそっ、リサの銃が当たらないなら、我の剛剣などもっと当たらんぞ!」

 

「ピコーン!ひらめきました!」

 

「アヤ?こんなときに何よ一体!」

 

半分に割れたテーブルに隠れて様子をうかがっていたアヤが、妙なことを言った。

もう、何よ。思わずそっちを見ると、緑色のトランクを蹴って滑らせていた。

 

「足で失礼致しま~す!皇帝陛下、アヤの傑作を受け取ってー!」

 

滑ったトランクが皇帝の側で止まる。……え、マヂで?

トランクを受け取った皇帝が、何かに気づいた様子で蓋を開いて、

中の変身ベルトを取り出した。皇帝がベルトを装着。

マイクアイコンにタッチし、“認識しています”画面に切り替わった事を確認。そして。

 

「変、身……!」

 

厳かな声で変身を宣言。すると昨日見たように、光る粒子が皇帝を包んで、

体長2mのプロトタイプ仮面ライダー(仮にプロトライダーにしましょうか)に変身した。

その姿は、昨日はFalloutのパワーアーマーに例えたけど、

わかりにくければザクの縮小版と言ってもいいわ。

皇帝は自らの変貌を気に止める様子もなく、破られた壁のへりに立ち、

空撃部隊の生き残りに向き合う。真っ黒なゴーグルが、ヴォン!と赤く光り索敵を開始。

 

“悪魔め!お前がママを傷つけた!みんなを殺した!この怒り、思い知れ!”

 

「……もはや、言葉に意味はないのだろう」

 

皇帝はタッチパネルに、2816を入力。スマホが命令を認識すると、

アーマーの左腿が開き、先端に何本も刻まれた細かい排熱機構が特徴的な、

ジャイロジェットライフルが現れ、彼が即座に抜き取り構えた。

同時に、最後の魔女も限界まで膨れ上がった火球を放つ。

 

両者同時に発砲。ジャイロジェットライフルが放った13mmロケット弾が、

魔女が放った火球に命中し、貫いた。

尖ったミサイルのような弾丸に突き刺され、安定を失った火球が、

こちらに届くことなく空中で爆発。

小さな火の玉になってグラウンドに降り注いだ。

 

それを確認すると、皇帝は銃を構えたまま、空を飛び続ける魔女に照準を合わせた。

後でアヤに聞いたら、ヘルメットに自動照準補足機能が搭載されてて、

ロックオンした敵に合わせて自動的に腕を動かしてくれる、とのこと。

そう言えば、皇帝もどことなくロボットみたいな動きで狙いを付けてる。

そして、彼の腕が止まった時。

 

「さらばだ」

 

トリガーを引く。フレームの強度と引き換えに、弾速と精密性を得た銃身から、

予測射撃で放たれた小さなロケット弾が、銃口から飛び出し、

燃える直線を描き、空を飛び交う魔女に命中。赤い霧が一瞬空を染める。

 

“あ!…うう、ママ……ごめんなさい”

 

「お前に罪はない。咎は指導者が負うものだ」

 

ヘールチェの指から、空撃部隊最後の言葉。

彼女は嗚咽を漏らしながら、詫びるように、その場でうずくまる。

そんな彼女に構うことなく、プロトライダーになった皇帝は、

ベルトに2010を入力しながら、ヘクサーに歩み寄る。

ボディの両腕からブレードが飛び出し、2本の刃を金具で接続。

皇帝がツヴァイハンダーになった大剣を構える。

 

「……サラマンダラス帝国皇帝の名において、貴様を処刑する」

 

その気になれば成人男性を縦半分にできそうな刃を持って近づいてくる巨体に、

恐れをなしたヘクサーが命乞いを始める。

 

「おい、待て、バカなこと考えんじゃねえ!

……そうだ、ちょっと待て、魔国の面白え話がまだまだあんだよ!

あ、それに!そもそも俺はこの国に来て誰も殺しちゃいねえ!そうだろ?

なんとかって街で暴れたのは謝るよ!でも結局誰も死んでねえんだろ?

だったら俺は……ぐはああっ!!」

 

皇帝はもう何も言わず、構えたツヴァイハンダーを、ヘクサーの腹に深々と突き刺す。

刀身が奴の腹にめり込み、背中から血に塗れた刀身が飛び出る。

死刑囚だった男が今度こそ死を前にして断末魔の声を上げる。

 

「うごおあっ!!あががが……!」

 

「ふんっ!」

 

皇帝は大剣を抜くことなく、左に刃を振り払った。

痩せた身体を切り裂いて大剣が飛び出し、

返り血が変身した皇帝のアーマーを赤く染める。

胴をほぼ真っ二つにされたヘクサーが、己の血の海に倒れ込んだ。

 

「なんでだ…俺は……間違って……」

 

それだけを言い残して、男の魔女ヘクサーは絶命した。

奴の最後を見届けた皇帝は、エスケープキーをタッチして変身を解除。

最後まで魔女という存在を憎み続けた男の骸を見下ろし、一言だけ告げた。

 

「……二度と、生まれてくるな」

 

 

 

その後、あたし達は救護班から手当を受けたけど、

幸い大怪我した人は誰もいなかったから、簡単な応急処置だけ受けて、

3階の火竜の間に場所を移して会議を再開したの。

今は兵士が持ってきてくれた簡易テーブルに着いて、

城塞の破損箇所の修理や、負傷者の有無を確認している皇帝待ち。

 

「ふぅ、どえらい目に遭ったもんだわ。

それにしても、この世界で初めて実戦を経験した仮面ライダーが、

まさか皇帝陛下だなんて、おもろい世界よね」

 

「……申し訳ありません、全ての責任は「ぶっつけ本番だけどアヤの発明大成功!」」

 

せっかく神妙な顔して謝ってたのに、変態科学者になかったことにされて可哀想。

皇帝は、この魔女が一連の事件の主犯だって言ってたけど、

一体何が目的なのか、さっぱりわかんない。会議の再開を待つしかないわね。

しょうがない。とりあえずアヤとだべって時間潰しましょうか。

 

「ねえ。さっきの皇帝陛下、見事に変身ベルト使いこなしてたわね」

 

「当然っ!昨晩アヤが手取り足取り、

スマートフォン内部の構造、記録術式、使用法をご説明した結果で、あーる!」

 

「あの変身した姿って、もう名前付けてるの?」

 

「しょぼーん。実はそれだけがまだ決まってないのであーる……

アヤ、発明は得意だけど、名前を付けるのが苦手なのだー。

名前がなければ未完成も同然!システム自体はどうにか

S.A.T.S(Saramandalas Automatic Transforming System)と、

命名したのであーるが……」

 

「変身後の姿がまだってわけね。うふふ、それについて提案があるんだけどさぁ」

 

「おおっ!?リサがアヤの研究に力を貸してくれると?」

 

「仮面ライダー○○ってのはどうよ?○○には任意のキーワードが入る。

実はさ、架空の物語なんだけど、アースには皇帝陛下みたいに、

ピンチになると腰のベルトで変身してパワーアップするヒーローがいるのよ。

歴史が長いからもう何十人とね。あたしらで新しい仮面ライダー考えてみない?」

 

「なんと、それはスンバラシイ!そうね……全身が重厚な金属で守られてて、

強力な銃器を装備して、あと、単純な格闘戦にも優れてて、ん~と」

 

アヤが乗り気で名前を考え始めた。

案外オタ同士興味が噛み合えば、話が弾むのかもしれないわね。

あたしも何かをモチーフにした新ライダー名を考えていると、

重要な事を見落としていることに気づいた。

 

「アヤ、あの変身システムって、必殺技とかあるの?できれば飛び蹴りっぽいやつ」

 

「必殺技?う~ん、今の所搭載している銃器が全部であーるよ」

 

「作るべきよ!仮面ライダーは全員、

個性を生かしたライダーキックで敵にとどめを刺すの」

 

「ふむむ……確かに、強力な鎧と銃だけじゃあ、没個性な感は否めないと考えるのだ。

よし!アヤはハッピーマイルズの我が研究室に戻ったら、

仮面ライダー○○に相応しいライダーキックを実装することに決めたのだ!」

 

アヤが立ち上がって両手を上げて決意表明。

発明の材料を手に入れて嬉しそう。将軍は悲しそう。

 

「アヤ。皇帝陛下が戻られる前に座るのだぞ……」

 

「里沙子さ~ん。パルフェムともお話ししてー」

 

パルフェムが、あたしの袖を軽くつまんで話をせがむ。

 

「もうすぐ皇帝陛下が戻られると思うから、後にしましょう。

そうだ、またハッピーマイルズの教会に泊まって行きなさいな」

 

「むー!泊まりますけど!」

 

「ほら、むくれないの」

 

噂をすればなんとやら。皇帝が大きなドアを開けて入ってきた。

自分の席に着くと、会議の再開を宣言した。

 

「皆、待たせてすまぬ。幸い我が方に死傷者はいなかった。

さて、どこまで進んだものか。

ああ、里沙子嬢が賠償金で手を打とうという、提案を出してくれたが、

これはもう実現不可になった。理由は説明するまでもあるまい」

 

皇帝が目だけを動かして、隣のヘールチェを見る。

もうすっかりやつれて、テーブルの上に視線を落とすだけ。

皇帝がひとつ咳払いをして彼女に弁明を求める。

 

「では、説明してもらおう。魔国、いや、貴様がヘクサーを放った合理的理由を」

 

「はい……」

 

うわあ、皇帝陛下ご立腹だわ。

小学生の頃、アホな男子が馬鹿やらかして先生がキレてた時、

いたたまれない気分になったことはあるかしら。そんな感じ。大迷惑この上ない。

ともかく、ヘールチェが意を決した様子で打ち明けた。

 

「まず、この国の皆様に多大なご迷惑をおかけしたこと、

お詫びのしようもございません」

 

「前置きなど要らん」

 

「失礼しました。結論から申し上げます。

今回、私がこのような暴挙に出てしまったのは……魔国は後50年で息絶えるからです」

 

50年で国が死ぬ?わけのわからない言葉に、皇帝も何も言わず続きを待つ。

彼女はぽつぽつと語り続ける。

 

「魔国は高度な魔術で発展を続け、豊かな生活を送って来ました……これまでは。

しかし、それも終わりが近づいています。

そもそも魔国が魔術で栄えてきたのは、神界塔という千年以上前から存在している、

誰が何故作ったのかわからない巨大なマナの結晶が放つ、

濃密で純度の高いマナの恩恵を受けてきたからです」

 

「ふむ、そいつは初耳だ。続きを」

 

「ですが、最近になって神界塔の力が急激に弱まってきたのです。

原因も修復方法も、何ひとつ分かっていません。

わかっていることと言えば、塔が完全に機能を失えば、魔法に頼り切った魔国も、

完全に国として立ち行かなくなるということです。

食糧生産、社会インフラ、経済、物流、全てを並レベルの魔女が

担わなければならなくなり、あらゆる分野の効率が10%以下にスケールダウン。

失業率は80%に上り、国民が飢えと貧困に追い詰められ、

とても軍の維持に回す魔力などありません。

そうなればもう、MGDは先進国どころか発展途上国に転落します」

 

「それで、先手を打って脅威となる国を潰そうと?」

 

「違います!それだけは信じて下さい!私は、戦いを仕掛けるのではなく、

どの先進国からも侵略戦争という選択肢を奪いたかったのです!

せめて崩壊後の魔国を、戦争の魔の手から守り、仮初めだろうと他国から脅かされない、

復興に専念できる平穏な国土を残すために!」

 

彼女は立ち上がって全員に訴える。それがなんでヘクサーになるのかしら。

皇帝も同じ疑問を抱いたらしいわ。

 

「……では、ハッピーマイルズにおける先制攻撃はどう説明する」

 

「私が浅はかでした。

先の魔王との戦いで、アースの近代兵器をもたらした、斑目里沙子さんを捕らえるため、

本来千年を超える懲役刑を受けた、超人的能力を持つ囚人ヘクサーを放ったのです。

仮釈放と引き換えに、特注の手枷で両手と魔力を拘束した上で、

彼女の誘拐を指示しました」

 

「あたし…あ、いや、わたくしを?彼はいきなり殺しにかかってきましたが」

 

「里沙子さん……あなたには本当に申し訳ない事をしました。

仮釈放を餌にすればヘクサーが言うことを聞く。

私の甘い見通しで、あなたを傷つけてしまいました。本当に申し訳ありません」

 

ヘールチェが深く頭を下げる。よくその帽子落ちないわね。

しまった、またどうでもいいことを。みんながあたしを見てる。何か聞けって雰囲気ね。

 

「ヘールチェさん、でいいかしら。あなたはわたくしを攫って何をしたかったの?」

 

「あなたが持っている近代兵器の知識を、先進4カ国で共有すること。

互いが同じ戦力を持っていれば、相打ちを恐れて侵略行為に及ぶ者はいなくなる。

そう考えた結果です……

もちろん、誘拐という強引な手段を取ったことは、

如何様に責められても仕方ありません。ですが、里沙子さんを拷問に掛けたり、

自白剤で狂わせようなどとは考えていませんでした!

誰に言われたわけでもなく、魔王討伐に乗り出した正義の心を持つあなたなら、

全てを打ち明ければきっと分かってくれると信じたのです!」

 

火竜の魔に沈黙が下りる。先進国たる魔術立国MGDが、半世紀後に崩壊する。

その事情はよくわかった。でも、よほど焦ってたみたい。手段を間違えたわね。

戦争なんて、トップがやると決めたら、どんな状況だろうと誰かが引き金を引くものよ。

 

まぁ、気持ちはわからなくもないけどね。もし地球上から電気がなくなったら、

あちこちに死体の山が出来上がる。病院、上下水道、食糧生産、全部ストップ。

それに伴う暴動、犯罪、内紛が起こって日本もソマリアみたいになる。

 

「魔国の状況は理解できた。

だが、シャープリンカー女史、貴女が採った方法は軽率極まりないと言わざるを得ない。

当然無罪放免とも行かぬ。貴国が傾くほどの賠償金に加え、

なんらかの責任を取ってもらうぞ。

まずは、貴女の話を裏付けるため、無条件で我が国の査察団を受け入れるように。

神界塔なるものが本当に存在するのか、確認する必要がある」

 

「はい……」

 

「更に、貴国の情報は全て開示してもらう。GDP、人口、貿易収支、全てだ。

また、今後武力の使用については、事前に我が国に通達を出すように。

特にこれが破られることがあれば、魔国は未だ我々に敵意を抱いていると見なし、

宣戦布告と捉え、全戦力を持って貴国を沈黙させる」

 

ヤバいわね。陛下は相当カッカしてるみたい。

落とし穴に落とされたくないから口には出さないけど。馬鹿言ってる場合じゃないわね。

このまま放っといたら間違いなく戦争になる。ええい!後は野となれ山となれ、よ。

 

「里沙子嬢、どうしたのだ。手を挙げたままじっとして」

 

「あー、あの、皇帝陛下にお願いがあるのですが!」

 

「ふむ。言いたまえ」

 

「魔国への査察を行う際、わたくしも査察団に入れて頂きたいと思いまして!」

 

「貴女が査察に?

心配せずとも、アクシスや学識者から選りすぐりの人物を選ぶつもりなのだが」

 

確かに素人のあたしが行く理由はないんだけど……あ、そうだ。

 

「本件の被害者のひとりとして、

魔国の現状を把握しないことには、安心して夜も眠れません。

具体的には、ヘクサーと戦ったときに、竜巻で太ももをパックリ斬られました。

とっても痛かったです。血があふれました。涙も出ました。お母さん呼びました」

 

皇帝は顎髭をねじって考える。どうかしら。

 

「うむ……そうであったな。

貴女にはヘクサーを沈黙させた功績と、魔国の後始末を見届ける権利がある。よかろう。

出立の日程が決まり次第、連絡しよう」

 

「ありがとうございます!」

 

頭を下げながら考える。あの構想について提案するのはまだ早そう。

魔国の実情すらわかってないんだから。

着席すると、皇帝がようやく会議の幕を下ろした。

 

「では、諸君。今日はご苦労であった。これにて散開としたい。

……シャープリンカー女史、帰国を許可する」

 

「恐れ入ります……」

 

あたし達はみんなバラバラに歩いて1階を目指す。誰もなんにも言わない。

確かにあんまり騒ぐようなところじゃないけど、

アヤがオタク談義のひとつでも始めないかしら。

城塞から出ると、ヘールチェが、グラウンドに並べられたシートに向かって駆け出した。

シートの中を見て座り込み、慟哭するヘールチェ。

 

「みんな、ごめんなさい!私のせいで!

私がバカだったからこんな事に……ああっ、うああ!!」

 

あたしも近づいて、カバーをどけて中を見る。なるほど、戦死した空撃部隊の遺体ね。

炸裂した榴散弾で綺麗だった顔が穴だらけになった死体、そもそも首がない死体。

黒焦げになった死体。そしてあれは……隅に、明らかに人の形でない死体がある。

M100の強装弾を食らった魔女に違いない。

さすがに見る気にはなれなかったから、あたしは振り返って、帰りの馬車に乗り込んだ。

 

 

 

なんだか気持ちが沈んだから、

馬車の中でうるさく話しかけてくるアヤがかえってありがたかった。

 

「さっきの仮面ライダーの話なんだけど、やっぱり外観と戦闘スタイルを象徴し、

なおかつカッコよくて覚えやすい名前が必然的に求められると思うので、あーる!」

 

「そんな山盛りの要求を満たすライダーなんていないわよ。

もっとシンプルで、一言でそのライダーが想像できるような、例えば……メタル?

だめだめ既出。リコイル(反動)?うーん、いまいちインパクトに欠けるわね」

 

「リサ、戦いの後で疲れておろう。無理にアヤの相手をする必要はないのだぞ」

 

「構いません、将軍。わたくしも、気分を変えたくて、話し相手が欲しかったので」

 

「む、貴女がいいなら我が言うことはないが」

 

「ついていけませんわ。ライダーだのメタルだのさっぱり。

里沙子さんを取られちゃったから、ふて寝することにしますわ。

しばし、ごめんあそばせ」

 

小さな体を横にするパルフェム。悪いわね、くだらないようで重要な話の最中なの。

 

「そーですわおじさま!

ガールズトークに男性が口を出すのは、野暮というもので、あーる!」

 

たった二人で仮面ライダーの名前考えるガールズトークなんて、

色気もなにもあったもんじゃないわけどね。

 

「あの姿から連想されるのは……岩、山、無敵、不動の存在。あ、ひらめきましたわ!」

 

「何、どんなの?」

 

「フォートレス(要塞)!皇帝陛下のお住まいも要塞だからピッタリだと思うのだー!」

 

「仮面ライダーフォートレス……

ふむふむ、もうちょっとパンチが欲しいけど、良いと思うわ。

駄目なら変えてもらえばいいんだし、当面それで行きましょう」

 

「やったー!」

 

それからもあたし達は主にヒーロー物に関する雑談で時間を潰し、

ようやくハッピーマイルズに帰り着いた。将軍とアヤは先に軍事基地で降りたけど、

もうとっくに日は暮れてるから、教会まで送ってくれることになった。

 

「この度はご苦労であった、リサ。今夜はゆっくり休んで欲しい」

 

「いいえ、将軍こそ。おやすみなさい」

 

「リサ、また面白いアースの流れ物を見つけたら教えて欲しいので、あーる!」

 

「はいはい、アヤもあんまり将軍困らせんじゃないわよ。お休み」

 

二人と別れて、街から出ていつもの街道を進む。ここまで来たらすぐそこね。

我が家の明かりが見える。やがて馬車が止まると、あたしはパルフェムを抱っこして、

馬車から降りて御者さんに声を掛けた。

 

「今日はありがとう、ご苦労さま」

 

「恐縮です。では斑目様、お気をつけて」

 

帰って行く馬車を見送ると、あたしは2日ぶりくらいの我が家に入った。

 

 

 

帰宅すると、とりあえずパルフェムをベッドに寝かせた。

ピーネもここで寝るから……ああ、今夜は久しぶりに寝袋ね。

ダイニングに下りると、ジョゼットが簡単な夕食を出してくれた。

夕食の余りのスープ、トーストにトマトソースと調理用チーズを振りかけて

オーブンで焼いたピザパン。小腹が空いてたから助かった。

帝都での会談の結果が気になったみんなが下りてきたから、

あたしは食べながら結果報告。

 

「んがんぐ……つまり、あたしが生きてるうちにMGDは死ぬ。

だから焦った代表があたしを連れて行くためにヘクサーを放ったんだけど、

結果はご存知の通りよ。

追い詰められてたのはわかるけど、あたしを頼んないでよ、まったく」

 

「それで、お前は魔国でどうするんだ?」

 

「まずは現状把握。神界塔とやらが本当に存在するのか。

そもそもそっから始めなきゃならない。エレオ、神界塔について何か知らない?」

 

「すみません。国外のアーティファクトについては図書室にも資料がなくて……」

 

「ああ、いいのよ。向こうに行きゃなにかわかるでしょ」

 

「ねー、里沙子」

 

ピーネが部屋の隅で、後ろに手を組みながらあたしを見ないで声を掛けてきた。

 

「その魔国ってところと、戦争になるの?」

 

指遊びが落ち着かないピーネに、あたしは言葉を選んで返事をした。

 

「今日、魔国の空撃部隊がやってきて戦闘になったの。

でも、それは全部ヘクサーの差金。

その後の話し合いで、魔国の意思じゃないってことは、はっきりした。

MGDも帝国も、賠償金を支払うことや、国の情報を明らかにすることで合意した。

今の段階で戦争になることは、ないと言っていいわ」

 

「うん……わかった」

 

「里沙子を信じてやれ。酒ばっか飲んでるけど、やるときにはやるやつだからさ」

 

ルーベルがポンと頭を撫でると、ピーネは黙ってうなずく。

 

「大丈夫。お姉ちゃん、約束は守る」

 

「ピーネはもう寝なさい。いつもなら、とっくにおやすみの時間でしょう。

あ、パルフェムが来てるから起こさないようにね」

 

「えー!またあの変な娘?」

 

「ぶーたれないの。変な娘同士仲良くしなさい」

 

「私のどこが変だっていうのよ!」

 

「しーっ!あたしは寝袋なんだから我慢して」

 

「もう、わかったわよ!じゃあ、お休み!」

 

「はーい、お休み」

 

ピーネがあたしの私室に引っ込んで行く。

ドアがパタンと閉じられると、ルーベルが話を再開した。

 

「戦闘になったって、どういう事だ?」

 

「ヘクサーが誰かからスリ取った音叉を飲み込んで、

魔国の軍にデマを触れ散らかしたのよ。総帥が拷問受けてるだの、指落とされただの。

それで愛しのママを助けるために空撃部隊がいきなり攻撃してきたってわけ」

 

「国が後50年の命ってのは本当らしいな。国のトップに精鋭部隊、

焦りで判断能力が落ちてやがる。さっさと何とかしないとやべえぞ」

 

「そうですね。

神界塔の修復はできないと考えて、国を新しい体制に移行させるとなれば、

50年はギリギリのタイムリミットになるでしょう」

 

「うん。だけど今の所できることはなにもないのよね。皇帝陛下からの連絡待ちだから」

 

そう。今できることと言えば、仮面ライダーの名前考えることくらい。

あとは……明日資料を探してみましょう。あ、肝心なことがひとつ。

 

「ジョゼット、一本空けていい?」

 

「……一本にしてくださいね?」

 

 

 

次の日、あたしは手がかりを求めて、

ぶらぶらとハッピーマイルズ・セントラルにやってきた。小さな子と一緒にね。

 

「うふふ、里沙子さんとお出かけなんて初めてですわ。とっても賑やかで楽しいです!」

 

「何故かみんなそう言うのよ。

人だかりと生魚の臭いでゲロ吐きそうって意見には、誰も賛同してくれない。

パルフェムも家で待ってりゃよかったのに。着物に臭いが付いても知らないわよ」

 

「替えなんていくらでもありますから平気です。里沙子さんは、今日どちらに?」

 

あたし達は仮店舗で営業中の市場の側を通り抜けながら、目的地へ歩みを進める。

 

「ここよりはマシなとこって言っとく。

ええと、昨日の魔国とのいざこざについては覚えてるわよね」

 

「当然!パルフェムもそんな鳥頭じゃなくってよ。失礼しちゃう、ふーんだ」

 

「アハハ、ごめんごめん。こっちよ」

 

わざとらしく、すねるパルフェムと、裏路地に入る。

彼女はここの独特の雰囲気に身構える様子もなく、あたしについてくる。

ちょっと歩いて、馴染みの店のドアを開いた。

 

「マリー、こんちゃー」

 

「おお、リサっち久しぶり。

それと……おやおや皇国の偉い人じゃないですか。汚い所ですがどーぞ」

 

「ここで言うと、それ謙遜にならないから」

 

「タハー!言われてしまいました。見学はご自由に。私はテレビ見る」

 

そう言って、いつものテレビの前に陣取った。

あたし達はお言葉に甘えて、とにかく古本のある棚を虱潰しに探す。

 

“昭和に戻って何になるんだ……ぬるま湯に浸かった平和な時代に戻って何になる”

 

DVDの音声をBGMに、神界塔に関する記述を探しながらも、

マリーに例の物がないか尋ねてみる。

 

「ねえ、マリー。ここ、スマートフォンは置いてない?あたしのコレみたいなの」

 

「置いて“た”。つまり今はない」

 

「売り切れ?」

 

「そう。牛乳ビンの底を目につけた女の人が買い占めていった」

 

アヤか~。まぁ、手に入ったら渡すつもりだったから別にいいんだけど、

あたし以外に、このユートピアの存在を知ってるやつがいたとは意外ね。

類は友を呼ぶってことかしら。一冊手にとっては目に通し、また戻すを繰り返す。

ふむむ、サラマンダラス帝国の歴史書ばっかりね。

あと、ピーネが欲しがりそうな本。星と契約。何をどうすればいいのか見当もつかない。

彼女の努力に任せるしかないのかしら。

 

神界塔に関する本を諦めて、魔導書の棚を覗く。各属性の攻撃魔法は…いらない。

後は無属性のツールっぽい魔法。

50mジャンプしたり、100tまでの物体を10秒間軽くしたり、隠密行動用かしらないけど、

周囲の大気の振動を止めて、音を消す魔法。……あら?これは結構使えそう。

銃は強くなったけど、その分うるさくなったからねえ。

あたしだけじゃ “…沙子…ん、聞…えて…す?” なくて、

周りの味方まで鼓膜を突き破るほどの

 

「里沙子さん!」

 

「わ、びっくりした!急に大声出さないでよ」

 

「急じゃありませんわよ。さっきから何度も呼んでいるのに……」

 

「ごめんごめん。本に夢中になってさ。とりあえず今日はこれ買って帰りましょうか」

 

あたしはカウンターに消音術式の本を置く。

 

「マリー、これちょうだい」

 

「んー。それは100G。置いといて」

 

「はい、またねマリー」

 

「ばいなら~」

 

なんてお高い!ここの商品に3桁以上の値が付くのは珍しいことよ。

カウンターに金貨1枚を置くと、マリーの店を後にした。

裏路地から通りに戻るけど、パルフェムはご機嫌斜め。

 

「里沙子さんたら冷たいわ。せっかくまたお会いできたのに、本のことばっかり」

 

「ごめんったら。帰りに酒場でジュースおごるから」

 

「わーい!二人っきりでお茶を飲みながらお喋りしましょう!」

 

「うん……」

 

それで、壁の損傷だけで被害を免れた酒場に入って、テーブル席に着く。

あ!久しぶりに、おっぱいオバケに遭遇。ニヤニヤしながらなんか言ってるけど、

テレビの音量を、生活音で簡単にかき消されるほど小さくしたような声で喋るから、

何言ってるのかよくわからない。

 

わかったところでムカつくだけだろうから、ただアイスティーを注文した。

すると、オバケがキョトンとした顔で、

パルフェムのオーダーを取って厨房に引っ込んだ。

なによ。なんか言いたいのはこっちの方よ。あら、パルフェムがなにか言ってる。

 

「失礼よ、あのウェイトレス!パルフェムを里沙子さんの娘だって!姉妹ならまだしも」

 

「ん、そんなこと言ってたの。悪いやつね」

 

「聞いてませんでしたの?

里沙子さんなんて、いつの間に結婚したの、なんて言われてましたのに!」

 

「そう……駄目ね。うん、あいつは駄目なウェイトレスだー」

 

その後も適当に相づちを打ちながら、パルフェムとおしゃべりしてたんだけど、

どうも聞こえにくくてイライラする。

汚い話で申し訳ないけど、多分耳クソが詰まってるんだと思う。帰ったら掃除しよう。

綿棒はあったかしら。なかったら二度手間になるから、今買って帰りましょう。

あったらあったで物置にストックすればいいんだし。

 

「ねえ、パルフェム。帰る前に薬局に寄ってもいいかしら。必要なものがあるの」

 

「もちろん、よろしくてよ」

 

「ありがとね」

 

笑顔だから承諾したんだと思う。

それからあたし達は、街道を北に向かって、交差点で左折。

目と鼻の先にある薬局に入った。

ドアを開けるといつもどおり、アンプリがカウンターの奥に座っている。

 

「邪魔するわよ」

 

「……」

 

こっちを見たけど、なんにも言わない。なによ、返事くらいしてよね。寂しいから。

あたしは勝手に棚から綿棒を探し始めた。日用品コーナーを探していると、

厚紙で出来た箱に入った50本入りの綿棒を見つけた。

カウンターに持っていこうとすると、パルフェムが慌てた様子で手を引っ張る。

どうしたの?アンプリを指差してるけど。

彼女がヤッホーするように口に手を当てて、あたしに呼びかけてる。

 

「ねえ、里沙子ちゃん!私の声、聞こえてる!?」

 

「大声出さなくても聞こえてるわよ!今、耳クソ詰まってて聞こえにくいの!

第一話から耳掃除したシーンがないから間違いない!」

 

カウンターに綿棒を置いて代金を払おうと財布を取り出す。

近づくと、やっとアンプリの声がまともに届くようになった。でも、彼女は首を振る。

 

「そうじゃない。あなた、聴覚を傷つけてるわ。

放って置くと、何も聞こえなくなるわよ」

 

「え?」

 

今度はあたしがキョトンとする番だった。

 

 


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