面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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↑大して進展もないのに長くてごめんなさい。

航海2日目。

天候にも恵まれ、戦艦クイーン・オブ・ヴィクトリーは、

順調にあたし達を乗せて海を突き進んでいる。

あたしは与えられた船室で、戦艦の巨体にほんの少し揺られながら、

消音魔法習得の最終段階に入っていた。

 

「大気はギアチェンジするように、その速さによって性質を変える。

歩けば風、走れば突風、全速力で台風……」

 

それを踏まえた上で、魔術を構成する命令文をイメージし、詠唱する。

 

「停止せよ、空流る風、歩みを止め、我に歌無き静寂(しじま)の世界を。

サイレントボックス」

 

魔法を発動すると、あたしにしか見えない透明な箱に包まれた。

う~ん、全身じゃなくて手だけで良いんだけど。とりあえず試射してみましょうか。

あたしは部屋から出て、階段を上り、甲板に出る。

サイレントボックスは、狭い船内に引っかかることなく、壁にめり込み、

足音を吸収しながら、あたしを中心に付いてくる。

舷側に立ち、視界に何もないことを確認。

 

次は弾丸の強化。あたしはM100を抜いて、強装弾の魔法を詠唱。

分かっちゃいたけど、サイレントボックスに魔力を注ぎながら、

もう一つの魔法を構築するのって難しいわね

 

「収束せよ、鋼に秘めし其の力、猛る混沌、死の鐘響、無慈悲に終末を奏でんことを」

 

左手にグリーンの球体が出現。両方の魔力を切らさないよう慎重に銃に触れる。

すると、やっぱり弾丸の内部が圧縮された感覚がグリップを通して伝わってくる。

最後よ。あたしは遠くの海面を狙ってトリガーを引いた。

 

無音の世界で大型拳銃が火を吹き、サイレントボックスから、

強化された45-70弾が飛び出し、彼方の海に突き刺さった。大きな水柱を確認。

……なんかおかしいわね。あ、大事なことに気づいてなかった。

この箱、内側から外の音を聞くこともできない。

波の音もなんにも聞こえてないことに今更気づいた。

 

微妙に融通がきかないわね、この魔法。

確かに銃声は消してくれたけど、これじゃ耳栓して戦ってるのと変わらない。

さっさと手元に範囲を集中させるように、魔力の流れをコントロールしなきゃ。

と、思案してると、いきなり肩を叩かれて、驚いて両方の魔法を手放してしまった。

 

「わ、びっくりした!脅かさないでよ!」

 

「お姉ちゃんが、返事してくれないから……」

 

「あ、そっか。ごめん。消音魔法の練習してたから、外の声が聞こえなかったの。

銃声だけ消してくれればいいんだけど」

 

能力が解除されて、船体が海を切る音が遅れて来たように聞こえてきた。

カシオピイアがいつもの軍服姿であたしを見つめてる。肝心の用件は?

まぁ、会話が途切れがちなのはいつものことよ。

 

「で、どうだった?そっちに銃声は聞こえた?」

 

「ううん、全然……」

 

「よかった。それなら完成度70%ってとこかしら。

ああ、ごめん。そっちの用事忘れてた。どうしたの?」

 

「アヤさんが、探してた。2階の船室」

 

「アヤが?ライダーキックでも開発できたのかしらね。ありがとう、すぐ行くわ」

 

「うん」

 

船内に戻る途中、振り返ってカシオピイアの様子を見ると、

まだその場でボーっとしてた。あの娘時々ああなるのよね。

何か考え事してるんだろうけど、海を眺めたりして体裁を繕わないと、

アホの子に見られるわよ。

 

アヤの船室の前に立ち、ノックする。

ドアを開いた瞬間、殆ど間髪を入れずに白衣の人影があたしに突っ込んできた。

いきなりだったから、後ろに倒れて尻もちをつく。

 

「キャー!よくぞ参られたリサ!早速S.A.T.S Ver2.0を見に来たであーるね?」

 

「あたた…ちょっと、どきなさい!はしゃぎすぎよ、お馬鹿」

 

「ガーン!馬鹿なんて、親にも言われたこと」

 

「帝都に向かう途中、将軍に言われてた気が」

 

「おじさまは厳しいお人なのだ……」

 

「もういい、中で用件!」

 

あたしは強引に無意味なやり取りを打ち切って、

アヤを部屋に押し込んで、話を再開させた。

 

「わざわざカシオピイアに呼び出させてまで見せたいものって、一体何?」

 

「これ!」

 

アヤは一枚のペラペラした小さな正方形のプラスチック板を見せてきた。

あら、懐かしい。これって……

 

「フロッピーディスクなる記憶媒体である。

とある店で大量に投げ売りされていたものを幸運にもゲットしたのだー!

構造も簡単で、これならこの世界の技術でも読み書きが可能であーるよ!」

 

「1.44MBしか容量ないけどね。昔はうちわになるほどデカいのもあったのよ。

それじゃあ、記憶媒体ってことは……」

 

「その通り!

これにより初代S.A.T.Sより利便性を大幅アップした、Ver2.0が完成したのだ!」

 

「今までと何が違うの?」

 

「従来は変身や装備変更の際に、

スマートフォンのタッチパネルに暗証番号を入力する必要があったのであーるが、

その際、敵から視線を外さなければならないという欠点があった!

律儀に小さな画面をポチポチ操作していると、何をされるかわかったものではなーい!」

 

「まあ、それはあたしも思ってた。

帝都襲撃のときは、十分なチャンスがあったからよかったけど、

突然の襲撃があったら結構面倒よね」

 

「イェア!そこでこのフロッピーディスクの出番!」

 

アヤはVer2.0になった変身ベルトを見せつけてきた。

両方の腰にケースみたいなものが付いてるわ。……あら、これっていいのかしら?

 

「左の腰にはディスクホルダー。

手をかざすだけで、任意のフロッピーディスクが排出されるのだ!

そして右の腰にはフロッピーディスクドライブ!

中央のスマートフォンに接続され、挿入したフロッピーの命令を受け取り、発動する!

フロッピー自体には大したデータが入らないから、

スマートフォンへ暗証番号入力だけを代行させる!

つまり、外部デバイスにより装備や技の発動時の隙を劇的に減少させたので、あーる!」

 

「凄いじゃない!龍騎のアドベントカードみたい!神崎士郎もびっくりだわ。

これから鏡になるものには気をつけなさい」

 

「むむっ?リサの話は難しいであーるよ。鏡とベルトに何の関係が?」

 

「ごめん。ちょっとしたおちゃらけよ、気にしないで。

ってことは、ライダーキックも?」

 

「フシシ、もちろんもちろん!」

 

あたし達は密談するように、すっかり新型ベルトに夢中になる。

彼女はフロッピーディスクを1枚取り出し、あたしに見せた。

ラベルにサラマンダラス帝国旗の火竜のエンブレムが描かれたフロッピー。

なぜか二人共小声になる。

 

「この中に、ライダーキックの発動コードが収められているのだ……!」

 

「むふ。どんな技なの?おせーて、おせーて。皇帝陛下のファイナルベント」

 

「済まぬ友よ。そればかりはガチで機密事項に当たってしまう!

涙を飲んで口をつぐむしかないのだ……」

 

「それならしょうがないわ、気にしないで。

え、それじゃあ、今までの新型ベルト自体の話は大丈夫だったの?」

 

「厳密言えば良く無いレベル。

だが、我が友のリサは情報漏洩などしないと信じているので、あーる」

 

なんだか部屋の空気が妙な感じになる。それまでの湧いた空気が一気に引いていく。

 

「……ねえアヤ。確かにあたし達は親しい間柄だけど、けじめは大事だと思うの。

秘密を教えてくれたのは嬉しいけど、それでアヤの立場が悪くなったら、

結局どっちも嬉しくなくなっちゃうじゃない。

これからは、あなた自身のリスクも考えて。ね?」

 

彼女が明らかに悲しそうな表情を見せて、つぶやくように続けた。

 

「アヤのしたことは、間違いだったのであるか……?ただ、リサに喜んで欲しくて……」

 

彼女が両手に持ったベルトに目を落とす。本当は嫌だけど、言うことは言わなきゃ。

まだ目的地にも着いてないのに、トラブル発生とかマヂで勘弁。

だけど、責任から逃げるのはそれはそれで嫌だから。

 

「間違いよ。

そりゃ、あたしも人に話すつもりはないけど、もしあたしが酒場でベロベロになって、

今の話を喚き散らしたら、あなたが監獄行きになる可能性がないって言い切れない。

ただでさえ情報はどこからでも漏れるものだもの。

あれだけ仮面ライダーの話で盛り上げといたあたしも悪かった。本当にごめんなさい。

でも、自分を後回しにすることはもうやめて。お願いだから」

 

彼女のベルトを持つ手が震え、牛乳瓶に滝のような涙があふれて、頬を濡らす。

 

「うくっ……もういい。アヤの研究成果を褒めてくれない人なんて、嫌いなのだ!」

 

「落ち着いて。研究成果じゃなくて、あなたを求めてくれる人を見つけて欲しいの」

 

「出て行け!アヤの発明はアヤの分身である!

アヤが要らない人なんて、アヤだって要らないのだー!」

 

「ちょっと待って、話を聞いて。落ち着いて!」

 

「うるさーい!」

 

部屋から追い出され、ドアを閉められ、鍵を掛けられた。

……中から、枕か何かで抑え込んだ嗚咽が聞こえてくる。

とにかくあたしはドア越しに声をかける。

 

「今は何を言っても信じてもらえないだろうけど、あたしは、アヤが必要。

耳の補聴器をくれたからじゃない。

これから一緒に正体のわからない国を旅する仲間でしょう?

もしかしたら危険な目に遭うかもしれない。

それがただのギブアンドテイクの関係じゃ、ちょっと寂しいと思うの。

……じゃあ、また明日ね」

 

応答なし。彼女が落ち着くまでしばらくかかりそう。

今日のところは部屋に戻りましょう。廊下の角を曲がると、小さな人影が立っていた。

彼女が前を向いたまま言葉を紡ぐ。

 

「まだあの人にこだわってますの?」

 

「立ち聞きはよくないわ、パルフェム」

 

「あの人の声が大きすぎますの。

まったく、大の大人が物で釣ることでしか人と付き合えず、

里沙子さんが差し伸べた手を振り払って泣きべそなんて、

情けないにも程がありますわ」

 

「やめて。3日前に言ったじゃない。アヤもあなたと同じなの」

 

「里沙子さんもらしくないですわ。

煩わしい人間関係なんていらない、があなたの生き方だそうですけど、

彼女の友達になってあげるつもりですの?」

 

「……大事な、仲間よ」

 

ここまで来て友達って単語を出さない辺り、あたしも大概頑固よね。

実際どうしたいのかしらね、あたし。耳の骨伝導マイクに触れる。

確かにあたしは人嫌い。でも、このまま彼女との関係を中途半端で終わらせたくもない。

 

期限を決めましょう。サラマンダラス帝国に帰るまでに、

彼女と貸し借りなしの対等な関係を築く。

それができなきゃ、独り身で生きていくことなんってできっこない。

そのためには、まず目の前の問題を片付けなきゃ。

 

「用がないなら失礼するわ。魔法の微調整が残ってる」

 

「えーっ、パルフェムと遊んでくださらないの?」

 

「ごめんね。向こうに着くまでに完成させたいの」

 

「帰国したら、いっぱい構ってくださいね?

あんまり寂しいと、パルフェム、どんな行動に出るかわからなくってよ。うふふ……」

 

あたしが振り向いた瞬間、彼女も振り向いて去っていった。暗い船内。

振り向きざま、彼女の顔にぞっとさせるような笑みが浮かんでいたような気がした。

 

 

 

航海3日目。

起床して身支度をすると、冷たい潮風を浴びるために甲板に上がる。

正午には魔国に到着するらしい。今日も清々しいほどの快晴。

でも、心につっかえたものが取れない。気を紛らすために、一度伸びをして深呼吸。

 

10時には査察団のメンバーを集めて、皇帝陛下からのお言葉があるらしい。

……今のうちにやっときましょうかね。

あたしはM100を構えると、体内のマナから魔力を生成、手に集中して詠唱を始めた。

 

「眠れ疾風、我が手に声無き、仮初めの静寂を。サイレントボックス」

 

あたしの両手を透明な立方体が包み込む。よし、ここまではオーケー。

魔力の流れと集中を切らさないように、強装弾の魔法を詠唱。

銃身内の弾薬が通常より多く火薬の詰まった強装弾に変化。

昨日のように、何もない海面を撃つ。銃口で大きなマズルフラッシュが光り、

グリップから確かにいつもの強烈な振動が伝わってきたけど、一切音はしなかった。

 

うん、完成。後は慣れね。今は全然邪魔が入らない状況だからできたけど、

乱戦の状況で落ち着いて発動できるようにしないと。

2つ同時の魔法はキツいわ、やっぱ。

リロードしながら一旦船室に戻ろうとすると、例の箱を抱えたアヤに出会った。

ちょっと言葉に詰まって、とりあえず挨拶した。

 

「おはよう、アヤ」

 

「おはようである……」

 

顔を伏せながらも、一応返事はしてくれた。

 

「それ、皇帝陛下に持っていくの?陛下は艦首の艦長室よ」

 

「リサには関係ないのだ」

 

「あれだけ便利なベルトなら、きっと陛下も喜んでくださるわ」

 

「お世辞なんか要らないのだー!」

 

アヤは叫ぶと、あたしを押しのけて船長室へ走り出してしまった。

まだ、時間が掛かりそうね。

それから、水夫が運んでくれた朝食を食べて、改めて魔導書の復習をしていると、

カランカランと鐘の音が鳴った。お、始まるわね。

あたしは本を置いて、甲板へ上がった。

 

階段を上がると、既に査察団約20名が整列していて、

なんだか遅刻したような気になって、こっそり最後尾に着いた。

金時計を見ると、10時5分前。ギリ間に合ってる。あたしはなんにも悪くない。

心の中で言い訳してると、皇帝陛下が列の前に立ち、演説を始めた。

 

「諸君、おはよう。もう見えているだろうが、

あの天高くそびえる塔が神界塔、すなわち魔術立国MGDである。

出発前にも述べたが、今回の査察、魔国側に非があるとは言え、

我が国の代表として、礼節を忘れず行動してもらいたい。

また、現地住民の我々に対する感情は決して良好ではないが、

トラブルを起こすことのないように。速やかに神界塔の調査のみを行い、

MGDとの外交方針を決定する。そのために諸君の知識を発揮してもらいたい。以上!」

 

“はっ!”

 

ジークハイル!……心の中って何言っても怒られないから素敵。

皇帝陛下の言った通り、もう遥か前方に、

てっぺんが見えないほど高い、青白く輝く、宝石のような塔が見える。

MGDはブランストーム大陸ってとこの東端にあるらしいわ。帝国から北西に約3500km。

後少しね。あたしはもう甲板に戻らず、ひたすら消音魔法の練習を繰り返した。

 

 

 

そして、とうとう上陸の時。

そりゃあ確かに皇帝がそんな感じのことを言ってたけどさぁ……見てよこれ。

戦艦クイーン・オブ・ヴィクトリーが港に停泊すると、右側の桟橋に並んだ“歓迎客”。

大段幕を掲げて各自のスローガンを示してる。曰く、

 

“沙国の国際法違反に断罪を!”

“汚い手で神界塔に触れるな”

“殺人国家は島国に帰れ!”

 

他の連中も似たような内容を叫んでる。あはは、楽しい連中だわ。

おっと、今誰かが投げた小石が船体に当たったわ。先制攻撃上等。

あたしは近くの水兵さんに聞いてみる。

 

「ねえ、手が滑って右舷のカロネード砲が一斉発射される事例ってあるのかしら」

 

「やりてえもんだが、皇帝陛下の許可がないと一発も撃てねえんだな、これが」

 

涙がちょちょぎれるほど温かい歓迎を受けながら、

あたしたちは足場を下りて、とうとう魔術立国MGDに上陸した。

そこで待っていたのは、護衛を付けていない、

魔国総帥ヘールチェ・メル・シャープリンカー。

周りのヤジに構わず、皇帝陛下と握手をしている。

 

「久しいな、シャープリンカー総帥。

査察団受け入れという、賢明な選択に感謝している」

 

「申し訳ありません、皇帝陛下。

事の経緯については、あらゆるメディアで国民に伝えたのですが、

一部の者が情報を曲解しているようで……」

 

「構わぬ。

我々はただ神界塔の存在を確認し、必要であれば有能な査察団で対策を講じる」

 

「感謝致します。ただ、神界塔はあまりに広大です。長旅でお疲れでしょう。

今日は皆様には、こちらが用意したホテルでお休み頂き、

本格的な調査は明日からにしたいと思うのですが、どうでしょうか」

 

「心遣い痛み入る。早速案内をお願いしたい。……諸君、彼女に着いて行くのだ!」

 

全員ぞろぞろと皇帝についていく。

あちこちで舌打ちが聞こえるけど、それでも銃を抜かない点、みんな大人だと思う。

あたしはさっき船体に隠れて一発投げ返した。

姿は見えなかったけど、“ギャッ”って声が聞こえたからヒットしたと思われ。

ざまあ味噌漬け。

 

港を抜けると、見たこともない光景が広がっていた。

銀座のように、洒落たガラス張りの店が4方向の大通りに沿って並んでる。

なにより、空気が違う。やっぱり神界塔の効果があるのか、

息をする度澄み切ったマナが体内に広がる。環境はいいところね。

あたし達は、北東の方角に進んでいく。

 

しばらく歩くと、先導するヘールチェが足を止めた。なんだかおかしな所。

一見ただのおしゃれな5階建てホテルなんだけど、高層階の壁にドアが付いてるのよ。

転落事故必至じゃない。首をかしげながら見ていると、答えがわかった。

空を飛べる魔女が、鍵を開けて中に入っていた。

なるほど、客が空飛べることが前提なのね。

異国の文化を面白がっていると、皇帝が声を上げた。

 

「諸君、今日はここで休んでくれたまえ。我輩と総帥、ファウゼンベルガー将軍は、

この先の総領事館で打ち合わせがある。外出は自由であるが、明日に疲れを残さぬこと。

また、くどいようであるが、魔国民とのトラブルは避けるように。解散!」

 

全員がホテルに入ってチェックアウトを始める。

人数が人数だから、事前に任されていたらしいアクシス隊員が、

全員分の鍵を受け取ってみんなに配る。ちっとも楽しくなかった修学旅行思い出すわ。

順番待ちの間に内装を見回すと、ホールが吹き抜けになってて、

宿泊客の魔女が2階から5階へ直接飛んだりして自由に移動してる。

 

「斑目里沙子君、君の鍵だ」

 

「あ、はい!」

 

ホテルの不思議な景色に見とれてたら、鍵をもらい損ねるところだった。

ええと、あたしの部屋は201、と。階段を上がって自分の部屋に入る。

ちなみに、2階だけど階段を探すのに苦労して、

自室にたどり着くまで割と時間がかかった。必要最低限の階段しか作ってないみたい。

 

トランクを置くと、ベッドにゴロンと横になる。柔らかいベッドが気持ちいい。

うん、飽きた。天井見ててもしょうがないわ。

皇帝から許可が出てるし、ちょっと魔国を見物しましょう。

 

 

 

 

 

アヤの鍵は303なのだ。床にリュックサックを置いて荷解きを済ませると、

ふかふかのベッドに横になったのである。少し疲れたのだ。アヤは仮眠をとるぞー。

 

 

“ベティ殿、頼まれてたラジオの修理が終わったのだー!”

“ありがとう、アヤちゃん!あー、パパに怒られなくて済むわ”

“落下の衝撃でパーツが外れてただけであったのだ!

こういう軽微な原因で破損とみなされた物品は……”

“シルビアちゃん!一緒にMr.ラッキーのぐるぐるマンデー聴こうよー!”

“聴くー!屋上行こう!”

“……うん、屋外の電波状況が良いのは周知の事実であーる”

 

 

“軍曹殿、これ以上の軽量化は無理であーるよ……こんな手榴弾、

空き缶と変わらないのだ。石ころをぶつけただけで暴発するのは必定であーる”

“君の意見は聞いていない。ただ我々の注文通りの品を作っていればよい”

“アヤの話を聞いて欲しいのだー。無謀な改造は兵士の命を奪うのであーる……”

“黙れ。君の叔父上に迷惑が掛かってもいいのか”

“いえ……”

 

 

“この沢山のガラクタはなんであーるか?”

“金物屋のジャンクコーナーで見つけたの。

アースのお宝が交ざってるかもしれないっていうから、買い占めて来ちゃった。

お願い、直して!”

“えっ、これ全部であーるかな?”

“うん、お願い。私達、友達でしょ?役に立ちそうなものがあったら、ちょうだい!”

“友達……わかったであーるよ”

“じゃ、頼んだわよ。私、ピアノのレッスンがあるから”

“……バイバイ”

 

 

“お願い” “直して” “できるんでしょ?” “そのくらい” “友達だから”

 

 

──自分を後回しにすることはもうやめて。

 

 

ぷはっ!つい眠り込んで変な夢を見てしまったのだ。

……それもこれもリサが変な話をしたせいである。

気分を変えるには、外の空気を吸うのが効果的であると、

アヤは経験上熟知しているのだー!早速工具箱を持って街の外にGO、であーる!

新式魔術回路の素材が見つかるかもしれない確率72%!根拠などない!

 

……と、ホテルから飛び出したはいいけど、

都市開発が進んでいて、自然の素材なんかどこにもないのだ。

何か買おうにも、通貨が違うから魔道具屋や金物屋で、

異国の道具やパーツを買うことも不可。生殺しなのだー。

 

あと、街のみんなも様子が変なのだ。

確か時差を計算に入れても今日は平日であーるというのに、

昼間からレストランでワインを飲んだり、宝石の指輪やネックレスを自慢し合ったり、

お仕事をしている気配が皆無なのだ。

あくせく働いてるのは、作業着姿の配送業者や、窓拭きのおじさんばかりであーる。

 

ガシャン!

 

何かが割れる音がしたので、そっちを見ると、

3人組の魔女がレストランのオープンテラスで食事をしていたのだ。

小さい魔女、太っちょの魔女、痩せた魔女。みんなオバサンであーる。

 

小さい魔女の足元には、割れた皿と混ざってしまった美味しそうなクリームパスタ。

うむむ、いかにアヤの知識を以ってしても、あれを元通りに復元するのは不可能!

彼女が叫びだしたから耳を傾けるとしよう!

 

「ちょっとウェイター!シェフを呼んでらっしゃい!」

 

「はい、ただいま!」

 

しばらくすると、シェフが店から出てきたのだ。キンキン声がうるさいのであーる。

 

「お待たせしました!私が当店のシェフです!」

 

「なんなのこのパスタは!アルデンテになってないじゃないの!

この店は客に三流のゲテモノを食べさせる気!?」

 

「申し訳ございません!すぐに作り直しますので!」

 

「お待ち!その前に足元のゴミを片付けなさい!

私がテーブルからどけてやったんだから、後始末くらい自分でおやり!」

 

じゃあ、そのパスタは自分で捨てたという解釈でよいのであーるか?

もったいないことをするのだ。

 

「はい!今すぐ」

 

「ワインの味もイマイチだねぇ、この店。

まさかこれで金を取る気じゃないだろうねえ、ウェイター?」

 

今度は一番太ってるのが文句を付け始めたのだ。

遠回しにタダにしろと要求しているのは、アヤの目にも明らか。

 

「あの、それはちょっと……」

 

「ああん!このリガリドール家の三姉妹に喧嘩売ろうってのかい!?」

 

「いえ、滅相もありません!」

 

──間違いよ。

 

……えーい!なんでこんな時にリサの言葉が出てくるのだ!

アヤだって自分に正直に生きているのだ!

リサが居なくたって大丈夫なのは確定的に明らか!

 

「待つのだー!あなた達は料理の代金を支払い、

故意に破損した皿を弁償すべきで、あーる!」

 

店員と魔女の間に割って入ると、3人の魔女がアヤを睨んでくる。

しかし、既にアヤが間違っているという説を、

間違いだと証明する必然性が生じてしまっているのだー。

 

「なんだいこのおかしな娘は。……ああ、沙国のハエ共か」

 

「私らの舌がおかしいとでも言いたいのかい!」

 

「おかしいのは行動であーる。自分で落としたパスタの替えを要求したり、

既に飲んだワインの支払いを逃れようとしたり……っ!」

 

アヤはいきなり左の頬に痛みが走った現象に戸惑いを隠せない!

 

「小娘が生意気に説教してんじゃないよ!この国を支えてる私ら上級魔女に、

田舎から来た余所者が意見するなんて10年早いんだよ!」

 

「食べた分と壊した分は支払うべきである!」

 

「しつこいねえ!……ふん、こいつには少々しつけが必要だね。バインドロープ!」

 

なぬっ!痩せっぽちの魔女が放った魔力の縄で動けなくなったのだ!これは残念無念。

 

「そんなに食い物が大事ならさぁ、お前が食えばいいだろう!

……ほら、たんとお上がり」

 

一番ちっさい魔女が、地面にこぼれたパスタをフォークですくい上げて、

アヤの口に持ってくる。一度落ちたパスタを食することが衛生的に好ましくないことは、

科学的に証明されていることであって……

 

「助けてー!」

 

タイムリミットが迫っていることは時計がなくても判断できるのであった。

 

 

 

 

 

評価☆1つ。5段階評価でね。アマゾンで誰にも買われないクソゲーレベル。

街の中一通り歩いた結果、ろくなものが見つかりませんでした、おわり。

夏休みの絵日記風に締めくくると、あたしはスタート地点の中央広場に戻って、

ベンチで休みながら、今日見たものを整理していた。

 

まず、あたしが見た限りここ魔女は99%怠け者。それは構わない。

あたしだって、いつもは昼間から酒飲んで寝転んでるんだから。問題は怠け方。

 

一例として、農夫が世話してるじゃがいも畑の監督をしている魔女が、

ちょくちょく現場を離れて、近くの喫茶店でアイスコーヒーを飲んでるところを見た。

中抜けってやつよ。あたしは怠けるけど、不本意でも仕事を引き受けちゃったら、

報酬分の働きはする。給料泥棒しながらグータラ生活送れると思ったら大間違いよ。

 

2つ目。物が買えない。

何か異国の新兵器がないか、銃砲店のショーウィンドウを覗いて気づいた。通貨が違う。

サラマンダラスはG(ゴールド)。魔国はΩ(オーム)。

先端に四角錐状に削られた、純度の高い魔石を装着したライフルがあったんだけど、

絶対レーザーガン的な物だったと思う。お金があるのに買えない歯がゆさ。

 

3つ目。また魔女の話に戻るけど、みんな無駄に自尊心が高くて公共心が低い。

どんな甘やかされ方したのかしらないけど、

今日ここで銃乱射事件を起こさなかった自分を褒めてやりたい。

 

魔女がチョコレートを食べながら歩いてきて、すれ違いざまに食べ終わったら、

銀紙を丸めて捨てたの。

だから、それを拾って落としましたよ、とご丁寧に返却してやったら、

“あなた捨てておきなさい”ですってよ、奥さん。

だから時間を止めて、小さく押し固めた銀紙を、鼻の穴奥深くに捨ててあげた。

 

今、ホテルに戻ったほうがマシだと判断して、途中の広場で一旦休憩中。

ベンチに座って伸びをする。本当、ここの名物はマナしかないわね。

もう帰ろうかと思った時、レンガ造りの小さな建物から、呼びかけられた。

 

「ねーえ。あなた沙国のお客さん?くだらないもんしかなかったでしょう」

 

よく見るとそこは駐在所。デスクに座ってる婦警さんが、

タバコ吹かしながら気だるげな雰囲気を隠さず話しかけてきた。

歳は30くらいだけど、制服着てなかったら、場末のスナックのママに見える。

 

「ええ、帝国から来たの。今、暇つぶし中。

本当、少しでもヘクサーの気持ちが分かった自分が嫌になる」

 

すると婦警はカラカラと笑う。

 

「アハハ、少し?私は9割以上わかるつもりよ。毎日ろくでなしの世話してるとね」

 

「お巡りさんとしては問題発言じゃない?それに、あなたも魔女でしょう」

 

「構やしないわよ。首になったら旅にでも出るわ。

この国じゃ魔法があれば食うには困らないし。

そうだ。あなた、退屈だったら賞金稼ぎでもやってみたら?

そこに指名手配ポスターがある」

 

「あいにくここで揉め事は起こすなって厳命されてるの。

でも、せっかくだから顔だけでも拝ませてもらうわ」

 

あたしはポスターの貼られた看板に近づいて、帝国では見られない顔ぶれを眺める。

 

・魔女 ヘクサー(死亡 ご協力ありがとうございました) 200,000Ω

    魔女のみを狙う連続殺人鬼。危険度極めて高し。

 

・妖魔 ユキオンナ 50,000Ω

    美しい女性の姿をした悪霊。ブランストーム大陸山岳地帯に出現。

    遭難者を小屋に招き入れ、眠っている間に冷気を吹き付け凍死させる。

 

・魔獣 雷帝氷王 120,000Ω

    巨大なヒヒの怪物。その真っ白な巨体で猿のように飛び回り敵を翻弄。

    鋭い鉤爪で敵を引き裂き、周辺を焼き尽くす強力な稲妻を呼び寄せる。

 

・幽霊船 ジャックポット・エレジー 1,000,000Ω

     MGD領海をうろつく幽霊船。宝島を夢見て死んでいった船乗りたちの怨念が、

     魔国特有の濃縮マナでモンスター化。

     射程内に入ったあらゆる船を強力な砲で粉砕する。

 

なかなか愉快なメンツが揃ってるわね。雪女までこっちに来てるってことは、

雪山整備されてとうとう日本に居場所がなくなった?

いや、今でも軽装で突撃する間抜けがいるから、もうちょっと踏ん張れそうね。

 

ヘクサーについては、一瞬賞金貰えるかなって思ったけど、

あいにくとどめを刺したのは皇帝陛下であって、あたしじゃない!

……はぁ、もう帰ろう。婦警にさよならして広場を後にする。

 

「じゃあね。あなた、この国で出会った唯一まともな魔女だったわ。

縁があったらまた会いたいわね」

 

「そいつぁどうも。こんな不良警官が褒められるとは世も末ね」

 

彼女がまた一服すると、あたしはホテルに向かった。確かここから北東だったわね。

ん?どうしたのかしら。なだらかな坂を下ると、知り合いの姿が見えた。

 

 

 

 

 

「やーめーるーのーだー!!」

 

魔力の縄で動けないアヤの口に、

小さい魔女がホコリまみれのパスタを押し込もうとしている現状は、

実に嘆かわしく抜本的対策が求められているのは、紛れもない事実!

 

「ほら、ほら、もったいないんだろう?とっとと食いな!」

 

アヤはできたてのパスタが食べたいのであって、駄目になったパスタは、

遺憾ながら廃棄せざるを得ないという結論に達したのであーる!

平たく言えば、助けてー!

 

 

──うふふ、その続きやったら殺す~

 

 

みんなが振り向くと、驚くべきものが見えたのだ!

リサが小さい魔女の背後に突然現れ、彼女に銃を突きつけているのであったー!

 

 

 

 

 

坂を下るとすぐに、どうしようもなく我慢ならんものが見えた。

そいつを認識した瞬間、クロノスハックを発動。

ピースメーカーを抜きながら小さいババアに歩み寄り、背後から銃を突きつけた。

停止解除。

 

「うふふ、その続きやったら殺す~」

 

「リサ……?」

 

「な、なんだいお前は!」

 

「そんなことはどうでもいいの。状況を見る限り、あんたは、

このパスタを故意に破棄して、その娘に食べさせようとしている。オーケー?」

 

「だったらなんだい!茹で上がってない不味いパスタを捨てて、

口答えした小娘に食わせてやろうとしてんだ!邪魔するでないよ!

……それとも何だね、私らに手向かいしてこの国で生きて行けるとお思いかい!」

 

「へっ、ついでにワインの味も最悪だよ!」

 

百貫デブがワインをドボドボと足元に流す。あたしの頭に花火が上がる。

 

「……知恵遅れが分不相応に人間様の食べ物にがっつくとこうなるのよね。

このパスタはあえて固めに茹でることで、

厨房から客に届いて、わずかに間を置くと余熱でアルデンテになるの。

一番温かいタイミングで、最高の茹で加減を客に出す、

コックの意図がわからない物知らずに、手作りの料理を食べる資格はないわ。

ドッグフードでも食べてなさい」

 

「なんだって!?もういっぺん言ってみな!」

 

「アヤ、その工具箱に接着剤的な物はあるかしら。とびきり強力なやつ。

あったら貸してほしいんだけど」

 

「一番細いチューブが瞬間接着剤であーる……」

 

あたしは3人組を無視してアヤの工具箱を探り始めた。

……あったわ、これならちょうどいいかも。

 

「やい、小娘!そんな銃が脅しになると思ってるのか!

善良な市民を撃ち殺せば、首が飛ぶのはお前だよ!」

 

今度はガリガリババアが喚き散らす。ふぅん、この国はギロチン刑なのね。

 

「聞いてんのかい!人様の事情に首を突っ込むとどうなるか教えてやる!」

 

「知ってるわ。犬畜生以下の品性しか無いババアの頭の血管がぶち切れる」

 

「こいつめ!お前も泥のパスタを食うがいい!バインドロー……」

 

魔法が発動しかけると同時に時間停止。さて、お仕事を始めなきゃ。

まず百貫デブとガリガリババアを、瞬間接着剤でくっつける。

終わったら、小さいババアが持ってるフォークを取り上げて、

台無しになったパスタを口に入るだけ突っ込む。仕上げに接着剤でお口をチャック。

 

「……食い物粗末にするとそうなるのよ」

 

聞こえちゃいないけど、バカ共を振り返り一言残す。アヤを連れて帰らなきゃ。

あたしは彼女を抱きかかえると、ホテルに向かった。

そして入り口に彼女を立たせると、停止解除。

人一人抱えながら結構歩いたけど、実は今の時間停止は、金時計の竜頭を2回押して、

消費魔力と身体的負荷を肩代わりしてもらったの。

 

潤沢なマナにあふれてるなら、贅沢に使わせて貰いましょう。

ブルーの長針が示す時計内のマナが急速に回復していくのを見ていると、

遠くのレストランから声にならない悲鳴が聞こえてきた。

 

「「もがもが!ほがああ!!」」「うっ!うごごが!!」

 

今頃、ガリとデブが唇同士をくっつけられてディープキスの真っ最中で、

キノコは口にあふれる砂まみれのパスタを吐き出せず、飲み込むしか道がない。

さっさと食べないと、喉に詰めて窒息するかもしれないわよ。

そう考えたら、アロンアルファの接着力って、

もはや凶器の域に達してると思うがどうか。

 

「早く入りましょう。またバカに絡まれちゃたまんない」

 

ホテルの入口ドアを開けようとするけど、アヤが突っ立ったまま。

 

「どうしたの?」

 

「どうして……アヤを助けたであるか?アヤ、リサのこと、要らないって言った……」

 

「借りをまだ返してないからよ。

あなたがくれた骨伝導マイクのおかげで、あたしは耳の治療と仕事を同時にできる。

あなたがあたしを要らなくても、あたしにはあなたが必要」

 

トントンと右耳のマイクを指先で叩く。

 

「借り……?」

 

「ええ。もっとも、これで返しきれたとは思ってないけど。

……アヤ?あたしはね、あなたとは対等な関係でいたいの。

どっちかが我慢したり、一方に何かを与え続けたり。そんな関係、歪だと思わない?

あたしはそんなの嫌。アヤとは……なんて言えばいいのかしら。

そう、信用して互いの背中を預けられる、そんな仲間でいたい」

 

「じゃあ、アヤとリサは、友達?」

 

「ごめん、その言葉は個人的な事情で使いたくないの……

友達ってものには思うところがあって。でもアヤが大事な存在だってことは確か。

それだけは信じて欲しいの。……じゃあ、先に行くわね」

 

またドアノブに手を掛けたら、いきなり後ろから抱きつかれた。

そのまま何も言わないから戸惑ってると、小さく鼻をすする声が。

 

「……うええん!リサ、リサー!

アヤの発明に、うぐっ、気持ちで何かを返してくれたのは、リサだけであーるうぅ!」

 

「ちょっと、よしなさいって!たくさん人が通ってるでしょ?」

 

「リサの背中はあったかいであーる!ずっとこうするのだー!わああん!」

 

「もう、子供みたいに甘えん坊なんだから……」

 

もしかしたら、子供の時に子供らしく甘えさせてもらったことがないのかもしれない。

あたしはしばらく立ち止まって、アヤの気の済むまで背中を貸すことにした。

 

 

 

 

 

翌日。

査察団は、レンガで道路が舗装されている街から外れ、

あぜ道を進み、草原を超え、山道を歩き、

ようやく魔術立国MGD中央に位置する神界塔にたどり着いた。

固体マナっていうらしいけど、巨大なクリスタルが折り重なって、

頂上が見えないほど高い塔を形成してる。

 

思わず引き込まれそうなほどの美しさ。

これほど立派な塔が、あと50年でなくなるなんて想像が付かない。

倒壊するのか、溶け出して水のように流れるか、蒸発して宙に消えゆくのか。

意味のない予想をしていると、皇帝陛下がカシオピイアに指示を出した。

聖母の眼差しを取り出して、瞬時にお仕事モードに切り替わる。

 

「カシオピイア、外部から塔の分析を」

 

「了解!少々お待ち下さい。分析開始、……分析完了。

やはりこの塔自体がマナの塊となり、魔国に純度の高いマナを放ち続けています。

濃度は塔の上層階に進むに連れ上昇。最上階は……最大拡大率でも観測できません」

 

「そうか。それが分かれば十分だ。

医療班5名のうち3名はこの場で待機。負傷、撤退者の治療に当たれ。

アクシス5名は分析班10名の護衛及び戦闘を命ずる。

里沙子嬢は無理のない範囲で臨機応変に各班を援護、

アヤは分析班と共に塔内部の調査、

ファウゼンベルガー将軍はアクシスと共に戦闘に参加してほしい。

では、諸君。これより、神界塔調査を開始する!」

 

“はっ!”

 

そして、あたし達は、まるで人が来ることを想定していたかのような、

入り口らしき美しいアーチをくぐって行った。

 

 

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