番外編2:ピッツァが食べたい!!
……ゲホゲホッ!なんですのここは!どうして私がこんな汚い物置に!?
やだもう、服がホコリまみれですわ。どこに行けば良いのかしら。
どこかの家みたいですけれど、とりあえず住人を捕まえて話を聞き出しましょう。
住居に通じるドアがありますわ。
空気の悪い物置から廊下に出ると早速人を……いや待って。待つのよ私。
なんだか数ヶ月単位で記憶がすっぽり抜けてるような気がしますわ。
話を聞くにも何が知りたいのか自分でもわからなくてよ。
ええと、最後の記憶は、変な男に石にされて動けなくなって……
そうですわ!今はいつなのかしら。手がかりを探してダイニングに行こうとすると、
突然後ろからガッと肩を掴まれましたの。
「変身コードは913~カイザギアの復刻版が高くて買えなかった~♪」
あたしは今、私室でくつろぎながらピースメーカーの整備をしてる。
銃身内に溜まったススをブラシで落としてるの。ピーネは1階でジョゼットと戯れてる。
お馬鹿同士、息が合うのかしら。さて。あたしの予想だと奴がそろそろ厄介事を
“いや!離してー!”
“大人しくしろ!里沙子、空き巣だぞ!”
“離しなさいよ、馬鹿力!”
“ロープかなんか持ってこい!駐在所に突き出すぞ!”
……1階から悲鳴と怒号が飛んできた。行きゃいいんでしょ!
なんなのよもう。馬鹿な空き巣ね。もうちょっと金持ってそうな家狙えばいいのに。
とりあず、ピースメーカー片手に一階への階段を下りる。
そしたらまぁ、懐かしいもんがルーベルに腕を捻り上げられながら暴れてたのよ。
「あら、塩人形じゃない。いつの間に元に戻れたの?」
「あんたは……教会のシスターね!一体私に何をしたの!?あの男はどこ!」
「なんだ。里沙子、知り合いか?」
「ルーベルが来るずっと前の話だから、知らないのも無理はないわね。
こいつの名前は、えーと、塩人形。
去年のクリスマスにイエスさんに逆らって塩にされたの」
「まるで塩人形になる前から塩だったみたいな話だな。そこんとこもう少し詳しく」
「どーでもよくてよ、そんなこと!私は塩人形じゃない!
私はエビルクワィアー随一の悪霊使い・ベネット!
名乗りもやっぱりコピペじゃないの!」
「海老?なんだそりゃ」
「エビルクワィアーっていう魔女の悪党集団が存在してるって設定があるんだけど、
正直作者も今回こいつを出すと決める瞬間まで存在を忘れてたの。
魔王やらヘクサーやらいろいろ濃ゆいのが出たからね」
「ふざけないで!私が1人いれば並の魔女が100人いたって……」
あたしらがワイワイサタデーやってると、騒ぎを聞きつけた連中が集まってきた。
「里沙子さん、その娘はどなたですか~?」
「ぷぷっ。何、その汚い頭巾」
「……お昼寝してたら、目が覚めちゃった」
ジョゼットとピーネもようやく駆けつけ、カシオピイアが2階から降りてきて、
最後にエレオノーラも聖堂から姿を表した。
「気をつけてください、里沙子さん!彼女には闇属性の気配が……あれ?」
一瞬危険を感じた様子のエレオだったけど、すぐ困った顔をして警戒を解いた。
「あー、そう言えば、あんた変なガスでいろんな攻撃防げたんだっけ。
段々思い出してきた」
「私ほどの強敵の存在を忘れるなんて、とんだ能天気ですわね。まぁ、いいですわ。
とにかく、このホコリだらけの身体をどうにかしたいの。
シャワールームを借りますから、私がシャワーを浴びている間に、
服をきれいにしておきなさい」
「ちょっと待ちなさいよ!
あんたみたいなホコリの塊が風呂場使ったら、排水口が詰まるでしょうが!
まずは体中に積もったホコリを外で落としてらっしゃい」
「ふん、言ったはずよ。
私はエビルクワィアー随一の悪霊使い・ベネット。誰の指図も……」
「ルーベルGO」
「おk」
そういうわけで、全員の装備は完璧。大きめの三角巾でマスクをして、箒を持ってる。
ベネットはルーベルが力ずくで外に連れ出して、
都合よく一本だけ立ってた杭に縛り付けた。
「こらー、離しなさい!後悔しても知らないわよ!」
「みんな用意はいーい?哀れな浦島太郎にぶりぶりを開始します!はい、ぶーりぶり!」
「ぎゃっ!!」
バシンと音を立てて箒がヒット。ホコリが舞い上がる。
ぶりぶりって言うのは、足抜けしようとした遊女なんかに行われてた拷問で、
本来は猿ぐつわを噛ませて逆さ吊りにしてしばき回すってものだったの。
でも、それはあんまりにも残酷だからあたしなりにアレンジしたってわけよ。
参ったわね。最近あたしも、連載当初に比べて優しくなりすぎだの、
人付き合い良すぎだのって指摘されて、キャラ崩壊が懸念されてるの。とにかく再開。
「こんなもんか?ぶーりぶり!」
バシンともう一発。
「いだい!調子に乗るのもいい加減になさいよ!?私が本気になればいつだって!」
「そういや無効化ガスはどうしたのよ。そろそろ出してくれないと読者が不審に思う」
今度は竹で尻の辺りを叩いてやった。
「いったーい!!今に見てなさい!全てを否定する虚空の果てに……あれ」
ポスン。一瞬ホコリかガスかわからん気体が出ただけで、なんの変化もない。
「……隙あり」
カシオピイアに竹でコツンとやられても構わず、自らの異変にパニックに陥るベネット。
「どうして暗黒ガスが出ないのよ!あんた達、私に何をしたの!?」
ベネットは叫びまくる。
この状況を大げさに例えると、捕虜を虐待してるゲリラみたいね。
「あたしが知るわけないでしょ。次、エレオ。ピーネはこいつの頭巾のホコリを払って」
「むー!私もぶりぶりやりたい!」
「子供の頃から暴力の味を覚えるとろくな大人にならないわ。さあ、エレオ。遠慮なく」
「では……マリア様のお仕置きを受けなさい!ぶーりぶり、えい!」
「実年齢はともかく、こんなの児童虐待よ……
オレンジリボンにチクってやるから覚悟しときなさい!」
「みんな上手いわねー。初めてとは思えない。ほら、ぶーりぶり!」
「ほぎゃー!!黒飴ちゃん助けてー!」
んで、30分くらいかけて十分ホコリを落としたベネットの縄を解く。
地を這う彼女が、息も絶え絶えに訴える。
「うう……頭巾を、頭巾を返しなさい。魔女の装束は魔女の誇りで」
「言われなくても返すわよ、こんなの。ピーネにお礼言っときなさい。
あと、さっさと立たないと服に土が着いて、ぶりぶり延長戦に入るわよ」
「うっ」
ベネットは、どうせすぐ脱ぐのに紫色の頭巾を被り直すと、膝で立ち上がり、
あたしにすがりついて、叫ぶように要求を突きつける。
「さあ、約束通りホコリは落としたわよ!早くシャワーを浴びさせなさい!」
「はいはい。洗濯機とシャワールームを使う権利を与える。
着替えは確か脱衣所にピーネのパジャマの予備が置いてあったはず」
「えーっ!?私のお気に入りなのに!」
「また今度新しいの買ってあげるから、子供同士仲良くしなさい」
「失礼ね!私、これでも100歳を超えてますのよ!
一旦休憩しますけど、そこで大人しくしてなさい、わかったわね!?」
そしてベネットは家の中へ戻っていった。存分にぶりぶりを楽しんだあたし達も、
いい加減疲れたから、ぞろぞろとダイニングに戻る。
そうだ。ベネットについて説明しなきゃね。
ルーベル以降にこの家に来た住人は知らない。つまり大半は誰こいつ状態だから、
奴がシャワー浴びてる間にあいつが誰か話しとかないと。
「……とまぁ、去年のクリスマスにこんなことがあったのよ。
なんで元に戻れたのかは知らないけど。ジョゼットは知ってるでしょう?」
「はい!もちろん覚えてますよ~はい、みなさんお茶どうぞ。
最近お茶汲みくらいしか出番がない気がしますけど全然気にしてません!」
「ふーん、ただの汚いマネキンだと思ってたぜ。さっさと捨てりゃよかったのに」
「金がなくなったら、石臼で挽いて街で売ろうと思ってたのよ」
「お姉ちゃん汚い。2つの意味で汚い」
「お、カシオピイアもお姉ちゃん至上主義から卒業して嬉しいわ。もっと罵りなさい。
それが身となる糧となる」
「でもさー、なんでそれほど強力な魔女がさっきみたいな無様な格好してたのよ?」
「恐らく、イエス様に赦されたか、忘れられたか、
彼にとってどうでもいい存在に落ちぶれたかのいずれかでしょう」
“冗談じゃないわよー!!”
ちょうど身体を流して着替えたばかりのベネットが脱衣所から飛び出した。
話を聞いていたようで、バタバタとこっちに走ってくる。
「なんで私があんなロン毛野郎に、赦されたり、
どうでもいいとか言われたりしなきゃいけないのよ!」
「落ち着きなさいな。別に彼がそう言ったわけじゃないわ。
でも他に原因が考えられないのよ。
アースに実在する塩の柱は2000年経っても塩のままだってのに、
たった半年で復活出来ただけありがたいと思いなさい」
「頭ったま来た!あんた、名前を言いなさい!絶対解けない呪いを掛けてあげるわ!」
あ、そうだ。そろそろこいつに現実を教えてあげなきゃ。クロノスハック発動。
ベネットの後ろから身体に手を回して、能力解除。耳元でささやきはじめる。
──あたしの名は斑目里沙子。年齢24歳。
「えっ、何がっ、どうして……!?」
「自宅はハッピーマイルズ領西部の草原地帯にあり、結婚はしていない。
仕事は焼き鳥タレ派の持ち込んでくる厄介事の始末で、
毎日遅くとも夜8時に帰宅できないこともある」
「え、ええ……?」
「タバコは吸わない。酒は浴びるほど飲む。
深夜2時には床につき、必ず12時間は睡眠を取るようにしている。
寝る前によく冷えたエールを飲み、
20分ほどの銃の点検で指先を動かしてから床につくと、ほとんど朝まで熟睡よ。
赤ん坊のように疲労やストレスを残さないまま、
朝、目を覚ますことなんてできやしない。健康診断でも飲み過ぎだと言われたわ」
「な、何を話しているの、あんた!!」
ベネットがあたしの手を振りほどいて、距離を取る。
「あなたが既に過去の存在だということを説明しているのよ。
魔王の顔色をうかがう時代が終わったり、頭を抱えるようなトラブルとか、
夜も眠れないと言った敵が大勢いる、というのが今のサラマンダラス帝国の現実であり、
それがあたしの災厄だということを知っている。
……もっとも、戦ったとしてもあたしは誰にも負けんがね」
あたしはガンベルトの背中に差していた、
オートマチック拳銃らしきもののグリップを握る。
「う、ああ……!?」
「里沙子さん、何を!」
「つまりベネットちゃん!
あなたはあたしの睡眠を妨げるトラブルであり、敵というわけよ」
「こ、これがぁ!?」
「おい、里沙子!やめるんだ!」
「キラークイ……「いやー!」あら行っちゃったわ。
ここからがクライマックスだってのに」
ベネットが聖堂に駆け込み、一目散に屋外へ逃げていった。よかった。
まかり間違って、あいつが住人になったら、もう焼き鳥タレ派の頭脳では、
満遍なく出番を与えることなんてできない。
この家の住人ですら既に出番の偏りが出ているのに。
「里沙子!今のあれは何のつもりだよ!いきなり拳銃抜きやがって!」
「そうです!既に力無きものに暴力を……」
「あんたらにはこれが銃に見えるの?」
あたしは手にしていた物を見せた。安っぽい作りのアレ。
「あ、それって!?」
「100均で買ったピストル型のクラッカーよ。前の番外編でも使ったでしょ。
大体あたしがオートマ使うわけないじゃい」
引き金を引くとパン!と少量の火薬が弾け、色とりどりの細い紙が宙を舞い、
かすかに煙の臭いがただよう。
なぜか紙が集中的にエレオに降りかかり、
服が神聖なのかふざけてるのかわからない間抜けな感じになって、ちょっと笑えました。
「オートマ?“おお、トマトだやったー”、の略か?」
「あんたの想像力は時々ジョゼットを超えるわね。とりあえず不正解」
「あの、里沙子さん。それって褒めてるんですよね?わたくしの想像力が豊かだと……」
「ざっくり言うと、あたしの銃はリボルバー。
ルーベルの拳銃はオートマチック。オートマはその略ね。
オートマの特徴は、リロードの方式が、
弾丸の入ったマガジンってケースを差し込むだけで、
ハンマーを起こさなくても連射できる簡単操作。
代わりに弾詰まりや不具合が起こす可能性がリボルバーに比べて高い」
「お前の銃はどうなんだ?リボルバーってやつは」
「リボルバーの方はね、基本6発しか装填できないし、リロードも一発ずつの手作業。
そのかわり、構造上弾詰まりは起きないし、その他不具合が起きる可能性も低い。
つまり、実戦での信頼性が高いから、あたしはリボルバーにこだわってんの。
まぁ、最近の銃はオートマでもよっぽど乱暴に扱わないと不具合なんて起きないし、
この企画読んでくれてる人には今更知識なんだけど。
さて、時間稼ぎはこれくらいにしましょう。奴が帰ってくる」
「奴って、ベネットさんのことですか?
……彼女の服は、罪滅ぼしに里沙子さんが干してあげてくださいね」
「もうすぐ洗濯が終わるわ。やりゃいいんでしょ。……ほら来た」
“里沙子ー!出てきなさい!”
外からベネットの叫び声が聞こえてくる。
面倒だけど放っといて家に放火でもされちゃ敵わないわ。
うんざりした気持ちで席を立ち、玄関のドアを開けた。あら、誰か連れてきたみたい。
男の子かしら、と思う間もなく、ベネットが詰め寄ってきた。
「どうして魔王様が死んでるの!?手配書がどこにもないんだけど!」
「さっきも話したと思うんだけど。
あたしらっていうか、この国が総力を結集して、ちょっと死んでもらったのよ。
死骸は大切に使わせていただきました。
ついでにいうと、魔王より更に強大な存在がこの世界に降り立ったけど、
彼もとっくに天界に帰ったわ。要するにあんたは時代遅れなのよ」
「時代遅れですって!?あ、あと、どういうことよ!この家はどうなってんのよ!
児童虐待容疑で社会的に抹殺してやろうと駐在所に駆け込んだら、
“あの家だからしょうがない”って言われたわ!何がしょうがないの!?
柱に縛られて散々箒で叩かれることの一体何が!」
「あの保安官、なんにもしてないようで見るとこはちゃんと見てるのね。
こんなところに来たあんたに運がなかったってことよ。
っていうかクリスマスの時にも何しに来たんだっけ?」
「あ、あんたねぇ!私のペット、あの男、変なのが、ロン毛が……石に!んんん!!」
言いたいことが多すぎるせいで、半泣きになって地団駄踏むことしかできないベネット。
しょうがないから頭を撫でて落ち着かせる。
「おお、よしよし。涙を拭いてひとつずつ里沙子お姉さんに話してごらん?」
「泣いてませんし!……頭を触らないで」
あたしの手を振り払おうとするけど、手櫛で頭を梳いてあげてると、
段々手の力が弱まってくる。髪を触られると気持ちいいみたいね。
「んんっ…えっと、さっき街まで行ったんだけど、空を飛ぶこともできなかったし、
悪霊で、あんたを攻撃することも、できなくなってたのは、なんでかしら」
船を漕ぎながらベネットが自分の身に起きた異変について尋ねる。
エレオノーラがあたしに代わって答える。こいつが居眠りこく前に教えてあげてね。
「はい。ベネットさん、初めてあなたと会った時、
一瞬だけ闇属性の気配を感じたのですが、本当に一瞬で消えてしまいました。
きっと、イエス様の力で闇の魔力がかき消されたのでしょう」
「んあ?冗談じゃない。魔女から、魔法がなくなったら、ふああ…何が残るって」
「心配しなくていいわ。
あんたの新しい住処はちゃんと用意してあげるから、今はゆっくり寝てなさい」
「ん~、もっと丁寧にやんなさい……スピー」
「寝ちゃったわ」
「どうするんですか。やはりこの教会に?」
「まさか。ここがとっくに定員オーバーだってさっき言ったじゃない。
……いや、それもありかもしれない」
「既に満員なのに、どうするんだよ?」
あたしはベネットに膝枕しながら、
我関せず焉と言わんばかりに突っ立っていたジョゼットを見る。
「ねえ、ジョゼット。確かあんたは“遍歴の修道女”って設定だったわよね」
「えっ!?そうですけど、それが、何か……?」
「今ググったんだけど、
“遍歴”は「広く諸国をめぐり歩くこと」って意味らしいじゃない?
あんた初登場からずっとハッピーマイルズにいるし、
殺傷能力はなくても捕縛魔法も覚えて身を護る方法も手に入れたんだし、
そろそろ旅を再開してもいいんじゃないかなぁ~って、里沙子さんは思うわけであって」
「まさか、里沙子さん!わたくしを追い出してその子と新生活を始める気じゃ!?」
「クククッ、冗談よ。
飯炊き係兼雑用係がいなくなったら、あたしにしわ寄せが来るじゃない」
「もうっ、里沙子さんの馬鹿馬鹿!」
「あー、そこそこ。ガンベルトが食い込んで凝っちゃってさ」
ジョゼットがポカポカとあたしを叩く。ちっとも痛くないし肩が気持ちいいくらい。
で、あたしらが馬鹿ばっかりやってるせいで、一向に進展のない状況に、
ある人物がキレた。
「お前らいい加減にしろおおぉ!!」
キャスケット帽をかぶった、あまり上等とはいえない服装の少年が、
ぶりぶりに使った箒を持って襲いかかってきた。
「コピペをやめろって言ってんだぁ!」
少年が箒を振り下ろす。
あたしはとっさに膝にベネットを放り投げて竹の一撃を回避した。
彼女の額がパシィン!と痛そうな音を立てる。
「いったああい!!里沙子……私を盾にしましたわね!」
「よかった間に合って。斑目死すとも自由は死せず!」
「てめえは無傷だろうが!相変わらず他人をボロ雑巾のように使い捨てやがって!」
「そういう君は……マー君?」
紹介するわ。彼の名前はマーカス。
ハッピーマイルズ・セントラルでスリやってる少年よ。
第3話(プロフ含む)と番外編しか出番がない不幸なキャラ。
「変な名前で呼ぶな、斑目里沙子!今日はお前に言いたいことがある!」
「何よ。あと、どうしてベネットと一緒に来たの?君ら何か接点あったっけ?」
「あたた、せっかくいい気分で寝てましたのに……彼とはさっき街で出会いましたの。
駐在所から追い出された時、彼に声を掛けられまして、
里沙子達が私達のような、
出番に恵まれない弱者を弄んで楽しんでいる事実を聞かされましたの!
そこで私達は協力して、里沙子達から主役の座を奪い取ってやろうと、
立ち上がりましたのよ!ふん、人間にも親切な人がいるものですわね!」
「里沙子、お前言ったよな?前の番外編の時に!魔王が死んだらワンチャンあるって!
なんにもねえだろうが!お前はいいよ、なんか特殊能力身につけたり、海外進出したり!
俺はハッピーマイルズから一歩も出たことないってのに!」
二人が一斉に叫ぶもんだから、頭の中がごちゃごちゃする。
「お願いだから一人ずつ喋って。まずベネット。
各キャラの出番を決めてるのはあたし達じゃなくて作者なの。
あたし達にはどうしようもない。それは理解して。
次にマー君。確かにワンチャンあるとは言ったけど、必ず出番が来るとは言ってないわ。
あたし達にも誰かの出番を保証することはできないの。理由はベネットと同じ。
奴の脳内でボウフラのように浮かぶアイデアの断片が、たまたま1話分固まるまで、
誰がどんなストーリーを構成するか、出来上がるまでわからないのよ」
「納得できるか、そんなもん!」
「納得しようがしまいが、奴の貧しい発想力が全てを左右してる以上、
こんなクソ田舎じゃ、なんの事件も起こりようがないの」
「嘘つけ!変なヒーローと一緒にバケモンみたいなのと戦ってたじゃねえか!」
「あの中に飛び込んでたら、あんた間違いなく細切れになってたわよ。
あたしだって太ももパックリ斬られて泣きそうになったんだから。
言い換えると、あんたが手に負える事件で、
なおかつ面白みのある事件は起こりえないってこと。わかったらさっさと帰った帰った」
「ちくしょう!
貴族からスリまくって貧乏人にばらまく義賊みたいなのがあるだろうが!」
「そういうのも考えたらしいけど、
1000字くらいでアイデアがガス欠起こすだろうと思ったから、止めたんですって」
「もういい、こんな企画大嫌いだ!俺は帰る!」
「野盗に気をつけるのよ~」
そう言えば行きは野盗に会わなかったのかしらね。
番外編だからエンカウント率ゼロ設定にしてるんじゃないかと思うけど。
「やっぱり人間は頼りになりませんわ!
単刀直入に言います。斑目里沙子、主役の座を私に譲りなさい」
「譲ってもいいけどさ、あんただけでどうやってストーリー盛り上げていくのよ」
「当然!私を頂点とした世界最大規模のエビルクワィアーを結成して、
この国を蹂躙し、支配するサクセスストーリーを展開しますの!」
「そうなると当然、人間その他の生き物と戦争になるわけだけど、
奴は当分バトルものはこりごりだって言ってたわよ。
どんなに工夫しても単調になるから、しばらくやらないって」
「……なんですって!底辺レベルとは言え、それでも物書きですの!?
それじゃあ、ただの現実逃避!上手くなるはずなんてありませんわ!」
「許してやってよ。
奴の持病のリハビリも兼ねてるんだから、あんまり多くを期待しないであげて?」
「ほんっとう!人間は頼りにならなくってよ!馬鹿げたやりとりで少し疲れましたわ。
少し昼寝をします。しばらくさよなら!」
話し終えるとベネットは、さも自分の家であるかのように教会に入っていった。
それを見計らって、あたしはスマホを取り出し、電話番号を入力する。
「あれ~それってこの世界じゃ使えないんじゃなかったですか~?」
「アヤが中古スマホの通話機能を分析して、軍事基地に電波塔を立てたの。
おかげでハッピーマイルズ領内なら通話できるようになったわ。
ついでに主要機関に修理したスマホを配ったから、今そのひとつに電話中」
「便利な世の中になりましたね~」
「いずれ帝都までつながることを祈ってるわ。……あ、しもしも~?」
あたしは通話先と打ち合わせをして、電話を切った。
後はとりあえずやることがないから、ベネットの洗濯物を干すことにした。
今日は天気がいいから、彼女が目を覚ます頃には乾いてるでしょう。
う~ん、よく寝ましたわ。まったく、あの女と関わるとろくな事がなくってよ。
……あら、洗濯済みの私の服が畳んでテーブルに置いてありますわね。
少しは気が利くじゃありませんの。さっそく着替えて外に出ましょう。
聖堂のドアを開けると、里沙子と住人達の他に、見知らぬ顔と馬車が。
「あ、ちょうど起きたみたいですね。よろしくおねがいします」
「あ~ら可愛いお嬢さん。私共が愛情込めて育てますのでご心配なく!」
「本当にありがとうございます。行き倒れていたあの娘を助けたのは良いのですが、
とてもわたくし達では手に負えなくて……
あの、これはほんのお礼というか、寄付金でして」
「まあ……お心遣いに感謝致します、オッホホ!」
里沙子がなんかの袋を、化粧のキツいオバサンに手渡しましたわ。なにかしら。
あら、里沙子が呼んでる。ちょうどいいタイミングですわ。
まだまだ言い足りないことが残ってますの。
「ねえ、里沙子!さっきの「ベネットちゃんごめんね!こうするしかなかったの!」」
は?いきなり里沙子が抱きついてきて、意味のわからないことを言ってるのですけれど。
「じゃあ、寂しいけど、そろそろお別れしなきゃ。
あなたと過ごした3年間は一生忘れない!」
「何を言ってるのかさっぱりですわ!わかりやすく説明を……」
「では、先生。この娘を、どうか幸せに!」
「もちろん、責任を持ってこの娘を育て上げて見せます。オホホ」
「待ちなさいよ!勝手に話を進めないで!」
訳がわかりませんけど、
ここにいたらまずいことになるという予感だけは、はっきりしていますわ!
「ベネットちゃん、もう馬車に乗らなきゃ。
……あ、先生。この娘は虚言癖と脱走癖が強いので、その辺りの対策もお願いします」
「ええ、大丈夫ですとも。当施設には“そういう子”のための部屋もありますから!」
「さあ、馬車に乗って。向こうではきっとお友達がたくさんできるわ。
あたし達のことも、忘れないでね……」
「いやよ!私をどこに連れて行く気!?」
「とっても楽しいところザマスよ。ベネットちゃんもきっと気に入るザマス。ホホホ」
「胡散臭さ爆発じゃありませんの!絶対行きませんわ!」
「ああ……また発作が起きてしまったわ。
先生、やむを得ませんので、強引にでも連れて行ってください」
「心配ご無用。ほら、皆さん。彼女を」
なんか、白衣を着た屈強な男達が馬車から降りてきて、私に近づいてくる……
いや、離して!
ベネットが馬車に放り込まれる。あーこれで厄介事が片付いたわ。
児童養護施設にぶち込めば、もう面倒は起こせないでしょう。
悲しそうな顔を作って、責任者に挨拶する。
「では……ベネットのことを、どうぞよろしく」
「安心なさって。あなたのせいではありません。
ビリジアンリボン財団にお任せ頂ければ、
彼女の人生はきっと明るいものになります、オホホ。それでは、私共はこれで」
「はい、お気をつけて……」
あたしは去っていく馬車に手を振って見送る。馬車の後ろ座席では、
必死にリアガラスを叩いて助けを求めるベネットが、職員に抑えつけられてる。
さて、これで一件落着ね。
「マジでやっちまったが、これでいいのか……?
あいつ、いつになったら出られるんだ?」
「さあ。1年かもしれないし10年かもしれない。
あるいは、領主から定期的に子供1人当たり一定額の助成金が出るから、
例え向こうが異変に気づいても、永久に飼い殺しかも」
「お前ガチでやることエゲツないな……」
「なーに言ってんの。今のご時世、3食付きで寝床まで用意してもらえる所なんて、
他には刑務所くらいしかないわ。むしろ死亡キャラの救済措置よ」
みんなはどう思う?そう、ディスプレイの前のあなたよ。
前回の番外編は大勢のモブキャラの救済企画でなんだかごちゃごちゃしたから、
今回はベネットいじめにフォーカスしてみたの。
死んだはずのキャラが生き返らせてもらえて、しかも安住の地まで手に入れる。
彼女が望んだものとは少し形は違うけど、
これ以上のサクセスストーリーはないと思うがどうか。
最後にあなた達に連絡事項。タイトルに特に意味はないわ。