面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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うちのエアコン、センサーが馬鹿で何度に設定してもフルパワーで冷やし続けるから、寒いのなんの。

はい、前回のあらすじー

ガブリエル来た、パルフェムも来た、子供部屋作った、病院行った←今ここ

 

前回ちょっと落ち込み気味で終わっちゃったけど、

今から家具屋行くからちょっとだけ気分が明るい方向に上昇したの。

地球にいた頃、ニトリやイケアに行くと意味もなく楽しい気持ちになったものよ。

でも、イケアのトイレ集中配備には参ったわ。

だだっ広い店の真ん中で行きたくなったら怖いじゃない。

 

そんなことはさておいて、あたしはルーベルとパルフェムを連れて、

街の南北をつなぐ中央通りを西に進んで、古風な建物が並ぶ一角にある店に入ったの。

ガラス張り大きな店舗と、ノコギリや金槌の音が響く工房が隣接する家具店。

まずは縦長の金属製ドアノブを押して、店舗の方に入る。

 

「わあ~」

 

「まあ素敵」

 

「懐かしい匂いがするぜ」

 

パルフェムが小さく歓声を上げて子供らしさを見せる。

あたしやルーベルも思わず目を奪われるくらい店は広く、

いろんな種類の家具が並んでいて、木のいい香りが漂ってくる。

あたし達がキョロキョロしていると、スーツを着た女性店員が声を掛けてきた。

 

「いらっしゃいませ。本日は何かお探しでしょうか」

 

「ええ。シングルベッドと、衣装棚を2つずつ。

あと、子供部屋の広さにちょうど手頃なテーブルも欲しいの」

 

「かしこまりました。まず、ベッドコーナーへご案内します」

 

上品な所作の店員が、あたし達を広い店の1コーナーへ連れて行く。

そこには各種サイズ、高級なものから安価なものまで、様々なベッドが展示されていた。

店員が笑顔で商品を紹介する。

 

「シングルはこちらになります。どうぞゆっくりご覧になってください」

 

「ほら、欲しいの選びなさい。耐久消費財は丈夫なのにした方がいいわよ、パルフェム」

 

「わーい!ありがとう、里沙子お姉さま!」

 

パルフェムは嬉しそうに自分のベッドを選ぶ。

けど、元総理が選ぶベッドが何なのかちょっと不安になってきた。

あんまり高級品ばかり選ばれても予算ってもんがねぇ。

肩に食い込むトートバッグの重さを確かめる。でも意外にも彼女が選んだのは。

 

「お姉さま、これが良いですわ!」

 

「シンプルね。それでいいの?」

 

特にヘッドボードに模様が彫り込まれているわけでもない、

なんの変哲もないただのベッド。

サイドレールが引き出しになってて収納に便利だけど、それだけ。

 

「あの部屋にはこれくらい簡素なものが溶け込みますの。

これから長く住む空間ですもの。派手なものが1つだけポツンと普通の部屋にあると、

アンバランスで落ち着きませんわ」

 

「そのセンス、ナイスだわ。ツイッターなら、いいね押しちゃう。

初めて3日で飽きたけど。

来られなかったピーネに選ばせるのも無理だから、同じものにしましょう。

……店員さん、まずはこれを2つ」

 

「ありがとうございます」

 

店員さんはメモに商品番号と個数を書き留めると、次のコーナーへあたし達を案内。

 

「お決まりのようでしたら、衣装棚のコーナーをご覧頂けますが、いかが致しましょう」

 

「お願いするわ」

 

あたし達はまた、ぞろぞろと店員さんに付いていき、店内の角あたりの、

素材や大きさのバリエーションの多い衣装棚が並ぶコーナーに案内された。

 

「こちらです。ご入用の物があれば、なんなりと」

 

「ありがとう。パルフェム、欲しいの選んで」

 

「はーい!」

 

パルフェムがゆっくり歩きながら、ひとつひとつ商品を吟味する。

買うわけじゃないけど、あたしも衣装棚を眺めながら暇をつぶす。本当色々あるわね。

ブラウンからほとんど黒の素材まで。あらまあ、桐の箪笥まであるわ。

この国にもタグチさんみたいな日本人の末裔がいるのかしら。

 

「里沙子お姉さま、これにしますわ」

 

「んー、どれどれ」

 

今度は部屋の隅にピッタリ収まるハイチェストの衣装棚。濃いめの茶色の木材を使った、

やっぱり平凡な商品。なんか変に思ったあたしは尋ねてみる

 

「……パルフェム。あなたまさか遠慮してるんじゃないでしょうね。

着物をしまうなら、こっちの桐箪笥の方が向いてると思うんだけど」

 

でも得意げに答える彼女の回答は、あたしの予想と違ってた。

 

「ふふん。確かに桐と着物の相性はよろしいですけど、

部屋の湿気に気をつけて、こまめな虫干しをすれば、

普通の衣装棚でも十分保管は可能ですの。それを選んだ理由はさっきと同じですわ。

洋室に一番マッチするものを選びましたの」

 

「激しい喜びはいらない……そのかわり深い絶望もない……見事な審美眼よ。

流石に世間の荒波に揉まれた娘は、本当の美しさを知ってるのね。

店員さん、これも2つ!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

また店員さんが商品番号をメモする。次で最後ね。店員さんに通されたところは、

机やナイトチェスト、ダイニングテーブルまで揃うコーナー。

 

「パルフェム、選び放題よ。ラストだから一番いいの選びなさい」

 

「では失礼して」

 

パルフェムが様々な形や用途のテーブルの間をすり抜けながら、

めぼしい商品を選び始める。

その間、ルーベルが何気なく木のテーブルのひとつに指を滑らせ、独り言を口にする。

 

「ログヒルズでも、こんなの作って街で売ってたっけ。

……海に出る前に、一度故郷に帰ってみるもの悪くないかもな」

 

「そうね。心に何かつかえてるなら、今の故郷を見て、

気持ちに整理を付けるのもいいわ」

 

「うえっ!?なんだ里沙子か、脅かすなよ……」

 

「あんたがブツブツ言ってたんじゃない」

 

無意識のうちに口に出してたみたい。そう言えば、彼女の家は今どうなってるのかしら。

既に買われて誰かが住んでいるのかもしれない。あたしの考えではそれはそれで救いね。

悲劇の舞台が、誰かの家庭を守る温かい住処になっているなら。

まぁ、あたしがどうこう言うことじゃないけど。

 

「お姉さま~これを買って欲しいですわー」

 

「ほいほい。今度は何にしたの?」

 

「これ!」

 

パルフェムが指差したのは、チーク材のラウンドテーブル。理由はもう聞かない。

これであの部屋に適度なスペースを残して、家具を並べることができる。

 

「店員さん、これをひとつください」

 

「承知しました。ベッド2点、衣装棚2点、テーブル1点でよろしゅうございますか?」

 

「ええ、精算をお願い」

 

「どうぞこちらへ」

 

あたし達がカウンターに着くと、店員さんがレジを打って、代金を計算。

合計金額を領収書に書いて、あたし達に差し出した。

 

「合計、こちらの金額になります」

 

70000Gね。

後ろでパルフェムが他の商品を眺めているうちに、デカい財布から金貨を取り出す。

同時にルーベルもバッグから半額分の金貨を直接つかみ取りして、

大雑把に計算を始めた。ちょっ、財布くらい買いなさいな……

そういや、この退屈な代金支払いシーンも久々ね。

初期の頃は買い物する度、律儀に毎回書いてたけど、誰も喜ばないことに気づいて

 

「お客様?」

 

「おーい、里沙子。立ったまま寝るな」

 

「あ、ごめんなさい。考え事してて」

 

「しっかりしろよ。店員さん困ってるぞ」

 

「代金の方、確かに頂戴いたしました。領収書をどうぞ。お届けはどちらに?」

 

「ハッピーマイルズ教会にお願いします」

 

「完成からお届けには一週間ほど頂く事になってしまいますが、よろしいでしょうか」

 

「ええ、なるべく急いでくださると嬉しいですけど……」

 

「申し訳ございません。なにぶん、職人の数が限られておりまして。

やはり最短で一週間となってしまいます」

 

「あ、いいんです、いいんです、今すぐ必要というわけでもありませんから」

 

「どっちだよ」

 

「恐縮です。では、本日はお買い上げありがとうございました」

 

店員さんがすらりと背筋を伸ばして頭を下げる。これでミッションコンプリートね。

あたしは食器棚の戸を開けて中を覗いていたパルフェムを呼ぶ。

 

「パルフェムー、帰るわよ」

 

「はい。里沙子お姉さま」

 

あたし達は店を出ると、他に用事もないから家路についた。

中央通りをてれてれと歩きながら、雑談を交わす。

 

「あー疲れた。もうやることは全部やったし、家で昼寝しようかしらね。

昼寝くらいは大目に見なさいよね、ルーベル」

 

「ああ。お前にしちゃ今日はよく働いたよ。よく休め。酒は駄目だけどな」

 

「一番妥協して欲しい点を許してもらえない嘆きを誰が解ってくれようか」

 

「ふふっ、お姉さま。今日はパルフェムのためにいろいろ買ってくれて、

ありがとうございます。帝国の貨幣は持ち合わせがなくて。

後日、国際銀行で両替しますけど」

 

「あたしはいいから、ルーベルにお礼言っといて。家具代半分出してくれたから」

 

「まぁ!あまりお話ししたことはありませんでしたが、優しい方でしたのね。

感謝致しますわ!これからルーベルお姉さまと呼んでもよろしくて?」

 

「里沙子!そういう事は言うんじゃねえよ、馬鹿。

お姉さまも却下だ。背中がムズムズする」

 

「照れなくてもよろしいのに~」

 

「うっせ!照れてねえ!」

 

「フヒヒ。ルーベルお姉さま、里沙子に冷えたエールおごってぇ~ん」

 

「ぶっ飛ばすぞ!」

 

そんな感じで馬鹿やりながら街から出て、街道を逆戻りして、

教会に帰り着いたあたし達。もーいいでしょう。宣言通り昼寝するとしましょうかね。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい、里沙子さん」

 

「必要なものは買えましたか?」

 

「バッチリ。一週間後には3人共ベッドで眠ることができるようになるわ」

 

「ちゃんと私にふさわしい天蓋付きゴールデンベッドを注文したんでしょうね?」

 

「ピーネに調和って言葉はまだ難しいみたいね。

パルフェムがいいもの見繕ってくれたから安心しなさい」

 

「パルフェムが?大丈夫かしら。私も街に行けたら最高の物を選んだのに!」

 

「あーはいはい。どっちにしろ注文したからもう手遅れよ。……あれ、パルフェムは?」

 

「例の空き部屋に行ったぜ」

 

「どうしたのかしら」

 

あたしとルーベルが子供部屋に行くと、パルフェムが何もない部屋の真ん中に立って、

両腕を広げて全体を見回していた。

 

「楽しみですわ~。一週間後には、ここがパルフェム達の部屋になりますのね」

 

「そうよ。あなたの新しい家。変なやつばっかり来るから覚悟しときなさい」

 

「ええ。そして、いつでも里沙子お姉さまがいるお家……」

 

パルフェムがそっと近づいて、あたしの脚に抱きついてきた。

 

「ありがとう。お姉さまがいなかったら、パルフェムはきっと、

今もひとりぼっちで皇国の屋敷でじっとしているしかありませんでしたわ」

 

「……ご両親は?」

 

彼女はあたしのスカートに押し付けた顔を横に振る。

 

「母はパルフェムを産んだ時に力尽き、父は後を追うように食道がんで……

生きていくために、両親の遺産で生活しながら必死に勉強して、大学に入って、

政治の世界に飛び込みましたの。今はこの様ですけど」

 

「長めの夏休みに入ったと思いなさい。

あなたはずっと頑張ってきたんだから、このボロ屋でいいなら、

何も考えずあたしのようにグータラ生活送ったってバチは当たらないわ」

 

「里沙子お姉さま……パルフェム、幸せです」

 

スカートの布越しに温かい何かが染み込んでくる。……ごめんね、パルフェム。

この企画はこういう感動的なシーンをぶち壊すのが大好きなの。恨むなら奴よ。ほら。

 

 

──うわああん!いい話だわぁ!

 

 

突然どこからともなく、謎の声が部屋に響く。

パルフェムを抱き寄せ視線を走らせるけど、誰もいない。と、思ったら!

壁がマシュマロになったかのように、柔らかい人型になって、やがて女性の姿となって、

みょんと抜け出してきた。その正体は。

 

「きゃあっ!」

 

「ガブリエル!あなた帰ったんじゃなかったの!?」

 

なぜかボロ泣きのガブリエルがハンカチで涙を拭きながら答える。

 

「うう……違いますよう。メタトロン様に事の結末をご報告しなければなりませんから。

私の告知通り、傷ついた少女が現れてからは、

里沙子さんの判断への干渉をできるだけ小さくするため、

壁や道路と融合して皆さん方を見守っていたのです」

 

「ごめん、それ気持ち悪い。事情はわかるけどさ、

もっと人間の精神が受け止めきれるような現れ方をしてくれないかしら!?

ターミネーターやニャルラトホテプじゃあるまいし!」

 

「今日の一部始終を見て、私感動しました!

少女を我が家に受け入れるため、皆が一丸となって彼女の居場所を用意し、

里沙子さんとルーベルさんは私財を投げ売って彼女の寝床を……

今の殺伐とした世にも、こんないい話があったんですねぇ!ズビビビ!」

 

今度はハンカチでおもっくそ鼻をかむ。どうしてくれよう。

人間体で神様や天使らしいカリスマ性があったのって、

イエスさんとメタトロンくらいしかいない気が。

 

「たった2話とは言え、キャラも崩壊気味よ。

とにかく、メタトロンに会う時はお化粧直してからにしなさいね」

 

「はひ……さっそくメタトロン様に事の仔細をご報告申し上げないと!

それでは皆さん、今日は突然押しかけて申し訳ありませんでした。

皆様に主のご加護がありますよう、お祈りしています」

 

「えっ、もうお帰りになるんですか?せめて今日いっぱいは……!」

 

ジョゼットとエレオノーラが部屋に飛び込んでくる。

 

「ご無礼を承知でお願いします!もう少しだけあなたのお姿を!」

 

でも、ガブリエルが軽く両手を広げると、

彼女の背に部屋の幅一杯に広がるほどの純白の翼が現れて、彼女が別れを告げる。

 

「ごめんなさい。私もあなた達と今しばらく一緒にいたかったのですけれど、

使命を果たせばすぐに戻らなければならない決まりなのです。

大丈夫、あなた達が清い心を忘れない限り、私は空から見守っています」

 

「はい……わたくし、もう迷いません!」

 

「……取り乱したりして申し訳ありません。

わたしも、お祖父様の後を継ぐに相応しい聖職者になるよう、努力を続けます!」

 

「頼りになる方ばかりなのですね、この教会は。

では、名残惜しいですが、どうかお元気で……」

 

ガブリエルの頭上から金色の光が降り注ぎ、彼女を照らし出す。

あの日、天界で見た眩い光。徐々に彼女の身体が光と同化し、消えていく。

そして、光が止むとガブリエルの姿は消え、彼女は天に帰っていった。

静寂だけがその場に残る。

 

「行っちゃった、か」

 

「わたくし!なんだかファイトが湧いてきました!

頑張って聖光消滅魔法を習得します!」

 

「わたしもです。ガブリエル様のお言葉を裏切らないよう、努力を重ねましょう」

 

「あんたら本当ミーハーね。

1円も儲かってないのに、なんでそんなに元気になれるのかしら」

 

「ぶー!里沙子さんにはわかりませーん!」

 

「だからあたしは仏教徒だっての。さあ、昼寝昼寝。

朝から動き回ったからもう眠くなってきたわ」

 

あたし達は1週間後まで用がない子供部屋から出て、ダイニングに戻った。

みんなそれぞれの暇つぶしを始め、

あたしは久しぶりに柔らかいベッドで寝ようと2階に……

 

 

ドンドンドンドン!里沙子ちゃん開けてー!

 

 

ねえ、信じられる?1日で2回よ、2回。変な奴専用ドアが2回もあたしを呼んでるの。

……もういいわよ、これで終わるにはちょっと短めだし。

あたしは何もかも諦めて聖堂に向かう。

外の奴がうるさくドアを叩き、なおもあたしを呼ぶ。

 

“里沙子ちゃーん、私よ私!入れてー!”

 

「あいにくオレオレ詐欺に引っかかるほど年じゃないの。誰?」

 

声で正体はわかってるけど、一応名前を言わせる。

 

“あなたが大好きな女神様、マーブルよ!”

 

「ごめん、今日マヂで疲労困憊だから今度にして」

 

“そんな事言わないで~。お土産もあるから!”

 

お土産?ガブリエルはひまわりのブーケをくれたわね。

こいつは何を持ってきたのか、確かめてみましょう。

今度は身体をドアの横側に寄せて、ドアノブに手を伸ばして一気に開いた。

ドアにすがりついて叩き続けていた人物が、倒れ込んで床に叩きつけられる。

 

「ぎゃっ!いったーい!里沙子ちゃんてばひどい!」

 

「酷いのはそっちでしょうが。人が昼寝しようと思ってた時に」

 

「はっ!こんなことしてる場合じゃないわ!

ガブリエル様ー!どちらにいらっしゃるんですかー!」

 

全く何なのよ、どいつもこいつもガブリエル様って。

まあ、シスターコンビ含めて3人だけど。

勝手に人ん家にあがりこむマーブルを追いかける。

ダイニングに戻ると……こいつぁひでえや。

 

「ああ~ガブリエル様の全てを包み込む優しい温もりが……くんかくんか」

 

ガブリエルが座ってた椅子に抱きついて匂いを嗅ぎ回ってる。

ファッションオタクで変態とかガチで終わってるわね。

 

「子供も見てるから、そのような変態的行為はご遠慮願いたい」

 

「ごめんなさいやめておねがい」

 

あたしが拳を振り上げると、マーブルが慌てて立ち上がって頭を守る。

いきなり侵入してきた変人にパルフェム達が怪しげな目で見てる。

 

「里沙子お姉さま、そちらの方は……?」

 

「誰よ。こいつも敵っぽいけど、弱そうだから別にいいけど」

 

「帝都に住んでるヘッポコ神様。

過去話読んで知ってるやつ知らないやつ確認するの面倒だから、一応全員に自己紹介」

 

「やっぱりひどい!皆さん、私は芸術の女神マーブルですよ~

この教会の壁画を書いたのも私なんです。えっへん」

 

「えっへんはいいけど、わざわざ帝都から何しに来たのよ。髪ボサボサじゃない」

 

「あっ、そうでした!ガブリエル様、ガブリエル様に会わせてください!

今、あの方はどちらに?」

 

あたしはコホンと咳払いをひとつ。

 

「お土産があるんじゃなかったの?ガブリエルはひまわりの花束をくれたんだけどな~」

 

「あああ、あるある!ほら、これ!」

 

スカートのポケットから1枚のカードを抜き取り、差し出してきた。

何も描かれてない白紙のカード。あら、これって。

 

「もしかして、もう一枚作れたの?なんでも作れる魔法のカード」

 

「そうなのよー!しかも今度は1週間効果が続くの!」

 

「へえ……あんたにそんなに信仰が集まってるなんて意外だわ。素直に驚いた」

 

「実はね。実はね。美術大学の非常勤講師として招かれたの!

そしたら信仰がうなぎ登りで!生徒達が私を先生、先生って。

えへっ、私先生になっちゃった~」

 

頭をかきながらペロリと舌を出す表情が果てしなくウザい。

魔王編読んでない人、忘れた人に説明すると、

以前マーブルから描いたものを1時間だけ実体化できるカードをもらって、

それで最強の助っ人を呼び出したのよ。

今回それが1週間に効果が伸びてパワーアップした、らしいわ。

 

「ふーん。しばらくバトルはないから使うのは当分先になるでしょうけど、

とにかくありがとう」

 

「で、で、ガブリエル様はどちらに?」

 

「ついさっき天界に帰ったわ。

もうちょっと早かったら会えてたんだけど、残念だったわね」

 

「ガーン!そんな、約束が違う~」

 

「土産について聞いただけよ。ここにいるなんて一言も言ってない」

 

「そんなぁ、あの方の波動を感じて、

100年ぶりにお会いできると思って飛んできたのに……」

 

「まぁ、そう気を落とすんじゃないわよ。晩飯くらい食べて行きなさいな」

 

「マーブルさん?

今夜はチーズたっぷりのカルボナーラを作りますから、元気を出して下さい……」

 

「本当!?モヤシ炒め以外のご馳走を食べられるなら、来た甲斐があったわ!

ジョゼットちゃん大好き!」

 

「ああん?まだモヤシ炒め食ってるってことは、

服の買いすぎで生活用マナの支払いが滞ってるってことでいいのかしら」

 

「そ、そんなことないわよ。これだって去年の服なんだしぃ?」

 

人差し指同士を押しながら否定するマーブル。

明らかに目が泳いでるけど、余りに哀れだから今回は見逃すことにした。

 

「しょーがない神様ね。とにかく、あたしは夕食まで寝るから。

ジョゼットにお茶でも入れてもらいなさい。さいなら」

 

「わたくし、今日お茶入れるの通算5回目くらいだと思うんですけど……」

 

ジョゼットのつぶやきを無視して2階の私室に戻り、ベッドに身を預ける。

肉体的にも精神的にも疲れ切っていたあたしは、

夜になってルーベルが起こしに来るまでぐっすりと眠った。

 

寝ぼけ眼で1階に下りると、もう夕食が出来上がってて、

カルボナーラとサラダの味を堪能しているうちに目が覚めてきた。

う~ん、今夜は寝付きが悪くなるかも。

 

「ねえルーベル。今日あたしって結構頑張ったと思うの。

それで疲れて昼寝をしたのは当然の結果で、

夜に寝付きが悪くなるのも自然な流れだから、それを正すためにエールを1本……」

 

「ゴホン!」

 

「わかった、わかったわよ。そんなデカい咳払いすることないじゃない。もう」

 

「はぁ……1本だけだぞ」

 

「マジ!?やったー!さすがルーベル話がわかる!そこに痺れ…やめた。

昔やったパロだわ」

 

「おいしいよう、おいしいよう、一袋1Gのモヤシはもういやだ……」

 

マーブルは難民の子供のようにジョゼットの料理をかきこんでいる。

泣くぐらいなら節約しろと言ったはずなのに。

衣食住削ってでも趣味に金をつぎ込む、オタク的心理は理解できなくもないけど、

いくらなんでも金遣いが荒い。

信仰は前より戻ったらしいけど、収入には結びついてないのかしら。

 

夕食後、一応客のマーブルを見送るため、皆で玄関先に集まる。

 

「ごちそうさまでした。美味しかったわ、ジョゼットちゃんの手料理」

 

「喜んでもらえて嬉しいです~」

 

「あんまり人の懐事情にあれこれ言いたくないけどね、

節約を覚えないと本当にカイジみたいになるわよ。あんたじゃ利根川に勝てないわ」

 

「もう!里沙子ちゃんてば私にばっかり厳しい~」

 

「お生憎様、他の連中とも公平な基準で接しております。

仮にも神様なんだからしっかりして、ってことよ」

 

「うっ、わかりました……じゃあ、今日はこれでお別れします。皆さんさよなら~」

 

マーブルが目を閉じ、軽く深呼吸すると、

彼女の身体が重さを失ったように浮かび上がり、上空に達すると、

帝都の方角へ飛んでいった。

珍客2名をもてなしたあたし達は、その日の夜は早めに床についた。……あたし以外は。

 

ダイニングで雷光石の明かりをひとつだけ点けて、エールをちびちびと舐めながら、

マーブルからもらったカードを指で挟んでひらひらさせる。

見た目は前のカードと全く同じ。

まぁ、しばらくはバトルなしの、のんびり生活ができるって話だし、

これを使う機会はまだまだ先でしょうね。

 

 

 

一週間後。

 

「こんにちはー!シンディ家具店です!」

 

とうとうワクワクちびっこランドに家具がやってきた。

作業着を来た配達員が、

バラバラのパーツに分けられた家具を運び込んで、手早く組み立て。

30分ほどでガランとした子供部屋に、ベッド、衣装棚、テーブルが配置され、

ようやくパルフェムとピーネの部屋が完成した。

中に入った彼女たちが喜びの声を上げる。

 

「どう、気に入った?」

 

「わあ、パルフェムの想像通り……!

壁の色、窓の配置、部屋の広さを計算した最適な選択に成功しましたわ!」

 

「ふ、ふ~ん。地味だけど、こういうのもアリなんじゃない?」

 

無関心を装いつつも、何も入ってない衣装棚を開けたり、ベッドに転がったりして、

自分の家具を手に入れた嬉しさを隠しきれてないピーネ。

とにかく二人は自分の部屋を手に入れた。

なんか色々遠回りした気がするけど、住人全員にまともな寝床が行き渡ったってわけよ。

もう二度と寝袋生活はごめんだから、これ以上住人増やすんじゃないわよ。絶対。

 

 

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