↑慣れないことして驚かせてごめんなさいね。でもこの企画ってこんなだから…
「あ~!やってらんないわ!」
あたしは飲み干したビールのジョッキをカウンターに叩きつけると、
マスターにまた愚痴り始めた。
今日は思い切り煽りたい気分だから、エールじゃなくてラガーの大ジョッキ。
今、病院の帰り。
こないだゴルゴが仕事を全部片付けてくれたおかげで、
図らずも身体を休めることができたから、
耳の治りが良くて、適度な飲酒が認められたの。それはいいんだけど……
「この前なんか一日に2回来たこともあんのよ、信じられる!?」
「里沙子お姉さま、そんなに一気飲みしたら身体に毒ですわ」
「大丈夫よ!適度な飲酒はオーケーってお墨付きが出たんだから!
だぁ~いじょうぶよ、パルフェム。
あたしが本気で酔ったらこんなもんじゃ済まないから」
「どう見てもベロベロでしてよ。……マスター、お勘定をこちらに」
「ありがとよ。里沙子さん、今日はそのくらいにしとくんだな。
あんたはもう“みんな”の憧れなんだから、しっかりしてくれよ」
「“みんな”なんて、大っきらいよ……」
オレンジジュースを飲み終えたパルフェムに手を引かれて、
あたしは酒場から千鳥足で出ていった。薬局で定期診察の帰りに酒場に寄ったの。
さっきも言ったけど飲酒許可が出たから久しぶりにエールを飲んだんだけど、
酒は酒を呼ぶもんで、ちょっとだけ飲みすぎたみたい。
散々マスターに愚痴った上に、酔っ払って女の子におてて引いてもらってる姿なんて、
ルーベルに見られたら何言われるかわかんない。
でも、あたしにも飲みたくなる事情があったのよ。
まぁ、詳しいことは歩きながら話すわ。
ああ、アルコールが麻酔薬になって、市場の混雑も気にならないわ。
これからはスキットルにウィスキーでも入れて持ち歩こうかしらね。
……ごめんなさい、本題がまだだったわね。
異変が始まったのはゴルゴが帰ってから半月くらい後からだったかしら。
ある日、聖堂にいきなりレンガが投げ込まれたの。
窓を開け放ってたからガラスは割れなかったけど、冗談にしちゃ悪質だから、
ピースメーカーを抜いて、壁に身体を隠しながら手を伸ばしてドアを開けたの。
他のメンバーも聖堂に駆けつけてきた。
サイレントボックスを唱えながら、少しずつ視界を外に向けると、
ゆるい丘の下に、手斧だけを持った貧乏くさい野盗が一人。
野盗なんてみんな貧乏くさいけど。
「うわああ!
俺は、里沙子ファミリーを倒して、クソみてえな人生変えてやるんだー!うわあ!!」
あたしは重大なルール違反をしている野盗に警告した。
「こらー!あんたらの役割は街道で待機して、
新キャラが出る度に、能力をお披露目するためにやられる事でしょうが!
誰があたしの家を襲撃していいって言った!?」
「僥倖っ……何たる僥倖!!突如として現れた敵の親玉!
ここで退けば、生涯これ以上の金は掴めないかもしれない!
そんな予感が脳裏によぎる……っ!」
「これっぽっちも儲けちゃいないでしょうが、あんた!」
「殺せ…自分を殺せっ!!なに怯えてやがる!区切るなよっ!自分を区切るな!
だから俺は負け続けてきたんだろうが……!
命を捨てろ、逸脱してなきゃ悪魔を殺せない!うわああ!」
意味不明な言葉を叫びながら、野盗が手斧を振りかぶって丘を駆け上がってきた。
ちなみに、撃ち殺そうと思えばいつでも撃てるほど、ノロノロした足運び。
その時、2階の窓から大きな銃声が轟き、
一発の銃弾が野盗というか変質者の手斧をぶち折った。
衝撃で手を痛めた野盗がその場にうずくまる。ルーベルがバレットM82で狙撃したの。
そのまま2階から飛び降りたルーベルは、素早く野盗に駆け寄り、
腕を捻り上げて地面に押さえつけた。
「うわああ!痛え!
悶絶!まるで高い建物の鉄骨から落ちたかのような激痛に、悶絶!圧倒的激痛!
教えてくれ、おっちゃん!俺は、一体、どうすればいいんだぁ!?」
「動くな。騒ぐな。質問に答えろ。なぜ私達に攻撃を仕掛けた?」
頭のおかしい野盗にあたしも近寄る。
「ありがとルーベル。でも12.7mm弾は高いから、こんな雑魚に使うべきじゃないわ。
腰のピストルで十分よ」
「たまには使わないと狙撃の腕が鈍るからな。……で、なんでうちを襲った。
これで2度目だ。3度目には骨が折れる」
「金だっ…!
ハッピーマイルズ教会の里沙子ファミリーを倒せ、悪魔を殺せと言っている!
しかし、一攫千金のこのチャンス、掴むことができず敗北、地に沈む!
ああ……それにしても金が欲しい……っ!!」
「答えになってないわねえ。それに里沙子ファミリー?
健全なシェアハウスをマフィアの巣窟呼ばわりして、失礼しちゃうわ。今、2.5よ。
10秒以内に答えないと本当に骨、ポキっと行くわよ」
「あんたら全員に裏社会の手配書で賞金がかかってる。
それを目当てに決死の覚悟で挑戦してきたってわけなんだ」
素に戻った賭博黙示録口調の野盗が、ようやくまともな口を利いた。
ああ、そんなのあったね。犯罪者や魔族の間で出回っていた、裏の手配書。
仕事の邪魔者や同族の仇に賞金を掛けて、
見事殺した暁には多額の賞金が貰えるっていう設定が、昔あったの。
なんで今更復活したのやら……
「ルーベル、離してやって。どうせそいつにゃ何もできないわ。
元の当て馬稼業をやらせたほうが、まだ社会のためよ」
「社会っていうか企画だけどな。ほらよ」
ルーベルは奇妙な野盗を放り出す。彼はよろめきながら引き返していく。
「くそっ、負けた、悔しい!……悔しい。
悔しい!……悔しい。
悔しい!!悔しい、だが、それでいい!」
「うるせえ」
今度は拳銃でルーベルが威嚇射撃をすると、野盗は脱兎のごとく逃げていった。
あたしらが教会に戻ると、ジョゼット達が心配そうに見てたから、
肩をすくめて呆れた顔で言ってやった。
「大丈夫でしたか、里沙子さん……?」
「ダメダメ、とんだ雑魚。おまけにアホだったし」
「しかし、野盗が縄張りを出てきて教会に襲撃を掛けてきたのは、
今までに例がありません。少し、心配です……」
「大丈夫よエレオ。どの業界にも変人はいるものだから。
また来たらあたしらがシメるし。カシオピイアなんてプロの軍人だしね」
「うん、そのために、ワタシがいる……」
「パルフェムも忘れてもらっては困りますわ。
里沙子お姉さま、またいつかのように連歌を詠いましょう!
戦いでなくとも、二人で一緒に情感を読むのも楽しくてよ」
「ええ。Wordに向かい合ってるバカが新作思いついたら、そのうちね」
「あ、パルフェムずるい!私もやる!」
「ピーネさんはまず、俳句から始めることをお勧めしますわ」
「なら、俳句を教えて!」
「教えますけど、ピーネさんも絵本をたくさん読んで、
言葉の引き出しを増やしてくださいね」
「失礼ね!絵本なんてとっくに卒業したわよ!」
「ほらほら、ケンカしないの」
その日はそれで済んだのよ。でも問題は翌日から。
お昼を食べ終わると、今度はまともな野盗が徒党を組んで、玄関ドアをドンドン叩くの。
やっぱりルーベルがボクシンググローブをはめて、2階から飛び降りて、
全員半殺しにしてくれた。
で、銃を突きつけながら事情聴取すると、やっぱり例の手配書の話が出てきたの。
なんなのよもう。結局そいつらも野に返して本来の役割に着かせるしかなかった。
さらに翌日。今度はちょっと強力なのが出てきたわ。放浪騎士。
軍隊からリストラされたり、領主から戦力外通告されたり、
いろんな理由で職を失った騎士が、野盗に身を落とした存在。
装備も経験もただの野盗とは段違いだから油断ができない。
そいつがただ一人突撃してきたの。フルプレートアーマーで全身を覆った放浪騎士が、
雄叫びを上げつつ、ロングソードを構えて走ってくる。
あたしは、M100を抜いて外に飛び出して、サイレントボックスを唱えて銃声を消して、
騎士の金属で覆われたかかと辺りを狙う。
その時、2階からルーベルの声が聞こえてきた。
“やめとけ、やめとけ。間違えて足ふっ飛ばしたら出血多量で死ぬだろ。私に任せろ”
そうなんですよねえ。あたしが人間を殺しちゃったら企画上問題があるんですよ。
プロフィールに強盗・殺人はやってないって書いちゃってるから、
今までの野盗も殺しそうで殺さなかったんです。
こっそり削除してもいいんですけど、どんな暇人が見張ってるかわかりませんからね。
ウヒヒ
あたしが脳内雑談をしていると、また頭上から貫くような銃声。
ルーベルの操るバレットM82の12.7mm弾が、大気を突き進み、
放浪騎士の腿辺りの装甲をかすめた。
鋼鉄の装甲が弾け飛び、出血は免れたものの、衝撃で受けた痛みに膝をつく。
「今度は頭が消し飛ぶわよ。お家に帰んなさい」
M100を向けると放浪騎士は悔しそうに、ロングソードを鞘に収めて、
痛む左足を引きずりながら逃げ去っていった。もう偶然じゃ済まないわね。
妙なことが起こってる。
いや、いつも妙なことだらけなんだけど、今回はその中でも取り分け異常っていうか。
ダイニングに全員を集めて緊急会議。
「ここ数日の連続襲撃事件、明らかにおかしいわ」
「確かに、今までは建物の中にいれば野盗には襲われない、が常識でしたのに、
これはちょっと……」
「わたしたちも戦いに参加します!」
「そ、そうです!せっかく覚えたのに長い間出番がない聖光捕縛魔法が……」
でも、あたしはジョゼットとエレオノーラの申し出は断った。
ましてやエレオノーラは次期法王なんだから。
「だめ。まだ高校生くらいのあなた達に怪我はさせらんない。荒事はあたし達に任せて。
今はとにかく、この異常現象の原因を突き止めなきゃ」
「そうだな。
なんで奴らが躍起になって里沙子や私らを狙うようになったのか、調べる必要があるな」
「そうだ。あたし街の酒場に行ってくる。
ハッピーマイルズに限らず、あらゆる領地の情報が集まるあそこなら、
野盗が凶暴化した原因がわかるかもしれない」
「いい考え、だと思う……留守はワタシに任せて」
「さらっとスルーされてますけど、パルフェムも教会を守りますわ!
お姉さまの家は必ずパルフェムが!これでも実戦経験は豊富ですの」
「ありがとう、頼りにしてるわ。悪いけどルーベルも一緒に来て。
この分じゃ街道にも野盗がひしめいてると思ったほうがいい。
あたし一人じゃさばき切れないかも」
「わかった。さっそく行こうぜ」
「ええ。みんな気をつけて」
それで、あたし達はハッピーマイルズ・セントラルに向かったんだけど、
やっぱりいつもより野盗が出てきて、そいつらをあしらうのに一苦労だった。
左手の指と右肩で耳栓をして、ピースメーカーで威嚇射撃したり、
ルーベルの体術で叩きのめしたりしながら、鈍足で進んだもんで、
いつもの倍以上の時間がかかった。しんどい思いをしてようやく酒場にたどり着く。
「はぁ、疲れたわ。入ったらまずは何か飲みましょう」
「酒以外な」
「……わかってるわよ」
で、西部劇のパタパタドアを通ると、店の中がざわっとした雰囲気になる。
“おい、里沙子だぜ。この酒場に戻ってきやがった……”
“あんまジロジロ見るなよ……!怒らせたらどんな目に遭うか”
“そうだよ、もうハッピーマイルズは里沙子に牛耳られてんだよ”
“でも、やっぱり素敵。私もあんな強い女になりたいわ……”
意味不明。とにかく無視して二人ともカウンターに座る。
あたしはアイスコーヒー。ルーベルはたまの贅沢にとクリームメロンソーダを。
たまの贅沢がクリームソーダってのは少し涙を誘うけど。
飲み物の注文のついでに、黙って銀貨を1枚置いて、マスターに話しかける。
彼はさっと銀貨をしまって、注文を聞いてきた。
「“質問”があるの」
「……“ご注文”は?」
「あたしの教会が野盗共に襲撃を受けてるの。ここんとこずっと。
例の裏手配書が出回ってるらしいけど、野盗が縄張り出てくるって異常じゃない?
何か原因とか知らないかしら」
するとマスターは呆れつつ答えた。
「里沙子さん、あんた自分のことには本当無頓着なんだな。
まさにその裏手配書が原因だよ。あんたの賞金額がとんでもない事になってる。
金だけじゃない。大量の貴重なダークオーブまで副賞に付いてる」
あたしはもう一枚銀貨を置いて続きを促す。彼もまた素早く銀貨を収めて話し続けた。
「なんでそんなことになってんのよ。あたし聞いてないんだけど」
「まず里沙子さんに付いてる多くの二つ名の中から、派手なやつを選ぶとだ。
“早撃ち里沙子”。それから“破壊者里沙子”、“魔王殺し”、“時魔術師”、
“平和の導き手”、“召喚士里沙子”。
こんなとこだが、最後の二つがデカかったな。
トライトン海域共栄圏設立の立役者で、なおかつ
現在再建中のマグバリスを陥落させた超人的戦士を召喚した話は、もう出回ってる」
「ちょっと待って!新聞で写真が乗った共栄圏についてはともかく、ゴ…じゃない、
その強い人を呼び出した話がどうして漏れてんのよ!機密扱いなのに!
あと、クロノスハックも!」
「情報ってのは必ずどこかから漏れるもんさ。だからあんたもここに来たんだろう?
とにかく、とんでもない強者で、しかも国の舵取りにまで影響力を持つあんたや仲間は、
裏社会では超一級の賞金首なのさ。
額は想像もつかねえ。小国の政権を買えるほどだって噂もある。
だから、人生の一発逆転を狙った野盗共や、その道で名を上げたい連中が、
命がけで教会に押し寄せてるんだろうさ」
「勘弁してよ!うちはラスベガスじゃないのよ!?
アメリカンドリームはよそで追いかけて!」
「俺に言われても困る。有名税だと思って諦めるこった。
どうせあんたなら楽に捻れる連中ばかりだろう」
「戦い慣れてない子供やシスターも住んでるの。なんとかならない?」
「もっと奴らにとってハードルを高くしたらどうだ?」
「どういうこと?」
「建物に大量のガトリングガンや大砲を設置すれば、存在自体が威嚇になる」
「うーん、曲がりなりにも教会だし、ジョゼットがキレる。キレても黙らせるけどさ」
「とにかく、俺から言えることはこれで全部だ。後は自分でなんとかしてくれ」
「わかった……」
あたしは少し残ったアイスコーヒーを、ストローでズッと音を立てて飲み終えると、
美味しそうにクリームソーダを飲むルーベルにも相談する。
「ですって。どうしましょう」
「やっぱアイスとメロンソーダの相性は抜群……ん?ああ、そうだな!
えーと、つまりこの異常事態は里沙子が目立ちすぎたのが原因で、
野盗共はお前の賞金目当てに教会に集まってると。
……そうなると、奴らが諦めるまで、
来たやつをぶっ飛ばして行くしかないんじゃねえか?
まぁ、私も手伝ってやるから我慢しろ」
「はぁ、ようやくニート生活を取り戻せたと思ったらこれよ。
嫌になるったらありゃしない」
それで、酒場から出て教会に戻ったあたし達だけど、
帰りの道もエンカウント率が爆発的に上昇してて、
数歩歩く度に出てくる雑魚の相手を余儀なくされる。
連中を蹴散らしながら教会に戻ると、すっかり疲れてまだ昼だけどベッドに倒れ込んで、
そのまま寝た。嬉しくない昼寝で枕を濡らすあたし。
さて、クソ長い回想にお付き合い頂きありがとう。
結論から言うと、状況は全く好転していない。今も街道に野盗達が立ちふさがってる。
いつもは小銭を要求してくる奴らが、あたしを指差して開戦の口上らしき物を叫んでる。
酔っ払ってて詳しい内容が理解できない。ぼやける視界の中で、
一人がナイフを腰に構えてあたしに突進してきた。ような気がする。
とりあえず戦えばいいのかしら。
あたしはピースメーカーを抜いて、ろくに狙いも付けずに適当に撃ちまくる。
野盗もパルフェムもびっくりしてあたしを見る。慌てて退散する野盗達。
う~ん、今日のワタクシ95点!
「お姉さま、何をしていますの!?
いつもはスマートな威嚇で、無駄撃ちせずに追い払いますのに!
それに、もし急所に当たって死んでしまったら企画的にまずいことは、
さっき言ったばかりじゃありませんか!」
「うぃ~、ごめん。今やってたことも覚えてないわ。
あはは、リロードするんだったわね。そうそう、そうなのよ」
震える指先でシリンダーを回しながら一発ずつ排莢、装填。
うん、バッチリ。いつものあたし。
「全然バッチリじゃありませんわ。これ以上歩くのは危険ですわね……」
──梅雨空を 背負う十字架 我ら抱き
あ、パルフェムの和歌魔法が発動。
きっとプレバトの夏井先生に見せたら、才能ナシ間違いなしなんだろうけど、
彼女の魔法は素敵よ。あたしは信じてる。
信じてるから、気がついたら教会の中に居たの。
「ほら、しばらくベッドでお休みになって」
パルフェムに導かれながら私室のベッドへ歩いていると、
いつの間にか帰っていたあたし達に気づいたルーベル達が集まってきた。
あたしはベッドに身を投げるけど、ルーベルが寝ることを許してくれない。
「こら里沙子!また昼間から飲みやがったな!
しかも10近くも年下の子に連れて帰ってもらって、情けないとは思わないのかよ!」
「ぶ~残念でした。
耳の治りがいいから、アンプリが適度に飲むのは大丈夫って言いました~」
「何が適量だ、みっともねえ!毎日野盗共の相手で忙しいってのに、呑気なもんだぜ!
さっさと酔いを覚まして、対策のひとつでも考えろ!」
ルーベルが肩を怒らせて出ていったわ。ちぇ、メロンソーダで喜んでる子供舌のくせに。
「あのう……耳がよくなったって本当ですか」
「ああ、ジョゼット。あたしの心配してくれるのはあんただけよ。
あの時あんたを助けて本当によかった。うぃ~」
「初めは見殺しにされましたけどね……とにかく、お水を持ってきます。
お酒を消す薬はないので、時間が経つのを待つしかありませんから」
「あーりがとう、ジョゼットちゃん!愛してるわ!」
その後、あたしは水差しから直接水をがぶ飲みして深い眠りに落ちた。
目覚めたのは夜中だったけど、また台所で水を飲みまくって、
シャワーを浴びて二度寝した。安らかな明日が来ることを祈って。
でも、翌日はこれまで以上の激戦だった。いつもは夜にしか動かないはぐれアサシンや、
放浪騎士達が結託して、集団で押し寄せてきた。
窓や玄関をほとんど締め切って、
2階ではルーベルがバレットM82の絶妙な狙撃で、放浪騎士の装甲を弾き飛ばし、
カシオピイアが魔道具の銃から、手加減した衝撃弾を放ち、敵の動きを奪う。
1階のあたしはピースメーカーで急所を外しつつ、アサシンの腕や足を撃ち抜く。
駆けつけたジョゼットが両手に魔力を収束して、あたしの後ろから聖光捕縛魔法を放つ。
「神に問え!其が
バインドフラッシュ!」
ジョゼットの両手から光の帯が、あたしの頭を飛び越えて、敵軍の真ん中で炸裂。
電撃に性質が近い光が、襲撃者達を麻痺させる。
彼らが悲鳴を上げて痙攣しながら、地面に這いつくばる。
「ジョゼット、何してるの!危ないから下がってなさい!」
「嫌です!もう守られてばかりいるのは!まだバインドフラッシュは2回撃てます!」
「……絶対頭を出すんじゃないわよ!」
あたし達が手加減してるせいもあるし、単純に敵の数や練度が高いこともあって、
思わぬ長期戦になった。皆にも疲れの見え始める。
その時、異変が起こった。鋼鉄で装甲を固めた大型馬車が坂の下に停まり、
中からビジネススーツ姿の紳士が姿を表した。……あれ、あの人っていつかの。
彼に気づいた何人かが、目標を彼に変更して襲いかかるけど、彼は静かに微笑みながら、
特徴的な外観のオートマチック拳銃を取り出し、ただ前方に突き出し、
トリガーを数回引いた。
銃声と共に発射された銃弾は、正確にアサシンの頭部や、
放浪騎士の兜の覗き穴に飛び込んで、致命傷を与えた。
変ね……あんな撃ち方じゃ当たるはずないのに。
その後も彼は、丘に広がっていた敵に銃弾を放ち続ける。その全てが急所に命中。
敵軍が彼に躍りかかるけど、彼は逃げる様子もなく、
時折慣れた手付きでマガジンを入れ替えながら、
本来なら圧倒的不利な状況の中、次々敵を射殺。ただ銃声と悲鳴が響き渡る。
敵も異常な事態に気づいて、撤退するけど、彼は微笑みを崩すことなく、
はぐれアサシンや放浪騎士の背中目掛けて発砲。
銃弾は奇妙な弾道を描いて、やはり頭部に突き刺さった。
敵の全滅を確認した紳士は、ネクタイを直して、
馬車で待機していた部下に指示を出した。
「清掃班の、皆さん。後始末を、お願いします。私は、彼女に、挨拶を」
“了解!”
サングラスを掛けた黒スーツの屈強な男たちが、
ゴム製の袋に次々死体を放り込んでいく。紳士は丘を登ってこっちに近づいてくる。
そして、玄関のドアを上品にノックして名乗った。
──失礼。斑目里沙子さんは、いらっしゃいますか?私は、パーシヴァル社、社長です。
ダイニングに社長を招き、中央の彼にあたしが向き合い、
お茶を入れているジョゼットの他全員がテーブルに付いた。
そういえば、ここに通した客でコーヒーを頼んだのって、彼が最初じゃないかしら。
「突然の訪問、大変、失礼、致しました」
「とんでもありません。その節はお世話になりました。
先程もご助力頂きありがとうございます」
「なあ、このおじさん誰なんだ?」
小声でルーベルが聞いてくる。当然よね。あたし以外会ったこともないし、
かろうじて存在を知っているのもジョゼットだけ。
このダイニングで異彩な気配を放つ中年の紳士。銀の織物のネクタイを締め、
グレーのウェストコートに同色のパンツ姿のビジネスマン。
白髪交じりのオールバックで、口ひげを生やして、細身で背の高い、眼鏡の紳士。
以前会った時と違うのは、腰に銃のホルスターを下げていること。
謎の存在に、みんな緊張気味で彼を見ている。
「どうぞ」
「ありがとう、ございます。うん、とても、おいしいコーヒーです。
ああ、すみません。里沙子さん以外には、自己紹介が、まだでしたね。
私は、ラジエル=D=パーシヴァルと申します。
ここハッピーマイルズで重火器の会社を営んでいます」
「……パーシヴァルって、帝都の軍にも武器を納入している、あの会社?」
「その通りです。見た所、あなたは、帝都の軍人さんですね。
いつも、皇帝陛下には、お世話になっています」
「いえ、こちらこそ……」
ゆっくり喋り二人が話していると、なんだか不思議空間が出来上がるわね。
とりあえず彼とあたしが知り合った経緯から話そうかしら。
「みんなに聞いて欲しいことがあるの。あたしと社長がどうして知り合いなのか」
ジョゼットが目を伏せる。エレオノーラは知らないのよね。
あたしはまだこの家にジョゼットと二人きりだった時、
ミニッツリピーターを買い戻すために、
スマホに記録していたガトリングガンの設計図を書き起こして、製造して、
社長に莫大な金額で買い取ってもらったことを率直に話した。
「そんな、嘘ですよね?里沙子さんが、銃を作って、お金儲けをしていたなんて……」
「事実よ。設計図と実物1基を合わせて800万Gで買い取ってもらったの」
「……すみません。わたし、少し、失礼します……」
エレオノーラが袖で両目を覆いながら自室に向かっていった。
今、追いかけても意味はないわ。
ルーベルが怒鳴ると思ったけど、静かにあたしに一言告げた。
「これが終わったら、すぐ迎えに行け……」
「ええ、わかってる」
「あの武器が、お姉ちゃんが作ったものだったなんて……」
「この世界で初の連発式銃が、里沙子お姉さまの作品だったとは、
運命とは不思議なものですね……」
ピーネはただ口を曲げながら、指遊びをしている。
こうしちゃいられない。早く用事を済ませなきゃ。
「それで社長。今日はどういったご用件で?」
「はい。実は、里沙子さんに、
我が社の新商品の、テストを、していただきたいと、思いまして」
「テスト?」
「いくつか、アースの銃が、手に入りまして。
それをベースに、新商品を、開発しました。
そこで、ダミーのターゲットを、撃って頂き、忌憚ないご意見を、頂きたいのです。
もちろん、謝礼というか……、お礼は致します」
あたしは少し考える。これって、間接的に、また銃の製造をするってことよね。
ジョゼットも居ることだし、断ろうかと思った時、ルーベルが意外なことを言った。
「……里沙子。お前が決めろ。お前が断ったって、別の誰かがやるだけだ。
私はただお前の判断を信じる。あの時決めたみたいに。
ただし、ちゃんと後でエレオノーラと話を付けるならな」
「ルーベルさん……」
「ジョゼット。お前の気持ちはわかるつもりだ。私も銃には因縁がある。
確かに里沙子は昔、金儲けのために銃を作って売ったのかもしれねえ。
命の次に大事な金時計を取り戻すためにな。
だが、銃は使いようによっちゃ、誰かを助けたり、何かを守ったり、
新しい何かを造る手伝いだってできるんだ。
私はここに来て、里沙子が何度もそうするのを見てきた。
だから、今度の話も里沙子の判断を見守ろうと思う。
……ピーネ、お前には話してなかったが、私も両親を強盗に銃で殺された。
でも、銃は手にするやつによって、道具にも凶器にもなる。そこんとこ、わかってやれ」
「ふん、勝手にすれば、いいじゃない……」
ピーネは今にも泣き出しそうなほど、顔をくしゃくしゃにしながら答えた。
今度はあたしが答えを出す番ね。
「社長。その話、お受け致します。ただし、報酬は結構です。
その代り、このような依頼は今回限りということで」
「それは、ありがたい。
私の、せいで、皆さんを傷つけてしまったこと、深く、お詫び申し上げます。
しかし、無報酬というのは、いただけない。危険な、仕事を、するのですから」
「あ、あの……」
その時、カシオピイアがおずおずと発言した。どうしたの?
「そのテストは、ワタシじゃ、駄目なんでしょうか。一応、ワタシも軍人です」
「申し訳、ありません。里沙子さんでなければ、意味が、ないのです」
「そう…ですか」
「ありがとう、カシオピイア。でも、やっぱりあたしがケリを付けなきゃいけないの。
社長、さっそく仕事に取り掛かりましょう」
「ええ。それでは、馬車に乗りましょう。皆さん、今日は、どうも、失礼致しました」
社長とあたしは席を立つ。みんな、しんとした雰囲気だけど、口を結んでただ歩く。
外に出ると、野盗達の死体はどこに行ったのか、血痕以外は全て撤去されていた。
「さあ、どうぞ」
「ありがとうございます」
社長がドアを開けてくれた。
あたしは馬が引っ張れるのか心配なほどの、重装甲が施された馬車に乗り込む。
彼も座席に着くと、すぐさま馬車が発射した。
ゴトンゴトンと大型馬車が車体を揺らしながら走り続ける。
目的地まで黙り込んでいるのも何だから、社長に話しかけてみた。
「その後、どうでしょうか。ガトリングガンの売上は」
「大好評です。やはり、陸軍を中心に、大量の受注が入り、
おかげさまで、ナバロ社を追い抜き、業界トップに、立つことができました。
僅差なので、まだまだ、油断はできませんが」
「そうですか……おめでとうございます。しかし、申し訳ない気もしています。
ご存知でしょうが、
あの後わたくしが携行可能な自動小銃AK-47を帝都の軍に提供したことで、
ガトリングガンの需要が薄れたのでは?」
「いえいえ、AK-47は、あまりの強力さ、運用の簡便さゆえ、製造・配備は、
帝都軍にしか許されていません。
それに、使用弾薬の口径、つまり火力の点では、ガトリングガンが、勝っています。
まだまだ、受注は、途切れていません。お気になさらず」
すると、社長はハッと何か思い出した表情で、話を続けた。
「そうそう。今回、あなたに、テストを依頼した理由です。
アースの銃から、新商品を開発したことは、お話ししました。
そこで、実際にあなたに使用して頂き、気に入ったものだけ、
あなたの名前を使わせていただいて、宣伝したいのです。
時には“魔王殺し”、時には“平和の導き手”である、あなたのネームバリューを、
お借りしたい。ナバロ社との差を、更に引き離したいのです」
「……構いません。
ただ、繰り返しになりますが、お取引は今回で最後ということでお願い致します」
「はい。承知しています。報酬の話が、途中でしたね。
あなたの家が、ここ最近、ならず者の襲撃を、受け続けているとか。
さぞ迷惑されていることでしょう。……こういうのはどうでしょうか。
テストが完了したら、ベースとしたアースの銃と、少しばかりの礼金を、お渡しする。
これらの銃の威力は、圧倒的です。
一撃ちすれば、誰もあなた方に、手出ししようと考える者はいなくなるでしょう」
アースの銃は魔法がない世界で造られたそれより強力なものばかり。
確かに野盗達への威嚇には申し分ない。
ガトリングガンや大砲で教会を要塞化するより、まだ現実的だし、
……正直、金の話で心が動かなかったと言えば嘘になる。
今、手持ちの全財産は40万Gくらい。贅沢しなきゃ一生食べてはいけるけど、
突然の出費があるといつか底をつく。特に魔王編じゃ、派手に使いまくったからね。
今後も似たようなことが起こらないとは限らない。
ガタン。世間話で時間を潰していると、馬車が停まり、
いつの間にかハッピーマイルズ北西の耕作放棄地に到着していた。
あたしと社長が馬車を下りると、後ろのドアから社員らしき黒服と、
魔女らしき三角帽子の女性も降りてきて、黒服が素早く準備を始めた。
簡易テーブルを設置し、上に鋼鉄のケースを置いた。
「さあ、こちらへ」
社長に促されて、テーブルに近づくと、ケースが2つ。
彼がケースを開けていくと、見たこともない銃が姿を表した。
「まずは、この銃を。仮称L-07。プロジェクト名“ラッキー7”。どうぞ、手に取って」
数字の7を思わせる、極端に短いバレル、
少し大きめのカーブを描くグリップが個性的なオートマチック拳銃。
社長が腰に下げているものと同じ。あたしはスライドを引くと、開始の合図を待った。
「社長、こちらは準備完了です。いつでもどうぞ」
「わかりました。ジゼル君、ダミーを放ってください」
「承知しました!
……我与えん。空駆ける主の恵み、偽りの命結び、舞い、歌い、再び天に還らんことを」
すると、彼女の両手から薄い緑に光る精霊が飛び出し、荒野をひらひらと飛び出した。
あら、不思議ね。
「彼女は、両手で魔法を、使える、特異体質。とても、優秀な、社員です。
精霊は、攻撃してきません。さあ、あなたの腕を見せてください」
「では……」
あたしは、飛び回る人型精霊の頭部を狙い、一発発射。
命中し、精霊が悲鳴を上げるように、顔を歪ませ、消滅。途端に異変に気づく。
とりあえずそれは置いといて、あたしはオートマチック拳銃を撃ち続けて、
無抵抗の精霊を殲滅した。ちょうど弾切れ。社長のところに戻って、ケースに銃を戻す。
「どうでしたか。未完成とは言え、自信作なのですが」
「……社長、この銃、“使って”ますよね。
殺傷能力が跳ね上がるため、重火器に使用禁止されている、強力な物質誘導の術式が、
銃身内部に彫り込まれてはいませんか?
本来は郵便局の仕分け業務などに使用されるものですが、
異様なまでの命中率がそれを物語っています。
最後の数発は、デタラメに撃っても当たってしまいましたから。
まだ個人使用の段階なので、この事は忘れます。
ただし、わたくしが関わった事実も忘れてください」
社長はニヤリと不気味な笑顔を浮かべて、特に慌てる様子もなく答えた。
「やはり、バレてしまいましたか。
誘導レベルを、4…いや、3に引き下げる必要が、あるでしょう」
「発売後に発覚すれば、わたくしも御社もお終いですが……」
「“信用”してください。熟練の魔女すら欺く、技術が、弊社にはあります。
では2つめの、テストを。仮称MG-X。プロジェクト名“スピードキラー”」
あたしは黙って特徴的な形状の軽機関銃タイプの武器と、マガジン数本を手に取った。
「いつでも」
社長が手で合図すると、ジゼルという魔女が再び精霊を放った。今度は20体程度。
あたしは軽機関銃を構えて、バースト撃ちで反動を逃しつつ、今度は腹を狙う。
ちょっと銃身が暴れすぎね。ヘッドショットは無理そう。
敵の動きを予測しつつ、銃弾をばらまく。
弾切れになると、カラのマガジンをリリースして、予備を差し込み、再度銃撃を開始。
一体につき数発で倒せる。手応えからして、精霊の耐久力は人間より少し固い程度。
威力としては申し分ないと思う。
最後の1体を倒すと、銃口から硝煙が溢れる軽機関銃を持って社長のところに戻る。
「お疲れ様です。今度は、大丈夫です。“普通”の銃ですから」
「威力、スムーズな再装填、重量。
ほぼ全て性能は申し分ありませんが、少々反動が強すぎます。
バースト撃ちをしても、銃口を再度安定させるまでに時間が掛かります。
マガジンストックにショックアブソーバーを装着してはいかがでしょうか。
それさえクリアすれば、問題なく、取り回しのいい軽機関銃として販売が可能です。
もちろん、わたくしの名前をお使い頂いて結構です」
「なるほど、なるほど。非常に、参考に、なりました。お疲れ様でした。
貴重な、戦闘データを、入手できました。それでは、帰りましょうか。馬車へ」
「はい」
あたし達がまた装甲馬車に乗り込むと、黒服社員が手早く撤収作業を終え、
ジゼルも後ろの席に座った。もう少しまともな状況だったら、
窓越しに自己紹介のひとつでもして、世間話くらいしたんだろうけど。
今は帰ってからのことで頭がいっぱい。エレオ、どうしてるのかしら。
30分ほどして、教会に帰り着いた。
馬車が教会へ続く坂の前で停まると、社長が後部の社員に指示を出す。
「皆さん、彼女の、報酬を、運んでください」
“かしこまりました”
あたしが馬車から下りると、社長が中から別れの挨拶をしてきた。
「お渡しする品は、どれも、ご満足頂けるものと、自負しています。
銃は、守るための道具でも、ありますから。あなた方の、安全を、祈っています」
「社長も、お元気で。御社のますますの発展が、ありますように……」
最後の方の台詞を言う時、何かに気を取られて頭の中が空っぽだった。
とにかく黒服社員に荷物を持ってもらって、教会に入る。
「ありがとうございます。どうぞ荷物は床に置いてください」
「わかりました。……社長からこちらを」
黒服が差し出した紙は、小切手だった。30万Gの金額が書かれてる。
2つ銃を試し打ちしただけでこの値段。
多分、あの拳銃の口止め料が含まれてるんだと思う。
あたしは、少し黙ってポケットに小切手をしまった。
「ありがとう。どうもお疲れ様でした」
「いえ。今後共パーシヴァル社をよろしくお願い致します」
丁寧な挨拶と共に、社員は帰っていった。彼が乗り込むと、馬車が走り去っていった。
窓際に立ったまま少しその様子を見守っていた。
……ふぅ、終わったことに、いつまでも頭悩ませてもしょうがないわ。
あたしは、彼らが置いていったケースを開こうとした。
すると、ルーベルがダイニングからぶらぶらと歩いてきた。
「……それ、報酬か?」
「そう。アースから流れてきた銃で、野盗連中を黙らせることができるって。
それとアドバイス料30万G」
「そっか。開けてみろよ」
「うん」
ありのままを話したけど、特にルーベルは普段と違った様子を見せることもなく、
荷物の中身に興味を示した。あたしは、2つのケースを開く。
1つには、メカニカルな外観と銃口から短く伸びた、
三筋の消炎器が特徴のマシンピストル、ベレッタ93R。
社長の配慮なのか、サイホルスターまで付いてる。
ほら、峰不二子とかが太ももに巻いてるようなタイプのホルスターよ。
2つ目に収められていたのは……銃身全体がVを描くような独特なボディが特徴で、
特有の反動吸収機構を備えたサブマシンガン、クリス ベクターSMG。
なるほど、これで連中の足元を薙ぎ払えば、
二度とあたしに迷惑は掛けられないでしょうね。
ご丁寧にサイレンサーまで付属してるから、
サイレントボックスなしでも撃ちまくれそう。
どちらも予備の弾薬付き。これで頑張れってことね。
荷解きをしていると、ジョゼット達が集まってきた。
「あ、里沙子さん……お仕事は、どうでしたか?」
「銃の試射をして、改善点を挙げた。それだけよ、大丈夫」
「それ、新しい銃なの……?」
「ピーネさん、怖がらないで。
里沙子お姉さまが間違った銃の使い方をする人じゃないことは、
ルーベルさんが言ったとおりですわ」
「変わった銃。見たことない」
「そりゃ、アースの銃だからね。要塞にもあるはずないわ」
──そんな執着は捨てることだ。
考えた末、彼の言葉を思い出したあたしは、まずベレッタ93Rを装備することにした。
サイホルスターを巻くために、スカートをたくし上げる。
スリットスカートじゃないから、瞬時に切り替えとは行かないけど、
どこかでカバーしながら銃を持ち替えることはできる。
戦場での武器の幅が広がるのは大きなメリットよ。
「まっ!お姉さまったら大胆!ウシシ」
「り、里沙子さん、こんなところで、ハレンチです!」
「しっかり凝視してるくせにうっさいわよ、ジョゼット!
ただのロングスカートだから、着けにくいのよ、これ!」
あたしは巻き付けたサイホルスターに、ピースメーカーを差し、
代わりにベレッタ93Rを腰のホルスターに移動。新しい銃には早めに慣れなきゃ。
今度はベクターSMGをガンベルトに背負う。
うん、ドラグノフより軽いし、新しい戦力になってくれそう。
さて……こっちの準備は終わった。もうひとつケリを付けなきゃ。
「ねえ。エレオノーラは、どうしてる?」
「直接会って確かめた方がよくね?」
「それもそうね……行ってくる」
あたしは住居スペースに入り、ダイニングから階段を上って、
2階のエレオノーラの部屋の前に立つ。ひとつ呼吸すると、ドアをノックした。
すると、ドアノブがゆっくり回って、目を赤くしたエレオノーラが、
少しずつ身体を滑らせるように出てきた。
「さっき帰った所。伝えとく。
重火器メーカーの社長の依頼で、新製品のテストを手伝ってきた。
報酬はアースの銃2つ。それと30万G。間違ってると思うなら軽蔑するといいわ。
シスターのあなたに“わかってくれ”なんて言えた事じゃないから」
「違います……!」
エレオノーラが涙交じりの声で訴えてきた。
あたしも彼女の意外な反応に、何も言えなくなる。
「突然の話にどうしていいか分からず、お祖父様に相談したら、叱られました。
銃販売も商売のひとつ。アースに来たばかりの彼女が、
生きるために売り飛ばした宝物を取り戻すために、自ら作り出したものをお金に変えた。
お前はただそれだけで、共に魔王に立ち向かい、サラマンダラス帝国の敵と戦い続け、
三国の平和のために奔走した彼女の努力を、なかったことにするのか、と」
「……エレオは間違ってないわ。戦争の道具で一儲けしたのは事実なんだから」
彼女はまた静かに涙しながら首を振る。
「その銃でわたし達を守ってきた里沙子さんを、
一瞬でも軽蔑した、わたしこそ罪深い存在なのです。
今日、再び仕事を引き受けたのは、会社との縁を断ち切るためだったのですよね」
「確かにそうだけど、報酬に全く興味がなかったと言えば嘘になるわ。
野盗連中を一気に黙らせる新兵器。あと……生活費の足しにもね。
正直、死ぬまでニート生活送れる可能性が低下傾向だったから」
エレオノーラはクスッと笑うと、笑顔を浮かべた。
「里沙子さんは、本当に正直な人なんですね。
これからも、その武器で、わたし達を守ってくれますか?」
「当然。そうじゃなきゃ、これの存在価値はないわ」
あたしはホルスターのベレッタをポンポンと叩く。
エレオノーラもあたしもお互いを見つめて笑いを浮かべる。
ホッとした瞬間……外から爆発音が響いてきた。
とっさに向かいの部屋の窓から見ると、今までの戦闘を上回る敵の大群が集まっていた。
荷車に乗せられた大砲や、今度は魔女までいる。あたしは後ろのエレオに叫んだ。
「部屋に隠れてて!この家は絶対守るから!」
「はい……!」
これだけの戦力を返り討ちにすれば、もうバカなことを考える連中はいなくなるはず!
今度こそ最後にしてみせる。あたしは背中のベクターSMGを構えて狙いを定めた。