面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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またカード馬鹿。あと新ライダー
風船おじさんって人が昔、風船で世界を旅してたの。どこかの島でひっそり生きててくれるといいんだけど。


特別編がとんだ置き土産を残して行ってくれやがってから数日。

あたしは朝食後、ベッドに横になって二度寝していた。

でも、その置き土産というか残りカスがうるさくて全然寝付けない。

 

「入室許可した覚えはないんだけど」

 

「里沙子殿~里沙子殿~拙者を街に連れて行ってほしいです。でござる。

ルーベル殿が、街には楽しいものが沢山あると言っていたわ。のじゃ」

 

「うっさいわねえ。

そんなの当のルーベルに頼みなさないな。あの汚いアイロン持って一緒にさ。

ちなみに、街は全然楽しくなんか無いわよ。娯楽施設のひとつもありゃしない。

洋服売り場とか家具屋なんかが点々とあるくらいの、田舎のダイエーみたいなところよ」

 

「そんなぁ……」

 

「ソースの曖昧な情報を鵜呑みにしないことね。

Wikipediaだって割と間違ってるところあるのに。

実際、ろくに知識もない作者が、あれに頼り切ってて人様に指摘されたのよ」

 

「拙者は今の世界を知る必要があるのでござる!この通り!」

 

エリカが深く頭を下げるけど、空中にいるから上から見下ろしてる形にしかなってない。

こいつ、石炭式アイロンで寝てる間に箱に詰めて、

“火山に捨ててください”って書いて、皇国政府に送りつけようかしら。

 

半分本気でそんなことを考えてると、

シュルルルル…と、外から何かが吹き出すような音が聞こえてきた。

外を覗くと、あら、珍しい。ちょくちょく会ってはいるけど、家まで来るなんて。

 

「エリカ、外に連れてくのは真っ平だけど、親しい知り合いに会わせてやるわ。

外の様子とか色々聞いてごらんなさい」

 

「本当ですか!?やったー!…あ、今のナシ。真か!?やりけり!」

 

「もう諦めたら?それ」

 

間もなくトントンと玄関をノックする音が聞こえてきた。

変な奴専用ゲートがちゃんとした客を通すなんて、

やっぱり特別編の影響がまだ残ってるのかしらね。

とにかくあたしは、馬鹿を放って部屋から出ると、

トトト…と少し急ぎ足で階段を下りて、聖堂に入った。

 

“リサー!アヤなのだ。会いに来たのだー!開けてほしいのであーる!”

 

「はーい、ちょっと待ってね」

 

あたしは疑いなく鍵を外してドアを開ける。

そこには鉄製のカバンを持った、瓶底眼鏡の発明家が。

日曜が来る度、マリーの店でいつも会ってるんだけど、

魔国編以来、登場するのは初めてだったんじゃないかしら。

 

「あなたがうちに来るなんて珍しいわね、日曜でもないのに。

……で、その背負ってるゴツい奴、何?」

 

「量産型ジェットパックの試作品で、あーる!

これに乗ってハッピーマイルズ軍事基地からひとっ飛びしてきたのだー!

これなら魔女でなくても空を飛べるのであーる」

 

「へぇ、すごいじゃない。

アースと技術力の差がなくなりそうで、話の作り方に悩む奴の姿が目に浮かぶわ」

 

「ただ、燃費の問題をクリアできないのだ……

基地からここに来るだけでバッテリーを使い切ってしまったのだ。しょんぼり」

 

「しょぼくれんじゃないの。

無理だと思ってたことが出来た例なんて、いくらでもあるんだから。

立ち話もなんだから、入って。お茶でも飲みましょう」

 

あたしはアヤをダイニングに通しながら、ジョゼットにお茶を要求し、だべり続ける。

 

「ジョゼットー!お客さんに……あ、コーヒーと紅茶どっちする?」

 

「カフェイン摂取でしゃっきりしたいのだ。アヤはコーヒーを希望するのである!」

 

「ですって。コーヒー2人前おねがーい!」

 

“は~い”

 

で、居住スペースに入ってすぐのダイニングに、あたしとアヤが席に着いた。

落ち着いたところで会話再開。例によって暇人達もわらわらと集まってくる。

 

「みなさんはじめましてー。アヤなのだ。

パルフェムとカシオピイアは久しぶりーなのだ」

 

「あら、またいらしたの?メカオタクさん」

 

「こら、パルフェム!」

 

「あはは、良いのである。

パルフェムも来ているということは、何か外交的事情であーるか?」

 

「それね……この娘、うちで住むことになった。いろいろあったのよ。

あんまり深く聞かないであげて」

 

アヤは牛乳瓶の奥の笑みを引っ込めて、うなずいた。

 

「なるほど。わかったである。人には事情があるものなのだ。

アヤは機械工学だけでなく、心の機微に触れることもできるので、あーる」

 

「……ふん、わかったようなことを言わないでくださいまし!」

 

パルフェムがワクワクちびっこランドに引っ込んでいった。

誰かに手酷く裏切られた古傷が、まだ何かの拍子に痛むみたいね。

ポスポスと何かを叩くような音が聞こえてくる。

 

“ちょっと、やめなさいよ!私が何したっていうの!”

 

“お静かに!ピーネさんの頭は枕で殴るのに最適ですの!”

 

まあ、彼女の事は時間が解決してくれるのを待つとして、

カシオピイアも棒立ちになったまま、部屋に戻ろうとしない。

 

「カシオピイア、あなたまで何やってるの」

 

「……退屈だから」

 

「部屋で趣味の恋愛小説でも読んでればいいでしょうが」

 

すると、彼女が耳まで顔を赤くして言葉に詰まる。

 

「……っ!どうして、知ってるの?」

 

「ずっと前、軟骨塗ってもらいに行った時、いっぱいあったからね。

恥ずかしがることないじゃない。女の子が恋愛小説読むなんて、

男が少年ジャンプ読むくらい普通のことよ」

 

「ほっといて……」

 

それでも、モジモジする妹をちょっとからかってみたくなった。

 

「あの本はどこで買ってるの?」

 

「街の、本屋……」

 

「じゃあ、今度マリーの店で、アースの珍しい恋愛小説を買ってきてあげるわ。

だから機嫌直して?」

 

「本当……?」

 

「本当に本当よ。フランス書院っていう、恋愛小説専門の出版社が出してる一品よ」

 

「わかった。……じゃあ、ごゆっくり」

 

素直に2階の自室に戻っていくカシオピイア。

フヒヒ。こないだの日曜、アヤとガラクタあさりしてたら、一冊だけ見つけたのよ。

なお、後日約束通り彼女にブツを渡したら、一週間口を利いてくれなくなりました。

ちゃんちゃん。

 

やっと人口密度が減少したところで、ジョゼットのお茶も入って、

ようやくアヤとのおしゃべりに集中できるようになった。

 

「どうぞお茶です~ミルクと砂糖はこちらに」

 

「ありがたいのだー。砂糖を多めに落とすと、徹夜明けの脳にブドウ糖が染みる染みる」

 

アヤが白衣の長い袖でマグカップを持って、ふーふーしながらコーヒーを飲む。

 

「ごめんね。こいつら客が来るといつもこうなのよ。

なんか趣味のひとつでも無いのかしらねぇ、本当。

あたし?酒。他にはない」

 

「今日はいきなり来てごめんなのだ。

リサの元気な顔が見たくなって、文字通り飛んできたのであーる」

 

「気にしなくていいわよ。こんないつでも不機嫌そうな女の顔でいいならね。

でも、日曜でもないのに、よく休日どころか外出許可が出たわね。

一体なにがあったの?」

 

「シュワルツおじさまから聞いたのだ……リサが危うく殺されかけたこと。

それでリサの無事をこの目で確かめるために、一生懸命おじさまに無理を言って、

1日だけ休日をもらったと言う次第」

 

「そう……心配かけたわね。でも、もう大丈夫よ。危険地帯はもう封鎖されたし、

あたしも実質悪夢を見てただけだから、怪我とかはなかったの。

何も問題は……ああ、一個だけあった」

 

そう思った時、2階からエリカが私室のドアをすり抜けて、階段を滑り降りてきた。

 

「里沙子殿ー!その方が街からおいでなすったハイカラなお方ですかい?」

 

「あー!まだ出てくるんじゃないの!面倒だけど、あんたの出自とか説明しなきゃ……」

 

でもアヤは、眼鏡を直して、珍しそうにポンコツ幽霊を見る。

 

「ほおぉー!

リサも遂に光魔法と錬金術のノウハウを融合した、立体映像投影機を導入していたとは!

高額さの欠点を補って余りある、あの臨場感あふれる映像美をわかってくれるとは、

同好の士ができてアヤは感激であーるよ!」

 

「残念だけどそんな立派なもんじゃないの。

長所はタダで、収納に困らないことくらいよ。

紹介するわ。エリカっていう100年位前のサムライの成れの果て。

将軍から聞いただろうけど、例の村からやってきた、

斬れもしない刀持って我が家に取り憑いた厄介者」

 

「幽霊!?悪霊なら、アヤがスティック型エレキテルで完全に電子分解してやるから、

リサは大船に乗った気持ちでいるとよいのだー!」

 

アヤが、ベルトの金具に引っ掛けていた、

先端が球になった鉄の棒を抜いてスイッチを入れた。その球がパチパチと電気を帯びる。

一瞬ビクッとしたエリカも、刀の柄を握る。

 

「むむっ!こやつめ、拙者をシラヌイ家長女、エリカと知っての狼藉ですか!?

よかろう、その挑戦受けて立つ!」

 

なんかややこしい事になりそうだから、面倒だけど間に立つ。

 

「アヤ、気持ちだけもらっとくわ。家の厄介事は家で始末を付ける。

エリカ、その豆腐も切れない刀で何するつもり?

とにかく二人共、武器っぽい何かを収めて」

 

両者、相手を警戒しながらも引き下がった。途端にエリカがぶーたれる。

 

「話は変わるが里沙子殿、さっきの紹介、あまりにも雑でござる……

オホン、真実はこうである。拙者はマウントロックスで民草を守るため、

並み居る魔物共と壮絶な死闘を繰り広げ、ついに異国にその生命を散らした、

さすらいの武士。その名も、シラヌイ・エリカである!

刀一つで諸国を渡り歩いてきた歴戦の兵。

おかしなカラクリに頼っている変人とはちがうのよ!のだ!」

 

「なんだとー!微妙にアヤと口調が被ってるくせに、

アヤの発明を馬鹿にするやつはリサの友人でも許さないのだー!

今度はフルパワーなら、破滅的電磁波で0.001秒だけ空間を歪ませる、

オルハリコン線高速回転式超強力電磁石を食らうがいいのであーる!」

 

「だから醜い者同士のケンカはやめろって言ってんの!

エリカ、自分をよく見せたい気持ちは理解できなくもないけど、嘘は関心しないわ。

何が壮絶な死闘よ、話盛り過ぎ。馬鹿みたいに真正面から突っ込んで一撃死した分際で。

それに変人さ加減についてはあんたも人のこと言えないわよ」

 

「あうあう……それは、里沙子殿、拙者は、私は……ちょっとくらいかばってくれても」

 

「アヤも、武器みたいなもんを収めて。同じことを言わされるのは嫌なの。

そんなもんに電気通したら、あたしの銃やミニッツリピーターが壊れるでしょうが。

最悪、銃はともかく金時計がイカれたら、もう二度とあなたに会うことは無いわ。

あと、このポンコツ侍は友達じゃなくてアイロンに入る居候」

 

「うう、ごめんなのだ……」

 

二人共、再度すごすごと引き下がる。

全く、今日は尋ねてきた知り合いとお茶するだけでやり過ごせると思ったのに、

迷惑幽霊に引っ掻き回されて大声上げてばかりよ。あたしは強引に話を元に戻す。

 

「エリカ、あんたはそこに浮かんであたし達の話を聞いてなさい。

発言は一切許可しない。

100年前に死んだあんたには、どれも新しいことばかりだから、それで満足でしょ?」

 

「そんな殺生な……」

 

「嫌ならアイロンに帰りなさい」

 

「わかったわよ…いや、承知したでござる」

 

「そー。そこのみかん箱の上で正座してりゃいいのよ。……ふぅ、騒がしくてごめんね。

今日は座ってゆっくり話をしましょう」

 

「いいのだ!アヤも大人気なかったのを反省しているのだ!

実は今日、里沙子に見せたいものがあって、持ってきたのであーる!」

 

すると、アヤは持ってきた鉄製のカバンを重そうにテーブルに乗せる。

まだジュラルミンケースは開発されてないみたいね。

そんで、カバンを開けると見覚えのあるものを取り出した。

皇帝専用の仮面ライダーフォートレス変身ベルト。

 

「ちょっ!これ外に持ってきていいの?軍事機密の一つなんでしょう?」

 

「皇帝陛下の許可は得ているから大丈夫なのだ。

メンテナンスと作動テストを、実際の戦場となりうる基地外部のフィールドで行うのが、

今回の任務であり、フロッピーディスクもデータの入ってない、

ブランクディスクしか持ってきてないので、あーる!」

 

「そう、ならいいけど。ブランクディスクって要は新品のディスクでしょ?

問題なかったら見せてくれない?懐かしくなっちゃった」

 

「全く問題なしなのだ!はい!」

 

彼女から1枚受け取ると、指先で少しざらざらした感触を確かめる。

 

「ありがと。アハハ、懐かしい。

この薄いアルミのシャッター、シャコシャコやって遊んだもんだわ。

これに新しい魔術式の起動コードとかをぶち込むわけね」

 

中学生の頃、パソコンの授業でお世話になった、

タイピング練習ソフトのフロッピーを思い出す。

ひとしきり思い出に浸ったら、アヤにフロッピーを返した。

 

「そのとーり、なのである!今回のテストは言わば、その下地作りなのだー。

ダミーのディスクを使用して、排出・装填機構が正常に機能しているか……」

 

その時、ちびっこランドの住人がダイニングに駆け込んできた。

パルフェムが枕を持ってピーネを追い回してる。

 

「里沙子、私を助けなさい!パルフェムを叱りなさいよ!……うっ、また幽霊」

 

ピーネに気味悪がられたエリカは、ただ悲しそうな目であたしを見る。

幽霊としての本分を全うしているようで大変よろしい。

 

「待てー!ピーネさんはパルフェムのお友達だから、

枕しばき合い対決に付き合って当然ですわ!」

 

「いい加減にしなさい!お客さん来てるのがわかんない?

それと、ピーネはいい加減エリカに慣れなさい!」

 

ダイニングの隅に逃げていくピーネをパルフェムが追いかける。

でっかいため息が出るわ。

 

「悪いわね、うるさくて。ここで静かにしてられるやつなんて2人くらいしかいないの。

なんでこんな大所帯になったんだか。

これでも正月くらいまではジョゼットと二人きりだったのよ?」

 

「くはは、おじさまに聞いた通り、ここは賑やかで楽しそうであーるよ。

アヤの研究室も楽しいところであるが、住人はアヤ一人で、

たまにおじさまか他局の研究員が尋ねてくる程度で……」

 

“ほぎゃああ!!”

 

本当に落ち着きのないガチんちょ共ね!今の声はピーネ。

一度競走馬のように尻を叩きまくらないとわからないみたいね。

何か、しなるものは無いかしら。新聞は、手ぬるい。孫の手、まだ足りない。

くそ、適当なものが見つからない。あ、ピーネとパルフェムが戻ってきた。

 

「あんたらね、あたしがいつまでも手を上げないと思ったら大間違い……」

 

「うぐううっ……おばけ、おばけがいるううぅ!」

 

ピーネが半泣きであたしにしがみついてきた。もう、なんなのよ。

 

「おばけならそこにいるでしょうか。ごらんなさい、この人畜無害なアイロンの妖精を。

今は幽霊より人間の方が怖い時代なのよ」

 

エリカがぎこちない笑顔で手を振るけど、

この娘はただ、あたしの足に顔をくっつけて首を横に振るだけ。

遅れてやってきたパルフェムがバツの悪そうな顔で説明する。

 

「里沙子お姉さま、ごめんなさい。彼女を追い込み過ぎてしまいました……」

 

「ごめんなさいなら状況説明!!」

 

ついキレ気味な口調になってしまった。

 

「すみません!実は、あの変質者がまた……」

 

パルフェムは、乾物を収納する棚に隠れている窓を指差した。

あたしはピーネをどけて窓に近づく。……そこで、またため息。

とりあえず窓ガラスにへばりついている馬鹿2人の鼻を、ガラス越しに中指で弾いた。

 

“あうっ!” “痛っ!”

 

「ねえピーネ。前から聞こうと思ってたんだけどさ、吸血鬼っておばけより弱いの?」

 

 

 

 

 

聖堂にカード馬鹿二人を正座させて、

子供を騒がせた責任を取らせようと考えを巡らせる。どうしてくれよう。

 

「なぜトライジルヴァ家の当主が、地べたに座らなければなりませんの!?

ドレスも汚れますし、椅子を用意なさい!」

 

相変わらずの図々しさで椅子を要求する不審者A。

知ってる人は知っている、カード馬鹿の1人、ユーディ。

 

「私達はただ、あなたの家に顔を出しに来ただけよ!

こんな仕打ちを受けるいわれはないわ!私も足が痛いから椅子をちょうだい!」

 

お次は自己弁護のプロ、不審者B。カード馬鹿コンビの片割れ、パルカローレ。

 

「ユーディ。貴族とやらの偉いお方が、

人んちの窓に張り付いて覗きをしていた合理的理由を述べなさい。

さぞかし崇高な目的があるんでしょうねぇ?」

 

「それは……」

 

「ほれほれ、言ってみ。新調した銃が不幸にも暴発する前に」

 

「馬鹿!冗談でも銃を向けるのはやめなさい!」

 

「きゃあ!私じゃなくて、こっちの馬鹿に向けなさいよ!」

 

こいつらが安全装置の存在を知らなかったのは小さな幸運。

 

「リサ、この人達はリサのご友人であーるか?」

 

不毛なやり取りをしていると、コーヒーを飲み終えたアヤが様子を見に来た。

あたしはベレッタ93Rを片手に、2人を見たまま答える。

 

「ご友人に正座させて拳銃向けると思う?

こいつらはただのカードオタクで、迷惑者で、

あたしとパルフェムにボラーレ・ヴィーアされても何も学ばないアホ連中よ。

……そうだ。ずっと前、遥か遠くにふっ飛ばしたはずなのになんで生きてんのよ!」

 

「わたしはスノーロードの降り積もった美しい粉雪に優しく受け止められましたの。

この純白のドレスと美貌に相応しい結末でしたわ」

 

「私はレインドロップのため池に突っ込んだの。

運命はいつも私に味方するのよね。ふふん」

 

「間を取って、ホワイトデゼールに残ってる大岩に激突して、

トマトジュースになればよかったのに。で、話は戻るけど、何しにきたの?

またここで決闘始めたら、こいつが火を噴くことくらいわかるわよね」

 

あたしはベレッタのスライドを引く。驚いた連中が後ろに倒れ、尻もちをつく。

 

「お、おやめなさい!すぐ暴力的手段に出る、あなたは何も変わってませんのね!

私達は、ただ決闘の立ち会いをあなたに頼もうと思って尋ねてきただけで、

そこのレインドロップの女と様子をうかがっていただけですわ!」

 

「当施設には玄関という設備が備わっております。

後ろ暗いところがない方は、問題なくそこからご入場頂けるのですが」

 

「わたしは知ってますのよ!?

ならず者達の間では、この教会は狂気の館と呼ばれていると!

近づいただけで暗闇から銃弾が飛んできて、

破壊の衝動に取り憑かれた住人が大砲すら破壊する!

そして不幸にも侵入した魔女は、狂人に叩きのめされ、

未だに寝たきりで身動きも取れない!

当家の情報網を舐めないでくださいまし!」

 

チッ。心の中で舌打ちする。だったら大人しく帰ればいいのに。

 

「それはね、あたしに面倒掛ける奴限定の対応で、こうしてアヤみたいに……」

 

「ほら後ろに!」

 

急にアホ貴族が叫んだから振り返ると、

エリカが恐る恐る聖堂に滑り込んでくるところだった。

ややこしさが加速しそうで、頭をかきむしりたくなる。

 

「エリカ、あんたは下がってなさい!」

 

「うう…里沙子殿、発言禁止を解除して欲しいでござる。お願い。いや、お頼み申す」

 

「だめ。アイロンでじっとしてなさい」

 

「そのハイカラな人達とお話がしたいでござる。

あれもだめ、これもだめじゃあ、あの村で金庫に閉じこもっていた時と変わらないわ。

……やっぱりだめ?でござるか?」

 

「長らく空いていたジョゼット3号のポストが埋まりそうね。

キャラも固まってない奴の出る幕じゃないわ。帰った帰った」

 

「そんなぁ……酷いでござる。えーん」

 

「バレバレの嘘泣きを止めないと、炎が弱点だってことバラすわよ」

 

「そ、それだけは!……しかし、どうしても聞き入れてはもらえぬのでござろうか?」

 

別にバラしたところで、わざわざこんなの燃やしに来る暇人はいないだろうけど、

とにかく状況の改善を阻害する存在にはお戻り頂く。

……と、思ったんだけど、思わぬ人物が待ったをかけた。

 

「リサ、ここは彼女達に変身ベルトのテストを手伝ってもらうのが、

最適かつ最善な解決法であるとアヤは考えるので、あーる!」

 

「え?あなた何言ってるの!あれは軍事機密の固まりなんでしょう。

アホばっかりとは言え、貴族の長と領主に見せてもいいの?」

 

「機密指定されているのは、例の“太陽”を含む各種武装だけなのだ。

ベルトの存在自体は、既に魔国での戦いで明らかになっているから、

格闘攻撃のみの運用なら、なんら問題はないのであるよー。

それに、目的はあくまでカードの物理的運用の動作チェックだから、

大したことはしないのであーる」

 

そして、アヤは持ってきた5枚程度のフロッピーディスクを取り出して見せる。

それを見たカードオタクが色めき立つ。

 

「そ、そのカードは一体なんですの?どういう効果があるのか教えてくださいまし!」

 

「真っ黒でいて、何も描かれていない真っ白な護符……

さすがに軍事機密だけはあるわね。一切の能力が不明だわ!」

 

「あんたら平らだったらなんでもいいの?

こんな正方形の分厚いトレカがどこにあんのよ!」

 

「まあまあ、この様子なら快く協力してくれそうなのだ。

いずれにしろ、テストは終わらせないといけないから、

心配ならリサにも見届けて欲しいのであーるよ」

 

「う~ん、具体的にはどうすんの?」

 

「アヤがS.A.T.S.で変身するのだ。

きっと彼女達も何某かの能力を持っているから、それで攻撃してもらう。

邪魔が入る状況でも、正常にディスクの排出と装填ができるか、確認するだけなのだー」

 

「そこの青風船は?」

 

視線を送ると、エリカがそわそわしながらこっちを見てる。

 

「安全なところで見ててもらうであるよ。

戦い慣れたサムライの霊なら、アーマーの実戦での動きについて、

気づいた点なんかがあれば教えてほしいのだー」

 

「拙者も参加していいでござるか!

やったー!アヤ殿、本当はいい人だったんでござるな!」

 

「まだ誰もいいとは……

もういいわ、あたしの許す範囲で気の済むまでやらせたほうが、さっさと終わりそう。

で、そこのカード馬鹿!」

 

あたしは勝手に体育座りに変更してる符術士二人をズビッと指差す。

 

「話は聞いてたわよね。今からアヤの実験に協力しなさい。詳細は彼女に聞いて」

 

「条件があるわ!実戦形式のテストって言ったわよね?

もし、あなたを行動不能に追い込んだら、その正体不明のカードをちょうだい!」

 

「勝手なこと言ってんじゃ……」

 

「OKであーる!

そこまで高度な戦闘データを提供してくれたなら、何枚でも進呈するのだー!」

 

「やりぃ!交渉成立ね!」

 

「やはりあらゆるカードは、わたしのものになる運命なのですわ!」

 

「ちょ、いいの?カラのフロッピーでも、所有権は皇帝陛下にあるんでしょう?」

 

「負けないから心配ないのだ。S.A.T.S.はVer2.24にパワーアップ済みなのだ!」

 

「バージョンアップ?なら、いいけど……頑張ってね?馬鹿だけど一応能力者だから」

 

「どんと来い、であーる!」

 

 

 

それからあたし達は、教会から少し離れたところにある、開けた場所に集まった。

うっかりあたしの家を壊されちゃ敵わない。

2対1の戦いになるけど、アヤは何の文句もなく受け入れた。あたしが両者に最終確認。

 

「じゃあ、説明した通り、アヤが変身したら開始ね。

魔力切れか後遺症が残らない程度に相手を行動不能にした方の勝ち」

 

「望むところですわ。わたしも伊達に修羅場をくぐってはいませんの。

そう、あれは1月ほど前のイグニールでの出来事……」

 

「カードのレベルは私が上よ。この女とペアなのが不満だけど、かかってらっしゃい!」

 

「皆さん!S.A.T.S.の能力テストへの協力に感謝するのだー!それでは、ポチッとな」

 

アヤが腰に巻いたベルトの画面をタッチすると、

“認識しています”という音声が流れ、彼女が宣言した。

 

「登録使用者名アヤ・ファウゼンベルガー。S.A.T.S.所有者認証をスキップ。

テストモードに移行。全武装をロック。……変身!」

 

すると、アヤを中心として、魔力と電子で構成された二重のリングが回転、

バックルに内蔵されたアーマー情報を実体化し、

見る間に装着者を仮面ライダーフォートレスの姿に変えた。

 

「へぇ、あれがVer2.24ね……」

 

「なんと巨大な甲冑!拙者の肉体が健在なら手合わせを願いたいものね…ものじゃ」

 

バージョンアップしたアーマーは、ゴテゴテした無駄な出っ張りがなくなり、

外観が洗練されていた。特に胴回りの装甲がスリムになって、今までより動きやすそう。

後で聞いたら、希少金属を使用することで、耐久性を12%向上しつつ、

軽量化と省スペース化に成功したらしい。

 

エリカとケンカしてた時に持ち出した何とか電磁石は、その余りで作ったみたいよ。

とにかく、変身が完了したところでルール通りバトルスタート。

まずはパルカローレが先手を取る。カードファイルから1枚ドロー。

 

「遠慮なく行くわよ!モンスターカード、“炎上する幽霊屋敷”!

このモンスターは攻撃後、自ら消滅するけど、直撃すると痛いわよ!」

 

燃え盛る廃屋が現れたけど、一瞬火の勢いを弱めた。

でも次の瞬間、窓ガラスに亀裂が走り、謎の大爆発が起きる。

アヤは迫り来る猛烈な衝撃波を、両腕をクロスし真正面から受け止めた。大丈夫?

バックドラフトを起こした屋敷は、パルカローレの宣言通り自壊。場から消え去った。

 

アヤは反撃に出ることなく、ベルトの動作チェックを行う。

ブランクディスクしか入ってないディスクホルダーに手をかざし、

1枚フロッピーをドロー、ドライバーに装填。

 

”情報がありません”

 

当然何も起こらないけど、結果に満足してる様子。

 

「おお~凄いでござる!

巨大な妖怪を召喚した少女も、それを受け止めたアヤ殿も、驚くべき力でござる!」

 

「言っとくけど、あの娘一応大人だから、本人の前で子供扱いするんじゃないわよ。

癇癪を起こされたら面倒だから。まあ確かに、言動さえまともなら、っての多いのよね。

あたしが知ってるやつには。……ん?」

 

なんか違和感を覚えつつも、あたしを放って試合は進む。

今度はユーディがブックからカードをドロー。魔力をチャージする。

 

「ホホ、そんな次につながらないモンスターでは、一時しのぎにしかならなくてよ!

“差し押さえ寸前の高層ビル”、召喚!

このモンスターは高い防御力を持つけど、攻撃は全くできない。

よって、更にフィールドカード、“内紛勃発による緊急的自衛権”を発動!

このカードは場に存在する限り、攻撃力ゼロのモンスターの攻撃力を2000にする!

さあ、行きなさい!全門発射!」

 

いきなり、ドでかいビルが地面から生えてきて、

窓という窓からグレネードランチャーやミニガンが銃口を覗かせ、

アヤに集中放火を浴びせる。

いくらライダーに変身中のアヤも、これには堪えてるみたいで、

その場でよろめきながらどうにか体勢を立て直そうとする。

 

「くっ、なんの!アヤの発明品は絶対に負けないのだー!」

 

じきに銃撃が止むと、今度はアヤも反撃。

もちろん動作チェックが第一目標だけど、わざと負ける理由もない。

軽くなったボディで軽快に地を駆け、武装したビルに格闘戦を仕掛ける。

 

「やあっ!」

 

アヤが魔導バッテリーから供給されたエネルギーで、

50kNのパンチ、80kNのキックを連続で食らわせた。

壁面がぶち破られ、1階が大きく揺さぶられた武装ビルが斜めに傾く。

横でエリカが目を輝かせる。

 

「息を呑むほどの戦じゃ!身体さえあれば拙者も戦いに加わるものを!口惜しや」

 

「あったところでまた1ターンキルされるのがオチよ。黙って見てなさい」

 

順番が周ってきたパルカローレが、またカードをドロー。

素朴な疑問なんだけど、こいつらがモンスターに割り当ててる攻撃力の単位って何?

 

「ふん、パンチ一つで傾くようなデカブツの何が”次につながる”よ。

モンスターカード、“機械仕掛けの輝く星テラ・ストライカー”、諸元入力開始!

……私のターンは終了よ」

 

カードは発動されたけど、肝心のモンスターが影も形も見えない。

とりあえず、さっさと終わることを祈りつつ、ユーディのターンを見守る。

 

「何をボーッとしていますの!戦いはスピードが命ですのよ!?

わたしのターン、“百年煮込んだ治療マナ”発動!

“差し押さえ寸前の高層ビル”のダメージを完全回復。

但し、高層ビルの使用ペナルティとして、1ターン後は完全に操作不能になる。

……でも、元々壁モンスターだから問題はない。わたしのターンは終了ですわ」

 

「う~、アヤもだんだん燃えてきたのだ!

この勝負を征して皇帝陛下に勝利をプレゼントするのはアヤなので、あーる!!」

 

アヤも本気を出したみたいで、

極限まで筋力を増幅したキックやパンチを連続で繰り出し、高層ビルに戦いを挑む。

でも、いくらライダーでも相手がデカすぎる。

1階部分の外部は破壊できるけど、ビルを支える柱や上層階がちょっとね。

 

タイムアップになったみたいで、アヤはステップを取って敵から離れる。

この制限時間も誰が決めてるのか知らないけどさ。

符術士ってよくわからんわ。なんかパルカローレの笑顔が不気味だし。

 

「時は来たり、ね……私のターン。クラス8カード、

“機械仕掛けの輝く星テラ・ストライカー”、攻撃開始」

 

それだけを告げると、何か上から圧倒的なエネルギーが迫ってくる。

あたしが“それ”に気づいた瞬間……!

 

天から太い光の柱が降り注ぎ、ユーディの高層ビルを粉々に粉砕し、

ライダー姿のアヤに装甲の上から大ダメージを与えた。

 

「きゃーっ!」

 

「はぐううっ!!」

 

ゴロゴロと地面を転がるアヤ。これは、人工衛星!?

なんだってこんなもん持ってるのよ!

 

「フフフ……上空400kmからの一撃はどうかしら。反撃も防御も不可能。

さあ、あなた方に私の最強カードを倒す術が、あるか、し、ら……」

 

あれ?最初だけ得意げに話してたけど、なんか急速に顔色が悪くなって、

ふらふらと木陰に隠れた。まさか。

 

「(嘔吐する音)!!……ほら、あなたの、ターンよ……」

 

やりやがった!とうとう二人共ゲロ女になりやがったわよ、奥さん!

もう他の符術士を見つけても、こいつらには関わらないよう忠告することにしましょう。

 

「……凄まじい攻撃じゃったが、流石に拙者もこれには幻滅である」

 

エリカに引き気味で言われてるようじゃ、本格的に終わってるわね。

それでもパルカローレは青い顔で、アヤに次の行動を求める。

 

「私は、まだ2回撃てるわよ……“マナの間欠泉”3枚で魔力を補給すれば、

ギリ2回分……フヒヒ」

 

「もう止めときなさい!1発で吐いてるくらいなら、2回目は別のもんが出るわよ!」

 

「そうですわ!わたしの高層ビルまで破壊して、はた迷惑なカードですわ!」

 

「あんたは黙ってなさい!元祖ゲロ女!」

 

ヤバイわね。魔力どころか、脳に酸素が足りてないらしく、判断能力まで落ちてる……!

あたしは慌てて止めようとするけど、アヤは立ち上がった。

 

「アヤ!?そんな怪我で何する気?」

 

「テストは……複数回行うのが基本であーるよ。

本来は他者によるクロスチェックが理想だけど、

アヤは自分の仕事は最後までやり通すのだ……」

 

「あなた……」

 

傷ついた仮面の向こうに、彼女の笑顔が見えた気がした。

アヤはディスクホルダーに手をかざし、1枚のフロッピーをドロー。

でも、その時アヤもあたしも異変に気づく。

何も描かれているはずのないラベルに、何かの印が描かれていたのだ。

丸に簡略的な炎を収めた何かのエンブレム。その時、エリカが大声を上げた。

 

「あーっ!あれはシラヌイ家の家紋だわ!のじゃ!」

 

「家紋?……ちょっと、ちょっと待ちなさい。あんた、そもそもなんでここにいるの?

アイロン持ってきた覚えはないわよ」

 

「うむ、皆が急いで出ていってしまうものだから、

とっさにアヤ殿の“ふろっぴー”に憑依したのじゃ。

その際、拙者の霊体の一部がくっついてしまったと考えられるわ」

 

「お馬鹿!あんた、自分が何したのかわかってんの!?変なデータがフロッピーに……」

 

「待って欲しいのだ、リサ」

 

「ああもう!ごめんアヤ、フロッピーに変なもんが……」

 

「テストするのだ」

 

「え?」

 

何を言い出すかと思えば。

まさか何が起こるかわからない、幽霊が取り憑いたフロッピーを使うつもり?

 

「あなたまさか、それ……」

 

「こうするのだー!」

 

アヤはシラヌイ家の家紋が描かれたフロッピーを、ドライブに思い切り差し込んだ。

 

[PHANTOM CODE]

 

聞いたことのないシステム音声が流れると、アーマーが青白い炎に包まれ、

ボディの輪郭が幽霊のようにぼやけた新形態に変身。

構造にほとんど変化はないけど、カラーが全体的に紺色を基調としたものになり、

アーマーに合わせた長い刀を二本差している。

 

「おお、これは新発見!

直ちに性能をテストして、皇帝陛下にご報告する義務が発生したのは、客観的事実!

つまり、やっぱりアヤは勝たなくてはいけないので、あーる!」

 

ゴツいアーマーとは対象的な女の子の声で宣言すると、

アヤは両方の刀をすらりと抜いて二刀流となり、

再度符術士達に戦いを挑むべく歩きだす。

酔っぱらいのような千鳥足でうろつくパルカローレを無視して、

今度はユーディがカードをドロー。

 

「デルタステップが瀕死の今、わたしが勝利する絶好のチャンスですわ!

参りなさい!“ミサイル生花・鋼鉄美人”!」

 

剣山に固定された約40門ミサイルポッドが現れ、アヤにロックオン。

次の瞬間、乾いた噴射音と共に全門同時発射し、誘導ミサイルが彼女に食らいついた。

だが、ライダーアーマーのサーチアイが全弾を補足。

アヤがディスクホルダーからフロッピーをドロー、ドライブに装填。

 

[VANISH CODE]

 

PHANTOM CODEの新しい能力が発動。クロノスハックを使えるあたしだから見えたけど、

アヤもまた超高速で移動し、二刀流で追尾ミサイルを全て両断。

最後に砲身を真っ二つにして、元の時の流れに戻った。

驚くのは一瞬でモンスターとミサイルを破壊されたユーディ。

 

「えっ、どうして!?いつの間に攻撃を受けたと言うの!」

 

「ふ~む。あれは拙者のような幽霊がどろろんと消えるように、

敵から見えないほどの高速移動する能力であると考えられるのじゃ」

 

「説明係乙。まー、そんな感じでこの企画における立ち位置模索するといいわ」

 

あたしらが離れたところで語り合ってると、

死に体のパルカローレがへらへら笑いながら、空に向かって両手を掲げる。

 

「うへへへ、おひさまの光が、あたたかい……来る、私を、迎えに来てー!!」

 

逃げて、という暇もなく、空が眩しく輝き、回避不可能な超広範囲攻撃が降ってきた。

でも、その一瞬前にアヤがまたドローしたフロッピーをドライブに装填していた。

 

[STYX CODE]

 

コードが発動した瞬間、戦闘衛星のレーザー砲が一帯を焼き尽くした。

遠くにいたあたしが坂をスライディングして滑り降り、どうにか直撃を避けられた攻撃。

アヤはどうなってるのか……あたしが最悪の事態を想定して坂を上ると、

そこには無傷で立つアヤの姿。

 

「一体どうなってんのよ、説明係!」

 

「う、うむ。

地面にめり込んで回避する直前、彼女が拙者と同じ存在になったでござる!」

 

「つまり、どういうことよ!」

 

「ほんの数秒だけ三途の川を渡り、この世ならざるものとなることで、

現世の攻撃を完全に無効化した、という表現でいいかしら?」

 

「やりゃできんじゃない。あのライダーシステム、まだまだ伸びしろありそうね。

また後で新フォームの名前、アヤと相談しなきゃね」

 

あたしがエリカとだべっている間に、決着の時が来る。

パルカローレはもう腐敗し始めてるし、ユーディもカードを選んでる隙がないほど、

二刀流のアヤに接近を許してしまった。

 

「やったわね、アヤ。新しいフロッピーを手に入れて、皇帝陛下も喜んで下さるわ」

 

「まだ……終わってないのだ」

 

「え?」

 

「最後のテストが、まだなのだ!」

 

アヤが刀を持ったままの右手を近づけ、指先で最後のフロッピーをドローした。

 

「待って、もう勝負はついてるわ!確かにそいつらは馬鹿だけど、

死んだら困る人がいるタイプの馬鹿なの!思いとどまって!」

 

「テストが終わらなければ……未完成品なのだ!」

 

ガシャンという音と共に、

とうとうアヤは、DEADLY CODEをドライブに装填してしまった。

彼女の二刀流の刀身が、炎のように蒼いオーラをまとい、ゆらゆらと波打つ。

 

一瞬のことだった。目で追うこともできなかった。

アヤが地を蹴ると同時に、剣閃が二本走った。あたし達の時が停まる。

認識が追いついた時には遅かった。

パルカローレとユーディの身体から吹き出たものが、空を染めた。

 

「あっ……」

 

言葉が出てこない。ただ、一歩ずつアヤに近づく。

しかし、徐々に頭が現実を受け入れると、足に力が入り、彼女に駆け寄り、

鋼鉄の鎧につかまって問い詰めた。

 

「なんてことしたのよ!あなた、もうおしまいなのよ!?

謝ったって誰も許しちゃくれない!どうして自分を抑えられなかったの!」

 

アヤは、あたしの肩にポンと手を置く。

 

「何よ!この手はなんの意味なの!?」

 

「ああいう意味なので、あーる」

 

「え……?」

 

いつもの呑気な声で彼女が指差した符術士達の骸を見ると……骸?

パルカローレとユーディは、泡を吹いて倒れているだけだった。

 

 

 

「完全にマナを消費しきって疲弊しているだけなので、

濃いめの砂糖水を飲んで休めば大丈夫です。

お二人とも、今日は無理せずここで休んで行くといいでしょう」

 

「げべれべれ……」

 

「爺や、お家に帰りたいわ……」

 

「最悪。本当、最っ悪……!」

 

エレオノーラの手当を受けた二人は、座って話ができるまでに回復した。

縮んだ寿命を返して欲しい。

 

「わかってるなら一言いいなさいよ、アヤ!

こいつらよりあたしが先に心臓麻痺で死ぬところだったわよ!」

 

「ごめんなのだー。

新機能を目の前にして、我を忘れるほどワクワクが止まらなかったのだ。

反省してるから許して欲しいのであーる……」

 

エリカが言うには、あのDEADLY CODEは、

形のないもの、つまり悪霊や敵魔道士のマナや魔力を斬って消滅・無力化させるもので、

物理的損傷を与えるものではないらしい。

 

「里沙子殿、拙者は自分が恐ろしい。

拙者がふろっぴーに憑依しただけであのような強さが顕現するならば、

もし拙者が肉体を取り戻した時、

それは恐ろしい修羅がこの世に降臨するということに……!」

 

「ならんわ、ワンパン侍。大人しくアイロンの妖精続けてなさい。

……ふぅ、で?そのフロッピーはどうするの、アヤ」

 

「やっぱり皇帝陛下にご報告しなければならないであーるよ。

その際、エリカ殿についても説明が必要になるのは必然であり、

この事実に対する対応策は現在模索中で……」

 

「あ、持ってっていいわよ。アイロンごと」

 

「ひどいわ!私の活躍で新しき甲冑が手に入ったっていうのに!

拙者用の仏壇くらい買ってもいいくらいの成果である!」

 

またキャラを忘れてわめきちらす。こいつも大概図々しいわね。

 

「アヤ、また必殺技でこいつ斬ってよ」

 

「許すのだエリカ殿、リサには借りがあるのだ」

 

「ごめんなさいすみませんやめてください」

 

あたしは呆れながら、ため息をひとつ。

 

「勝手にフロッピーに取り憑いたから-100点。

それで新しいフロッピーが生まれたから100点。

説明係としての可能性を見せたから20点。合計20点だから、そうね……

寝床をアイロンから壊れた魔法瓶にランクアップしてもいいわ」

 

「やったー?余り待遇が変わってない気がするが、一応喜んでおくでござる」

 

「ところでアヤ。よく新しい機能を説明もなしに使いこなせたわね」

 

「むー、フロッピーを手にした時、本能が勝手に身体を動かしたのだ。

不思議なことこの上ないのである……」

 

「そうだったの。エリカ、もうフロッピーに変な残りカスとか残してないでしょうね?」

 

「拙者の分身はカスじゃないのである!全部回収して自分の身体に戻しておる!」

 

「じゃあ、もうあのフロッピーは使えないってこと?」

 

「いや、それは大丈夫だと思うのだ」

 

アヤが新しい4枚のフロッピーのシャッターを開けて、ぶつぶつ何かの魔法を唱えてる。

 

「……鋼鉄の海原、停止した知識の濁流、我が手、我が目に、真実を映し出せ」

 

彼女の指先が光って、ディスクの記録面を照らすと、納得した様子でうなずく。

 

「うん、今日の実験で使用した際に、データが焼き付いたらしいのだ。

このまま持ち帰って使えるから心配無用」

 

「よかったじゃない。きっと将軍や皇帝陛下もお喜びよ」

 

「えへへ、嬉しいのだー」

 

ベルトを抱きしめて笑顔を浮かべるアヤ。だけどもうお別れみたい。

夕陽が差し込みカラスが鳴いてる。彼女はベルトをカバンにしまうと立ち上がった。

 

「今日は楽しかったのである。アヤはそろそろ帰らないと」

 

「うん。次の日曜、いつもの店でね」

 

「エリカ殿も、また会える日を楽しみにしてるのだ」

 

「うむ、苦しゅうない!苦しゅうない!よきにはからえ!」

 

「後で苦しい思いしたくないなら挨拶くらいちゃんとなさい」

 

「アヤちゃんまたね!バイバーイ!」

 

「キャラを捨てろとまでは言ってないわ。とにかく、またね」

 

アヤも別れの言葉を返すと、ドアを通って帰り道についた。

これで今日は一件落着、じゃないのよね。

 

ちびちび砂糖水を飲みながら震えてる死体2人を、明日にでも帰らせなきゃいけない。

こいつらは聖堂の長椅子で雑魚寝でいいわね。

世の中にはアイロンの中で寝ている可愛そうな人もいるんだし。

 

帰る時には宿泊費と治療費合わせて1000Gずつくらい頂こうかしら。

財布がなかったら領地に直接請求しなきゃいけないんだけど、面倒くさそうね。

この世界の損害賠償請求の手続きってどうなってるのかしら。

 

とか考えてると、お腹が減ってきた。

夕食には少し早いから、エリカの新住居、壊れた魔法瓶を取ってきましょうか。

あたしは青い風船と共に、物置に向かった。

 

後で聞いたら、皇帝陛下は非殺傷武器を持つトリッキーな新フォームを、

えらく気に入ったらしく、

自ら「仮面ライダーフォートレス・インビジブルフォーム」と名付けたらしいわ。

 

 


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