面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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賞金稼ぎギルドと接触
とにかく肉が食いたい人は、すき家の牛丼キング(裏メニュー)がコスパ良くてお勧めよ。


その日、あたし達は街の酒場で昼食を取っていたの。

メニューはパンとフライドポテト付きハンバーグ、それとサラダのセットね。

あたしはエールも頼んだんだけど、2杯目頼んだところでジョゼットが、

“やっぱり昼酒はダメだと思います!”と入居時に決めたルールを

破りまくってきたので、罰としてポテトを器用にフォークで全部盗んでやった。

 

「あーっ!わたくしのポテトが!

シスターの数少ない嗜好品になんてことを!悪魔めぇ……」

 

「うるさいわね。さっさと食べないからよ」

 

悲しそうに寂しくなった鉄板を見つめるジョゼット。

好物だったらしく涙目になって大人しくなった。言っとくけどあたしは何にも悪くない。

こうしてただ飯を食うために街まで繰り出す羽目になったのもこいつのせいなんだし。

 

朝は彼女に作らせたのよ。まぁ、結論から言うとまずくはないけど美味くもなかった。

ミルク粥は火を通しすぎてて完全に炊き上がったご飯になってたし、

コンソメスープも味が薄すぎて全然パンチが効いてない。

 

断言してもいいけど、あたしの好みじゃなくて、明らかに調味料が足りてない。

ミルク粥も見た目がアレなだけでもしかしたら、と思って一口食べたけど、

変な残り香のするただの飯だった。

たとえ召使いでも人が作ったものにいきなりケチ付けるのは嫌だからまずは聞いてみた。

 

“ジョゼット、これ調味料何使ったの”

 

“塩です!”

 

“少なすぎて全然味がしないわ。ミルク粥は加熱しすぎてお粥になってないし、

スープも薄すぎて白湯と変わらない。

メシマズとまでは行かないけど、毎日これじゃあ、はっきり言ってうんざりよ”

 

“そんなぁ……じゃあ、お下げします”

 

“待ちなさい。とりあえずこれは全部食べる。

飯を粗末にする奴と食い方が汚い奴は、あたし内ヒエラルキーでは汚物より下よ。

とにかく、これ食べ終わったら街に行く。調味料を買い揃えてレシピ本を買うの。

多分、あんた自己流かつ目分量で飯作ってるでしょ。

ちゃんと教本の通りに作ればまともな代物になるわ”

 

“やったー!街に行けるんですね!……あのう、ちょっと時間が余ったら布教活動を”

 

“だめ。用事が済んだらとっとと帰るわよ。頭痛が激しくなる前に”

 

“ぶー!”

 

“ぶーじゃない。確か調味料は市場を西に抜けたところの、

ちゃんとした店舗の雑貨屋にあったわね。

100Gあげるからオリーブオイルや固形コンソメやらガーリックパウダーやら、

入れたら美味しくなりそうなものいろいろ買ってらっしゃい。レシピ本もね”

 

“はーい”

 

てなわけで、いろいろ調味料を買い漁って、若干分厚い料理の教本を買ってきたのよ。

包丁の基本的な使い方まで乗ってる丁寧なやつ。

こいつ一人だとデスソース買いかねないから、面倒だけど結局あたしも付き添った。

 

……しかし、面倒で思い出したけど、

あたしは楽をするためにこいつを住まわせたんだけど、

なんかこいつが来てから面倒な思いばかりしてる気がする。

 

この辺にしとかないとタイトル詐欺になりそうだから、

そろそろこいつを一人前の召使いにして、

あたしの優雅な食っちゃ寝ライフをお送りしないとまずいことになるわね。

店員の“ありがとうございました”を背に店を出ると、太陽が眩しい。

まだ正午には早いけど、お昼にしようかしら。

 

“ジョゼット、酒場でご飯食べましょう”

 

 

 

で、冒頭に戻るわけ。あたしは元々食べるの早い方だし、

ジョゼットは失ったポテトの分、量が減ったから2人ほぼ同時に食べ終わったの。

紙ナプキンで口を拭いて、代金を支払うためにマスターを呼んだ。

 

「マスター、お勘定お願い」

 

「ありがとよ。20Gだ」

 

「はい、ごちそうさま」

 

さて、席を立とうと思うんだけど、

隅っこのテーブル席でこっちをチラチラ見てる連中がいるのよね。

間違いなくなんかちょっかい掛けられそうで、

あたしの頭ん中で警報ランプが点滅してる。

いつでもピースメーカーを抜けるように右手に意識を集中しながら、

ゆっくりと立ち上がると、その一団の中から、赤髪のツインテールの女の子が出てきて、

こっちにやってきた。歳はジョゼットよりちょっと上くらいかしら。

 

女の子はあたしのそばで立ち止まると、ニッコリと笑い、声を掛けてきた。

やっぱり彼女も銃を持ってる。変わった銃ね。

この世界オリジナルの銃かしら、銃身に肉厚の歯車が幾つか取り付けられてる。

歯車の力でスライドとハンマーを引くオートマチック拳銃ってところかしら。

話がそれたわね。とにかくその娘が話しかけてきたのよ。

 

「こんにちは、私ソフィアっていうの!」

 

「……斑目里沙子よ。何か用?」

 

「聞いたわよ!あなた銃だけで魔狼の牙をやっつけたんですって?」

 

「3人だけね。頭目は将軍が殺したし、残りの1人は豚箱行きよ。……で、用件は?」

 

「ねぇ!どうやって奴らの魔障壁を破ったの?

並の銃じゃ傷一つ付かないって話なのに!」

 

ソフィアって娘は小さく跳ねながらあたしに武勇伝を求めてくる。

早く帰りたいんだけど。

 

「簡単よ。でかくて強力な銃を使った。

奴らのバリアも完全無欠ってわけじゃなかったってこと。

もっとも、銃で殺したのは1人で、後の2人はダイナ……じゃなくて、

トラップに引っ掛けて爆弾で殺したのよ」

 

あたしは左胸のCentury Arms M100をポンポンと叩いて見せた。

ホルスターから覗く黄金銃を見たソフィアがますます興奮する。

 

「すごーい!こんな細い指でよくそんな銃使いこなせるわね!」

 

彼女がいきなりあたしの手を取って指を一本一本なで始めた。

何この娘。初対面なのにグイグイ来るわね。

ジョゼットといい、この世界じゃこれが標準なのかしら。

ちょっと気持ちよかったのは内緒よ。

 

「そろそろ用件を話して欲しいんだけど」

 

「あ、そうだった!ごめんなさい!ええとね。あなたに私達のギルドに入って欲しくて」

 

「ギルド?」

 

「そう!あそこのテーブルに座ってるのが私の仲間。

私達みたいにいろんな得意分野を持つ仲間が集まった賞金稼ぎのグループを、

ギルドっていうの。

あなたも“ビートオブバラライカ”に入って一緒に賞金首を追いましょう!

ほら、あそこにいるのが仲間。みんな変わってるけど良い奴ばっかりよ」

 

ソフィアが指差したテーブルには男女数人が座っている。

何人かが軽く手を挙げて会釈してきたから、一応こっちも指をひらひらさせて応答した。

そして心の中でため息をついて、どうやって断ろうか考えた。

基本人嫌いなあたしが、

わざわざ見ず知らずの連中のグループに入りたがるわけもないわけで。

 

「ああ……ごめんなさい。せっかくだけど賞金稼ぎとか目指してるわけじゃないの。

たまたま家に火をつけようとした馬鹿が賞金首だったってだけよ」

 

「ええーっ!?その賞金首を返り討ちにできるくらい強いのに、

腕を活かさないなんてもったいないよ~」

 

「やな言い方だけど、お金には困ってないの。……ジョゼット、行くわよ」

 

「あ、はい!」

 

「あー待って!」

 

あたしが追いかけるソフィアを無視してバーから出ようとすると、

テーブルからテンガロンハットを被って顎髭を生やした男がドアの前に立ちはだかった。

やっぱりこいつも銃持ってる。

 

「邪魔なんだけど」

 

「まぁ、そう急がなくてもいいだろう、姉ちゃん。

ソフィアはああ見えてもこのギルドのリーダーなんだぜ。

あいつが新入りを迎えるなんざ滅多にねえんだ。もう少し考えてもいいんじゃねえか?」

 

「余計なお世話よ。あたしは集団行動がこの世で2番目に我慢ならないの。どいて」

 

「そーいうこと!ねぇ、本当にダメ?」

 

ソフィアが甘えるように後ろから抱きつこうとするふりをして、

腰のピースメーカーに手を伸ばしてきたので、さっと身をかわす。油断も隙もないわね。

伊達にギルドとやらのリーダーを名乗ってるわけじゃなさそう。

 

「一度だけなかったことにしてあげる。次はあんたの腹に穴が開く」

 

「テヘ、バレたか」

 

「そこのデカいのもいい加減にどかないと、

迷惑行為防止条例違反で駐在所のお巡りに突き出すわよ」

 

「面白え、どうやって駐在所まで駆け込むつもりだ」

 

「そのうち店に入れなくて困った客が居眠り保安官叩き起こしてやってくるわよ」

 

「そして、死体になったあんたを見つける、と」

 

「あのね。あたしに銃を抜かせたいならもっと上手くやんなさい。

できもしないこと口にするのは三流の仕事よ。殺したいならさっさとなさいな。

今度はあんたらが賞金首になって一生逃げ隠れする羽目になるけどね。

なんならみんな仲良く牢屋に入ったらどう?かえって今よりいい飯が食えるかもね。

もう面倒だからはっきり言ってやるけどね、

あんたらみたいな貧乏臭い連中とつるむくらいなら死んだほうがマシなのよ、アホ」

 

「なんだと……!」

 

テーブルにいた連中も立ち上がる。その時、揉め事の元凶のソフィアが割って入った。

そのツインテール思い切り引っ張ったら面白そう、と

割りと大事な局面でどうでもいいこと考えちゃうものなのよね、人間て。

 

「まーまーみんな落ち着いて。私がちゃんと事情を説明するから、みんな銃を収める。

ほら、マックスもどこうよ。本当に保安官が来たら面倒だから」

 

有象無象の連中が各々のホルスターにかけていた手を引っ込め、再び席についた。

マックスとかいうデカブツもようやく入口の前からどいたので、

この隙に走って逃げようかと思ったけど、ジョゼットがいない。

周りを見回して探すと、いた。バーカウンターの影で丸くなって隠れてた。

使えないどころかマヂでお荷物!

 

そういうわけで、大きな丸テーブルに移って“ビートオブバラライカ”っていう

ちんどん屋共と卓を囲む羽目になったあたし。ジョゼットは罰として椅子なし。

立ったまま聞いてなさい。

 

「……で、そもそもなんであたしに近づいたわけ?

ただの戦力補強ってわけじゃあないんでしょ」

 

「うん、実はね。私達、ちょ~っとだけあなたにムカついててね」

 

「サーカスのピエロを殺した覚えはないんだけど」

 

「その一言多いとこも含めてね~。あなた、魔狼の牙を殺したじゃん?」

 

「正確には子分3人ね」

 

「そいつら、実はあたしらが狙ってた獲物なんだよね~。

何ヶ月も足取りを追いながら作戦立てて、一気に畳み掛けようと思ってたんだけど……

誰かさんのお陰で先行投資が一瞬でパー」

 

「あんたの頭と一緒ね」

 

「もう!喧嘩になること言わない!」

 

「既にこっちが喧嘩売られてる気が」

 

「とにかく!賞金稼ぎでもない一般人に横から獲物をかっさらわれたままじゃ、

ビートオブバラライカの名が廃るのー!この界隈じゃメンツってものが結構重要でさ。

あなた達にしちゃ馬鹿馬鹿しいだろうけど、

弱小ギルドには情報も依頼も来なくなる死活問題なわけ!」

 

急に癇癪を起こす起こすソフィア。いきなり大声出すところはジョゼットと似てるわ。

 

「あたしにどうしろってのよ。言っとくけど、作戦とやらの通りに戦ってたとしても、

あんたら間違いなく全滅してたわよ。

たまたま将軍が駆けつけてくれたから頭目を倒せたけど、

奴にはM100の近距離射撃も効かなかった」

 

あたしはホルスターからM100を抜いていろんな方向から眺める。

黄金の超大型拳銃を見て、他の雑魚連中が唾を飲む。

 

「9mm弾じゃなくてライフル用の45-70弾を直接撃ち出すハンディキャノン。

こいつを至近距離で撃っても傷一つ付かなかったの。

これでもあんたらの作戦ってやつで殺せてたって本当に言える?

将軍の剛剣でようやく倒せた賞金首を、腰の物でさ」

 

「それは……」

 

「話は終わり。本当にあたしたちは帰るから。大人しく別のターゲットを狙うことね。

ほら、帰るわよポンコツジョゼット」

 

「ええ!?わたくしポンコツじゃないですぅ……」

 

「誰のお陰で無駄に時間浪費したと思ってんのよ、

帰ったらまともな料理「待って!」なんなのよもう!」

 

ソフィアがしつこく食いつくいてくる。いい加減イライラしてきた。

 

「もう結論は出たでしょう!あんたらが獲物を殺せなかったのは、

あんたらが弱かったから!以上!」

 

「それは認める!でも、さっき言った通り、このままじゃ私達の顔が丸潰れなの!」

 

「それがあたしと何の関係があるの?あんたの顔がへちゃむくれだろうが、

グリコ森永事件だろうが、あたしは何にも困らない」

 

「協力して!あなたの力が私達よりずっと上で、

あなたじゃなきゃ魔狼の牙は倒せなかったって証明して欲しいの」

 

「はぁ、おたくらプライドってもんはないの?

あんた、自分達が弱いことを証明しろって言ってんのよ?

それに証明したらあたしになんか得でもあんの?

だいたいそんなもんどうやって証明するのよ。八百長でもやれっての?」

 

「そんなことわかってる……!でも、死んだ賞金首を生き返らせるわけにもいかないし、

かといってこのままじゃ私たちはお先真っ暗なの!

八百長は無理。みんなが見てるから金品のやり取りがあったら必ずばれる。

……決闘して欲しいの!なるべくこっちに有利な条件で。

勝ったらあなたには最高の栄誉が与えられる。街のみんながあなたを尊敬する」

 

「尊敬か。あたし的要らないものランキング第2位を持ってくるとは大したものね。

すごくやる気が出ない」

 

「里沙子さん、受けてあげましょうよ。この人達だって生活がかかってるんですから」

 

ジョゼットが余計な口出しをしてきたので腹立ちまぎれに片乳を掴んでやった。

 

「キャア!里沙子さんのスケべ!」

 

「とにかく、事情があんのはどいつも一緒よ!

会うやつ全員の生活の面倒見てたらキリがないわ!ジョゼット、帰るわよ!」

 

「ああん、待ってください里沙子さ~ん」

 

あたしは席を立って、ジョゼットを連れて店を出ようとした。

その時、突然後ろのテーブルが騒がしくなって、

言い争う声や悲鳴が聞こえてきたから思わず振り返ったんだけど……何やってんだか。

 

「……あなた、里沙子って言ったわね。

帰りたいなら好きにすればいい。私も好きにする」

 

「ソフィア、止めるんだ!」

 

「銃を捨てて、お願いだから!」

 

ソフィアがこめかみに銃を当ててトリガーに指をかけて、必死の形相であたしを見てる。

やめてよ、あたしそういう心のテンション高めの展開苦手なのよ。

引くっていうか、当てられるっていうか。ああ、なんかめまいがしてきた。

 

「あんたさぁ、何やってんの?」

 

「ここであなたをタダで帰したら、もう私たちのギルドはやっていけない。

バラバラになるしかないの。私にはみんなの生活を守る義務がある。

それができないなら、ここで死ぬ」

 

この世界に来て何度めか知らないけど、多分一番大きなため息をついた。

面倒くさいけど、その面倒を元から断ったほうがよさそう。

 

「……ルールはあたしが決める。それが条件よ。外に出なさい」

 

8ビートだかなんだか知らないけど、おかしな連中がワッと喜んだ。

あたしはまたため息。

 

「ありがとう……里沙子」

 

「ふん、さっさと終わらせるわよ。表に出なさい」

 

「やったぁ!里沙子さん優っさしい!

そこに痺れるあ「黙らないとあんたを的にするわよ」」

 

ジョゼットの馬鹿を無視して市場の真ん中にソフィア達を連れ出した。

そこではあたしは適当なものがないかキョロキョロと探す。

お、あれなんかいいんじゃない?

 

「風船は~いかがですか~ひとつ2Gだよ~」

 

「3つくださいな」

 

「ありがとう、お嬢さん。手を離さないようにね」

 

目的のものを買ったあたしはソフィア達のところに戻った。

準備を始めるとマックスとかいうデカブツが聞いてきた。

 

「おい、里沙子。そいつで何をする気だ?」

 

「勝負は早撃ち。ただし、あたしが撃つのは2個。あんたらは1個。

西部開拓時代ではこのルールでガチの殺し合いしてたこともあるらしいわ」

 

「なんだってそんな不利な決闘を」

 

「勝利すればあんたらが後生大事にしてる最高の栄誉ってもんが得られたらしいわ」

 

風船に小石を結びつけながら説明する。

なんとかデュエルっていうルールだったらしいけど、名前は忘れた。

準備が終わるとあたしは広場の真ん中に立って大声で叫ぶ。

 

「聞いてちょうだい!今からあたしたちは決闘をする!

死にたがりの阿呆が居たら、この決闘を見届けて、証人になってちょうだいな!」

 

とたんに市場に悲鳴と歓声が上がり、まともな奴は我先に逃げ出し、

流れ弾を恐れない命知らずが酒の瓶を振り上げながら囃し立てる。

店主がいなくなった肉屋から鶏が一匹逃げ出し、のんきにトテトテ歩いている。

 

あたしはソフィアに風船を2個渡し、あたしは彼女から20mほど距離を取って、

隣に風船を浮かべる。ソフィアも両隣に風船を置いた。これで準備は完了。

 

「昔ながらのルールで行くわよ。

今からあたしがメダルを弾く。地面に落ちたら銃を抜く」

 

「……オーケー」

 

すっかり人気の少なくなった市場に砂を含んだ風が通り抜ける。

ここがエル・パソだったらウィードボールが転がって来たんでしょうけどね。

あたしはポケットから100G金貨を取り出し、まっすぐ左腕を伸ばし、親指に乗せる。

そして、ピィンと空高く弾いた。

 

その瞬間、観衆、ソフィア、そしてあたしの体感時間が限りなくゆっくりになる。

ホルスターに手をかけ、全神経を集中して、メダルが立てる音を待つ。そして、

 

キィン……

 

両者、銃を抜く。

あたしはファニングで標的を撃つ。

ソフィアの銃はオートマチック。その性能は一切が不明。

 

銃声、3つ。

 

それを合図に時間が流れを取り戻した。結果は。

 

酔っぱらい達も目を丸くして黙っている。声が出ないというべきかしら。

それはソフィアも同じだったみたい。

彼女の手は銃口の角度が風船に向く2,3度ほど手前で止まっていた。

そして両隣の風船も割れていた。

 

「……フフッ、なるほど。納得、かしら。本当に2対1で勝つなんてね」

 

「正確には2+αよ」

 

「えっ?」

 

あたしは銃口で肉屋の屋台を指した。そこには首を撃たれた鶏が血を流して倒れていた。

 

「まさか……鶏を撃ってから風船を撃ったっていうの!?」

 

「西部劇の世界じゃ、鶏を撃ってから相手を撃っても栄誉が得られたらしいわよ」

 

数秒の沈黙。

その後、弾けるように、酔っ払い達の歓声が商人のいない市場に響き渡った。

あたしは肉屋の屋台に近寄ると、死んだ鶏を持って、屋台に金貨を10枚ほど置いた。

 

「ごめんね鶏さん。今夜美味しく食べるから。ジョゼット次第だけど」

 

夕食の食材を買ったあたしは、ついでにソフィアに話しかける。

ソフィアが奇妙なカラクリ銃をホルスターにしまう。

 

「……気は済んだでしょ、ソフィア。

あの魔女はあたしと将軍以外誰にも倒せなかった、そういうことで」

 

「ありがとう、本当に、ありがとう……」

 

「今度は誰かに先越されても、下見てないでとっとと次の獲物探すことね。それじゃあ」

 

「……迷惑をかけた、さらばだ」

 

成り行きを見守っていたマックス達に見送られながら、

鶏の死体を怖がってるジョゼットとハッピーマイルズ・セントラルを後にした。

 

「うう……鶏さん血だらけです」

 

「嫌がってもさばかせるからね?

ちゃんとローストチキンなりフライドチキンなり形にしないと、

あんただけ3食酸っぱいパンにするからそのつもりで」

 

「そんなぁ……」

 

そんで、家に帰ってから夕食の準備にかかったんだけど、

さすがにひとりぼっちで鶏の解体させるのは可愛そうだったから、

そばで見ててやったんだけど、いちいち包丁を入れる度に悲鳴上げるから

その度に殴って大人しくさせるのが大変だったのよ。で、出来上がったのがこの代物。

火を入れすぎてカッチカチになった、多分鶏の切り身らしきもの。

 

「なんなのよこれ、固くて噛めやしないじゃない!」

 

「すみませ~ん。教本通りの時間焼いたんですけど、時計が狂ってたみたいで……」

 

「時計?おかしいならなんで早く言わなかったのよ」

 

「そもそもこの世界の時計はあまり正確じゃないんです。

多分うちの時計も狂ってるというか、技術の限界で……

あ!メリル宝飾店にすごく正確な時計が入荷したらしいんです!

時間が来たら音が鳴って、1500万Gもするらしいんですけど」

 

「それ、あたしの!」

 

さっさとしないと、どっかの富豪に買われそうね。

あたしは不安になりながらカチカチの鶏肉をかじった。

ああ、コショウの味しかしない!

 

 

 

 

 

──魔城 ヘル・ドラード

 

 

彼女達を除いてどこにあるのか誰も知らない、闇の瘴気が立ち込める広大な城。

その玉座に鎮座する魔女。世界中に散らばるエビルクワィアーを統率する存在。

闇魔法のベールでその身を覆っているため、側近ですら姿を見たことがない。

彼女は1枚の紙を見てクスリと笑った。

 

「面白い余所者が現れたわね」

 

その白魚のように美しい指で挟むのは、裏世界の手配書。

彼女達の活動を妨害、あるいは殺害したものに報復すれば褒美をもたらすというものだ。

 

「しばらく退屈しなくて済みそう」

 

彼女はトン、とその紙を弾いて暖炉に飛ばした。燃え上がるそれに書かれていたのは、

 

 

──Risako the Gunslinger 15000G

 

 


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