面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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新たな敵の予感?数は4人
朝っぱらからウィスキーで深酒するとすごく身体に悪いの。知ってた?


魔界の程近く

 

正確にはアースとミドルファンタジアの狭間に存在する次元の境目。

そこに4体の人の形をした人ならざる者達が、

重力そして時の概念が存在しない空間に存在していた。

彼女達が放つ魔力の光しかない、ほぼ完全な闇。

 

 

【挿絵表示】

 

 

絹織物で目隠しをした巫女装束の少女が、

編み棒を指先で忙しなく動かしながら、他の3人に問う。

具現化した魔力の糸が編み込まれ、背後の空間にどこまでも続いているが、

何を作っているのかは彼女しか知らない。

 

「ねえリーブラ。深淵魔女が、来なくなったの。どうして?」

 

「集めすぎた賞金と副賞を管理しきれなくなっているみたいですよ。

あと、カラスの世話」

 

何もない空間に腰掛け、大きな辞典を読みながら答えたのは、

2mはあろうかという黒髪を空間にたゆたわせる、濃紫のローブを着た魔女。

リーブラと呼ばれた彼女は、見た目は編み物の少女より年上。

三角帽子を被らないシンプルな装いだが、

それが柔らかな印象を与える美しい顔立ちを引き立たせる。

 

「ほーっておけばいいのになー。魔王さんが死んだのはちょっと寂しいけど、

長年続いてきた戦いが結末を迎えただけのことでありまして、

人間が魔界に侵攻してきたわけでもなかろーに。

深淵さんも、そう必死にならずに、

蓄えた賞金で贅沢するのが賢い選択だと思うわけですよ、ドクトルは」

 

魔女に続いて、白衣姿の女性が、

得体の知れない液体が入った試験管を眺めながら見解を述べる。

銀髪のロングヘアがきらめく彼女の周りには、様々な実験器具や触媒が浮かんでいる。

 

「何を言うのですか、ドクトル!

魔王様を殺したということは、すなわち魔族に対する宣戦布告!

人間共に身の程を思い知らせてやらなければ!」

 

そう声を上げたのは、グラマラスな身体の線がくっきりと浮かぶ、

ピンク色のナース服を着た、眼鏡の女性。

腕や腰にシリンジや薬瓶、医療器具を収納するケースを固定した、

ホルスターを巻いている。

ブロンドのショートカットを後ろでまとめた彼女は、語り終えると、眼鏡を直した。

 

「別によろしいじゃありませんか。私達超上級魔族は一個体で一種族。

横のつながりなど本来ない。

誰が死んだからといって、仇討ちする必要などないんですよ?」

 

「あなたには魔族としてのプライドはないのですか!?」

 

「人間に殺されるような雑魚が死んだくらいで傷つくようなくだらない誇りは、

持ち合わせていません」

 

次の瞬間、看護婦の姿がリーブラのそばに移動し、彼女に鋭いメスを突きつけた。

その刃物と同様に、刺すような目つきで睨みながら。

 

「……撤回しなさい」

 

しかし、彼女は珍しいものを見るように、メスをキョロキョロと眺める。

時々刃先が顔を切るが、流れる血にも構わず、

左腕に持っていた辞書を1ページめくった。

新しいページは光を放ちながら、文字と図形を構成する。

彼女はやはり自らに向けられた凶器を意に介さず、辞書を読む。

 

「メス。外科手術に使用する医療用刃物。オランダ語のmesが語源。

……なるほど、理解できました!」

 

新たな知識を手に入れたリーブラは、血だらけの顔に笑みを浮かべて喜ぶ。

 

「聞いているのですか!?」

 

「無駄だよ。リーブラは死ぬまで本を手放さない。命より新しいページが大事。

いつものことじゃない。そんなに人間が憎いなら、ローナが何かすればいい」

 

巫女装束の少女が、相変わらず器用に編み物をしながらつぶやく。

ローナという女性が、ため息をつく。

 

「カゲリヒメまで何を言うのです。人間の欲望には際限がない。

魔王様打倒を足がかりにして、やがては魔界すら奪おうと目論むに違いないのです。

もう少し危機感を持ってくださいな!」

 

「ドクトル的にはー。魔王というより、

彼に提供してた死霊バクテリアが、あっさり死んじゃったことのほうが気になるかな。

そりゃ、確かに聖属性が弱点だってことはわかってたけど、

あんな豆球みたいな光で全滅ってあんた……」

 

「別に魔界みたいな何もないところ、差し上げればいいじゃないですか。

人間にそれができたならご褒美として。

私はこの静かな空間で読書ができればそれで十分です」

 

リーブラが軽く袖で顔を拭うと、先程の怪我も血も綺麗になくなっていた。

 

「皆さん揃いも揃って自分のことばかり!深淵魔女さんの苦労も偲ばれますわ!

……わかりました、私が斑目里沙子と聖女エレオノーラの首を切除してきます!

その上は、私がこの四魔会談のリーダーに就任しますからそのつもりで!」

 

「お好きにどーぞー。……細胞分裂のスピードが思ったより遅いなー。

リーブラ原因わかる?」

 

「興味が無いので調べる気になりません」

 

「けちー」

 

「もう結構!事が済み次第、あなた方には魔族を率いる存在となって、

キリキリ働いてもらいますからね!」

 

彼女がその場で軽く跳ねると、その姿が掻き消え、後には3人だけが残された。

 

「なーんでそんなに一生懸命になれるのかね。砂と岩だらけの世界にさ」

 

「それこそ調べる気になれません」

 

「私あのオバサン嫌い。うるさくて編み物に集中できない……」

 

こうして、まとまりのない四魔会談は、次元の片隅にひっそりと存在しているのだった。

 

 

 

 

 

その日のあたしは上機嫌だった。

アマゾンから予約したソフトが届く日のような気持ちで、ある物の到着を待っていた。

 

“ごめんください、パーシヴァル販売部の者です。ご注文の品をお持ちしました”

 

「は~い、ちょっと待ってくださいね!」

 

いそいそとドアを開けると、

作業服姿の大柄な男たちとそのボディーガードが立っていた。

彼らに囲まれるように、待ち焦がれた一品が!

 

「取り付けはどちらに致しましょう?」

 

「ええと、屋外のこの辺りに。

玄関先を狙い撃てるように角度を調整していただけるかしら」

 

「かしこまりました。それでは作業を開始しますので、しばらくお待ち下さい」

 

作業員がボディーガードに守られながらガトリングガンの設置を開始した。

以前からちょくちょく言ってたけど、

あたしの平穏を邪魔する輩を未然に排除するために、

セントリーガン的なものを奮発して導入したの。

 

お値段1基5万G。銃砲店から会社に直接注文書を送った時、あたしの名前を見たのか、

パーシヴァルの社長さんが気を利かせて大幅値引きしてくれたのよ。普通は20万するの。

きっと普段の行いがいいからね。

 

子供部屋の窓から見て左手あたりに、

トンテンカンテンと組み上げられていくガトリングガン。

かつてあたしが持ち込んだものとは、もはや別物。

発射レートも重量も威力も改善され、上から差し込むマガジン方式から、

銃身側部に箱型弾倉を取り付けるボックス方式に変更。よって装弾数も飛躍的に上昇。

ハンドルからトリガー方式に改良されたガトリングガンは、

ミドルファンタジアのミニガンと言えるくらい性能を増していた。

 

作業の音を聞きつけた暇人共が外に出てくる。

ガトリングガン導入に協力してくれたルーベルはともかく、

ジョゼットがまた何か騒ぎ出しそう。と、思ったら案の定。

 

「里沙子さん!何なんですか、それ!ガトリングガンにしか見えないんですけど!」

 

「よくわかってんじゃない。最新式のガトリングガンよ。

変な奴が来て居座ろうとしたらこれでパチパチするの」

 

「駄目ですー!ここはマリア様のお部屋……」

 

「じゃありません。ここは庭です。あたしの土地です。

これが駄目なら、体中に銃を巻き付けてるあたしは家に入れないと思うがどうか。

……この屁理屈は前に使ったわね」

 

「うう……ミサに来る信者の皆さんがびっくりするじゃないですか」

 

「発想の逆転が肝心よ。逆に信者達はこのガトリングガンで安全が確保されるってね。

いつかのようにヤケを起こした野盗達が押し寄せてきても、

この素敵なマシンガンがお掃除してくれる。

教会に逃げ込めば大丈夫って次のミサで言っときなさい」

 

「それは、そうかもしれませんけど……」

 

なんか腑に落ちない様子のルーベルにもお礼を言わなくちゃ。

 

「はい、議論終わり!ルーベルも、ありがとね。

玄関にドアスコープ付けてくれたから、来客が変な奴かどうか、

ドアを開けずにある程度判断できるようになった」

 

「そりゃあ、日曜大工程度だから別にいいんだけどよ。敵が人間だったらどうするんだ?

企画的にヤバイんだろ」

 

「殺すのは全自動のガトリングガンであって、当局は一切関知致しませ~ん!」

 

「とんでもねえ奴だな。

まぁ、買っちまったもんはしょうがねえから、本当に防犯用にだけ使えよ?」

 

「わかったわ!」

 

元気よく返事したその時、取り付けが終わったみたいで、作業員が話しかけてきた。

 

「お客様、設置と動作確認の方、完了致しましたので、

こちらにフルネームでお名前をお願いします」

 

「は~い、ご苦労様です」

 

あたしは、作業員が差し出した書類の署名欄にRisako Madarameと記入した。

これであたしの平穏な生活を脅かす不届き者を、

スイッチひとつでハチの巣にできるわけね。

作業員が帰り際に渡していった説明書を読む。

 

えーと?別添のリモコンのボタンを押すと、微弱な音波魔法が放たれ、

銃身のトリガーに内蔵された受信装置とリンクし……パス。銃撃を開始する、と。

うん、それが分かれば十分だわ。

 

「お姉ちゃん、それって、最新式の装備。どうして?」

 

「何か工事をしていたようですが、それは?」

 

「ああ、カシオピイアとエレオも来たのね。見てよこれ、悪い奴らぶち殺しマシン。

あたし達の生活をより良いものにしてくれる便利グッズよ。

もう変な来客に悩まされることなく、お気に入りが0になるまで、

グータラ生活だけを読者にお送りすることができるの。

もう誰が痛い思いしてバトル展開なんかやるもんですか。

手始めに、今回は1万字くらい掛けて、みんなでカシオピイアの愛称を考えましょうか。

う~ん、エレオみたいに、ピイア?微妙にピーネと被るわね」

 

「今のままで、いい……日報、書かなきゃ」

 

「あまり物騒なフラグを立てないでくださいね。

わたしはお昼のお祈りがありますので……」

 

ピイアもエレオも行っちゃった。

何よう、この素敵な近代兵器にもっと興味を示してもいいと思うんだけど。

代わりにワクワクちびっこランドの住人が、窓から顔を出して、

ガトリングガンのメタリックボディに興奮する。

 

「わ、里沙子お姉さま!

何の工事か気になっていましたが、この大きな連発銃はもしかして?」

 

「フフッ、そうよ!ついに頭のおかしい連中を焼けた銃弾で泣いて帰らせる、

お手軽便利な秘密兵器を購入してしまったのよ!」

 

「ガンガンゴンゴンうるさいから何かと思えば……あんたいくつ銃買えば気が済むのよ」

 

「ピースメーカーやレミントンは勝手に不審者を撃ち殺してくれないでしょ?

その点これは全自動……いや、全自動とはまだ言えないわね。

相変わらずスイッチは手動だから。

敵意の有り無しを魔法で判別して作動させる方法がないか、

図書館やら魔女ギルドに相談して、

放っといても敵を攻撃してくれるよう、改良を施す必要があるわ」

 

「付き合ってらんなーい。もうお昼寝の邪魔はしないでよね!」

 

ぴしゃりと窓を閉めるピーネ。

一家の大黒柱が皆の安全を守ろうとしてるのに、パルフェム以外誰もわかってくれない。

あたしは軽く口をへの字にして失望しながら、家に戻った。

 

 

 

 

 

転移完了。この教会があの女の根城ですのね。

壁画にはマリアと……イエスとかいうポッと出の神。

どちらも我ら四大死姫にかかれば滅することなど容易い。

まずは、邪魔な斑目里沙子を血祭りに上げて、聖女の首を頂くとしましょう。

 

コンコンコン、とドアをノックします。

 

“おっしゃ来たわ!行くわよ、チェンジゲッター、ワン!”

 

“うるせえな、まだ不審者だと決まったわけじゃねえだろ”

 

“あのドアを叩く者の99%は罪業にまみれた咎人だって法律で決まってんのよ。

はーい!どなた~?”

 

「……私は、四大死姫が一人、ローナ」

 

“う~わ、こりゃひでえわ。

確かにうちは変な連中いっぱいいるけど、イメクラじゃないの。

そういう店で働きたいなら、街の裏路地を進んで、

スラムに入る直前で左折すれば風俗街があるわ。

あと、その中二病臭い肩書きは需要ないから、

店長さんに新しいの考えてもらったほうがいい。

プロだからピッタリなの付けてくれるわ”

 

「なんて礼儀知らずな!

長年魔王様の専属医を務めた魔界医師ローナに向かって、よくもそんな口を!

今すぐ出てらっしゃい!」

 

“それとあんた。さっきイエスさんのこと馬鹿にしてたけど、

あんたじゃイエスさんとやりあっても塩の柱どころか甘納豆にされるのがオチよ。

ふふ、今度はあたしが心を読んでやったわ。

実際彼に歯向かった魔女が塩漬けにされたの、そうよね?”

 

「はい」

 

「え!今返事したの誰!?と、とにかく出て来なさい!魔王様の仇!」

 

“魔王?ああ、そんなのあったね。

悪いけど、死んだ奴にいつまでも構ってるほど世間様も暇じゃないの。

あれからどんだけ大騒動があったと思ってんのよ。

ちなみにあたしは暇だけど関わるつもりはない。じゃあね”

 

「減らず口を利けるのも今のうちですわよ。

このボロ屋敷を毒ガスで包み込んで、あなたを叩き出すなど造作も無いこと。

フフ……この濃縮呪素を一滴垂らせば、一瞬で気化。

広範囲に広がり上級悪魔すら数秒で砂に変える猛毒ガスに」

 

“ゲッタービーム!”

 

──ドガアアアアアアァ!!

 

 

 

 

 

“いだああああ!!”

 

スイッチひとつを押すことがこれほどまでに快感だなんて。

ナースのコスプレした女が攻撃宣言をしたから、

早速ガトリングガンのスイッチを押した。

予想以上の威力でガトリングガンが吠え、変態中二女がふっ飛ばされた。

 

「里沙子うるさーい!あれ、別のとこに移してよ!」

 

「さっそく活躍してくれてるみたいですわ。この銃声は20mm機関砲ですわね」

 

「はぁ!?人間の形した生き物に向ける大きさじゃないでしょう!

何が平和を作る者(ピースメーカー)よ!寝ぼけるのも大概にしなさい!」

 

ちびっこの文句を無視して、ドアスコープを覗くんだけど、視界の外に出てしまった。

普通の人間なら粉々になってないとおかしいんだけど、形を留めてるってことは、

それなりに強いってことかしら。四大死姫だのはどうでもいいけど。

 

とりあえずあたしは変態の正体を確かめるべく、外に出た。

20mm弾の集中砲火を受けたコスプレ女は、草原で大の字になって横たわっていた。

 

「おーい、生きてるかい?」

 

「トラップとは、卑怯な真似を……小賢しい」

 

「先制攻撃してきたから反撃しただけじゃない。

魔王の知り合いだかなんだか知らないけど、今更何の用?

さっき言ったように、魔王のことなんか忘れてる人のほうが多い。

あれから色々あったからね。そろそろ起きたら?」

 

「くっ……」

 

変態ナースは服に付いた土を払いながら立ち上がり、改めて名乗りを上げる。

 

「私は魔界医師ローナ。主を殺した犯人を倒せる強者が現れることを信じて、

深淵魔女の手配書に賭けたのだけど、待てど暮らせど賞金が釣り上がるばかりで、

一向に成果が現れない。

だからこうして私が自ら魔王様を殺したお前を奈落の底に突き落としに来たのです。

……覚悟なさい!」

 

言い終わると同時に、ローナが腕に差したシリンジをダーツのように投げつけてきた。

でも、残念ね。あたしはクロノスハックをゆっくり発動させると、

超低スピードで向かってくるシリンジを中指と人差し指で挟んだ。

そしてゴミは持ち主に返却を。

ブルーの液体が入った怪しい注射器をそのまま投げ返し、能力解除。

 

「はっ!?」

 

ローナは何故か跳ね返ってきた注射器を避けきれず、慌てて魔力でバリアを張った。

受け止めた注射器がバリアに当たって砕け、中身の液体が飛び散ると、

足元の雑草が急速に腐り、土が養分を失い、白い粘土と化した。

 

「い、一体何をしたと言うのですか!?」

 

「北斗神拳奥義、二指真空把」

 

“ゲッターか北斗かどっちかにしろ”

 

この客にはあんまり興味がないらしく、

ルーベルがダイニングから出ることなくツッコんできた。

正直あたしも絡んでて面白くない。

いつもは頼んでもいないのに出てくるギャラリーが出てこないのが客観的な証拠。

 

冗談はさておき、クロノスハックを知らないってことは、大した相手じゃなさそう。

酒場のマスターでも知ってるのに。

とっとと終わらせて、残りはミニエピソード1本くらいでお茶を濁しましょうか。

 

「何をしたかって?時間の流れを擬似的に止めたの。

どっちかっていうと、あたしの方が目で追えないほど早く動いてるってこと」

 

「その能力で、魔王様をっ……!?」

 

「ハズレ。あんた新聞読んでないでしょ。魔王の息の根を止めたのは、勇者の剣の欠片。

それに目一杯聖属性の魔力を注いでぶった切ったの。ある人がね」

 

「そいつの正体は知っていますわ。聖女エレオノーラ。今、どこに……!

魔王様を殺した仇は!」

 

「言うわけないでしょ。あんたみたいな変態につきまとわれたら可哀想じゃない」

 

「ならその身体に直接聞くまで!!」

 

ローナは両手の指に色とりどりの薬品が詰まった注射器を挟み、

銃弾のような早さで放ってきた。でも、同じ銃弾ならこちらが有利。

あたしは瞬時にピースメーカーを抜いて、迫る注射器の軌道を読み、

手前から順に撃ち落とした。

 

迎撃に成功し、注射器の直撃を避けたのも束の間。

飛び散った液体から何かのガスが湧き出てきたから、今度はクロノスハックを使い、

ローナの後ろに回り込み、ガスに向かって蹴り飛ばした。

時間の流れを戻すと、ローナは自分の毒ガス兵器に包まれ、パニックを起こす。

 

「うっ、ごほごほ!!何が起こっているの!くうっ、ああっ……」

 

「時間止めてるって言ったじゃない。話聞いてよ。

……パルフェムー!この毒ガスなんとかしてくれる?自然に消える気配がないの。

このままじゃ家の中まで入っちゃう」

 

“はーい!

 

風神の (まなこ)が睨む 秋の空

 

台風18号が接近中ですから、毒ガスを上空で拡散して毒性をかき消してくれますわ!”

 

「ありがとー!」

 

パルフェムが一句読むと、強い上昇気流が発生し、

ローナの放ったガスを遥か遠くへ運び去った。

残ったのは、地面に倒れて、震える手で腕のホルスターから注射器を抜く魔界医師。

 

「う、くっ……!」

 

自分に解毒剤らしき薬を打ったローナは、地に手を付きながら、立ち上がった。

 

「今日はやめといたほうがいいんじゃない?」

 

「まだよ!魔王様の仇を前にして……」

 

「ああもう。だったら強制終了してあげる」

 

あたしは、この企画始まって以来、最もしょうもない理由でクロノスハックを発動した。

そしてローナのホルスターから適当に一本注射器を選んで抜き取る。

それから……彼女のパンツを下ろして、尻に。これ以上説明しなくてもわかるわよね?

心配しなくても針は抜いてやったから。最後に液体を全部注入して、パンツを戻す。

能力解除。

 

「はっ!またしても時間停止とは卑怯な!

飛び道具が効かないなら、私のメスで、その身を、切り裂い……」

 

背後に現れたあたしに気づいたローナは瞬時に距離を取り、警戒を強める。

強めるんだけど。

 

ぐごごごごご……

 

腹の中に猛獣でも飼っているのかと思うほどの轟音。音源はもちろん彼女の腹。

 

「あうっ!こ、これは、この感覚は、ドクトルの調合した下剤!

いつの間に……まさか!」

 

「うん。浣腸ってやつ。危険だから良い子のみんなは真似しないでね」

 

「この……外道め!あ、あ、だめよ私。ゆっくり、慎重に動くのよ」

 

「お願いだから家の近くでしないでね。臭いが風に乗って飛んでくる」

 

「だったら、お手洗いを、貸しなさい……早く」

 

「ん~?よく聞こえなかった。“貸しなさい”って聞こえたんだけど、

お願いする態度じゃないっていうか」

 

「貸して、ください……」

 

「もう一声」

 

「どうか、お手洗いを、貸してください、お願いします……!」

 

「はい、一名様ご案内~!奥行って右ね」

 

ローナがダッシュで聖堂に駆け込む。

ワクワクちびっこランドの近くだし、とりあえず見張っときますか。

あたしもぶらぶらと家に帰る。

 

今、トイレの前にいるんだけど、ちょっとの間あたしの雑談に付き合ってくれるかしら。

文章にするのもはばかられる音が鳴り響いているから。

 

こないだ、生まれて初めてフィギュアを買ったの。バナー広告で一目惚れしたんだけど、

結構なお値段がするから、散々迷ったんだけど、買って正解だったわ。

 

とにかく完成度が高い。寂しいデスクに二刀流のヤイバの勇姿が燦然と輝いてるわ。

それを一つ一つ手作業で着色してるんだから、この値段も納得よね。

でも、開封する時に、保護シートを剥がす必要があるんだけど、

一旦身体のパーツをバラバラにしなきゃいけないのよ。

 

その作業の時に、“ああ、これは人形なんだ”っていう現実に引き戻されて、

ちょっとしょんぼりする。まぁ、実際人形だし、しょうがないんだけど、

完成したらそんなもんは一気に消し飛ぶわ。

人体の構造をリアルに再現した……あ、出てきた。

 

用を済ませたローナは、すっかりやつれ果てていた。

訪ねてきた時は、目鼻立ちの整った美人だったんだけど、その面影は全く無い。

 

「もう大丈夫なの?悪いもの全部出した?」

 

すると、彼女が突然あたしの両肩を掴んで訴えてきた。

なんだか目もくぼんでて怖いんだけど。

 

「四大死姫はぁ……!こんなものじゃないの!

いつか、あなたも、同じ目に合わせてあげますから!」

 

「わかった、やり過ぎた、悪かった。今日はもう帰って横になりなさい」

 

「覚えてらっしゃい……」

 

ローナは魔力で空間に暗黒の渦を作り出すと、お腹をさすりながら入っていった。

彼女が帰ると渦は消滅し、あまりよろしくない臭いだけが残った。

 

「里沙子、すごく臭いんだけど!なにこれ!」

 

「ピーネさん、とにかく窓を開けましょう!」

 

「二人共ごめんね。この部屋トイレに近いもんね……」

 

今日の反省点。

ガトリングガンの前に、トイレを水洗式にして、換気扇を設置するべきだった。

全体的に見ても、新しいボスキャラ考えたけど、大して活躍しなかった上に、

下ネタに走るとか最低よね。

 

二作品同時進行になってから、なんだかアイデアが枯渇気味らしいわ。

以前はタイピングとストーリー展開がほぼ同時だったらしいんだけど、

今は数行書く度に考え込んでるんですって。

 

「里沙子ー、変な奴帰ったか?」

 

「帰った。エレオを倒すとか言ってたけど、メルーシャと一緒で敵のリサーチ不足。

あたしがクロノスハック使えることも知らなかった。パンピーでも知ってるのにね。

魔界の隅っこかどっかに引きこもってたんじゃない?」

 

「わたしもそうそう簡単に殺されはしませんよ?

聖属性には強力な攻撃魔法も色々ありますから。

“天界の落とし球β”や“ブライトスフィア”、“サンビームキャノン”など。

当たると結構痛いですよ」

 

エレオがウィンクして戦闘経験をアピールする。

 

「ほんまに頼りにしてまっせ。変な奴の相手はもういやだ」

 

「それ無くしたらお前の出番もなくなるぜ?」

 

 

 

 

 

次元の狭間

 

「ううっ、はぁ…はぁ…」

 

闇の渦でミドルファンタジアから帰還したローナは、

倒れ込むようにして彼女達の本拠地に帰り着いた。

 

「あ、ローナおかえりー」

 

「首尾はどうでしたか?」

 

「あの女は、卑劣な女です……!時間を止めて、この私に、この私にっ!」

 

「そうよ。斑目里沙子は時間を止める。それで、どうだったの?」

 

「知っていたのですか、カゲリヒメ!?」

 

「千里眼くらい使おうよ。油断はよくない。

あなたの大好きな魔王を殺したくらいなんだから」

 

「それは、そうなんですが……とにかくあの女は卑怯なのです!」

 

「さっきから気になっているのですが、どうしてずっと四つん這いなのですか?」

 

「えっ、いやそれは……立っても横になっても仰向けになっても辛いと言うか……」

 

「浣腸されたのよ」

 

「カ、カゲリヒメ!言ってはならないことを!」

 

「あと、勝手に私達に中二病臭いユニット名つけないで。何が四大死姫よ」

 

「そんな、最強の魔族たる私達に相応しいと思いましたのに!

でしたら、あなたが威厳に満ちた名前を考えてくださいまし!」

 

カゲリヒメはため息を付いてローナに諭す。

 

「あのね、そもそもそんなもの必要ないの。

私達は静かなこの場所が気に入ってるから集まってるだけで。

ついでに言うと、あなたとお友達になったつもりもないわ」

 

「ひどい!私達は魔族の勢力拡大を目的に……」

 

「してない。やりたいなら一人でやって」

 

「え~と……」

 

馬鹿騒ぎに構わずリーブラは辞書のページをめくる。

やはり新しいページが開き、詳細を記す。

 

「浣腸。直腸に薬品を注入し、排泄を促す行為、またはその薬品。

……知識に優劣の差はありませんが、

敵に背後を取られたことは不覚と言わざるを得ませんね」

 

「それでまだお尻がヒリヒリしてるんだよね?」

 

「アハハのハー!辛いならー、ドクトルが軟膏作ってあげようかー?」

 

「結構です……もう、しばらく私のことは、そっとしておいてください……」

 

4人がちっとも噛み合わないおかげで、

ミドルファンタジアの危機は当分の間去ったのであった。

 

 

 

 

 

○反省会(はっきり言って読む価値はないわ)

 

「はい、今日の反省会。

皆さん今回の良くなかった点を挙げて、今後のうんざり生活改善に活かしましょう」

 

いつものようにダイニングに全員が集まる。まず、ルーベルが手を挙げた。

 

「今回、取ってつけたようなバトルがあったが、

相手が雑魚すぎてさっぱり盛り上がらなかったじゃねえか。

魔国編みたいに気合い入れて書けよ」

 

「なんだか最近頭が回らないんですって。

飲み過ぎで若年性アルツハイマーに罹ったのかもしれないわね。次、カシオピイア」

 

「ワタシ、出番、なかった……」

 

「そうですね。わたしとカシオピイアさん、合わせてもたった数行でしたから」

 

「拙者など一行も出ておらん!

感想への返事に書いた“幽霊ならではの戦い”はいつ始まるの!?」

 

「ワンミス。それも思いつかないらしいわ」

 

「なんと無責任な!」

 

「挙句の果てには盛大な下ネタに走る始末。私達の迷惑も考えてほしいわ!」

 

「そうですねぇ、今回のお話はパルフェムもちょっと……」

 

あたしはいくつかの事柄を書き留めたメモを読み上げる。

 

「クオリティ低下の原因として考えられるのは、

さっき挙げたアルツハイマー、冷房病、アル中、

頭の中がダンガンロンパとごっちゃになってる、

睡眠リズムがめちゃくちゃ(原因不明)、以上5点よ」

 

「ふん、この反省会だって、

読者に“そんなことありませんよ”って言って欲しいがためのアピールよ。

あいつらしいしみったれた手口ね」

 

「まぁまぁ、スランプ気味なのは本当らしいから。

以前は1万4000字前後を目安に書いてたんだけど、

今はこんな与太話で水増ししても1万字に届くか届かないかみたいよ」

 

「いっそダンガンロンパが終わるまで休止させたらどうだ?

バイオ7の時もそうだったろ。中途半端なもん投稿するよりマシだと思うぜ」

 

「向こうと交代で続けて行きたいのは本当みたい。

しばらく禁酒させてみて、状況が改善しないなら、検討しましょう」

 

「よしわかった、ついでにお前も禁酒ということで」

 

「なんであたしまで!?」

 

おしまい。

 

 


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