あたし、復活。だからって大したことはしないんだけど。
「そういうわけだから、待っててくれたみんなには感謝の言葉しかないわ。
でも、このうんざり生活を再開するに当たって、まずやるべきことがあるの」
「やるべきことって何だ?」
「点呼。2ヶ月以上も休んでたから、
奴がレギュラーメンバーの名前と一人称を忘れてる恐れがあるの。
今から呼ばれた人は、返事して。キャラが狂ってたら修正させるから」
「せっかくの復活回だからパーティーでも、と思いましたけど、
確かにそれは肝心ですね。後にします……」
ちなみにここは、いつもの貧乏臭いダイニングよ。(多分)全員がテーブルに着いてる。
「まず、ルーベル」
「私だ」
「問題なし。次はジョゼット」
「はい、わたくしです」
「エレオノーラ?」
「わたしの名前はエレオノーラです。久しぶりに会えて嬉しいです」
「なんで英語の教科書みたいな喋り方?まあいいわ、カシオピイアは?」
「ワタシ……」
「パルフェム~?」
「私はここですわ、里沙子お姉さま」
「ピーネ」
「私を呼ぶのが遅いわ!」
「ま、これで全員消滅は免れたということで……」
「待て待て待てーい!このシラヌイ・エリカを忘れるとは何事かー!」
「お約束も押さえてる。とりあえずは安心ね。全員解散」
「聞けーい!」
二階からすり抜けてきて、何も切れない刀を振り回して喚き散らすエリカを放置し、
みんな定位置に散っていく。あたしはカップの紅茶を一口……あら?
「ねえジョゼット。あたしコーヒー派だったはずよね?いや、飲むけどさ」
「あら、すみません、わたくしったら」
「ああいいのよ。多分、奴がまだ本調子じゃないのよ。
この分だとキャラ設定と世界観を完全に取り戻すには、まだ時間がかかりそうね。
バトル展開を期待されてる読者の方には、大変ご迷惑をおかけすることになると思うわ」
「ったく、勘が戻るまで寝てりゃいいのに」
ルーベルはコップの水を飲む。これは正解。
モンスターとか飲んでたら完全にアウトで、休載が年明けまでずれ込むところだったわ。
どうせ今年も残すところ2ヶ月足らずだけどさ。
「しかし、再開は喜ばしいことですが、
読者の方に何をお伝えするべきかわかりませんね。
このお休みの間、特に大きな出来事もありませんでしたし」
「そうなのよ。エレオ、何かない?小ネタでもなんでもいいから」
「う~ん、そうですね……あ!マーカスさんとベネットさんの結婚式はどうでしょう!」
「いいわね!500字くらい稼げそう。そうそう、そんなのあったってすっかり忘れてた。
確かモンブール領とハッピーマイルズの境目にある、
目立たない無料の国営教会で式を挙げたのよね、あの2人」
「私達も招待してくれたんだよな。幸せそうだったなぁ。
マーカスの坊主は照れっぱなしで、胸を張ってるベネットが完全に主役だった」
「レンタルのスーツとドレスだったけど、本人達が幸せそうだったし、
参列者も割と豪華で盛り上がったんじゃないかしら。
将軍まで直々にお見えになる式なんてそうそうないわよ。
ありゃかなりご祝儀もらってるわね」
「ゴシューギ?なんだそりゃ?」
「え?あたしの祖国じゃ、
結婚とか出産なんかの祝い事の際に心付けを渡す習慣があるんだけど、
この世界じゃそういうしきたりはないの?」
「少なくともわたしは聞いたことがありませんね。
物品の売買とチップ以外にお金のやり取りが発生する状況は、
税や教会への寄付くらいしか思い当たりません」
エレオノーラから衝撃の事実を聞いて愕然とする。
「じゃあ何?神父さんに300G入れた手製の祝儀袋を預けたあたし、丸々損ってわけ?
あーっ!道理で神父さんが腑に落ちない顔してたはずだわ。
……今からでも取り返しに行こうかしら」
「やめろよ、損とか得とか意地汚ねえ。
あいつらの幸せを祝って渡した金なんだろ?だったらそれでいいじゃねえか」
「ふん。本当に他人の幸せを願って祝儀渡すやつなんていやしないわ。
渡さないとケチだと思われるから、嫌々銀行でピン札用意してんのよ」
「相変わらずのごうつくばりだな。この辺も正常運転、と。
まぁ、ディスプレイの前でこれを読んでる人には悪いが、
しばらくこんな感じで時々うんざり生活の品質チェックが入ると思う。
完全に動作確認が完了するまで我慢してくれ」
「結構字数稼げたんじゃない?今1731文字。
あとは、そうねえ……自宅をちょいリフォームしたことくらいかしら」
「あれか。珍しくお前が共用スペースに金を出すって言うから驚いたな。よく覚えてる」
「1話前で浮上した問題よ。ワクワクちびっこランドの近くにトイレがあるんだけどね、
漏れる臭いが激しくて子供達が可愛そうだから、換気扇を付けて水洗式にしたの」
「なんつったっけな。四…なんとかが攻めてきたときか」
「思い出すのも面倒だから、気になる人は前回を読み直してね。
……ごめん、ちゃんと書く。四大死姫とか言ってたわね。
とにかくその一人のコスプレナースが、うちのトイレで大きい方をしていったせいで、
強烈な悪臭が子供達を襲ったの。
これには流石にあたしも反省して、すぐリフォーム業者を呼んだってわけよ」
「まあ、そうなったのもお前のせいなんだが」
「おかげでわたし達も快適に使用できるようになりました。ありがとうございます」
「いいのよエレオ。費用は今度コスプレナースが来たらそいつに請求するから。
換気扇は雷光石を電池代わりに動くモーター式で、
トイレの下水は水属性と土属性の呪文を彫り込んだタンクで
瞬間的に生物分解して近くの川に流すエコ仕様。
……思ったんだけど、雷光石って便利なアイテムよね。
曲がりなりにもファンタジーのタグ付けてるこのSSで、文明の利器を登場させる時は、
こいつを出せば免罪符になるもの」
「いくら病み上がりとは言え、今回メタ話が過ぎるぞ。あと地の文がやたら少ない」
「しょうがないでしょう。
このどうしようもないやり取りで会話が成立しちゃってるんだもの」
「物語は成立してないけどな」
「里沙子さん、コーヒーです」
ジョゼットがコーヒーを入れ直してくれた。
「悪いわね、催促したみたいで」
季節はもう11月。もう涼しいと言うより寒い時期。
熱いブレンドコーヒーが身に染みる。たまんないわ。
忙しい東京から異世界に来て良かったことと言えば、
こういう小さな喜びを噛みしめる余裕が……
──コン、コン、コン
問題はその小さな喜びを邪魔する存在がひっきりなしにやってくるってことね。
また玄関という名の悪魔のあぎとが呻き声を発してる。
ルーベルとエレオノーラがあたしを見る。ジョゼットは裏庭に行って不在。
オーケー、落ち着きなさい里沙子。何のためにゲッタービームを導入したの?
あたしは聖堂に入って玄関ドアのドアスコープを覗く。
パッと見、魔女か一般人か区別がつかない。
自身の身長より遥かに長い黒髪を宙に漂わせて、
シルクのような質感の濃い紫のローブを着たネーちゃん。
大きな百科事典を携えて、静かに微笑みを浮かべてるけど、
無意味に笑う奴にろくなやつがいた試しがない。念の為追い返す。
「誰だか知らないけど帰って。ミサは日曜よ。献金は一人500Gがノルマ」
“斑目里沙子さんとお会いできないでしょうか。
私は、その……先日ご迷惑をおかけした四大死姫を名乗るローナの顔見知りです。
お詫びも兼ねて是非里沙子さんにお目通り願いたいのですが……”
「あの浣腸女の知り合い?あいにく謝罪は金銭という形でしか受け付けてないわ。
あなたに会うつもりもない」
“そんな。私にはこの世界の貨幣の持ち合わせがありません。
どうしても駄目でしょうか”
「駄目。あなたがどんな人か知らないし、一人を認めたら我も我もになっちゃうでしょ。
それでなくても、この教会では何度も悲しい事件が起きてるの」
“申し遅れました。私はリーブラ。
ローナからここには新しい知識が豊富に存在すると聞いてきました。
どうしても館の主人の里沙子さんに会わなくてはならないのです”
「どうしてもここに入りたいなら、次のミサまで待ってちょうだいな。
残念だけど、今日がミサの開催日だったから、丸々一週間待つことになるけど。
それでもいいなら、そこで待っててちょうだいな。ウププ」
“では、そうさせていただきますね”
「お、言ったわね。なら7日間そこで突っ立ってなさいな。
飯も水もくれてやるつもりは一切ない」
“大丈夫です。お気遣いなく”
1日目。就寝前にドアの向こうを覗くと、まだ立ってた。キチガイ宗教の勧誘も真っ青。
2日目。ジョゼットと物置から裏口に出て買い物に行くと、やっぱり立ってる。
目が合ったけど無視した。
3日目。器用に宙に浮かんで横になって寝てる。魔女っぽいわね。
4日目。これ以上引き延ばすのも無意味だと判断し、
適当に相手をして追い返すことにした。どうせもうすぐ次のミサだし。
「……普通に7日待たれるのもなんか癪だから、話だけでも聞いてあげるわ。
入んなさい」
玄関の鍵を開けると、ふわふわした感じの魔女が喜んだ。
いや、飛んでるからとかそういう意味じゃなく。
「うわぁ!ありがとうございます!では、遠慮なく」
とうとう変人を家に入れてしまった。特に迷惑行為を働いたわけでもないから、
ゲッタービームで消し飛ばすわけにも行かなかったのよね。
家の前で待ち構えるだけじゃ、
迷惑行為とみなされないほどに狂ってしまったのよ、この世界は!!
……ちょっとガンダムっぽくなった気がする。
とりあえず、いつもどおりダイニングに通してジョゼットに茶を要求。
ルーベルとエレオは……今日は部屋にいるみたい。
「ジョゼット~?悪いけどお茶2つ。……紅茶?コーヒー?」
「紅茶をください」
「了解。紅茶とコーヒーね」
「はぁい」
リーブラとか言う魔女と向かい合うようにテーブルに着く。
微妙に重力無視してるっていうか、ふわふわしながら椅子に座った。
「……で?用件は何。新しい知識がどうとか言ってたけど」
「これです」
バカでかい百科事典を見せる。それがなんだってのよ。
「辞書ならお家か図書館で読んで欲しい」
「普通の辞書じゃないんです。
知らない物事を見聞きしたり触ったりすると、
それらに関する情報が新たなページとして浮かび上がる、
魔法の辞書、グリモワールなんです」
「ふぅん。じゃあ、この家の連中適当にペタペタ触ったら帰ってちょうだい。
誰も見たことないほど変な連中だから」
「里沙子さんたら、またそういう事言うんですから……きゃっ」
リーブラがテーブルにお茶を置くジョゼットの腕を軽く握った。
そして、左腕だけで大きな百科事典を開くと、
勝手にページがめくれてどこかで止まった。
「シスター。修道女。修道誓願を立て、修道院で禁欲的な生活を送る女性のこと……
残念ですが、これは既に参照していますね」
残念そうに手を離して、パタンと事典を閉じる。
「この娘で駄目なら他も望み薄よ。あと、その情報は間違ってるわ。
別にジョゼットは大して禁欲的な生活してない。
肉やら美味い料理食いまくってるし、たまに街に行けばあたし持ちで外食もする」
「里沙子さん……それは、そうなんですけど……」
「では、一般的なシスターの情報が記録されているのでしょう。
事実だけを映し出すこの事典が間違うことはありませんから」
「むむっ、強力な波動を感じたから来てみれば、こんなところに魔女がいるわ!
里沙子殿には指一本触れさせぬ!」
「こらエリカ。1個ミスったし、魔女全部が厄介者じゃないってことは、
これまでのお話でわかりきってるでしょう。
客の相手で忙しいんだから、あんたこそ位牌の中で寝てなさい。
ただでさえ元お嬢様幽霊侍なんて需要ないんだし。ほら帰った帰った」
「また拙者を馬鹿にしておるな!?
今日こそ拙者の剣術で幽霊差別をやめさせてやるから覚悟せい!」
「言う事聞かないなら、おりんを質に入れるわよ!客の前で般若心経唱えたくはない!」
「ならぬ、ならぬ!あれは拙者の宝物じゃ!命に代えても守ってみせるわ!」
「じゃあ、位牌の方にしましょうか。
リーブラ、ちょっと待っててね。こいつの寝床を取り上げなきゃ」
「はい。いつまでも、待っています」
あたしは結構ガチなつもりで位牌をマリーの店で売っぱらおうと、
2階へ行くため席を立った。そしたら突然、リーブラまで騒ぎ出す。
勘弁してほしいんだけど。
「里沙子さん、里沙子さん、なんですかそれは!!」
「何って何よ」
「その、腰に装備しているものです!」
「腰?……ああ、これ?」
ホルスターに差していた
リーブラは完全に興奮している。
「あたしの愛銃よ。アース製だから、見たことないのも当然だけど」
「お願いです!見せて下さい!」
「ごめん。銃は人に触らせない主義なの」
「そんなことおっしゃらず!ねえ、ねえ!」
リーブラも立ち上がって掴みかかろうとしてくる。反射的に銃を構えていた。
「……3歩下がって。あなたを完全に信用したわけじゃない」
「見たい、聞きたい、触りたい!その鋼鉄のカラクリを!」
「聞いてるの!?やめなさい、トリガーに指が掛かってるから!」
「この重厚な質感!新たな知識の香りがします!グリモワールも反応しています!」
「鬱陶しいわね!離れろって言ってるのが……」
──ダァン!!
その時、ボロい屋敷に鋭い銃声が奔った。
ピースメーカーの銃口が硝煙を吐き出すだけで、呆然としたあたしの時間が止まる。
ジョゼットはまばたきを忘れてあたしを見るだけ。
足元には、胸を貫かれて動かなくなったリーブラの亡骸。
他の住人も銃声を聞きつけてやってきた。
誰から見てもあたしが殺したようにしか見えなかったと思う。
「里沙子さん、何があったと言うのですか!?まさかその方を……」
「ち、違う!もみ合いになったら暴発したのよ!こいつが銃を掴んできて……!」
「なんてことしちまったんだよ!
今まで変なやつが来ても、なんだかんだで追い返してきたじゃねえか!」
「だから違うんだって、わざとじゃない!殺すつもりはなかったと供述してる!
誰か死体隠すの手伝って!」
必死に弁解するけど、リーブラが目を覚ましてくれるはずもない。
「里沙子お姉さま、違いますよね?故意ではなかったんですよね?」
「殺した……里沙子が、魔女を……」
「お姉ちゃん!どうして……?」
「あああ!事故だったのよ!
こいつが触るなっていうのに触ってくるから、それでトリガーが!」
「はい、事故です。コルトSAA。.45LC弾を使用する回転式拳銃。
コルト社が1873年に生産を開始し、西部開拓時代で広く使われた名銃。
……参照できました!」
「えっ?」
振り返ると、さっき死んだはずのリーブラが、
満足そうにニコニコ笑いながら立っている。
胸に穴も空いてなければ服に血も付いてない。
訳のわからない存在に、唾を飲み込んでから恐る恐る聞いてみる。
「……あんた、死んだんじゃなかったの?」
「仮死状態にはなりましたが、すぐに再生してしまうんです」
「脅かすんじゃないわよ!馬鹿なんじゃないの!?」
「あるいはそうかもしれません。死ぬこともできなくなるくらいですから」
「は?どういうことよ」
ホルスターにピースメーカーをしまいつつ、意味不明な言葉について説明を求める。
「私はご覧の通り魔女なんですが、
長く生き過ぎたせいで、どうすれば死ねるのかを忘れてしまいまして……
こうしてグリモワールに知識を集めているのも、死ぬ方法を見つけ出すためなんです」
「呆れた。その辺の崖から飛び降りたら?」
「それはもう試しました。でも、気づいたらやはり無傷で目が覚めるんです」
「大体わかった。だけど、うちに自殺の方法探しに来られても困るわ。
時間はいくらでもあるんだから、
太陽が寿命を迎えて太陽系ごと吹っ飛ばしてくれるのを待つことね。
それでも駄目なら宇宙空間に漂って考える事をやめなさい」
「微妙なジョジョパロもオーケーですわ、お姉さま」
「ん~私としては、もう少し知識収集のペースを上げたいと思っているのですが……」
「うちでやらないで。今日はもう帰ってちょうだい。無駄に騒いで疲れたわ」
「はい。どうも失礼しました」
「無礼千万よ、まったく。バイバイ」
あたしは妙な客人を玄関まで送り出すと、ようやく面倒事から解放されてほっとした。
……それも束の間。外からリーブラの声が聞こえてくる。
ドアを開けると、彼女が先日設置したガトリングガンの前でしゃがみこんでいた。
“ガトリングガン……まだ発展途上で、ひとつの事柄として育ちきっていない。
事典にも反応なし。経過観察の必要があるわ。付箋を貼っておこうかしら”
「帰る!!」
“は~い”
怒鳴りつけると、ようやく彼女は宙に手をかざし、真っ暗な空間へのゲートを作り、
ふわりと中に飛び去っていった。どこに通じているのかは知らない。知りたくもない。
飲みかけのコーヒーで落ち着こうとダイニングに戻る。
みんなが不安げにあたしを見るけど、
軽く手を振って何か聞かれる前にこっちから喋った。
「だいじょぶだいじょぶ。今回はただの変人だったから。
今までうちに来た連中の中では比較的無害な部類に入るわ。
わかったら全員持ち場に戻る」
ポンと手を叩くと、皆がぞろぞろと解散する。
あたしもテーブルに座って、すっかり冷めてアイスコーヒーになった液体を飲み込む。
苦味とカフェインが高ぶった精神を鎮めてくれる。復活回としてはこんなところかしら。
……そうだ、大事なこと確認しなきゃ。
洗い場で皿を洗い続けるジョゼットに聞いてみる。
「ねえジョゼット。今年はクリスマススペシャルやるつもりなのかしら、あいつ」
「無理なんじゃないですか?
去年も本編と並行して少しずつ書き溜めていたそうですから。2ヶ月前から」
「そうよねえ。この本編ですら大幅縮小しての再開なんだから、
特別編と同時進行は無理ってもんよ」
「だから書けないなら休んでろって言ってんだよ。
ダンガンロンパで何も学ばなかったのかよ」
「書きたい気持ちだけが暴走してるらしいわ。
な~にが“書けなくなった”よ。太宰治気取りも大概になさい」
……さて、今日のお話はここまでだけど、改めて読者のみんなにお詫びとお礼を。
待っててくれた人、本当にありがとう。見切りを付けた人、本当にごめんなさい。
こんな感じで、当分ゆるゆるペースでの進行になるけど、許してね。
それじゃあ、今回はこれで、さようなら~
次元の境目
「ただいま帰りました」
「おっ、リーブラおかえり~読書ばかりのチミが外出するなんて珍しいなー!アハハ」
自ら開いたゲートでミドルファンジアから帰還したリーブラを、
ドクトルが呑気な調子で迎える。
「新たな知識を探して、斑目里沙子さんの家を訪ねて来ました」
「それで!?結果はどうだったのです!」
「結果?どう?言っている意味がわからないのですが」
ローナがリーブラにすがりついて問いただす。
「斑目里沙子とエレオノーラを倒して、
魔王様と私の仇を取ってくれたのかと聞いているのです!」
リーブラがひとつため息をついて答えた。
「そんなことに興味はないと以前にも申し上げたはずです。
やりたいならご自分でどうぞ。私は知識の収集に行っただけです」
「敵を前にして何もしなかったと!?それでもあなたは上級魔族の……」
「うるさいよローナ!編み物に集中できない!静かにして!」
「カゲリヒメまで……どうして皆さんにはプライドというものがないのですか!」
「んー、チミはアースにお住まいのキクチさんが何者かに殺害されたら、
今のように憤慨して仇討ちに行くのかな~?
つまり、ドクトル達に取って魔王さんは、
その程度の存在でしかなかったというわけだな、うん。
チミ以外のメンバーは、この件について何かするつもりはないから、
そこんとこヨロシク」
「賛成~とにかく静かにして」
「私もです」
「もう結構!あなた達には頼りません!
ドクトル、今度は建造物ごと溶解させるほど強力な酸を作ってくださいまし!
私はもう一度あの世界に行ってきます。失礼!」
ローナは時空転移魔法で、次元の狭間から消え去った。
「結局頼ってるじゃない。やっとうるさいのがいなくなった」
「ドクトル、本当に作るのですか?彼女に頼まれた物は」
「やるともやらないとも言ってないから微妙かな~
暇だったら作るかもねー。今はビー玉に生命を与える実験で忙しい」
「それ、何の役に立つの?」
「研究において、役に立つ立たないは二の次なのだよ、カゲリヒメ~アハハのハ」
「ふむふむ、クロノスハック。
体感時間をほぼ完全に停止させ、擬似的に時間を停止させる特殊能力。
現在習得者は斑目里沙子のみ……やっぱり面白いところですね。
また、近い内にお邪魔しましょう」
どうしても噛み合わないマイペースな魔族のおかげで、今日も世界は平和だった。