面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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勝手にネタにしてごめんなさい

3時になったから、いつものダイニングに集まっておやつの時間。

全員がお茶しながらワイワイ好き勝手言ってるから

何しゃべってるのか聞き取れないけど、共通してるのは、みんな笑顔だってこと。

 

「いつもは紅茶ですが、たまにはハーブティーもいいですね~

すぅっと鼻を抜ける香りがたまりません!」

 

「そーだろ、そーだろ。街の茶屋でブレンドしてもらった特製茶葉だからな」

 

あたしはティーカップに注がれた黄緑色の液体を揺らしてみる。

 

「ピーネさんは隠し事が下手すぎですわ。

嘘をついても、頭の小さな翼が感情に合わせてパタパタ動くんですもの。

まるで犬の尻尾みたい!ウフフ」

 

「犬ですって!?表に出なさいパルフェム!」

 

「怒らないでくださいな。それくらい可愛らしいってことですわ」

 

「それに比べてカシオピイアは言葉の金庫かよ、ってくらい考えが読めねえよな。

付き合いも長くなって、

私もちょっとは表情の変化がわかるようになったつもりなんだが、

それでもわからんときは本当にわからん。

どうだ、またちょっと時間取ってマンツーマンでだべりの練習でもしてみるか?」

 

「うん」

 

「でも、無理をなさることはないのですよ?

物静かなカシオピイアさんの雰囲気は立派な個性なんですから」

 

「ありがとう」

 

「個性においてはこのエリカに勝るものなし!見よ、愛刀白虎丸の煌めきを!」

 

またエリカが何も斬れない刀を自慢する。

自ら進んで恥をかいていることにそろそろ気づいてもいいと思うのだけど。

 

「エリカ、お茶や飯時に浮かんでいいのは高さ1.5mまでだって言っただろ。

あんまり天井近くでうろつかれると、みんなが落ち着かねえ」

 

「うう、かたじけのうござる……」

 

クイズです。この中で一人だけ機嫌が悪い人がいますがそれは誰でしょうか。

ヒント。今日まだ一言も喋ってないやつよ。

 

「ん?どうした里沙子。さっきから黙りこくって」

 

「……あたしのコップにコーヒーが注がれていない理由を考えてるの。

そして代わりに入っている謎の液体は何かしら」

 

「何ってお前、前回自分で言ったんだろうが。

“お上品なハーブティーでハイソな一週間を過ごしましょうね”って」

 

「そんなもん、状況が悪化する前に、

とっとと話を終わらせるための方便に決まってるでしょうが!

真に受けて買ってくる?普通!」

 

「文句を言うな。方便だろうがなんだろうが、言葉には責任を持て。

一週間経つまでは毎日ハーブティーだからな」

 

「勘弁してよ。酒を取り上げられて、コーヒーまで奪われたら、

あたしは何を目的に生きていけばいいの?」

 

「お前の人生にはそれしかねえのかよ!マジで呆れるぜ。なんだっていいんだよ。

世の中には小学生の作文レベルの小説をネットに上げて、

恥ずかしげもなく生きてる奴だっているんだから」

 

「下を見てたらキリがないわ。もっと高尚で面白い趣味はないかしら」

 

「酒が高尚だとでも言いたいのかよ」

 

「このハーブティーじゃないことは確かね。

買ってきてくれたルーベルと愛好家の方々には申し訳ないけど、

あたしハーブティー嫌いなの。理由は単純、臭い」

 

※個人の意見です

 

「え~?わたくしには良い香りに思えるんですが……」

 

「だから文句を言うなって言ってんだ。

これだってお前のために特別に調合してもらったんだぜ?

不眠改善、疲労回復、冷え性改善、血液浄化。

やせっぽちで血色が悪いお前にピッタリじゃねえか」

 

「ん?ちょっと待って!今、不眠改善って言った!?

だったら寝る前のエールの方がなおさら効果抜群でしょうが!」

 

「なんで酒から離れられねえんだよ!」

 

「あたしから酒を取ったら何が残るっていうのよ!」

 

「本当にアル中になっても知らねえぞ!」

 

「アルコールにまみれて死ねるなら本望よ!」

 

「誰が死体を片付けると思ってる!」

 

言い争うあたし達をなだめようと、

パルフェムが着物の袖から何かを取り出して差し出した。

 

「まぁ、まあ、お二人共。今日はお便りが来ていますの。

里沙子お姉さまの趣味については今度にして、急を要するこちらに対処しませんか?」

 

「なによこれ」

 

あたしはパルフェムから受け取った紙切れを読む。

 

 

さみしいならさみしいと、素直にそう言えば良かろうに……。

だがそんな時に限って言わない、それが梨沙子クオリティー。

(匿名G様)

 

 

「何なのよこれ!人を哀れな女みたいに!失礼なやつね!」

 

「パルフェムに文句を言われても困りますわ。

あと、電報なので受け取った時にちらりと文面を見てしまいましたがそこはあしからず」

 

「そんなことはどーでもいい!差出人は……匿名希望!?ざけんじゃないわ。

絶対見つけ出して後悔させてやるから!今夜から背後には気をつけることね!」

 

「実際そうじゃねえか。寂しいなら子供じみた方法で嫌がらせするんじゃなくて、

もっとマシな方法で構ってもらえばよかったんだ」

 

そう言ってコップの水を(略。なんであんたはハーブティー免除されてんのよ!

 

「あれは……うん、あれよ。住人が快適な生活を送れているか、

家主としてチェックする義務を果たす意味もあったのよ」

 

「またまたご冗談を」

 

「後付設定乙。ププッ」

 

「ガキ共うるさい!悪い大人に影響されて真実を見る目が濁ってしまってるようね。

こりゃ当分の間お小遣いをストップして治療するしかないわ。

大人が金に等しい酒を取り上げられたらどういう気持ちになるか、

よーく疑似体験なさい」

 

「お姉さま、そのやり方は少々卑怯かと。

ちなみにパルフェムは総理時代に稼いだ貯金があるので、痛くも痒くもありません。

くれるのでもらっていましたが」

 

「私は反対よ!都合が悪くなったらお金で圧力を掛けるなんて最低だわ!」

 

「そういや、あんたどこで金使ってんのよ。

まだまだ街は悪魔の受け入れ体制に入ってないわよ?」

 

「ピーネちゃんは、時々教会の前を通る行商人からお菓子を買ってるんですよね?」

 

「そーよ!あの人間は悪魔と取り引きする度量がある、豪胆な人物なのよ!」

 

「あいつぁ単に金になれば誰でもいいって感じだったが……

とりあえずピーネ。小遣いなら私がやるから安心しろ。確か月200Gだったな」

 

「ふ、ふん!人間にも良識のある者がいるのね。正義は勝つのよ、わかった里沙子?」

 

「私はオートマトンだが、そういうことだ」

 

みんなが揃いも揃ってあたしを責め立てる。

でもこれしきでへこたれてちゃ、主人公は務まらないのよ。

 

「いいじゃない。受けて立とうじゃないの!

このメンバーじゃ思想にバイアスが掛かってるから、

今度外部の公平な意見を聞いてくる。

きっとあたしの方が正しいことが証明されるに決まってる」

 

「外部の意見って誰だ?」

 

「ほっといて。知り合いよ」

 

「お姉ちゃんの知り合い……将軍の姪御さん?」

 

「一度うちに遊びにいらしたことがありますね。アヤさんとおっしゃいました」

 

「知り合い?お姉さまのお友達ではなく」

 

「友達、違う。知り合い、ただの」

 

「なんで片言なの?それは置いといて、

一番年長の癖に友達の一人もいないなんて、本当に寂しい女ね~キシシシ」

 

「はん、一人の時間の素晴らしさを理解してないチビ助がナマ言ってんじゃないわよ。

アヤ達があたしの方が正しいって言ったら、

あんたの羽を煮込んでスープにしてやるからね」

 

「わかったわかった。お前の頑固さは筋金入りだよ。

で、いつ外部の意見とやらを聞きに行くんだ?」

 

「そうね……」

 

あたしは壁の日めくりカレンダーを見る。今日は土曜日だから……良いタイミングね。

 

「毎週日曜はマリーの店でアヤとガラクタ漁りしてミサの騒音から逃げてるから、

明日決行ね。ついでにマリーの意見も聞けるから一石二鳥だったわ」

 

「ミサを迷惑行為扱いしないでくださ~い……」

 

「このあたしにわざわざ外出を強いている時点で迷惑行為じゃないの。

そういうことだから、結論は明日のこの時間に」

 

「わかったって!もう夕飯の準備も近いから今日は解散な。明日の今が楽しみだ。

……里沙子はそれ全部飲んでから行けよ?」

 

「飲めばいいんでしょ、はぁ……」

 

すっかり冷めてしまった上にどうしても口に合わないハーブティーを一気飲みすると、

無礼極まりない電報を握りしめ、私室に戻った。

ああ、口に残った臭いで頭がクラクラする。

それは夕食にまで響き、せっかくのビーフシチューが変な味になってしまった。

こんなことは明日で終わらせないと。

 

 

 

 

 

翌日。あたしはハッピーマイルズ・セントラルの裏通りに居た。

馬鹿みたいに長い地名が修正されていないのは、モンブール領との合併が、

議会の賛否やら住民投票の可否やらで揉めてて進んでないからって聞いた。

とにかく、名物のひとつもない田舎町のために14文字28バイトも使うのは、

公共のリソースの無駄遣いでしかないから、一刻も早く改善してほしいと願う。

 

どうでもいいことを考えつつ、“マリーのジャンク屋”のドアに手を掛ける。

おっと、うっかり“おるかー”と叫ぶところだった。

危ない危ない、これはマーブル用だった。改めて息を整え、ドアを開けた。

 

「借金返さんかーい。返済期限過ぎた47億3927万2372G」

 

「おっ、リサっちおひさ~

先週も来たのに2ヶ月くらい会ってなかったような気分だねぇ」

 

「気のせいよ。外出先でもメタ話するようになったら、いよいよ奴もおしまい」

 

いつもの派手に染めたロングヘアがトレードマークのマリーがあたしを出迎える。

彼女はスナックをむさぼりながら、人をダメにするソファに寝ころび店の隅を指差す。

まったく、こんなもんまで流れ込んできて……!

後で譲ってもらえないか交渉しましょう。

 

「お客さ~ん。リサっち来たよ」

 

「おおっ!待ち人来るが成就したので、あーる!久しぶりなのだー!」

 

「一週間ぶり。あくまで一週間ぶりだからね」

 

白衣を着た瓶底眼鏡。呑気なエンジニアを見ると、なんだかほっとする。

 

「さっそくリサもお宝を探すのだ。

このカパカパと開閉する番号付きボタンがついた品は、なんであろう?」

 

「それガラケー。しかもモック品。つまりよくできた見本よ。

本物だとしてもスペック的にはスマホには劣る。

ただ、警察や施工業者なんかでは今でも導入されてるから、

どちらが便利かは一概には言えないけど」

 

「相変わらずリサの話は興味深いのであーる。

リサが来る前に店内をざっと見たけど、今日はスマホは見当たらなかったのだ。

残念ながら帝国にスマホが普及するのは、

まだまだ先であるという結論に達せざるを得ないので、あーる」

 

「アースでも今まさに流行真っ只中だからね。廃れて流れ着くのは当分先。

何かのはずみでこっちに来るのを待つ他ないわ」

 

「最近はマリーさん秘密の仕入れ場でもとんと見ないねぇ。

ま、常連さん特典で見つけたらキープしとくから」

 

「ありがと……ああ、そうじゃなかった。

今日は二人にある事情について意見をもらいたいのよ!」

 

興奮して思わず声が大きくなる。マリーが目を丸くしてこちらを見るのを気にせず、

例の怪文書を取り出してカウンターに置いた。

 

「二人共、これを見てちょうだい」

 

「おやおや、マリーさんにラブレターかな?なんつて」

 

「電報であーるよ。何か喫緊の課題でも持ち上がったのであるか?」

 

「ある意味そうとも言える。まあ読んで」

 

 

さみしいならさみしいと、素直にそう言えば良かろうに……。

だがそんな時に限って言わない、それが梨沙子クオリティー。

(匿名G様)

 

 

事情を知らない二人は、意味不明な文章に顔を見合わせる。

その様子を見て、あたしが補足説明をした。

この前の雨の日に、暇を持て余して住人にちょっとだけ行き過ぎた交流を図ったところ、

顔面パンチを食らって、酒を取り上げられた。

 

それだけにとどまらず、毎日ハーブティーを強制され、挙句の果てには、

正体不明のGとやらに哀れな女のレッテルを貼られたことについて、

かいつまんで話した。

二人はそれでもやっぱりどこか腑に落ちない表情で、更に説明を求めてくる。

 

「う~ん、マリーさんにはリサっちが何を言いたいのかわからないのですよ」

 

「アヤ達はこの電報をどうすれば良いのか、皆目検討がつかないので、あーる」

 

「率直な意見を聞きたいの。あなた達から見て、あたしが寂しい女かどうか!」

 

あたしはカウンターに手をついて、ずいと二人に顔を近づける。

彼女たちは戸惑った様子で答えに窮する。

 

「さすがにマリーさんもどう答えていいかわかりませんなぁ……

いつもリサっちは楽しそうに見える故に」

 

「まずは“寂しい”という状態を具体的に定義するべきであるという説を提唱するのだ」

 

「おおっ、さすが科学屋さん。目の付け所が台湾に乗っ取られた家電メーカーだね!」

 

「なら聞かせて。あたしって寂しい?」

 

「まずは落ち着くであーるよ。寂しいとは!

“親しい人が居ないなどで、心が満たされず物悲しい”以上!」

 

「ググった知識、大いに参考になったわ。ありがとう」

 

「では問題は解決ですなぁ。

アヤさんという友達がいて、家にもたくさん家族がいるリサっちは寂しくない。

答えが出たところで買い物はいかが?駄菓子はいっぱい入荷してるよ。

これは人形の頭を後ろに倒すと、ラムネが出てくる変りもので……」

 

「違あぁーう!」

 

また大声を出すあたしを驚いて見つめる二人。

マリーの方は若干鬱陶しそうな表情を見せたけど無視した。

 

「あたしに友達は存在しないし、家にいるのは居候!

そうでなくっちゃ、この企画が成立しないでしょうが。このうんざり生活の!」

 

「じゃあ、アヤはリサの友達ではなかったということであーるか?

魔国編で友達になれたと思っていたのは、アヤの思い過ごしに過ぎなかったと、

そういうことなのであるか?……ぐすん」

 

「あ。泣ーかした泣ーかした。将軍に言ってやろ」

 

アヤがべそをかき始めたから、慌ててフォローする。

 

「ああ、ああ、違うのよアヤ。あなたが嫌いなわけじゃなくて、あたしが言いたいのは、

適度な距離が必要だってことなの。

友達と知り合いの境界線の、限りなく友達に近い位置にいるのよ、あなたは」

 

「うう、なんで友達じゃない?」

 

「それには高度に政治的な判断が関わってくるから、一言で説明するのは難しいの。

この企画のタイトル読んでよ。うちの客はリア充女の私生活なんて求めてないの。

寂しい女が飲んだくれて、鉄砲撃ちまくる、荒んだ生き方を見たいのよ」

 

「リサっち今、自分で寂しいって言った。くはは」

 

「そ、そこら辺のさじ加減が難しいんだってば!

想像してみてよ。ある日突然、この企画のタイトルが

“しあわせ里沙子のほんわか生活”に変わったとしたら!?

予告なしで丸一年放ったらかしにするより、お気に入り0になる確率が高い!」

 

「お、それちょっと興味あるかも。どんなのか少し見せてほしいなぁ」

 

「そうねぇ……」

 

あたしの頭上にモワモワと居るはずのない自分の想像図が描かれる。

 

 

……

 

 

今日も小鳥のさえずりで目が覚める。

いつも寝る前に温かいミルクを飲んでるから目覚めは快調、頭もすっきり。

さあ、みんなにおはようの挨拶をしなきゃ!

 

「おはよう、おはよう、みんなおはよう!」

 

ドアをノックしながら元気に廊下を進む。

ダイニングに下りると早起きのジョゼットちゃんがカモミールティーを入れてくれてる。

あたしハーブティー大好き!

 

「ジョゼットちゃんおはよう!わぁ、良い香り!」

 

「おはようございます。今日は特にうまく仕上がったんです。召し上がれ!」

 

「いただきまーす!……うん、気持ちのいい朝にぴったり。とってもおいしいわ!」

 

「もうすぐ朝食の支度もできますから。今日は日曜ミサの日なので急がないと」

 

「やだっ、大切なミサがあるんだった。いっけなーい」

 

みんなで朝食を済ませると、急ぎ足で聖堂に向かうの。

街の皆さんとマリア様にお祈りしなきゃ。

 

「おはよう、里沙子ちゃん」

 

「おはようございます、パン屋のおじさん!」

 

「今日も元気ね、里沙子ちゃん!」

 

「ありがとう、肉屋のおばさん!」

 

ミサが始まると、エレオノーラちゃんが小さなオルガンを弾いて、

みんなで賛美歌を歌うの。それが済んだらマリア様へお祈り。

説教台で聖書を読むジョゼットちゃんも、もう立派なこの教会のシスターね。

 

アーメンでミサが幕を閉じると、あたしは街へ一直線。空は快晴、心地よい風が吹く。

今日はどんな冒険が待っているのかしら。

胸を躍らせながら、街道をひた走るあたしなのでした。

 

 

……

 

 

「……ねえマリー」

 

「何?」

 

「痰壺置いてない?」

 

「あっても使わせない」

 

「吐き気に耐えきれない。自分で想像しといてあれだけど」

 

「うっぷ……ならば、吐き気を抑えるために、

普段通りのリサを思い浮かべることを推奨するのだ~」

 

「マジ天才」

 

 

……

 

 

今日も悪夢の幻聴で目が覚める。

いつも寝る前に冷たいエールをしこたま飲んでるから目覚めは最悪、頭もガンガン。

居候連中に構ってる余裕なんかない。

 

「頭痛い、頭痛い、あたしは頭が痛いのよ!」

 

いないはずの誰かに怒鳴りながら千鳥足で廊下を進む。

ダイニングに下りるとジョゼットが、あからさまに嫌な顔をして氷水を入れてくれた。

酔い覚ましにはこれね。

 

「ジョゼットおはよう……メシまだ?」

 

「おはようございます。昨日も飲んだんですか?」

 

「1ケース空けちゃった。……うん、気持ちの悪い朝にぴったり。氷水が身に染みる」

 

「もうすぐ朝食の支度もできますから。今日は日曜ミサの日なので急がないと」

 

「うえっ、面倒なミサがあるんだった。さっさと逃げなきゃ」

 

みんなで朝食を済ませると、急ぎ足で聖堂に向かう。

街の連中が早くもマリアさんにお祈りを始めてる。9時まで入るな。

 

「おはよう、里沙子ちゃん」

 

「……おはようさん」

 

「今日も元気ね、里沙子ちゃん!」

 

「頼むからでっかい声出さんといて。二日酔い酷いねん。どこ見て元気やと判断した?」

 

ミサが始まると、エレオノーラがボロいオルガンを弾いて、全員で賛美歌を歌う。

飽きもせんとようやるわ。

 

アーメンでミサが幕を閉じるとっくの前に、あたしは街へ一直線。

無駄に天気が良くてなんか腹立つ。今日はどんな厄介事が待っているのかしら。

胸に鉛のような憂鬱感を抱えながら、街道をとぼとぼと歩くあたしだった。

 

 

……

 

 

「カハハハ!リサっちさぁ。これって実話!?」

 

「ミサがある日はいつもこんな感じ。ああよかった。気色悪い胸焼けが払拭されたわ」

 

「さっきの話とは違う意味で終わってるのだ……

ところで、後半リサの口調が変になっていたが、あれはどうしてであーるか?」

 

「ああ、故郷の方言よ。酔ってたり辛かったりするとたまに出る」

 

「うんうん、リサっちはどうしようもなく寂しい女。マリーさんが保証するよ」

 

「リサ、お酒を睡眠薬代わりにするのはやめたほうがいいのだ。

気絶しているのと変わらないのであーるよ」

 

「なるべくやらないように気をつける。ってそうじゃないわ!

二人共ここに一筆書いて!」

 

あたしはカウンターの電報の上にペンを置いた。

 

「一筆って何かな~」

 

「あたしが寂しい女だって証言よ。……あら?なんかおかしいわね。

あたし今日は何を証明しに来たのかしら。

結局寂しければいいの?寂しくなければいいの?」

 

「リサが自分にとっての最適解を探している間、アヤが書いておくのだ」

 

アヤが電報の余白にカリカリと何かを書き始めた。

 

「マリーさんが思うに、

どこかで論点がずれて妙な展開になっちゃったような気がするんだな」

 

そうよ、そもそもあたしは何をしにきたのかしら。そこから既にごっちゃになってる。

 

「とりあえず書くよ~?」

 

「あっ」

 

マリーもサラサラと何かを書き記すと、すぐ電報を封筒に入れて糊で封をした。

 

「はいな。証言を書いた。みんなに見せるまで開けちゃだめだよ~ん」

 

「なんで」

 

「なんでも。リサっち都合の悪い内容なら、郵便物でもそこらへんに捨てると思ってさ。

年末年始の郵便バイトのように。

それとも、胸を張って第三者の自分に対する意見を見せられない?だったら返して」

 

「わかったわよ……ルーベル達にこいつを叩きつけてぎゃふんと言わせてやるわ」

 

「その意気だよ~」

 

「リサがんばれ~」

 

「アヤもマリーもありがとう。今日はこれで帰るわ。おっと、その前にこれちょうだい」

 

駄菓子コーナーから、フィルムが変色して明らかに賞味期限が切れてるっぽい菓子を、

ひとつかみカウンターに置いた。

 

「ざっと2G。梱包はお客様ご自身でお願いします」

 

「相変わらず値段めちゃくちゃね。ちゃんとトートバッグに自分で詰めますよ、と」

 

銅貨を2枚置き、食べられるかどうか怪しいお菓子をカバンに詰めると、

アヤにお別れする。

 

「ごめんねアヤ。今日はあんまり付き合えなくて。

どうしても今から帰ってやらなきゃいけないことがあるから」

 

「リサの元気そうな顔が見られただけでいいのだ。ばいなら~」

 

「マリーも騒がせたわね。必ず勝利をもぎ取るから」

 

“シースパロー攻撃始め!サルヴォー!”

 

「あー…うん」

 

既にマリーはDVD観賞に戻っていた。ソファの交渉はまた今度ね。

あたしは封筒を握りしめ、裏路地から帰り道へ続く大通りに飛び出した。

 

 

 

 

 

おやつの時間に間に合った。メンバーも全員集まってる。

手元にはやっぱりハーブティー。だけどこんな生活ももう終わる。

 

「んで?結論は出たのかよ」

 

ルーベルが頬杖をつきながら、やる気なさげに聞いてきた。

 

「当たり前じゃないの。ここに信用に足る人物の証言が書いてあるわ。

エレオノーラ、読んでちょうだい!」

 

パシンとテーブルに封筒を叩きつけた。

エレオノーラが小さな手を伸ばして受け取り、封を切った。

 

「では、僭越ながらわたしが読ませていただきますね。ええと……」

 

 

・リサっちは基本人嫌いで間違いないけど、時々一人が寂しくなるんだよ。

 でも立場上自分から甘えられない、ちょい面倒な娘だから、

 定期的に可愛がってあげてね~

 追伸:紫の稲妻が龍を打つ→C

 

・リサは誰よりもみんなのことを考えているのだー。色々と。

 

 

理解不能!マリーの言いたいことが理解不能!追伸も意味不明!

いつあたしが寂しいって言った!?

いや、物語の円滑な続行にはあたしが寂しい女でいることが必要で……

頭痛くなってきた。帰るまでに考えまとめとくんだったわ。

 

「な~るほどな。里沙子、人様から見てもお前は寂しがりらしいぞ?」

 

「やんぬるかな」

 

「里沙子さんがこの教会の維持に尽力してくださっていることはわかっていましたよ。

今度一緒に聖書を読みましょう」

 

「あろぱるぱ」

 

「やーい、里沙子の寂しんぼう!」

 

あたしは黙ってカバンからお菓子を取り出し、ピーネに渡した。

 

「ラムネ?気が利くじゃない。ん?2000:10:01って!

18年前に賞味期限切れてるじゃない!何考えてるのよ!!」

 

「かーらーす なぜなくの」

 

思考を放棄したあたしは、ピーネの抗議を遠くに聞きながら、椅子にもたれかかる。

 

「まぁ、許してやれよ。ラムネなんか腐るもんでもなし。

里沙子がこうして自分の弱さを認めたことは、真人間に向けての大きな一歩なんだから。

禁酒令も今日で解除してやるから、涙拭けよ」

 

「里沙子もルーベルも、衛生観念を疑うわ!」

 

「解除!?マジ?今からエール冷やしとかなきゃ!どこどこどこ?どこにあるの!」

 

「落ち着け。私が冷蔵庫に入れといてやるから。その代り、ハーブティーは……あ」

 

「なによ、急に黙っちゃって」

 

「うん。どっちにしろ、今日で7日目だから、

放っといても禁酒令もハーブティーも終わりだったんだ」

 

「は!?じゃあ、街まで出向いたあたしの苦労は?」

 

「骨折り損のくたびれ儲けってやつだな」

 

「あああああ、こんな世の中大嫌い!

雨のせいで世界まで嫌いになるなんてそうそうないわよ!」

 

「ところで、追伸に書いてある文章の意味がさっぱりなんだが」

 

「それは、ワタシ宛て。マリー情報官から」

 

「なんて意味なんだ?」

 

「言えない。軍事機密だから。今度帝都に行く」

 

「そっか。大変そうだが、頑張れよ」

 

「うん」

 

「マリィィィ!

せめて“時々寂しさを見せるけど、あくまで企画進行のためのポーズである”くらいに

書きなさいよ!ガチでこの企画どうなっても知らないわよ!」

 

「よかったな。もうハーブティー祭りも終わりだから、

口つけてないなら、誰かに飲んでもらっていいぞ。よかったな」

 

「嬉しくねー!!……そうよ。元はと言えばあいつのせいなのよ!

Gが妙な電報よこさなきゃこんなことにはならなかった!」

 

あたしは立ち上がると、Century Arms M100を抜いて、玄関へ向けて走り出した。

久々に握る黄金銃が手に食い込む。

 

「おーい、どこ行くんだよ!」

 

「不届き者に天誅を下す!首を洗って待ってなさい!まずは郵便局から当たらなきゃ」

 

「……やれやれ、本当に落ち着きのないやつだな」

 

ルーベルは開きっぱなしのドアを見ながら手元のコップから一口飲んだ。

飲んだ瞬間派手に吐き出した。

 

「なんだこれ、臭え!」

 

「ひどい!わたくしのハーブティーですよ!」

 

※個人の意見です

 

 




*本当にごめんなさい…

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