面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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1.風邪を引いた里沙子 2.ピーネ街へ行く 3.チョコ
1.世話になってるお医者さんもいつかはあたしより先に死んじゃうと思うと未来が不安になる。


迂闊だったわ。この世界にはインフルエンザの予防接種がないことを失念してた。

いや、インフルかどうかはわかんないけど、

とにかくあたしはベッドの中で39度7分に苦しめられてる。

地球にいた頃は毎年予防接種受けてたのに、

1回熱が出るとそれまでの投資が全部無駄になったような気がするの。

 

「里沙子さん、入りますよ~?おかゆができました」

 

「ん…ありがと。そこ置いといて。今は食欲ない」

 

首だけジョゼットに向けてテーブルを指差す。

 

「そう言って今朝も食べなかったじゃないですか。

そろそろ何かお腹に入れなきゃ駄目です」

 

「……わかった。食べる。このあたしが“エール飲むのが億劫”って思うくらいだから、

きっと重症なんだと思う」

 

「じっとしててください。わたくしが口に運びますから。ふ~ふ~」

 

ジョゼットが卵粥をスプーンですくって息で冷ます。

ちょっとつばが飛んだけど文句を言う気力もない。

 

「はい、あーんしてください」

 

「あー……あづっ!!水ちょうだい水!」

 

「すみません!さあどうぞ!」

 

慌てて水を飲むけど、冷めきってなかった熱いおかゆの攻撃で舌を火傷。

当分何食べてもおいしくないわね。

 

「勘弁してよ……やっぱ自分で食べる」

 

更には怒鳴る気力すらない。正月に散々験担ぎを甘く見たバチが当たったのかしらね。

 

「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

あたしは小鍋を受け取って自分で卵粥を食べ始めた。

そうそう、さっきの話だけどインフルエンザのワクチン接種料って

病院によってまちまちなのよね。昔、適当に近所の病院で受けたら5000円近く取られて、

べらぼうに高い金額に驚いたのよ。

 

で、ネットで料金について調べたら、

ワクチン代は病院ごとに違うという事実を突き止めたの。

それから何件も内科や耳鼻科ハシゴして、ようやく一回3000円のところを見つけた。

厚生労働省にはみんなが同じ価格で予防接種が受けられるよう、

安い方に値段を統一して欲しいもんだわ。

 

“おーい、できたぞー”

 

熱に浮かされた頭でどうでもいいことを考えながら、ぼそぼそと卵粥をすすっていると、

裏庭からルーベルの声が聞こえてきた。できたって何が?

 

「はーい!すぐ行きまーす」

 

「待ちなさいよ。何作ってるの?」

 

「そろそろ病院でお医者さんに見てもらわなきゃ。そのための移動手段です。

わたくしは支度をしてきますんで、着替えておいてくださいね!失礼しまーす!」

 

行ってしまった。病人の前だってのに忙しない娘ね。

 

「あんたみたいに少しは無口になればいいのに」

 

「うう…里沙子殿、拙者はいつまでこれを続けていればいいでござる? 」

 

発熱してからずっと冷たい手でおでこを触らせてるエリカが嫌そうな顔で聞いてくる。

 

「熱が引くまでずっと」

 

「あと拙者は無口なのではなく出番が少ないだけでござる。

機会さえ貰えれば不知火家に伝わる数々の剣技をお目にかけるのじゃ」

 

「出番交渉は各自でお願い。あたしはマヂでしんどい。……そろそろ起きなきゃ」

 

あたしはベッドから下りると、重い体を引きずって服を着替え、三つ編みを結い、

ガンベルトを巻く。ストールを羽織って準備OK。

 

「行ってくるわ。ジョゼットが待ってる。いい加減エールより薬が欲しくなってきた」

 

「むむっ、それは危険な兆候。早く医者に見てもらうがよい。気をつけてねー」

 

「ありがとう。語尾」

 

ドアを開けて廊下に出ると、

カシオピイアやピーネ、パルフェムが廊下であたしを待っていた。

 

「お姉ちゃん……顔が真っ赤」

 

「だらしないわね。この寒いのに酔っ払って腹出して寝てるからよ」

 

「裏庭でジョゼットさんが待ってますわ。さ、急いで病院へ」

 

「……みんな多分心配してくれてるんだろうけど、意識が朦朧としてて聞き取れないし、

伝染るといけないから離れたほうがいいわ」

 

「わかりました……外は寒いので、気をつけてくださいまし」

 

「ういっすー」

 

それからよろよろと1階に下りて物置から裏庭に出る。そこにルーベル達と変なものが。

 

「来たな。これなら楽に街まで行けるぜ」

 

「何これ」

 

「これにお前を乗せて街の薬局まで行くんだ。水色の髪の姉ちゃんがやってるとこ」

 

「そうじゃなくて、なんで乳母車なんだって聞いてるの。子連れ狼じゃあるまいし。

こんなので街に行ったらいい笑いものよ」

 

大工仕事が得意なルーベルが作ったものは、

大五郎が乗ってた車にガチでそっくりで正直乗る気がしない。

 

「贅沢言うな。作るの結構大変だったんだぞ。車輪とか」

 

「そうですよ。こうしている間にも身体が冷えます。街へ急ぎましょう」

 

「んー、わかった」

 

しょうがなく乳母車に乗り込み体育座りをする。

そしたら、誰かが肩に暖かいケープを掛けてくれた。

 

「少しごわっとしますが、ストール1枚では寒いでしょうから」

 

「ありがとー。エレオのいい匂いがするわ。くんくん。

作られた香水では実現できない、エレオの香り。すぅー……」

 

「ちょっ、何してるんですか!嗅がないでください!」

 

「そうですよ!里沙子さんのスケベ!」

 

「熱でおかしくなってやがんだ。ジョゼット、街まで行ってくる。後は頼むな」

 

「えへへ。子供の頃、道徳の時間なんかに“シンナーはやめよう”ってビデオを

見せられたもんだけど、少年Aもこんな感じでトリップしてたのかしら」

 

「なるべく急いであげてくださいね、なんだかキモいですから……」

 

ルーベルが乳母車を押すと、低い視点のまま自分の身体が前進を始める。

なかなか新鮮な体験だわ。見た目のダサさを大目に見れば、なかなか悪くない。

小高い丘を下りて街道へ。ハッピーマイルズの街に向けて出発。

 

通い慣れた道を初めて馬車以外の乗り物に乗ってどんどん進む。

ルーベルが口笛を吹き、あたしは乳母車の振動で頭をぐらぐら揺らす。

なんとなく穏やかな時間。今回は特別バトルもない日常回ってところかしら。

 

「待ちやがれ!」

「金置いてけや!」

「命が惜しくねえのか、おーん!?」

 

そう思ってたんだけど。こいつらの登場は何ヶ月ぶりかしら。

粗末な刃物で武装した野盗3人が道を塞ぐ。

ちょっと前に十分半殺しにしたはずなのに、流しの野盗かしら。

野盗なんて全部流しだけどさ。

 

「ちょっと待ってろ。今片付ける」

 

「待ってルーベル」

 

退屈していたあたしは、ホルスターからピースメーカーを抜いた。

特徴的なグリップの反発が手に心地いい。

ルーベルが乳母車の後ろに戻ったのを確認すると、

照準もそこそこに3人組に向けてトリガーを引き、.45LC弾を6発全部放った。

連続する銃声が空を貫き、野生動物が一斉に逃げ出す。

うん、ファニングの腕は鈍ってないわ。

 

「ぎゃあっ!いきなり撃ってきやがった!」

「頭イカれてやがる!」

「やってられるか、バカヤロー!」

 

野盗達も逃げていく。連中の後ろ姿を見ながら呟いた。

 

「ああもう、外した。頭フラフラで狙いが上手く定まらない」

 

「何やってんだ!当たってたら死んでたんだぞ!?」

 

「そりゃ殺すために……おっと、それは企画的にNGだったのよね。メンゴメンゴ」

 

「本格的にやべえな。とっとと医者に診せねえと」

 

「アハハ、次も殺さないように気をつける」

 

「もう何も撃つな。私がやるから」

 

薬局への小旅行再開。ピースメーカーのローディングゲートを開けて空薬莢を排出し、

新しい弾を込めながら考える。

あたしという武器を搭載した乗り物って、なんだかメタルスラッグみたい。

大砲は左脇のM100で。

いろんなアニマルスラッグがあるんだから、あたしスラッグがあってもいいはず。

ルーベルが思いっきり車を押せばメタスラアタックもできる。

名前は何にしようかしら。里沙子スラッグ?ウッドスラッグ?一発で大破しそう。

 

メタスラは小学生の頃初めてプレイしたんだけど、

フレイムショットって普通に国際法違反だと思うんだがどうか。

頼れる武器だけど、当時は焼け死ぬモーデン兵の派手な断末魔にちょっとビビったわ。

 

話は変わるけど、ドロップショットが活躍するシリーズと場面を知ってる人がいたら

教えてくれないかしら。

遮蔽物を飛び越えるほど高くも跳ねない、弾速遅い、威力も微妙。

あたしには有効活用する方法を見つけられなかったから、

うっかり取っちゃったらショット連打ですぐ使い捨ててたもんよ。

 

「着いたぞ。もう少しだ」

 

懐かしい思い出に浸っていると、いつの間にか街のゲートをくぐってた。

通行人がジロジロとあたしを見る。

恥を撒き散らしながら、一刻も早く薬局に到着するのをじっと待つ。

なぜ人は、少々見た目が違うというそれだけの理由で、

他者を異物として好奇の目で見ようとするのか。

世界から戦争がなくならない原因をここに見た。

 

南北に走る大通りに差し掛かった時、よく知った声に話しかけられた。

いつもと同じカラフルなロングヘアにベージュのコートを着た年下の知り合い。

 

「あらま。リサっちどうしたのさ。ベビーカーに乗る歳じゃないでしょ。

もしくはそんな趣味?」

 

「うっさいわよマリー。風邪で死にそうなの。

歩いて薬局まで行けないからこのザマなの」

 

「ガラクタ屋の姉ちゃんか。

置き薬で手に負えなくなったから、今から医者っぽいやつに診せるんだ」

 

「そっかぁ。リサっちでも風邪引くんだねぇ。珍しいこともあるもんだ。くはは」

 

「元気だったらあんたの店にバナナのように連なった爆竹放り込むんだけど。

とにかくアヤに次の日曜は来られないって伝えといて」

 

「了解でやんす。引き止めて悪かったよ。ほんじゃ、お大事に~」

 

「うん、バイバイ……」

 

マリーと別れて移動再開。

医者ひとつかかるにも邪魔が入る。マヂで最悪ハッピーマイルズ。

改めて大通りを揺られること5分。やっと例の交差点にたどり着き、左折。

ようやく銃砲店前の薬局で停車した。

 

「自分で降りられるか?」

 

「うん、なんとか」

 

あたしはゆっくり乳母車から右足と左足を順番に下ろすと、薬局のドアを開けた。

カウンターの奥で座ってるアンプリに前置きを省いて用件を告げる。

 

「風邪でもうすぐ死ぬから先生呼んで」

 

「先生は出張中よ。モンブールの学校で風邪がパンデミック状態」

 

「いい加減になさいよ!

この企画始まってから先生なんて出てきた試しがないじゃない!」

 

「落ち着け、里沙子。無駄に体力を使うな」

 

「あなたの間が悪いのよ。風邪くらいなら私が診てあげるから、奥にいらっしゃい」

 

「大丈夫なんでしょうね……」

 

他にアテもないあたしは診察室に入って丸椅子に座った。

アンプリが“先生”用と思しき背もたれ付きの回転椅子に座ると、

まずアイスの棒みたいな木のヘラを一本取った。

 

「お口開けて。あーん」

 

「あ゛ー……」

 

棒であたしの舌を押さえて口の中を見ると、

ふむふむと何か納得した様子でカルテに何かを書き込んだ。

 

「やっぱり喉が腫れてるわね。今朝の熱は?」

 

「39.7度」

 

「咳は?」

 

「たまに…いや、結構ある」

 

「鼻水、頭痛は?」

 

「それはない。とにかく熱がしんどい。身体が痛い。薬おくれ」

 

「そうね。まずはここで1回分飲んでいって。今用意するから」

 

アンプリが席を立って廊下の斜め向かいの調剤室に移動した。

手持ち無沙汰になったから、仕方なく天井の隅を見つめてただ時間が過ぎるのを待つ。

15分くらい待ったかしらねぇ。それとも1時間かしら。

熱は時間の感覚まで狂わせるらしい。

とにかくアンプリが油紙に包んだ粉薬と紙コップに入った水を持って戻ってきた。

 

「はい。これを飲んで」

 

「妙に量が多くてずっしり来る。成分なに?」

 

「粉末状にしたビワの種、アルミニウム、ヒ素、トリカブト、酸化銅」

 

「それは素敵な万能薬ね。病気と心中しなきゃいけない点に目をつぶれば」

 

「冗談よ。解熱剤、ビタミン剤、抗生物質。とりあえず飲んで。だいぶ楽になる」

 

「ったく、冗談に付き合ってる余裕はないのよ」

 

あたしは粉薬が口の中で広がらないよう、ベロでくぼみを作って一点に流し込み、

水で一気に飲み込んだ。

母さんはこれができないらしく、粉薬は苦手だっていつも言ってた。

その度にオブラート使えば?って言ったんだけど、いちいち包むのが面倒くさいらしく、

忠告は結局この世界に来るまで無視され続けた。

今思えば、あたしのものぐさな性格は母さん譲りだったのかもしれない。

 

また考え事をしていると、なんだか熱が引いてきたような気がする。

いくらなんでも早すぎだとは思うんだけど、こういうのって何効果だったかしら。

パブロフの犬?違う気がする。えーと、そうそう。プラシーボ効果だった。

よかった、まだ脳が熱でプリンになってはいないみたい。

 

「一週間分出しとくから、毎食後に飲んでね」

 

「わーった。ありがとセンセ」

 

「先生……?」

 

急にアンプリがカルテに滑らせる万年筆を止めてあたしを見る。

なんなのよ。どいつもこいつも病人を珍獣みたいに。

 

「今はあなたがここの先生なんでしょ。

本当、看護婦が風邪の診察や薬の処方してるなんて、日本じゃ即摘発されるわよ」

 

「あ、そういうこと……まぁ、こことアースじゃルールは違うから。

会計はカウンターで」

 

「うい」

 

調子が良くなったとは言え、アンプリの妙な様子をいつまでも気にしてる余裕もなく、

さっさと診察室を出て支払いを済ませる。

 

「診察料と薬代、合わせて500Gよ」

 

「はい」

 

金貨5枚をトレーに置く。引き換えに大きめの紙袋に入った薬を受け取った。

 

「熱が下がってもしばらくは安静にしててね。目安は3日」

 

「酒は?」

 

「風邪こじらせて死ぬ人は毎年いる」

 

「わかったって。酒がないと暇でしょうがないんだけど。さよなら」

 

「お大事に」

 

あたしは薬局から出ると、外に停めてあった乳母車に飛び乗った。

 

「よっと!」

 

「えらく元気になったな。もう歩けるんじゃないのか?」

 

「薬が効いて楽になったらテンション上がってきた。今度はデコトラのごとく爆走して」

 

「なんだよ初めは嫌がってたくせに。お前が良いなら構わねえけどよ」

 

「お望みなら演歌のひとつでも歌うわよ。レディ、ゴー!」

 

「薬が切れたら泣くパターンだな。いいからもう帰るぞ。スピード出すから掴まれ」

 

「歌います。男一匹夢街道。♪~(規約違反につき削除されました)」

 

奇妙な乳母車と聞き慣れない歌に、道行く人らがやっぱりあたしを見る。

でも、病気の辛さから解放されて有頂天になってて気にならない。

健康の有り難みが身にしみるわ。

広々とした大通りを疾走してると、気になる存在を見つけた。

 

「ルーベル、ストーップ!」

 

「うわっとと。なんだよ」

 

「あれ見てあれ」

 

「あん?」

 

視線の先には見知った顔。パンや果物が入った紙袋を持って、トコトコ歩いてる女の子。

あたしは乳母車の中から大声で呼びかけた。

 

「ベネットちゃーん!こっち向いてー!」

 

こっちに気づいたベネットが、明らかに嫌そうな顔をして早足で近づいてきた。

 

「やめてくださる!?私が同類だと思われるじゃないの!」

 

「まぁ、つれないこと言わないでよ。今日はマーカスと一緒じゃないの?」

 

「うちの人は仕事中!プータローのあなたと違ってね!」

 

「んふふ、“うちの人”ですって!もうすっかり人妻が板についてるわね」

 

「用事がないならもう行っていいかしら!主婦も暇ではありませんの!」

 

「悪りいな。こいつ風邪引いて熱出してて今日は頭がおかしいんだ」

 

「今日は?まるで年がら年中、酔っぱらいみたいな口ばかり利いてるトンチキ女に、

まともな日があるみたいじゃありません?」

 

「せっかく久しぶりに会えたのに冷たいわ。でも、あんた達が元気にやってて安心した。

基本再登場に数ヶ月かかる関係者のその後を知ることができるなんて、

たまには病気になるのも悪くないわねえ。あらやだ、あたしったら大事なことを!」

 

「今度は何よ」

 

「マーカスとはもう“済ませた”の?」

 

「……病人にはお見舞いが必要ね。これでも食べて死になさい!」

 

「あだっ!」

 

硬いリンゴを思い切り頭に投げられた。無残に半分に割れて乳母車の中に落ちる。

 

「二度と声をかけないで!」

 

「あー、なんか悪かったな。お幸せに」

 

ベネットは顔を真っ赤にして去ってしまった。あたしは割れたリンゴを拾って食べる。

今度は“リンゴの唄”でも歌おうかしら。

著作権が健在だからどうせまた消されるんだろうけど。

 

「ん~おいしい。いくつか買って帰ってジョゼットにすりおろしてもらうのもいいかも」

 

「ちょっとは反省しろ。あんまりはしゃいでると肺炎になって本当に死ぬぞ」

 

「はーい」

 

大通りを抜け、役所前を通り、市場の前を過ぎ去り、

ハッピーマイルズの街を後にしたあたし達。

教会へ向かって街道を突き進むも、

今度は野盗が出なかったから里沙子スラッグの活躍の機会がなかった。

 

「着いたぜ。ほら降りろ」

 

「ありがとさん。これ商品化したら案外売れるかもね」

 

「元気になったら金と酒かよ。これなら自宅療養続けさせてた方がマシだったぜ。

しばらくは大人しくしてただろうからな」

 

「ただいまー!」

 

玄関を開けて誰もいない聖堂で叫ぶ。奥からパタパタと複数の足音が聞こえてくる。

 

「里沙子さん、もう具合はいいんですか?あまり体力を使うと風邪が長引きますよ」

 

「ジョゼットからも言ってやれ。薬もらってちょっと持ち直したらこの調子だ」

 

「すぐ横になって下さいね。今は楽でも、体力を消耗しているはずですから」

 

「あ、エレオ。ケープありがとう。いい匂いで幸せだったわ」

 

「やめてくださいって……」

 

あたしはエレオにケープを返すと、忠告通り私室に戻ってパジャマに着替え、

またベッドに潜り込んだ。

 

「ヘイ、ブルースネークカモン」

 

「またでござるか?」

 

エリカが位牌からにゅるんと抜け出て文句を垂れる。

 

「あんたがいればとりあえずあたしは氷嚢いらずだわ。おでこ」

 

「拙者は氷嚢ではござらん!

いつか“ろーどーくみあい”を作って幽霊の乱用をやめさせなきゃ」

 

「仲間が見つかるといいわね。

ところで、その中途半端な知識はどこから仕入れてくるのかしら」

 

「伊達に長生きはしておらぬ。いや、十八で死んだから長死にでござるか?」

 

「知らないわよ。一眠りするから冷えピタ役よろしく。おやすみ」

 

「まったく、いい気なものだわ」

 

そしてあたしは久々に快適な眠りについた。

目が覚めると完全に薬が切れててまた地獄を見たけど。

遊びすぎた反動か、今度は頭痛鼻水も併発。

薬の効きも悪くなってまた寝込む羽目になった。

インフルエンザの流行はまだ続くみたいだからみんなも気をつけてね。

普通の風邪でも油断しないで。それではみなさんさようなら。

 

 


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