面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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階段から転落事故
箱買いした安物ビールがまずくて辛い…


「ウェーイ!我が家のベッドは寝心地最高!空気がうまいし飯もうまい!」

 

懲役3日から生還したあたしは、

ダイニングでお昼のハンバーグとフォカッチャを食べながら

自由のありがたみを噛み締めていた。

 

「んぐ、そんでね?

マーブルとは一着買ったら一着質に入れるって条件で取り分9:1にしたの。

あんまり取りすぎて破産されても困るしね。

後は神殿をフリーパスで泊まれるあたしらの別荘にするってことで合意。かんぱーい!」

 

熱いブラックで祝杯を上げる。

 

「はしゃぐな。自業自得だろうが。みんなどれだけ心配したと思ってんだ」

 

「ごめんごめん。しかし、こうして思い返してみると、

独房の食事は臭いっていうよりパサパサしてたわね。

パンは明らかに安物でスカスカだし、飲み物は牛乳瓶1本。おかずはチーズ一切れ。

阪神大震災の時の簡易給食思い出すわ」

 

「確か里沙子さんが子供の頃、大きな地震が起きて大変な思いをされたそうですね」

 

「うちは神戸でも六甲山を挟んだ北のほうで震源地から遠かったから、

家の中は滅茶苦茶になったけど人が死ぬほどの被害はなかったんだけどね。

悲惨だったのは南の三宮や長田の方よ。

話を戻すと、給食センターが被災したせいで、

しばらくの間、給食がパン・牛乳の他に一口チーズや細長いソーセージ、

デザートのゼリーといった既成品に変わったんだけど、

普段の給食がまずいもんだからそっちの方が好評になるという逆転現象が起きてたのよ」

 

「子供時代のお姉さまの貴重な体験談ですわ。どれくらいまずかったのですか?」

 

「ご飯はネトネト、サラダ類は軒並み野菜の水分でドレッシングがシャバシャバ。

煮物は味が染みてないし、人参に筋が残ってるなんて珍しくもなかった。

そしてどんなメニューだろうが牛乳1本を押し付けられる。

白米と牛乳がミスマッチなんて明らかなのに、

食い合わせなんてあったもんじゃなかったわ。

稀に出るカレーライスや、学期末だけに出るローストチキンだけが楽しみだった。

あと、とくれんのオレンジゼリー」

 

「“とくれん”って何よ?特別なゼリーなの?」

 

日本ですら一部地域でしか知られていない言葉にピーネが興味を示した。

 

「あぁ、魔界生まれのピーネはもっと知るはずないわよね。

神戸で育ったなら誰でも知ってるカップゼリーのメーカーよ。

時々給食のデザートになってたわずかな希望」

 

「里沙子さんの大好きなゼリーですか~。わたしも食べてみたいです!」

 

「生ものだからこればっかりはマリーの店でも期待できないわね。

言っとくけど思い出補正のかかった何の変哲もないゼリーよ。

うんざりするようなメニューの中だからこそ輝いてた部分もあるの」

 

「それでもやっぱり気になっちゃいますよ~」

 

「あんたはシスターなのに食い意地張り過ぎ。ごちそうさま。

さて、腹も膨れたしもう一眠りしましょう」

 

ムショ上がり後はじめてのボリュームある食事を終え、

洗い場に皿を置くと私室に向かう。

2階へ続く階段に足をかけるとピーネが母さんみたいなことを言う。

 

「食べてすぐ寝ると牛になるわよ」

 

「アハハ、魔界にもそのことわざあったんだ。あたしならさしずめ栄養失調の神戸牛ね」

 

ケラケラ笑いながらドアの鍵を開け、ベッドに大の字になる。柔らかい布団が幸せ。

一眠りしたらあたまもすっきりして……

 

「寝れるか」

 

むくりと起き上がる。まだ1000字ちょいなのに寝てどうする。

兵庫県の給食事情教えられたところで読者もどうすりゃいいってのよ。

 

「エリカ!起きろー!!」

 

部屋の隅の位牌に向かって叫ぶ。こいつったらまた寝てる。そんなだから影が薄いのよ。

位牌から青白いソフトクリームがうねうねと出てきて、人の形になる。

 

「なんなのよ~。まだ十四時過ぎでござる……」

 

「出番回してやってるんだから文句言わない。いきなりだけど問題発生。

今回ガチでネタがない。

このままじゃ、せめて週一投稿を続けましょうルールが守れないわ」

 

「別にこんな企画一週飛ばしたところで困る読者はおらぬ。

皆、仕事や別の娯楽で忙しいに決まっておろう」

 

「これはあたしの意地と奴の治療も兼ねてるの。

週刊護衛空母体制を崩したら、そのままズルズルとサボり癖が出るし、

日刊駆逐艦だったころのエネルギーなんて取り戻せやしない」

 

「それで拙者にどうしろと?」

 

エリカが寝ぼけ眼をこすりながら迷惑そうに聞いてくる。

それだけ昼寝してよく夜寝られるもんだわ。人のこと言えないけど。

 

「なんかネタ考えて」

 

「ネタと言われても、ろくに里沙子殿が外に連れて行ってもくれないから、

情報というものが足りぬ。……う~ん、そうねえ」

 

ふよふよと浮きながら部屋を見回すエリカ。

 

「そうでござる!神戸がダメなら初心に帰ってこの世界自体を紹介するとよいのじゃ」

 

「この世界?ミドルファンタジアを?」

 

「うむ」

 

「な、る、ほ、ど……そうね。

もうすぐ100話だし、未だに固まりきってない世界観のおさらいをするものよさそう。

じゃあ、手近なところから行きましょうか」

 

「と言うと?」

 

あたしはテーブルに置いていたデカイ財布を手にとって、中の硬貨を数枚取り出した。

 

「まずはサラマンダラス帝国の貨幣。1G銅貨、10G銀貨、100G金貨がある。

惣菜パンがひとつ1、2Gだから、日本円に直すと大体1G=100円ってところね」

 

「拙者には皇国の金銭しかわからぬでござる」

 

「そっかー、早くも課題が出てきたわね。

皇国どころか一度旅した魔国のお金もまだ謎ね。一応Ωって単位はあるんだけど、

紙幣なのか硬貨なのかも未定のまま放っとかれてる」

 

手帳に改善すべき点を書き留めた。他になんかないかしら。

今後のエピソードで少しずつケリを付けていこうと思う。

 

「あとは……この国の政治宗教ね。

この国は首都の帝都にあるサラマンダラス要塞で政策が決められてて、

皇帝をトップにした立憲君主制が採られてる。

基本的には全ての決定は憲法を基に皇帝陛下が下すんだけど、

要塞は国教であるシャマイム教の本部、つまり大聖堂教会とも太いパイプで繋がってて、

その代表である法王猊下の意向も国政に影響している。これでいいわね」

 

「確か里沙子殿が税金を免除されているのも、

この家をエレオノーラ殿の修行の場として貸すことが条件となっておると聞いた。

大聖堂教会側から国税の管理をしている要塞へ口利きがあったのであろう」

 

「そのとーり!エレオのおかげで酸のように貯金を溶かしていく税金から

あたしの資産は守られてるってわけ。他には?」

 

「この国の領地について教えてほしいでござる」

 

「あー、それもあったわ。国の舵取りはさっき言った皇帝陛下が行うけど、

地方分権の観点からサラマンダラス帝国はいくつかの領地に分割されてて、

選挙で任命された領主が治めてるの。

今、確認されてるのは……ここハッピーマイルズ、モンブール、イグニール、

スノーロード、レインドロップ、サグドラジル、ミストセルヴァ。

そんで魔王とかったるいケンカをやらかしたホワイトデゼール」

 

「この広い島に領地がそれだけとは思えぬ。いずれまた増えるであろう」

 

「あんまり設定を広げ過ぎると使い捨てになっちゃうから乱用は禁物だけどね。

そうそう、領地じゃないけど魔王編で旅した聖緑の大森林も忘れちゃだめ。

エルフが住んでる森林地帯」

 

「行ってみたいけれど、どうせ連れて行ってはくれぬのであろう……」

 

「わかってるなら話が早いわ。次のお題は何にしようかしら」

 

自分の部屋に使えそうなものがないか探してみる。あら、こんなところに良いものが。

ベッドから立ち上がってポケットから鍵を取り出し、ガンロッカーを開けた。

 

「今度はあたしの銃をご紹介しましょう」

 

自慢の武器を一丁ずつ丁寧に床に広げる。

あ、ダンガンロンパの二次創作書いてたとき模擬裁判やったんだけど、

犯行現場になったのってウチだったの。

読んでくれた人が存在してたら気づいてくれてたかもしれない。

 

「色々あるものじゃのう」

 

エリカが珍しそうに多様な銃を眺める。

 

「一気に行くわよ?まずはコルトSAA、別名ピースメーカー、.45LC弾を使用。

あたしがこの世界に来て初めて手に入れた銃よ。

続いてCentury Arms M100。45-70ガバメント弾を使用。初期の頃は大活躍だったけど、

めっきり出番がなくなっちゃったの。ごめんね。

言わずと知れたデザートイーグル。ゾンビゲーとかでおなじみのマグナム。

この企画じゃ44マグナム弾を使ってるけど、読者から実在しないって指摘が来た

こっ恥ずかしい存在。今更変えるのもなんだからこのまま行くわね?

あと、ドラグノフ狙撃銃。7.62x54mmR弾を使用するライフル。

これもさっぱり使わなくなったわねぇ。ここからは割と新顔。

ヴェクターSMG。銃身全体がVを描くような独特なボディが特徴で、

特有の反動吸収機構を備えたサブマシンガン。10mmオート弾を使用。

前回ぶっ放したばかりね。

ベレッタ93R。銃口に三本の溝が刻まれた消炎器が特徴のマシンピストル。

9mmパラベラム弾を使用。3点バーストが可能なんだけど、やっぱり全然出番がない。

最後にレミントンM870。ポンプアクション式ショットガン。

ハンドグリップを前後に往復させることによって、使用済みの弾薬を排出し、

新しい弾薬を薬室に装填する仕組み」

 

「読む気が失せるほど長々としておる。

こんなに鉄砲を抱え込んで里沙子殿は何がしたいのじゃ?」

 

「うっさいわね、頭のおかしい乱暴者と戦ってるうちに増えちゃったのよ。

……まぁ、こうして列挙するとたくさんあるわね。

こんな感じで今回は記憶の整理でお茶を濁そうと思う。読者の方には申し訳ないけど」

 

「もっと知識を披露したいなら、外に出るべきなのじゃ。

部屋に引きこもっておらず、世の中の動きを見るべき。

つまり拙者と外出すべきなのである。うむうむ」

 

「なんであんたとランデブーしなきゃいけないのよ面倒くさい……

とも言ってられないのよね。まだ4000字にも届いてないの。

ここで終わったら流石に手抜きだわ。あんた、位牌に戻りなさい。

行きたくないけど街に行こうと思う」

 

「承知!」

 

霊体の塊に戻ったエリカが位牌に入り込む。

あたしはトートバッグを肩に掛けて位牌を中に放り込んだ。

支度を済ませると私室から出て、廊下を進む。

 

“里沙子殿、位牌はもっと丁寧に扱ってほしいのじゃ”

 

「注文の多い幽霊ね。何なら腰のピースメーカーに移る?

うっかり野盗に撃っちゃったら弾丸ごとお空に飛んでいくことになるけど」

 

“拙者の扱いが雑になる傾向も改善すべきでなのじゃ”

 

「悪いけどね、一度固まったキャラはそう簡単にあああああ!!」

 

あたしとしたことが。エリカと喋りながら歩いていたら足元がお留守になってた。

1階まで段差でガンガン頭を打ちながら階段を転がり落ちて、

ようやく止まったときにダメ押しで棚に頭を強打。

慌てて出てきたエリカの声を聞きながら、あたしは気を失った。

 

 

 

 

 

頭痛い。

 

“……さん、里沙子さん!”

 

ジョゼットのやかましい声が頭に響く。叫ぶのをやめなさい。

 

「里沙子さん、しっかりしてください!」

 

「ジョゼットさん。頭を強く打っています。あまり刺激しないほうが」

 

痛い部分に手を当てる。大きなたんこぶができていた。

 

「大丈夫かよ!?すげえ転び方してたぞ!」

 

「お姉さま、パルフェムのことがわかりますか?」

 

「無理に、動かないで。後で、お医者さん、行こうね」

 

「よそ見してるからこうなるのよ。人騒がせなやつ~」

 

ぼやけた意識がだんだんはっきりしてきた。

まだ床に仰向けになっていたことに気づいたあたしは、

なるべく頭を動かさないようゆっくり起き上がった。

 

「あの、他にどこか痛いところはありませんか!?」

 

「別にない。ないんだけど……」

 

相変わらずジョゼットは落ち着きがない。

それはいつもと変わらないんだけど、どうしても意味のわからないことが。

 

「ねえ、ジョゼット」

 

「はい!」

 

「……こいつら、誰?」

 

「へ?」

 

ジョゼットがきょとんとした顔で間抜けた声を出す。

 

「へ?じゃないわよ。誰が勝手に友達上げていいって言った?

あたし、他人が自分のテリトリーにいると頭の血管が切れるって言ったわよね」

 

「お、おい。どうしたんだ。なんか様子が変だぞ里沙子」

 

妙に手の硬い赤髪の女があたしの肩を軽く叩く。馴れ馴れしいわね。

とりあえずその手をどけて正体を探る。

 

「あなた誰?ジョゼットに呼ばれたなら悪いんだけど早めにお引取り願えるかしら。

他人が半径10m以内に留まると脳内のC4爆弾が弾ける体質なの」

 

「またイタズラか?今は冗談はやめとけ。派手に頭ぶつけたとこなんだから」

 

「ほっといて。怪我したなら休まなきゃいけないから全員帰って」

 

顔も見たことのない連中が驚いた様子で一斉に喋りだす。

違う意味で頭が痛くなってくる。

 

「里沙子さん!ルーベルさんのことを忘れてしまったのですか!?」

 

「お姉さま、パルフェムですよ……?不安になるので名前を呼んでくださいまし……」

 

「ちょっと!私達全員忘れるとかどんだけ頭悪いのよ!」

 

「お姉ちゃん、ワタシ、覚えてない!?」

 

まだ異世界に来て数日なのに妹が2人も出てきた。安物ハーレムラノベじゃあるまいし。

 

「一人ひとりに答えるのが面倒だから一言にまとめる。知らん、邪魔、帰れ」

 

意味不明な奴らが言葉を失う。あたしにどうしろってのよ。

 

「里沙子さん……本当に何も覚えてないんですか?

ルーベルさんも、エレオノーラ様も、それに、カシオピイアさんも!」

 

「……ジョゼット、あんたには後で話がある。まずは責任持ってこの人達を帰らせて」

 

「わたくしのことは覚えてるんですね?」

 

「ええ覚えてるわよ。魔女から助けてやった代わりに召使いになったのよね。

だけど、しばらく様子を見て役に立たないならあんたも追い出すから。

この様子じゃお別れも近いわね」

 

「そんな……」

 

「こりゃあ、ヤバイことになったな。……記憶喪失だ」

 

「「ええっ!?」」

 

ああうるさい!マヂでこいつら誰なのよ!!

 

 

 

 

 

私が結論を口にすると、皆、衝撃を受けた様子で声を上げた。だが、間違いない。

今、私達を白けた目で見てる、目が据わった女は私が知ってる里沙子じゃねえ。

 

「ねえ、悪いんだけど今日は大事な用があるから本当に帰って?」

 

「嘘だよな?さっき昼寝するって言ってただろうが」

 

「ええ嘘よ。

方便使ってでも消えて欲しいって気持ち、わかってくれると嬉しいんだけど」

 

「酷いですわ、お姉さま……」

 

「あたしに兄弟姉妹はいない」

 

「落ち着けパルフェム。記憶喪失だって言ったろ。

今の里沙子はお前の知ってる里沙子じゃねえんだ。

なあ、お前がこの世界に来てから、何日目だ?」

 

「名前も知らない奴と身の上話をするつもりはないわ。

本格的に苛ついてきたから怪我しないうちに出ていきなさい。

……それにしても、無駄話してたら喉が渇いたわね。エールが冷えてたはず」

 

里沙子は私の質問を無視して冷温庫に行っちまった。

みんな不安気に里沙子の様子を見てる。あいつは冷温庫からエールを一本取り出すと、

ぶつぶつ言いながら栓抜きで王冠を外した。

 

「エールの最適温度は13℃らしいんだけど、13℃に維持する方法が見つからない」

 

「まだ昼だろう。それも子供の前で。飲むのは夜になってからって約束しただろうが」

 

「指図しないで。あたしのもんをいつ飲もうがあたしの勝手でしょう」

 

「昼酒は毒だって前にも言われたんだろ?とにかく今はよせって。体に障る」

 

私は里沙子から酒を取り上げようとあいつの腕を掴んだ。

が、同時にその手が乾いた音を立てて振り払われた。

 

「……指図するなと言った」

 

眼鏡の奥から私を睨みつける鋭い目には、明らかに敵意が宿っていた。

もう私が何を言っても無駄らしい。

エールを瓶から飲み、私達をねめつけながらダイニングから去っていく。

 

「ふん。あたしまた寝るけどさ、起きてもまだ居座るようなら、

お巡り呼ぶかピースメーカーの的になってもらうから。アデュー」

 

そして里沙子は私室に戻っていった。途中、ピーネと目が合い、そして独り言を残す。

 

「……あたし子供嫌いなのよね」

 

今度こそ姿を消していった里沙子。重苦しい沈黙が落ちる。みんな顔が真っ青だ。

特にカシオピイアがショックを受けてる。

 

「お姉ちゃんが、ワタシ達を……殺すって」

 

「落ち込むな。あの里沙子は病気なんだ。

記憶喪失だからお前のことも知らなくて当たり前だろ?」

 

「だって……」

 

「ジョゼット、里沙子からは聞きそびれちまったが、

あいつの記憶って大体いつぐらいから消えてるんだ?」

 

「はい。魔女に追われていた時の話が出ていたので、

この世界に来てから恐らく一週間ほど後からだと……」

 

「そうか。となると、今のあいつが知ってるのはやっぱりジョゼットだけだってことか」

 

「ジョゼットさん……

あなたが会ったばかりの里沙子さんは、あんなに怖い人だったのですか?」

 

「あれほど酷くはありませんでした。でも基本的に人嫌いだったので、

他人が大勢自分の家にいる状況に苛立っていたのだと思います。

今でもミサがある日曜に家を空けるのはその名残です」

 

「ああ。毎回、街の市場に行く度にへばってるもんな。

……よし、まずは場所を変えて対策を考えようぜ。

あの様子じゃ、戻ってきたら本当に撃ってくるぞ」

 

「そうですわね……正直、パルフェムもあんなお姉さまを見るのが辛いです」

 

「なによ、あれが里沙子の正体だったんじゃない!」

 

「ピーネちゃん、そんな言い方はしないでください。

昔の里沙子さんは確かに冷たい人でした。

でも、わたくしや皆さんとの出会いの中で、

少しずつ人に心を開くようになっていったんです。

いじわるだけど困った時は嫌々ながらも助けてくれて、たまにちょっかいを出してくる。

皆さんが知ってる里沙子さんが本当の姿なんです!」

 

「もう、ジョゼット……わかったわよ」

 

「そーいうこった。街の酒場で作戦会議だな。

今夜はテーブル席で泊まりになる。正直キツいが」

 

「あ、それでしたら!」

 

それぞれ玄関に向かおうとしたら、エレオノーラが皆を呼び止めた。

 

「どうしたんだ?」

 

「お祖父様に事情を話して大聖堂教会の客室を使わせてもらいましょう。

何か里沙子さんを治す知恵も借りられるかもしれません」

 

「お、その手があったか!何も私達だけで解決する必要なんてねえんだ」

 

「エレオノーラちゃん、ありがとう」

 

「いいえ。さあ、カシオピイアさん、手を」

 

「うん」

 

私達が手をつないで輪になると、エレオノーラが魔法を詠唱し、

人の輪に彼女の魔力が走り出す。

徐々に身体が軽くなっていき、次の瞬間には景色が一変した。

 

 

 

 

 

廊下を歩きながらエールを口の中で転がすように味わう。

コーヒーのような重い口当たりを楽しみながら部屋に戻った。今日はろくなことがない。

青山のマンションの静けさが恋しい。無駄に多い気配が消えた。

やっと帰ったみたいだけど疲れたわ。

 

うさぎは寂しいと死ぬらしいけど、あたしは一人の時間を邪魔されると憤死する。

そこんとこジョゼットに散々言い聞かせたはずなんだけど、再教育が必要みたい。

後でここから出ていくか往復ビンタ食らうか選ばせなきゃ。

 

トートバッグを放り出し、ベッドに座ってエールをちびちびやってると、

ふと異変に気づいた。部屋の壁に据え付けられたロッカー。こんなのあったかしら。

近づいてドアを引いてみる。開かない。鍵がかかってる。

デスクの引き出しを全部開けたり、工具箱や財布の中身を探しても見つからない。

 

部屋の中を動き回ったら汗が出てきた。

ハンカチを出そうとポケットに手を突っ込んだら硬い感触。あらら、灯台下暗しだわ。

小さな鍵束が出てきた。謎のロッカーに数本の鍵を試したら、3本目で刺さった。

ドアを開けると、思わず声が漏れた。

 

「これは……素敵ね」

 

デザートイーグル、ドラグノフ、ベレッタ93R、ヴェクターSMG。

全部買ったら数百万は飛んでく強力な銃がいっぱい。

ベレッタを手にとってスライドを引き、その優れたマシンピストルを

様々な角度から眺める。

今までやなことばかりだったけど、ようやく運が回ってきたみたい。

 

「気が変わった。さっきの奴ら、戻ってきたら面白くなりそう」

 

なぜかグリップの感触に覚えのある初めて触る拳銃を手に、あたしは少し嬉しくなった。

 

 

 

 

 

……白状すると、拙者は位牌の中で震えておったのである。

一部始終を見聞きしていた拙者は、ルーベル殿達に危険が迫っていることを感じ取った。

今の里沙子殿はまともではない。戻ってはならん、ルーベル殿!

 

 

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