面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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テレビの「しばらくお待ち下さい」にビビって母さん呼んだ思い出

前回のあらすじ

里沙子記憶喪失→追い出された→エレオノーラの実家へ(New!)

 

そんなわけで、私達はしばらく大聖堂教会で厄介になることになった。

法王猊下の知恵も借りられるしな。

今、私達はいつかの夏の日に食事を共にした広間で、大きなテーブルに着いていた。

上座には法王猊下。両脇に並ぶ椅子に私達が座る。猊下が口火を切った。

 

「まさか斯様な事態が起こるとは。速やかに対策を講じねばなるまい。

まずは現状を把握しよう。エレオノーラよ、里沙子嬢に回復魔法などは施したのか?」

 

「いいえ。ろくにお話をする間もなく追い出されてしまって……」

 

「何か彼女を怒らせるようなことは?」

 

「ありません。わたし達が教会を出たのは、ほとんど事故直後の事で」

 

「横から失礼します。

里沙子さんはわたくし達が自分の家にいる事自体に怒っていました。

皆さんご存じないと思いますが、あの家にわたくしと里沙子さんと二人きりだった頃は、

本当に人間が嫌いな方でしたから。

家政婦の役割を与えられたわたくしが辛うじて同居を許された程度で、

昨日もう少し留まっていたらきっと銃を抜いていたと思います……」

 

「ふむ。わしの知る彼女からは想像もつかん姿だ」

 

法王は顎髭を撫でながら何かを考え込んでいる様子。

 

「……お姉ちゃん、ワタシを、知らないって。また、ひとりぼっちに」

 

「落ち込むなって。里沙子の記憶はアースから来たばかりの時に戻っちまってるだけだ。

要するに会ったこともない状態なんだからしょうがねえだろ?

お前を嫌いになったわけじゃないって」

 

「うん…ありがとう」

 

カシオピイアの肩を軽く叩いてやると、浮かない顔が少し柔らかくなった。

そういや、私達の付き合いもずいぶん長くなるな。

こんな突拍子もない展開はさすがに初めてだが。

 

「ともかく、ここで話し合っていても始まらん。

ジョゼット君、屋敷への出入りが許されている貴女に、

まずは彼女の様子を探ってもらいたい。その上で、彼女に現実を教えてほしい。

記憶を取り戻すきっかけになるかもしれぬ」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「エレオノーラが滞在している部屋があるはずじゃ。

それを見れば皆が仲間だった事実を思い出す可能性がある」

 

「そうですわ!あの教会はパルフェム達の私物でいっぱいですもの。

きっと一緒に過ごした日々を思い出してくれるはずですわ!」

 

「でも、里沙子、私のこと嫌いだって。

……本当の里沙子も私のこと鬱陶しかったんじゃないかしら」

 

「違う。里沙子は、変わったんだ。

私もいつか誤解から無関係な里沙子に復讐しようとしたことがあった。

でもあいつは私のために手を貸して、真実が明らかになった時も許してくれた。

だから私は里沙子の力になりたくて、

あの教会で用心棒やったり里沙子の自堕落な生活を改めようとしてるんだ」

 

「復讐って……何があったのよ?」

 

少し場がざわつくが、だらだら昔の話をしてる時間がねえ。

 

「それについては長くなるからまた今度だ。

今は一刻も早く元の里沙子に戻さなきゃいけねえ。教会に入れるのはジョゼットだけだ。

上手くやってくれるか?」

 

「はい!必ず、いじわるで口が悪いけど意外と面倒見が良くておちゃめな里沙子さんを

取り戻してみせます!」

 

「本人の前で言うなよ?事件解決が遠くなる」

 

「うむ。わしも出向きたいところであるが、

あいにく女性一人のために大聖堂教会法王の座を空けることができんのだ。

薄情な爺だと、軽蔑してもらって構わない」

 

「とんでもないですよ。

こうして直に私達の味方になってくれるだけで感謝しきれないほどです」

 

「そうです!任せてください、お祖父様。

命がけで魔王からこの世界を救ってくれた彼女、そして大切な家族を連れ戻してきます」

 

「よろしい。……では諸君、貴女達をわしの魔法で教会に転送しよう。では健闘を祈る」

 

法王が立ち上がると、空間に左手をかざす。

するとその手に十字架を模した長い杖が現れ、彼がトンと床を突くと、

瞬時に私達の視界が切り替わった。

 

 

 

 

 

エールを空けてベッドで横になっていると、玄関のノックが聞こえてきた。

眠いから居留守使おうと思ったけど、ジョゼットが帰ってきたのかもしれない。

使えない馬鹿ね。もう一度自分の立場ってもんをわからせる必要がある。

 

頭をボリボリ掻くと、面倒くさいけど布団から出て1階に下りる。

それにしても、2階まで玄関の音が聞こえるなんて、ボロい安物件だけのことはあるわ。

レ○パレスもびっくりね。別に雨露凌げれば文句はないんだけど。

ドアの鍵を開けて、扉を開く。

そこには不安気なジョゼットと、後ろの方に昨日の連中が並んでた。

 

あたしの脳に閃光が走る。ガンダムのニュータイプのキロリロリンを、

物凄く不快なものにしたらこんな感じになると思う。怒りで一気に酔いが吹き飛んだ。

 

「あ、あの、里沙子さん。お話ししたいことが……あうっ!」

 

「ええ、あたしもたっぷりお話ししたかったのよね。

勝手に他人を入れたり仕事ほっぽらかして外泊する役立たずにさ!」

 

思い切りジョゼットの胸ぐらをつかみ上げる。

 

「夕飯までには帰ってくるもんだと思ってたから、

ゆうべ買い置きのフランスパンしか食うものなかったんだけど。

日が暮れたから街まで買いにも行けなかったんだけど?

酒が入ったら余計腹が減ったんだけど!?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「やめろ、乱暴はよせ!」

 

あたしの腕を掴むのは昨日のお節介女。やっぱり手が硬い。

 

「あんた何様?指図をするなって言ったのが聞こえなかったのかしら」

 

「頼む。ジョゼットとよく話し合ってくれ。

お前は今記憶喪失になってて、私達のことを忘れてるんだ。

だから、まず彼女を放してやってくれ」

 

「記憶喪失?ツッコミどころ満載だけど、放しゃいいんでしょ。ほれ」

 

赤髪女が妙に必死だし、ジョゼットを持ったままだと喋りにくいから投げだした。

 

「くふっ、けほけほ…里沙子さん、彼女の名前はルーベルさん。思い出せませんか?」

 

「聞いたこともない。で?昨日はどこほっつき歩いてた」

 

「里沙子さんの記憶喪失を治す方法をみんなで探してたんです!証拠だってあります!」

 

「ふーん。みんな、ねえ」

 

目の前に並ぶカラフルな面々を眺めてみる。

どいつもみんなあたしのことを気の毒な人みたいな目で見てるのが気に食わない。

 

「そんで、あたしが記憶喪失だって証拠は具体的に何」

 

「まず家の中へ。わたくし達が一緒に暮らしている部屋を見てください」

 

「部屋?まあいいわ。少しだけ付き合ってあげる。

変なごまかしやハッタリだったら後悔するわよ。さっさと入りなさいな」

 

仕方なくジョゼットを中に入れる。

ささっと聖堂を抜けて住居に入っていったからあたしも続こうとしたんだけど、

なぜかルーベルとかいう奴らまで中に入ろうとしたから慌ててドアを閉めて鍵を掛けた。

 

“おーい、何すんだ!開けてくれー!”

 

「何すんだはこっちの台詞よ。勝手に人んち上がるな」

 

“ジョゼットの言う通り私達の部屋もあるんだ。

ちなみに私の部屋にはバレットM82がある。確かめてくれ”

 

「……なんであんたがM82持ってるのよ」

 

“お前がくれたんじゃないか!いつか教会を襲撃してきた奴から奪ったって!”

 

さすがにあたしにも理解が追いつかない。

とりあえず部屋を見て嘘だったら追い返すか、お空に旅立ってもらおう。

私室で面白いものも見つけたしね。壁に沿って少し離れて手を伸ばし、玄関を開けた。

 

「やっと帰ってこれた……って、うおい!何やってんだ!」

 

「怪しい動きを見せたらこいつでパチパチやるから気をつけてね」

 

念のため、なぜか持っていたデザートイーグルをルーベルに向けておく。

 

「さあ、案内してちょうだい。あんたの部屋がどこにあるのか、当然知ってるのよね?」

 

「……これだけは言っとく。本当の里沙子は絶対私に銃を向けたりしなかった」

 

「本当の里沙子さんとやらによろしく言っといて。

頭のおかしい奴はさっさと撃ち殺せって」

 

「もういい……こっちだ」

 

辛気臭い顔でぞろぞろと入ってくる連中の後ろに付いて、銃を構えながら2階へ上がる。

物置代わりにしてる空き部屋の前でルーベルが足を止めた。

ジョゼットは先に待っていたけど、

なんでその段取りの良さで晩飯の作り置きくらいが出来なかったのか。

あたしは根に持つ方なの覚えときなさい。

 

「ほら、見てくれ」

 

ルーベルが持っているはずのない部屋の鍵でドアを開けると……

ああ、これにはあたしも驚いたわね。

布団のないベッドしか置いてないはずの部屋が、誰かの生活スペースに変わってた。

ハンガーに3着ほどの服が掛かってて、

グリスの瓶やケースに入った変な形のナイフが床に転がってる。

壁のガンラックには確かにバレットM82。質感から見て本物なのは間違いない。

 

「ね、里沙子さん!ルーベルさんはここでわたくし達と一緒に生活していたんです!」

 

「他の」

 

「え?」

 

「ここだけじゃなくて、他の部屋も見せなさい」

 

「……わかりました。それで信じてもらえるなら」

 

「それで納得行ったなら薬局に行こうぜ。

看護婦の姉ちゃん、変わってるが腕はいいから、

記憶喪失を治す方法を知ってるかもしれないし」

 

「勝手に決めないで。次は?」

 

「じゃあ、わたくしの部屋を!」

 

「あんたが住んでるのはわかってるっての。他の連中!」

 

「あ、そうでした……」

 

「ただでさえ虫の居所が悪いんだから勘弁してくれないかしら。

もうすぐプッツンしそう」

 

「ごめんなさい!」

 

「落ち着いてください。では、わたしの部屋を見てみましょう」

 

「なんであなた達、普通にうちの鍵持ってるのかしらねえ」

 

「だからお前が記憶喪失……」

 

「あーあー、はいはい、わかったわかった」

 

ルーベルとか言う口うるさい奴をあしらうと、残りの空き部屋を見て回る。

だけどやっぱり、どこも誰かの個人的空間になってた。

白いシスターの部屋は綺麗に片付いてて、部屋の隅に小さな祭壇みたいなものがあった。

紫色の髪をした軍人ぽい女の部屋も整理整頓されてて、

机の上に恋愛小説が積まれている。

正直この娘、ずっと無表情だから何考えてるのかわかんない。

 

「ではお姉さま、次はパルフェム達の部屋を」

 

「もう十分。まあ、あんた達がここに住んでたって事実はわかったわよ。

病院か薬局か知らないけど、行けばいいんでしょ?準備するから待ってて」

 

「待ってる……」

 

無口女のつぶやきを無視して私室に戻る。

ええと、服のまま寝てたからヨレヨレになってたワンピースから予備の服に着替えて、

軽く化粧をして、あとは……そうそう、愛しの相棒。

ミニッツリピーターをデスクの引き出しのうち、

貴重品を入れる鍵がついた段から取り出して首から下げて……そこでふと気がつく。

 

どうしてあたし、これを持ってるのかしら。

 

金時計は、この世界での住処を手に入れるために1000万Gで売りに出したはず。

ここにあるはずがない。

もう一度開きっぱなしの引き出しを覗くと更にあたしを困惑させるものが。

 

1冊の通帳。開いてみると、預金残高が100万G弱。意味がわからない。

死ぬまでプータロー生活を満喫するには、

ミニッツリピーターを諦めて生活費にしなきゃいけないんだけど、

時計が手元にある上に貯金が約100万Gもある。どうなってんの?

 

わからない。いくら考えてもわからない。

奴らの言う記憶喪失を視野に入れて記憶の糸をたどって見る。

 

「いつっ!」

 

すると瞬間的に激しい頭痛に襲われた。あまりの痛みに思わず椅子にすがりつく。

痛みは一旦ピークに達した後、少しずつ引いていった。

この件については無理に考えないほうがよさそう。

 

……そうよ。仮に連中の言葉が真実だとして、どこに思い出す必要があるのかしら。

自宅を持ってて、命の次に大事な金時計もここにある。

おまけに贅沢しなきゃ働かなくても生きていけるだけの金もある。

 

決めた。あたしはガンロッカーからヴェクターSMGを始めとした

素敵な銃の数々を取り出し、トートバッグに詰める。デザートイーグルは腰に差す。

さすがに奴ら全員を相手にするには、たくさん銃が必要になるだろうから。

トートバッグを肩に掛けて私室のドアを開ける。

 

「終わったか。早く街に行こうぜ。どうしたんだ、その荷物?」

 

そして、一斉にあたしを見る連中に宣言した。

 

「皆さん。個人的な事情で大変恐縮なんだけど、この家から退去してくれないかしら」

 

「「ええっ!?」」

 

驚きと失望で彼女達が異口同音に声を上げる。

これに関しちゃ多少申し訳ないと思ってるわ。

薬局に行く話がいきなりこっちの都合でやっぱり出てけ、に変わったんだから。

 

「どどど、どうしてですか里沙子さん!?」

 

「そうです!このままだと、ずっと里沙子さんは記憶を失ったままで……」

 

「そのことなんだけどね。あたし部屋でいいもの見つけちゃって」

 

「いいものって何だよ」

 

あたしは首に下げたミニッツリピーターの細い鎖を軽く指でつまみ上げた。

 

「見て、この金時計。これを手に入れるのに地球でずいぶん苦労したの。

人一倍努力とか労働が大嫌いなあたしが必死になって手に入れた、

気品あふれる機能美の結晶」

 

「はい…里沙子さんがいつも大事にしていますよね。

でも、それとわたし達を嫌うことに何の関わりがあるのですか?」

 

「嫌ってるわけじゃないの。厳密には好きでも嫌いでもない、ただの人。

でも、ただの人が近くにいるとあたしの腹で熱いものが煮えたぎってくるの。

ある種、記憶喪失より深刻な持病みたいなものだから許してちょうだいな」

 

「だからって!私達はともかく、なんでカシオピイアまで簡単に切り捨てちまうんだよ!

やっと会えた妹なんだろうが!!」

 

「話、最後まで聞きなさいよ。でかい声も出さないで。続けるわよ?

他にもまだあたしの部屋に面白いものがあったのよ。

セレスト銀行の通帳。だいたい100万くらい入ってた。

もうわかるでしょ?あたしは家も金も愛しの相棒も全部持ってる。

無理に昔のことを思い出す必要がなくなったの」

 

「ふざけんなよ……!それで私達が邪魔になったから出て行けっていうのか!」

 

「もちろんタダでとは言わないわ。

生活費・違約金・引越し費用として10万Gずつ渡すから、

一週間以内に部屋を引き払ってほしいの。

痛い出費だけど、静寂に満たされた生活を買うと思ったら安い買い物。

記憶が戻っちゃったら、またあなた達と共同生活することになるのよね。

未来のあたしがそれに耐えられるか、正直自信がないの」

 

「うっく…もう、もうやめてください!!こんな里沙子さん見たくありません!」

 

ジョゼットが雫のような涙と若干のつばを飛ばして訴える。

でかい声は出さないでって10行くらい前に言った気がするんだけど。

 

「泣かなくていいのよジョゼット。あんたはここにいて結構。

家政婦がいないと不便だし、同居人一人なら我慢できないこともない」

 

「いいえ、わたくしも出ていきます!

食べ物を粗末にしないのが里沙子さんのポリシーでしたが、

あなたは人を粗末にしてるじゃないですか!一番大事にしなくちゃいけないものを!」

 

「何がいけないの。

あんたにはわかんないでしょうけど、あたしだって人に粗末にされてきた。

でも別にそれが悪いことだとは思っちゃいない。世界はもう人間でパンク状態なの。

だから毎日あちこちで土地や資源を巡って戦争が起きたり、

殺人事件だらけで誰がどの事件の被害者かわからないなんて当たり前。

それでも人間が生きることをやめるわけにはいかないの。

どうにか世の中を回していくには、

前を歩いてる邪魔なやつを蹴飛ばしてでも人生を送っていかなきゃいけないのよ」

 

「チッ、悟ったようなこと言いやがって!んなもん、いじけた野郎の言い訳だろうが!

こうなったら力ずくでも薬局に連れて行くから覚悟しろ!」

 

ルーベルが拳の指を鳴らしながら近づいてくる。

 

「面白くなってきたわね」

 

奴の手が届く前に、素早くトートバッグからベレッタ93Rを抜いて銃口を向ける。

 

「……撃ってみろよ」

 

「慌てないで。まずは外に出ましょう。ここでドンパチやったら家が穴だらけになる」

 

「その前に約束しろ。お前を殺しはしない。でも…!負けたらまずカシオピイアに謝れ。

怪我で仕方がなかったにしろ、お前はみんなを傷つけた。

特に妹のカシオピイアは里沙子に拒絶されて心が張り裂けそうな気持ちになったんだ!

わかってんのかよ!」

 

「ルーベル……ワタシ、何も言えなくて」

 

「知らないから知らないって言っただけなんだけど、いいわよ。

しかしあんたも大概お人好しね。殺し合いの報酬が“謝れ”?

ミニッツリピーターもよこせって条件も付けたほうがいいんじゃないかしら。

これ、1000万Gで売れたのよ」

 

「黙れ。行くぞ」

 

「あの、待ってください!」

 

ルーベルと1階に下りようとすると、またジョゼットが泣きはらした顔で呼び止める。

また頭の線が2、3本切れる。

度々こいつに話の流れや事の成り行きをぶちぎられてイライラする。

便利さ以上に腹が立つから、全部片付いたらこいつもまとめて追い出そうと思う。

 

「なによ、さっさと言いなさい」

 

「わたくしも、戦います!里沙子さんを取り返します!」

 

「あんたがまともに戦えるわけないでしょう。

ショボいメリケンサックのパンチが当たる前にハチの巣になるのがオチよ。

それとも、シスターなら殺さないとでも思ってる?」

 

「今のあなたは……魔物です。里沙子さんに取り憑いた恐ろしい怪物。

例え未熟でも、シスターとして見過ごすわけにはいきません。

いえ、それ以前に、里沙子さんの家族として必ずあなたを救います」

 

「家族なら地球の日本って国にしかいないんだけど、挑戦者は歓迎よ。

人を撃つのは初めてだから」

 

前方に銃身を安定させるためのフォアグリップが付いた自動式拳銃を

ヒラヒラさせてみる。無駄のない頑強なデザインのベレッタにしばし見惚れる。

アメリカの皆さんには申し訳ないけど、

少なくともあたしが死ぬまで銃社会は終わってほしくないわ。

 

「他には?戦わない人は引っ越しの条件を受け入れるってことになるけど」

 

「ワタシ、お姉ちゃんと戦うなんて……」

 

「あ、そ。昨日会ったばかりだけど今までありがとう。他は?」

 

「パルフェムは、またお姉さまと暮らしたいです!

お願いです、せめて一度でいいので病院で受診してもらえませんか!?」

 

「ごめんねー。こう見えてあたしも穏やかな人生を取り戻すために必死なの。

あなたも引っ越し組ってことね。

……あと、聞くまでもないけどそこの一番ちっこいのは?」

 

「残念だけど、まだあんたを叩きのめすだけの力がないの。でも覚えてなさい。

あんたみたいな最低な奴、必ずいつか痛い目にあわせてやるから……!」

 

「はいはい。そっちの真っ白なシスターちゃん。あなたで最後」

 

「わたしも戦います」

 

「マジか!?下手したら死ぬんだぞ!実戦慣れしてないお前が怪我でもしたら!」

 

意外な展開ね。この娘も引っ越し組かと思ったんだけど、何か策でもあるのかしら。

 

「実戦は初めてです。ですが、わたしも次期法王としてそれなりの修練は積んでいます。

里沙子さん。ひ弱な少女だと思って油断していると、足をすくわれますよ?

今回ばかりは強引な手段を使わせてもらいますので」

 

「もともと手加減する気なんてないから全然オッケーよ。

あたしもさっさとこの意味不明な状況を終わらせて昼寝に戻りたいの。

さて、これで全員の立場が決まったわけだけど、

引っ越し組は2階からあたし達の戦いを見ててくれないかしら。

ハッピーマイルズの法律だと決闘は認められてるけど、立会人が必要なのよね」

 

「ねえ、お姉ちゃん……」

 

背の高い軍人があたしの袖を小さく引っ張る。

ずっとポーカーフェイスだと思ってたけど、

間近で見るとほんの少し表情が浮かんでるのがわかる。

悲しげな表情。どうでもいいけど。

 

「やめて、お願い。薬局、行こう?」

 

「そんな必要ないってことはさっき説明した。

あと、いい大人なんだからもう少しはっきり喋りなさいな」

 

「ごめん……」

 

「やめろ。カシオピイアは無口なこと気にしてんだ。どうせ忘れてるんだろうが」

 

「あたしが気に入らないなら早いとこ始末を付けましょうか。

決闘組は家の前まで集合~」

 

「パルフェム達は2階の窓から見てろ。私達がこいつに人生ってもんを説いてやる」

 

「お姉さまを、お願いします……」

 

着物姿の女の子が律儀にルーベルにお辞儀をする。

あたしとこいつらの関係がどんなものだったのかは知らないけど、

すんげえごちゃごちゃしてたことは窺い知れる。

ますます記憶なんて要らなくなってきた。

ルーベル達を先に歩かせて、あたし達は自分の生き方を賭けて決闘の場へ移動した。

 

所変わって、殺し合いの舞台は教会前の草原。

いい感じで開けてるからケンカやるにはぴったり。

あたしと決闘組が、20mほど離れて準備を整える。

なにやらひそひそ話をしてるみたいだけど、知った所で何が変わるわけでもない。

 

まずあたしは、地面に下ろしたトートバッグから、ドラグノフ狙撃銃を抜き取り、

安全装置のセレクターを下ろして発射可能状態にする。ひとつ目はこんなところね。

う~ん、初めて触ったんだけど、使い方を身体が覚えてる。

要するに撃ったことがあるけど忘れてるってことになるわね。

とりあえず連中は嘘つきではなかったみたい。

 

「里沙子ー!そろそろ始めようじゃねえか!

私とお前、どっちかが降参したら相手の言うことを聞く。それでいいだろう!」

 

遠くからルーベルが大きな声でルールを伝えてくる。あたしも大声で返事をする。

 

「中途半端!片方が死ぬまで!敵は確実に殺す、常識でしょうが!

あんた、M82はどうしたの!?」

 

「あんなもんで撃ったら死ぬだろうが!

私はお前と同じように、元の生活に戻りたいだけだ!

お前の知らない里沙子と過ごした生活にな!」

 

「とことん人の話が聞けないのね!

大人しく10万G儲けて出ていけばお互い幸せだったのに!」

 

「お前を最悪な人間にしたまま尻尾巻いて逃げるなんざ真っ平御免だ!

……なあ、こんなこと聞いたってどうにもならないのかも知れないが、教えてくれ。

どうしてそこまで人間が嫌いになった。自分勝手な人間になった。

どうして独りになりたがる!?」

 

「物心ついたときからの人生を全部語れって言いたいわけ!?

生き方を決める上で大いに参考になった人物はいるけどね!」

 

「誰だ!」

 

「こっちまで来たら教えてあげる!いい加減大声張り上げるの疲れた!」

 

「わかった。それじゃあ……行くぜ!」

 

ルーベルが地を蹴り、こちらに突進してきた。

あたしもドラグノフのスコープを覗き、ターゲットに照準を合わせ、トリガーを引いた。

神の手が大空を平手打ちするような銃声が宙を貫く。それが決闘の合図だった。

 

 

 

 

 

ううむ、とうとう恐れていた事態になってしまったのじゃ。

拙者にできることがないか様子を見ていたら手遅れになってしまったのでござる。

エリカ、一生の不覚。

里沙子殿の変貌には正直驚きを隠せないが、まだ手はあると信じたい。

今はルーベル殿達に任せるしかないであろう。拙者は……もう少し様子を見るでござる。

 

 

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