面倒くさがり女のうんざり異世界生活   作:焼き鳥タレ派

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そろそろカウントダウン始めようかしらね。プロフィールはノーカンで。まず5

里沙子と命がけのケンカを始める少し前。

私達は少し早口になりながら、戦い方の打ち合わせをしていた。

 

「とにかく短期決戦で行くぞ。記憶をなくしてるあいつはクロノスハックを使えない。

ダラダラ戦って何かの拍子に自分の特殊能力を思い出したら、アウトだ」

 

「そうですね。わたしは後方から魔法で援護射撃を。もちろん大怪我をさせない程度に」

 

「わたくしは……聖光捕縛魔法を使うことしかできません。

すごく痛いので、使わずに済むならいいんですけど」

 

「無理すんな。必ず私とエレオノーラで行動不能にしてみせる」

 

「ごめんなさい……」

 

「戦う前からしょげた顔してどうすんだよ。そうだ、お前回復魔法使えるんだろ?

エレオノーラが怪我したら治療してくれ。よし、ジョゼットは医療班だ!」

 

「……はい!わかりました」

 

「頼りにしていますね?」

 

この時の私達はなんとかなるっていう気持ちの緩みがどっかにあった。

だからこの後ちょっとした激闘になったんだが。

 

 

 

 

 

……そして、私は今里沙子に向かって草原を全速力でジグザクに駆けている。

くそったれ、里沙子のやつ、本気で頭狙ってきやがる。

時々ライフルの弾が風切り音と共に、私の髪を数本切り取っていく。

 

だが、接近戦に持ち込めればこっちのもんだ。力勝負なら私の方が圧倒的に有利。

腕をひねって縛り上げれば私達の勝ち。薬局、法王猊下、皇帝陛下。

腰を据えて借りられるだけの力を借りながら里沙子を元に戻す方法を探せる。

 

3発目が私の顔のそばを通過。おっと危ねえ。段々精度が上がってるな。

これでも足は速いつもりなんだが、あいつはどこで射撃を覚えたんだ?

 

 

 

 

 

ルーベルがジグザグ走行であたしに急接近してくる。

落ち着いてドラグノフで頭をふっとばそうと照準を合わせるけど、当たらない。

3発目が惜しくも外れた。やるわね。直撃させるのは難しそう。残り7発。

4発を使いルーベルの予想進路や足元を撃ち、地面を弾けさせた。

 

「うわっと!!」

 

ビンゴ。足を取られた女が一瞬足を止める。

もう大声上げなくても普通に会話ができる程度の距離で停止させることに成功した。

少し肝が冷えたわね。

 

「動かないで。トリガーを引いたらあんたの頭は粉々。

その足でもこの距離じゃ7.62x54mmR弾は避けられないでしょう」

 

それでも女は顔色を変えることなく、あたしを真っ直ぐ見て語り始めた。

 

「……さっきの話だが」

 

「なに?」

 

「お前のその生き方を決めるきっかけになった奴がいるって言ってたな。誰だ。

そいつはお前に何を教えた」

 

「小さい頃に出会ったんだけど……

それがねぇ、申し訳ないんだけど実在の人物じゃないの。でも、自分の信念に正直な人。

地球にジョジョの奇妙な冒険って漫画があるんだけど、

吉良吉影っていういわゆる悪役が出てくるの。

でも彼は世界征服だの悪の秘密結社だの、どーでもいい野望なんかに興味はなくて、

ただひたすらに心の平穏を願って生きている。

ただ、時々人を殺して女性の手を集めずにはいられないというサガを抱えてただけ。

誰とも争わず、細やかな対応でトラブルを避け、健康に気を遣い、

植物のようにひっそりと平穏な人生を送ることだけに力を注いでた」

 

「てめえ……本気で殺人鬼の人生が平穏だとでも思ってるのかよ!

誰かを殺さなきゃ成り立たないような人生が!」

 

「読んでもない奴にケチ付けられたくはないわねえ。

実際作者も、殺人してること以外は憧れのヒーローだって言ってるし、

あたしだって初めて彼の姿を見た時、目の前が明るく開けた気がしたわ。

なまじ、なんでも小器用にできるばかりに子供の頃から人に利用されっぱなしで、

社会から助け合いだの絆だの、薄気味悪い概念を植え付けられてたあたし自身も、

それに疑問を抱いたことがなかった。

でも吉良吉影が時々現れるバカを綺麗に殺して道を開いて行く様を見て、

それまでの価値観が吹き飛んだ」

 

「価値観……?」

 

「友達と仲良くしなきゃいけない。

一番にならなきゃいけない。困ってる人を助けなきゃいけない。

そんな誰が決めたかもわからないルールで自分を縛ってたことに気づいたのよ。

それからあたしは、自分のためだけに生きることに決めた。

常に自分を最優先。面倒な付き合いは全部切り捨て、

休日は毎日ごろ寝やゲーム、大人になってからは朝酒も。タバコは吸わない。

職場ではデスマーチ真っ最中の同僚を無視して定時上がりで居酒屋に直行。

それで世間から白い目で見られようが知ったこっちゃないわ。

どうせそいつらが何かしてくれたことも、これからしてくれることもないんだから」

 

「虚しい人生だな。

私の知ってる里沙子は、お前が馬鹿馬鹿しいと思ってるもので

平穏な生活に彩りを添えて楽しく生きてた」

 

「おしゃべりはこの辺にしましょう。まずはあんたから脱落ね。さ・よ・う・な・ら」

 

引き金を引いて、ドラグノフが吠えると、ルーベルとかいう女の頭が……

消し飛んだと思ったんだけど。

 

“遅延詠唱発動す!我ら聖母に乞い願う!

我が願いに欲は無く、ただ一度、迫る死神、輝く光で退け給え!スペアライフ!”

 

銃弾はルーベルの身体から放たれる光で消滅し、命中に至らなかった。

女の後方を見ると、二人のシスターのうち、

白い方の左手から光の帯が飛び去っていくのが見えた。

ああ、魔法ってのを使ったみたいね。

 

“全員に一度だけ致命傷を回避する魔法をかけました!

わたし達は気にせずルーベルさんはご自分の身を守ることに専念してください!”

 

「サンキュー、エレオノーラ!」

 

言うや否や、ルーベルは走ることなく、思い切り跳躍して飛びかかってきた。

長距離狙撃用のライフルでは空中で拳を握るインファイターを迎撃できず、

とっさにあたしはドラグノフを放り捨て、トートバッグに手を伸ばす。

安全装置を掛けっぱなしだったデザートイーグルは解除が間に合わない。

 

「遅い!」

 

「はっ…!?」

 

カバンまであと少し!ルーベルの拳が射程距離に迫る。

まずいわ、あの硬い手でぶん殴られたら骨折もしくは内臓破裂。……だけどね!

 

「ところがぎっちょん!!」

 

引用元:機動戦士ガンダム00

 

腰に手を回し、特殊警棒を抜き、素早く伸ばし、

両端を持って眼前に迫った右ストレートを受け止めた。バキッという木の割れる音。

頑丈な特殊警棒で拳の直撃をどうにか回避。

 

「ぎっ!……こんのやろ!」

 

「いだあっ!……手のひらが、潰れてる、かもね」

 

これは痛み分けね。ルーベルは多分指が折れただろうし、

あたしは両手の肉や手首の関節が圧縮されたような激痛に涙ぐむ。

でもあたしは諦めない。あたしの平穏を乱そうとする女に決意をぶつける。

 

「……吉良吉影はね。ピンチを切り抜けるためならどんな痛みにも耐える覚悟もあるの。

経緯は省くけど、主人公サイドの少年に歩けないほど手を重くされた時だって、

その手を切り落として急場を凌いだの。

そう、あたしだって、自分を守るためなら、なんだってやる!」

 

「自分だけじゃなくて、仲間を守ることもできることもできるし、

事実今までそうしてきた。いい加減思い出せよ……!!」

 

本格的な接近戦にもつれ込む。特殊警棒を振り払い、ルーベルの手をどける。

まだトートバッグに手が届かない。敵もいつまでも悶えてはいない。

痛みを無視してまた拳を繰り出してきた。

パンチが頬をかすめ、心臓が跳ねる思いをする。

 

「あたしに近寄らないで!!」

 

攻撃を回避され伸びた腕に警棒を振り下ろす。

二の腕に命中すると、また何かが割れる乾いた音が。ヒット!

 

「あがぁっ!!」

 

ルーベルが負傷した箇所を押さえてたまらず苦悶の声を漏らす。

あたしの方も軽口を叩く余裕がなく、トートバッグを目指して走り出す。

 

「待ち…やがれ!」

 

その瞬間、世界が一回転した。遅れて脇腹に鈍い痛み。

衝撃で身体が地面に叩きつけられ、さらに呼吸ができなくなる。

後ろから回し蹴りを食らったらしい。

 

「けほ、けほ!……かは」

 

「ざまあ、みやがれ」

 

背後にルーベルの気配。このままじゃ、あたしは!

……と、思ったけど、運命はあたしに味方したみたい。

「命」を「運」んでくると書いて『運命』!……フフ、よくぞ言ったものだわ。

 

まともに蹴りを食らった勢いで、トートバッグに手が届く場所まで身体が飛ばされた。

脇腹の痛みを我慢してバッグの中に手を突っ込む。

今にも女があたしの襟首を掴もうと迫る。

 

「観念しろ。ガチンコのケンカじゃお前は……」

 

銃声、いや、爆音。

 

硝煙が風に流されると、女の右腕はなくなっていた。

 

「う、ふふ、あははは……あっはははは!やったわ!あたしはやっぱり正しいのよ!

無意味な人間関係、過剰な喜び、偽善、欺瞞!

全部を捨て去ったあたしが勝つ運命だったのよ!」

 

「あ?ああ、あがああぁ!!」

 

あたしの手にはCentury Arms Model 100。45-70ガバメント弾を撃ち出す特大拳銃。

ルーベルの手には……なんにもない!いや違うわね、手じゃなくて、腕がないのよ!

 

“いやあ!ルーベルさん、ルーベルさんの腕が!”

“ルーベルさん、後退してください!!”

 

「うぐぅ…ああっ……」

 

激痛に女がその場でうずくまる。

トートバッグを手に入れたあたしは、もう銃を選び放題。

M100を左脇ホルスターに差し、ヴェクターSMGを取り出した。

 

「勝負あったわね。今からあのシスター二人に10mmオート弾を食らってもらおうと思う。

さっきの魔法?1回きりの盾で装弾数30発に耐えられるかしらねぇ!」

 

「や、やめろ……」

 

「散々あたしをイラつかせてくれたあんたは最後に始末してあげる。

何も出来ずに味方が死ぬところを見物していなさい」

 

勝利を確信したあたしは多幸感に包まれ、

離れた場所でおろおろしているシスター達にヴェクターSMGの銃口を向ける。

 

“いけません!回避を!”

“里沙子さん、やめてください!”

 

そして迷わずトリガーを引いた。

制圧力に優れたサブマシンガンから放たれた銃弾が彼女達に命中した瞬間、

ガラスの割れるような音が響き、魔法のバリアが砕け散った。

1マガジンを撃ち尽くして確実に仕留めようとしたんだけど。

 

「……しぶとい」

 

しかしそこに死体はなく、真横にジャンプし、地に伏せ、左右に転がり、

銃撃を回避したシスター達が土埃にまみれて生きていた。

 

「あんた達にも運命ってもんがあったのかしらねぇ。ちょっと違うかしら。

文字通り一回きりだから奇跡ってところね。

奇跡なんてそうそう何度も起きるものじゃないわ。次はないと思いなさい」

 

マガジンキャッチレバーを操作して空のマガジンを取り出し、

予備の弾倉を差し込みながら歩み寄る。

 

「けほけほ……ジョゼットさん、怪我はありませんか」

「大丈夫です。エレオノーラ様こそ」

 

──人の心配をしてる場合かしら?

 

白い方の頭に狙いを定めながら慎重に近づく。まだいろんな魔法を知ってそう。

詠唱を口にしたらいつでも撃てるよう引き金に指は掛けたまま。

 

「里沙子さん。なぜ、あなたはそこまで人を憎むようになってしまったのですか……」

 

「憎いわけじゃないの。ただ自分を大事にしたいだけ」

 

「おかしいですよ!ただイラつくから、それだけで仲間に大怪我をさせて、

そんなの人として間違ってます!」

 

「ならあんたの思う正しい生き方とやらを教えてちょうだいな。

ガキの頃、世間から押し付けられた“正しい”生き方のせいで損ばかりしてきた。

聞こえてたかどうかは知らないけど、彼があたしの目を覚まさせてくれたのよ」

 

「いいえ。あなたは歪んでしまったのです。殺人鬼の生き方に正しさなどありません。

彼の言う心の平穏は、罪なき人々の命を踏みにじって奪い取った偽物です。

幼いあなたはそれに気づかず、ただ暴力に救いを求めてしまった」

 

「知ったふうな口利かないで。あたしは人を殺したいわけじゃない。

誰にも煩わされない静かな人生を送りたいだけ。邪魔したのはあなた達。

あたしのために、負けて死になさい!」

 

銃を構え直すと、恐怖か絶望か、シスター達が目を見開く。でも……おかしい。

引き金に掛けた指が震えて、思わずトリガーガードから人差し指を抜いてしまう。

グリップがじっとりと汗で濡れる。

 

心配要らない、問題ない。人を殺すのは初めてだから緊張してるだけ。

そうではない今すぐやめるべき。

覚悟なさい、あたしの人生に土足で踏み入った報い。

殺せない、絶対に悔やむことがわかっているから。

何かが変だわ、あたしの心が二つある。

自分自身はひとつだけ、あなたは誰でもない、ただひとり。

やめて!あたしから出ていって!

 

 

 

 

 

里沙子さんがわたし達に銃を向け、死を覚悟した時、

驚きで思わず目を丸くしてしまいました。

彼女のトートバッグから青白いモヤが抜け出て、人の形になると、

一度口元で人差し指を立ててから里沙子さんの身体に入っていったのですから。

それが霊体のエリカさんだと理解した直後、異変が起きたのです。

 

「うるさい!誰よ!あたしから出ていきなさい!ああああァァ!!」

 

突然里沙子さんが叫びだし、空に向けて機関銃を乱射し始めました。

弾切れになっても引き金を引き続け、

やがて無駄撃ちであることを理解したのか、銃を放り出すと、

空気の中で溺れるように激しくもがき出しました。

 

「里沙子さん……どうしちゃったんでしょう」

 

「今、見えました。エリカさんが里沙子さんに乗り移ったのです」

 

「エリカさんが!?」

 

「はい。きっと里沙子さんの中で、エリカさんが彼女を抑え込んでいるはず……」

 

「黙れ!あたしで喋るな!出てけ、出てけ、出て行けェ!!」

 

ルーベルさんがなおも絶叫を続ける里沙子さんを見ながら、失った右腕をかばいつつ、

わたし達のところにやってきました。

 

「一体、どうなってやがるんだ……?」

 

「ルーベルさん!怪我の具合は!?ああ、どうしよう、すぐ回復魔法を!」

 

「心配いらねえよ。オートマトンは胸の天界晶が無事なら死ぬことはない。

その代わり人間用の回復魔法で身体を治すこともできねえけどな」

 

「はぁ、今回もわたくしは役に立てませんでしたね……」

 

「だが安心するのもまだ早いぞ。里沙子の状態がますますヤバくなってる」

 

実際里沙子さんが心に入り込んだエリカさんに抵抗しているのか、

意味のわからないことを叫びながら暴れ続けています。

放っておけばいずれ怪我をするか自分自身を傷つけるはず。

 

「はぁ…ううっ…!あたしは、あたしは穏やかに生きていきたいだけ!

邪魔しないでよぉ!」

 

銃を失った里沙子さんは、特殊警棒を辺り構わず振り回しています。

深手を負ったルーベルさんに抑え込むことはできませんし、

わたしの攻撃魔法も加減が難しく、下手をすれば命を奪うものばかり。

激しく動き回る里沙子さんの動きだけを奪うことは困難です。

 

「もう、使うしかないんでしょうか。わたくしの聖光捕縛魔法を。

ですが、あれは本当に苦痛を伴うもので、中のエリカさんまで巻き込んでしまうんです」

 

「だが……もう状況に贅沢言ってられねえぞ。

里沙子の意識がエリカの拘束から逃れようとしてる」

 

確かに彼女を見ると、暴れるのをやめてその場に立ち尽くしています。

 

「銃、銃が必要だわ……銃がないと、また誰かが、あたしを、思い通りにっ!」

 

そしてこちらに振り返ると、新たな銃を手にすべく、

おぼつかない足取りで歩いてきました。

 

「ジョゼット、バッグを隠せ!」

 

「返しなさい!あたしの、あたしの、うあああ!!」

 

「きゃあっ!」

 

ジョゼットさんがバッグを拾おうとすると、

里沙子さんが先程投げ捨てた機関銃を投げつけてきました。

幸い重い鉄の塊が当たることはありませんでしたが、

バッグが彼女の手に渡り、今度は散弾銃を手にしたのです。

 

「あは、あは、これよこれ……バラバラにしてやるから、待ってなさい……」

 

「やべえぜ。エレオノーラ、何か魔法は?」

 

「すみません!対悪魔用の強力なものばかりで、短時間では制御が間に合いません!」

 

里沙子さんが散弾銃に弾薬を込めると、銃口をこちらに向けました。

今度こそ手は残されておらず、思わず目をつむりましたが……

その時異変を感じたのです。大地がビリビリと揺れています。

揺れは徐々にこちらに近づき、その正体を見た時、

またしてもわたし達は驚くこととなりました。

 

 

 

 

 

片腕になった私が見たものは、巨大な機械兵。

もしかして、いつか里沙子が言ってた仮面ライダーフォートレスってやつなのか!?

とにかくそいつは何も言わずにドシンドシンと足音を鳴らしながら里沙子に歩み寄る。

里沙子もそいつに気づいたようで、ショットガンの標的をそいつに変更した。

 

「誰よあんたはァ!決闘の邪魔をしないで!あたしの平穏な幸福を邪魔するつもり!?」

 

『なんということだ。法王から聞いていたより状況が悪化している。

一気に決着をつけよう』

 

「誰だって聞いてるのよ!!」

 

里沙子が2発発砲。だが重装甲に散弾が効いている様子は全くなく、

仮面ライダーが黙って左腰に手をかざすと、

ケースから一枚の正方形をしたカードが飛び出した。それを今度は右腰の装置に挿入。

 

[PHANTOM CODE]

 

電子音声が鳴ると、緑色の巨体が蒼い炎に包まれ、

今度は紫を基調とした二刀流の機体に変化した。

 

「それが何だって言うのよ!絶対にあたしは静かで穏やかな人生を送って見せる!」

 

『里沙子嬢、それは既にあるのだ。気づかれよ』

 

里沙子は素早く弾薬をリロードしてショットガンを撃ち続けるが、

頭部に命中させてもやはり効果がない。

仮面ライダーがまたカードをドローし、読み取り装置に装填。

 

[DEADLY CODE]

 

そして、二本の刀を抜くと、その刀身もまた蒼く炎のように揺らめき、

仮面ライダーが刺突の構えを取った。

気づいた里沙子も逃げようとするが、なぜか足が動かない様子で

その場で身体を揺さぶるだけだった。

 

「また邪魔が!なんでよ!」

 

“拙者が足止めするでござる!拙者は気にせず里沙子殿に引導を渡してほしいのじゃ!”

 

『往くぞ、過去の幻影よ!』

 

「あ、あ、……このクソカスどもがァーッ!!」

 

仮面ライダーファントムモードの一閃と、過去の里沙子の断末魔。

どちらも、ほぼ同時だった。

 

ドオオオオン!! 斑目里沙子 再起不能(リタイヤ)

 

 

引用元:ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない

 

 

……

………

 

 

“記憶喪失を治す薬なんてありきたりなものさぁ、チミの方で作ってほしいんだよね。

こっちは火を吐くメダルの量産で忙しいんだから”

 

“ここじゃ材料が揃わないのよ。

普段ろくにお店の仕事もしてないんだから、こんな時くらい手伝って”

 

“はいはい。これだよ。生理的食塩水で10倍に希釈して点滴”

 

“どーも。あとはやっとくから帰っていいわよ”

 

“用が済んだらオサラバかい。ひどい扱いだねぇ”

 

“あなたと違って忙しいの。あの娘の腕も直さなきゃ。

これくらいの体格なら在庫のD-7号が合うはず”

 

 

………

……

 

 

眠気にまどろんでいる間、そんな会話が聞こえた気がする。

目を開けると、茶色くなった天井。

身体を起こすと、ベッドが2つだけの狭い病室にいた。

 

「ここ、どこ?」

 

誰もいない病室で独り言のようにつぶやくと、別室から誰かが歩いてきた。

 

「起きたのね」

 

「アンプリじゃない。なんであたしここにいるの?」

 

「里沙子ちゃんが階段から転んで派手に頭を打ったから」

 

「ん。……ああ、そうだったわね。なんか階段で足滑らせた辺りから記憶がない」

 

「消えてるのはここで目を覚ますまでの記憶だけだから安心していいわ。

検査したけど脳内出血の類もなかった。大きなたんこぶはしばらく残るだろうけど」

 

「本当だわ。言われると痛くなってきた」

 

頭をそっと触ってみると、確かにぷっくりしたたんこぶ。

 

「意識が回復したなら早いとこ退院してくれるかしら。

ベッド数少ないから急患のために空けておきたいの」

 

「チェッ、うるさいわね。経営難の大病院でもあるまいし」

 

「お会計もね」

 

「わーかーりーまーしーた!」

 

結局14000Gも取られて薬局を出た。丸一日入院してたらしいけど、

たった一日で1万4千は高すぎる。やっぱこの病院は銭ゲバだわ。

あたしはブツブツ文句を言いながら家路についた。

野盗に会うこともなく、のんびり歩いて教会に戻ったあたしは、玄関の鍵を開け帰宅。

なんだか妙に疲れたから今日は早めに休もう。

ダイニングに入ると、いつものメンバーが揃ってお茶を飲んでいた。

 

「よっ、お帰り。生きて帰って来るとは思わなかったぜ」

 

「ただいま……えらい目にあったわ」

 

「おかえりなさい、お姉様」

 

「お姉ちゃん、頭大丈夫?」

 

「パルフェムただいま。

カシオピイア、ちょっと言葉が少なくて別の意味に聞こえるわ。とにかくただいま」

 

「まったく、階段で転んで入院だなんて人騒がせもいいとこだわ」

 

「恥ずかしながら帰ってまいりました。今度ケーキ買ってくるから勘弁してよ」

 

「ちょっと待っててください。今、里沙子さんの分も入れますから」

 

「あたしはいいわ。それより病み上がりだからもう一眠りしたい気分」

 

「それがいいですね。無理は禁物です」

 

「それじゃ、また後でね~。……ところでルーベル」

 

「なんだ」

 

「あんた香水でも始めた?なんだか新しい木のような香りがするんだけど」

 

「私がそんなもん使うと思うか?ちょっと古くなった腕を広めに削ったんだよ」

 

「あらそう。いい匂いよ」

 

「よせやい。もう寝てこいよ」

 

「じゃあ今度こそばいなら~」

 

あたしは私室に戻って、パジャマにも着替えずベッドに潜り込み、

枕に頭を乗せて目を閉じた。それにしても本当に疲れた。

ぶつけた脳が休養を欲しがってるのかしら。不思議なくらいストンと眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

……それで、話は戻ること2日前。

私達は仮面ライダーの一撃を受け地面に倒れ込む里沙子に駆け寄った。

 

「里沙子!しっかりしろ!」

「里沙子さん、目を開けてください!」

「エレオノーラ様、高等回復魔法をお願いします!」

 

だが返事はなく、完全に意識を失っていた。そこに変身を解いた皇帝陛下が近づく。

 

「心配は不要だ。里沙子嬢の体内に宿るマナだけを完全に消し去った。

一気に魔力源を失ったショックで気絶しているだけである。

そちらの幽霊の協力なくしては出来なかった芸当ではあるが」

 

「いきなりエリカさんが現れて里沙子さんに取り憑いたから驚いちゃいました~」

 

「うむ。もっと早く実行に移したかったのじゃが、

あの里沙子殿は心の隙というものが全くと言っていいほどなく、

なかなか精神に忍び込むことが出来なかったのじゃ。

里沙子殿が拙者の存在、そして般若心経で引き剥がしたことも忘れていた事が幸い。

エレオノーラ殿達にとどめを刺そうとして躊躇いを見せた時、

ようやく彼女に取り憑くことができた。

ルーベル殿、拙者の対応が遅くなり、重症を負ったことは誠に面目ないのじゃ」

 

「いいや、お前はよくやってくれたよ。腕なら取り替えれば済むからな」

 

「それにしても、皇帝陛下がどうしてこちらに?」

 

「法王猊下から連絡を受け、彼の魔法で駆けつけた次第だ。

我輩とて影武者の一人や二人は抱えておる。半日要塞を任せる程度のことは可能だ」

 

「そうでしたか。本当に、ありがとうございます」

 

エレオノーラがぺこりとお辞儀をした。

 

「構わぬ。礼なら後日、本物の里沙子嬢に働きで返してもらうとしよう。

さて、我輩はそろそろ失礼する。

あまり長く影武者に国政を預けるわけにも行かぬのでな」

 

皇帝陛下は一枚の札を取り出し、目を閉じて念じると、

淡いオレンジの光の粒子に包まれ消えていった。

エレオノーラによると、あれは法王猊下の魔力を封じた札で、

“神の見えざる手”と同じ効果を持つらしい。

 

「さてと、眠り姫を薬局に連れて行かなきゃな。また乳母車の出番だな」

 

完全に伸びてるな。

マナは時間が経てば回復するらしいが、起きるにはしばらくかかりそうだ。

 

「わたくしが物置から出してきます。少々お待ちを!」

 

「悪りいが頼む」

 

里沙子を乳母車に押し込むと、この前風邪を引いたときみたいな格好で出発。

左手でピストルが撃てるかどうか心配だったが、幸い野盗と出くわすこともなく、

薬局に行くまで左手の力は乳母車を押すことだけに集中できた。

 

ジョゼットに里沙子をおぶってもらい、店のドアを開ける。

カウンターで新聞を読んでいる看護婦の姉ちゃんがこちらに気づき、

立ち上がってマイペースな対応を始めた。

 

「あらら、これは酷いわね。右腕が丸ごと吹き飛んでる。

本当にやってくれるとは思わなかったわ」

 

「それと里沙子が頭を打った。記憶喪失を治す薬をくれ」

 

「無茶言わないで。二人共しばらく入院。さあ奥へ」

 

それから私と里沙子は、薬局の一番奥にあるベッドが2つだけの病室に寝かされた。

 

「もうすぐ先生がお戻りだから、大人しくしててね」

 

「おう」

 

アンプリが引っ込むと、みんなが声を落として安堵した様子で話しだした。

 

「どうにか人心地つくことができましたね。

あとはルーベルさんと里沙子さんの回復を待つばかりです」

 

「私はいいんだが、里沙子がな。起きたところで記憶が戻ってる保証なんかない」

 

「信じて待ちましょう。

今までだって、みんなの頑張りでどんなトラブルだって乗り越えられたじゃないですか。

例え記憶がなくなったままでも、わたくしが身体を張って彼女を止めます。

何発殴られたって」

 

「それについて皆にお願いしたいことがあるのじゃが……」

 

持ってきた位牌からエリカが出てきて、おずおずと用件を切り出した。

 

「今回、お前も大活躍だったな。ありがとよ。それで、お願いってなんだ?」

 

「単刀直入に言うと……

里沙子殿が元に戻っても、此度のことは伏せておいてほしいのじゃ。

平たく言えば、彼女を許してあげてほしい」

 

一瞬みんなが黙り込む。とは言え意見は一致してるんだが。

 

「彼女に取り憑いていた時に心の内が響き渡ってきたのじゃが、

過去の里沙子殿があのような暴挙に出たのは、

本当に植物のように平穏な人生を求める一心だったのである。

銃を持ち出してでも自分の縄張りを守ろうと必死だったのじゃ。

里沙子殿の人生で積み重ねられた人間不信が、彼女を冷酷な女に変えてしまった」

 

「……詳しく話してくれないか」

 

「承知」

 

 

 

 

 

“なー、里沙子、おるかー?野球やるぞ。数足りひんねん”

“いやや。宇宙戦艦ヤマト見るねん”

“これ、里沙子!ちゃんと友達と遊びなさい!”

“運動できんのに野球なんかやりたない。今日ヤマトが波動砲撃つかもしれへんやん”

“ええ加減にしとき。友達大事にせな橋の下にほかす(捨てる)で!”

“早よせーや里沙子!”

“出てこいって、早よう!”

“……行ったらええんやろが”

 

あたしはいつアニメを見れば良かったのかしら。

 

“学級委員決めるけど、やりたいやつおるか?”

“……”

“おらんか。ほな先生が決めるで。斑目、お前やってくれ。成績ええからできるやろ”

“いやや。面倒くさい”

“あかん。やらんかったら通知簿に書くで”

“書いたらええやん。

金もくれんのに、プリント配ったり、放課後残って話し合いしたり、あほらしい”

“わがまま言うな!お母さんに電話すんぞ!”

“……やるがな”

 

タダ働きを拒否することはわがままだったのだろうか。

 

子供心に世の中の得体の知れない何かに疑問を感じるようになったのはこの時。

“彼”に出会ったのもこの頃。少年ジャンプで新しく始まったジョジョ第四部。

まさに目から鱗が落ちる思いだった。

 

吉良吉影。触れたものを爆弾に変える無敵の能力を持ちながら、

目立つことを嫌い、ただ自分の幸福、そして平穏な人生を求めることが生きがいとする。

そのためには手段を選ばない。

殺人を目撃されたら殺す。通りすがりに暴言を吐き捨てるバカも殺す。

身動きの取れない状態を見て金を巻き上げてくるクズも殺す。

全ては今夜もぐっすり眠るため。

 

あたしも彼になろう。

 

人殺しをするつもりはないけど、自由で平穏な生き方を邪魔する連中は徹底的に無視、

あるいはどんな手を使っても排除する。

横になってポテチを食べながら、

余計な心配事や不安に捕われることなくアニメを見るために。

 

 

 

“見ろよ、斑目またぼっち弁だぜ”

“超ウケルんだけど!あの娘、暗いしオタクっぽいよねー”

“目つきも悪いし、寂しい人生送ってはるんやろな~ウハハッ”

 

手帳の隅っこに“殺す”と書く。

 

“あっ!俺のバイク横倒しになってんぞ!ミラーが根元から折れてやがる、クソが!”

“あんたも!?アタシの傘、ゴミ箱に捨ててあったんだけど!”

“斑目しかおらんやろ。シメたろかあいつ”

 

“おい、バイク倒したのテメーだろ、コラ”

“何か証拠でも?”

“おめーしかいないつってんだよ!修理代耳揃えて払え”

“アタシの傘も弁償してよ。汚れた傘なんか使いたくない。ブランド物だったんだけど”

“不満なら訴訟でも何でも起こせばいいじゃない。

頭からっぽのあんたらに公的文書が用意できるとは思えないけど”

“なんやとコラ!舐めとったらぶち殺すぞ!”

“……あんた今、あたしの肩押したわね。刑法208条暴行罪。

「ぶち殺す」は刑法第222条脅迫罪。あんた達がやらないならあたしが訴える。

あんたらの汚物以下の人生がぐちゃぐちゃになるまで裁判に付き合ってもらう。

確かあんたら単位ヤバイのよね。留年回避できるといいわね”

“それはお前も!”

“アホ共にコケにされたままだと気持ちよく眠れないの。

手始めにお巡りさん呼んでさっきの「強制わいせつ」について弁明してもらおうと思う”

“な、なんやと!?俺、そんなこと……!”

“おい、もう行こうぜ!やってらねえ、キチガイ女が”

 

 

 

“姉ちゃんもすっかりウチの常連だな。そんなに銃を覚えてどうするんだ”

“いつか、第三次世界大戦なんかで法が機能しなくなった時、

バカを殺す技術が必要になるから。……Going Hot.(撃つわね)”

“そりゃいい考えだ。核が弾けたらあんたの時代だぜ”

“5発中3発か。まだまだね。次はライフルを”

“モシン・ナガンはどうだ。

ところで、何度もハワイに来る金なんかどこから調達してんだ?

俺も金持ちになりてえもんだ”

“死ぬ気で働いてるの。将来楽をするために。

……う~ん、あたしの身体には合わないかも”

 

 

 

“募金をお願いしまーす!あ、すみません、祐介ちゃんの心臓移植にご協力を”

“いやよ。「救う会」で検索したら

心臓病で死にかけてる子供なんかいくらでも出てくるのに、

一人助けたって大して意味ないじゃない”

“そんな言い方は……”

“それに、この手の募金は使いみちが不明瞭ですごく怪しい。

なんで3億?いくらかガメてるんじゃないでしょうね?

だいたい、移植手術って誰かが死ぬのを期待するみたいで応援する気になれないのよ。

それじゃ”

“……”

 

 

 

“あ~あ、さっぱり内定が出やしねえ。くそ、40社も回ったのに。

……お、斑目じゃねえか。おめえ内定いくつよ?

大学一の嫌われ者様がどの会社にご就職なさるのか聞かせてくれよ、チビ女”

“……アズマシステック東京本社”

“え……?嘘だろ、なんでお前なんかがそんな大企業に!”

“面接で多くを語らなかった。あたしの作品を見せたら一発内定。

40発撃っても当たらないなんて、よっぽどあんたに市場価値がないんでしょうね。

そのアホ面下げて面接行けばそりゃ落ちるわ。

あんたに勤まりそうな仕事なんて乞食くらいしかないってことよ。

現実を認識できたならあたしの前から消えなさい”

“お高く留まりやがって!芋臭え眼鏡女なんか東京で続くわけねえんだよ。

どうせ3年で辞めるに決まってる!”

“あー!来月からのインターンシップが楽しみだわ~!

就職浪人最有力候補には関係のない話だけど?いつまでママの脛をかじる気なのかしら”

“死ねクソ女!二度と大阪に戻ってくんな!”

 

 

 

“斑目、ちょうどよかった!デバッグ手伝ってくれよ!

このままじゃ納期に間に合わねえ!”

“お断りします。もう定時なので”

“ふざけんなよ!先輩が困ってるって時に!”

“会社は部活ごっこをする場所ではありませんし、

今の状況はあなたの計画性のなさが招いたことです。

ここで手を貸せば今後もなあなあで残業を押し付けられることは目に見えてますし、

あなたの尻拭いのためにプライベートの時間を削るつもりもありません。

お先に失礼します”

“おいコラ。その態度が人事考課に響くことはわかってるんだろうな”

“あなたの業務管理能力の低さも同様です。

ちなみに、先月納品後に発覚した大規模なバグも責任の所在を調査し、

あなたの操作ログを添えて人事部に提出しておきました。

社も裏付けを進めているようですが、民事訴訟に発展しないことを祈っています。

さようなら”

“待て…冗談だろ?俺が首になったら女房と子供は……!”

“もう一度言います。さようなら”

 

 

あたしは彼に近付こうとしたけど、結局なりきれなかった。

余計な敵を作り、争い、ストレスに苛まれる毎日を送るうちに、

あの日見た理想像からどんどんかけ離れていった。

それでも自分を変えることが出来ず、出会う人間全てを敵と認識し、

寄せ付けず、噛みつき、またトラブルを招く。

 

信用できるのは金と酒。

あたしにもキラークイーンが居れば、違った自分になれたのかしら。

いつしか子供がドラえもんのどこでもドアを欲しがるように、

幼稚な空想に逃げるようになってしまった。

残されたものと言えば、無駄に抱え込んだ技術と金時計と口汚なさ、曲がった性格だけ。

 

 

 

 

 

……エリカが見た里沙子の過去を聞き終えると、私は少し黙って口を開いた。

 

「まあ、全部のことは治療が終わってからだな。

なんだか眠くなってきたから、ちょっと寝てから考える。それでいいか?」

 

「拙者にできることは伝えることだけじゃ。結論は皆で出してほしい」

 

「そうですね。まずはルーベルさんもお体を休めてください」

 

「わ、わたくし達は家に戻ってパルフェムさん達に状況報告をしてきます」

 

「ああ。頼んだぜ」

 

ジョゼットとエレオノーラが病室から出ていくと、

緊張状態が続いてたせいで、勝手にまぶたが下りてきた。

そして一気に眠気に襲われ、深い眠りについた。

 

だから目を覚ましたときには驚いたぜ。

寝てる間に、根元辺りからなくなった右腕が新品に取り替えられてたんだから。

手を握ったり開いたりしてみる。新しい腕はすごく身体に馴染んで指もなめらかに動く。

他には大した怪我もしなかったから、もう帰れそうだ。

 

私は隣で眠る里沙子を確かめるように一度見ると、

アンプリを呼んで退院の手続きをした。代金はツケにしてもらった。

治療費くらいは里沙子に払わせよう。今回の騒動のけじめだ。

 

 

 

 

 

で、病院で保留にした結論が今の状況ってわけだ。

私は水を、みんなは紅茶を飲んで午後のひとときを楽しんでいる。

これまで里沙子が植物のような平穏だの、名誉はいらないだの言ってた理由が

ようやくわかったぜ。

 

「カシオピイア、今更だが本当に良かったのか?

謝らせろとは言わないが、せめて事実は伝えてもいいと思うが」

 

彼女は首を横に振る。

 

「いいの。お姉ちゃんも、ひとりぼっちだった。

ワタシにはその悲しさがよくわかる。

これからも、ワタシが、ずっとそばにいる」

 

「……パルフェムも、そっとしておこうと思います。

独りになったパルフェムを受け入れてくれたお姉さまが戻ってきた。

それで十分幸せです」

 

「私は……まあ、一番高いケーキ買ってくるなら許さなくもないけど?」

 

「そっか。ならもう私から言うことはねえよ」

 

漫画一つで人間の生き方がここまで変わっちまうなんてな。

あの時戦った里沙子には正直、恐ろしさすら感じた。

自分を守るために里沙子が私達に銃をぶっ放すなんて、とんだ執念だ。

 

この騒ぎはある意味今までで一番手ごわかった。だがそれも終わり。

主犯は何食わぬ顔でグースカ寝てるし、もう暴れる心配もない。

あの里沙子が欲しかった平穏ってものは、ここにあるからな。

怪我らしい怪我したのは私だけだし、全部水に流して、

改めてこの穏やかな生活ってもんに戻ることにした。

 

うん、里沙子は私がいないと駄目みたいだからな~

 

テーブルに並ぶ皆の笑顔を眺めて、私も少し笑った。

 

 


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