図書館島の司書長様   作:粗製リンクス

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第三話

「兄さん! これ見て!」

 

 ルキスが麻帆良学園都市にやってきてから幾日が経ったある日の夕方の事だった。

 図書館島で自身の職務をこなしていたルキスの下にアンナが駆け込んできた。

 

「アンナ、図書館では静かにするようにと言っているだろう」

 

 嘆息しながら息も絶え絶えに駆け込んできた妹に軽く注意するルキスだが、

 

「それどころじゃないわよ! これ見て!」

 

 兄の言葉を遮り、アンナは一枚の紙をルキスにつきつける。

 

「麻帆良通信? ああ、この前質問に来た学校新聞か。これがどうかしたのか?」

「兄さんの事が書いてるんだけど、内容があんまりなのよ!」

 

 どれどれ、とアンナから学校新聞を受け取り、ルキスはそれに目を通す。

 

『図書館島に現れた新司書長! 厳しすぎるその管理体制、その実体に迫る!』

 

 その様な見出しで書かれているのはルキスがやってきてから図書館島の何処が変わった

のか、ルキスが何を行っているのかが少々の脚色を加えられながら面白おかしく書かれて

いた。

 

『突然に一日閉鎖された図書館島が開放された。

 その事実は瞬く間に麻帆良学園都市に広まり、開放された日は図書館島の利用開始時間

から多くの利用者が図書館島に足を運んだ。

 

 そうして図書館島を訪れた人々は一様に驚いた。

 

 それも当然だろう。

 つい先日までの首が痛くなるほどに見上げなければ全貌を見渡す事の出来なかった本棚

はその全てが位置を変えられており、更には中心部には今まで何故配備されていなかった

のかと言われてきた検索システムが導入されていたからだ。

 まあ、検索システムに関しては流石に一日でデータを打ち終える事が出来なかったのか

未だ利用は出来ないようではあったが。

 

 そんな新司書長の実態を知るべく私達、麻帆良新聞の記者達は突撃取材を敢行する事に

した。図書館島の新司書長の年頃は20代手前辺りという驚くべき若さであったが、それ

よりも目を惹くのは新司書長、ルキス氏の相貌であった。

 

 名前から察する事が出来るように外国人である彼は整った顔立ちをしており、その瞳に

は知的な輝きが見えた。その相貌に同伴していた女性記者から思わず吐息が漏れる程であ

った。

 

 そんな美貌の新司書長を丸裸とは言わずともある程度の情報を知るために我々は質問を

投げかけた。以下はその抜粋である。

 

「すいません! 麻帆良新聞の者ですが!」

「あのー、質問いいですか?」

「貴方は何故、この麻帆良に?」

「学園長直々に頼まれたとの事ですが、学園長とはどういった関係が?」

「彼女はいますか?」

「アドレス教えてください!」

 

 若干、己の欲望が丸出しの点もあるがそこは見逃してもらいたい。

 そして、ひとまずの質問をした我々へのルキス氏の返答はただ一つだった。

 

「図書館ではお静かに」

 

 たったこれだけであった。

 冷たい。余りにも冷たい返答だった。

 

 そのクールさが堪らないと某女性記者が呟いていたが気にしないでいこう。

 

 何はともあれ、このクール過ぎる新司書長の実態調査はこれからも続けていこうと我々

は決意した。そして最後に図書館では静かにしよう!』

 

 学生新聞はその様な締めくくりで終わっていた。

 

「で、どこが酷いのだろう。確かに文章とかは大分酷いことになっているけど。内容とし

てはそこまで騒ぐ程のものでもないんじゃないかな」

「そんな事ないわよ! 兄さんの事を冷たい、冷たいって! 何よ、図書館で騒ぐ方が悪

いんじゃない!」

 

 うがー、と髪を逆立てながら吠えるアンナにルキスはようやく得心がいった。

 目の前の妹は兄が冷たい人間だと書かれている事に耐え難いだけだったのだ。

 

「アンナは優しいな」

 

 ガシガシと少しだけ乱暴にアンナの頭を撫でる。

 いつもの兄の行動にアンナは少しだけ頬を膨らませながらも満更でもない様子で兄に頭

をなでられ続けた。

 

 アンナの頭を撫でながらもルキスは学生新聞に目を通し続ける。

 既に彼が読んでいるのは自身の記事ではなく、ここ最近で起きた出来事が書かれている

コーナーの様な所であった。

 

 そこのとある記事にアンナを撫で続けていた手が止まる。

 

「兄さん、どうしたの?」

「アンナ、麻帆良学園都市というのは何処までが本気で何処までが冗談なのか分からなく

なる都市だな」

 

 ルキスがそう言ってアンナに見せたのは今度行われるらしい学年最後の期末試験に関す

る噂話に関するものだった。アンナは新聞をルキスから受け取り、言われた部分を口に出

して読む。

 

「えーと。一週間後に迫る期末試験だが、今回の期末試験には不吉な噂が流れている。何

でも今までの成績が余り芳しくなく、また今回の期末試験の成績が余りにも悪い者は進級

どころの話では無く、留年もしくは学年を下げられるとの事である。余りにも荒唐無稽な

噂ではあるが、ある意味なんでもアリなのが麻帆良学園都市である為、我々は今後もこの

噂の真偽に関しての調査を続けたいと思う。………………ナニコレ?」

 

 アンナの感想に同意なのかルキスはこめかみの辺りを揉みながら嘆息する。

 

「なんでもアリ、か。まあ魔法使いが常駐しているのだからある意味そうなのかも知れん

が、これは荒唐無稽とかそういうレベルではないだろう」

「でも、兄さん。ここの長はあの、理事長なのよ?」

 

 アンナの言葉にあの特徴的な後頭部をした近右衛門の顔がよぎる。

 フォフォフォと笑いながら、どんな無茶をやってくるのかが分からないのが、あの男の

恐ろしい所であった。

 

「まあ、そうは言っても流石に近衛理事長もそこまでは……」

「そうよね。そこまでは……」

 

「「…………やりそうだなあ」」

 

 ルキスとアンナ兄妹は未だ短い付き合いとは言え近右衛門の性格を理解しつつある事に

大きく溜息を吐いた。

 

 それから少し経ち、17時を知らせる鐘が鳴り響き、アンナは寮の門限が! と言い、

足早に帰っていったのでルキスも図書館島を閉館する為に各所の鍵をかけはじめる。

 

 全ての扉を閉め終えたルキスは辺りに人がいない事を確認すると、司書室に向かう。

 鍵を閉めた後に直ぐに帰らないのは一般の図書館島司書の仕事はこれで終わりであ

るが、これからは魔導書関連の仕事を行うためである。

 

 図書館島の司書室には地下深くに収められている魔導書を保管している部屋へと繋がっ

ている転送陣が敷かれており、ルキスはそれの起動ワードを口にし、光を放ち始めた魔法

陣へと乗り、魔導書の管理室へと足を踏み入れた。

 

 図書館島に収められている魔導書の数はそれなりにある。

 とは言え、それらの魔導書の殆どは格が低いものであり、普通の魔法使いでもそれなり

に扱えるものばかりである。

 

 しかし、それら格の低いものの数が圧倒的とは言え、中にはそれなりどころでは無く、

かなりの格を備えた魔導書も存在する。

 

 それが、今ルキスの目の前にある「メルキセデクの書」の原本だった。

 メルキセデクの書はその名が示す様にメルキセデクが記したとされている魔導書であり

――厳密に言うならばそれは魔法の本ではないのだが、力持つ書物の事を魔導書と呼ぶた

めにこの書は魔導書の扱いとなっている――読めば知慧を与えるとされている。

 

 とはいえ読むためには書に主と認められなければならずそうでない者が無理に読もうと

すれば廃人必至の魔導書である。

 

 ルキスはメルキセデクの書に異常が無い事を確かめると、

 

「それで何か御用でしょうか? 近衛理事長」

 

 背後に現れた気配に顔を向ける事なく声をかける。

 

「なるべく気配を消していたんじゃがのう。流石と言わせてもらうぞい」

 

 そういって笑う近右衛門だが、ルキスとしては何を言っているのかといった感じであっ

た。この部屋に来るには転送陣を使うか、図書館島の地下に広がる迷宮を進むしか無いた

め転送陣を使えば魔力反応で分かるし、扉を使えば音で分かるため気づいた事に流石だ、

と言われても何も嬉しくはなかった。

 

「近衛理事長。ご用件は私にですか? それとも魔導書ですか?」

「……NOツッコミは大分辛いんじゃが。用件としては両方が答えじゃな」

  

 近右衛門はルキスがツッコミを入れてくれない事に少々凹んでいる様だが、爺さんの凹

んだ姿を見てもルキスとしては苛つきが募るだけなので無視し、近右衛門に言葉の続きを

促す。

 

「まあまずは魔導書関連なのじゃが。……メルキセデクの書、持ちだしても良い?」

「頭沸いてんですか?」

 

 即答だった。

 

「いや、沸いてるって失礼じゃね? 仮にも儂雇い主よ? 魔導書の持ち主よ?」

「ああ、すいません。余りにもいきなりでしたから。それでメルキセデクの書の持ち出し

でしたか? 失礼ながら利用目的を聞いても? 近衛理事長が利用するだけなら此処で利

用すればいいだけの話。何故、持ち出しなど?」

 

 ルキスの質問に近右衛門は顎鬚を撫でながら、利用目的を口にした。

 

「やっぱ頭沸いてんじゃないですか?」

 

 それが利用目的を聞いたルキスの言葉だった。

 

「ネギ君の卒業試験の件は別にいいですよ。それは彼の問題ですし。しかし、何でそれで

メルキセデクの書が必要になるんですか」

「いやあ。撒き餌に丁度いいな、と思ってのう。中々に有名な書じゃし」

「いやいや、確かに有名ですけど。それで彼が廃人になったらどうするんですか。撒き餌

にするにしてももっと良い本があるでしょう」

 

 ルキスがそういった瞬間、近右衛門の目がキラリと光った。

 

「……ほう、ではどのような本が良いと思うかね?」

「そうですね。此処に収められている中で安全なのはこの辺りですかね」

 

 ルキスが指さしたのはそれなりに有名な学術書だった。

 確かに古ぼけた革張りの本はそれなりの雰囲気を持っており、ぱっと見ならば格のある

魔導書に見えなくもない。まあ、それなりに知識を持つものなら即座に気づくだろうが、

今回の対象は半人前もいいところのネギであるために問題は無い。

 

「いやいや。流石はミアミル大図書館の司書じゃ。うむ、ありがたくコレを借り受けると

しよう」

 

 近右衛門は本を懐にしまうと、今までの巫山戯た態度は一気に鳴りを潜めた。

 ガラリと変わった近右衛門の態度にルキスもその佇まいを正す。

 

「ルキス君、これを見てくれんか」

 

 近右衛門が懐から一枚の紙を取り出し、ルキスに手渡す。

 渡された紙にザッと目を通したルキスは思わず目を覆ってしまった。

 

「これは……本当ですか?」 

「……儂も信じたくは無かった。じゃが、写真もついているとなれば認めざるを得まい」

 

 手渡された紙にはある調査事項と一枚の写真が張られており、そこには現在出張という

形で外に出ているタカミチが写っていた。

 これだけならば何も問題は無かったのだが、そうはいかない。

 

「高畑さんが手に持っているこの本……」

「どう見るかね?」

「写真越しでもわかります。これは魔導書です。しかも良くない類の」

 

 やはりか、と近右衛門は天を仰ぎ見る。

 

「タカミチ君程の男が魔導書に魅入られるとは。報告によれば彼はこの本を手にしてから

魔法が使えるようになったとの事じゃ。彼は自身が魔法を使えない事に大分苦悩しておっ

た。それはわかっていた。じゃが、これは彼の体質によるものであり、儂がどうこう出来

る問題ではないから、と放って置いたのじゃが…………」

「恐らくはその苦悩の隙をつかれたのでしょう。このままでは彼は……」

 

「本の奴隷になります」

 

 保管室にルキスの言葉が冷たく響いた。

 

「……ルキス君。タカミチ君は二日後に麻帆良に帰ってくる筈じゃ。対処をお願いしても

いいじゃろうか。彼を魔導書から切り離してほしい」

 

 近右衛門が深く、深く頭を下げる。

 

「近衛理事長。頭を上げてください。貴方は魔導書の管理人として私を此処に招いた筈で

す。ならば、頭など下げずに、お願いなどと言わずに只言えばいいのです」

「ルキス君……。ああ、そうじゃな。ルキス・ヴァレリー・ココロウァ君、魔導書の管理

任務の一環として今回の件、任せるぞ」

 

 近右衛門の力強い瞳を真っ直ぐと見返し、ルキスは深く礼をする。

 

「お任せください。近衛理事長」

 

◆◆◆◆

 

 タカミチは歓喜に打ち震えていた。

 それは目の前に広がる光景に起因する。

 

 見渡す限りの荒野にただ一人佇むタカミチの前には彼を起点として直線に深く地面が削

られていた。

 

「……これだ。これが僕が夢見てきて、手に入る訳がないと諦めてきた魔法の力」

 

 なんて、なんて開放感なんだ……! タカミチは拳を握り、その目端に涙を浮かべなが

ら、自身が放った魔法の威力に感動していた。

 

 あの日、白い男から受け取った本が魔導書である事は魔法に関わってから長いタカミチ

は直ぐに分かった。だからこそ直ぐに仲間に頼んで封印処理してもらうつもりだった。

 

 だが、どうせ封印するのだから一度くらい試してもいいんじゃないか?

 そんな考えがタカミチの頭をよぎったのだ。

 

 そう、一度くらいならいいじゃないか。

 心の奥からそんな声が響いた。

 一度くらいなら、たったの一度なら。

 

 まるで水が地面に染み渡るようにその言葉はタカミチの心に浸透していく。 

 

 あの白い男の戯言を信じるわけではないが、そう、これはこれが本当の魔導書であるか

どうかの実証も必要ではないか、とタカミチは自分を説得するような言葉を頭の中で浮か

べ、今に至る。

 

 結論からいって白い男の言っていた事は真実だった。

 確かにこの魔導書に魔力を通せば魔導書がタカミチの思考を読み取り、その魔法を放つ

為の精霊との会話や命令の全てを行ってくれる。

 

 素晴らしい。

 その一言に尽きた。

 

 魔法が使えない魔法使い。そう言われ続けた日々。

 それらを笑って流してきたがいつも内心は穏やかでは無かった。

 だが、もうそうは言わせない。

 

 この魔導書があれば僕は名実共に魔法使いになれるのだから。

 そう。これでもっとあの人達に近づくことが出来る。

 

「その為にはもっと、もっと魔法を使わなくちゃ。そうだ、もっともっともっと。

ああ、そうだ。麻帆良に帰ったら皆驚くだろうな。あぁ、楽しみだなあ」

 

 憧れに近づいた。その歓喜の感情からタカミチはまたしても見逃してしまう。

 自身が手に持っている魔導書が昏い暗い輝きを放っている事を。

 

 精霊と会話する能力を持たない彼は気づけない。

 自身が持つ魔導書がどのようにして精霊を扱っているのかを。

 

 彼は気づかない。

 自分が魔導書を扱っているのか、魔導書に扱われているのかを。

 




あれぇ? 今度こそ女の子を出そうとおもったのに……。
気がついたらいつもの近衛理事長とルキス、そしてダークサイドタカミチだけ。
まずい、女の子を出さないネギまなんてネギまじゃないじゃないか……!

ちなみに次回はようやくのバトル?
女の子? うん、多分次回には出るんじゃないかな?

それではまた次回。

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