図書館島の司書長様   作:粗製リンクス

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すいません。短いです


第六話

 麻帆良学園都市の間で知らぬ者のいなくなった桜通りの吸血鬼が現れるという桜通りを

一人の女生徒が歩いていた。

 

 少女は部活の帰り道のようで肩には大きめのボストンバッグを下げていた。

 

「明日の休みなんだけどカラオケでどうっと」

 

 携帯で恐らくは友人であろう人物と休みの予定をメールで話しながら歩いている少女は

時折、首から下がっているペンダントをいじっていた。

 

 それは電話先の友人と共に買ったもので『友情の証』と二人で買ったものであり、買っ

てから暫く経つのだが、少女の宝物だった。

 

 そんな時だった。

 

「こんばんは、いい夜ですね」

 

 吸血鬼が出ると噂されている桜通りにそんな声が響いた。

 声は無機質さを感じさせながらも、何処か妖艶な色香さえ感じるような囁きだった。

 

「だれ!?」

 

 囁きに反応し、少女は携帯から顔をあげる。

 そこには黒がいた。

 

 声から女性であることは窺えるのだが、不思議なことに姿を見る事ができない。

 女性の周りに漂う黒い靄がその姿を覆い隠していたのだ。

 

 正体の分からない、自分の持つ常識では理解し得ない存在に少女は震えた。

 

「貴方が持っているそのペンダント、とても綺麗ですね。だから……」

 

――それ、くれませんか?

 

 声の女性はスッと指を動かし、少女の首にかかっているペンダントを指し言った。

 

「え?」

 

 いきなりの言葉に戸惑いを隠すことができなかった。

 

 何を言っているのか分からなかった。

 

 人の前に現れたかと思えば自身のつけているペンダントをくれ、と言ってくる。

 

 訳の分からない存在に少女の体が恐怖で震え、一歩、二歩と下がる。

 その時に肩からボストンバッグがずり落ちるが、そんな事を気にしている余裕は無い。

 

 そして、少女が一目散に逃走を図ろうとした時、

 

 ガクン、と足が止まった。

 何故、足が動かないのか。

 少女は自身の下に視線を送り、見た。

 

 女性の周りに漂っていた黒い靄が縄のように彼女の足元にまで伸びており、それが少女

の足を止めていたのだ。

 

「ふふ、逃がしませんよ。その綺麗なものイタダキマス」

 

 そして、そんな声を最後に少女の意識は途絶えた。

 

 次に彼女が目覚めたのは保健室であった。

 桜通りを警邏で回っていた教師の一人が彼女を発見し、ここまで搬送したのだという。

 

 そして、少女の胸元にペンダントはなかった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「桜通りの強奪魔?」

 

 その日もルキスの下に駆け込んできたアンナが告げてきたのは最近になって桜通りに現

れるようになったという新しい噂だった。

 

 アンナは手に持った学生新聞をルキスに手渡し、

 

「そうなの。今度は強奪犯。現れたのはつい最近なんだけど、既に物を奪われた人が結構

な数いるみたいよ」

 

 これも魔法関連なのかな、とアンナは言う。

 

「……さてなぁ、この記事だけだと流石に分からないな」

 

 アンナから渡された記事を畳み、彼女に返しながら

 

「そういえばネギ君はまだ吸血鬼を追っているのかい?」

 

 近頃めっきりその姿を見ないネギについて聞く。

 

「うん、なんだかあっちこっち走り回ってるよ。兄さんの言ってた事は全部伝えたんだけ

ど、止まる気配が無いのよね。あの馬鹿ネギ」

 

 妹の言葉に苦笑を浮かべるルキス。

 

「一直線なのは良いことなんだけどなあ」

「今度、兄さんが直接言ってやってよ」

 

 振り回されるこっちはいい迷惑よ、と憤慨するアンナをなだめながら、

 

「そういえばネカネさんに手紙は送っているかい?」

 

 そう切り出した。

 

「ネカネさん? うん、一応こっちに来た時に手紙は出したわ。それがどうしたの?」

「いやね、俺の方もこっちに来た時に出しておいたんだ。そしたら三人宛の手紙が纏めて

こっちに届けられてね」

 

 懐から三つの封書を取り出し、ルキスはその内の一つをアンナに渡す。

 

「ネカネさんもマメだわ」

「まったくだ」

 

 兄妹は笑いながら手紙を開くと、魔法製の手紙には文字は無く、手紙の中央からネカネ

の姿が投影された。

 

『ルキスさん、お手紙ありがとうございます』

 

 魔法で映しだされたネカネは挨拶から入り、彼女自身の近況報告から入り、他愛のない

会話を続けていた。

 

 その光景を見ながらアンナはある違和感を覚えていた。

 それは兄の手紙に映るネカネと、自身の手紙に映るネカネを見比べる事で分かった。

 

 ルキスの手紙のネカネの方はパッと見では分からないが化粧をしているのだ。

 

 あぁ、つまりはそういうことか。とアンナは納得した。

 確かに自分たちの故郷であるあの村でネカネに近い歳の子供は兄であるルキスしかいな

かったし、自分たちは家族同然の付き合いがあったのだから当然のことだろう。

 

 少々モヤモヤするものが生まれるが、アンナはそれには気づかない振りをし、意識をネ

カネからの手紙に戻す。

 

 会話はいつの間にか終盤に差し掛かっており、手紙のネカネは今までの笑顔を一転させ

申し訳無さそうに頭を下げた。

 

『大変申し上げにくいのですが、実は一匹のオコジョ妖精が刑務所を脱獄し、そちらに向

かっているとの事です。名前はカモミール、なんでも昔ネギと何かあったらしくネギを頼

りに向かっているそうです。もしも見つけましたら捕縛しておいてください。……最悪処

分してください。あの獣は女性の敵です!』

 

 途中まで丁寧な口調だったのだが、逃げ出したカモミールというオコジョ妖精について

語っているうちに熱が入ってきたのか語尾が荒くなっていた。

 

『あ、すいません。そんな訳でお願いしますね』

 

 そう無理矢理締めくくりネカネからの手紙は終わった。

 

 手紙が終わった後の兄妹の間には微妙な空気が流れる。

 

「……ネカネさんが彼処までなるなんてそのカモミールとかいうオコジョ妖精は一体何を

やらかしたのよ」

 

 アンナがそう言って頭を振る。

 ルキスも気になったのか、すぐにパソコンで調べていた。

 

「……あった。アルベール・カモミール、罪状…………あー」

「なになに、何の罪状?」

 

 アンナは兄の横からひょい、と顔を出し、画面を見た。

 

「……女性の下着を2,000枚盗んだ? ふ、ふふふ。燃やす」

 

 同じ女性として思うところがあったのかアンナも未だ見ぬオコジョに殺意を抱く。

 ルキスとて一応男であるからある意味で男らしいオコジョ妖精に心のなかで十字を

切った。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 ルキス達が手紙に目を通している時、エヴァンジェリンは近右衛門に呼び出され、学園

長室に足を運んでいた。

 

「ちっ、じじい何の用だ。私は今忙しいのだがな」

 

 見るからに不機嫌なエヴァンジェリンに対し、いつもの近右衛門ならば茶々の一つでも

入れるのだが、今回はそれはなかった。

 

「エヴァンジェリンや。茶々丸は今、主の傍におるか?」

 

 挨拶を抜きにしていきなり本題に入る、これも常の近右衛門からは遠く、そしてその質

問にエヴァンジェリンの眉がぴくりと動いた。

 

「茶々丸がどうした? あれは従者とはいえある程度の自由は許している。いつも傍にい

るわけではない」

「……つまり、今は主の傍にはおらんのじゃな?」

「くどい。……じじい、茶々丸がどうかしたのか?」

 

 近右衛門にはこうは言っているが、エヴァンジェリン自身ある程度近右衛門の言わんと

していることの予測はついていた。

 

「昨今の桜通りの強奪犯となにか関係が?」

「うむ。これを見てくれ」

 

 近右衛門は頷き、手元に用意された小さな液晶画面をエヴァンジェリンに見せる。

 そこには夜の桜通りが写っており、画面下には昨日の日付が書かれていた。

 

 画面では一人の生徒が携帯を片手に歩いていた。

 

「これがどうした? いつもの監視カメラの画像ではないか」

「この後じゃ」

 

 近右衛門の言葉通り、次の瞬間、桜通りを歩いていた生徒に何かが声をかけた。

 

『……それ、くれませんか?』

 

 その声はエヴァンジェリンが聞き間違えることのない人物のものだった。

 

「茶々丸、だと」

「左様。如何な技術かはわからんが、声しか判明せなんだ。聞くが、茶々丸にこのような

技能はあるのかの?」

「いや、そのような話は聞いたことがない。しかし、これは確かに魔を感じる」

 

 エヴァンジェリンは近右衛門に返答しながらも自身の中で推測を立てていく。

 

――確かに茶々丸は魔力を動力源としているが、それをこのように活用できる筈もない。

  訓練すれば可能やもしれんが、それは一朝一夕で身につくものでもない。

 

 そこまで思考し、エヴァンジェリンは辿り着いた。

 

「……まさか」

「その、まさかじゃろう。ワシはこの茶々丸を包む魔力に覚えがある」

 

 近右衛門も同じ答えに至っていた。

 

「魔導書かっ」

「うむ。いつ、誰が、どうやってという疑問は残るがな。タカミチ君の時は麻帆良の結界

の外で隙を憑かれた。しかし、今回は違う。麻帆良の中で堂々と魔導書は茶々丸の手元に

渡ったのだ。しかし、麻帆良が所蔵する魔導書は全て管理されており、何者かが持ち込も

うとしても結界に反応があるはず。だというのに、茶々丸は魅入られた」

 

 近右衛門はそこまで言って、エヴァンジェリンから吹き出る怒気に目をやる。

 

「……面白いじゃないか。この闇の福音の従者を堕とそうとするなど。じじい、茶々丸の

件は私が対処する。手を出すなよ」

 

 エヴァンジェリンはそれだけ言うと、足早に学園長室を後にした。

 その後ろ姿を見送りながら近右衛門は呟く。

 

「さて。彼に連絡をとっておくかの。何事も備えが肝要だからの」

 

 




何とか週一で更新です。
しかし、この出来の悪さ。
酷い。

それではまた次回
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