湾岸インムナイト~THE BEAST GT-R STORY~ 作:ゆうさく
(ファッ!?)
視界が回り、田所の意識は混濁する。
(うせやろ・・・)
事故による物理的なショックと、Rを壊してしまったという精神的なショックが重なり、混乱に拍車がかかる。
虚無感、喪失感、悲しみ、驚き、呆れ、後悔。あらゆる感情が押し寄せてきた。なにせ、「負ける」ということを知らなかった田所は、初めて知るこの感覚に対応できずにいた。しかも、これまでにない好調だったときにやられたのだ。こうなるのも当然といえばそうだ。
しばらくし、室内に煙が充満していることに気づき、路肩に停車した。
田所は何とか携帯を取り出し、ビーストレーシングのオーナーである秋吉に電話をつないだ。
「秋吉だ・・・田所か?どうした?」
「秋吉さん・・・狩られました・・・」
かつて田所と同じく首都高を走っていた秋吉はその言葉の意味を瞬時に理解した。
「誰にだ?今日は好調だったんじゃないのか?」
「黒いハコスカです。みたことも聞いたこともない奴です。三浦さんと別れた後すぐに後ろにぴったり付かれて、少し当てられた後エンジンがブローして減速したらいつの間にか消えました・・・それこそ亡霊みたいに・・・」
「田所。そいつはおそらく、お前が言うように、亡霊だ」
秋吉には心当たりがあった。かつて、大量の走り屋の車を鉄屑に変えた車・・・いや、『亡霊』が、こんどは田所に牙を剥いたと考えた。
「ともかく、そっちへ行く。だいたい場所はわかる」
「はい・・・」
田所はまた気の抜けた声を出した。
彼らしくない、弱々しい姿を何日も晒し続けた。
しばらくして、ある程度心が安定してきた田所は、秋吉に呼び出された。
「秋吉さん、話って何ですか?」
「田所、お前また走りたいと思えるようになったか?」
「はい・・・けど、また相棒を失うのが怖くて・・・でももう34は走れないんですよね?」
「そうだ。フレームにもガタがきていたし、事故でかなり歪んでいたし、エンジンは論外、使いものにならないし、全部直すのに35は買える値段になるな」
「じゃあ・・・」
「お前は知らないかもしれないが、湾岸にはある、いわくみたいな車・・・いや『化け物』とでも言えば良いかな・・・がいるんだ」
突然の話で、田所は戸惑っていた。
「あ、秋吉さん?なに言ってるんですか?」
「人の話は最後まで聞け。そのいわくだが、実はお前が遭遇した黒いハコスカ、通称『Rの亡霊』だ。そいつに出会った奴の車が無事に帰ってきた例はなく、湾岸の交通量が少なくなる早朝あたりをうろつき、走り屋の車の真後ろにぴったり付き、車の限界を越えさせ、エンジンをブローさせたりフレームを歪ませたりする。昔そこで事故った黒いハコスカの亡霊という話もあるが、そんなハコスカ俺がここで20年走ってて見たことも聞いたこともない。ましてあそこで事故ったなんて話は知らないな」
「じゃあ、その噂みたいなのは何時ぐらいから・・・」
「いつの間にかだ。確か10年前位だったかな?よく覚えてないな」
「俺は、そいつに負け、狩られたってことか・・・」
「お前は負けたことがないもんな。お前は確かに最速だったし、走り出して以来、無敗だった。だがな、決して最強じゃねぇ。才能はあるが、無敵じゃねぇ。」
「え・・・?」
突然の言葉に、田所は言葉を失う。
「どういう意味です?」
「お前は今まで何も失ってこなかった。運もあったが、八割方実力でここまできた訳だ。けどな、お前よりうまい奴なんかわんさかいる。しかも、そういう奴らに限って強い。負けを知ってるし、自分を見極めることができている。お前は出来てるか?」
「いや、出来てたらこんな事にはなってないっすよね・・・あの時は調子に乗って亡霊の煽りに乗って車にとんでもない負荷を掛けていた・・・本当に強い奴なら、無理だと分かってあそこで降りてたって事ですか?」
「なんだ、分かってんじゃねぇか。そういうことだ。本当に強い奴は無理なことはしない。大体経験則からくるモンだ。強い奴は自分や車の限界を知ってるし、相手の実力と限界とを見極められる。」
とはいえ、極希にそれを見誤ることもある。極限状態になった時とかなーー秋吉はそう付け加えた。
「秋吉さん、今日はずいぶん生き生きしてますね」
「そりゃそうだ。俺の経験してきたことがお前に生かせるからな。無論、お前次第だが」
かつて『湾岸の帝王』といわれた秋吉と同じ道を辿れることに田所は胸が熱くなる。
「さあ、田所。お前はこのまま降りるのか?首都高で走り続けるのか?無理に残れとは言わないし、車のない状況ではきついかもしれない。車を失ったショックもあるだろうから、すぐに答えろとは言わない。一週間待ってやる。その間に34は出来る限り直してみる。一回ゆっくり考え直して、本当に走りたいか、強くなりたいか、お前なりに答えを出してみろ」 「ん、おかのした」
田所はガレージを出て、家路についた。
「明日で一週間ですけど、答えは出たんですか?」
「いや、まだかな・・・ああ言われた手前降りる事なんて出来ないけど、新車買うにも金かかるし、34は早々簡単には直らないだろうからなぁ・・・」
田所は三浦の家が経営しているチューニングショップ、ミュラーキャットへ向かってい、木村のR33に乗っていた。買った当時からホイールとダンパー、サスペンションが変わっていた。
秋吉の話から明日で一週間。答えはでているが、なかなか今の状況では難しいと思っていた。
「今度はどこをいじったんですかね?大改造したとか言ってましたけど」
「まぁ、見りゃ分かるでしょ。多少はね?」
そうこうしているうちに、木村のR33はミュラーキャットのガレージへ入っていった。
「「なんだこのエンジン!?」」
そこには、三浦の白いR32
がエンジンルームを開けた状態で停車していた。
「これって、VR38じゃないっすか!」
「そうだゾ。某チューニングショップが制作したVR32もどきを作ってみたゾ。馬力は200psアップの大体800psで、パワー不足を改善したゾ。さすがにミッションや内装はいじってないゾ」
「にしてもMURすごいっすね・・・あっそうだ(唐突)三浦さん、この辺にぃ、良い中古車、来てないっすかね?」
「ガレージの裏にそういうのがいっぱいあるゾ。新たな相棒探しかゾ?」
「そうですねぇ・・・」
「見てみるかゾ?」
「見ますねぇ!見ます見ます」
「部品取りの車も多いけど、動くのもあるゾ~」
「じゃけん行きましょね~」
「木村も見てないでこっち来て」
「そうですね。33用に使える部品でも探しますか。」
「じゃあ、行くゾ~」
三人は、ガレージの裏へ向かった。
「ここですか・・・ほんと部品取り車って感じの車しかありませんね」
木村が呟く。
「廃車同然の車しか居ないからしょうがないゾ。田所、奥の方に古いけど動くような車が・・・ってどこ行ったゾ?」
「もう奥行きましたよ」
田所は、何かに吸い込まれて行かれるかのように奥へ向かった。何かを感じたのだ。
(ッ!こいつ・・・何でここに・・・!?)
彼は、黒いハコスカが埃まみれでそこに佇むのをみた。そして、聞いたのだ。
ーー私を走らせてーー
この車で走りたい、こいつを走らせてあげたい、ここから解放させてあげたいと、田所は思った。
そう思う頃には、もう秋吉に電話をかけていた。
「おう、田所ーー」
「秋吉さん、俺、まだ走ります」
ーー亡霊を、みつけました。
三浦の32のモデルはトップシー○レット(念のため伏せ字)のVR32です。Gマガで初めて見たときの衝撃がすごかった(小並感)
次回は設定資料を、その次から亡霊を本格始動させるゾ。