……こうもダイナミックな話ばかりされると、私の生きてきた人生なんて軽かったんだなって思わされちゃうわ。
話さなきゃダメ?面白くないよ? ……まあ、いいけれど。
私の生まれは日本の東北地方。私の実家は、黒の世界で言うところの魔術師の家系、なのね。とは言っても、大して栄えてない家系なのだけれど。だから、幼い頃から魔術漬け、なんてことはなかったわ。ただ、神社の娘だったってだけ。
両親や祖父母が言うには、私には才能があったみたいなんだけど、当時は特に興味なくて。どこにでもいる、ただの女の子だったわ。
逆に妹は才能が無いって言われて、とっても悲しんでいたわ。だからかも知れないわね、私が絵麻のことを、妙に溺愛するようになったのは……。別に魔術以外にも楽しいことはいっぱいあるわって、毎日一緒に遊んでいたわ。
中学生になった私は、それなりに勉強熱心で、とりあえずの目標は試験でいい点をとること。なんかつまらない人生よね。だけど、本当にそのくらいしか目標がなかったの。私の実家はあまり裕福ではなかったから、将来の夢は漠然と、お金が稼げる仕事に就くこと。本当に、つまらない。
でも不思議と、特別な人間になりたいとは思わなかったわ。特別さの前に、まず現実があったっていうか。人並みに夢は見ていたと思うけれど、中学2年とか3年とかになった頃には、それを夢だって割り切ってた気がするな。憧れては、いたんだけどね。
そんな私の元に青蘭学園からの入学招待状が届いたのだから、当時の私はびっくりしてたわね。
学費も渡航費も生活費もいらないって言うから、実家に負担を掛けないためにと思って、両親に承諾を取って青蘭に渡ったわ。もちろん不安もあったけれど、私が本当にプログレスなら――私の可能性は今までよりもずっと広い展望に思えて、興奮した。だから、ここでなら特別を目指すことも出来るんじゃないかって思えたの。
私、昔は結構人見知りだったのよ。――え、今も? うるさいわね。そんなことないわ。一応、生徒会長もやったわけだし。
そんな人見知りは、初めての寮で、ある女の子と相部屋になったの。やたらと元気で、バカ笑いして、初めはなんなんだよこいつて思ってたわ。正直、相性がいいとは思えなかった。その子も私のこと、地味なやつだって思ってただろうし。
でも、なんでだろうな。しばらく一緒に過ごすうちに、ウザイくらいの元気もバカ笑いも気にならなくなってきて、むしろ心地よいほどになったわ。逆にその子も、私のことを妙に気に掛けるようになった。
そこに、同じクラスだったちっちゃい女の子も加わって、いつの間にか仲良し3人組になってた。何度も喧嘩したし、二度と仲直りできないかもって思うこともあったけど、最後にはいつも仲直りできた。それがとても幸せなことだって気付いたのはだいぶ後のことだけど。
話は変わるけど、入学当時の生徒会長は、とってもかっこいい人だったわ。同じ日本出身の人だったけど、いつも引き締まってるの。規則に厳しくて、ちょっと怖いイメージを抱かされるけど、頑張ってる人のことをちゃんと見ていて、時々こっそりごほうびをくれるの。私も一回だけ貰ったわ。一番最初の定期試験の順位が1位だったからって、駄菓子屋に行ってラムネをね。ほんとにちょっとしたごほうびだったけど、あの時の彼女の笑顔が忘れられなくて。後期の生徒会選挙になんとか立候補して、副会長として入会できたの。親友の2人も役員として入って、新しい会長の元で頑張ったわ。まあ、次は赤の世界出身の人になって、ちょっとふわふわな人だったけど、締める時はしっかり締める、尊敬できる人だった。
2年生に上がると、当然だけど新しい1年生が入ってくるわけだけど、その中にいた1人の女の子が、私の運命を変えた――のかも。
なんだかやたらとやさぐれてたの。赤の世界出身の、天使の子だったんだけど。夜遅くまで商業地区をほっつき歩いたり、授業サボったり、態度が悪かったり、行動の数々が目に余るものだったわ。
私はその子の指導に当たることになった。はっきり言って怖かったわ。でも、頑張った。授業をサボれば探しに行ってふん捕まえたし、態度が悪い時にはきっちり直させた。その子は当然だけど、私のことをウザがったし、私だってこんな面倒なことは御免だった。でも、その子に対して真剣に接してた。どうしてこの子は周りと馴染もうとしないのだろう、何か理由があるのかな、って。
そんなある日、その子と本気で喧嘩して、本気で殴り合って、本気で――そう、その時はそう思ってたんだけど――殺し合った。生徒会に入るにあたって、必要だと思ったから実家に頼み込んで魔術を教えてもらってたから、負けなかった。いい加減鬱憤が溜まりまくっていたものだから、言いたいこと全部ぶちまけて、竹刀まで持ち出して、エクシードまで使って、本気で殺しにかかったわ。それはその子も同じで、2人とも入院する羽目になったし、当然停学処分になった。
でも、私たちが揃って復帰した時から、その子の素行は全部治ったの。どうしてか聞いてみたらね。
――――っ。言わなきゃダメなのかよ。
――あんたがどれだけ本気なのか分かったから、さ……。わ、悪かったな、今まで。
不器用な子よね。でも、実際に素行は治ったから、もう咎める必要は無かったわ。クラスに馴染むのに苦労してたみたいだから、それとなくサポートしたらバレて怒られたりもしたっけ。
そんなこんなで、あっという間に1年が過ぎて、もう2年生の生徒会選挙が来ちゃったの。私は当時の会長に、生徒会長になることを勧められたけど、一回停学になったし、無理だと思ってた。でも、彼女は推薦してくれるって言うし、私は良くも悪くも有名になってたわ。だって、なんだかんだでいい子ばっかりの青蘭学園において珍しい《不良少女》といつも一緒にいて、騒ぎまくってたんだからね。
もしなれるなら、私は生徒会長になりたかった。私がその子を導けたように、本気の想いが学校を動かせたら、それはきっと誇らしいと思ったの。
選挙に勝って、生徒会長になったとき、私はようやく、特別になるってことがなんなのか、分かったんだと思う。
特別っていうのはきっと、他の誰にも真似できないことをする、ってことじゃないんだって。
だって、そもそも人はオンリーワンだもん。《自分である》っていうだけで、それは他の誰にも真似できない。
だから大事なのは、《自分であり続ける》ってこと。それがどんな道にせよ、自分で決めた道を、頑張って歩き続けること。それが、本当の意味での《特別》なんじゃないかって、思ったの。
驚くことにね、その元不良少女の天使の子も、生徒会に入ってきたの。一度馴染んじゃえば、妙に愛嬌のある子で、私も仲直りして以降は何かと可愛がっていたし、馴染んだ後はクラスでも人気者だった。意外としっかりものでもあったし、そもそもこの学校の校風にたった1人で逆らってたわけだから、すごく芯が通っているのよね。それで結構支持を集めたみたい。相変わらず口は悪かったけど、それでも学校のために頑張ってくれたわ。
だから、私が遂に生徒会を引退するって時、私は新生徒会長として彼女を推薦したわ。彼女は珍しく恥ずかしがったけど、私は自信をもって彼女を推薦できた。それで、元不良少女の生徒会長の出来上がり。彼女が生徒会長をやっている間は、校風が幾分か自由な雰囲気になっていたわね。それはそれで心地よかったわ。だって、こう言っちゃあなんだけど、私が育てた子が作った校風だもの。
そりゃ、当時は「あの真面目な紗夜会長が、あの子を推薦!?」みたいな反応だったけど、あの子は会長としてとっても頑張ってたわ。自分なりに、みんながより良く過ごせる学校を作るためにね。違和感なんて数週間も経てばすぐに薄れて、みんな彼女のことを会長、会長って呼んでいたわ。
その子もその子で、またミスマッチな子を生徒会長に推薦してたわね。私よりもずっと真面目な子を気に入ったみたいで。まあ、それがあの学校の面白いところなんだけど。
そうやって見ていれば分かるように、みんなが特別に見えてるだけで、私も十分に特別なのよね。
でも、それは自分が一番分からない。自分の顔を肉眼で直視することができないみたいにね。そういうところ、人間ってヘンだと思うわ。