闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
それから、グレイが結んだ誓約ですが、ダークレイスを除く全ての誓約を結んでいます。
ダンまちの映画とアニメ二期楽しみですね!
「どれどれ……魔石に金時計に……おっ、こいつぁ魔剣じゃねえか!ひゃっはははははははは!お前、これも他の冒険者から盗んでたのかよ!」
「っ……!」
男の笑い声が響くダンジョン7階層。
そこでは1人の少女が痛みにもがき苦しんでいた。
彼女の名はリリルカ・アーデ。自分の所属する【ソーマ・ファミリア】から抜け出して自由の身になるため、自分を今まで苛み苦しめてきた冒険者から金品を奪ってきた。今回もある冒険者から金目の物を盗むために近づき、今日までその冒険者をサポートしてきた。そして、以前からしているようにその冒険者の隙を突いて金目の物を奪い。この階層まで来た。しかし、元雇い主である冒険者が協力者とやらを募って
その結果、彼女は網に引っかかり。男から殴る蹴るの
「くくくっ……!いいぜぇ、許してやるよ糞パルゥム。てめえからこんなプレゼントもらったんだ、俺も器のでけえところを見せてやらねぇと……なぁっ!」
「あぐっ!?」
2度に渡り腹を蹴られ、リリは悶絶した。
不味い不味い不味い。小さな胸の中で焦燥が一気に膨れ上がる。
何とか逃げ出さなくては悲惨な末路を迎えると、未だ衰えない凶暴な気配を前に悟った。
そしてちっとも息を吸い込めず、男の声が遠くに聞こえていると。
「おーおー、派手にやってんなぁ、ゲドの旦那ァ」
そこに第3者の声が投じられた。
「……っ!?」
「おっ、早かったな」
声の方向を見やると、ルームの通路口に見覚えのある男がいた。
先日、リリを脅迫して金を巻き上げようとした者の1人だ。これまで何度も彼女から金品を巻き上げ散々虐げてきた、【ソーマ・ファミリア】の冒険者だ。
リリは全て悟った。男の言う協力者とは【
「聞けよ、カヌゥ。こいつ魔剣なんか持ってやがった。てめえらの読み通り、たらふく金を溜め込んでいるみたいだぜ、くははっ」
「……そりゃ良かった」
機嫌良く語る男──ゲドに、カヌゥと呼ばれた中年の獣人はどこか暗く湿っているその瞳を細める。機嫌を良くしているゲドはその様子に気付かない。
「ゲドの旦那。1つ提案があるんですがね……」
「なんだ、
「いえ、ね。
は?と中途半端に笑みを浮かべ固まったゲドが問い返す前に、カヌゥは背に隠していたそれを放り投げる。ぼとっ、と眼前の地面に転がった塊にリリは、ひっ、と悲鳴を漏らす。
「キ、キラーアントじゃねえかっ!?」
持ち運びやすいように下半身を断たれた、生殺し状態のキラーアント。全身に裂傷を負い紫血を撒き散らすモンスターは、口腔の開閉を繰り返しながら悶え苦しむように残った片腕を振り回している。
「最初は俺等全員でかかれば、とは思ったんですがね。ゲドの旦那のほうが到達階層は上なもんだから、もしかしたらお強いかもしれねえ。ってわけで、
ぼとっ、ぼとっ、と再び投げ込まれる上半身のみのキラーアント。
いつの間にか別々の通路口にカヌゥと行動をともにする冒険者2人が現れ、彼の行動に倣っていた。投じられた都合3つの蟻塊が、ルームの中央で呪詛のような呻き声を木霊させる。
リリも、ゲドも一瞬で顔色を蒼白にさせた。
キラーアントは瀕死の状態に陥ると特別なフェロモンを発散する。それは仲間を呼び寄せる、特別な救援信号だ。
死に損なったあの蟻塊は、蟲の大群を召喚する時限爆弾に他ならない。
「しょ、正気かてめえらぁああああああっ!?」
3匹分ものフェロモンが延々と垂れ流されれば、一体どれだけの
ゲドの絶叫が響き渡る中、しかしカヌゥ達はぴくりとも表情を動かさない。
肥大化した金への執着を、『
「俺達とやりあっている間にそいつらの餌食になんてなりたくはねぇでしょう、旦那ァ?」
「ひっ!?」
ゲドが背にしていた通路から、5匹ものキラーアントが一斉に顔を出す。
この通路の出入り口は計4つ。その内3つの通路口はカヌゥ達に押さえられ、残り1つもたった今モンスター達によって塞がれた。怒りと恐怖と動揺で顔を目まぐるしく変色させるゲドは、千切れんばかりに歯を食い縛った後、リリから奪った荷物を全て放り投げる。
「く、くそった──」
ボギッ!
突如、ゲドの首が半回転した。それも、ゲドとカヌゥの間に現れた真鍮色の鎧を身に纏った人物の手で。
「なっ、何者だてめぇ!?」
目の前でゲドの首をへし折ったその人物に対し、カヌゥは剣を構えると問う。
「何時からこのルームにいた!?」
「……」
「どうやって姿を隠していやがった!?」
「……」
「答えろぉっ!」
「……」
カヌゥの質問にその人物は答えず。ゲドが背中に差していた剣を鞘から引き抜くと2、3度素振りした後にカヌゥ達の方を向き、ゲドの死体を投げ捨てた。……次の瞬間
ザンッ!
目にも留まらぬ速さで移動した鎧の人物は、カヌゥから見て右手の通路口に立っていた仲間の頭を輪切りにした。
「てめぇ!」
「おい馬鹿!やめろ!」
カヌゥの声を無視し、仲間の仇を取らんとばかりにもう1人が武器を手に走り出した。
「死──」
ズブッ!
鎧を纏った人物は振り向きざまに貫手を突き出し、心臓を貫いた。
「……」
「ひぃっ!」
胸部から手を引き抜いた人物は付着した血を払い、
「ま、待ってくれ!」
剣を握ったまま、相手を説得しようとカヌゥは口を開いた。
「あ、あんたもゲドの旦那と同じく、そこの小娘に金目の物を盗まれたんだろう!?それで物を取り返しにきた、そうなんだろう!?でもこの状況を見ろ!通路口は全部キラーアントでいっぱいだ、このままじゃ俺もあんたも共倒れになっちまう。そこでだ!今はお互い手を組んでこの状況を切り抜けようじゃないか!そしたら、そいつの荷物は全部あんたにやる!それで、俺はあんたが仲間を
「……」
カヌゥは自身の行いを棚に上げ、何とか助かろうと命乞いを始めた。
カヌゥの提案に鎧の人物は答えず、ただ無言で近づく。カヌゥのほうも、更に口を捲し立てる。
「……じゃ、じゃあ『
「……」
「た、頼む!どうか、どうか命だけは──」
ザンッ!
命乞いも虚しく、カヌゥの首は刎ねられた。
断面からは血が止めどなく流れ、恐怖に怯える目がダンジョンの壁を見つめている。
そしてそれを皮切りに通路からキラーアントの大群が現れ、カヌゥ達の亡骸に殺到した。
死んだ。自分を今まで苛み苦しめてきた
「……は、ははっ」
眼前の光景を見ながら、リリは壊れたように笑った。ざまあみろと、お前たちには相応しい末路だと言わんばかりに笑った。
(……ああ、そうだ)
地面に転がっている自分のもとに鎧の人物が来たのを視認すると仰向けになってダンジョンの天井を見つめる。
自分もそうだ、と。如何なる事情があろうと、自分のこれまでの行いは犯罪だ。己の救済という大義を掲げ、冒険者を騙しては盗み、騙しては盗んできた。仮に己の救済を成し遂げたとしても、その罪は消えない。
これが因果応報だというのなら、あの少年を騙した罰というのなら、少しは気が楽になる。
(……どうぞ、
目を閉じ、祈る。次があるなら、今よりマシなリリになれるように。他人の手で人生を左右される、大嫌いな
カラン
「……え?」
音のした方に目をやると、さっきまで鎧の人物が握っていた剣が地面に転がっていた。それどころか、鎧の人物の姿も消えていた。代わりに、自分はキラーアントの群れに囲まれていた。
(……まさか!)
あの人は、自分を見逃したのか?ゲドやカヌゥ達の用に殺さず、生かした?
それとも、生きることが自分への罰だというのか?
やっと神のもとに還れると思ったのに、やっとリセットできると思ったのに……。
(……あれ?)
だったら何故、今まで盗みを働いて生き延びてきた?死にたいのなら、首を括るなり毒を飲むなりすればよかったはずだ。迫りくる死を前に自分は、そんな考えが頭に浮かんだ。
(リリは……リリは……)
自分が本当に望んだこととは?
死か?
自由か?
それとも……?
「ファイアボルトオオオオオオォッ!!」
爆炎。
緋色の炎がルームに立ち昇り、あの冒険者の声が響いた。
「嗚呼……そうだったんですね。リリは……リリはッ……!」
「さて、ヴァレンシュタイン氏はどこかな?」
背後から鳴り響く爆音を聞きながら、俺は装備をいつものものに変えて下の階層へ向かう。
ベルの実力を考えると10階層かそこらでリリに物を掠め取られただろう。つまり、ヴァレンシュタイン氏はそこにいるということだ。
「お、見つけ……た……?」
10階層のところで、俺はヴァレンシュタイン氏を見つけた……が、何やら紙に書いている。
「……グレイさん。ちょうどよかった、1つ頼みがあるんです……」
「頼み?」
ヴァレンシュタイン氏は書き終えたのか、紙を丸めてこちらに差し出してきた。
「これを、【ロキ・ファミリア】に届けてほしいんです」
「いいですけど……どこか行くんですか?」
「……
「それじゃあ」と言うと彼女は下の階層……おそらく24階層に向かってしまった。
「なんだろう、こう……上手く言い表せないが……嫌な予感がするな」
俺は嫌な予感が外れることを祈りつつ【ロキ・ファミリア】のホームにこの手紙を届けるため、来た道を引き返した。
次回投稿はかなり遅れると思います。