闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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第17話

ガサゴソ…………キィー、パタン

 

「む?……」

 

物音が聞こえたので目を覚ました俺は、体を起こして周囲を見渡す。

 

「……(ベル君)が1人……(ベル君)が2人……じゅるり」

 

涎を垂らしながら寝言を言うヘスティア様。

 

「……」

 

毛布が取り払われ、蛻の殻になっているソファー──ベルの寝床。

 

「(またダンジョンにでも行ったのか?)」

 

やれやれ、とため息をつきながら寝袋から抜け出し、装備を身に着けて部屋を出る。急いでいけば追いつくだろう。そう思って教会を出る。

 

「あの少年なら、ダンジョンに行ってないわよ」

 

バベルの近くに来たところで、俺は声をかけられた。声のした方向を見ると、シャラゴアが座っていた。

 

「何?じゃあ何処に行ったんだ?」

「あっちよ」

 

尻尾を北西の方に向けると、さっさと行けと言わんばかりに顎でしゃくる。

 

「わかった。それじゃあ」

 

俺がシャラゴアの指した北西の方に向かうと……

 

「あ、グレイさん」

「久しぶり……って言うほどでもないか、レフィーヤ・ウィリディス」

「レフィーヤでいいですよ」

「わかった。それでレフィーヤ、こんな時間にここで何を?」

 

俺はレフィーヤに遭遇した。こんな日も昇っていない時間だというのに、何をしているんだ?

 

「人を探しているんですけど……グレイさん、白い髪に赤い眼のヒューマンに会ってませんか?」

 

白い髪に赤い眼……ベルのことかな?

 

「奇遇だね。実はそのヒューマンは俺の所属している【ファミリア】のメンバーでね。目が覚めたら姿がなかったので、俺も探しているんだが」

「そうだったんですか。……あのヒューマン、一体何処に……」

 

キョロキョロと辺りを見渡すレフィーヤ。泥棒か何かを追跡するようなオーラが出ているんだが……。

 

「ふーむ…………ん?」

 

俺は『遠眼鏡』を取り出し、市壁の上を見る。そこには2人分の人影。1人は雪のように白い髪、もう1人は金色の髪。つまり、ベルとアイズだった。ベルのほうは大分ボコボコにされており、それをアイズが支えていた。

 

「見つけたぞ」

「何処ですか!?あのヒューマンは何処にいましたか!?」

 

俺は『遠眼鏡』をレフィーヤに渡し、ベルとアイズのいた辺りを指差す。

 

「なっ……!?」

 

震える手で一旦『遠眼鏡』から目を離すと顔を横に振り、再び『遠眼鏡』でその光景を見る。

 

「あれは幻覚あれは幻覚あれは幻覚あれは幻覚──」

「ところがどっこい。現実だ」

「ーっ!?」

 

俺がそう告げると、レフィーヤの耳がだらりと下がり、光の消えた目から涙が溢れ出てきた。

 

「……とりあえず、涙を拭こうか?はい、ハンカチ」

「ありがとうございます……」

 

『遠眼鏡』と交換するようにハンカチを渡すと、彼女は涙を拭う。

 

「そういえば。何故ベルを追っていたんだ?」

「実は……」

 

少しして落ち着いたのか、ぽつりぽつりと話し始めた。

昨夜、次の遠征に向けた並行詠唱の訓練のために、今度こそアイズに剣術を教わろうと思ったが言えなかった。なら、偶然を装って頼んでみようと思っていたところ、彼女が何処かへ向かうのを目撃。彼女を探しているうちにベルと遭遇し、彼の挙動を怪しんで追跡。その途中で俺に会って今に至るそうだ。

 

「じゃあ、俺が教えようか?」

「えっ?」

 

俺の提案を耳にすると、顔をがばっと上げる。

 

「いいんですか!?」

「まあ、俺でよければ。いくら主神同士の仲が悪いといっても、個人的な交流をしていけない理由にはならないだろ?それに、俺もずっとダンジョンに籠もってモンスターを狩るだけっていうのに少し飽きてきたからね。気まぐれというか……ちょっとした暇つぶしだ。で、どうかな?」

「ぜひ!」

 

目をキラキラと輝かせ、俺の手を取って顔を近づける。本当に俺なんかでいいのか?……まあ、一度言った以上は責任を持たないとな。

 

「それじゃあ。今日の午後、早速ダンジョンで始めようか?そうそう、俺は9階層と10階層の間で大抵昼飯を取ってるから、そこに来てくれ」

「はい!」

 

それだけ言うと、俺とレフィーヤはそれぞれの本拠地(ホーム)へと帰った。

 

 

 

 

そして、約束の時刻……の少し前。

 

「(やった!グレイさんと訓練できる!)」

 

彼女がここまで喜ぶのには、理由があった。

4日前、24階層から帰還したあとで本拠地(ホーム)で【ステイタス】を更新したところ、新たな【スキル】が発現したと、主神(ロキ)から聞いた。しかも、その効果は自分が覚えている魔法【エルフ・リング】の上位互換だ。

 

「(この【スキル】があれば、グレイさんの使う魔法が私にも使えるようになる!更にグレイさん直伝の剣術と並行詠唱!つまり、今度の遠征でアイズさんのお役に立てる!)」

 

「よし!」と気合を入れ、ダンジョンへと足を踏み入れる。

全ては、憧れの人(アイズ・ヴァレンシュタイン)のお役に立つ為に。

 

 

 

 

ダンジョン9階層。

 

「お待たせしました」

「おう。じゃあ早速訓練……の前に、普段のパーティーでの役割を教えてくれないか?訓練の内容を決める参考にしたい」

「えっと……魔法による後方支援が主な役割です」

「そうか……なら、反撃は捨てたほうがいいな」

「え?でも、それじゃあ並行詠唱の意味が……」

「付け焼き刃の攻撃はかえって危険だ。なら、最初から回避に専念して詠唱に集中するべきだ。魔法の発動まで自分の身は自分で守る。それも立派な並行詠唱だろう?」

「……はい!」

「じゃあ始めようか。俺はとにかく攻撃するから、避けながら詠唱してくれ」

 

俺は右手に『不遜なる者のメイス』を、左手に『ブルーフレイム』を持って構える。

 

「それと、最後に1つ。死なない程度に全力で攻撃するから、覚悟しておくように」

「お……お手柔らかにお願いします」

 

こうして、俺とレフィーヤの訓練は始まった。


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