闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
ガサゴソ…………キィー、パタン
「む?……」
物音が聞こえたので目を覚ました俺は、体を起こして周囲を見渡す。
「……
涎を垂らしながら寝言を言うヘスティア様。
「……」
毛布が取り払われ、蛻の殻になっているソファー──ベルの寝床。
「(またダンジョンにでも行ったのか?)」
やれやれ、とため息をつきながら寝袋から抜け出し、装備を身に着けて部屋を出る。急いでいけば追いつくだろう。そう思って教会を出る。
「あの少年なら、ダンジョンに行ってないわよ」
バベルの近くに来たところで、俺は声をかけられた。声のした方向を見ると、シャラゴアが座っていた。
「何?じゃあ何処に行ったんだ?」
「あっちよ」
尻尾を北西の方に向けると、さっさと行けと言わんばかりに顎でしゃくる。
「わかった。それじゃあ」
俺がシャラゴアの指した北西の方に向かうと……
「あ、グレイさん」
「久しぶり……って言うほどでもないか、レフィーヤ・ウィリディス」
「レフィーヤでいいですよ」
「わかった。それでレフィーヤ、こんな時間にここで何を?」
俺はレフィーヤに遭遇した。こんな日も昇っていない時間だというのに、何をしているんだ?
「人を探しているんですけど……グレイさん、白い髪に赤い眼のヒューマンに会ってませんか?」
白い髪に赤い眼……ベルのことかな?
「奇遇だね。実はそのヒューマンは俺の所属している【ファミリア】のメンバーでね。目が覚めたら姿がなかったので、俺も探しているんだが」
「そうだったんですか。……あのヒューマン、一体何処に……」
キョロキョロと辺りを見渡すレフィーヤ。泥棒か何かを追跡するようなオーラが出ているんだが……。
「ふーむ…………ん?」
俺は『遠眼鏡』を取り出し、市壁の上を見る。そこには2人分の人影。1人は雪のように白い髪、もう1人は金色の髪。つまり、ベルとアイズだった。ベルのほうは大分ボコボコにされており、それをアイズが支えていた。
「見つけたぞ」
「何処ですか!?あのヒューマンは何処にいましたか!?」
俺は『遠眼鏡』をレフィーヤに渡し、ベルとアイズのいた辺りを指差す。
「なっ……!?」
震える手で一旦『遠眼鏡』から目を離すと顔を横に振り、再び『遠眼鏡』でその光景を見る。
「あれは幻覚あれは幻覚あれは幻覚あれは幻覚──」
「ところがどっこい。現実だ」
「ーっ!?」
俺がそう告げると、レフィーヤの耳がだらりと下がり、光の消えた目から涙が溢れ出てきた。
「……とりあえず、涙を拭こうか?はい、ハンカチ」
「ありがとうございます……」
『遠眼鏡』と交換するようにハンカチを渡すと、彼女は涙を拭う。
「そういえば。何故ベルを追っていたんだ?」
「実は……」
少しして落ち着いたのか、ぽつりぽつりと話し始めた。
昨夜、次の遠征に向けた並行詠唱の訓練のために、今度こそアイズに剣術を教わろうと思ったが言えなかった。なら、偶然を装って頼んでみようと思っていたところ、彼女が何処かへ向かうのを目撃。彼女を探しているうちにベルと遭遇し、彼の挙動を怪しんで追跡。その途中で俺に会って今に至るそうだ。
「じゃあ、俺が教えようか?」
「えっ?」
俺の提案を耳にすると、顔をがばっと上げる。
「いいんですか!?」
「まあ、俺でよければ。いくら主神同士の仲が悪いといっても、個人的な交流をしていけない理由にはならないだろ?それに、俺もずっとダンジョンに籠もってモンスターを狩るだけっていうのに少し飽きてきたからね。気まぐれというか……ちょっとした暇つぶしだ。で、どうかな?」
「ぜひ!」
目をキラキラと輝かせ、俺の手を取って顔を近づける。本当に俺なんかでいいのか?……まあ、一度言った以上は責任を持たないとな。
「それじゃあ。今日の午後、早速ダンジョンで始めようか?そうそう、俺は9階層と10階層の間で大抵昼飯を取ってるから、そこに来てくれ」
「はい!」
それだけ言うと、俺とレフィーヤはそれぞれの
そして、約束の時刻……の少し前。
「(やった!グレイさんと訓練できる!)」
彼女がここまで喜ぶのには、理由があった。
4日前、24階層から帰還したあとで
「(この【スキル】があれば、グレイさんの使う魔法が私にも使えるようになる!更にグレイさん直伝の剣術と並行詠唱!つまり、今度の遠征でアイズさんのお役に立てる!)」
「よし!」と気合を入れ、ダンジョンへと足を踏み入れる。
全ては、
ダンジョン9階層。
「お待たせしました」
「おう。じゃあ早速訓練……の前に、普段のパーティーでの役割を教えてくれないか?訓練の内容を決める参考にしたい」
「えっと……魔法による後方支援が主な役割です」
「そうか……なら、反撃は捨てたほうがいいな」
「え?でも、それじゃあ並行詠唱の意味が……」
「付け焼き刃の攻撃はかえって危険だ。なら、最初から回避に専念して詠唱に集中するべきだ。魔法の発動まで自分の身は自分で守る。それも立派な並行詠唱だろう?」
「……はい!」
「じゃあ始めようか。俺はとにかく攻撃するから、避けながら詠唱してくれ」
俺は右手に『不遜なる者のメイス』を、左手に『ブルーフレイム』を持って構える。
「それと、最後に1つ。死なない程度に全力で攻撃するから、覚悟しておくように」
「お……お手柔らかにお願いします」
こうして、俺とレフィーヤの訓練は始まった。