闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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ヘルメス主催の臨時の『神会』、始まります。


第47話

【イシュタル・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の抗争。当然ながら、両【ファミリア】の主神にはギルドから罰金と膨大な罰則が課せられた。

それから1週間が経って都市から衝撃が抜け始め、歓楽街の復旧に乗り出した頃。

 

「よぅし、皆集まってるかな?それじゃあ、臨時の『神会(デナトゥス)』を始めるぜ!司会は俺、皆大好きヘルメスだ!よろしくな☆」

『……』

 

都市中央にあるバベル30階。『神会(デナトゥス)』に使用される大広間にて、妙にテンションの高いヘルメスの声が響く。しかし、それとは対象的に参列している神々は無言であった。

 

「ヘルメス。なぜ急に『神会(デナトゥス)』を開いたんだ?それに団長も連れてこいだの、名札を置いてある席に座れだのと細かい指定までした?」

「まあまあ、落ち着いてくれよディオニュソス。ちゃんと説明するから一度にたくさん聞かないでくれ」

「……くだらない用で開いたのなら、帰らせてもらうからな」

 

いつも以上にニヤけた顔で左隣に座る男神ディオニュソスを手で制する。言われた本神(ほんにん)は訝しげに眉をひそめる。

ディオニュソスの言う通り、今回の『神会(デナトゥス)』は異例であった。通常は出席権を持つ【ファミリア】の主神のみが参加する『神会(デナトゥス)』であるが、通知には団長を連れて来いと書かれていた。そして、主神の座る席の後ろでは団長が座っている。

次に、席の配置。わざわざ席の上に名札が置かれ、その席に神々は座っていた。

 

「(アイエエエ……)」

 

【ヘスティア・ファミリア】団長であるベル・クラネルは緊張から震えていた。ヘスティアを挟む形で、イシュタルとフレイヤは席についていた。その結果、彼の隣には【フレイヤ・ファミリア】団長にして、オラリオ最強の冒険者。猛者(おうじゃ)ことオッタルが座っている。そして、反対側には1週間前の春姫奪還の時に自分を取り押さえた冒険者タンムズが座っている。ヘスティアの席がイシュタルとフレイヤに割って入るように配置された結果、彼は小動物のように震えていた。

 

「さて、俺としては『神会(デナトゥス)』を始めたいんだけど……イシュタル、君のところの団長【男殺し(アンドロクトノス)】フリュネ・ジャミールは?」

「ああ、あいつなら抗争(あれ)以来部屋から出てこないのでな。代わりに副団長のタンムズを連れてきた」

「了解。それじゃあ、本題に入ろう」

 

先程までのニヤけた顔から一転。ヘルメスは真剣な眼差しと声音で話を切り出した。

 

「親父殿が、オラリオ(ここ)にいた」

『っ!?』

 

瞬間、神々がざわめき始める。

 

「前もって言っておくけど、嘘じゃないぜ。アスフィがその姿を目撃しているし、直筆の似顔絵もある。皆、順番に目を通してくれ」

 

ヘルメスは懐から羊皮紙を取り出し、ディオニュソスに手渡す。ディオニュソスから時計回りに神々は目を通し、その度に目を見張る。

 

「さて、親父殿と言っても団長(こども)達はわからないだろうから、今のうちに簡単に説明しておこう」

 

その間、ヘルメスは参加している各【ファミリア】の団長に簡単な説明を行った。

曰く、自分達は彼という闇から生じたと。

曰く、彼は古代よりも遥か昔の時代。最古の物語(オールドテイル)に記される、『火の時代』が実在したことを証明する存在であると。

曰く、最初の神々が降りてくるよりも前に、隠居も兼ねて自分探しの旅に出ると置き手紙を残して下界に降りてきていたと。

 

「おっと、ちょうど皆目を通したみたいだね。ありがとう」

 

説明を行っていたヘルメスだが、右隣に座る女神ロキが羊皮紙を突き出したところで切り上げる。

 

「さて、その親父殿だが……実は呼んであるんだ」

『はあ!?』

「しかも!ここにいる誰かの【ファミリア】に所属している!」

『何いいいいいい!?』

 

全ての神々が自分以外の神に疑いの目をむける。そして、各【ファミリア】の団長は自分の【ファミリア】の団員の顔を思い浮かべ、その中にそれらしい人物がいないか探る。

そんな中、扉を三三七拍子で叩く音が響く。

 

「おおっと、噂をすれば何とやら!親父殿が来たぜ?」

『っ!?』

 

お互いに疑いの目を向けていた神々が、団員の顔を思い浮かべていた各【ファミリア】の団長が、一斉に扉に視線を移す。

 

「どうぞー」

「失礼する」

 

扉越しに声が聞こえ、次に扉が開く。

 

『……?』

 

扉を開けたのは、鎧を身に着けた2Mほどの背丈の男。その姿を、参加している者達は知っていた。

【アポロン・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)の時、エルフ達が嘗て研究していたという古の魔法で城砦を粉砕したグレイ・モナークというLv.1の冒険者。

彼をよく知る者達は、何故彼が?と頭に疑問符を浮かべていた。

だが、大広間に1歩足を踏み入れた瞬間、彼の体が炎に包まれた。

 

『っ!?』

 

炎に包まれながら主神のもとに歩み寄る彼の姿は、10歩ほど歩いたところで一変した。

兜は髑髏を思わせる形に変貌し、後頭部に異形の王冠が。

鋼の鎧は煤けて歪み。

海のように青かったマントは、炎のように赤く変色しボロボロに。

全身を包んでいた炎は右手に集まり、螺旋を描く刀身の剣となり、それを腰の鞘に納める。

参加者が驚愕に言葉を失い目を見張る中、ヘルメスは終始笑顔で彼の姿を見つめる。

 

「正体がバレたんだ。天界(うえ)にいた頃みたいに、兜で顔を隠す必要はないんじゃないか?」

「……それもそうだな」

 

扉越しに聞こえた声よりも更に低くなった声音で応じると、彼は兜を外した。

黒かった髪は燃え尽きた灰のように変色し、左目は火のように赤く、肌は褐色に焼けていた。

 

「彼の名はグレイ・モナーク。【ヘスティア・ファミリア】所属のLv.1の冒険者。しかしてその正体は!」

 

ヘルメスは両腕を広げ、芝居がかった声をあげる。

 

俺達(神々)の父にして、最古の物語(オールドテイル)に記されし、『薪の王』或いは『闇の王』その人だ!」

『ええええええええ!?』

 

神々と団長達の驚愕の声に、大広間全体の空気が文字通り震えた。

そして震えが治まると、今度は神ヘスティアとベル・クラネルに視線が集中する。

慌てふためき、混乱するベル・クラネルとは対象的に、ヘスティアは落ち着き払っていた。

 

「ステイ、ステーイ。各々言いたいことがあるだろうけど。まずは親父殿が【ヘスティア・ファミリア】加入に至った経緯から聞こうじゃないか。というわけで、ベル君」

「は、はひっ!?」

「そんな緊張しなくていいから、親父殿の【ファミリア】加入の経緯を話してくれ」

「え、えっと……僕から誘ったんです。【ファミリア】に入りませんかって」

 

自分に向けられる視線に緊張しながらも、何とか説明した。

ベルの説明にうんうんと頷いたヘルメスは、グレイに視線を移動する。

 

「ありがとう。じゃあ、次に親父殿。【ヘスティア・ファミリア】に入る前は、何処で何をしていたのか、話してくれ」

天界(うえ)から見ていたんじゃないのか?」

「見ていたら千年よりもっと前に降りてきたさ。それに、親父殿の人としての姿を知らないから、何処にいるかわからなかったんだ」

「わかった。まあ、地上(ここ)に降りてきてからはこの姿と力を封印して世界中を旅して回っていた。それからは日雇いの労働に従事する傍らで人助けをしていたんだが、そうだな……俺の足跡で明確に残っているものといえばエルフの伝承の『黒い鳥』。あれ、多分俺のことだ」

「それって、【九魔姫(ナイン・ヘル)】が親父殿のことを当代の『黒い鳥』と呼んでたことかな?」

「いや、当代というか何と言うか……『黒い鳥』自体が昔の俺のことだと思う」

 

その時、フィルヴィスに衝撃が走る。

『黒い鳥』=グレイ。グレイ=(神々)()。つまりは『黒い鳥』=(神々)()。その図式が【ディオニュソス・ファミリア】団長フィルヴィス・シャリアの脳内で構築され、一気に『黒い鳥』の神聖さが増大。しかし、グレイがダンジョンで全裸になって暴れたという事実が、肌の露出・接触を好まぬエルフの風習の後押しもあって、それに待ったをかけた。それらがフィルヴィスの脳内でせめぎ合いながら渦巻いて嵐となり、そして──

 

「うーん……」

「フィルヴィス!?」

 

──脳が処理落ちを起こした彼女は、白目を剥いて倒れた。

 

「気にせず続けて」

「いいのか?」

「いいからいいから♪」

「……後はモンスターが湧いてくる場所を探っていたらここ(オラリオ)にたどり着いた。道中はモンスターの侵攻を食い止めるための城砦を築くのに加わったり、蓋になるような建物、先代のバベルを建てるのに加わったな。ああ、最初に降りてきた神々(おまえたち)が塔を崩壊させたことだが、気にする必要はないぞ?形あるものはいつか壊れるものだからな」

 

拳骨(かみなり)が落ちることを覚悟した一部の神々が顔を青くして震えていたが、その一言に胸を撫で下ろす。

 

「その後は三大冒険者依頼(クエスト)の討伐対象──陸の王者(ベヒーモス)海の覇王(リヴァイアサン)、黒竜以上の怪物がいないかの調査と、ダンジョンに何があるのかを探るために潜っていたな。それで帰りに試しに壁に穴開けて寝ていたら千年経っていた、というわけだ」

『ゑ!?』

 

自分達の父がダンジョンの壁に穴開けて千年間寝ていたなどと、誰が予想できるだろうか。「その発想はなかった」とある神(ロキ)達は頭を抱え、「父さんらしい」とある神(ヘスティア)達は苦笑いを浮かべ、「さすが親父殿!」とある神(ヘルメス)達は笑い転げた。

 

「しかし、父さんがわざわざダンジョンに潜ることはなかったのでは?逆に、陸の王者(ベヒーモス)とかの討伐に向かうと思っていたのだが」

 

笑い転げているヘルメスに代わり、ディオニュソスが質問をする。

 

「できることならそうしたかったが……声がしたんだよ」

「声?」

「ああ。俺を呼ぶ声が、ダンジョンから聞こえた気がしてな。無視するわけにはいかなかった。それだけだ」

「なるほど……というか、以前会った時『はじめまして』と言ったことは嘘じゃないのか?」

「いやいや、嘘は言っていないぞ。あの姿で会う(・・・・・・)のは、はじめてだっただろう?」

 

これは一本取られた、とディオニュソスが額に手を当てたところで、ヘルメスが復活した。

 

「……それじゃあ、親父殿は今後どうするんだい?」

「今まで通り、ダンジョンに潜って稼ぐ。何も変わらないさ」

「……わかった。親父殿に関して細かいことはおいおい決めるとして、他に何か質問のある(ひと)はいるかな?」

 

ヘルメスが見渡しながら言うと、ロキが挙手した。

 

「どうぞ」

「そもそも、なんでドチビがおとんに恩恵(ファルナ)を刻めたんや?」

 

言われてみれば、と周囲の神々が賛同の声をあげる。

 

「仮説だが、俺ははじまりの火にこの身を焚べた『薪の王』だ。そして、ヘスティアは火に連なる事象──炉の女神だ。だから、俺に恩恵(ファルナ)を刻めたんだろう」

「つまり、うち(ロキ)やファイたん、ゴヴニュも同じことができるかもしれんっちゅーことか?」

「だろうな」

「ふうん……ちょっと試してみてもええ?」

「駄目だ。どさくさに紛れて改宗(コンバーション)しようとか考えているんだろう?」

「ソンナコトナイデー。オトンノ仮説ヲ立証シヨウト思ッテルダケヤデー」

 

なるほど、父親の仮説を証明するために自ら名乗りを上げるとは、良い娘だ。明後日の方向を見て棒読み気味に言っていなければ、の話だが。

ヘスティアは勝ち誇った顔で胸を張り、それを見たロキが嫉妬から歯軋りをする。

 

「はいはい。気持ちはわかるけど、ロキもヘスティアも落ち着いて。他に質問のある(ひと)はいるかな?……いないようだね。それじゃあ臨時の『神会(デナトゥス)』、これにて終了。お疲れさまー」

 

 

 

 

神会(デナトゥス)』を終え、それぞれの本拠地(ホーム)に向かう神々と団長達。

 

「随分悔しそうだね。ロキ」

「当然や!今までおとんに()うておきながら気づけなかった事実が腹立たしい上に、ドチビが勝ち誇ったような顔してわざとらしく胸を張ったんやで!?ドチビのくせに!ドチビのくせにいいいい!!」

 

拳を振り上げて怒りをぶちまけるロキに、やれやれと首をすくめるフィン・ディムナ。

 

「(あれが神々の父である『闇の王』あるいは『薪の王』。フレイヤ様は彼の裸体を想像して……違う!あれはショックのあまり溢してしまった葡萄酒(ワイン)だ!)」

「オッタル?私の顔に何かついてるかしら?」

「いえ。何も」

 

以前見た光景を思い出すが、速攻で忘却の彼方に放り投げるオッタルと、そんな彼に怪訝な目を送るフレイヤ。

 

「大丈夫かい?フィルヴィス」

「……申し訳ありません、ディオニュソス様。もう暫く肩をお貸しください」

「わかった」

 

足元の覚束ないフィルヴィス・シャリアと、彼女を支えながら歩くディオニュソス。

 

「はー……」

「どうした、主神様。主神様といえど、父親は恋しいものか?」

「いいえ。ヘスティアの駄女神ぶりがより酷いことになって落ち込んでいるだけよ」

 

ヘファイストスを試しにからかってみる椿・コルブランドと、肩を落としてため息をつき神友(しんゆう)をやめようか検討するヘファイストス。

 

「どうだい?アスフィ。俺達の親父殿を見た感想は?凄かっただろう?」

「ちょっと黙っていてください。まだ頭が追いついていませんので」

 

自分達の父親を見た感想を訊ねるヘルメスと、眉間に指を当てて険しい表情のアスフィ・アル・アンドロメダ。

 

「いやはや。グレイが親父殿で、ヘスティアの【ファミリア】にいたとは思わなんだ」

「そうですね(最悪の場合を想定して夜逃げの準備しておこうかな)」

「ナァーザよ、夜逃げの準備をする必要はないと思うぞ?」

 

眷属にそれとなく釘を刺すミアハと、咄嗟に顔を反らすナァーザ・エリスイス。

 

「……桜花。本拠地(ホーム)に戻ったら、全力で千草達を止めるぞ」

「わかっています」

 

以前の怪物進呈(パスパレード)の件で仲間が早まった行いをすることを危惧するタケミカヅチとカシマ・桜花。

 

「父さんのことが公になってしまったのは残念だけれど……ま、遅かれ早かれこうなっただろうから仕方ないか」

「そうだな」

「あ、あの、神様?僕達これからどうなるんですか?」

「どうもこうも、何も変わらないだろうさ」

 

普段通り会話を交わすヘスティアとグレイ・モナーク、今後の自分達の置かれる立場を心配するベル・クラネル。




グレイ「I'm your father」
神々「Noooo!」

ぶっちゃけ、これがやりたかっただけ

グレイの外見の変化ですが、衛宮士郎からエミヤになるような感じです。

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