闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
仕事を覚えたり魔神柱を伐採したり、パソコンを修理に出したり誰に何を喋らせるか悩んでいたらいつのまにか元号が変わり、遅れてしまいました。
『火の時代』
古代よりも更に古い時代。『
今から1000年ほど前、最初の神々が降臨するよりも以前に信仰されていた神々の原型が存在したとされている時代。
しかし、作中では一貫して『
「それが、グレイ様。ということですか?ヘスティア様」
「うん」
【ヘスティア・ファミリア】
リリルカ・アーデの問いにヘスティアは頷いた。すると、視線がある1点に集まる。
「落ち着いてくれ、命」
「し、しかしグレイ殿!自分は以前、あなた方のパーティーに
「そこまでしなくていい。というか、されると俺が困る」
「で、ですが……」
「命君。話が進まないから、座っておくれ」
視点の先では自室に駆け込もうとする命と、彼女の襟首を掴んで押さえるグレイがいた。
ヘスティアの説得も受け、何とか落ち着いた命は大人しく席につく。
『闇の王』としてのグレイの姿を見た時、リリルカ達は相手がグレイであると理解することに少々時間がかかった。外見も変化し、神々の父にして伝説の『
「つまり、
「そうだ」
「じゃあ、旦那はどの辺りまで関わってたんだ?」
「そのことなんだが、またの機会でいいか?話すと長くなるからな」
「ああ」
自分の問いに答え、適当なところで切り上げたグレイにヴェルフがありがとうと手を振る。
「そういえば、さっきからベルはどうしたんだ?俺のことをチラチラ見てきて」
グレイに声をかけられ、ベルが思わずビクリと跳ねる。
「いえ、その……伝説の英雄がこんなに身近にいたなんて思ってもいなかったから……」
【
「英雄か……死に場所を失った
遠い目で語る彼の言葉から漂う悲哀と重さから、一同は思わず口を閉ざした。
「なるほどのう。あの男の凄まじい強さは、そういう理由があったのか」
【ロキ・ファミリア】
「せや。リヴェリア、レフィーヤ、自分らエルフの伝承の『黒い鳥』。あれ、
「彼が当代の『黒い鳥』であることは知っているが……」
「それがどうかしたんですか?」
「ちゃうちゃう。そうや
「「……」」
違う違う、とロキが首を横に振って答えると、沈黙するリヴェリアとレフィーヤの耳から煙があがる。特に、『黒い鳥』の目撃者の末裔にして、遠征の前にこっそり彼と並行詠唱の訓練を行っていたレフィーヤは吹き出る煙の量が段違いであった。
そして、爆発して真っ白に燃え尽きた2人はガクンと首を折り、口から白煙を吐き出す。
暫し放置して、リヴェリアとレフィーヤが復活したところで、ラウルが口を開いた。
「でも、凄いっすね、ロキのお父さん。巨人だの飛竜だの倒して『薪の王』になってみせたんすから。自分だったら、どっかで心が折れて朽ち果てるのを待つしかないっす」
【
「ラウルの言うように、どっかで心が折れるやろな。それでも偉業を成し遂げたっちゅーことは、
「その心を、何処かで喪ったか。どちらにせよ、
【タケミカヅチ・ファミリア】
「ですがタケミカヅチ様。普段の彼の振る舞いは俺達と同じ、1人の人間のようでした。そんな彼が心を喪っているとは思えません」
「おそらく、下界に降りてからの旅で幾らか取り戻したんだろう。全知全能と謳われる
そもそも人外の存在である自分たちには不可能なことだと、桜花の問いにタケミカヅチは答えた。
「では、天界にいた頃の彼は、どのような感じだったのですか?」
「そうだな。良く言っておおらかで寛容、悪く言って大雑把でいい加減な性格だった。しかし、言動の節々から空虚さを感じる人物でもあった。その最たるものとして、普段は感情の起伏がほぼ皆無だったな」
そして、とタケミカヅチは続ける。
「そんな親父殿が
「自らの内にある破滅願望を叶えるため、かもしれないね」
【ヘルメス・ファミリア】
「しかしヘルメス様。彼を殺すことのできる存在など、現代にはおりません。残念ですが、彼の願望が叶わないでしょう」
「アスフィの言う通り、
帽子の鍔を人差し指で押し上げ、不敵にヘルメスは笑う。
「『同じ人間として接する』それだけでいいのさ」
「……どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。一人の人間として見て、接している間だけ、
体は人外のものであっても、心だけは人間でありたい。喪ってしまった『
「それに、化け物を倒すのは何時だって
「では、
「これまで通り、1人の人間として接するつもりさ。あぁ、でも、たまには家族サービスをしてもらわないとね。最低でも、ダンジョンの壁に埋まって1000年も寝ていた分は」
どんな
【ヘスティア・ファミリア】
「来客かな?」
ヘスティアが話を終えたところを見計らったように、正門の鉄輪を鳴らす音が響いた。
ヘスティアとベルが席を立ち、扉を開けて外に出ると、そこには──
「げぇっ、フレイヤ!?」
【フレイヤ・ファミリア】の主神フレイヤ、団長のオッタル、団員のネロ。そして、先の抗争の
「何をしに来た!言っておくけど、グレイ君は渡さないぞ!それでも渡せと言うなら──」
「違うわよ。貴女の【ファミリア】に移籍したいっていう
震えるベルを庇うように立って拳を構え、ツインテールを荒ぶらせ威嚇するヘスティアに対し、フレイヤは違う違うと手を振る。
あの
「……ボクの部屋で
「ええ。行きましょう、ネロ」
ヘスティアに案内され、女神フレイヤとネロは彼女の自室に向かう。
秘匿情報の漏洩を防ぐための措置がなされた薄暗い部屋の中、『
まず、フレイヤが【ステイタス】の刻まれたネロの背中に自らの
更に、彼女の指が特定の動きを描いた瞬間、刻印全体から淡い光が立ち上り、【ステイタス】が明滅を始めた。
すかさず自分の
『
前【ファミリア】から退団し別派閥へと移籍する、再契約の儀式。
碑文を彷彿とさせる文字の羅列は、発光とともに【ヘスティア・ファミリア】を表す刻印へと成り変わる。
今この瞬間から、ネロはヘスティアの眷属となった。
「ついでに【ステイタス】の更新もしていいかな?」
「どうぞ」
ヘスティアは羊皮紙をネロの背中に置き、
「はい、終わったよ。これからよろしくね、ネロ君」
「よろしくお願いします。神ヘスティア」
儀式の終了とともに服を身に着けたネロと、ヘスティアは握手を交わす。
「ボクはフレイヤと少し話があるから、ネロ君は他の団員達に挨拶しておいて」
「はい」
ネロが退室すると、ヘスティアがフレイヤの方を向く。
「これはどういうことだい?」
フレイヤに突きつけられている【ステイタス】の書かれた羊皮紙。そこの《スキル》の欄に、ヘスティアが指をさす。
【
・祖ユリアの記憶を受け継ぐ
「ロンドール……『火の時代』に存在した亡者の国。その国には黒教会と呼ばれる組織と、それを率いる3人の指導者がいた」
3人の名はフリーデ、ユリア、リリアーネ。
彼女達は姉妹であり、火を奪い、闇の王によって神の時代を人の時代に変えることを目的に動いていた。
「フリーデは灰となってロンドールを棄て、ユリアとリリアーネの2人が残った」
「2人は闇の王となる人間──グレイ君を見つけ、暗躍した」
「そしてグレイは闇の王になり。人の時代──今の世界を創り出した」
「今の世界が創り出された後の世、2人のうちの片割れ、ユリアは──」
『
アストラのアンリ。
カリムのイリーナ。
最後の火防女ノワール。
そして、ロンドールのユリア。
彼女達は、
「教えてくれ、フレイヤ。彼女の目的は何なんだ?」
「
「……わかった。あの子の主神だった、君の言葉を信じよう」
当初はレフィーヤとリヴェリアにエネル顔をしてもらおうと思ったのですが、何か違うものを感じたので、泣く泣くボツにしました。
次回の更新ですが、ハイDのほうもそろそろ進めないといけないのと、今後のグレイの行動や立ち位置をどうするか現在進行系で悩んでいるのでかなり遅れると思います