闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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お待たせしました。そして、お気に入りが2000件突破しました、ありがとうございます。
仕事を覚えたり魔神柱を伐採したり、パソコンを修理に出したり誰に何を喋らせるか悩んでいたらいつのまにか元号が変わり、遅れてしまいました。


第48話

『火の時代』

古代よりも更に古い時代。『最古の物語(オールドテイル)』でそう呼称されている時代。

今から1000年ほど前、最初の神々が降臨するよりも以前に信仰されていた神々の原型が存在したとされている時代。

しかし、作中では一貫して『()』と呼ばれた名もなき男──人ならざる身を以て、人の身に余る偉業を成し遂げた英雄がいた。

 

「それが、グレイ様。ということですか?ヘスティア様」

「うん」

 

【ヘスティア・ファミリア】本拠地(ホーム)『竈火の館』の居室(リビング)

リリルカ・アーデの問いにヘスティアは頷いた。すると、視線がある1点に集まる。

 

「落ち着いてくれ、命」

「し、しかしグレイ殿!自分は以前、あなた方のパーティーに怪物進呈(パスパレード)をしたのですよ!?ここは自分が代表して腹掻っ捌いて自害を……」

「そこまでしなくていい。というか、されると俺が困る」

「で、ですが……」

「命君。話が進まないから、座っておくれ」

 

視点の先では自室に駆け込もうとする命と、彼女の襟首を掴んで押さえるグレイがいた。

ヘスティアの説得も受け、何とか落ち着いた命は大人しく席につく。

『闇の王』としてのグレイの姿を見た時、リリルカ達は相手がグレイであると理解することに少々時間がかかった。外見も変化し、神々の父にして伝説の『()の王』であるという事実に面食らったが、元々グレイが常識外れな戦闘力を発揮していたことから全員が受け入れた。ただし、移籍して間もないために理解できず、今もおろおろしている春姫を除いて。

 

「つまり、最古の物語(オールドテイル)に載っている話は全部事実だったってことか?」

「そうだ」

「じゃあ、旦那はどの辺りまで関わってたんだ?」

「そのことなんだが、またの機会でいいか?話すと長くなるからな」

「ああ」

 

自分の問いに答え、適当なところで切り上げたグレイにヴェルフがありがとうと手を振る。

 

「そういえば、さっきからベルはどうしたんだ?俺のことをチラチラ見てきて」

 

グレイに声をかけられ、ベルが思わずビクリと跳ねる。

 

「いえ、その……伝説の英雄がこんなに身近にいたなんて思ってもいなかったから……」

 

英雄願望(アルゴノゥト)】というスキルが発現するほどに、誰よりも英雄に憧れているベルの視線には、熱が籠もっていた。

 

「英雄か……死に場所を失った亡霊(怪物)の俺に、その称号は似合わないな」

 

遠い目で語る彼の言葉から漂う悲哀と重さから、一同は思わず口を閉ざした。

 

 

 

 

「なるほどのう。あの男の凄まじい強さは、そういう理由があったのか」

 

【ロキ・ファミリア】本拠地(ホーム)『黄昏の館』の応接間。

主神(ロキ)の語った事実と、それを目の当たりにしたフィンの言葉に納得したようにガレスは顎に手を当てる。

 

「せや。リヴェリア、レフィーヤ、自分らエルフの伝承の『黒い鳥』。あれ、おとん(グレイ)のことやったわ」

「彼が当代の『黒い鳥』であることは知っているが……」

「それがどうかしたんですか?」

「ちゃうちゃう。そうや()うて、おとんが『黒い鳥』本人や。レフィーヤの何代も前のおバアが会った、ヒューマンの魔法使いその人や」

「「……」」

 

違う違う、とロキが首を横に振って答えると、沈黙するリヴェリアとレフィーヤの耳から煙があがる。特に、『黒い鳥』の目撃者の末裔にして、遠征の前にこっそり彼と並行詠唱の訓練を行っていたレフィーヤは吹き出る煙の量が段違いであった。

そして、爆発して真っ白に燃え尽きた2人はガクンと首を折り、口から白煙を吐き出す。

暫し放置して、リヴェリアとレフィーヤが復活したところで、ラウルが口を開いた。

 

「でも、凄いっすね、ロキのお父さん。巨人だの飛竜だの倒して『薪の王』になってみせたんすから。自分だったら、どっかで心が折れて朽ち果てるのを待つしかないっす」

 

超凡夫(ハイ・ノービス)】という二つ名を体現するかのように、自己評価の低い凡人である彼の言葉。そこには、偉業を成し遂げたグレイの実力と精神力に対する羨望と恐怖の念。無力な己に対する自嘲が籠もっていた。

 

「ラウルの言うように、どっかで心が折れるやろな。それでも偉業を成し遂げたっちゅーことは、グレイ(おとん)が決して折れない強靭な心を持っていたか或いは──」

 

 

 

 

「その心を、何処かで喪ったか。どちらにせよ、親父殿(グレイ)が常軌を逸していることに変わりはない」

 

【タケミカヅチ・ファミリア】本拠地(ホーム)。予想通り自害に及ぼうとした眷属達から短刀等を取り上げて桜花に預け、全身全霊の土下座で押し留めたタケミカヅチは悲しげな表情(かお)で、グレイについて語っていた。

 

「ですがタケミカヅチ様。普段の彼の振る舞いは俺達と同じ、1人の人間のようでした。そんな彼が心を喪っているとは思えません」

「おそらく、下界に降りてからの旅で幾らか取り戻したんだろう。全知全能と謳われる神々(おれたち)が、たった1人の人間の心を救えないとは滑稽だ」

 

そもそも人外の存在である自分たちには不可能なことだと、桜花の問いにタケミカヅチは答えた。

 

「では、天界にいた頃の彼は、どのような感じだったのですか?」

「そうだな。良く言っておおらかで寛容、悪く言って大雑把でいい加減な性格だった。しかし、言動の節々から空虚さを感じる人物でもあった。その最たるものとして、普段は感情の起伏がほぼ皆無だったな」

 

そして、とタケミカヅチは続ける。

 

「そんな親父殿が下界(ここ)に降りてきたのは、神々(おれたち)に任せて大丈夫だと判断したのか、或いは──」

 

 

 

 

「自らの内にある破滅願望を叶えるため、かもしれないね」

 

【ヘルメス・ファミリア】本拠地(ホーム)『旅人の宿』。机の上に積まれた『最古の物語(オールドテイル)』の背表紙を撫でながら、ヘルメスは語る。

 

「しかしヘルメス様。彼を殺すことのできる存在など、現代にはおりません。残念ですが、彼の願望が叶わないでしょう」

「アスフィの言う通り、親父殿(グレイ)に勝てる存在なんていないね。猛者(おうじゃ)を始めとした高レベル冒険者がパーティーを組んで挑んでも、勝てないだろう。けど、それ以外でも殺す手段はあるんだぜ?」

 

帽子の鍔を人差し指で押し上げ、不敵にヘルメスは笑う。

 

「『同じ人間として接する』それだけでいいのさ」

「……どういうことですか?」

「言葉の通りだよ。一人の人間として見て、接している間だけ、親父殿(グレイ)は人間でいられる。怪物ではなくなるのさ」

 

体は人外のものであっても、心だけは人間でありたい。喪ってしまった『人生(時間)』を楽しみ(取り戻し)たい。ともすれば、これからもダンジョンに潜るのは死地を求めての行動であると。ヘルメスは、彼の望み(願い)を眷属達に語った。

 

「それに、化け物を倒すのは何時だって人間(こどもたち)だ。人間(こどもたち)でなければいけないんだ」

「では、神々(あなたがた)は彼とどのように接するおつもりなのですか?」

「これまで通り、1人の人間として接するつもりさ。あぁ、でも、たまには家族サービスをしてもらわないとね。最低でも、ダンジョンの壁に埋まって1000年も寝ていた分は」

 

どんな我儘(ようきゅう)をしてやろうか。そう考えるヘルメスの顔は何時もの胡散臭いヘラヘラした笑顔ではない、心底楽しそうな表情(かお)をしていた。

 

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】本拠地(ホーム)

 

「来客かな?」

 

ヘスティアが話を終えたところを見計らったように、正門の鉄輪を鳴らす音が響いた。

ヘスティアとベルが席を立ち、扉を開けて外に出ると、そこには──

 

「げぇっ、フレイヤ!?」

 

【フレイヤ・ファミリア】の主神フレイヤ、団長のオッタル、団員のネロ。そして、先の抗争の罰則(ペナルティ)として監視役をしているギルドの職員が正門前に立っていた。

 

「何をしに来た!言っておくけど、グレイ君は渡さないぞ!それでも渡せと言うなら──」

「違うわよ。貴女の【ファミリア】に移籍したいっていう眷属()がいるから、連れてきたの」

 

震えるベルを庇うように立って拳を構え、ツインテールを荒ぶらせ威嚇するヘスティアに対し、フレイヤは違う違うと手を振る。

あの女神(おんな)は何を言っているんだ?とヘスティアは訝しむが、少なくとも嘘を行っているようには見えなかった。なにより、ギルドの監視役がついている彼女に下手な動きができるはずがない。

 

「……ボクの部屋で改宗(コンバーション)をする。フレイヤと、移籍したいっていう眷属()だけついてきてくれ。君たちはそこで待つんだ」

「ええ。行きましょう、ネロ」

 

ヘスティアに案内され、女神フレイヤとネロは彼女の自室に向かう。

秘匿情報の漏洩を防ぐための措置がなされた薄暗い部屋の中、『改宗(コンバーション)』の儀式は行われた。

まず、フレイヤが【ステイタス】の刻まれたネロの背中に自らの神血(イコル)を滴り落とす。

更に、彼女の指が特定の動きを描いた瞬間、刻印全体から淡い光が立ち上り、【ステイタス】が明滅を始めた。

すかさず自分の神血(イコル)を垂らすヘスティア。血の落下点を中心に大きな波紋が広がっていき、見る見るうちに文字群の色と形が薄らいでいく。仕上げとばかりにヘスティアが主神(おのれ)の名を表す象徴(シンボル)契約相手(ネロ)の真名を描き、刻んだ。

改宗(コンバーション)』。

前【ファミリア】から退団し別派閥へと移籍する、再契約の儀式。

碑文を彷彿とさせる文字の羅列は、発光とともに【ヘスティア・ファミリア】を表す刻印へと成り変わる。

今この瞬間から、ネロはヘスティアの眷属となった。

 

「ついでに【ステイタス】の更新もしていいかな?」

「どうぞ」

 

ヘスティアは羊皮紙をネロの背中に置き、共通語(コイネー)で書き写していく。

 

「はい、終わったよ。これからよろしくね、ネロ君」

「よろしくお願いします。神ヘスティア」

 

儀式の終了とともに服を身に着けたネロと、ヘスティアは握手を交わす。

 

「ボクはフレイヤと少し話があるから、ネロ君は他の団員達に挨拶しておいて」

「はい」

 

ネロが退室すると、ヘスティアがフレイヤの方を向く。

 

「これはどういうことだい?」

 

フレイヤに突きつけられている【ステイタス】の書かれた羊皮紙。そこの《スキル》の欄に、ヘスティアが指をさす。

 

闇の血統(ロンドールブラッド)

・祖ユリアの記憶を受け継ぐ

 

「ロンドール……『火の時代』に存在した亡者の国。その国には黒教会と呼ばれる組織と、それを率いる3人の指導者がいた」

 

3人の名はフリーデ、ユリア、リリアーネ。

彼女達は姉妹であり、火を奪い、闇の王によって神の時代を人の時代に変えることを目的に動いていた。

 

「フリーデは灰となってロンドールを棄て、ユリアとリリアーネの2人が残った」

「2人は闇の王となる人間──グレイ君を見つけ、暗躍した」

「そしてグレイは闇の王になり。人の時代──今の世界を創り出した」

「今の世界が創り出された後の世、2人のうちの片割れ、ユリアは──」

 

最古の物語(オールドテイル)』の著者は4人。

アストラのアンリ。

カリムのイリーナ。

最後の火防女ノワール。

そして、ロンドールのユリア。

彼女達は、(グレイ)を始めとした王達の生きた証を物語という形で、この世界に遺した。

 

「教えてくれ、フレイヤ。彼女の目的は何なんだ?」

父さん(グレイ)に臣下として生涯仕える。それだけだと、あの子は言っていたわ」

「……わかった。あの子の主神だった、君の言葉を信じよう」




当初はレフィーヤとリヴェリアにエネル顔をしてもらおうと思ったのですが、何か違うものを感じたので、泣く泣くボツにしました。
次回の更新ですが、ハイDのほうもそろそろ進めないといけないのと、今後のグレイの行動や立ち位置をどうするか現在進行系で悩んでいるのでかなり遅れると思います

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