闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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お待たせしました(作者だった肉塊)
生贄の道で古老と間違い探しをしたり、聖堂で主教たちとキャッキャウフフしていたら遅れてしまいました。


第50話

ラキア王国との戦争が始まり、1週間が経過した。

冒険者依頼(クエスト)の期限を迎えた俺は、オラリオに戻ってきていた。

 

「さて、まずは何処に向かおうか……」

 

時刻は昼時。本拠地(ホーム)には誰もいないだろう。何時も通りヘスティアはバイトで、ベル達はダンジョンに潜っているだろう。

ギルドには……用がないわけではないな。今のうちにアイツ(・・・)の顔を見ておいたほうがいいか。

そう思って到着したギルド本部窓口。この時間はダンジョンに潜っているからか、普段来る時間に比べたら冒険者の数は少なかった。だが、正直これはありがたかった。あれ以来ギルドに来ると人の視線が全身に突き刺さるからな。

 

「あ、グレイさん!」

 

声のしたほうに顔を向ければ、エイナさんがこちらに駆け寄ってくるところだった。

 

「お待ちしてました。実は今日、グレイさんがギルドに顔を出したら、自分を呼ぶように上層部(うえ)に言われていたんです。これから何か予定はありますか?」

「特にないが……いいのか?中立を謳うギルドの上層部と、一介の冒険者が面談してしまって」

 

俺の意見に同意するように、エイナさんは肩を落とす。

 

「私もそう思って言ったんです。けど、『いいから呼べ』の一点張りでして……」

 

このタイミングは……狙ったな?

 

「……しょうがない。呼んできてくれ」

「わかりました。少々お待ちください」

 

そう言ってエイナさんが本部のほうに引っ込み、待つこと数分。

 

「これはこれは!お待ちしておりました!」

 

ドタドタという足音を響かせながら、その人物は姿を現した。

尖った耳をしていることからエルフなのだろう。しかし、これをエルフと言っていいのだろうか。

上等なスーツに包まれた体は肉付きが良いを通り越して肥え太り。腕と足は短く。顎は弛んでいる。ハーフとはいえ、後ろからついてきたエイナさんと同じエルフと理解するのに時間がかかった。

 

「まずは自己紹介を。私、ギルド長のロイマン・マルディールと申します。以後お見知りおきを」

「……【ヘスティア・ファミリア】のグレイ・モナークだ」

 

礼儀正しく頭を下げ、手を差し出されたので、取り敢えず応じることにした。

 

「ありがとうございます。では、こちらへ……ウラノス様がお呼びです」

「わかった」

 

周囲に聞こえないように小声で用件を聞き、彼──ロイマンの後ろをついて行った。

 

「ウラノス様。【ヘスティア・ファミリア】のグレイ・モナーク様が、いらっしゃいました」

 

案内されたそこは、地下に存在する石造りの大広間だった。天井は高く、壁の石材からは積み重ねられた年月を感じた。そして、広間の中心の玉座に『彼』──ウラノスは座っていた。

 

「では、私はこれにて」

 

ウラノスに頭を下げ、次にこちらに頭を下げ、ロイマンは広間を去っていった。

彼が去るのと入れ替わりに、俺はウラノスの方に顔を向ける。

 

「久しぶりだな。ウラノス」

「ええ」

 

2Mを超える逞しい体にローブを纏い、迫力も存在感も、発散される神威も地上にいる他の神々とは大きく異なっていた。

フードから長い白髭と白髪を覗かせる男神は立ち上がり──

 

「申し訳ございません!」

 

それはそれは見事な土下座を披露した。

 

「急にどうした!?」

「ここで日々『祈祷』を行っておきながら、父上の存在に気づかぬとは!このウラノス、一生の不覚!更には父上が建造に携わった先代バベルを粉砕するなど……っ!誠に申し訳ございません!」

「それはいいから落ち着け。今まさに『祈祷』の真っ最中じゃないのか?」

「……」

 

俺の指摘を受け、ウラノスはゆっくりと立ち上がる。ローブの乱れがないかを確認すると、再び玉座に座り、一呼吸置いて口を開いた。

 

「失礼、少々取り乱してしまいました。では、改めて。お久しぶりです、父上」

「ああ。こうして面と向かって話すのも2000年ぶりだな」

 

先ほどのように毅然に振舞っているが、超のつく真面目ぶりは相変わらずのようで安心した。

 

「はい。父上が下界に降りられてからは一時期大変でした。やさぐれたロキは殺し合いを繰り広げるように他の神々を唆し、ディオニュソスは朝から晩まで自棄酒を呷るなど……本当に大変でした」

「あー……それはすまなかった」

「いえいえ。我々ももう子供ではございませんので、親離れをする良い機会でもありました。その点には、感謝しています」

 

俺の謝罪を、ウラノスは笑顔で許してくれた。

 

「しかし、『薪の王』たる父上が『炉』の女神ヘスティアの眷属になる。これも、運命なのでしょう。そしてこれは、都市(オラリオ)にとっても良い選択でもありました」

「そうか?」

「そうです。【ゴブニュ・ファミリア】、【ヘファイストス・ファミリア】ならば、まだ平和的に争いを収める方法があったでしょう。ですが、万が一にも【ロキ・ファミリア】に所属しようものなら……」

 

ぶるり、とウラノスが震えた。

確かに、ロキのところにいったら都市(オラリオ)どころか都市外と戦争になっただろう。カーリーとか。

 

「……気を紛らわせるついでに、俺が下界に降りてからの話でもしようか?」

「是非」

 

 

 

 

「──ということがあった」

「そっか、ウラノスも苦労したんだねー」

 

あの後、俺が下界に降りてからダンジョンの壁に穴をあけて寝るまでの話をした。普段はあの地下室にいて外出できないこともあったのか、とても楽しそうに耳を傾けていた。そして、俺が下界に降りてからの天界の様子と、最初の神々が降臨してから今日に至るまでの話をウラノスから聞いた。……ほぼウラノスの苦労話だったが。

そして現在、本拠地(ホーム)で【ステイタス】の更新をヘスティアの部屋で行っていた。

 

「取り敢えず、明日はゆっくり休んでね。あと、明後日からダンジョンに潜るだろうけど、その時は『残り火』を解除すること。万が一異常事態が起きて、お金を取られるのは嫌だからね」

「わかった」

「……はい。【ステイタス】の更新終わったよ」

 

俺はヘスティアから羊皮紙を受け取り、目を通す。

 

グレイ・モナーク

Lv.ヤベーイ

力:ムキムキ

耐久:カッチカチ

器用:すごーい

敏捷:ハエーイ

魔力:たくさん

《魔法》

【魔術】【奇跡】【呪術】

《スキル》

呪いの証(ダークリング)】【ソウルの秘術】【残り火】

 

「なんだ、このふざけた表記は」

「いや、更新していたら文字化けが酷くてね?数値化しようにもできないから、やむを得ずこうしたんだ。多分、『残り火』の発動中はそれだけ数値も跳ね上がっているってことかもね」

「……今度から【ステイタス】の更新をする時は『残り火』を解除した状態でやろう」

「今度からって、解除してもう1回しないの?」

「どうせ上がっていても微々たるものだろう。それよりも降りてくれないか?早く寝たいんだが」

「やだ」

 

ベッドでうつ伏せになっている俺の背に跨るヘスティアは、俺の背中をぺたぺた触る。

 

「頼むから降りてくれ。そろそろ部屋に戻らないと、シャラゴアとアルヴィナに寝床を盗られているかもしれない」

「……父さん、あの猫なるもの達と面識があったの?」

「火の時代の頃からの知り合いだ」

「うわぁ……最早長寿の域を通り越しているね。エルフもびっくりだよ」

「まったくだ。そういうわけで早く──」

「もう少し堪能させて。それとも、ボクの胸の感触でムラムラしちゃった?」

「それはない」

 

俺の背中に体を密着させてこすりつけるヘスティアに答えると、頬を抓られた。

 

「グレイ君の女性遍歴が酷いのは知っているけどさ、即否定するのは失礼だと思うよ。……もしかして、尻派?それとも太股派?まさかの手首派?」

「どれでもない」

 

俺はヘスティアの質問を無視して起き上がり、ヘスティアを背中から引き剥がして上着に袖を通す。最初からこうすれば良かった。

 

「女性遍歴といえばグレイ君。【フレイヤ・ファミリア】から移籍してきたネロ君のことなんだけど……」

「あいつが何かしたのか?」

 

真面目な話になることを期待して、俺はヘスティアと向かいあう。

 

「いや、今のところ何も問題ないよ。地上でも、ダンジョンでもね。ただ……」

「ただ?」

 

自分の身を守るように体を縮こませながら、ヘスティアは言った。

 

「時々、ボクとサポーター君にねっとりと絡みつくような視線を向けてくるんだよ」

 

ネロの視線から身の危険を感じたのか、ヘスティアがぶるりと震えた。

 

「大丈夫だ、ヘスティア」

 

俺は安心させるために肩に手を置き、フレイヤからの伝言を伝える。

 

「あいつはヘスティアやリリのように小さくて可愛いものに目がないらしい。今頃、2人に似合う服でも仕立てているんじゃないかな」

「ごめん。安心できる要素が微塵もないんだけど?」

「手を出してこないだけマシだということだ。じゃあ、おやすみ」

「ちょっと待」

 

ヘスティアの言葉を最後まで聞かず、俺は自室に戻った。

 

「あら。お帰りなさい」

「邪魔してるわよ」

「お前ら……」

 

案の定。我が物顔で俺の部屋で寛いでいたアルヴィナとシャラゴアを見て、俺は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

「父さんの背中……意外と小さかったな」

 

自分の掌を見つめ、先ほどまで触っていたグレイ君の背中の感触を反芻する。

初めて見たときは、とても大きくて広い背中だと思っていた。

けれど、傷だらけの背中を見て、ボクの中で印象が逆転した。

薪の王になるという宿命を成し遂げた背中から、薪の王となってしまった背中に。

世界の全てを背負うに相応しい背中は、世界を背負うには相応しくない背中に。

 

「どうしたら父さんにかかっている呪いは解けるのかな……」

 

天界では、我こそはという神々が父さんの呪いの解除に挑んだ。

特に、医療系の神が薬を調合しては父さんに飲ませるも、効果がなく匙を投げた。

かくいうボクも、父さんの呪いを解除しようと挑んだ神々の1柱だ。炉の神であるボクの点けた火は全て聖火になる。これならできると思い、薪を焚いて父さんを鎧越しに焙ってみたけど、効果がなくて泣いたのを今でも覚えている。

 

「やっぱり、下界の子供達にしかできないのかな……」

 

ボクとしては、世界を救った父さんは救われるべきだと思っている。何かを成した人には、相応の報酬があるべきだから。

けれど、父さんの呪いが解けることで、離別(わかれ)の時が訪れたとき、神々(ボクら)はどうなってしまうのだろう。

ボクは……それがとても怖い。




作中でヘスティアの聖火を使った解呪は効果がなかったとありますが、グレイの外見が亡者状態から普通の人と同じ状態に治るという効果はでています。完全に呪いが解けたわけではありませんが。

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