闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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公式からのエルデンリング新作発表に度肝を抜かれなかった人はいない(断言)


第60話

 日暮れを経て宵闇が訪れ、やがて闇夜が頭上を覆った頃。

 『バベル』の西門に、僕達は集まっていた。

 僕、ヴェルフ、命さんは防具の上から火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)を、リリと春姫さんは巨人(ゴライアス)防衣(ローブ)を装備していた。そしてウィーネは僕と同じく火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)を纏い、サポーターに擬装するために穴の空いたバックパックを背負っている。

 僕達は大盾を始めとした武具、予備(スペア)の得物、更には『魔剣』まで、ヴェルフ謹製の装備で身を固めた今の僕達は、これまでにない完全武装だ。

 

「ベル。ネロ」

「はい」

「はっ」

 

 同行できないというグレイさんが、僕とネロさんの名前を呼んで周囲に目配せをする。グレイさんとはそれなりの付き合いとなるため、それだけで意図を察する。

 視られている、と。

 距離はかなり遠く、しかし様々な方角から僕達の事を視ている何者かがいる。

 ガネーシャ様に手紙を持たせたという『知り合い』の息がかかった者が見張っているのか、それとも……。

 

「(……っ!)」

 

 不意に脳裏に浮かんだ、イケロス様の不気味な笑みを、頭を振って追い払う。

 

「ベル……」

 

 深く被ったフードの奥から、ウィーネが僕のことを心配そうに見上げる。

 僕は一呼吸置いて、ウィーネの心配を払拭するように笑いかける。

 

「大丈夫だよ」

 

 フードの上からウィーネの頭を撫で、意識を切り替える。

 

「──時間です」

 

 手の中にある懐中時計の蓋を閉め、リリが零時を告げる。

 僕の事を見つめる皆に、頷く。

 

「神様、グレイさん。行ってきます」

「皆、絶対に帰ってくるんだよ」

「気を付けて」

 

 神様とグレイさんの言葉を聞いた僕達は、軽い会釈をして『バベル』の中へ入る。

 目指すは、20階層。

 ……そこで『誰かが』、僕達の事を待っている。

 

 

 

 

 ベル達を見送って直ぐ、俺とヘスティアは指定された場所に向かっていた。

 『第七区画四番街路』。実はその場所は、旧【ヘスティア・ファミリア】本拠である廃教会の近くであり、少し遠いが俺の茶室が建っている場所でもある。

 ……要するに、寂れた居住区のど真ん中だ。

 

「グレイ君、周囲に誰かいるかい?」

 

 魔石灯はなく、雲に遮られる月明かりさえ乏しい。おまけに、通りの両脇に立つ家屋には誰も住んでいないのか、人の気配を感じられない。『バベル』の西門にいた時の視線も感じない。ベル達の方に向かったのだろうか。

 如何にも『何かが出てきそうな雰囲気』の場所で、『ささやきの指輪』を装備して耳を澄ます。

 

『……来たか……』

 

 微かな呟きと共に、何かが動くような音が耳に届いた。

 

「そこにいる」

 

 およそ5(ミドル)ほど離れた場所。曲がり角があるあたりを指さすと、ヘスティアの視線もそちらに移る。

 曲がり角から現れたのは、影を象ったような、全身を余すことなく覆う黒衣で身を包み、両手に漆黒の手袋(グローブ)を嵌めた人物。

 

「お初にお目にかかる、神ヘスティア、グレイ・モナーク氏。そしてこのようなご足労、恐縮する」

 

 黒衣の人物は、男性とも女性とも判別できない声を発し、深々と頭を垂れる。

 

「初めまして、それで君は──」

 

 ヘスティアの声が不意に途切れる。

 それと同時に、俺は臨戦態勢に入る。右手に『不遜なる者のメイス』を、左手に『王の鏡』を握り、ヘスティアを守るように立つ。

 

「グレイ君、武器をしまうんだ」

 

 ヘスティアが、俺の腰をタップする。

 

「……分かった」

 

 ヘスティアの命令に従い、両手の武器を収納する。ただし、万が一に備えて『覇者の指輪』だけは装備しておく。

 

「……感謝する、神ヘスティア。私はただの使いの者だ。私の主の元へ、お二方をご案内するために迎えに来た」

 

 黒衣の人物は顔を上げると、来た道を戻るように曲がり角の方を向く。

 

「こちらへ」

 

 それだけ言うと、黒衣の人物は歩き出した。

 

「グレイ君はボクの後から来てくれ」

「ああ」

 

 黒衣の人物に続いてヘスティアが歩き出し、俺はその後ろをついて行った。

 

 

 

 

 一方、ダンジョン20階層。

 

「ついた……」

 

 僕達は目的地にたどり着いていた。

 長方形の広間(ルーム)で、幅は10(ミドル)程。頭上の高さも同様だ。天井と壁は樹皮で形作られており、発光する青光苔(アカリゴケ)に覆われている。

 広間(ルーム)の中には草の緑と小輪の白からなる美しい花畑が、随所に広がっていた。

 食料庫(パントリー)が近い影響か、緑玉石(エメラルド)を連想させる濃緑の石英(クォーツ)広間(ルーム)のいたる所から生えていた。

 ただ、問題は……。

 

「たどり着いたは良いが……」

「何もなければ、誰もいません……」

 

 ヴェルフと命さんが言うように、ここには誰もいない。てっきり冒険者(どうぎょうしゃ)か『異端児(ゼノス)』が待っているものだと思っていたら、この結果だ。

 入れ違い……なんて事は無いだろうけど、誰かがいた痕跡が無いか全員で広間(ルーム)を隅々まで探ってみる。

 

「……聞こえる……」

 

 ウィーネの呟きに、僕達は振り返る。

 ウィーネがいるのは、通路口とは真逆の階層の奥。そこでウィーネは壁を指さし、瞑目している。

 ウィーネに倣って、僕達も意識を集中させると。

 

『──』

 

 確かに、聞こえた。

 徐々に大きくなっていく音が、耳に透き通るような旋律が、今まで一度も耳にしたことのない歌が。

 

「迷宮に、響く歌──」

 

 いつか、どこかで耳にした噂話を、リリが思い出したように呟く。

 

「呼んでる……の?」

 

 瞼を開けたウィーネは、壁の向こうで歌っている何者かに視線を馳せる。

 誰も声をかけ合うことなく、僕達の足は自然と動き出し、ウィーネの元へと向かう。

 一見して何の変哲もない石英(クォーツ)畑にしか見えないけど……一箇所、発光の弱い水晶がある。

 今も歌声によってほんの僅かに震動している石英(クォーツ)に、僕達は顔を見合わせ、頷いた。

 

「いくぞ」

 

 大刀を構えるヴェルフが歩み出て──一思いに石英(クォーツ)を打ち砕く。

 

「……どうりで見つからないわけだ」

 

 石英(クォーツ)が砕けると、塞がれていた穴が出現した。

 しかし、自己修復するダンジョンの中でも石英(クォーツ)は修復速度が速いため、見る見るうちに元の形に直っていく。

 壁が塞がれる前に、僕達は素早く身を滑り込ませる。

 

「……行こう」

 

 歌は役目を終えたとばかりに途絶えていた。

 斜路(スロープ)状となっている樹洞の奥を見据え、僕はパーティーに声を放つ。

 樹洞の内部は狭く、モンスターが生まれる気配は無い。苔が繫茂していない天井や壁には小さな石英(クォーツ)がところどころ伸び、洞窟内をぼんやりと照らしている。

 先頭を進む僕に、真後ろにいるウィーネがそっと手を伸ばす。

 重ねられるウィーネの細い手を、僕もまた無言で握る。

 リリから回ってきた携行用の魔石灯を掲げながら、樹洞を下っていく。

 

「……泉」

 

 坂を下りきった先には、清冽な蒼い泉があった。

 大きさは奥行きと横幅、深さともに凡そ5(ミドル)といったところで、池と呼べる程度のものだ。

 石英(クォーツ)の光源が乏しい暗い空間に、魔石灯を巡らせて辺りを照らし出す。

 

「道が、どこにもない……」

「そんな……では、あの歌はどこから?」

 

 僕の呟きに、春姫さんが当惑する。

 天井や壁を調べても、通り道や割れ目、穴は見えない。

 

「ベル殿、あれを」

 

 命さんに促されて泉を魔石灯で照らせば、水面に一片の金色の羽根が浮かんでいた。僕達がお近づきの印にと貰った、あの羽根だ。

 泉は透明度が高く、必然的に泉の底もはっきり確認できた。……壁の奥に続く、横穴の存在も。

 

「私が行きます」

 

 ネロさんはそう言って戦闘衣(バトル・クロス)一枚で予備の武具である短剣を携え、泉に飛び込んだ。そして、ネロさんが横穴に向かったのを確認し、固唾を飲んで見守っていると……。

 

「……」

 

 戻ってきたネロさんは水面から顔を出すと親指を立て、手招きする。

 僕達は視線を交わし合うと、ネロさんに倣って脱装する。

 刀を回収し、僕達を先導するように再びネロさんが潜る。続いて極東の川で鍛えられたという命さんと春姫さん、大刀を錘にして水底を歩くヴェルフ、短剣型の『魔剣』を抱えて小魚のように潜水するリリ。最後に、おそるおそる泉に浸かるウィーネの手を僕は繋ぎ、補助する。

 途中でネロさんが砕いたのか、僕達を導くように石英(クォーツ)の欠片が光を発している。

 恩恵(ステイタス)によって常人よりも遥かに息が続く中、横穴の突き当りまで来たところで水底を蹴って浮上する。

 

「「──ぷはっ!」」

 

 先に来ていたヴェルフの手を掴み、泉から上がる。

 

「ここは……」

 

 周囲は樹洞から様変わりして、鍾乳洞に似た洞窟になっている。黒い岩盤で構成されており、天井や壁から生える石英(クォーツ)の光だけは変わらない。

 

「……『未開拓領域』です」

 

 冒険者が探索者と呼ばれていた『古代』から現代までに蓄積された膨大な地図情報(マップ・データ)。それでも、深く広すぎるダンジョンの全貌は計り知れない。

 まさに今、僕達がいるような未開の地帯(エリア)──『未開拓領域』はダンジョンに存在する。

 

『……』

 

 喉を鳴らした僕達は、第一級冒険者でさえ足を踏み入れたことのない暗闇に向かって、一歩を踏み出した。

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