闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
ダンジョン20階層から帰還して、二日目。
「ベル。馬車が通るから待て」
「はい」
朝。僕とグレイさんは市壁の内側に沿うように走っていた。これは体づくりの一環で、長時間の戦闘と探索のための
そして、これが終われば……。
「1、2、3……」
『
「ベル。2回内股に、1回背中が猫背になったから、追加で3回だ」
「はい」
規定回数こなした後で、
その後も
最後に、再びグレイさんと市壁の内側に沿って走れば体づくりは終わり。
「はむ」
「ふぅ……」
本当ならグレイさんとの手合わせもやりたかったけど、神様から全力で止められた。なんでも、これ以上の急成長は
その代わり、戦う上での心構えのようなものをグレイさんから教わった。
『対人では一撃で仕留めようと考えるな』
……手足の腱や、太い血管の通っている箇所などの急所の位置。関節を破壊するための技の数々を。
それを知識だけでなく、体に叩きこむために今日も『バベル』に来た。主な標的は、ゴブリンやトロールのような人型のモンスターだ。
「……ベル?」
地下一階に向かう途中で、アイズさんとばったり会った。
「アイズさん。これからダンジョン……あの?」
アイズさんは無言で僕に近づき、頭の天辺から爪の先を、前後左右いろんな角度からジロジロと見つめる。
「あ、あの……どこかに何か付いてますか?」
「ううん。そういうわけじゃないんだけど、こう……何か変わったような気がして」
まさか、体づくりの効果が?……は無いか。そう簡単に現れたら苦労しない。
「最近、何かあったの?」
「そうですね……グレイさん指導の下で体づくりを始めたくらいしか……」
ウィーネを始めとした『
「ベル」
「ひゃいっ!?」
アイズさんが僕の肩を掴み、顔を思いっきり近づける。心なしか、目が輝いているように見える。
「それ、私も参加していい?」
困った。非常に困った。
アイズさんには大きな恩がある。【ロキ・ファミリア】の遠征までという期間限定で訓練をしてもらい、【アポロン・ファミリア】との
「その、神様と一旦相談しないことにはなんとも」
「じゃあ、ヘスティア様のところに行こうか」
「ゑ?」
アイズさんが僕の手をむんずと掴み、『バベル』を出る。
「ま、待ってくださいアイズさん!」
手を振りほどこうとしたり、踏ん張って耐えようとしてみるけどレベル差には敵わず、僕はグイグイと引っ張られていった。
同時刻。喫茶店『ウィーシェ』。
「貴女とグレイさんの関係について教えてください」
「お断りします」
身を乗り出すレフィーヤの問いに、相手……ネロ・エキリシアは淡々と答える。
「なぜですか?」
「私が神ペニアに会った際に口にしたそれが全てだからです。忘れたとは言わせませんよ」
「レフィーヤ、お前まさか盗み聞きを……」
盗み聞きをしたことに多少の罪悪感があったのか、レフィーヤが顔を逸らす。
「私のほうからも質問しましょう。なぜ、【ロキ・ファミリア】の貴女が知る必要があるのですか?」
「……貴女がグレイさんと一緒にいるところを見ると、イライラするからです」
他の客に迷惑はかけられない、しかし本心を思いっきり吐き出したいという相反する感情がせめぎあったのか、絞り出すようにレフィーヤは口を開いた。
「なるほどなるほど」
レフィーヤの言葉を反芻するように頷いてカップを傾け、珈琲を一口飲む。
「……相変わらず、独占欲の強いお方だ」
「なんだと?」
『相変わらず』
その一言を、私達は聞き逃さなかった。
「レフィーヤ。お前は、以前にも彼女に会ったことはあるか?」
「ありません」
「『学区』に在籍していた頃もか?」
「はい。といっても、当時の生徒の顔と名前を全員分覚えているわけではないですけど……」
首を捻り、思考を巡らせていると、硬いものを置く音が耳に届いた。
見れば、テーブルの上に珈琲代を置いて席を立とうとしていた。
「私が言わずとも、貴女はご存じの筈です。ごちそうさまでした」
更に謎を呼ぶ一言を口にして、ネロ・エキリシアは店を出た。
「私は知っている……?知らないから問いただしているのに……?あの人は私にも分からない、私の何を知っているの……?」
「レフィーヤ」
最後のその一言でよほど精神を揺さぶられたのか、瞳を震わせてブツブツと呟くレフィーヤ。例えるなら、物語でありがちな『自分も知らない出生の秘密』を仄めかされた主人公のような反応だ。
……周囲から突き刺さる好奇の目に耐えられなくなってきたため、私は彼女の肩に手を置いて少し強めに力をこめる。すると、我に返ったのかこちらを振り向いた。
「私の奢りで、もう1杯飲むか?」
「……フィルヴィスさんのお言葉に甘えて、頂きます」
「分かった」
メニューに手を伸ばし、レフィーヤに渡そうとした。次の瞬間。
『緊急警報!!緊急警報!!』
ギルド本部のある北部の方角から、けたたましい鐘楼の鐘の音とともに女性の声が響いた。
『オラリオに所属する全【ファミリア】はギルドの指示下に入ってください!ギルドは、
「レフィーヤ!」
「はい!」
カップに残っていた紅茶を一気に飲み干して会計を済ませ、店を飛び出す。
『18階層リヴィラが
「ええっ!?」
「なんだと!?」
最近、冒険者の間で噂になっている『武装したモンスター』。それは
『至急、ギルドは冒険者を編成しモンスターの討伐を──えっ?そ、そんな……りょ、了解しました』
酷く狼狽したのか、女性の声が暫し小さくなった。
『市民、及び全冒険者のダンジョンの侵入を
「待機?」
「どういうことだ?」
手のひらを返したような指示に、私達の頭を疑問符が埋め尽くす。
しかし、鳴り響く警鐘と、指示がそれを吹き飛ばす。
「ギルド本部で情報を集めるぞ!」
「はい!」
私達は人混みをかき分け、ギルド本部へ向かって駆けだした。
都市内が動乱で揺れている頃、第七区画。
「悪いね、親父殿」
「お前が直々に俺に用があると出向いたんだ、よほどの事態なんだろう?」
茶室内で、俺とヘルメスは向き合うように座っていた。茶の1杯でも振舞おうと思ったが、ヘルメスからやんわりと断られた。
「『
「ああ」
「その『
「そうか」
「俺は情報収集のために、アスフィ達にも18階層に向かわせる。ガネーシャの眷族にバレないよう、こっそりとね」
そこで話を切り上げると、ヘルメスは壁に耳をあて、周囲に人の気配が無いか探る。
そして人の気配が無いことを確信したのか、再びこちらを見る。
「18階層には、
「
ヘルメスが言うには、『ダイダロス通り』や都市の地下水路には『バベル』以外にダンジョンと地上を繋ぐ通路が存在するらしい。そこは
「ただ、出入口は見つかっても『鍵』がないとどうしようもない。一時期
「……『鍵』と『地図』の回収だけでいいのか?」
俺の質問を聞いたヘルメスが、石像のように硬直する。
「……ごめん」
申し訳なさそうに目じりを下げ、ヘルメスが頭を下げる。そして、懐から
「
「……イケロスの
続いて、眷族と思われる人物達の似顔絵が描かれた羊皮紙の束を取り出す。
「分かった」
頷いて羊皮紙を受け取ると、目元を隠すように帽子を被ったヘルメスが茶室を出る。
……その後で俺は装いを真鍮色の鎧に変え、羊皮紙の裏に描かれた場所に向かった。
ジョン・ウィックと必殺仕事人、皆さんはお好きですか?私は大好きです