闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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Tarnished Editionで追加される防具のラインナップが気になります


第63話

「悪い!通してくれっ!」

 

 中央広場(セントラルパーク)。ギルドの強制任務(ミッション)により編成された【ガネーシャ・ファミリア】の討伐隊。

 それを囲むように、広場の外周に沿うように神々、冒険者、一般人の人集り。それをヴェルフ君が掻き分け、僕達は前へ前へと進む。

 

「ベル君!」

 

 全身を隠すローブとバックパックを身に付けた、サポーターの一人を装った格好をしたベル君を見つけた。

 

「ベル!」

「ベル様!」

 

 僕に続いて、ヴェルフ君とサポーター君がベル君の名を呼ぶ。

 

「っ!?」

 

 周囲からの討伐隊への応援の声からすれば微かな僕達の声を感じ取ったのか、肩を跳ねさせたベル君が振り向く。

 

「……」

 

 フードを僅かに上げて僕達と目を合わせたベル君は、口元をきゅっと結ぶと深々と頭を下げる。

 

『行かせてください』

 

 言葉ではなく行動でそう伝えられ、ヴェルフ君達はもどかしそうな表情でベル君を見る。気持ちは痛いほどわかる。皆ベル君に付いていきたいのだろう。ベル君を引き止めたいのだろう。……だけど、状況がそれを許さない。

 

『気を付けて行くんだよ』

 

 顔を上げたベル君に、目で訴える。僕の意を察したのか、ベル君は再び頭を下げる。

 

「出るぞ!」

 

 討伐隊の隊長にして【ガネーシャ・ファミリア】の団長。【象神の杖(アンクーシャ)】シャクティ・ヴァルマの号令に、民衆の声援がひと際膨れ上がる。

 僕達が見守る中、ベル君は討伐隊とともに塔の門前へと移動していく。

 

「ヴェルフ君、グレイ君の姿は?」

「見当たりません!」

 

 一大事ということで真っ先に駆けつけている筈のグレイ君の姿が無い。胸騒ぎを感じた僕はヴェルフ君の裾を引いて催促するけど、こうしている間にも討伐隊はダンジョンへと潜っていく。

 ……そして、結局グレイ君は姿を見せなかった。

 

「失礼します。ヘスティア様でよろしいでしょうか?」

 

 討伐隊の姿が見えなくなると同時に人集りもなくなった頃、金髪緑目のエルフが声をかけてきた。

 

「僕がヘスティアだよ。君は?」

「初めまして、【ヘルメス・ファミリア】のローリエ・スワルと申します」

 

 エルフの少女、ローリエ君は簡潔な自己紹介をすると、懐から一通の封筒を取り出した。

 

「ヘルメス様から、ヘスティア様宛のお手紙です」

「……ありがとう」

 

 ヘルメスからということで若干警戒しながら、封を切り中身を取り出す。

 

『親愛なるヘスティアへ。緊急事態とはいえ、主神であるキミに話を通さず、グレイ君に18階層での情報収集を依頼して申し訳ない。この手紙がキミの手に渡る頃には、アスフィ達とともに潜っていることだろう──』

 

 手紙は、僕への謝罪の言葉から始まり、事の経緯が記されていた。

 討伐隊以外に、ダンジョンに潜ろうとする人影は見られなかった。おそらく、アスフィ君お手製の魔道具(マジックアイテム)を使ったのか、それともグレイ君が持っているアイテムを使ったのか。

 だけど、そんなことはどうでもいい。問題は、この手紙の最後の方。

 

『俺の見立てでは、今夜は暗い月の夜になりそうだ。戸締りはキッチリとしておいたほうがいい』

 

「暗い月の夜?」

 

 横から覗き込んでいた春姫君が、首を傾げる。

 『暗い月』とは、火の時代に存在したグウィンドリンに仕える信徒達が掲げる誓約『暗月の剣』──罪人に対する復讐を行う執行者のこと。神々が降臨する1000年前まで、グウィンドリンは月と復讐を司る神として信仰を集め、彫刻や絵画において右手に鍔が三日月型の剣を、『暗月の剣』のシンボルマークを握っていた。

 情報収集のために18階層に向かうよう依頼したのは表向きの話。本命は今回の騒動を起こした元凶、即ち密猟者に対する復讐とみて間違いないだろう。

 

「……」

「ネロ君、抑えるんだ」

 

 その証拠に、僕の次に意味を理解したネロ君が、ローリエ君を睨みつけている。

 

「ローリエ君」

「な、なんでしょうか?」

 

 一歩近づき、顔を覗き込む。

 

「ヘルメスがどこにいるのか、知らないかい?」

 

 顔色が若干青くなったローリエ君が、一歩後ろに下がる。

 

「この手紙を渡すよう命じるなり何処かへ行ってしまわれたので、存じません」

 

 ……うん。嘘は言っていない。

 

「……分かった。引き止めてごめんね」

「いえ。では私はこれで」

 

 ローリエ君は一礼すると、足早に去っていった。

 

「どうしますか?ヘスティア様」

 

 眷族(こども)達を代表して、サポーター君が訊ねる。何かを堪えるように拳を握りしめ、瞳を震わせて。

 

「一旦、本拠(ホーム)に戻って頭を冷やそう。ここで感情のままに動いても何も得られない」

 

 ヘルメスへの怒りをぐっと飲み干し、僕達は本拠(ホーム)に戻った。

 

 

 

 

(リヴィラ)が……!」

 

 凄まじい進撃速度についてくのが精一杯で、息を切らしていた僕は階層西部から立ち上る煙を目視した。

 

「団長、ここからは……」

「いや、待て──姉者、あれを!」

 

 モダーカさんの声を遮って、イルタさんが頭上を指さす。

 眩しい水晶の光を放つ天井付近で、翼を持った黒い影の一群が飛行していた。

 

「有翼のモンスター……武装している」

 

 シャクティさんの瞳の先には、鎧や防具を装備したモンスター。あれは(リヴィラ)を襲撃した対象──『異端児(ゼノス)』達で間違いない。

 よく見れば、有翼のモンスターの中には歌人鳥(セイレーン)石竜(ガーゴイル)の姿がある。

 

「……っ」

 

 口にしかけた彼等の名前を飲み込んで討伐隊についていく。正面に広がる森へ入り、一直線に縦断し、視界が開ける大草原に躍り出る。

 

「……!他のモンスターも大草原を……!」

「あの方角は真東……大森林か?どうしてあんな場所へ?」

 

 (リヴィラ)が存在する階層西部の湖畔から、中央地帯の大草原と巨大樹、更にそこを素通りして東部の大森林へと集団(モンスター)が横断していた。

 その集団の中に、半人半蛇(ラミア)大型級(トロール)一角獣(ユニコーン)蜥蜴人(リザードマン)らしき影を確認した。けど……竜女(ヴィーヴル)の影が無かった。

 

「姉者、どうする?」

「……部隊を二手に分ける。モモンガ、少人数で(リヴィラ)へ向かえ!生存者がいないかどうか確かめろ!」

「はい!あと自分はモダーカです!」

「残りの者は私に続け!森に向かったモンスターを追う!」

 

 シャクティさんは素早く指示を出すと、僕に視線を送って問いかける。お前はどちらに行く?と。

 

『恐らく(リヴィラ)は蛻の殻だ』

 

 透明となって側に控えていたフェルズさんが、助言を送る。

 

「僕も森に向かいます!」

「よし!行動開始!」

 

 モダーカさんは素早く五人組の小隊を編成し、湖畔へ。シャクティさんは僕と残りの団員を率いて、森へと向かった。

 

 

 

 

 その頃、(リヴィラ)

 

「さてさて……」

 

 討伐隊よりも一足先に壊滅状態の(リヴィラ)に到着していた俺は、死体の持ち物に手掛かりがないか漁っていた。

 ……だが残念なことに、中には小銭と『回復薬(ポーション)』の類のみ。

 

「こいつもハズレか」

 

 そして3人目。四肢のうち右腕のみが原型を留め、他は潰された男──バロイが転がっていた。

 

「……微かに脈があるな」

 

 治療が間に合えば、情報を得られると判断した俺は担いで人気のない場所に運ぶ。

 目を覚ました後で逃亡される可能性を考慮して、こちらの左手首と相手の右手首を縄で繋ぐ。そして、『魂の加護の指輪』をバロイの右人差し指に嵌めて暫し待つ。すると──。

 

「あ、あぁ……?」

 

 バロイの肉体が見る見るうちに回復し、万全な状態に戻ると同時に指輪が砕ける。意識も戻ったのか、困惑したように口を半開きにして辺りを見渡す。

 

「『修復』」

 

 砕けた指輪を魔術で直し、再びバロイの指に嵌める。

 

「だ、誰だ、お前は!?この縄はな」

 

 最後まで言い終える前に、首の皮が一枚残るように首を斬る。垂れ下がる頭を持ち上げて元の位置に戻し、暫く待てば傷口が徐々にふさがっていく。

 

「はっ!?」

 

 指輪が砕け、バロイが目を覚ます。死んだはずの自分が息を吹き返したことに驚いているのか、左手で体を触って確かめている。

 

「こいつは『魂の加護の指輪』という。効果はお前が体験した通り、装備した者が死ぬと代わりに砕け、蘇生させる」

 

 魔術で再び修復した指輪をバロイの右人差し指に再びはめる。

 そして、今度は貫手で心臓を引きずり出し、目の前で握り潰す。

 次は頭頂部から体を真っ二つに両断。

 次は力自慢で林檎を握りつぶすように、頭を握りつぶす。

 次は爪楊枝を折るように、首をへし折る。

 次は虫を踏み潰すように、頭を踏み潰す。

 

「縄を解いてほしければ、こちらの質問に大人しく答えろ。嘘を答えたり、こちらの質問にそもそも答えなければ何度でも殺し、何度でも蘇生させる」

 

 疑似的な不死の感覚に恐怖を覚えたのか、バロイは無言で首を縦に何度も振る。

 

「では答えろ、お前は、人造迷宮(クノッソス)の『鍵』若しくは『地図』を持っているか?」

「ど、どっちも持ってねえよ!」

 

 バロイは片手でポケットや小鞄(ポーチ)の中をひっくり返し、その類の品物を持っていないことをアピールする。

 

「その出入口は、モンスター達が向かっている18階層東端にあるのか?」

「あ、ああ。最も、『鍵』を持ってねえあいつらじゃ出入りなんざできねえけどな」

 

 『異端児(ゼノス)』達の行動が無駄に終わることに愉悦を感じているのか、バロイの口角が微かに上がる。

 ……そんなバロイの指に嵌めていた『魂の加護の指輪』を外し、約束通り縄を解く。

 

「ご苦労」

「う゛っ!?」

 

 その縄で、バロイの首を締め上げる。

 

「逝っていいぞ」

「ぐっ……かっ……」

 

 両手足をバタバタと動かして抵抗するさまは、死に損なった虫のよう。

 

「あっ……」

 

 バロイの四肢と頭部がだらりとぶら下がり、ピクリとも動かなくなった。

 

「埋めるか」

 

 19階層に死体を放置してモンスターの餌にするのは移動の手間を考慮して却下。呪術で燃やすのも臭いで俺がここにいることがバレてしまうので却下。必然的に死体は土に埋めることになり、縄を解いた俺はスコップで足元を掘り始めた。

 

 

 

 

 18階層大森林。

 

「リドさん……!」

 

 『異端児(ゼノス)』と討伐隊、そして理知を有さないモンスターによる三つ巴の戦場から大きく離れた場所で。僕はリドさんと相対していた。

 

「何で、何で来ちまったんだよベルっち……!」

 

 ここは、リドさんが設けた話し合いの場。

 こんな形で再会なんてしたくなかった。

 曲刀(シミター)長直剣(ロングソード)を握る手は苦痛に耐えるように震え、雄黄の眼を眇め、歯を食いしばっている。

 

「……(リヴィラ)が、武装したモンスターに壊されたって、聞きました。……本当に、リドさん達が」

「そうだ。オレっち達が襲った」

 

 僕が質問を終えるよちも早く、リドさんが答える。

 

「どうして!?」

「同胞が殺されて、攫われたんだ……街にいた密猟者に」

「……ウィーネも、ですか?」

「……そうだ。……攫われちまった……!」

 

 リドさんのその一言が、大量の発汗を誘発させる。

 だけど、肌に衣服が纏わりつく不快感は一瞬だけで、直ぐに別の感情が……密猟者への、【イケロス・ファミリア】への怒りがこみ上げてきた。

 

「……お願いだ、ベルっち」

 

 リドさんは眼を徐々に怒りに染め、僕を見据える。

 

「……オレっち達はウィーネを助けに行く。ベルっちは、このまま引き返してくれ」

「リドさん、僕も──」

「駄目だ!」

 

 僕が同行すると伝えようとした瞬間、リドさんが両手の得物を地面に叩きつける。

 

「今のベルっちは、オレっち達と同じ目をしている!あいつらが憎いって!あいつらを殺してやりたいって!」

「~~っ!」

 

 目は口程に物を言ったのか、僕の心境を察知したリドさんは突き返すような発言をする。

 

「……今回の騒動はオレっち達が起こした事だ。オレっち達が、責任をとって終わらせなきゃいけないんだ」

「嫌です!僕も」

『オオオオオオオオオオッ!』

 

 一歩踏み出した瞬間、リドさんの口から発せられたのは人語ではなく怪物の咆哮。

 そして、曲刀(シミター)長直剣(ロングソード)を構え、僕に襲い掛かった。

 

「──クラネルさん!」

「「──!」」

 

 そこに。僕らの間に割り込むように、木刀の一閃が走る。

 リドさんはこれを防ぐと、勢いよく反転して逃走した。もしかして、このためにリドさんはわざと吠えた……?

 

「無事ですか、クラネルさん」

「……リュー、さん?どうして……」

「すいません」

 

 不意に、リューさんが僕の胸倉を掴む。

 

「ふんっ!」

「うわああああっ!?」

 

 そして放り投げられ、暫し浮遊した僕は……。

 

「ごぼぉ!?」

 

 少し離れた場所にある池に着水した。

 

「げほっ!げほっ!げぇほっ!はーっ……はーっ……」

 

 慌てず体勢を直して池から上がり、水を吐き出して呼吸を整える。

 

「頭は冷えましたか?」

「……おかげさまで。頭の天辺から爪の先まで冷えましたよ」

 

 いきなり放り投げられたことへの不満も込めて礼を述べる僕を、リューさんはじっと見つめる。

 

「【万能者(ペルセウス)】から事情は伺っています。貴方が闇派閥(イヴィルス)の──【イケロス・ファミリア】の奸計に巻き込まれていると。ですが解せないことが一つだけあります」

「……なんですか?」

「先ほどの貴方の目です。あれは、大切な誰かを傷つけられた者が抱く怒りと殺意の目です。貴方の交友関係を把握しているわけではありませんが、(リヴィラ)にそこまで親しい冒険者はいないはず。なぜ、そこまで激しい怒りを抱いていたのですか?」

「……」

 

 いかにリューさんでも、『異端児(ゼノス)』について下手に口外できないため、答えの代わりに沈黙する。

 

「私は件の派閥に貴方が関わらせたくないのですが……貴方のことです、私の制止を振り切って今回の騒動に首を突っ込むのでしょう?」

 

 僕の瞳を覗き込むように顔を近づけて問うリューさんに、僕は無言で首肯する。

 

「モンスターを、追います」

「分かりました」

 

 そう言って、リューさんは腰に巻いていた小鞄(ポーチ)を差し出す。

 中を見れば、高等回復薬(ハイ・ポーション)を始めとした道具(アイテム)が入っていた。

 

「討伐隊の危機を払拭した後、私も直ぐに追います」

「ありがとうございます、リューさん」

 

 僕はリドさんの向かった階層東端へ、リューさんは戦場である大森林へと向かって駆けだした。

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