闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
【ヘルメス・ファミリア】
「『鍵』と『地図』、それと依頼にはなかったが『鍵』の材料も持ってきたぞ」
「ありがとう。イケロスの
「全員仕留めた」
「……さすが親父殿」
「俺が
「それはもう。色々とありすぎて都市が大騒ぎになったよ」
ヘルメスはそう言って苦笑すると、カップを傾けて茶で喉を潤す。
俺が
一つ。ディックスの
二つ。そのうちの一体が、18階層で【ガネーシャ・ファミリア】率いる討伐隊相手に、地上で【ロキ・ファミリア】相手に大暴れしたらしい。
そして三つ。……地上に姿を現したウィーネを守るためにベルが他の冒険者から彼女を庇った結果、人々から非難を浴び、信頼を失った。
現在、騒動のあった『ダイダロス通り』では【ロキ・ファミリア】が
やはり、あの時『地図』の回収をせず、ディックスを仕留めておけば……。
「まあ、
「……そうか……」
俺の思考を読んだのか、ヘルメスはいつもの笑みを浮かべてそう言った。
「それに、『
「……それも、そうだな」
カップに残っていた茶を飲み干し、席を立つ。
「
「分かった。オレも『ダイダロス通り』で情報を集めたいから、途中まで一緒に行こうぜ」
『ダイダロス通り』で、神様と別れた場所に向かって歩いていた。すれ違う人々から、好意的ではない目線を向けられる。あの時、『こう』なる事を覚悟したうえでウィーネを庇ったとはいえ……辛い。
「ベル・クラネル」
そんな僕を、呼び止める声が。この声の主は……。
「……フィンさん……」
黄金色の髪の
防具と長槍を装備した【ロキ・ファミリア】の団長が、僕のことを見据えていた。
「装備は護身用のナイフだけ、か……。この状況で、随分と軽装だね」
僕の出で立ちを見たフィンさんが、そう指摘する。
当然だ、僕は『
迂闊だった。自分で自分のことを責めていると、フィンさんは話しかけてくる。
「今は一人かい?ちょうどいい、二人で話が──」
遮るように、僕は右手をフィンさんに向けて翳す。
「おいおい」
「マジか……」
それを見て、場の空気がざわめく。フィンさんも、困ったように眉を下げる。
【アポロン・ファミリア】との
詠唱と杖などの触媒は不要で、僕が目標に向かって手を翳して一言魔法の名を口にするだけで、それは放たれることを。
だから、僕がフィンさんに無言で手を翳すということは……拒絶と宣戦布告の意思表示だ。
「……分かった」
僕の意思を読み取ったのか、フィンさんは背を向けて何処かへと歩きだした。
フィンさんのことは、冒険者として、【ファミリア】の団長を務める者として尊敬している。
「(だけど、今のフィンさんは──【ロキ・ファミリア】は敵だ。敵として立ちはだかるなら、戦って、どんな手を使ってでも倒さなきゃいけないんだ)」
自分にそう言い聞かせて、僕は神様を探しに戻った。
同じ頃、『ダイダロス通り』の何処か。
「探したよ、ヘルメス」
「奇遇だね、ヘスティア。オレも君を探していたんだ」
青い瞳に憤怒を宿したヘスティアが、ヘルメスを睨みつける。
ヘスティアは許せなかった。『
そしてそれを、ヘルメスは理解していた。そのうえで、ヘルメスはグレイに暗殺を依頼した。【ロキ・ファミリア】の二の舞いを防ぎ、確実に
暫しヘスティアはヘルメスを睨み、ヘルメスは罪悪感から目尻を下げてヘスティアを見つめる。
「ヘルメス」
近くにあった木箱に座ったヘスティアは、右足の靴と靴下を脱いで素足を突き出す。
「今ここで誓うんだ、ボクへの1万2千年の忠誠を」
これが罰だと、ヘスティアの眼差しが語る。
ヘルメスは帽子を脇に抱え、跪く。
「貴女に誓います、1万2千年の忠誠を」
ヘルメスは足の裏に右手を添え、そっと足の甲に口づけをした。
神様と
いつの間にか帰ってきていたグレイさんに会ったけど、言葉は最低限交わすだけに留めた。そうしないと、グレイさんを問い詰めてしまっていたかもしれないから。
【ヘルメス・ファミリア】のローリエさんが神様に届けたという手紙の文面から、僕は全て理解した。……あの時、グレイさんが何処で、何をやっていたのかを。
「(もしあの時、グレイさんが加勢してくれれば……)」
何度目か脳裏に過った考えを振り払うように、頭を振る。あれは、グレイさんから教わった事を実行に移せなかった僕の『甘さ』が招いたんだと。何も出来なかった自分を戒めるように言い聞かせる。
すると、『僕を視ている誰かが』困惑したような表情を浮かべた気がした。
窓を開けて、身を乗り出して周囲に視線を走らせると、通りの角に身を隠す人影を見つけた。
「……」
案の定、視られていた。その対象が僕なのか、【ヘスティア・ファミリア】なのか、それは分からない。でも、今後のためにも神様への報告は必要だ。
そう考えた僕が窓を閉め、部屋を出て廊下を歩いていた時だ。
「……?」
中庭の中央で、雨に打たれながら待ち人を待つように花壇に止まっている一羽の梟。
パッと見ただけならただの梟。しかし、その梟の片目は水晶でできた義眼だった。はっと気づいた僕は、進路を変えて中庭に向かう。目の前まで近づいて片腕を差し出すと、梟はふわりと浮いて止まった。
「これは……」
梟の足には、手紙が巻き付けられていた。
「やはり、
梟の足に巻き付けられていた手紙に記された支離滅裂な文章──難解な暗号を書庫から引っ張り出してきた辞書で解読し終えた頃には、時計は夕刻を示していた。
「【明日の夜、『ダイダロス通り』を目指す】か……だいぶ追い込まれているみたいだな」
「で、ですが、今『ダイダロス通り』にいるのは確か──」
「ええ、春姫殿。多くの冒険者、そして【ロキ・ファミリア】が陣を張っています」
手紙は謝罪から始まり、フェルズさん達の状況とダンジョンへ帰還するための計画、そして協力の呼びかけで締めくくられていた。どうかまた力を貸してほしい、という懇願の一文を最後に添えて。
「……神様」
「おっとベル君、『僕一人で対処します』なーんてこと言わせないぜ。もう、これは君一人で抱えられるような問題じゃないんだ」
僕の言葉を遮るように、神様が手を翳す。
「それに、見てごらん。ヴェルフ君が何を持っているのかを」
神様に言われて、気づいた。ヴェルフが腰に差している物を。
ヴェルフは僕の視線に気づいたのか、ふっと笑って腰に差した鞘から短剣を引き抜く。
「見ての通り、『魔剣』だ。あと三振り、工房にある」
露になる刀身を見て、リリは鷹揚に頷いた。まるで、要望通りの品物を受け取ったかのように。
「ベル殿」
「うわぁ!?」
いつの間にか部屋を出ていたのか、命さんとネロさんがそれぞれ武器を持って部屋に戻ってきていた。
「自分達も、この通り武器の手入れをしておりました」
夕焼けを浴びて煌めく刀身から、切れ味の鋭さが伝わってくる。
「リリ達は待っていたんですよ。こうして、フェルズ様達が助けを求めてくるのを」
そう言うリリが足元から出したのは、ボルトがみっちりと詰まった
「……」
グレイさんは多くは語らず、首肯のみで備えがあることを僕に伝えてきた。
「……『ダイダロス通り』には、【ロキ・ファミリア】をはじめとした多数の冒険者が『
「知ってるとも」
目線を神様に移し、最後の確認をする。
「……ウィーネ達をダンジョンに帰すためには、彼らを相手にすることになります」
「そうだね。そして、それはベル君一人で対処できる量じゃない」
神様のその冷たい一言は、焦りから独断専行しようとしていた僕の心と頭を冷やし、落ち着きを与えた。
そうだ。僕は、一人じゃない。皆が……
「……皆」
皆の顔を見回して一呼吸置き、口を開いた。
「ウィーネ達を助けよう!」
「おう!」
「「「はい!」」」
「ああ」
「はっ」
「おー!」
最後の返事は上から順に
ヴェルフ
命、春姫、リリ
グレイ
ネロ
ヘスティア
です