闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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第66話

『じゃあ、作戦会議を始めようか』

 

 本拠(ホーム)の奥の一室。テーブルの上に置かれた二つの水晶には、淡い光が灯っている。

 これは、フェルズさんからの手紙に書かれていた住所にあった道具屋の地下に隠されていた、『魔道具《マジックアイテム》』の一つ。フェルズさんはこれを使って、『異端児《ゼノス》』達とやり取りをしていたらしい。

 僕から見て右手側の水晶には、地下水路と思しき薄暗い地下空間に、フェルズさんと多くの『異端児(ゼノス)』の姿が映し出されている。

 対して左手側。こちらは壁に大きな木の板が立てかけられた部屋に、ヘルメス様の姿が映し出されている。開始の音頭をとったのは、ヘルメス様の方だ。

 

『俺が『ダイダロス通り』を見て回ったところ、【ロキ・ファミリア】が守りを固めているのは北東、北西、南西、南東、東の五つ』

 

 そう言ってヘルメス様が木の板に張ったのは、『ダイダロス通り』全体が書かれた巨大な羊皮紙。ヘルメス様が先ほど口にした五ケ所には、丸印がつけられている。

 

『それに加えて、賞金(かね)に目が眩んだ冒険者達もあちこちを歩きまわっている』

「だ、そうです」

 

 ここで一旦ヘルメス様が話を区切り、僕がフェルズさんに伝える。

 

『となると、追跡を振り切ったとしても、入口には【ロキ・ファミリア】が立ちはだかっているということか』

 

 そこで一旦フェルズさんは区切ると、それを僕がヘルメス様に伝える。

 ……そのついでに、僕からヘルメス様に一つ報告をする。

 

「実はヘルメス様、僕、一つだけ入口に繋がる場所に心当たりがあります」

『北西区の孤児院の裏庭かい?』

「はい!瓦礫がありますけど、それを撤去すれば──」

 

 【ロキ・ファミリア】を出し抜けるかもしれない。と言おうとしたところで、ヘルメス様は腕を交差させて首を横に振る。

 

『すまない、ベル君。俺がそこに行くところを、ロキの眷属(こども)達に目撃された。だからもうあそこは使えない』

「そんな……」

 

 膝から崩れ落ちそうになった僕を、グレイさんが支える。

 

『まあまあヘスティア、落ち着いてくれ。目撃されたとはいえ、問い詰められたりはしていないから俺の手元に『ダイダロスの手記』があることはバレていない。それに、もともと俺は違う方法を使うつもりだったからね』

 

 物凄い形相で睨みつけている神様を宥めるように手を前に出したヘルメス様は、懐から二つの球体を取り出した。あれはもしや……!?

 

『ここに、『人造迷宮(クノッソス)』の『鍵』が二つある。一つを差し出す代わりに、『異端児(ゼノス)』のことを見逃すように交渉する』

 

 ここで再びヘルメス様が会話を区切り、僕が伝えるとフェルズさんは顎に手を置いて暫し考える。

 

『それは名案……と言いたいところだが、『人造迷宮(クノッソス)』に入った後はどうする?『鍵』を手にすれば、【ロキ・ファミリア】は確実に『人造迷宮《クノッソス》』に乗り込む。遭遇すれば戦闘になるのは、火を見るよりも明らかだ』

 

 それをヘルメス様に伝えると、ヘルメス様は笑みを浮かべて答える。

 

『その時は、『ダイダロスの手記』と引き換えに『異端児(ゼノス)』を見逃してもらう。『人造迷宮(クノッソス)』攻略のために、『手記』と『鍵』は必須だ。快諾はできなくても、首を横に振ることはできないさ』

 

 ……影の差し方によるものか、ヘルメス様の笑みが邪悪なものに見えた。

 それを僕から聞いたフェルズさんは、了承するように頷く。

 

『了解した。皆も、異論は無いな?』

 

 フェルズさんが訊ねると、『異端児(ゼノス)』が全員頷く。

 

『さて、『人造迷宮(クノッソス)』の入口から先の話が済んだところで、入口に到達するまでの方策について話そう』

 

 ヘルメス様は、僕達【ヘスティア・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】がとる方策を語った。

 

『ベル君とリリルカちゃんは、『ダイダロス通り』で他の冒険者の注意を引き付けてくれ』

「ぼ、僕とリリでですか?」

『そうだ。ベル君はあの騒動で他の冒険者から目をつけられているから、ただ歩いているだけで注目が集まる。そしてリリルカちゃんは、『魔法』で変身と解除を繰り返して攪乱してくれ』

「嫌です!リリの貧弱な【ステイタス】では直ぐに捕まって死んでしまいます!」

『まあまあ、オレ達【ヘルメス・ファミリア】でできる限りのサポートはするから、安心してくれ』

 

 涙目で睨みつけてくるリリを、ヘルメス様は穏やかな笑みを浮かべて宥めようとする。

 

「フェルズ様からも何か言ってください!」

 

 リリは涙目で、自分に課せられた役割についてフェルズさんに語った。

 

『……頑張れ』

 

 フェルズさんもヘルメス様と同意見なのか、親指を立てて応援の言葉を投げかける。

 

「ベルさまぁ~」

「よしよし」

 

 涙目で抱き着くリリの頭を、優しく撫でて宥める。

 

『ヴェルフ君と命ちゃんは、オレとフェルズ、『異端児(ゼノス)』達が入口に到達するまでの護衛を頼む』

「任せてくれ!」

「はっ!」

 

 ヴェルフは拳で掌を打ち、命さんは軽く一礼する。

 

『親父殿とネロちゃんは、はぐれた『異端児(ゼノス)』の捜索を頼む。発見し次第、オレかフェルズに連絡してくれ。発見場所から一番近い入口で合流しよう』

「分かった」

「はい」

 

 グレイさんとネロさんは、淡々と頷く。

 

『春姫ちゃんとヘスティアは、地図と水晶で道案内を頼む』

「はい!」

「分かった」

 

 ヘルメス様が一通り方策を語り終えると、フェルズさんの方を見て追加で意見や策がないか確認する。

 

『アステリオスはどうする?』

 

 フェルズさんの口から出た、初めて聞く『異端児(ゼノス)』の名前。

 

「フェルズさん、そのアステリオスって、どんな外見をしているんですか?」

『黒い猛牛(ミノタウロス)だ。君は知らないかもしれないが、彼は18階層で【ガネーシャ・ファミリア】を相手に、地上で【ロキ・ファミリア】相手に大立ち回りを演じていた』

「そ、そうですか……。ヘルメス様、どうしますか?」

 

 伝えると、ヘルメス様は眉間に皺を寄せて顎に手を当て、暫く思案する。

 

『彼の願いは?』

『強敵との闘いを望んでいるらしい』

 

 僕経由でアステリオスの願望を聞いたヘルメス様は、意を決したように口を開いた。

 

『オレの方でフレイヤ様と交渉して、【猛者(おうじゃ)】に相手をしてもらう』

『ありがとう、神ヘルメス』

 

 あの【猛者(おうじゃ)】なら大丈夫だと、普段の僕ならそう思ったかもしれない。

 でも、なぜだろう……『それは違う』と、そんな言葉が僕の脳裏を過ってしまうのは……。

 

 

 

 

 【ヘスティア・ファミリア】、【ヘルメス・ファミリア】、そして『異端児(ゼノス)』の三陣営の会議が行われる少し前。

 『ダイダロス通り』の一画に設置された【ロキ・ファミリア】陣地。

 

「作戦会議を始める前に、ロキから皆に大事な話があるらしい」

 

 フィンが一歩下がるのと入れ替わるように、ロキが前に出る。

 

「今回の騒動に関してやけど、ドチビとその眷属(こども)達はウチらと敵対するやろな。理由は……まだ分からんけどな」

 

 『ダイダロス通り』でヘスティアから『異端児(ゼノス)』の存在と今回の騒動の経緯について聞いていたことを伏せて、ロキは自分の眷属(こども)達の顔を見る。

 

「となると、必然的にグレイも……おとんとも敵対することになる」

 

 『その意味が分かるか?』と、ロキは視線で訊ねる。

 ある者は体を小さく震わせ、ある者は顔面を蒼白させるなどしてロキの視線に答える。

 

「自分らも知っての通り、おとんは相手が人外の存在だろうと、世話になった恩人だろうと、手を貸したり借りたりした仲間だろうと、敵として立ちはだかる者はありとあらゆる方法を使って殺してきた。……その影響なのか、おとんは敵を殺すことに迷いも躊躇いもない」

 

 ロキは心を落ち着かせるように、深呼吸の後に口を開いた。

 

「せやから、おとんに遭遇して戦うのは勿論、追跡したらあかん。その場で他の冒険者に大声で伝えるのも駄目や。たとえ、『武装したモンスター』を伴っていてもや。……うちはこれ以上、大事な眷属(こども)を失うのは嫌や。そして眷属(こども)の命を奪った相手がおとんなのは、もっと嫌や」

 

 主神として、娘としてロキが放った一言に、全員が無言で頷く。

 

「(ごめんなさい、ロキ……)」

 

 ただ一人、レフィーヤは密かに企てている事についての謝罪の意味を込めて頷いていた。

 

「ほんじゃ、後はフィンに任せたでー」

 

 と、ロキは話を終えて何時もの口調に戻ると、手をひらひらと振って陣地を去った。

 

「っ!?」

「どうしたの?レフィーヤ」

「い、いえ。なんでもありません」

 

 陣地を去る間際、ロキと目が合ったレフィーヤは体をびくりと震わせた。

 

「(まさか……バレてる?)」

 

 初めてロキから向けられた、頭の中を覗き込むような眼差し。それはレフィーヤの脳裏に、しばらく焼き付いていた。

 

 

 

 

 翌日、夕方。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 【ディオニュソス・ファミリア】本拠(ホーム)にある主神の寝室で、ベッドに腰かけたディオニュソスにフィルヴィスが水の入ったコップを差し出す。

 先ほど、『ダイダロス通り』でモンスターの捜索を行っていたフィルヴィスのもとに、ディオニュソスが現れた。

 様子を見に来たという主神の様子がおかしいことに気づいた彼女が訊ねたところ、『父さん(グレイ)と酒を飲む予定が今回の騒動で台無しになったので、自棄酒を呷ってしまった』と彼は口にしていた。

 それを聞いたフィルヴィスは、ディオニュソスを介抱するために一旦『ダイダロス通り』を離れ、今に至る。

 だが、彼女は見抜いていた。ディオニュソスは自棄酒を呷ってなどいないことを。確かに、顔を赤らめて千鳥足で歩く姿は酔っ払いのそれだろう。……しかし、彼の息に酒の匂いは混じっていない。これが何よりの証拠だ。

 

「では、私は『ダイダロス通り』に戻ります」

「フィルヴィス」

 

 寝室を去ろうと立ち上がったフィルヴィスに、水を一口飲んだディオニュソスが声をかける。

 

「私は暫く横になるけど、もしかしたらそのまま眠ってしまうかもしれない。……だから、『ダイダロス通り』で何が起きても、駆けつけることは出来ないかもしれない」

「っ!?」

 

 自分に、より厳密には法衣の下に忍ばせてあるアイテムに向けられた視線を感じ取ったフィルヴィスの足が、止まる。

 たらり、と。冷や汗が彼女の頬を伝う。

 ゆっくりと顔を向ければ、ディオニュソスはとても穏やかな、応援の意がこもった眼差しを向けていた。

 ディオニュソスは気づいている。彼女が何を持っていて、何を企んでいるのかを。そしてそれは、確実に【ロキ・ファミリア】の動きを妨げるものであることを。

 だから、彼は自棄酒を呷ったなどと口にして、介抱を彼女に任せたのだ。

 問い詰められた時に『私があの時止めていればこんなことにはならなかった』と非難の矛先を自分に向けさせ、責任を負うために。

 

「……行ってまいります」

 

 主神の発言から真意を読み解いたフィルヴィスは謝罪と感謝の意を込めて一礼し、寝室を後にする。

 

「……行ってらっしゃい」

 

 ディオニュソスは彼女の無事と作戦の成功を祈るように、コップを掲げた。

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