闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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かなり駆け足でカットしてます


第67話

『ヘルメス、ベル君から報告だ。ヴァレン何某君に見張られているらしい』

「わーお。誰か監視に来るとは思っていたけど、よりにもよって【剣姫】が来たか」

 

 『ダイダロス通り』西部。『異端児(ゼノス)』達が隠れている下水道に向かっているヘルメスに、ヘスティアからの報告が来る。

 

「言い換えれば、彼女をベル君のもとに縫い付けることができたってことだ。ベル君には引き続き、陽動をやってもらおう」

『分かった……ヘルメス。そろそろ目的地に到着だ』

「了解」

 

 ヘルメスが向いた左手側。下水路には、フェルズと『異端児(ゼノス)』達が身を寄せ合っていた。

 

「何者ダ!」

 

 視線に気づいたグロスが、臨戦態勢になる。

 

「そういえば、こうして会うのは初めてだったね。初めまして、オレはヘルメス。ウラノスとヘスティアからの依頼を受けて、キミ達の救助に来た」

 

 帽子を脱いで軽く会釈するヘルメスに、臨戦態勢を解いたグロスも軽く一礼する。

 

「待たせたな」

「ヴェルフ!命!」

「お久しぶり、というほど日は経っていませんが……ご無事そうで何よりです、ウィーネ殿」

 

 少し遅れてやって来たヴェルフと命に、ウィーネが飛びつく。背が高く力持ちなヴェルフがそれを受け止め、命はウィーネの様子を見て嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

『この光景が地上で、こんな薄暗い場所ではなく日の当たる場所で見るんだ』

 

 彼らの笑顔を見た『異端児(ゼノス)』達は、そう決意を固めた。

 

「……時間だ」

 

 懐中時計を見下ろしていたフェルズが呟くと、全員の纏う気配が引き締まる。

 誰かに言われたわけでもなく、リドが下水道から出て屋上へと上がる。

 闇に沈む迷宮街を見渡し、顔も知らない人々に謝罪の一礼をする。

 吸った息で胸郭を膨らませ、一気に開放する。

 

「オオォォォォーーーー…………」

 

 低く長いリドの遠吠えが、街の隅々に響き渡る。

 冒険者達は一気に顔を振り上げ、住民達は一様に怯えた。そして、娯楽に飢えた神々は興奮のあまり跳ね回り、目を輝かせる。

 

『アアァァァァーーーー…………』

 

 次いで空に上がったのは、少女のものにも似た甲高い声音。

 

「応えた」

 

 返ってきた遠吠えにフェルズは弾かれたように振り向く。

 

半人半鳥(フィア)ニ、赤帽子(レット)一角兎(アルル)達ノ声ハ聞こえなイ……」

「届イテイナイトイウ事ハアルマイ。息ヲ潜メテイルカ、声モ上ゲラレナイ状況カ……」

 

 目を眇めるレイとグロスを他所に、遠吠えは繰り返された。

 空に木霊する吠え声は、『異端児(ゼノス)』達だけの『声』であり、彼等にしか伝わらない『呼びかけ』だった。

 自分達の居場所、目的地、全てを伝える『号令』である。

 

「方角は?」

「東ノ方からでス」

「了解。春姫ちゃん、親父殿とネロちゃんに東に向かうよう伝えてくれ」

『はい』

「我々も行こう。神ヘスティア、現在地に最も近い入口は?」

『そこからだと、北西の方が近い』

 

 ヘルメスとフェルズを先頭に、『異端児(ゼノス)』達は闇に溶けるように下水道のほとりを発った。

 

 

 

 

「っ!」

 

 リド達の遠吠えが響くと、ベルは走り出した。

 

「待て!【リトル・ルーキー】!」

 

 賞金(かね)目当てで『ダイダロス通り』にやってきていた冒険者が、ベルの後を追えば『武装したモンスター』に遭遇するだろうという考えから追跡を始める。

 

「(逃がさない……!)」

 

 ベルの見張り役を引き受けたアイズもまた、ベルの後を追う。

 

「【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】」

 

 ほぼ同じタイミングで、路地裏に身を潜めていたリリは変身魔法で一角兎(アルル)に変身し、物陰から飛び出した。

 

「出たぞ!『アルミラージ』だ!」

キュー(こうなったらやけです)!』

 

 モンスターに変身したリリを発見した冒険者達は目の色を変え、得物を掲げて追走する。

 外見はモンスターのものになったとはいえ、サポーター且つLv.1なリリ自身の能力(ステイタス)は貧弱だ。追手の中には上級冒険者もいるため、何度も捕まりそうになった。

 その度にリリは死角へと逃げ込み。

 

「【響く十二時のお告げ】!」

 

 素早く変身魔法を解除して冒険者達をやり過ごした。

 時には……。

 

「痛っ!」

「いってえなー!どこに目ぇつけてんだ!この野郎!」

 

 【ヘルメス・ファミリア】の団員が飛び出し、『モンスターを追っていたらぶつかった』風を装い。

 

(あっぶ)な!」

「何しやがる!」

「それはこっちの台詞だ!邪魔だからどっか行け!」

 

 同じく【ヘルメス・ファミリア】の団員が、『弓で仕留めようとしていた』風を装って追手の足止めを行っていた。

 

 

 

 

 一方、ヴェルフと命。

 

「て、敵襲ー!」

 

 通りに飛び出した彼等の姿を捉えた冒険者が、一団にグレイの姿がない事を確認した後に声を張り上げ、鐘を鳴らす。

 

「見つけたぞ、モンスターども!」

 

 屋根の上から、冒険者が槍を投げようと上半身を捻る。

 

「待て!」

 

 それを、仲間が手で制止する。

 

「何でだよ!?こいつらを仕留めねえと──」

「神ヘルメスがいる!」

「はぁ!?」

 

 一団の中にいるヘルメスの存在が、冒険者の攻撃の手を止める。

 

「なんで神ヘルメスがいんだよ!?」

「んなもん俺が知るか!」

「言い争ってる場合じゃないだろ!こうしてる間もモンスターどもが逃げちまう!」

 

 『神殺し』という大罪と、モンスター討伐という名誉を秤にかけ、冒険者達は足を止めて仲間同士で言い争いを始めた。

 すかさず。

 

「『飛燕』!」

『冷たっ、ああああ!?』

 

 ヴェルフが鍛え上げた『魔剣』を命が振るえば、冒険者の下半身が凍り付いて動きを封じる。

 更に。

 

「『風武』!」

『うわああああ!?』

 

 運良く凍結を免れても、ヴェルフが振るった『魔剣』によって放たれた颶風が、冒険者を遥か上空へと吹き飛ばす。

 

「進め!」

 

 遠ざかっていく冒険者達を尻目に、ヴェルフ達は『人造迷宮(クノッソス)』の入口に向かって只管走った。

 

 

 

 

 『ダイダロス通り』南東の地下通路。

 

「(ディオニュソス様……アウラ……皆、すまない)」

 

 抜き足差し足で忍び込んだフィルヴィスは心の中で、主神と団員達への謝罪の言葉を口にする。

 

「(お許しください、リヴェリア様!)」

 

 法衣の下から彼女は大量のアイテムを取り出し、渾身の力で放り投げた。

 

「えっ!?」

 

 足元に何かが落ちる音に一人のエルフが気づくと同時に白煙が上がり、彼女達の視界を覆う。

 

「ごめんなさい!」

「きゃっ!」

 

 それに乗じてレフィーヤは部隊の中心から飛び出し、フィルヴィスと共に地下通路から地上へと駆けだした。

 

「うろたえるな!『魔法』で吹き飛ばせ!」

『はい!』

 

 素早くリヴェリアが指示を出し、『魔法』を操って扉の向こうに白煙を送り込む。

 

「リヴェリア様!レフィーヤが──」

「ラクタ!レフィーヤと【白巫女(マイナデス)】を追え!」

「は、はい!」

 

 こうなることを想定していたようにリヴェリアが再び指示を出し、ラクタは通路の奥へと向かった。

 

 

 

 

「これが、『ダイダロス通り』の地上の地図だ」

 

 南東の地下通路から遠く離れた場所にある路地裏。そこでフィルヴィスが地面に地図を広げ、レフィーヤに見せる。

 なお、この地図はフィルヴィスが神ペニアに作成を依頼した地図である。支払った代価は、彼女の所持金の9割。これを知ればレフィーヤが卒倒して捜索どころではなくなってしまうので、フィルヴィスはそれを伏せて話を続ける。

 

「ここに来る途中で騒ぎになっている南側と西側を見たが、グレイの姿は無かった」

「となると、北側か東側でしょうか?」

「おそらくな。だが、何らかの方法で姿を消しているかもしれないし、変装して他人のふりをしているかもしれない。ここを起点に、逆時計回りで『ダイダロス通り』を隅々まで探すつもりで行こう」

「はい!」

 

 フィルヴィスが法衣の下に地図をしまうと、二人は近くの民家の屋根に跳びあがり、捜索を開始した。

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