闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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最終章、始まります


第72話

 安全階層(セーフティポイント)のダンジョン18階層。

 

「やっと、着いた……」

 

 先頭に立って18階層に足を踏み入れた僕は、手を膝に当てて肩で大きく息をする。

 僕の【ランクアップ】に伴って【ファミリア】の『等級(ランク)』が上がり、ギルドから『強制任務(ミッション)』である『遠征』に向かうよう指示が降りた。僕達【ヘスティア・ファミリア】は、懇意にしている【ミアハ・ファミリア】と【タケミカヅチ・ファミリア】を合わせた『派閥連合』を結成して『遠征』に向かった。

 しかし、そこで異常事態(イレギュラー)に遭った。

 本来なら『中層』に出現するはずの、『モス・ヒュージ』の『強化種』に『下層』で襲われた。このモンスターは、冒険者が集めた『魔石』を狙うために『種子』を植え付けて弱らせたり、冒険者に自らの苔を被せて囮にしたり、更には『下層』の安全階層(セーフティポイント)での襲撃や『怪物進呈(パス・パレード)』まで仕掛けてきた。非常に厄介で、危険なモンスターだった。

 そんなモンスターとの戦闘の最中、投げ飛ばされた僕は『巨蒼の滝(グレート・フォール)』に飲み込まれて落下し、皆とはぐれてしまった。

 けれど、落下した先で出会ったマーメイドの『異端児(ゼノス)』、マリィの協力を得て皆と合流して、『モス・ヒュージ』の『強化種』討伐を成し遂げた。

 現在、僕は『派閥連合』に加えて、同じく襲撃された【マグニ・ファミリア】のドルムルさん率いるパーティーと、【モージ・ファミリア】のルヴィスさん率いるパーティーと共に地上を目指していた。

 

「ルヴィスさん、具合はどうですか?」

「……大丈夫だ、問題無い」

 

 ルヴィスさんの右腕、肘から先はあのモンスターとの戦闘の際に失われた。回収していた腕は腐敗が始まっていて、繋げたところで肩から先が壊死してしまうだろう。でもグレイさんの【奇跡】なら或いはと提案したけど、ルヴィスさんはこれを拒否した。

 

「これは、私達の至らなさが招いた失態だ。その戒めのためにも、腕はこのままにしてほしい」

 

 そう言って、ルヴィスさん達は火を熾し、残った腕や足が灰になるのを見届けた。地上に戻ったら、【ディアンケヒト・ファミリア】に義手、義足の製作を依頼するらしい。

 

(リヴィラ)に着いたら、一泊して疲れを癒しましょう」

 

 リリはバックパックを探り、宿代に換金できそうなアイテムがないか探る。

 大きな部屋が空いていればいいな。全員とまではいかなくても、【ファミリア】ごとに分かれて寝泊りできればいいな。そんな楽観的なことを考えていると、(リヴィラ)に到着した。だけど……。

 

「……なんだ、この静けさは」

 

 ヴェルフはそう呟くと、大刀の柄に手を伸ばす。桜花さんに命さん、千草さんはルヴィスさん達を守るように身構える。ネロさんはいつでも抜刀できるように鞘に手をかけ、後ろにリリと春姫さんが隠れる。僕もナイフの柄を握り、いつでも【魔法】を放てるように腕を突き出す。

 (リヴィラ)は閑散としていた。いつもなら、ボールスさんを始めとした冒険者達の姿を目にするというのに。

 一体何が。警戒しながら(リヴィラ)を歩いていると……。

 

「待っていたよ」

『っ!?』

 

 誰かの声が、耳を打つ。音のした方を向くと、そこにいたのは──。

 

「……フィンさん?」

 

 神妙な面持ちで、酒場の椅子に座るフィンさんの姿が。近くのテーブル席には、ガレスさんとリヴェリアさんの姿もある。

 

「一体、何があったんですか?」

 

 一斉に警戒を解くと、真っ先に口を開いたのはリリ。僕の隣に立って、フィンさんに質問を投げかける。

 

「詳しい話は、地上に向かいながら話そう」

 

 フィンさんはそう言って立ち上がると、ついてくるように視線で促すと17階層の方へと向かって行った。

 

 

 

 

 遡ること、二日前。【ヘスティア・ファミリア】が『遠征』に向かっていたその日に、【ロキ・ファミリア】、【ディアンケヒト・ファミリア】、【ディオニュソス・ファミリア】、【イシュタル・ファミリア】による部隊を結成し、『ダイダロス通り』から人造迷宮(クノッソス)へと突入し。『異端児(ゼノス)』達はダンジョン18階層から突入した。

 

「……どうなっている?」

 

 しかし、内部はもぬけの殻。闇派閥(イヴィルス)の構成員はおろか、『極彩色のモンスター』の姿すらない。だが、レヴィスという紅髪の怪人(クリーチャー)がどこかの扉を開けて襲撃してくるかもしれない。警戒を怠らず、歩みを進める。

 

「リヴェリア、そちらの状況は?」

『不気味なほど静かだ。他の部隊も、同じような状況で困惑しているらしい』

 

 手元の魔道具(マジックアイテム)、『眼晶(オクルス)』を介して、別部隊を率いるリヴェリアの声が手元に届く。

 

『【勇者(ブレイバー)】!聞こえるか!?』

 

 もう一つの『眼晶(オクルス)』を介してフェルズの、神ウラノスの手駒にして、『異端児(ゼノス)』達の指揮官を務めている法衣(ローブ)の人物の声が届いた。

 

「どうした!?」

『何者かが侵入したのか、簡易苗花(プラント)が既に潰されている!』

「っ!?」

 

 信じがたい、フェルズの齎した情報。隣を歩くロキの方を向き、事情を話して『眼晶(オクルス)』を渡す。

 

「もう一度言ってや。うちは、今の情報が信じられん」

『神ロキ、貴女の気持ちも分かる。私も同じような話を聞いたら、疑わずにはいられないだろう。だが、事実は事実だ。簡易苗花(プラント)が既に潰されている!』

 

 それを聞いて、ロキは目を見開く。

 最初に疑ったのは、神タナトスによるもの。だが、それは無いと直ぐに否定する。ここに潜伏し、着々と手駒を増やしていたあの神が、あっさりと簡易苗花(プラント)を潰して行方をくらませる筈がない。寧ろ、レフィーヤとグレイを歓迎するための準備を進める筈。

 では神ヘルメスはどうか。新たに『(オーブ)』を入手するか、【万能者(ペルセウス)】に『(オーブ)』を複製させ、こっそりと僕達の人造迷宮(クノッソス)攻略の手助けをしたのか。

 

「ヘルメスはちゃうやろ。あの優男は、そないなことするほどお人好しやない」

 

 僕の考えを読んだのか、ロキがこれを否定する。

 ならば、いったい誰が?何の目的でそのようなことを?

 

「……嫌な予感がする」

 

 グレイが言う通り、誰もかれも嫌な予感がするのか、怪訝そうに周囲を見まわしながら歩いている。

 

『っ!?』

 

 微かに音が聞こえ、皆が身構える。ちょうど、正面の曲がり角の先から聞こえたそれは、段々と大きくなってきた。

 

「……父さん?……ノワールちゃん?」

 

 曲がり角から姿を現したのは、この迷宮の主にして闇派閥(イヴィルス)の主神である神タナトス。だが、今の彼にそのような雰囲気は無い。髪は乱れ、汗でローブにシミが浮かび、何かに怯えているような表情を浮かべるさまは、怪物に追われる無力な一般人のよう。

 

「おいタナトス、いったい何が」

「助けてくれぇ!」

 

 ロキの言葉を遮るように神タナトスは叫び、縋りつく。

 

「それは、今の人造迷宮(クノッソス)の様子と関係しとる事なんか?」

「そうだ!今更俺が言ったところで、頷いてもらえないことも、信じてもらえないことも分かってる!でも、緊急事態なんだ!早くしないと『奴ら』が──」

 

 その時、何処かで『扉』の開く音が響いた。

 

「ひぃっ!?」

 

 神タナトスは肩を跳ねさせると、音のした方角を向く。顎が震え、歯をガチガチと鳴らしている。

 

「タナトス。『奴ら』とは何だ?」

「……だ」

 

 グレイの問いに、神タナトスは答えたつもりなのだろう。だけど、口が震えているせいで言葉として出力されず、唇の動きから推測することも困難だった。

 

「だ、ダ……レイ…だよ……!」

「「っ!」」

 

 二度目の解答。言葉として出力はされたけれど、断片的なため判断に困った。しかし、それだけで『奴ら』の正体を推測したレフィーヤとグレイが、前に立つ。

 

「団長!今すぐ全部隊に撤退命令を出してください!撤退後は、入口を一か所残して塞いでください!」

 

 グレイが楯と槍を構える隣で、レフィーヤが真剣な表情で吠えるように僕に助言を放つ。グレイは兜を被っているため表情がうかがえないけど、レフィーヤと同じような表情をしているのだろう。

 ……今にして思えば、ここで困惑して足を止めていなければ、この後の悲劇は防げた。『未知』にたいして後手に回ったことを、僕は後悔することになった。

 

「……っ。ダークレイスが来る!」

 

 神タナトスの言葉に呼応するように、扉が開く。扉の向こうから、大量の人影がこちらに突撃してくる。

 

『シャアアアアッ!』

 

 ダークレイス。

 最古の物語(オールドテイル)に曰く、四人の公王が闇に堕ちた後、闇の眷族となった騎士達。

 挿絵の通り、目の前のダークレイス達は骸骨を思わせる防具を身に纏い、右手には剣を握り、左手は赤黒い波動のようなものを纏っている。

 

「総員、撤退!」

 

 手の中の『眼晶(オクルス)』にも聞こえる声量で、撤退命令を出す。

 

「ロキ達を守るように陣を組みなおせ!前衛職はグレイと同じように楯と槍を!」

 

 指示を飛ばすと、楯と槍を持った冒険者達が壁のように並び、ダークレイスを迎撃する。僕も楯を借りて、前線に加わる。

 

「連中の左手に気をつけろ!捕まれば魂が損傷(ダメージ)を受けるぞ!」

 

 ダークレイスと何度も刃を交えたことのあるグレイが、前線に立つ冒険者に警告を発する。他部隊もダークレイスの集団に遭遇しているのが前提なのか、僕の『眼晶(オクルス)』にも聞こえるように大声で。

 

『ガッ!』

 

 冒険者の突き出した槍がダークレイスの首元に、胸部に、眼窩に突き刺さる。ダークレイスは力が抜けたように、膝から崩れ落ちて倒れる。

 

『シャアッ!』

「はあっ!?」

 

 しかし、ダークレイスは何事もなかったかのように立ち上がり、再び剣を振るって襲い掛かる。

 

「怯むな!一度殺して死なないなら、死ぬまで殺せ!」

「は、はい!」

 

 目を剝いた冒険者に、グレイが力強い言葉をかける。

 

『ギャアアアッ!?』

 

 更に、僕らの背中を押すように弓矢や魔法による遠距離攻撃も加わってきた。

 

『シャアアアアッ!』

 

 それでも、ダークレイスは再び起き上がり、襲い掛かってくる。死ぬまで殺せとグレイは言っていたけど、あと何度殺せば……。

 

「「……っ!?」」

 

 瞬間、僕の背筋が凍り付き、咄嗟にロキ達のいる後方を見る。グレイも感じたのか、ロキ達の方を見る。

 守るように後衛職から囲まれているロキ達の頭上。うっすらとだが、黒い靄のようなものが浮かんでいる。

 あれが本命!ダークレイス達は囮だ!

 

「くっ!」

 

 前線を離れ、人をかき分けてロキ達の下へと向かう。

 

「ロキ!上だ!」

「っ!?」

 

 腹の底から声を張り上げると、ロキがつられて視線を頭上に向ける。黒い靄から何か良くないものの気配を感じ取ったのか、ロキが顔を顰める。

 靄から、何かが見えた。真っ黒な『何か』。所々に白い石のような、骨のようなものが散りばめられている。

 

「ロキ!」

「うわっ!?」

 

 それを見たグレイが、加速した。

 ロキの二の腕を掴んで、立ち位置を入れ替えるように引っ張る。

 

「グレイ!?」

「おとん!?」

 

 それを狙っていたかのように、靄の中から『何か』が、巨大な腕が飛び出し、グレイを掴んだ。

 

「弓矢!」

 

 僕らしくない雑な指示。しかし、僕の声を聞いて反応した冒険者達が、黒い腕に向かって矢を放つ。

 

「ふんっ!」

 

 グレイも握りしめられた状態から右腕を出し、ダガーを突き刺して抵抗する。

 だが、黒い腕の主にとっては大したダメージにもならないのか、グレイを引きずり込もうと靄の中へと戻っていく。

 

「『アルクス・レイ』!」

 

 ダークレイスに打ち込むつもりだったであろうレフィーヤの魔法が、腕に向かって放たれた。

 

「……」

 

 しかし攻撃は間に合わず、壁に命中して破片が床に散らばる。

 

『……』

 

 ダークレイス達は攻撃を止めると、素早く後退。扉の向こうへと消えていった。

 

『……』

 

 時間が止まったように、この場にいる全員が頭上を見上げて固まる。

 

「……グレイさん……」

 

 レフィーヤの口から零れた呟きと、手から杖が落ちる音が通路に響いた。

 

 

 

 

「幸い、討伐隊の中にダークレイスの左手で魂を傷つけられた者はいなかったよ。ただ、他部隊の報告によれば、ダークレイス達には頭目が、『デュナシャンドラ』と『エレナ』の姿があったらしい。レヴィスという怪人(クリーチャー)が握っていた得物は、最古の物語(オールドテイル)に記された煙の騎士レームが振るった大剣、ナドラが宿った剣が握られていたらしい。そして、【精霊の分身(デミ・スピリット)】の配置されていた十層には、食べ残し(・・・・)が散らばっていたそうだ」

 

 地上に向かう道中、カーゴの中で、フィンさんは人造迷宮(クノッソス)に突入した時に起きた出来事の報告を行っていた。ガレスさんはカーゴを曳き、リヴェリアさんは出現したモンスターの対処に当たっている。

 

「僕の至らなさのせいで、このような事態を招いてしまった」

 

 フィンさんはそう言って、僕達に頭を下げる。

 

「……ベル様」

 

 フードに隠れて見えないけど、悲しげな表情のリリが、僕の手にそっと両手を重ねる。どうやら、無意識に思い切り拳を握りしめていたようだ。素手だったら血が滲み出るほど、強く。

 

「旦那……」

 

 ヴェルフはリリのバックパックを背もたれにするように座り、力なく項垂れている。

 

「ぐすっ……うぅっ……」

「春姫殿……」

 

 春姫さんは命さんの胸に顔を埋めて声を押し殺すように泣き、命さんは春姫さんを優しく抱きしめている。

 

「……」

 

 ネロさんは顔を憤怒に歪め、奥歯をかみ砕かんばかりに歯を食いしばっている。

 

「……【勇者(ブレイバー)】。貴方が見た腕はもしや、マヌスの腕ではないか?」

 

 ルヴィスさんが手を挙げて質問すると、フィンさんは無言の首肯で答える。

 

「嘘だ!マヌスはアルトリウスが倒したはずだ!」

 

 フィンさんの回答が納得できなかったのか、ドルムルさんが立ち上がって吠える。しかし、疲労が溜まった体に響いたのかよろめき、桜花さんと千草さんに支えられながらゆっくりと座る。

 ドルムルさんが言った通り、騎士アルトリウスが己の命と引き換えにマヌスを討伐し、攫われた姫君を救い出している。その代償に彼は深淵に飲まれて理性を失い暴走、名もなき不死との死闘の果てに絶命したと伝えられている。

 

「マヌスに似た姿の新種のモンスターが現れた。ってことはないの?」

 

 ダフネさんは顎に手をあてて暫し考えて訊ね、カサンドラさんが同意するように頷く。

 

「新種のモンスター、という可能性も否定はできない。けど、あの腕の主の正体と目的については、ネロ・エキリシアの方が。最古の物語(オールドテイル)の編纂者の末裔である彼女は、検討がついているんじゃないか?」

 

 フィンさんがネロさんに目線を移すと、ネロさんは頷いて肯定し、忌々し気に言葉を吐き出す。

 

「……カアス。闇に魅入られた、哀れで愚かな蛇」

 

 カアス。

 深淵に潜む世界蛇。

 最古の物語(オールドテイル)において、あの蛇は四人の公王を倒した不死、即ちグレイさんの前に姿を現わし、世界を闇に閉ざすよう告げたという。しかし、グレイさんはこれを拒絶し、王グウィンの後を継ぐこと、薪の王となることを選んだ。

 更にこの蛇は、深淵の主マヌスの封印を解くように民を唆した、ウーラシール滅亡の元凶とも伝えられている。だから、ネロさんはその名を口にしたのかもしれないけど、ドルムルさんが言うようにマヌスはアルトリウスによって討伐されている。つまり、フィンさんが目撃した腕の主がカアスということはあり得ない。もとより、蛇に手足はないのだから。

 

「それはありえません。手足を持たぬ蛇であるカアスに、グレイ様を掴むことなど不可能です」

 

 リリも同じ考えなのか、ネロさんに反論する。

 リリの質問に答えるように、ネロさんは語りだす。

 

「沈黙のアルシュナ。マヌスの残滓でありながら、本来なら誑かすべき王に忠誠を誓い、我が王と敵対することなく生きながらえた使徒。カアスは彼女を喰らい力を得た結果、マヌスに似た姿に変化する術を身に着けたのでしょう。そして闇派閥(イヴィルス)の冒険者達と【精霊の分身(デミ・スピリット)】を材料に、デュナシャンドラ、エレナ、ナドラの模造品を創り出したのでしょう。全ては、奴が望む闇の時代を齎すための手駒とするために」

 

 沈黙のアルシュナ。

 『渇望』の使徒デュナシャンドラ、『孤独』の使徒ナドラ、『憤怒』の使徒エレナと同じ、マヌスの残滓より生まれた『恐怖』の使徒。しかし、彼女は王に忠誠を誓っていたために不死と敵対することなく生き残っている。そして彼女は古き混沌を封印するため、エス・ロイエスに留まり続けると不死に告げた。そのように、『最古の物語(オールドテイル)』で彼女に関する物語は綴られている。

 再び、僕は拳を握りしめる。アルシュナの王への忠誠を踏みにじり、己の目的のために利用するなんて……!

 

「あ」

 

 そこで、僕は思い出した。オラリオにいる人と神の中で、最も精神的に大きな傷を負ったであろう女性のことを、レフィーヤさんのことを。

 

「レフィーヤさんの様子は?」

 

 ルヴィスさん達に聞こえないよう、フィンさんの耳元に顔を近づけて話しかける。特にルヴィスさんは事情を聞いたら驚愕のあまり、気を失ってしまうかもしれないから、細心の注意を払って。

 

「リヴェリアの胸の中で一晩中泣いた後、カアスへの怒りを糧に立ち上がったよ」

 

 『私達の予定を狂わせたあの蛇は絶対に許しません』と言っていたらしい。

 強い。グレイさんに想いを伝えるために何度も生まれ変わり続けたのだから、精神的に強い女性(ひと)だと思っていたけど、想像以上に強くて驚いた。

 

「明日、カアス打倒のために人造迷宮(クノッソス)に突入する。君達【ヘスティア・ファミリア】、【タケミカヅチ・ファミリア】、【ミアハ・ファミリア】を加えてね。ギルドに『遠征』の報告を終えたら、本拠(ホーム)で『ステイタス』の更新を行い、ゆっくりと体を休めてくれ」

『はい!』

 

 僕達は声を揃えて、フィンさんの言葉に返答する。

 

「出来ることなら、君達も加わってほしい。今はとにかく人手が必要だ」

 

 フィンさんはルヴィスさん達と、ドルムルさん達のパーティーを見て意見を訊く。それを訊いて、彼らはお互いに目配せをすると力強く頷いた。

 

「一晩あれば疲れなんて吹っ飛ぶ!」

『そうだそうだ!』

「四肢が少々欠けているが、世界の危機に比べればそんなものは些事だ!」

『そうだそうだ!』

 

 ドルムルさんとルヴィスさんが力強く参加の意思を示すと、パーティーの人達は拳を突き上げて同意の声を挙げる。

 

「ありがとう」

 

 フィンさんは彼らの言葉を訊くと、深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。

 

 

 

 

 そして地上に帰還し、ギルドへの報告も終えて。

 

「ベル、終わったぞ」

「うん」

 

 本拠(ホーム)に帰還した僕達は、【ステイタス】の更新を行っていた。僕の前にヴェルフが【ステイタス】を更新し、最後の僕の番が回ってきた。

 部屋に入ると、神様が手招きでベッドに腰かけるように促す。

 

「ベル君」

「はい」

 

 【ステイタス】の更新中、神様が語り掛ける。

 

「分かっていると思うけど、無理をしてはいけないよ」

「……はい、神様」

 

 ヴェルフ達にも言っていただろう神様の言葉に、首肯と言葉で答える。

 

「君達が逝くのは、皺くちゃの老人になってからだ。そうなる前に逝くことは、ボクが許さない」

「……分かりました」

 

 念を押すように、遠まわしに生きて帰るように神様が言う。

 

「はい、【ステイタス】の更新は終わったよ」

「ありがとうございます」

 

 気づけば【ステイタス】の更新を終えたのか、神様が僕の背中を撫でる。

 

「じゃあ、お風呂に入ってご飯を食べて、明日に備えて早めに寝ようか」

「そうですね」

 

 僕はベッドから降りて上着を着ると、神様と一緒に部屋を出た。

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