繰り返します。マスター候補生藤見練!さっさと来なさい!食堂をはじめとした全ての館内施設の使用を禁じるわよ!!
館内のスピーカーから所長の声が響き渡る。怒気が多分に含まれており、とても怖い。正直逃げてしまいたいのだが、そもそもカルデアというオルガマリー家所有の檻の中であり。その食堂が使えないとなると、行く末は残飯処理か餓死。
カルデアでの生活を一週間経とうとしており、今日もダヴィンチ先生に授業を受けた後、シミュレーションルームで戦闘訓練をしたのだが。帰ってゴロゴロしようとした矢先に館内放送が流れてきた。
なんとしてでも回避せねばと、強化魔術フル活用で所長室へ急行しているのだが。普通に廊下を走っては職員やマスター候補生とぶつかりそうになるので、魔眼を発動させ、魔力を感知することで曲がり角での追突事故を避けている。
実家に居たときは周囲の森に魔力が溢れていたので出来なかったが、このカルデア内の空気は神秘を帯びておらず。人や物の魔力を感知することができたのは幸いだった。
考えてみれば実家がおかしいんだよな。と、所長室にたどり着き。スライドドアが開ききる前にスルリと体を滑り込ませ、そのまま体を膝から順に綺麗に折り畳み。流れを殺さぬまま上半身も床へと伏せ、額を床に付ける。
この動きのポイントは相手の機嫌に関係なく、自ら謝罪の意を示すこと。そして見苦しく見えないよう、丁寧且つ慎重に無駄な動きを排した自然な動きをすることだ。
何より重要なのは相手の言葉より先に謝罪の言葉を告げること。不満はあるけど一応謝る、なんてものは相手の精神を逆撫でするだけ。自分自身の心からの言葉なのだと思ってもらうためにも先手必勝なのだ。
これが出来るかどうかで相手の心情は大きく変わってくる。
入った瞬間に所長とマシュ、あと知らない人が一人居たけど気にしてはいけない。羞恥心が襲ってくる前に全力ダッシュで分泌されたアドレナリンに身を任せて一言。
「すみませんでした!!食堂だけは勘弁してください!何でもしますから!!!」
視界は一面床なので所長の表情は窺えないが、前方から魔力の波が襲ってきた。この人感情次第で放出魔力の量変わるんだ、何て考えてるのは現実逃避です。ホント怖い
知らない人がいた辺りからズリ、と小さく音がしたのでおそらく半歩後ずさったのだと思われる。まぁ、気持ちは解る。俺もそっち側に立ってたら後ずさりする。
けどマシュ。カルデアで生活していく内に、君がわりと天然だってのは解ってきたけど。興味深そうに「これが極東の地日本に伝わる最終謝罪形態。DOGEZAなのですね」とか言うんじゃない。
泣きたくなるだろ?
DOGEZAって書くとGOZIRAみたいでカッコいいよね。