無垢な善性さ
それは人間を知らなかった。
無関心を、醜さを、嘘を、脆弱さを。
愛を、美しさを、真実を、力強さを。
知らなかった。知らされなかった。
檻の外を知らない小鳥のようだった。
器となるには無色でなければならない。
染まるモノで居なければならない。
人工生命では耐えられる強度を持ち合わせていない。
只の人では運命力が、素質が無い。
魔術師とは、倫理と常識を、命と野心で打ち砕くものだ。故に、無いモノを作り出そうとするのは当然の帰結だった。
失敗と時間、命を礎に人形は生まれた。
とはいえ、その組成はヒトのそれに近しく、真たる目的である器となるには時間を有した。
人形には箱が宛がわれた。異変はないか、失敗作ではないか。常に状況を確認するため、一つの面にはガラス越しに人形を観察する白衣の大人が並び。蓋の四隅には目が付いている………人形とベッドだけが入っている、全て白い色をした箱だ。
コミュニケーション能力や基礎学力が無ければ器としての役割を果たせないかもしれない。そういった理由で、人形には教育が施された。らしい
らしい。というのは聞いた話だからだ。俺がこの施設に来て、Aチームとしての権限やら、俺を雇った雇用主との世間話やらで集めた断片的な情報でしかなかったが、知れば知るほど俺は興味を抱いていった。
そんな中、俺の雇用主。マリスビリーが消息を断ち、その娘、オルガマリーが所長に据えられた。実力ではキリシュタリアに劣り、人徳でロマニに劣る。
お飾りって訳だ。
そんなティアラよろしく見てくれだけの所長だが、前所長、つまり実父の研究成果である少女に対して、ひどく怯えているそうだ。
何でも。恨まれているだとか、殺そうと思ってるに違いないだとか、律儀にも罪悪感を感じているらしい。やっぱ魔術師向いてねぇよあの嬢ちゃん。
ほっといたら「殺される前に私が殺す」とか言い出しそうだったんで、ペペやロマニに軽く匂わせたら速攻メンタルケアしてやんの。「やっぱり、笑顔が一番よねぇ」なんてペペは言っていたが。まさか、部屋を飛び出していった先で本人に泣きながら謝罪するとは思わなかったろう。
「やだ、あたしの上司情熱的」とはよく言ったもので、その話をペペから聞かされたAチームの面々の反応は多少の違いこそあれど、似たり寄ったりなものだった。
そんなのでこれから先大丈夫かよってな
まぁ、そんな経緯を経て。少女は晴れてAチームの補佐役となったわけだ。
製作秘話を聞いたときは、どれだけ狂ってんだって笑いだしたが、まさかここまで歪なものが俺と同じ時代を生きてたなんて思いもよらなかった。
どんなモノなのか無菌室に行ったとき。
一目見たときから、俺はずっと想ってたんだ。
この娘は俺にとって特別で、大切にしなくちゃって。だから誰にも傷付けさせない。絶対に死なせない。
それは、俺の、■■だった。
俺がマトモだなんて微塵も思ったことはなかったが、まさかこんな俺にも■■なんてものが備わっているとは。それこそ気狂いでも起こしたかと思ったが、この熱が、この欲が、何よりの証明ってやつなんだろ。じゃあ、しょうがないよな