ドクターが、帰ったらすぐにバイタルチェックをすると言っていましたが。
どうせならゲートまで向かえに行った方が良いでしょうか?
飛行機の窓を見ると、そこは銀世界でした。
荒々しい山肌は降る雪によって白く塗られ。何処までも続く峰は龍の背を思わせる。パイロットの話を盗み聞きするところによれば、連日続いていた吹雪が弱まっているとのこと。
安心して着陸出来る。と嬉しそうに笑っていた。
けどね?パッと見、滑走路無いよね。
僕知ってるよ?飛行機が飛ぶための浮力はその速度によって生まれてるってこと。そして、その速度を安全に落とすためには直線距離がとても必要だってこと。
気づけば、Drもオルガマリーさんもシートベルトをガッチリ締めて。穏やかな表情でシートに身を預けている。手が震えているように見えるのは気のせいだろう。
……………気のせいだと、いいなぁ
死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った。マジで死ぬかと思った。もうダメだと思った。山肌に沿うように旋回を始めたときは事故るかと思った。操縦席から聞こえる笑い声がめちゃめちゃ怖かった。四方八方に引き寄せられる感覚の後に窓ガラスから覗くWelcomeとこちらに振り向いたパイロット二人のドヤ顔がクソうざかった。
殴りたい!
その笑顔っ!
恐怖のアクロバット飛行も終わり、カルデアのゲートへと向かうDrとオルガマリーさんについていく。つけていく、ではないのであしからず。
「次からあの二人には必要以上の飛行は止めさせましょう。セルフ・ギアス・スクロールを使って」
そう言ったオルガマリーさんの目は潤んでいながらも、強い決意を感じさせるものだった。それはまるで両親の仇を打つことを決心したヒロインのようで………
いや、アクロバット飛行が怖かっただけでしょう?
「いや、水を差すようで悪いけど……無理だよ?」
「どうしてよロマニ!私はここの所長なのよ?我が職員があんな危険行為を無断で行ったとなればそれを正すのは責任者で有る私の役目でしょう!?」
………ん?ワタシハココノショチョウナノヨ?
「うん、それはそうなんだけどね?セルフ・ギアス・スクロールは使えないんじゃないかな、と思って。彼らはカルデア職員ではあるけど、魔術師ではないからね」
……わたしはここのしょちょうなのよ?
「…っ!じゃあどうすれば良いのよ!天気が良い日はパーっとアクロバット飛行でもしたいって言ってたの通路で聞いたことがあるけど、とても怖かったし!けれどカルデアという閉鎖空間ではストレスの発散はとても重要であることも確か!どうすれば良いっていうのよ!」
私はここの所長なのよ!?いかん、あまりの衝撃に頭がフリーズしてた。しかし、オルガマリーさん。いや、所長と呼んだ方が良いか。所長って随分と若いんだな。魔術師の家から子孫を預かったり。人理を保証するなんて、とてもじゃないが所長ほどの年齢で成し遂げられるものだとは思えない。いや、でも、魔術の世界って年齢よりも実力遵守だからなぁ。もしかして所長ってスゴい人?
「なにも、一人で抱え込まなくても良いんだよ?ここは君がマリスビリーさんから受け継いだ施設だけど、君だけの組織じゃないだろう?だからさ、まずは話し合って見れば良いんじゃないかな?」
Drの包容力が収まるところを知らない。優しさの塊かよ。医療部門のトップはカウンセリングも上手いんだなぁ。まぁ、カルデアの仕事内容って精神的にクるものばかりだろうし。必要技能なのかもな。
それにしても、所長が若いのは前任から引き継いだからだったのか。魔術師の研究を引き継ぐのは実力じゃなく血筋で決まるからなぁ。だとしても所長みたいな若い女性にお鉢が回って来るのは珍しい。血筋だとしてもオルガマリーさんの他に男性や年上がいたらその人が引き継ぐだろうからな。
「お帰りなさい。所長、ドクターも。長旅お疲れ様でした。ところで、その方はどなたでしょうか」
ゲートを抜け。暖かい所内へと入った俺たちを迎えたのは音声アナウンスではなく。淡い桃色の髪にメガネが似合う。白衣を着た美少女だった。
所長といい、Drといい、顔面偏差値高すぎでは?
「ただいま、マシュ。こっちは今日からカルデアに移ることになった藤見練よ。予定より随分と早くなったけれどね」
所長の先程までの様子も鳴りを潜め。出来るお姉さん感が半端ない。表情は穏やかで声色は凛としていながらも柔らかい。この少女、精神安定剤かな?
「そうでしたか。では、初めまして、私はマシュ・キリエライトといいます。これから、よろしくお願いします」
「えっと、ご丁寧に有り難うございます。藤見練です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
至らない点が、いやいやそんな、そんな事言ったら私なんて、そんな感じでお互いにペコペコ頭を下げていると、Drが笑いながら話しかけて来た。
「ほらね?言ったでしょ?藤見君は君の思う魔術師とは随分と変わってるって」
「はい。ショートメールが送られて来たときは半信半疑でしたが、こうして話してみると他の魔術師の方々とは違う雰囲気を感じます」
そう言ったキリエライトの顔は驚きで満ちていた。今にも本当に魔術師の方なのでしょうか?とでも言い出しそうだ。
「そうそう藤見君。これ、所員証。カルデア内の施設を利用するときとか、マイルームの鍵として使ったりとか。重要なものだから無くさないようにね。マイルームの場所は区画と番号で記されてて、今居るのが君のマイルームがある区画。番号は扉に書いてあるから。まずは荷物を置いておいで」
そう言ってDrが渡して来たのは、会社員が首から下げるような長方形のカードだった。そこには名前と顔写真。生年月日やマイルームの場所も書かれていた。個人情報てんこ盛りだな。絶対落とさないようにしないと。
「それじゃあ、三時間後くらいにマシュがカルデアを案内するために向かえに行くから。それまでゆっくり休んでおくといいよ」
マイルームに入って思う。台所、トイレ付き。エアコンに掃除機まで付いて、風呂まであるとか、こんなん引きこもるぞ?