さ、て。まずは荷ほどきか?えーーっと?こ、れ、が?本と本と本と本?こっちがマンガで?これが水晶?じゃあこれが金属板でー?……あ、これが魔術道具か
荷物多いわ………家から出たときはそんなに気にしてなかったけど。しかも本棚が無いから本は持ってきたトランクに入ったままだし。やけにマイルームが清潔だから金属板とか広げて作業部屋にするのも気が引ける。
一応、この部屋の設備は一通り見てみたけど。こんなん引きこもるぞ?それに、そもそも魔術師は引きこもりなんだ。
でも全ての施設が所内にあるならそれってインドア?まぁ、こんな雪山でアウトドアとか死ぬけど。外に出たら本能的にハウリングとシバリングが止まらないんじゃないか?
具体的には寒いって大声で叫びながらブルブル震える。
なんて下らないことを考えていると。控えめなノックが早いテンポで三回鳴った。そういえば、マシュがカルデアを案内してくれると言っていた気がする。
「先輩。そろそろ約束の時間になりますが、準備はよろしいでしょうか?」
「あぁ、大丈夫ですよ。わざわざ部屋まで来て貰って、すみません」
「いえ、気にしないで下さい。先輩はまだ、カルデアに慣れていらっしゃらないでしょうし。私にとってカルデアは家のようなものですから。案内も大船に乗ったつもりで任せて下さい」
そう言ったマシュの顔は自信に溢れており。やはり一番のオススメは多くの書物と様々な映像資料を楽しめるライブラリだとか。食堂の料理は定期便で送られており。世界各国の既製品を味わうことが出来るとか。多くのことを教えてくれた。
「次はシミュレーションルールへ行きましょう」
「はい。よろしくお願いします」
しばらく廊下を歩いていると、マシュが窓の外に目を向けながら話しかけてきた。
「そういえば先輩、実はカルデアから見える景色が吹雪じゃない日は珍しいんですよ?」
「そういえば、パイロットの方もそんな感じのことをおっしゃってましたね」
「はい。こんな日は職員の方やマスター候補生の皆さんはどこか、安心したような表情をされることが多いのですが、どうしてなのでしょうか?」
これは。話題の提供というよりは単純な疑問だろうか。ふと、気になったことを聞いてみた。といった印象を受ける。
答えとしては。吹雪は人間にとって生命活動に危機を及ぼす悪天候であり、その脅威がカルデア内の窓全てを埋め尽くして《いない》。という視覚情報からなる本能的な安堵からなのだが。どう言って説明したらいいんだ?「……い」
質問からして、マシュは吹雪というものに慣れきっている。初めは雪国の出身なのかと思ったが、だとすれば、吹雪が脅威であると知らないのはおかしい。雪国に住む人々は、寒さによる死が身近にあることを知っているからだ。「……輩」
いや、もしマシュが蝶よ花よと大事に育てられた相当な箱入り娘なのだとしたら、それはそれで納得なのだが。だとしたらこんな危険度の高い職場に親が送るだろうか?そういえば、オルガマリーさん。つまりこの施設の所長とずいぶん仲が良さそうだったし、もしかしたらアニムスフィア家の系列なのだろ「先輩!!」
「うぇ!?」
「すみません先輩。いくら呼び掛けても反応がなかったので、大きい声を出して意識の回復を試みたのですが。三度目の挑戦で成功です。ずいぶん考え込まれていましたが、それほどに難しい疑問だったのでしょうか」
「いえ、疑問自体はそれほど難しくはないのですが、どう説明したものか考えてまして……なぜ安心した表情をするのか?でしたね。皆さんは単純に、吹雪に馴れていないだけだと思いますよ」
「そういえば、ライブラリで調べた資料でも吹雪がここまで長く続く地域は多くありませんでしたね。カルデアには多くの国からエンジニアや魔術師が来られていますし、中には雪自体、見ることが少なかった方もいらっしゃるかもしれません」
「そういった馴れの問題の他にも、この施設に緊張やストレスを溜めやすい要素が多いことも関係しているかもしれませんね」
それを聞いたマシュは少し考えるような仕草をした後、小首をかしげていた。
思い当たる節がない。ということだろう。
「先輩、それはどういったものなのでしょう?」
例を挙げよう。
一つ、施設全体が緊張色である[白]だということ。
人の精神状態は色によって大きく変化するが白は特にストレスを与える色だと言われている。
一つ、植物が見当たらないということ
人は生物だ。その起源が自然にある以上、植物があるというだけで、安らぎが生まれることもあるという。
一つ、マイルーム以外、職場であること
生活に労働は欠かせないものではあるが、すぐ側にあったら気を休めることも儘ならないだろう。いや、俺が仕事したくないだけかもしれないが。
一つ、[魔術師]があふれていること
魔術を使えるということは、容易く命を奪えるということだ。それに加え、魔術師は他者の命を軽んじる傾向がある
一つ、[魔術]の秘匿を行わなければならないこと
本来、魔術は秘匿すべきものだ。それは幼い頃からの常識であり、絶対のルールだ。易々とひけらかすものではない。しかし、その魔術こそが戦闘力及び生存確率に直結するとなれば、鍛錬は欠かせないだろう。
一つ、所長が若すぎること
多くの国からエンジニアや魔術師を集めた本人、マリスビリー・アニムスフィア氏はもうこの世に居らず。その一人娘、オルガマリー・アニムスフィア元所長がこのカルデアの総責任者だ。しかし、彼女の精神が重責を受け止めるには、未だ経験と自信が足らない。
自己肯定感の低さと他者からの不満。双方が合わさったことで、今。彼女の精神は不安定過ぎる。
組織のトップに求められることは、明確な実績や多くの人を束ねるカリスマ性だろう。
「自分でもパッと思い付くだけで結構な数ありますし、纏まった時間が取れる時にしましょうか」
「はい。今日は先輩の案内以外の用事はありませんし、自分の世界を広げることは良いことだ。とドクターもよくおっしゃっています」
「じゃあ、案内が終わった後でライブラリにでも行きましょうか」
「了解です。そろそろシミュレーター室が見えてきますね。仮想エネミーとの戦闘をすることもできます、利用の手続きも含めて試しに練習していきましょう」
仮想エネミー、ね。
魔術道具持ってくんの忘れたな……
身体強化と水晶の形状変化でなんとかなるか