機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜   作:剣舞士

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なんとなく思いついたので書きました。

そしたら意外と書き進んだので、投稿しまーす。




プロローグ
プロローグⅠ


(ここはどこなのだろうか………)

 

 

 

あたりは真っ暗な為、ここがどこで、自分がどの状態のままなのかがはっきりしない。

ただ一つ言える事は、手脚を拘束されて、動きが折れないという事だろうか。

ぼやけていた頭が、だんだんとすっきりしていく。

そんな時に、ようやく思い出したのだ。

 

 

 

(そうだ! 俺は、いきなり誘拐されてっ………!)

 

 

 

そうだ、思い出したのだ。

ある日、いきなり黒いワンボックスカーが来たと思いきや、睡眠薬を嗅がされ、そのまま気を失った。

そこからの記憶がないため、一体どれほどの時間が経ったのかがわからない。

 

 

 

「くっ……痛っててて……」

 

 

 

おそらくずっと同じ状態で横たわっていたのだろう。

しかもそこが冷たいコンクリートの床ならば、なおさら痛い。縛られて思うように体を動かすことが出来なかったが、どうにかこうにか体を捩って体の向きを変えたり、近くに壁があった事が幸いし、状態を起こすことに成功した。

しかもその時点で、だいぶ夜目に慣れて来たので、ある程度の物が視認できた。

 

 

 

「ここは……物置なのか……?」

 

 

 

視界に映る範囲で見れば、ただの物置のように見えるが、声の反響具合や、空気感から肌で感じ取る……ここは物置なんて小さく思える大きな倉庫の中なのだと。

 

 

 

「くそっ……一体、今はいつなんだよっ……!」

 

 

 

時間の感覚がわからない。

そして、今日が何月何日何曜日なのかもだ。

囚われの身になっていた少年……その名を織斑 一夏と言う。

一夏が焦るのは、ちゃんとした理由があった。

それは、姉の試合の日にちが、間近に迫っていたからだ。

 

 

 

(俺が攫われた時が、試合の大体の一週間前くらいだったから……)

 

 

 

その日から、一体どれほどの時間が経ったのか。

それだけが心配だ。

姉に応援に行くと言っておきながら、実は誘拐されましたなどと、試合に集中して欲しい為に、そんな事を言えるわけもない。

今まで苦労して、頑張って来た姉が、ようやく世界初の偉業を達成しようとしているのだから……こんな事で、その報われるはずの思いを壊したくなかった。

 

 

 

「とりあえず、ここから出ないと……」

 

 

 

一夏は夜目で見てる限りで、手脚に触れるものはないかと探ってみる。

すると、ちょうど手のあたりに何かを見つけた。

 

 

 

(これは……酒瓶か?)

 

 

焼酎などが入っている一升瓶ではない……もっと小さい、ビール瓶ほどの大きさの瓶があった。

 

 

 

(こいつを割って……!)

 

 

 

体の向きを変えて、両足でビール瓶を持つと、そのままコンクリートに向けて振り下ろした。

ビール瓶は音を立てて割れ、そのあとで周りにいる何者かに聞かれたのではとヒヤヒヤするが、どうやら周りに人はいなかったようだった。

一夏はそのままの姿勢で、縛られた両手をお尻の下を通して、今度は両脚下を潜らせ、最後につま先にまわりこませる。

これで、多少両腕の可動域が広がった。

一夏は割れた破片を探して、手を伸ばす。

暗いゆえに、ガラス片に触れた瞬間、指先を切ってしまったが、今はそんな事どうでもよかった。

一夏はすぐに手首に縛り付けてあるロープを、そのガラス片で擦っていく。

やがて、断ち切られていくロープの感覚がわかり、あとは思いっきり両手を左右に広げて、束縛を解いた。

その後、同じように脚の拘束を解いて、晴れて自由の身になった。

 

 

 

「さてと、ここから抜け出さないとな……!」

 

 

 

一夏はそっと忍び足でその場を動きが、倉庫の中に僅かに光を照らしている部分へと歩み寄る。

倉庫の扉であるため、かなりの大きさなのだが、こう言うところには大体、従業員ようのドアがあるものだ。

手探りでドアノブのようなものがないか探し、手に何かが当たったのを確認した。

それがドアノブだとと言う事を認識し、慣れた手つきで鍵を開けて、ドアノブを回す。

ドアに何かの仕掛けなどがないか警戒していたのだが、そのようなところまでは、考えが足りなかったようだ。

一夏はゆっくりとドアを開け、まるで泥棒にでも入ったかのように周りに気を使いながら、その場から離れていく。

 

 

 

「おい、この件に奴らが本当に乗ってくるのか?」

 

「当たり前だろう……なんたって、たった一人の家族の身柄だぞ? 応じないわけがないって」

 

「っ……?」

 

 

 

 

その場から離れていく最中、突如男二人の話し声が聞こえてきた。

一夏は身を潜めて、男たちの話しに聞き耳をたてる。

 

 

 

「それにしても、織斑 千冬の弟だったか? 弟一人で家に残しておくとはな……」

 

「まぁ、織斑家はあの二人しか居ないみたいだからな。いかに世界最強の女といえど、超人じゃねぇんだ……手がつけられない場所なんてものはいくらでもあるだろう」

 

「しかし、いかに弟の命とはいえ、それと引き換えにISを10機も用意すると思うかぁ?」

 

「っ?!」

 

 

 

なんとなくだが、話の流れはわかった。

おそらく、一夏の命と引き換えに、世界のパワーバランスを覆しかねない兵器《IS》を要求したようだ。

そして、一夏が狙われた理由というのは、一夏の姉である千冬が、IS操縦者が出場する世界大会《モンド・グロッソ》を初めて制した者だからだ。

世界最強の称号《ブリュンヒルデ》の名を得ており、世界で千冬の名を知らない者など、ほとんどいないと言われている。

おそらく脅しているのは、千冬だろう……。そこから、日本の自衛隊、強いては、日本政府に対する脅迫だろう。

 

 

 

「ちょっとあなた達っ! ちゃんと仕事しなさいよねぇ!」

 

 

 

と、そこに甲高い女性の声が響いた。

その声に男達は驚き、さっと姿勢を正して、女性の方へと向き直っていた。

 

 

 

「今回の取引、あなた達の仕事の出来で結果が変わるんだからねっ?! そこんところわかってるのっ!?」

 

「わ、わかってるってば……」

 

「大丈夫だって……暗い倉庫の隅っこに拘束して監禁したんだからよぉ……」

 

「油断は禁物よ。とにかく、今すぐにでも確認してきて……。この取引はどう足掻いても成功させなくてはならないんだから」

 

 

 

どこの企業……どこの組織かは知らないが、かなり大胆な行動に出たと思う。

ISはその性能から、世界最強の兵器と言われているが、そのISにも、かなりの欠陥を抱えている。

その一つが、女性にしか動かせないという事。

男性がISに触れたところで、ISはただの鉄の塊でしかないのだが、なぜか女性が触れると、それが鎧のようになり、体に纏うことで飛んだら跳ねたり動かされるというわけだ。

そして、もう一つの問題が、ISを動かすのに必要な《ISコア》……。

人間で言えば、心臓のような物なのだが、その数が圧倒的に少ないのだ。

全人類の総数が今のところ約70億人以上と言われている中で、その半分が男性女性とわかれている。

つまり、約半分……35億人は女性であるのだが、それに対するISコアの総数は、467機しかないのだ。

ならばと、IS開発する企業や組織は、否が応でもISのコアを取得し、新型のIS開発を進めたがるのは道理。

だが、よもやこれほどまでに強硬手段に出た者達は初めてだろう。

 

 

 

 

「まぁ、とにかく、今のうちに逃げないとなっ……!」

 

 

 

とにかくその場を離れる。

一夏の思考は、ただそれだけだった。

しかし、そんな一夏の行動を邪魔するように、さっきの男達の声が響いた。

 

 

 

「おいっ! ガキがいなくなってるぞっ!!!」

 

「っ!? ヤベェッ!」

 

 

 

 

一夏はその声を聞くと、一目散にその場から走った。

周りは慌ただしい様子になり、先ほどの女性の怒鳴り声が遠くで響いている。

あたりを見回してみるが、そこは港にある倉庫区画のようだ。

貨物船などで運ばれていた物資を貯めておく倉庫と、運んできた物資を入れていたコンテナの山がたくさんある。

それ故に、かなり入り組んでいるため、こちらも相手側と遭遇するリスクが多少は軽減されている。

あまり大きな通りに出てしまえば、一発で発見されてしまうおそれがあるあめ、一夏はコンテナとコンテナの間や、倉庫と倉庫の間などを通り抜け、港の外へと急ぐ。

 

 

 

「あそこがっ、出口かっ……!!!」

 

 

 

金網のバリケードのように立つフェンスが見えてきた。

そこから出れば、あとは道なりにまっすぐ行くだけで、港から抜け出せる。

今になって気づいたが、あたりはもう真っ暗だった。

こんな事態だというのに、月明かりが綺麗に差して、星もキラキラと輝いている。

港のあたりは、街に比べると灯りが少ないため、星がよく見える。

そんな風に思っていた時だった。

もうゴールは目の前に迫ってきたにも関わらず、一夏の表情は晴れることがなかった。

なぜなら……その出口であるフェンスの前に、一人の女性が立っていたからだ。

 

 

 

 

「いやはや……たった一人でここを抜け出そうなんてねぇ……。いくら警備が手薄だからって、そうそう思いつけるものじゃないと思うわよ? 織斑 一夏くん?」

 

「はぁ……はぁ……いやいや、普通に考えるだろう。あんたらみたいな犯罪者の思うようには行くかってんだ」

 

「うんうん……。まぁそれは事実だから、それを言われてしまうとぐうの音も出ないんだけどねぇ」

 

 

 

 

そこまで言って、女性は黙ってしまった。

そして、その代わりということなのか、その体が細かい光の粒子で包まれ、その輝きを示した。

その後、光の粒子が消えた瞬間に、女性の体に機械の鎧が装着されていた。

 

 

 

 

「っ!!? ISだとっ?!」

 

「何を驚くの? 私は女なのよ? だったらISの一機や二機、扱えるに決まってるじゃない」

 

「くそっ!」

 

「逃さないわっ!」

 

 

 

 

ISを装備した相手に、生身の人間が敵うはずもない。

一夏は反転し、逆に倉庫街の方へと進路を変更した。

ISを纏った女は飛行し、一夏の姿を上空から監視し、追跡する。

 

 

 

(くそっ! IS相手にどうしろってんだよっ!?)

 

 

 

内心毒づきながらも、なんとか打開策を講じようとするが、中々いいものは思いつかない。

むしろ反抗すれば、八つ裂きにされるリスクの方が高いのだから。

 

 

 

「おとなしくしなさい!」

 

「いぃっ!?」

 

 

 

再び光の粒子が現れ、それを右手に集まる女。

そして、ガシャッ、という金属音が鳴ったと思い、視線を向けてみれば、そこには通常の物よりも二、三倍大きいアサルトライフルが握られていた。

女が乗っている機体は、日本製の第二世代型IS《打鉄》と呼ばれる機体。

そのアサルトライフル《焔備》の銃口を、まっすぐ一夏に向けていた。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待て! それは死ぬってっ!!?」

 

 

 

飛行しながらの遠距離射撃。

もはや詰んだとしか言えない状況……。一夏はただただ逃げる事しかできなかった。

そして非情にも、女は躊躇なく《焔備》の引鉄を引いた。

 

 

 

「のわあぁぁぁっ!!!???」

 

「あら? よく躱すわね?」

 

 

 

ほとんど意地で躱しているだけだ。

放った弾丸は、倉庫の外壁やコンテナ、コンクリートの地面に着弾し、その度に、爆散して飛び散った破片などが、一夏の体を切り裂く。

傷的には大した事はないのだが、それでも何度も喰らい続ければ、いくら丈夫な体でも身がもたない。

一夏は一旦倉庫の中に逃げ込んで、上空からの射撃を回避する。

 

 

 

「全く、往生際の悪い……。別に抵抗してくれなければ、こちらだって痛い目を見させないってのに……」

 

 

 

呆れた様子で倉庫に近づく。

倉庫の中は薄暗く、肉眼ではっきりと全ての物を見るのは難しい。

しかし、ISを纏っているならば、そんなものは関係ない。

ISに搭載されているレーダーを使えば、人と物を瞬時に判別できる。

 

 

 

「そこねっ!」

 

「ちっ!」

 

 

 

再び《焔備》の銃口を向け、弾丸を放った。

一夏もとっさに動き、銃弾の射線から外れる。

倉庫内ということもあって、多少の障害物があるので、女の射撃がどこまで正確に放てるのかが肝だが、慎重に狙いを定めているのなら、こちらにも打つ手はある。

 

 

 

「あーもうっ! こうも荷物多いと狙いづらいっ!!」

 

 

 

一夏に逃げ場はないのだが、逆に好都合な点が一つ……。

それは、この狭い空間の中では、ISの機動力を奪えるということだ。

 

 

 

「こっちだって、ただやられるだけだと思うなよっ………!」

 

 

 

一夏は鉄パイプを手に取り、ISに向かって走った。

 

 

 

「はっ! そんなもんでっ!!」

 

 

 

女は《打鉄》がもつ近接格闘装備である日本刀《葵》を抜刀し、一夏に斬りかかる。

だが、一夏は真っ向から対峙することなく、走った勢いそのままに、女の股下めがけてスライディングをした。

放たれた《葵》の刀身は、一夏を斬り裂くことなく、そのままコンクリートの床を叩き割る。

一夏は女の股下を滑りながら通り過ぎて行き、そのまま別の場所に逃げ込む。

 

 

 

「このっ、ちょこまかとっ!!」

 

 

 

女は激昂し、再び《葵》で斬りかかってくるが、その前に、一夏が鉄パイプで組まれた足場をよじ登り、斬撃を回避する。

そして、二階になっている場所から、足で大きな木の箱を蹴り飛ばしたり、鉄パイプで衝撃を与えて、他の荷物を落としたりし、女に向けてとりあえず何かを落とす。

 

 

 

「このガキっ……!?」

 

 

 

落ちてきた物を即座に刀で切断する。

しかし、その中身が問題だったのだ。

その中に入っていたものは、輸入物のワインが大量に入った木箱だった。

それを断ち切ったという事は、当然、中身のワインボトルを真っ二つになっているという事になるので、中に入っていた赤ワインが女の頭上から零れ落ちていくわけだ。

 

 

 

「きゃあぁぁぁっ!!!??」

 

 

 

突然の事に対応できず、女は悲鳴をあげて、落ちてきたワインを全てのその身に被ってしまった。

その後、ワナワナと震えだす女……そして次に一夏と視線が合った時、その間にはもう、慈悲の感情は入っていなかった。

 

 

 

「殺す………っ!!!!!!!」

 

「いぃっ!?」

 

 

 

 

女は再び《焔備》を取り出し、一夏に向けて容赦無く発砲する。

一夏は慌てて走り出し、倉庫内の二階の窓を突っ切って、外へと飛び出した。

二階の窓から出た為、当然地面へと真っ逆さまに落ちる。

苦し紛れに体勢を変えて、足から着地し、そのまま転がるようにして受け身をとった。

 

 

 

「くっ……ぁあっ……!」

 

 

 

飛び降りた衝撃で体が痛むが、それどころではないと、体に鞭を打って起き上がる。

急いでその場から離れるが、それを逃す女ではなかった。

刀で壁を斬り裂いて飛び出した後、一夏の後を追ってくる。

一夏は助けを呼ぶために、船の集まる港の方へと走った。

しかし、場所が場所だけに客船などはおらず、いたとしてもかもつせんが一隻か二隻くらいだ。

 

 

 

「タンカーには、人がいるよな……?」

 

 

 

淡い期待ではあるが、助かるためなら、どんな手でも借りたかった。

目の前に見えるタンカーめがけて、走り続けた。

しかし、その後ろからは、何かが飛んでくる音が聞こえてくる。

 

 

 

「くそっ、もう来たのかよっ!?」

 

 

急いで助けを呼びに行かなければ、すぐにでも殺されてしまう。

 

 

 

「待てぇっ! このクソガキっ! ぶっ殺してやるっ!!!」

 

「ちぃっ!」

 

 

 

《焔備》の銃口をこちらに向けながら、女はどんどん迫って来て、射程内に入った瞬間に、引鉄を引く。

 

 

 

「死ねぇぇッ!!!!」

 

「くっーーーーがはっ!!!!!!」

 

 

 

直撃はしなかったものの、着弾したコンクリートが爆散し、その衝撃によって吹き飛ばせる。

そのまままたコンクリートに体を打ち付けられた一夏。

その衝撃のおかげで、タンカーの近くまでは来れたが、今ので体が限界か近づいたようだ。

 

 

 

「ぐっ……くうっ……ううっ!」

 

「粘るわねぇ〜……。さすがはかの世界最強様の弟といったところかしら?」

 

「うるっ、せぇよ……!」

 

「ふんっ……。でもまぁ、私もさすがにやり過ぎちゃったかしらね? ほら、さっさと立ちな。

お前にはまだやってもらわなきゃならないことがあるんだからね」

 

 

 

それは、日本政府へと人質としての役割のことだろう。

だが、そんなものにやすやすとなるほど、一夏もガキではない。

 

 

 

「冗談じゃねぇよ……! 思いあがんなよ、クソ女」

 

「あぁン?」

 

「そんなに、その兵器が使えることが偉いのかよ? 俺から言わせて貰えばな、あんたなんて、うちの千冬姉に比べれば、カスみたいなもんなんだよっ!」

 

「なんっ、ですってぇ……っ!!!??」

 

「力を持った途端に喜んで、他人を見下す……クソガキはテメェの方だった言ってんだよっ!!!!!」

 

「っ〜〜〜〜〜!!!」

 

 

 

 

一夏の言葉に、とうとう女の堪忍袋の緒が切れた。

 

 

 

「もういい……。せっかく生かしておこうと思ってけど……それももうどうでもよくなっちゃった……」

 

「っ?!」

 

 

 

だらりと体から力を抜いたと思ったら、次の瞬間に、女のなったISは、目にも留まらぬ勢いで一夏に肉薄し、一夏の体に向けて拳を入れた。

 

 

 

「がっはぁっ?!!!」

 

 

 

一夏の体は吹き飛ばされ、そのまま港の淵まで飛ばされた。後もう少しで海に落ちそうになるギリギリのところで勢いが収まり、その場でうずくまる。

 

 

 

「ぐっ、ごはっ!?」

 

 

喉の奥から血が吹き出る。

かなりの勢いで殴られたため、おそらく肋骨や内臓の幾つかが衝撃でダメージを負ったのだろう。

 

 

 

「ぐうっ……はぁっ……はぁっ」

 

「調子に乗ってくれちゃってまぁ〜……」

 

「ぐうっ?!」

 

 

 

女は一夏の髪を掴むと、そのまま自身の目の高さまで持ち上げる。

本来、女が子供とはいえ、中学生を……ましてや長身の男を片手で持ち上げるなど、不可能に近いのだが、ISを纏っていては、その例外もありうる。

 

 

 

「どうしたの? さっきまでの威勢は……」

 

「はっ、はは……これだから調子に乗ったバカ女はさ……」

 

「くっ……!」

 

 

 

苦し紛れに毒づくと、女は一夏はそのまま投げ捨てた。

勢いよく投げ飛ばされた一夏は、後方に停泊していたタンカーのデッキに転がり落ちる。

 

 

 

「ぐっ……! うう、ぁあ……っ!」

 

「最後に言い残すことは?」

 

「っ…………くたばれ、クソババア……!」

 

「っ〜〜〜〜!!! どこまで行っても、クソガキはクソガキのままってかぁっ!!!??」

 

「くっ!」

 

 

 

 

 

女は《焔備》の照準を一夏に定めた。

そして、一夏は最後の力を振り絞って、駆け出す。

積荷の合間を縫って、女の銃の餌食にならぬ様に走る。

対して女は、どこに当たろうが構わないと言わんばかりに銃を乱射する。

その銃弾が、積荷の壁一つ一つに穴を開けていき、中に入っている荷物が出てくる。

しかしこの時、一夏も、そして女も知らなかった。

ここに積んである積荷が、一体何だったのかを……。

 

 

「スンスン……んっ?!」

 

 

 

鼻腔をくすぐるような臭い。

そして、積荷一つ一つから流れ出る黒い液体……。

油臭さを兼ね備えたそれは、『ドロドロ』という表現が相応しいくらいにゆっくりと甲板に流れ出る。

 

 

 

「これはっ、まさかっ!?」

 

 

 

そこで女は気づいた。

その積荷の正体を………。

黒くてドロドロとした油のような液体。

そして、大きな貨物船で運ばれてくるその謎の液体……その答えは……。

 

 

 

「ーーーー石油っ!!?」

 

 

 

石油タンカー。

その船の乗っていたのは、アラブ方面で取れた石油だったのだ。

そして、その石油が大量に漏れており、なおかつそんな場所で銃火器を使ったとなれば、その後の結末は、火を見るよりも明らかだった。

 

 

 

 

「くっ!!?」

 

 

 

女はすぐに飛び立ち、タンカーから離れた。

そして、女の言葉を聞いていた一夏もまた、船の前方甲板の端っこまで走り出した。

後もう少しで、その船から離れられる……。

そう思った瞬間、漏れていた石油に、火がついた。

そしてその瞬間に、超巨大な大爆発が起こった。

 

 

 

 

「ッーーーーーー!!!!!!?????」

 

 

 

 

爆風は、とんでもないレベルの衝撃となって、重症だった一夏の体に容赦無く降り注ぐ。

一夏は身動き一つすら取れず、そのまま海へと落ちてしまった。

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーっ!!!???」

 

 

 

 

暗い海。

冷たい海。

早く海上に上がらねば……そう思っているのに、体は言うことを聞かない。

次第に体に力が入らなくなっていき、とうとう目も閉じてしまった……。

 

 

 

 

(やばい……このままじゃ、俺は…………)

 

 

 

頭で考えてはいるものの、体が動こうとしない。

 

 

 

(俺…………このまま死ぬのかなぁ………あぁ……これじゃあ、千冬姉を、一人にさせちゃう……)

 

 

 

 

たった一人の家族。

幼い頃に両親が蒸発し、まだ学生ほ身でありながら一夏を育て、自分にも、他人にも厳しく接してきた姉。

そんな姉を一人残したまま、自分は死ぬのかと、こんな状況で思っていた。

死ぬことの悲しみや恐怖などではなく……たった一人の家族を孤独にさせる……そんなことの方が、よっぽど辛かった。

 

 

 

(千冬姉……鈴………箒………弾………数馬………みんなっ、最後に、逢いたかったなぁ〜)

 

 

 

 

無念の思いを胸に秘めたまま、一夏の体は、そのまま海の深い底へと、沈んで行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね…………みっ、大丈……っ?!」

 

「っ……」

 

「ねぇってばっ!!?」

 

「がっ!? ごほっ、ごほっ!!?」

 

「っ〜〜!! 生きてるっ……この子、まだ生きてるっ!!」

 

「がはっ!? ………はぁっ………はぁっ」

 

「しっかりして! 気をしっかり持ってッ!」

 

 

 

 

女の子の声がした。

必死に体を揺すっている。

その手が触れたところは、とても暖かく感じた。

必死に呼びかける声に、一夏は少しずつ目を開いた。

 

 

 

「ぁあ……」

 

「はっ……君っ、大丈夫っ?! 私のこと、見える?」

 

「き、君……は?」

 

「私は、アリサ。アリサ・ラインハルトよ……ここの近くに住んでるの。そしたら、あなたが浜辺で倒れているのを見つけて……」

 

 

綺麗な銀髪の長い髪。

それに、透き通るような白い肌。神秘という言葉が似合いそうな、蒼い瞳。

まるで、おとぎ話に出てきそうな妖精を彷彿とさせるような出来事だった。

しかし、それ故に疑問が頭によぎった。

 

 

 

 

「俺は……どう、して……」

 

「わからない……。今朝外に出てみたら、浜辺であなたが倒れてたの。体中ボロボロだし、意識なかったからっ……もしかしたら、死んじゃってるんじゃないかって、その、ビックリして……」

 

「…………」

 

 

 

 

ゆっくりと視線をアリサから外し、自身の体を見る。

服装は、中学校の制服。

しかしその所々は破けており、そこから血が滲んでいる。

また、起き上がろうにも力が入らない。

体中のあちこちが鈍い痛みを発している……。

これは、おそらくあのIS女が殴ったり、爆発の際に受けた衝撃が原因だろうと推測できる。

しかし、問題はそこではなかった。

 

 

 

 

「俺はっ………生きて……」

 

「ええ……。あなたは生きてるわ、ちゃんとっ……。心臓もしっかり動いてる。生きているのよ、あなたは………っ!」

 

「っ…………!」

 

 

 

 

あの状況下にいながら、死んでいてもおかしくなかったあの状況においても、生き残ったのだ。

我ながら、それが強運なのか、悪運なのか……とにかく、生きていた。

 

 

 

「ここ、は……?」

 

 

 

日本のどこか……なのだろうか?

それほど流されてはいないだろうと思っていたのだが……。

 

 

 

「ここは、オーブ領のオノゴロ島っていう島だよ」

 

「オー、ブ?」

 

「そう、オーブ……。あれ? 聞いたことないの?」

 

「っ………?」

 

 

 

 

オーブ……よくRPGのゲームなんかに出てくる『宝玉』のことか?

あるいは、漢字で書くと『央部』『桜舞』『奥武』…………などなど。

どれを取ってもパッとしない。

むしろ、オーブという国自体も知らない。

 

 

 

「っと、こんなところにずっといたら、体に悪いよねっ……! 立てる?」

 

「ぐぅ………」

 

 

 

アリサに言われて、体を起こそうとするが、突如痛みが襲う。

 

 

 

「ごめんっ……上手く、起き上がれない………」

 

「わかったっ、ちょっと待っててねっ!」

 

 

 

アリサは一夏を波打ち際から岸に引っ張り上げて、そのまま寝かせた状態にする。

そして、一目散に、海岸から離れたところにある民家に向かって走っていった。

 

 

 

「パパがお医者さんだから! ちょっと呼んでくる! もう少しだけ待っててねぇッ!」

 

 

 

走りながらそう叫んでいくアリサ。

一夏はホッと一安心したように、体から力が抜けていく。

音を立てて海岸に上ったり下がったりする波。

そして、その向こう……ずっと先にある水平線の上には、綺麗に輝く太陽が昇り始めていた。

その暖かな日の光を浴びる……。

 

 

 

「ち……ふゆ、ねぇぇ………」

 

 

 

今はどうしているだろうか……。

日本政府に、一夏が拉致されたと知らせが入り、それは当然、IS世界大会の日本代表に選ばれている姉の千冬の耳にも入っていたはずだ。

ならば、即座に捜索隊が結成され、今頃は血眼になって探しているだろう……。

あの爆発の後、件の連中はどうしただろうか……?

あれほどの大爆破を起こしておいて、全てを隠蔽できるとは思えない。

地元警察が動いて、原因を調べているに違いない……。

ただやっぱり……事件の詳細よりも、姉である千冬のことが心配だった。

また一人で頑張りすぎてるのではないか? 洗濯物はちゃんと直していてくれているだろうか? ご飯の用意をしてなかったから、ちゃんとまともな食事をしているだろうか?

そのことだけが、気がかりだった。

 

 

 

 

「パパ急いでっ! 早く!」

 

「待ってくれ、アリサっ!? 父さんはそんなに早く走れないんだぞっ!」

 

 

 

 

と、そこに先ほどの少女と、その子の父親と思しき人物の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「おいっ、大丈夫かっ?!」

 

「うっ……は、はい……」

 

「意識はしっかりしているな……外傷はそれほどでもないが、体へのダメージの方が大きいのか?」

 

「パパ、この子、立ち上がることもできないって……」

 

「わかった。とりあえず、家に運ぼう。父さんが背負うから、アリサは荷物を持ってきてくれないか?」

 

「わかった!」

 

「それじゃあ、動かすぞ? えっと、名前は?」

 

「あ、聞いてなかった……。ねぇ、君……名前はなんていうの?」

 

 

 

 

また、蒼い瞳が、一夏の顔をのぞいていた。

心配そうな表情で見つめてくる少女、アリサ。

この瞬間が、織斑 一夏にとっての、運命的な出会いだったのかもしれない。

 

 

 

 

「いちか………織斑……一夏だ……」

 

 

 

 

 

 

コズミック・イラ70。

その世界での年号だと、後々に知ることとなったのだが、その某月某日某所某時間………。

一夏は生き残り、この世界での運命の歯車を回すことになったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 






えぇー、どのくらいのスピードで更新するかは、まだ未定なので、長い目で見てもらえると嬉しいです。


感想よろしくお願いします( ̄▽ ̄)

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