機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜   作:剣舞士

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今回はユニウスセブン戦前の話です。


第6話 癒えぬ傷跡

デブリ帯での戦闘を終えたミネルバは、早急に船体の修復作業に追われていた。

あの様な危機的状況を脱するためだったとはいえ、戦闘に必要な各種火器センサーやスラスター、右舷の船体そのものが傷ついていては、戦闘艦としての機能を著しく害している。

その為、例の強奪機を持って行った艦は見捨て、ミネルバも急ピッチで作業に入ったのだ。

そんな中、ブリッジから仕官室へと移ってきたカガリとアスラン、そしてタリアとギルバートの四人。

その道中で、国の代表たる二人の社交的な会話が交わされたていた。

 

 

 

「今回の一件、一国の代表たる私にとってもこのような結果に終わったこと、非常に残念に思う。デュランダル議長にも、そしてプラントにとっても。早期の解決を心より思う」

 

「ありがとうございます」

 

 

そうしているうちに、四人は仕官室へと到着した。

 

 

 

「プラント本国とも、ようやく連絡が取れました」

 

「アーモリーワンの調査隊も向かっているとの事ですし、うち一隻を、お二人のお迎えに来させる様に通達もしていますわ」

 

「ありがとう……何から何まで、世話になる」

 

 

 

そう言って、カガリとアスランは部屋の中に入ろうした。

その時だった……。

 

 

「いやぁ〜しかし、先程は彼のおかげで助かったな、艦長」

 

「っ……!」

 

「へ? え、ええ……」

 

 

わざとらしく、先程の話を振り返るギルバート。

カガリは中に入ったまま、仕官室のドアは自動的に閉まり、廊下にはタリア、ギルバート、アスランの三人だけになる。

タリアも、ギルバートの言葉に、仕方なく頷く事しかできなかった。

 

 

 

「さすがだね……。数多の激戦を潜り抜けてきた者の力というのは……!」

 

「…………出すぎた事をして、本当に申し訳ありませんでした」

 

 

 

アスランはタリアに対して頭を下げた。

そらは無論、昔ならいざ知らず、今はオーブの民間人という立ち位置にいるアスランは、本来なら他国軍であるミネルバの指揮に介入なんてできるはずもない。

あの危機的状況であったのと、同乗していたギルバートの口添えがなければ、ただの外交問題になりかねなかった。

しかし、アスランの謝罪に、タリアは微笑みながら返した。

 

 

 

 

「いえ……判断は正しかったわ……ありがとう」

 

「いえ、私は別に……」

 

「では、私はこれで失礼致します」

 

「では、私も失礼させてもらうよ。ゆっくりと休んでくれたまえ」

 

「は、はい……」

 

 

 

 

 

アスランは力なく返事をして、仕官室に入ろうとした……だが、直後に頭を振り、カガリに断りを入れ、ミネルバ艦内にある休憩室へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

「あっ、シン! お姉ちゃん! レイ!」

 

「あら、メイリン」

 

「大丈夫だった? 怪我はない?」

 

「大丈夫よ、この通り怪我なんて一つもないわ」

 

「良かったぁ……」

 

「ちょっとメイリィ〜ン?」

 

「ひゃあっ?!」

 

「私たちもいるの忘れてないぃ〜?」

 

「ア、アリサとイチカも、お帰りっ! ひゃんっ! ちょ、くすぐったよぉ、アリサァ!!?」

 

「うふふっ、ごめんごめん♪」

 

 

 

格納庫から上がってきたパイロットたちを出迎えるメイリン。

あの戦闘の中を生きて戻ってきただけでも、充分すごいと思える。

しかしメイリンもまた、彼らが知らなかった情報を入手していた。

 

 

 

「ああっ、そう言えば聞いてよ! あのアスハ代表と一緒に随員してきた人、元ザフトのエースパイロットの、アスラン・ザラさんだっただよっ!」

 

「「「ええっ?!」」」

 

「アスラン・ザラ……! あいつがっ?!」

 

「っ……」

 

「その人って確か……!」

 

「元ザフトレッド、クルーゼ隊のエースパイロットで、前議長の息子さん……だったよな?」

 

 

 

 

アスラン・ザラという名を聞けば、プラント本国のみならず、ザフト軍の中でも知らぬ者はいないと言わしめた実力を持つパイロット。

前議長……パトリック・ザラの息子であり、ラクス・クラインの婚約者。

ザフトレッド……赤服を着て、クルーゼ隊のエースパイロットとして活躍し、後々プラント国防委員会直属の特務隊『FAITH』に任命され、トップエリートとされた人物。

そんな人物が、今はプラントを離れ、オーブで暮らし、ましてやアスハ代表のボディーガードとしての日々を送っているとは、一体何故なのだろう……?

シン達は疑問に思いながらも、終わった戦闘の疲れを癒すために、その場を移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

ーーーーこの艦にはもう、MSはないのかっ!?

 

 

ーーーーパイロットがいません!

 

 

ーーーーショーン機も、シグナルロストです!

 

 

 

 

「っ…………!」

 

 

 

先の大戦でも、大切な仲間を失った。

一番の親友だと思っていた友によって、軍の仲間が殺されて、逆にその親友にとって、大切だった友達を殺し、そのほかにだって、共に戦った仲間や、知り合いだった者たちが死んで行った……。

先程の戦闘で、ミネルバのパイロットも二名が戦死。

残るパイロットは、新型機に乗るシンと、最新鋭の量産機に乗るレイ、イチカ、ルナマリア、アリサの四人……計五人だ。

五人とも赤服を着ていることから、それぞれ優秀なパイロットであることが窺えるが……それでも、戦場では何があるかわからない。

現に、前の大戦では、同じ隊に所属する赤服のパイロットが二人戦死している……。

一人はMS強奪の任務中に……一人は、親友との戦闘の時に…………。

 

 

 

 

「…………もう、あんな事は…………!」

 

 

 

起きて欲しくない。

仲間であった彼らを失ったときの悲しみは、計り知れないものがあった……。

そしてその後、自分は憎しみに囚われ、親友とまで思っていた少年と殺し合った。

血で血を洗うとは、よく言ったものだった……。

 

 

 

ーーーー名はその存在を示すものだ。もし、それが偽りというのなら、それは、その存在そのものも偽り……という事になるのかな?

 

 

 

 

「っ…………!」

 

「けどさぁ、本当に名前まで変えなくちゃいけないもんなの?」

 

「ん?」

 

「だってあの人、前はーーーー」

 

「バカね、あんた。過去がどうだろうと、関係ーーーー」

 

「あ……」

 

「…………」

 

 

 

おそらくは自分の話……。

それはなんとなくわかった。

休憩室の入り口付近で立ち止まる面々。

先ほどMSに乗って戦ってきた、パイロットの面々と、CICブリッジにいたオペレーターの子だった。

オペレーターの子は、バツが悪そうに顔立ちが似ている赤服の女性隊員の後ろへと避難する。

 

 

 

「ヘェ〜、こんな所で伝説のエースパイロットとお会いできるなんてねぇ〜」

 

「ちょ、ちょっとっ、ルナっ!」

 

「……相変わらず度胸だけはあるな…………」

 

 

 

ルナと呼ばれた赤髪ショートの女の子。

ルナマリアがアスランに近づく。

後ろで手を伸ばして制止を促す銀髪ロングの子の手をかいくぐり、こちらに近づいてくる。

そんな彼女の行動を、黒髪蒼眼の男性隊員は呆れている様子だった。

 

 

 

「お会い出来て光栄です、アスラン・ザラ」

 

「……俺はそんなんじゃないよ……俺はアレックスだ」

 

「ふーん……だから、もうMSにも乗らない?」

 

「っ……!」

 

 

 

ルナマリアの発言に、アスランは少しムッとなる。

しかし、そんな会話を、後ろで見ていた黒髪赤眼の少年が割って入った。

 

 

 

「もうよせよ、ルナ……。オーブなんかにいる奴なんてほっとけよ」

 

「ん……?」

 

「何にもわかってないんだから……!」

 

「おい、シンっ……!」

 

 

 

 

シンと呼ばれた少年。

そうだ……出撃前に、カガリに対して睨んで罵声を浴びせた少年だ。

そんな彼を追いかけるように、白金色の髪をした少年が、アスランに敬礼し、その後を銀髪ロングの少女が追いかける。

 

 

 

 

「まぁ、何はともあれ、艦の危機は救っていただいたみたいで……ありがとうございました」

 

 

 

最後にルナマリアが敬礼し、その場を離れていく。

その後を、オペレーターの子が、「待ってよっ、お姉ちゃん!」と言いながら出て行った。

そして、その場に、黒髪蒼眼の少年だけが残る。

 

 

 

 

「あの……」

 

「っ……なんだ?」

 

「その……うちのシンが、あなたと、代表に対して失礼な事を言いまして……その、本当にすみませんでした!」

 

「え? あ、いや……」

 

「本当なら、本人が謝らないといけないんですけど……あいつ、ああいう性格なので……その……」

 

「いや、君が気にしなくてもいい……俺はそんなに怒ってないよ……まぁただ、たしかに代表に対してのあの言葉は、少々気にかかるがな……」

 

 

 

 

オーブからの移住者という事ならば、オーブの理念を知った上で、住んでいたという事になるはず……。

なのに、なぜあんな事を言ったのか……。

 

 

「えっと、俺、イチカといいます。イチカ・ラインハルト……」

 

「あぁ、よろしく。俺はアスラン……アスラン・ザラだ」

 

「え?」

 

「ん? どうかしたのか?」

 

「いや、アレックスって、名乗らないんだって思って……」

 

「まぁ、そう名乗ってもいいけど、君たちにはバレてるみたいだからね……」

 

「あっはは……」

 

「もうしばらく、この船の世話になるよ……こんな事態で、邪魔だとは思うが、よろしく頼む」

 

「いえいえそんな! 俺も、あなたみたいな伝説のパイロットに会えて、光栄です!」

 

「そんなんじゃないよ……」

 

「あはは……それじゃあ、俺も失礼させてもらいます」

 

「あぁ、すまない。せっかくの場所を横取りしたみたいで……」

 

「いやいや、そんなお気になさらず……では」

 

 

 

 

そう言って、イチカもその場を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ? そんな馬鹿なことがあるかよっ?!」

 

「いや、間違いないっ……これを見てくれ!」

 

 

 

プラントのすぐ側……そこにある、独楽のような形をした施設。

そこはプラント宙域観測所だ。

そこにいるザフト軍兵士たちは、日夜、地球軌道や衛星軌道上に不審なものがないか、また、プラントへと接近する不明艦が存在しないかを観測していた。

そんな観測所に、不審な観測データが入電した。

 

 

 

「こっちが二時間前のだ……間違いない。少しずつだけど、微妙に動いているんだ……!」

 

「そんな馬鹿なっ! ユニウスセブンは、100年単位で安定軌道にあるはずだろうーーーー」

 

 

 

 

そう、彼らが驚いていた理由……。

それは彼らにとっても、地球にとっても、悲劇の地として知られている廃棄コロニー……『ユニウスセブン』が、その安定軌道から外れ、地球に向かって移動を始めたという観測結果だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿なっ! そんなありえない!!」

 

「しかし、今も現に動いているではないかっ!」

 

「原因はっ?!」

 

「あの質量のものが、そう簡単に動くわけがないっ!?」

 

「評議会にも連絡をっ! あと、ミネルバにいる議長にも、早急にお伝えせねば!」

 

 

 

 

 

観測所、そして、プラント最高評議会もまた、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

そしてその知らせは、デブリ帯で船体の修復作業を行なっていたミネルバの元へもやってくる。

 

 

 

 

「ん? …………これはっ?!」

 

「バートさん? どうかしたんですか?」

 

「やばいぞこれは……っ! メイリン、至急艦長に連絡してくれ!」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

索敵担当のバートが受け取ったユニウスセブンの情報……その情報はメイリンに伝わり、メイリンから艦長であるタリアへと回る。

 

 

 

 

ーーーーピリリリリ!!!

 

 

 

「なに? どうしたの?」

 

『プラント最高評議会から、デュランダル議長にチャンネル1です!』

 

「っ……」

 

「ふむ……」

 

 

 

 

部屋は暗く、シャワーを浴びた後と思えるガウンを着たギルバートと、裸にシーツを纏っている状態のタリア。

せっかくの休息もままならないまま、またしても何かのトラブルかと思ったギルバートの表情は、なんとも晴れない、曇った表情をしていた。

しかし、ことの重大さを知った瞬間、ギルバートだけではなく、その場にいたタリアですら驚きを隠せなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだって!? ユニウスセブンが動いてるって、一体どうゆう事だっ?! そもそも何故っ?!」

 

 

 

 

数十分後の事だ……事の重大さを知り、なんとしても対応せねばならないと思ったギルバート。

すぐに対策を打つべく、部隊をユニウスセブンに派遣して、プラント本国でも対策チームを作り、対応に当てた。

そして、この重大な要件を、ミネルバ艦内にいるオーブ連合首長国代表たるカガリの耳にも入れておいた。

その情報には、カガリだけではなく、随員していたアスランも驚きを隠せない。

 

 

 

「それはわかりません……。ですが動いているのです……今この時も……それもかなりの速度で、危険な軌道をとって動いているんですよ」

 

「そんな……こんな事って……!」

 

「しかしどういう事ですっ?! ユニウスセブンは、100年単位で安定軌道にあると言われているものでっ…………!!!」

 

「っ……」

 

 

 

 

アスランの言い分は、プラント側も把握している。

かの『血のバレンタイン事件』の折、ユニウスセブンは戦争を拡大させた悲劇の地として全世界の人々の記憶にも残っている。

先の大戦の後も、ユニウスセブンで交わされた停戦条約も、まだ記憶に新しい。

そんなユニウスセブンは、プラントが建設している場所から遠く離れ、地球に近いデブリベルトと呼ばれる場所をずっと浮遊していたものだ。

それも、100年単位で、その安定軌道から外れることはないという見識結果も出ているほどに……。

だが、今回のこの出来事……かなりの速度で安定軌道から外れ、地球に向かってまっすぐ落ちていくという未曾有の大惨事……。

これは地球側もそうだが、プラント側にとっても信じがたい出来事になってきている。

 

 

 

 

「原因はわかりません……。隕石の衝突か、あるは別の要因があるのか……」

 

「地球は……どうなるんだ……?」

 

「っ…………それはおっしゃらずとも、姫もわかっていらっしゃるのでないですか?」

 

「っ……!!!?」

 

 

 

 

まず間違いなく、地球は壊滅的被害を被ることになる。

ただの隕石が落ちてきたとしても、地形が変わるほどの衝撃が生まれるのだ……ならば、それが最長でも全長8キロにも及ぶ巨大構造物が落ちてくれば、どうだろう……。

 

 

 

 

「姫には申し訳ありませんが、私はこのミネルバにも、修復作業が終わり次第、ユニウスセブンに向かってもらおうと思っています」

 

「「っ!!?」」

 

「ですので姫の方も、どうかご了承頂きたく存じます」

 

「いやっ、それは構わないっ! むしろ、そうしてくれと頼みたいくらいだ……っ! くそっ、これは……由々しき事態だぞ……!!」

 

「ありがとうございます、姫」

 

「一応こちらの方にも、迎えの船をご用意させてもらっています。どうかそれまでは、我が艦が責任を持ちますので……」

 

「あぁ、ありがとう、グラディス艦長……」

 

「では、私は引き続き評議会の面々とコンタクトを取り、対応に応じたと思いますので、これで失礼します」

 

「あぁ、貴重な情報をありがとう、デュランダル議長」

 

 

 

 

そう言って、ギルバートとタリアは、カガリ、アスランをその場に残し、仕官室を出て行った。

そして、ユニウスセブンの出来事は、ミネルバ艦内にも知れ渡り、整備班は急ピッチで機体の整備チェックに追われていた。

パイロット達は、次なる出撃に備えて、ブレイクタイムに入っていた。

 

 

 

「全くっ、なんでこうも次から次へと問題が出てくるわけっ? アーモリーワンでの強奪事件のことだって、まだ片付いてないってのに……!」

 

「っ……」

 

「そう言うなよ、ルナ……今はプラントだって、状況を把握するのに大変なんだろうさ……」

 

「そうは言うけどねぇ、イチカ。あんたは嫌じゃないの? こうも立て続けに問題を押し付けられるの……」

 

「そりゃあ俺だって、そう訳のわからないところで問題を起こされて、こっちに飛び火してくるのはごめんだけどさ……」

 

「ほぉ〜ら、やっぱりイチカだってそうなんじゃない」

 

「うぅ……」

 

 

 

休憩室でコーヒーを飲みながら話しているルナとイチカ。

その傍らには、同じMSパイロットであるシン、レイ、アリサの三人と、交代で休憩に入っていたヴィーノとヨウラン、メイリンの姿もあった。

 

 

 

「ユニウスセブンの軌道が変わったって、本当なのか?」

 

「うん、バートさんがそう言ってた」

 

「けどなんで? ユニウスセブンって確か、100年単位で安定軌道にあるって言われてたわよね?

それが地球に向かって一直線に落ちてるって……」

 

 

 

 

シン、メイリンに対してアリサが問いかけるが、無論二人が原因を知ってるわけもなく、二人して頭を捻ったり、首を横に振ることしかできなかった。

 

 

 

 

「けれど、このままユニウスセブンが落ちちゃったら、どうなるのかな……?

その…………地球、滅亡?」

 

「「「っ………………」」」

 

 

 

 

ヴィーノの言葉に、その場がまた一段と暗くなる。

だが、このまま見ているだけならば、まず間違いなくそうなるだろう。

 

 

 

「けどよ、だからといってどうすればいいんだ?」

 

 

 

今度はヨウランだった。

たしかに、今の状況は理解した。

しかし、それの対策をしなければならない。

ならば、どうすれば、地球滅亡というこの危機的状況を脱することが出来るのか……。

そんな時に口を開いたのが、ここまで無言だったレイだった。

 

 

 

 

「砕くしかないな」

 

「「「「っ!!!!!????」」」」

 

「今更軌道の変更など不可能だ。ならば、砕くしかない」

 

「く、砕くっ?!」

 

「マジかよ……!」

 

 

 

レイの発言、アリサ、イチカが驚くが、その二人だけではなく、その場にいた全員が驚いていた。

 

 

 

「でも砕くったってどうやって?! 半分に割れてるっていっても、最長部は8キロはあるって言うぜ、アレ!」

 

「っ……改めて聞くと、とんでもないよな、そんなの……」

 

「それに、あそこにはまだ回収されてない人たちの遺体も…………」

 

 

 

 

メイリンが悲痛な思いを含んだ声色で言う……。

そう、まだ全ての遺体および、遺品となる物を回収できてはいない。

そのままの状態で、地球に落ちていっているのだ。

 

 

 

「だがやらなければ、地球は本当に壊滅するぞ……。そこに生きる物全てが消え失せる……っ!」

 

「「「っ…………」」」

 

 

 

レイの言葉に、誰もが口を噤んだ。

確かに、やらなければ、地球に住む殆どの生命体が死に至る。

メイリンの様に慈しむ事も大事だが、事がこれほど重大になってしまっては、そうも言ってられない。

 

 

 

 

「けどさ、こう言っちゃなんだけど……それも仕方ないっちゃあ、仕方ないんじゃないの?」

 

「「「っ!!??」」」

 

 

 

 

そう言ったのは、ヨウランだった。

ヨウランは昔からこんな軽口を叩く奴だと、みんな認識してはいるが、何もこのタイミングで言わなくとも……。

 

 

 

「不可抗力だろ? こんなのってさ」

 

「おいヨウラン……そんな事を今言わなくてもいいだろう……不謹慎だろ……!」

 

「いやでもよぉ、実際そうだぜ? これが済んじまえばさ、妙なゴタゴタなんかも、案外簡単に終わるかも知れねぇぜ?」

 

「そんな簡単に終わるんだったら、今の時点で解決してるだろっ……!」

 

「でもよ、プラントにとっちゃ、案外楽かもよ?」

 

 

ヨウランの上段に、イチカが食ってかかる。

しかし、そこで思わぬ人物も食ってかかることになった。

 

 

 

「よくそんなことが言えるなっ! お前たちはっ!」

 

「「「「「っ!!!!?」」」」」

 

 

 

そこにいたのは、激昂の表情を浮かべたカガリだった。

イチカたちは慌てて手に持っていた飲み物をテーブルに置き、カガリに向けて敬礼する。

だが、カガリの怒りは収まらない。

 

 

 

「しょうがないだとっ……案外楽だとっ!? これがどれほどの事態なのか、本当にわかっているのかっ!!?」

 

「は、はい……す、すみません」

 

「お前たちはっ! この事態で、一体どれ程の被害が出るかわかっているのかっ! 一体、どれだけの人が死ぬことになるのかっ、本当にわかっているのかっ!」

 

「「「っ…………」」」

 

「お、おい、カガリ……!」

 

「やはりそうなのか、お前たちザフトはっ……!」

 

「っ……!」

 

「あれだけの戦争をしてっ、あれだけの思いをしてっ……デュランダル議長の元で、新たに心を入れ替え、ここまでやってきたのではないのかっ!!」

 

 

 

カガリの怒りは頂点に達していた。

誰もが口をつぐみ、事の重大さを改めて思い知り、そして、ヨウランの言葉が、どれほど不謹慎なものだったのかを改める。

だが、そんな空気を払拭するかのように、シンが口を開いた。

 

 

 

 

「別に本気で言っていたわけじゃないさ、ヨウランは……」

 

「っ……」

 

「そんなこともわからないのかよっ、あんたは……!」

 

「なんだとっ……!」

 

「おい、よせよカガリ……!」

 

 

 

 

シンの言葉にカガリは突っかかる。

しかし、そんなカガリをアスランが、そして、シンをレイが諌める。

 

 

 

「シン……言葉には気をつけろ」

 

「っ…………あぁ、そうでしたね。この人、偉いんでしたね……オーブの代表とかでしたっけ?」

 

「なんだっ、貴様っ!」

 

「いい加減にしろっ、カガリ!」

 

 

 

増長する怒りを抑えられないカガリを、アスランは強引に止める。

そんな様子に、イチカ達は驚く。

しかし、そんなイチカ達をよそに、アスランはシンに問い詰める。

 

 

 

「君は……オーブの事をだいぶ嫌っているようだな? 何故なんだ?……前はオーブに住んでいたそうじゃないか……」

 

「っ…………」

 

「オーブで君に何があったのかは知らないが、くだらない理由で関係ない代表にまで突っかかってくると言うのなら、こちらも容赦しないぞ……!」

 

「っ……くだらない……? くだらないだってっ!? そんな事言わせるかっ! 関係ないって言うのも大間違いだねっ!」

 

「お、おい、やめろシンっ!」

 

 

 

アスランの言葉に、今度はシンが激昂する番だった。

まるで殴り合いのケンカでも始まるのではないかと思い、イチカがシンの前に出て止めようとするが、シンの怒りの奔流は止まらない。

 

 

 

「俺の家族は、アスハに殺されたんだっ!」

 

「「っ!!?」」

 

「俺たちは、あんた達の国を信じてっ、理想ってのを信じてっ……そして最後に、オノゴロで裏切られたっ!」

 

「っ……!」

 

「だから俺はっ、あんた達を信じないっ! オーブという国を信じないっ! あんたらの言う綺麗事を信じないっ!!」

 

「っ……!?」

 

「この国の正義を貫くってっ……あんた達だってあの時っ、自分たちの言葉で、誰が死ぬことになるのかちゃんと考えたのかよっ!!!」

 

 

 

 

 

オーブ解放戦線……。

あの戦闘は、どうしても避けられないものだったと……軍の関係者は思っていた者が多かったろう……。

だが、あの時住んでいた国民の中には、何故戦わなくてはならなかったのかと、他に道はなかったのかと……そう思っている者達だっているはずだと……そう思っていた。

しかし、まさか目の前にいる者がそうだとは、カガリもアスランも思いもよらなかっただろう。

 

 

 

「やめろよシンっ……! 今そんな事言わなくったってっ……!」

 

「なんなんだよっ、お前はさっきからっ!! お前だってっ、父親をオノゴロで殺されたんだろうがっ!」

 

「えっ……」

 

 

シンの発言に、アスランの方が驚いた。

ならば、イチカは……いや、イチカとアリサの姉弟は、シンと同じように激昂する筈だ……現に、アリサの方は、先ほどの戦闘が始まる前に、睨みつけていた。

それはシンと同じような感情を抱いていたからだろう……。

だが、イチカはそんな様子はなく、むしろシンの言動に対して悪いと思い、謝罪までしてきた少年だ…。

 

 

 

「あぁ、そうだよ……っ、だけど、それを代表に言うのは筋違いだろっ!」

 

「何が筋違いなもんかっ! こいつだって! あの時、あの場で戦争の行方を見ていたんだろうがっ!

だったら、こいつだって当事者だ! 関係が無いなんて言わせるかよっ!」

 

「っ……!」

 

「もうやめてよッ!!」

 

 

 

 

悲鳴のような……悲痛な感情が入った声が響いた。

その声をあげたのは、アリサだった。

 

 

 

「こんな所でっ……そんな言い争いしないでよっ……!」

 

「っ……」

 

「アリサ…………」

 

 

 

アリサは顔を俯かせて、肩を震わせながら、そう言った。

しかしその後、カガリを強く睨みつけてる。

 

 

 

「アスハ代表……!」

 

「ぇ……」

 

「あなたの言う事は、確かに正しいのかもしれないわ……私たちは、オーブの理想が好きで、あの国に住んでいたんだもの……!

けど、そんな綺麗事だけでっ、理想だけで生きていけるなんて思わないでっ!!」

 

「ぁっ……!」

 

「あなた達の理想の過程で、失った人たちがいる事をもう少し考えなさいよっ!!」

 

「っ〜〜〜!!!」

 

「アリサっ、それ以上はっ……!」

 

「っ……」

 

「アリサっ!?」

 

 

 

 

アリサはそのまま休憩室を走って出て行った。

イチカはアリサを追いかけ、その場を出て行く。

 

 

 

「ふんっ……何もわかってないような奴に、偉そうな事言って欲しくないねっ……!」

 

 

 

そう言ったのはシンだった。

シンは、あえてカガリの肩にぶつかるように歩き、カガリの肩を弾いて、その場を出て行った。

その後、そんなシンをほっとけないと、ヴィーノが追いかけていき、それに便乗する形で、ヨウラン、メイリン、ルナマリアが出ていき、レイが敬礼をして、出て行った。

その場に残されたカガリとアスランは、ただ、その場で立ち尽くすしかできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

その後、ミネルバはユニウスセブンにいち早く向かっている『ヴォルテール』と『ルソー』という二隻のナスカ級戦艦と合流すべく、全速力で飛行する。

 

 

 

「ボルテールとルソーが、『メテオブレイカー』を持って、すでに先行しています」

 

「あぁ、こちらも急ごう」

 

「地球軍側には、何か動きはないのですか?」

 

 

 

アーサーの問いかけに、ギルバートは唸ってから答えた。

 

 

 

「何をしているのか……まだなんの連絡も受けてはいないが……月からでは船を出しても間に合わないな……。

後は地上からミサイルで撃破を狙うしかないが、それでは表面を焼くばかりで、さしたる成果は期待できないだろう……」

 

 

 

つまりそれは、現状の戦力……ナスカ級二隻とミネルバだけで対処しなければならないと言うことになる。

 

 

 

「まぁ、何はともあれ、地球は我々にとっても母なる大地だ……。この未曾有の事態に、我々も出来る限りの事をしよう……!

このミネルバの現状の装備や戦力では、出来る事はそう多くはないとは思うが、どうかみんな、全力で対処に当たってくれ」

 

「「「ハッ!」」」

 

 

 

 

議長なら言葉に、ミネルバクルー達の士気は上がるのだった。

一方、仕官室に戻っていたカガリとアスランは……。

 

 

 

「…………」

 

「カガリ……」

 

 

部屋は暗がりで、カガリは椅子に座ったままぼーっとしている。

そんなカガリに、アスランは飲み物の入ったボトルを持って近づいてくる。

呼びかけにカガリは応じない……。

そんなカガリの前で身をかがめ、手を取るアスラン。

 

 

「考えてもしょうがないさ、カガリ……わかっていた事だろう? ああいう人達もいるって事は……」

 

「でもっ……お義父様の事を、あんな風にっ……!」

 

 

 

カガリの義理の父……オーブの前代表……ウズミ・ナラ・アスハ。

かのオーブ解放戦線の折、共に国の行く末を見守ると誓った市長たちと共に、地球連合にオーブの戦力を明け渡すわけにはいかないと、国防本部……そしてモルゲンレーテ社を爆破し、そのまま亡くなってしまった。

 

 

 

「お義父様だってっ、苦しみながらお決めになった事なのにっ…………それをっ……!!!」

 

「…………」

 

 

 

何もわかっていない……。

そんな事はない。

少なくともカガリは、愛していた家族、そして友人たちを戦争で亡くしている……。

親しい者……家族を失った悲しみは、誰よりも知っているはずだ。

 

 

 

「それでも仕方ない……。だから分かってくれと言ったところで、今の彼らには届かない……。

多分……今は自分の気持ちだけでいっぱいなんだ……」

 

 

 

それは、自分も同じだった。

『血のバレンタイン事件』で、アスランは母親を亡くした。

それからだ……父は地球連合軍を……ナチュラルを恨むようになり、自分もザフト軍に入り、MSパイロットとして戦うと決めた。

そして、親友と殺しあうことにもなった……。

 

 

 

「それは、君自身が一番よく分かっているだろう? カガリ……」

 

「っ〜〜〜〜……ぅう、うわぁぁぁ……!」

 

「あ……」

 

 

 

目からは涙が溢れて、カガリはアスランに抱きつく。

そんなカガリを、アスランは優しく抱きとめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリサ……」

 

「グスッ……なに?」

 

「その……ごめん……」

 

 

 

イチカとアリサの部屋……。

部屋の中は、カガリ達の部屋と同じく暗い。

そんな中で、ベッドに座るアリサ……その目には涙が溢れていた。

そんなアリサの前に、イチカは立っていた。

 

 

 

「ごめんって……何が……?」

 

「いやその……さっきの……シンとケンカした、事とかさ……」

「別に……そんな事、どうでもいいの……。ただ、代表がムカついたから……」

 

「アリサ……」

 

 

 

 

イチカはアリサの隣に座る。

すると、アリサはイチカに体重を預けるように体を傾ける。

イチカの肩に自身の頭を乗せ、ゆっくりとイチカの手を取る……。

 

 

 

「アリサ……義父さんの事は、俺だって辛いよ。でも、それは俺たちだけじゃない……シンだって、それに代表だって、家族を失っているんだから……」

 

「それはそうだけどっ……!」

 

「…………憎しみ続けていたって、結局その輪から抜け出せなくなるんだ……そしたら、色んなものを憎みながら、生きていかなくちゃいけなくなる……。

俺は、そんなの嫌なんだよ……アリサにも、シンにも、他のみんなにだって、そういう事になって欲しくない……!」

 

 

 

憎しみ……。

それは、昔から機敏に感じていた。

それは、オノゴロで住んでいた時でなく、日本に住んでいた頃……。

姉の千冬は、世界でも有名な人物。

今や世界の象徴とも言うべき『IS』の乗り手であり、世界最強の称号を得た人物。

そんな姉の事を、心から尊敬している人なんかは多かったが、あまりにも崇拝し過ぎている人も多かった。

そのせいか、女尊男卑という風習をより加速させたような気がする。

その影響は、弟の一夏にだって来ていた。

千冬の弟なのに……と、知りもしない人間から文句を言われることなんて少なくなかった。

それはある意味の憎しみや恨みが含まれていての事だろう。

それを経験し、知っているからこそ、『一夏』から『イチカ』となった今、シンやアリサ達には、そんな人たちと同じになって欲しくなかった……。

 

 

 

「…………イチカ」

 

 

アリサはイチカの体に両腕を回して抱きつく。

そしてイチカはそんなアリサを、優しく抱きしめ返したのだった……

 

 





次回は、とうとうユニウスセブン戦へと突入します!


感想よろしくお願いします\(^^)/

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