機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜   作:剣舞士

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こちらも久しぶりの更新です。




第12話 ジャンクション

ユニウスセブンの落下事故から、一日が経った。

今もなお各地の被災地では、救援活動が続いており、大ダメージを負ってしまった都市部の方でも、軍隊か動き、今回の事件から生還した人々の安全を守ろうとしていた。

しかしながら、未だに各国では、プラントに対する反感と不信感で覆い尽くされていた。

そんな不安な情勢下で、オーブもまた、今後どうしていけばいいのかが分からず、代表であるカガリも、頭を悩ませていた。

 

 

 

「はぁ……ん?」

 

 

オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハは、いつもの時間に起きて、早々に着替えてから、食堂へとむかった。

今日も今日とて、朝から会議が待っている。

そして、まずは朝食をと、食事の取れる場所へと向かうと、窓際の席に一人……見慣れてた青年の姿を発見した。

 

 

 

「アスラン」

 

「ん? あぁ、カガリ……おはよう」

 

「うん……おはよう」

 

「どうしたんだ? 昨日は、やっぱり眠れなかったか……?」

 

「いや、睡眠はしっかり取っておかないとな……今日も朝から会議があるし」

 

「あぁ、そうだな……」

 

 

 

テーブルに座って、アスランはモーニングコーヒーを飲みながら、手元にあるPC端末を操作していた。

画面に映っていたのは、各国の報道やニュース番組などなど……。

彼自身も、今の情勢が一番気になっているのだ。

 

 

 

「あぁ、えっと……! その、昨日はすまなかったな! まともに話もせずに行ってしまった……!

今日もその、さっきも言った様に、会議が入ってて、ゆっくり話す暇もない……」

 

「わかっているさ。君は代表だし、今が一番大変だと言うことは、わかっているよ」

 

「アスラン……」

 

「それで? 今後はどうするつもりなんだ、オーブは?」

 

「え?」

 

 

 

アスランの淡々とした受け答えに、カガリは一瞬戸惑ったが、すぐに返答する。

 

 

 

「まぁ、正直に言うと、良くはないな……」

 

「…………」

 

「市長達や、ウナト達も、大西洋連邦からの提案に賛成している。だが、だからと言ってっ、何もプラントと敵対するという構造にまで発展しなくてもいいはずだろっ?!

何よりっ、ユニウスセブンを破砕し、被害を最小限にとどめてくれたのは、他ならぬザフト艦のミネルバなんだ……っ!

そんな恩を仇で返す様な真似っ、絶対にしてはならないっ……!

 

「ぁ…………」

 

 

 

迷いはある。

しかし、彼女の中では、少なからずブレていないものがあるのだ。

それは亡き父親が築いてきたものを壊さないように、培ってきた信念や理想を、無駄にしないために……。

そして何より、もう二度と、あんな馬鹿げた戦争を起こさない様に……二度と、オーブを焼かせない為に。

 

 

 

「カガリの気持ちはわかった。それなら、俺もここでのうのうとしてはいられないな……っ!」

 

「え?」

 

 

 

アスランはそう言うと、PC端末の電源を切って、立ち上がった。

そして不安そうに見つめるカガリの方へと視線を向けて、彼女に言った。

 

 

 

「俺は、プラントに行こうと思う……!」

 

「えぇっ?!」

 

 

 

アスランの発言に、カガリは大いに驚く。

アスランの両腕を掴み、その真意を問う。

 

 

 

「プラントに行くってっ、お前っ……?!」

 

「プラントの情勢が気になるんだ……。どうしても、議長ともう一度話し合いたい……手遅れになる前にな」

 

「ぁ……」

 

「今回の事件、俺もあながち無関係でもないからな……」

 

「なっ?! そ、それは違うだろう! あれはあのテロリスト達が、お前の父親を妄信していただけで、お前に責任はっーーーー」

 

「だとしてもだ!」

 

「っ……!」

 

「今もあぁやって、父の思想に染まっている人たちが、少なからずいるんだ……!

あんな、父の言葉を信じて……っ!」

 

「………………」

 

 

 

ーーーーナチュラル共を滅ぼせば、戦争は終わるっ!!

 

 

 

 

「だから俺にもっ、こんな俺でもっ、なにか役に立つならって……! “アレックス・ディノ” としても、“アスラン・ザラ” としても……」

 

「アスラン……」

 

「オーブの為にも、そして、プラントの為にも……俺は、この状況をなんとかしたいんだ……!

頼むカガリっ……俺をプラントに行かせてくれ……っ!」

 

「…………わかった。お前がそう思うのなら、私も許可するさ」

 

「カガリ……」

 

「私も、今の情勢下はあまり好ましくないと思っている。プラントと連合が、またいがみ合っている中で、オーブはこのままでいられるのかどうかもわからない……。

だが、私も出来る事ならっ、もう少し頑張ってみようと思う……!」

 

「……ありがとう、カガリ」

 

「気にするなよ……私も、お前も……今はできることを一生懸命やるしかないみたいだしさ」

 

「あぁ、すまないな……今オーブが、こんな状況だって言うのに……」

 

「いや……それはどこも一緒だろう? だが少しでも、対立せずに、平和的な解決ができるのなら……」

 

「あぁ……きっと、誰だって本当は望んでいるかもしれない……」

 

 

 

憎しみあった末に、どんな結末が待っているのか、彼らは知っているから……。

 

 

 

「それじゃあ、準備をしてくるよ」

 

「あ、あぁ、わかった。私もヘリを手配しておく」

 

「ありがとう、カガリ」

 

 

 

アスランはその場を後にして、自室へと戻っていった。

カガリはカガリで、朝食とともに手元に届いている各地の情勢など知らせが届いている書類に目を通し始めた……。

一方、オーブで修復作業を行なっていたミネルバのクルー達は、ミネルバ艦内で、おもいおもいに過ごしていた。

 

 

 

 

「えっ?! それって、本当!?」

 

「あぁ、まだわからないけどさ、整備や補給に数日はかかるわけだしさ? 案外出るんじゃないかって話が出てるぜ、上陸許可」

 

「うわぁ〜〜♪♪」

 

 

 

 

休憩室で整備班のヨウランとヴィーノ、そしてオペレーターであるメイリンが、そんな話をしていた。

これまで、ミネルバの艦内にずっと待機していたミネルバクルー達。

艦内が広いと言っても、やはり外に出てリラックスぐらいしたい。

 

 

 

「いやぁ〜、なんだかんだ言って、ここまでほんと慌ただしかったもんなぁ〜実際」

 

「もし上陸許可が出たらどうする?」

 

「私、オーブにあるお店で気になってた所があってっーーーー」

 

「あっ! そういえばオーブっさーーーー」

 

 

 

 

そんな元気な喋り声が聞こえてくる部屋の近くを、アリサとシンか通り過ぎた。

 

 

「………………」

 

「シンはどうするの? 上陸許可が出たら」

 

「ん? 別に……まだ決まったわけじゃないんだろう?」

 

「でも限りなく出るんじゃなの? まだミネルバの修復も、物資の搬入も出来てないんだし……」

 

「そう言うアリサはどうすんだよ? 出たら上陸すんの?」

 

「うん……。ちょっと、寄りたい所もあるしね」

 

「寄りたい所? なにそれ?」

 

「なーいーしょ。女の子の事をアレコレ嗅ぎ回るの、よくないわよぉ〜」

 

「なんだよっ……アリサから話ふってきたんだろっ?!」

 

「ふふふっ」

 

「なんだよ……ったく……」

 

 

 

 

ミネルバ艦内で、オーブ出身の者はシンとアリサ、そしてイチカの三人だけ。

今ミネルバには、イチカがいないため、アリサも何をしようかと迷っているのだ。

シンはシンで、上陸するかしないかで揺れているようだ。

アリサはそのままメイリン達との輪に入って行き、シンは自室へと戻って行った。

自室に入り、自分の使うベッドへと腰を下ろして、そのまま寝そべる。

制服のポケットからピンク色の折りたたみ式の携帯電話を取り出す。

その携帯は、紛れも無い……妹、マユ・アスカな物だった。

 

 

 

「っ……上陸か……」

 

 

 

そう呟いた時だった。

部屋の扉が開き、人影が入ってくる。

シンは視線だけを入ってきた人物に向ける。

入ってきた人物は、シンのルームメイトであるレイだった。

レイは入ってきていきなり、制服の上着を脱ぎ始め、脱いだ上着を自分のベッドの上へと放り投げる。

続いてズボンへと手をかけた時、シンはレイに問いかけた。

 

 

 

「上陸……」

 

「ん?」

 

「オーブに……。本当に上陸できるのかな?」

 

「さあ……」

 

 

 

シンの問いかけに、レイは素っ気なく返す。

そのままズボンもベットへと放り投げて、レイは軍支給の半袖上着とパンツのまま、各自室に設置されているシャワー室へと入って行った。

その中で残りの衣類も脱ぎ、しばらくすると、シャワーの音が響いてきた。

一方、オーブ官邸のそばにあるヘリコプターの発着所では、一機の軍用ヘリが到着、アスランの登場を待っていた。

アスランはいつものように、緑色のシャツにその上から黒いジャケットを羽織っている。

左手にはアタッシュケースを持っており、プラントへと入国する為の必要な物や、ギルバートに会う為に必要な書類を入れているのだ。

 

 

 

 

「国がこんな時に、本当、すまない」

 

「それはいいって……。気をつけて行けよ?」

 

「あぁ、うん……」

 

 

 

カガリの言葉に、アスランは珍しく歯切れの悪い返答をする。

そして、何かを決意したかのように、アスランはカガリへと向き直った。

 

 

「その……ユウナ・ロマとの事は、わかってはいるけど……」

 

「え?」

 

「その……面白くは、ないから……」

 

 

 

そう言いながら、アスランはカガリの左手を取ると、その薬指に、指輪をはめた。

 

 

「ぇ……えぇっ?!」

 

「…………」

 

 

左手の薬指にはめられた指輪……それが何を意味する物なのか……。

それがわかった瞬間、カガリはあたふたと動揺していた。

 

 

 

「え、えっとっ、あの、そのお…………」

 

「な、なんだよ……」

 

 

何かを言いたそうなのだが、なんと言っていいのか分からない……そんな様子のカガリ。

アスランもそんなカガリを見て、少し困惑した表情になる。

 

 

「こ、こういう指輪の渡し方って、無いんじゃないかっ?!」

 

「っ……悪かったな……」

 

 

カガリの一言に、アスランは思わず拗ねた表情で言い返した。

それを聞いた瞬間、カガリも呆気にとられたのか、キョトンとしている。

しかし次の瞬間には、そんな顔が笑顔に変わっていた。

 

 

 

「ふっ、ふふふっ♪」

 

「はは……」

 

 

 

アスランも、笑顔になったカガリを見て、一安心といった表情だった。

ここ最近は、外交問題や内政などで忙しく、カガリとゆっくり話すことすらできなかった。

それに、彼女の純粋なまでに笑っている表情には、このところお目にかかれていなかった……。

 

 

 

「気をつけて……連絡よこせよ?」

 

「ああ……。カガリも、頑張れ……!」

 

 

 

そういうと、二人は抱き合い、そっと口づけを交わした。

アスランはカガリから離れ、そのまま軍用ヘリへと乗り込んで、その場から飛び立っていった……。

その場に残されたカガリは、ヘリが見えなくなるまで、ずっとアスランを見送っていたのだった。

 

 

 

 

 

「なぁ、どこに行く?」

 

「私お洋服見に行きたい!」

 

「オレ腹へった!」

 

 

 

一方、ミネルバでは、ようやく出た上陸許可に胸を踊らせて、メイリン達はオーブへと上陸していった。

そんな中、自室で着替えを済ませたアリサも、ミネルバの艦内を歩いていた。

紺色の短パンに、ノースリーブのシャツと黒いジャケットを合わせた出で立ち。

普段から使用している黒いニーソックスを履き、スニーカーで合わせている。

そんな時、アリサの前をルナマリアが通りかかる。

 

 

 

「あら、アリサも出るんだ?」

 

「まぁね。一応……故郷だし」

 

「ぁ……ごめん」

 

「え? あぁ、いやごめんごめん! 暗くなっちゃったわね! 気にしないで……。

そういえば、ルナは上陸しないの?」

 

「ん? うーん……どうしようかなぁ〜って思って……。気が向いたら行くわ」

 

「そう……。じゃあ、私は一足先に行っておくわね! あっ、そうだ……シンにも一言言っといてくれる?

こんな時にでもいかないと、チャンスが無くなるわよーってさ」

 

「え? あ、うん……わかった。じゃあ、楽しんでねぇ」

 

「はいはーい♪」

 

 

 

そう言って、アリサは軽快な足取りでミネルバを後にした。

そしてルナマリアは、アリサの伝言をシンに伝えるため、シンの自室へと向かっていった。

 

 

 

「シン、いる?」

 

 

部屋の前に到着したルナマリアは、早速部屋の呼び出しボタンを押し、シンを呼び出すが、中からの返答がない。

 

 

 

「シンっ? いないの、シンっ?」

 

 

何度呼び出すが、出る気配がない。

単に無視しているのか、それとも初めから部屋にいないのか……。

 

 

 

「もう〜……どこ行ったのよ……。せっかくオーブに着いてるんだし……」

 

 

 

ルナマリアはそのまま踵を返して自分の部屋へと戻っていった。

一方その頃、シンはと言うと……。

 

 

 

「っ…………」

 

 

 

バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!

 

 

 

射撃訓練室にいた。

昨日からやっている射撃訓練。

昨日は人型に形をとった的に向けて撃っていただけだったが、昨日は、今までの射撃訓練よりも少し特別だった。

何故なら、あのアスラン・ザラが射撃の腕を見せてくれたからだ。

ルナマリアに促されてのことだったみたいだが、その後の射撃の腕は、シン自身も認めざるを得ない腕前だった。

昨日シン達がやっていた射撃の的は、動かず、ずっと固定されているものを正確に撃つと言うものだったが、アスランはそれをランダムに動き続ける的へと変更して、それをほぼ完璧にど真ん中を撃ち抜いた。

そんなものを見せられたら、少しは対抗心が出てきてしまう。

シンも、昨日アスランが行なっていたターゲットのランダム操作を行い、射撃訓練を行なっていた。

 

 

 

バンッ、バンッ、バンッ、バンッ!!

 

 

ピーッ、ピーッ、ピーッ、ピーッ!

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

 

 

流石に全てど真ん中に命中させる事は出来なかったが、それなりの成績だろう。

もっとも、射撃の腕ならば、アリサやレイと、上には上がいるが……。

と、そんな風に思っていると、射撃訓練室の扉が開かれた。

シンの後ろを歩いてくる人物は、先程名前を挙げたレイだった。

レイもシンと同じように、ヘッドフォンと、眼を守る為のバイザー、そして軍支給の拳銃を持っていた。

 

 

 

「…………」

 

「ん? なんだ?」

 

「え……あぁいや、別に……」

 

 

 

 

一瞬レイの方を見ていたのを気付かれたのか、レイがシンに問いかけるが、シンは踵を返して立ち去ろうとする。

そんなシンの背中に、レイは言葉を投げかける。

 

 

 

「お前はしないのか?」

 

「え?」

 

「上陸したかったんじゃないのか? 出たろ、許可」

 

「……………」

 

 

 

それだけ言うと、レイは準備を整え、射撃訓練を開始した。

シンはその言葉をもらい、ようやく出る決意を固めた。

自室に戻る為、ミネルバの艦内を歩いていると、ちょうどいいタイミングで、ルナマリアと鉢合わせた。

 

 

「あっ! シンっ、探したわよ!」

 

「ルナ? なに、どうかしたの?」

 

「なにって……。せっかくオーブへの上陸許可降りたのに、あんたがいなかったから……」

 

「ぁあ……ごめん、射撃訓練してた」

 

「はぁ? こんな時に射撃訓練?」

 

「悪いかよ……俺の勝手だろう?」

 

「まぁ、いいけどね。それより、アリサからの伝言、預かってんのよ」

 

「アリサから?」

 

「そう……『こんな時にでもいかないと、チャンス無くなるわよぉー』だってさ……」

 

「…………わかってるよ。今それでこそ行こうと思ってたし……」

 

「あら? そうだったの? じゃあさ、私も行くから一緒に途中まで行こうよ」

 

「え? うん、まぁいいけど……」

 

「よし! じゃあ入口前で集合ね! 遅れたら承知しないんだから!!」

 

「わかったよ!」

 

 

 

 

ルナマリアが自室へと向かって走り去って行く。

シンも自室へと戻り、着替えを済ませて、ルナマリアの待つミネルバの入艦口へと走っていったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここも、変わったのね……」

 

 

 

その頃、アリサは一人……オーブ領オノゴロ島の沿岸部に来ていた。

綺麗に舗装された道……その道の上で、アリサは立ち止まり、周りを見回していた。

その道の両側には、色とりどりの花々が咲いていた。

しかし、オーブもユニウスセブンの破片落下の影響で、高波被害にあっていたはず……ならばこの辺りにも、高波が押し寄せて来たはずだろう。

ならばここに咲いている花は、いずれ枯れてしまう……。

 

 

 

「っ…………でも、二年前よりかは、マシよね」

 

 

 

二年前……アリサの立っている場所は、今よりももっと酷い有様だった。

鳴り止まない戦闘音……恐怖に怯える避難民……その声からして、いかに今の状況が危機的なのかを彷彿とさせるオーブ軍の軍人たちの声。

そんな最中、アリサ達は、近くの山道を必死に駆け抜けていた。

 

 

 

ーーーー…ただ、前を……向いて、歩け……そうすれば、いつか、必ず………。

 

 

 

父、アッシュの言葉が蘇る。

あの日、救えなかった大切な家族。

その家族と約束した大切な言葉……。

 

 

 

(パパ……私、もっともっと強くなるからね……今度こそ、戦争なんて起きない世界にしてみせるから!)

 

 

 

天国で見ているであろう父・アッシュに、アリサは誓願の言葉を念じた。

それが終わり、アリサは再び歩み始める。

両手には、いろんな種類の花を束ねた花束を持っている。

そのまま沿岸部を歩いていると、海へと突き出るように沿岸部が競り出ている場所があった。

その先には、なにかの石碑が発見された。

 

 

 

「何かしら……?」

 

 

 

少なくとも、二年前にはあんな物はなかったはず……。

ならば、あの侵攻の後に建てられた物なのか?

アリサは石碑のある場所まで近づいて行くと、やはりそこには、二年前に亡くなった者たちへの慰霊碑が建てられていた。

 

 

 

「慰霊碑……こんな物があったなんて……。まぁ、こっちには好都合かな……」

 

 

 

アリサはそう言って、持っていた花束を慰霊碑の前に置いた。

昼間は高く上っていた太陽も、今は少しずつ傾き始めているため、陽の光も少しだけ赤みが増している。

その太陽を背にした状態で、アリサは両膝を地面に付き、両手を組むようにして握り、顔の前へと持ってくる。

そのまま瞳を閉じて、祈るような格好になる。

これは、昔からお願い事をしていた時のアリサのくせの様なものだ。

母・ユリスがしていたのを真似て、いつのまにかこれが当たり前のようになっていた。

しかし、イチカのとった格好が、アリサには驚きだった。

アリサのように両手を組むのではなく、両手を合わせるようにして祈っている。

イチカはその構えた手のことを『合掌』と言っていた。

合掌もまた、神様や亡くなった人に対して向ける祈りの構えなのだとか……。

 

 

 

ザッ……ザッ……

 

 

 

「ん?」

 

 

 

そんな風に考え込んでいたら、後ろから近づいてくる足音に気づいた。

ゆっくり振り返ると、そこには、茶髪の青年が立っていた。

 

 

 

「…………」

 

「こんにちは」

 

「あ、えぇ、こんにちは……。あなたも、祈りに?」

 

「うん……。ここへは、初めて来て……こんな場所があったなんて、知らなかったから……」

 

「オーブの方、ですか?」

 

「うん……ちょっと離れたところで暮らしてるんだけど、ここまでは、あまり来ないから、慰霊碑があるのも、ついさっき知ったんだ。

今は、僕の付き添いの子が、花を集めにいってる」

 

「そうだったんですか……」

 

 

 

印象的には、好青年と言えるような顔立ちと性格。

アメジストのような瞳の色が、どことなく儚げに見えた。

 

 

 

「では、私は終わりましたので、失礼します」

 

「あぁ、うん。ありがとう」

 

「では……」

 

 

 

アリサは青年に一礼し、その場から離れる。

青年もまた、アリサに対して一礼し、そのまま石碑のところへと行く。

来た道を折り返す様に、アリサが歩いて行くと、どこからか歌声が聞こえて来た。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

ーーこんなに〜♪、冷〜たい〜帳の深くで〜♪ 貴方は〜、一人で〜眠ってる〜♪

 

 

 

どことなく儚さと、優しさを兼ね備えた様な……祈る様な歌声。

どこから聞こえてくるかはわからないが、アリサを目を閉じて、流れてくる風の音と共に、その歌を聞いていた。

 

 

 

(凄く優しい歌声ねぇ……)

 

 

 

声の質感からして、女性であることはわかる。

しかし、音楽にはあまり詳しくないアリサ。

 

 

 

(この声、どっかで聞いた様な……どこで聞いたんだっけ?)

 

 

本来なら、嫌という程聞いて来ているはずなのだが、音楽にはあまり興味がないため、アリサの脳内には、ある人物の名前が浮かび上がって来ない。

 

 

 

(まぁ、いいか……。それよりお腹すいたし、どこかでご飯食べようっと♪)

 

 

 

来るときは重い雰囲気だったが、綺麗な歌声を聴いて、少なからず心が洗われたような、そんな清々しい気分になった。

アリサはそのまま振り返ることもなく、その場を後にしたのだった。

 

 

 

「あら? あの方……この周辺では見かけない方ですわね……」

 

 

そんなアリサの後ろ姿を眺める、ピンク髪の女性。

去って行くアリサを確認したが、すぐに方向転換し、岩場の方へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

そして、陽が完全に傾き始めた頃……。

オーブ首領官邸に、ユウナ、ウナトと言った市長会の面々が集まり、カガリの部屋へと押し寄せた。

そして、先程通達された大西洋連邦からの発表を、机を挟んで座るカガリへと連絡する。

 

 

 

 

「そんなっ……それは、何かの間違いだ! そんなのはっ……!!」

 

「いえ、間違いありません。先程、大西洋連邦並びにユーラシア連邦など、その他多くの国々が一堂に提示した要求であります。

その要求を受け入れられない場合、プラント本国を、地球圏国家に対する極めて悪質な敵性国家と認識し、これに武力を持って対処することも辞さないという考えを発表しました」

 

「そ、そんな……!」

 

「正式な発表はまだですが、既に大西洋連邦からの、同盟条約の締結を急ぐようにと、再三に渡る要求も出ております……!

代表、事は刻一刻を争いますっ……どうか、ご決断を……!」

 

「くっ……」

「カガリ様っ……」

 

「代表っ……」

 

「……カガリ様っ!」

 

 

 

 

まるで多勢に無勢……。

今まで通り中立を貫きたいと、その意思を示しているカガリ一人と、同盟条約の締結を賛成する市長会たち。

しかし、今ここですぐに決断をするという事は出来ないと、カガリは集まった面々に告げ、今回はこれで手打ちとなったが、事ここに至っては、既に回避できない状況へと陥っている。

そして、オーブが同盟条約に締結するのも、そう時間はかからなかった…………。

 

 

 

 

 

 

 

オーブがそんな事態になっているのも知らずに、ミネルバクルー達は、思い思いに過ごしていた。

オーブ国内でのショッピングを楽しむ者たち、補給と整備に追われる者たち、そして、ある目的のために、その場所を訪れている者も……。

 

 

 

「っ…………」

 

 

 

アリサが既に訪れていたオノゴロ島沿岸部に、シン・アスカの姿があった。

イチカ、アリサと同じく、シンもこのオーブ領オノゴロ島の出身だった。

そして、二年前のあの日に、大切な家族を一瞬にして奪われた。

 

 

 

「くっ……!!」

 

 

 

二年前のあの日……オーブの領海へと、地球軍の艦隊が攻めて来て、オーブはその侵攻を武力を持って対処した。

しかし、あまりの戦力差に、オーブの敗戦は目に見えていた。

そんな最中、山を駆け降りていたシンたちアスカ一家の直上へと、一発の砲火が降り注いだ。

そのせいで、父親と母親は爆風に吹き飛ばされ、大木の下敷きになったり、原型をとどめていないレベルでの体の損傷。

妹のマユに至っては、腕がもげ、もはやそれがマユなのかすらもわからないほどの遺体だった。

あの瞬間、全てが憎かった。

家族を一瞬にして奪った戦争も、都合のいい理想を口走り、結局何も守れなかったオーブも……そして、何もできずに、ただ悲しみの慟哭とも言える叫びをあげることしか出来なかった自分も、全てが憎かった。

 

 

 

『はい、マユで〜す! でもごめんなさい、マユは今、お話しできません! 発信音の後に、名前と電話番号を言ってください!』

 

 

 

 

右手に握りしめていた携帯が、唯一の遺品となった物。

マユの携帯電話だ。

そこから聞こえるマユの声。

そして、フォルダーに残っている僅かな写真だけが、家族のと思い出の品。

もう、誰もいない……自分は今、世界でたった一人なのだと……時折そう思ってしまう。

あの日の記憶を呼び起こしながら、シンは涙を流さないように空を見上げ、必死に涙をこらえた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 

悲しみで胸が張り裂けそうだったが、なんとかそれを抑え、呼吸を整える。

すると、そんなシンの視界に、ある光景が映った。

 

 

 

「ん?」

 

 

よく見れば、茶髪の青年が、石碑を眺めながら、ずっとその場に立っている。

その背中を射す夕陽の光と合わさって、どこか儚げな印象を得た。

そして、なぜかわからないが、その青年の元へと近づいていく。

青年も青年で、近づいて来ていたシンに気がつき、後ろを振り返る。

 

 

 

「慰霊碑……ですか?」

 

「うん……そうみたいだね。僕も、こっちには初めて来たから……こんなのがあるなんて、知らなかったんだ……」

 

「そうですか……」

 

「君も、祈りに来たの?」

 

「え?」

 

「さっき、銀髪の女の子が、ここに居て……この花束も、その子が置いて行った物なんだ」

 

 

 

そう言って、青年は慰霊碑の前に置いてあった花束を指差す。

この場所を訪れた、銀髪の女の子というのは、おそらくアリサだろうと、シンはすぐにわかった。

 

 

 

「ここも、こんなに綺麗なって……でも、せっか波を被っちゃから、また枯れちゃうね……」

 

「っ…………」

 

 

 

綺麗に舗装された道

整備された山の斜面や花々が咲いている花畑。

二年前のあの日よりもずっと、今の方が綺麗だ。

しかし、人は……人類っていうのは……。

 

 

 

「誤魔化しきれない……っていう事なのかも……」

 

「え?」

 

「っ…………いくら綺麗に咲いても、人はまた吹き飛ばす…………っ!!!」

 

「君……」

 

 

 

そうだ。

平和だったあの日常を、突如として奪って行ったのは、他でもない、同じ人類だ。

ただ、平和に暮らしたい、平穏で居たいと望んだだけだ……しかしそんなものを受け入れられないとばかり、勝手に戦い、勝手に破壊していく……。

何度同じ事をすれば、人類は理解するのだろうか……。

 

 

「すいません、変なこと言っちゃって……じゃあ、自分はこれで」

 

「…………」

 

 

 

特に会話することもなく、シンは青年に一礼してその場を後にした。

これが、キラ・ヤマトとのはじめての対峙である事を、シンは知る由もない。

そしてキラもまた、これがシンとの運命的な出会いである事を、この時は知るはずもなかった……。

 

 






次回は、とうとう開戦へと進めます。
そして、イチカの新型機も、登場させて行こうかと思います!

感想よろしくおねがいします(^^)

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