機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜   作:剣舞士

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今回は少し調子が良かったので、早めに投稿できました^_^




第15話 父の呪縛

地球軍からの一方的な開戦宣言。

それから始まった宙域での戦闘は、地球軍艦隊が月基地へと撤退したことにより、一応は終息した。

だが、未だに油断はできずにいる。

強引に開戦された事もそうだが、よもや核攻撃まで仕掛けてくるとは思ってもいなかったことが大きく、戦場に出て行ってたパイロット達の表情にも怒りの色が見え隠れしていた。

そんな中、無事ゴンドアナへと帰還したイチカ。

機体の損傷具合がひどいため、急いで整備班に機体を預けに行く。

コックピットを降りて、ヘルメットを脱ぐ……額から流れ出た汗が、無重力によって宙に浮かび、それを振り払うように顔を横に二、三度降った。

 

 

 

「………………」

 

 

 

整備班によって運ばれていく自身の機体。

左腕と右脚を破壊され、見るからに痛々しい姿になっている。

しかし、そんな機体の状態でありながら、イチカはあの混戦を生き抜いた。

向かってくるダガー部隊を、斬機刀とビームガトリングでほとんど撃墜してしまった。

イザークとディアッカの援護があったとはいえ、それでもルーキーが10機近い数の敵MSを撃退したのは凄いことだ。

 

 

 

(それもこれも、あの不思議な感覚のおかげなのかな…………)

 

 

 

物思いにふけっていた理由……それは、戦闘中に起きた出来事がきっかけだった。

先ほども言ったが、戦闘中にイチカのザクは左腕と右脚を損傷した。

本来ならば機動力の低下などで、早々に落とされてしまうところであったが、イチカの身の内側で何かが吹っ切れたのか、急に頭の中がクリアになり、余計な雑念などは消え去って、相手の動きなどが瞬時に把握できた。

相手が動けば、こちらもそれに対処し、相手の動きに合わせて反撃を入れる。

視覚、聴覚、そして直覚……それらが普段よりも何倍にも鋭敏になったような感覚だった。

 

 

 

「なんだったんだろう……」

 

「おいこらっ! ミネルバの小僧っ!!」

 

「あっ…………」

 

 

 

と、そこに険しい表情をしているイザークと、やれやれと言った表情で後からやってくるディアッカ。

二人ともイチカ同様にまだパイロットスーツのままで、こちらへと近づいてくる。

 

 

 

「貴様ぁ……俺の隊に入っていながら、俺の命令を無視するとはいい度胸だなっ!」

 

「いやぁ〜、えっと、それは……」

 

「そう怒んなっての……こいつも随分と活躍してくれたし? その功績に免じやれよ」

 

「そうは行くか馬鹿者! 軍人であるなら、上官である俺の命令を聞かなくてはならんだろうがっ……それはディアッカ! 貴様とて同じなんだぞ!」

 

「いやそうだけどさぁ〜…………俺らはいいじゃん? 同期だし」

 

「やかましい……! 貴様はもう少し規律を重んじろ……っ!」

 

「いやいや今更じゃん?」

 

「ディアッカ貴様ぁ〜〜!!」

 

「あ、あの、その…………」

 

「なんだっ!?」

 

「いやぁあ、あのっ! ジュール隊長、勝手な行動、その……申し訳ありませんでした……反省しています。

今後はこんな事のないように気をつけますので……」

 

「ふんっ! 貴様のその言葉を素直に受け取れんがな……だがまぁ、働きに免じて、今回は見逃してやる。

それに、もう貴様が俺の隊にいることもないしな」

 

「え?」

 

 

 

隊にいることもない……どういうことだろうか?

それはつまり、除隊……? いや、クビ……ということだろうか?

 

 

 

「え、えっと、それってまさかっ、クビ…………」

 

「違うわ、馬鹿者。議長からの指令だ」

 

「えっ?! 議長からの?!」

 

「あぁ、今回の働きには感謝している。故に、本来ならばこちらの都合で本国に戻ってもらった貴様を、戦闘で失うわけにはいかない……と、撤退中に通信で指令が下ったんだ。

この戦闘が終わり次第、貴様をジュール隊より離隊させ、もとのミネルバ所属の部隊へと戻せたな……!

全く、こっちはいい迷惑だ……!!」

 

「ぁ……」

 

「まぁ、今回限りだったけど、中々頼もしかったぜ、お前」

 

「ディアッカさん……」

 

「まぁ、もしもまた戦うことがあるんなら、頼むわ!」

 

「は、はい!」

 

「おい、貴様それでサボろうとしているわけではないだろうな?」

 

「まっさかぁ〜〜」

 

「貴様がその顔をする時はっ、大抵そんなふざけた事を考えている時だろうがっ!!」

 

「ははは…………」

 

 

 

 

ディアッカに対してガミガミと小うるさくなるイザーク。

それを見ていると、少しだけ和むというか、落ち着くイチカ。

まだまだ敵の脅威がなくなったわけではない……ましてや、いきなり核攻撃を仕掛けてくるような連中だ。

これで終わりにするとは思えない。

いや、もうこれでは、世界が許さないだろう。

ユニウスセブンによって、地球は大ダメージを受けた。

そして今度はこちらが、忌まわしき『核』の攻撃を未然に防いだとは言っても、核を撃たれたことには変わりない。

これでは、軍の意向や政府の方針だと言ってもそれで民衆が納得できるわけもない。

今度こそ連合を倒せと、躍起になるに違いない。

 

 

 

「俺も、早くミネルバと合流しないと……」

 

 

 

地球へと降りていった仲間たちが心配だ。

今は中立国オーブにいるということで、安心はしているが、それでも周りは連合の加盟国が多い。

なんとかカーペンタリアまで行ってくれれば、不安になることもないのだが……。

しかし、そのカーペンタリアにも連合からの部隊が派遣されていると聞く。

まだこれと言った戦闘は起きていないものの、いつ起きてもおかしくはない。

連合とプラント……今は互いに睨みあって、牽制している状態だ。

だがまぁ、とりあえず今のところは、プラントと連合……双方に被害が出たものの、プラントは守り切る事が出来た。

後は、これからの状況次第と言ったところだろうか…………。

一方、ギルバートとの会談が叶ったアスランは、ギルバートとともに議長室に入り、今後プラントはどのような対応をするのか、それに伴い、オーブはどうすべきなのかを考えるため、アスランもまた神妙な顔つきで会談に臨んだ。

しかし、先ほどの戦闘で、連合側が核ミサイルを撃ってきたことを聞き、驚きを隠せなかった。

 

 

 

「か、核を撃たれたっ?!! そ、それは本当なのですかっ!?」

 

「あぁ、本当だよ」

 

「しかし、そんな、まさか……!」

 

「気持ちはわかるよ……しかし、事実なのだ」

 

 

 

ギルバートは手元にあったボタンを押すと、議長室の内装の壁が開閉し、そこに特大モニターが現れる。

するとそこに映し出されたのは、プラントの情報番組が放送されており、先ほどの戦闘に関する内容の報道が行われていた。

 

 

 

『昨日午後、連合からの一方的な開戦宣言によって行われたプラント宙域の戦闘では、ザフト、連合両陣営で多大な被害を受けたとの報告があがっております。

また今回の侵攻に際し、連合側は核ミサイルをプラントに対して撃ってくるなど、かなりの強行性を示しており、ザフト全軍でこれを全て撃墜しましたが、未だに警戒の手は緩められない状況になっています』

 

 

 

 

ニュースキャスターの男性が淡々と、今ある情報を全て開示する。

下手に真実を隠せば、それだけ政府への非難が集中するからだろう……。

そうでなくても、プラントに住む人たちにとっては、核ミサイルが再び撃たれたという事実が許しがたい出来事であり、先のテロ事件のせいで、余計に『血のバレンタイン事件』の事を思い出している人たちもいたはずだ。

そんな中での今回の強引な開戦。

当然、市民の中には、すでに戦争を始めようと決起を求めるデモを行う集団もいるほどだ。

そのニュースを見ながら、アスランはただただその場に立ち尽くした。

自分が会談の時間を取れないかと待っている間に、こんな事になっていたとは……。

 

 

 

「っ………………」

 

「アレックス君、とりあえず座りたまえ。一旦落ち着いて……もうすでに終わった事だ」

 

「は、はい…………」

 

「こちらにも多少の損害は受けたが、それは向こうとて同じだよ。いま連合の艦隊は月基地へと引いていっているが、また侵攻があるかもしれない……。

こちらも、油断はできない状況だ」

 

「っ…………」

 

 

 

ギルバートに促されるように、アスランはギルバートの向かいのソファーに腰をかける。

 

 

 

「いやぁ、想定していたとはいえ、やはりショックなものだよ。この状況で強引に開戦すること自体、常軌を逸してるというのに、いきなり核まで撃たれたのだからね……」

 

「っ……」

 

「これはもはや、戦争ですらないよ……! 一方的な虐殺に近いっ……!」

 

「っ……それで、プラントは……」

 

「ん……」

 

「この攻撃……連合からの宣戦布告を受けて、プラントは、今後どうするおつもりなのでしょうか?

それを、お聞かせ願いたい……っ!!」

 

「ふむ…………」

 

 

 

思案顔をするギルバート。

しかし、そう問われて考えるのは、アスランの思っている通りだ。

 

 

 

「正直、難しいな……」

 

「っ…………」

 

「たしかに、今回の連合からの宣戦布告は、正直言って驚いたよ。だがそれに我々が報復で答えれば、また二年前と同じ、血みどろの混迷に逆戻りだ。

無論、私とてそんな事にはしたくない……いや、私だけではない。誰もがそう願うだろう……。

だが、すでに核まで撃たれてしまっているのだぞっ? これを受けて、我らが何もせずに報復で返さねば、市民たちは怒りに震えるだろう……それをどうしろと言う……!」

 

「しかしっ……!」

 

「君の言うこともわかるがね……だが、今の情勢では、これを鎮めるのは容易ではない」

 

「っ……!!」

 

 

 

わかっていたことだ。

核まで撃たれてしまっては、これはもう受けざるを得ない状況になった。

今回宣戦布告を支持した者たち……連合の……いや、それよりもなお背後にいるブルーコスモスの者たちからしてみれば、今回の宣戦布告は、失敗に終わった形になったが、戦争を起こさせるには、十分な口実を作ったと言える。

 

 

 

「ですがっ!」

 

「っ……」

 

「そうやって憎しみあって、憎しみだけで戦う事にはっ、何の意味もないんです!!

互いに憎しみあって、大義もなく、ただの恨みから、相手が許せないから、殺されたからとっ、ただそれだけの感情で動いて戦いが繰り広げられていくっ!

その結果が、前の大戦ような血みどろの戦いです! それだけは議長っ! どうかっ!」

 

 

 

かつては親友に仲間を殺され、親友と殺し合い、親友を殺しかけた。

ただ軍の命令に従っていればいい……敵を倒せば、それがプラントの為になり、それが世界の為になると……。

それだけを考えて戦ってきた。

ユニウスセブンにいた母を、核ミサイルで殺されたあの日から、連合を憎み、ナチュラルを憎んだ。

しかし、その果てに待っているのは地獄絵図にも等しい惨状だ。

 

 

 

「アレックス君……」

 

「俺はっ………! 俺は、アスラン・ザラです!!」

 

「ん……?」

 

「二年前、憎しみだけで世界に戦争を拡大させ、どうしようもないあの惨状を生んだ、前最高評議会議長、パトリックの息子です!」

 

「アスラン……」

 

「愚かとしか言いようのない言動にっ、世界がかき乱されて、なにもある事なくすべてを失った! それが、二年の時を経てまたっ……!

父のあの言葉が、あんな事件を引き起こすなんてっ!!」

 

「アスラン……!」

「だからもう! 絶対にあんな事になってはならないんだっ、人はっ、世界はっーー!!」

 

「アスランッ!」

 

「はっ…………!!!!?」

 

 

 

ギルバートの声に、アスランは改めて気を取り直した。

あまりの思いに、自分自身を追い込んでしまっていた。

 

 

 

「すみません……」

 

「いや、私は大丈夫だ。しかし、すまないね」

 

「え?」

 

「ユニウスセブンでのことは、私も聞いているよ……シンからね」

 

「っ…………」

 

「彼らが発した言葉もそうだが、君にも大変申し訳ない事をしてしまったね」

 

「いえ、そんなっ、議長が謝罪するような事では……」

 

「…………だがアスラン。彼らの言葉に惑わされてはいけない」

 

「え?」

 

「君がザラ前議長の息子だからと言って、そうやって思い詰めなくてもいいんだ。

君にとってザラ議長が、どう言う人だったのかはともかく、ザラ議長だって、初めからあぁ言う事をする人ではなかっただろう?」

 

「それは……そうですが……」

 

「たしかにザラ議長がした事は間違いだったかもしれない。だがそれは、プラントを守るためであり、プラントをより良い国にする為に起きてしまった事だ……。

より良きものに、より良い方にと、彼だって考えての事だった……しかし、それをどこかで間違えてしまったんだ……」

 

「っ…………」

 

「それにザラ議長が仰っていた事だって、本当の言葉の意味は、違っていたのかもしれない」

 

「え?」

 

「言葉を発する者の思惑と、それを受け取る側とで受け取り方の違いが出てくる事はある。

だから、テロリスト達もザラ議長の言葉を聞いて、自分たちを正当化させたかったのかもしれない。

自分たちは悪くない……だって、“ザラ議長だって仰ってじゃないか” ……とね」

 

「ぁ……」

 

「だから、君がそこまで思い詰める必要はないんだ……たとえ君が、ザラ議会の息子であってもね。

彼らは彼ら……ザラ議長はザラ議長……そして君は君だろ? アスラン」

 

「議長……」

 

 

 

まるで諭すかのように、アスランに言い聞かせるギルバート。

アスランもその言葉を聞き、先ほどまで思い詰めていた表情を、少し明るくさせた。

 

 

 

「それに、君はこうして私の元へと来てくれた」

 

「え?」

 

「あんな事件があって、今回のような宣戦布告を受けてもなお、君はかつての争いを繰り返さないようにと、わざわざ私の元まで来てくれたんだ……。

そんな君の思いを、私も賛同したい」

 

「議長」

 

「そういった思いを、多くの人々が抱いてくれるのなら、ただ憎しみ合うだけの戦いなんてするはずがない……。

冷静に、客観的に物事を判断する……そうすれば、前のような大戦だって防げる。

だから私は、君のような人を待っていたんだよ」

 

「………………」

 

 

 

 

まるで盟友を見つけたかのように話しかけるギルバート。

アスランはかつての大戦を直に経験し、多くの仲間、家族を失い、戦いに身を投じて来た身だ。

それ故に、今回のこの出来事の愚かさを……再び始まろうとしている戦争の危険性をよく知っている。

しかし、そんな思いとは裏腹に、市民達の感情は爆発していた。

街ではデモ隊が形成され、議会などに不安をぶつけている。

しかしそんな時だった……。

コロニーの街頭モニターに、一人の少女の姿が現れる。

 

 

 

『皆さん! どうか落ち着いてください』

 

 

 

その少女の姿に、市民達もそうだが、アスランも驚きの表情を見せる。

 

 

 

『わたくしは、“ラクス・クライン” です』

 

 

 

彼女の名前……。

それはプラント市民に限らず、全世界の人が知っている名前だ。

世界的有名な歌手であり、彼女の歌う歌は、平和への祈りが込められた歌が多く、多くの人から共感を集めている。

しかし、そんな彼女は今、オーブの沿岸部でひっそりと暮らしているはずなのだ……。

キラの恋人であり、共に大戦を生き抜いた後、そのままの流れでオーブへと移住して、そこで隠遁生活をしていた。

そんな彼女が、なぜプラントにいるのか?

ギルバートとの会談前に出会った少女は、本当にラクスなのか?

しかしそれは違うと、アスランはすでにわかっている。

ならば、一体何者なのか?

 

 

 

「ふっ……」

 

「っ……?!」

 

 

 

視線をギルバートに向けると、彼は得意げに笑ってみせた。

 

 

 

「愚かしいと思うかね?」

 

「え、いやあの……」

 

「君には分かると思うが……我ながら小賢しいとも思ってはいるよ……。しかし、それほど彼女の与える影響力は凄まじいのだよ……私の物なんかよりも、遥かにね」

 

「っ…………」

 

 

 

つまりそれは、彼女が偽物のラクス・クラインだと認めた事だ。

しかし、ラクスがプラントから姿を消して二年……今の彼女の姿を知っている者など、アスランを含めて数人しかいない。

ましてや、プラント側の人間が知っている可能性は少ない。

それが一般市民ならなおさらだ。

故に人々は、ラクス・クラインだと信じきっている。

彼女の発する言葉、思い……それによって、人々は落ち着き、彼女の話に耳を傾ける。

 

 

 

 

『昨日の連合からの宣戦布告……いきなり核を撃ってくるなどと、わたくしも驚き、大変ショックを受けております……。しかし! どうか皆さん! いま一度落ち着いてください。

この様な状況だからこそ、冷静に、今後のことを考えていかなければならないのです……。怒りに任せ、その刃を振りかざしては、先の大戦ような、何も得るもののない戦うばかりの惨状を招いてしまいます……。

そんな事にならないように、議長を初め、議員や関係各所の皆様が全力で彼の対象を行なっております。

どうか皆さん、落ち着いて、今の最高評議会議長……デュランダル議長を信じてください……!』

 

 

 

 

画面に映る少女は、ラクス・クラインとは全く関係ない赤の他人で、偽物だ。

しかし、その発する声……伝えようとしている言葉は、真実であり、本物……。そう思わせるには十分すぎるものだった。

現に街でデモを起こそうと思っていた者達も、彼女の言葉を聞き、「ラクス・クラインが言うなら……」と、怒りを鎮めていく。

 

 

 

 

「馬鹿な事をと思うがね……しかし、私には彼女の力が必要なのだよ……それから、君の力が必要なのと同じようにね」

 

「っ……? 私の?」

 

「ふっ……少し、時間をもらってもいいかな? 私について来てほしいんだ」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

 

先に部屋を出るギルバートの後を追って、アスランは部屋を後にした。

その後、ギルバートと二人してエレベーターシャフトへと入る。

少数の部下がついてはきたが、それはしょうがない……。

エレベーターは高速で降りていき、何故かMS格納庫へと入っていった。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

一体何を考えているのだろう……アスランの頭の中にあったのはこの事ばかりだった。

本来ならば、議長ともあろう方がこんな所に立ち寄ることはないだろう。

ならば何故、こんなところに連れてきたのか……?

先行する議長が格納庫の扉の前に近づく……するとそこには、複数のザフト兵と整備班のメンバーが扉の前に陣取っていた。

議長がその者たち手を挙げて合図をすると、整備班の男性二人が同時にパスカードを入力したカードを機械に通すと重厚感のある鉄の扉が両側左右に開いていく。

その扉の先……格納庫へと入っていくギルバートとアスラン。

道の中腹あたりにくると、二人は立ち止まり、視線を同じ方向へと向ける。

ライトアップされる格納庫。

そこに鎮座していたのは、一機のMSだった。

 

 

 

「っ……これは……!」

 

 

 

アスランの目の前にあった機体。

独特な灰色の装甲。

それは、フェイズシフト装甲……俗にPS装甲と呼ばれる装甲の特徴だ。

緑色のツインアイカメラ……トサカ状の頭部センサー。

アスランにとっては、かつての愛機である『イージス』や『ジャスティス』を彷彿させる。

 

 

 

「ZGMF-X23S『セイバー』。性能は異なるが、先のカオス、ガイア、アビスとほぼ同時期に製造された機体だ。

これを君に託したい…………と言ったら、君はどうするね?」

 

「っ?!」

 

 

 

議長の言葉に、耳を疑ったアスラン。

 

 

 

「どう言う意味ですか? 私に、もう一度ザフトに戻れと?」

 

「ふむ……そう言う事ではないな。まぁ、言葉通りの意味だよ……君に託したい」

 

「ん……?」

 

「まぁ、手続き上では、そう言う事になるのかもしれないが……。今回の私の思いは、先ほど私のラクス・クラインが言っていた通りだ……。

だがああやって、様々な人間、組織……それらの思惑が渦巻く今の情勢の中で、願う通りに事を運ぶのは容易ではない」

 

「…………」

 

「だから、思いを同じくする者には、ともに立ってもらいのだよ……」

 

「ぁ……」

 

「出来る事なら戦争は避けたい……だが、銃もとらずに一方的に滅ぼされるわけにもいかない……!

真に願うのは平和だが、その思いを実現させるためにも力は必要だろ? 残念ながら……」

 

「っ…………」

 

「だから君は、もっと力を持つ者でいて欲しいんだよ……先の大戦を経験し、父上のことで悩み、苦しんだ君なら、どんな事があっても、その信念を裏切るような事はしないだろう……」

 

「議長……」

 

「ふっ…………なに、急な話だ……。すぐに答えを決めてくれとは言わないよ。

しかし、君が出来る事……君が望む事……」

 

「ぁ…………」

 

「それは、君自身が一番よく知っているはずだ…………!!!」

 

 

 

 

それだけを言い残し、ギルバートはその場を後にした。

アスランはそのままその場に佇み、機体を見上げる。

自分に出来る事とは…………そして、自分が望んでいる事とは…………。

 

 

 

 

 

「あぁ、そうだ……一人、もう一つの格納庫に呼んで欲しい者がいるんだが、取り急ぎ呼び出してもらえないか?」

 

「は……一体、誰を?」

 

 

 

 

 

アスランを置いて別の場所に移動するギルバート。

向かう先は、アスランがいる格納庫とはまた違う場所にあるMS格納庫だった。

そこに、ある人物を呼びたいらしく、共についてくる黒い軍服を着た将校に頼む。

 

 

 

「先の防衛戦に参加していた、イチカ・ラインハルトを……。彼に渡したい物があってね。

例の物は完成しているのだろう?」

 

「はい……開戦時であったため、少々時間が押してしまいましたが、先ほど、ロールアウトしたとの報告が上がっております」

 

「ふむ……ならば、彼には私のところに来るように伝えて置いてくれ。

そっちの方が話は早いだろう……」

「了解しました」

 

 

 

 

 

その後、ギルバートは格納庫に入り、イチカの到着を待つ事にした。

そんな彼の目の前にも、一機のMSがその場に佇んでいる。

将校が連絡して十数分後くらいだろうか……慌ててやってきたイチカが、格納庫内に入ってきた。

 

 

 

「遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!」

 

「いやいや、急に呼び出したのは私の方だよ……。先の開戦時の防衛で疲れているところを、申し訳ないね」

 

「いえ、自分もちょうどこちらに到着したばかりでしたので、問題はありません。

えっと、それで、自分に用とは?」

 

「あぁ、あの時言っていた用事を済ませようと思っていたのでね。君をわざわざミネルバからプラントへと呼んだ理由……覚えているかな?」

 

「は、はい! なんでも、渡したい物があるとかで……」

 

「あぁ、その通りだ。本当なら、もっと早くに渡してやりたかったんだが、先ほど完成したみたいでね……。

まぁ、とりあえず見てもらった方が早いな」

 

 

 

 

ギルバートがそう言った瞬間、格納庫内の灯りが灯された。

 

 

 

 

「っ!!? これは……っ!?」

 

「ふっ……」

 

 

 

目を点にするイチカ。

そこに鎮座していたMSの姿に驚いたのだ。

 

 

「これはZGMF-X15S『ストライクルーチェ』。我が軍が秘密裏に開発した機体だよ」

 

「ストライク……ルーチェ……!」

 

 

イチカが驚いた理由。

それは、イチカが過去に見た機体と同じ造形を取った機体だったからだ。

それ見たのは、まだ士官学校にいた時だった。

当時はまだ大戦が終わって間もない頃だった……敵である連合のMSやMAの資料なども、時折見る機会があった。

敵を知り、対策すること……先人たちが苦労して得た情報を、無駄にしないために、士官学校にいた時には見せてもらったことがあった。

そしてその当時、イチカが注目していた機体があったのだ……。

それが、当時連合最強と言われていた機体……『ストライク』だった。

この一機に、多くのザフト軍MSは倒された。

そのパイロットが、後に先の大戦を終戦へと導いた立役者でもある『キラ・ヤマト』だ。

彼が駆ったMS『フリーダム』もまた、戦場で多大な戦果を立てた。

パイロットの事はよく知らない……だが、当時は恐れられたというのを何度も聞いた。

特にストライクは、たった一機でありながら、攻め来る敵をことごとく打ち倒し、最終的にはアスランの乗るイージスが自爆による道連れでストライクは一時戦線を離脱した。

その機体が、今目の前にある……。

 

 

 

「ど、どうしてっ、この機体がっ?!」

 

「君に渡したい物というのは、この機体のことだったんだよ」

 

「ええっ?!」

 

「少し完成に手間取ってしまっていたみたいでね……渡すのが遅れてしまった」

 

「な、何故自分に……っ?! それに、この機体は……!」

 

 

 

元々は地球連合軍の物のはず。

それが何故プラントのMS格納庫に、それも新たな姿に生まれ変わってここにあるのか……。

 

 

 

「実はこの機体はね、二年前から製造を開始していた機体だそうだ……」

 

「二年前?! 前の大戦の頃ってことですか?」

 

「あぁ……。しかし大戦が終わり、ユニウス条約によって、核エネルギーを動力とした機体の製造が禁止された……。

この機体は元々、先の大戦で製造されたフリーダム、ジャスティス同様に核エネルギーを動力として製造する予定だったものらしいが、条約の締結でそれができなくなり、一度は白紙になった」

 

「でも、何故それが今さら?」

 

 

 

白紙になった機体ならば、他にもある。

次世代型量産機として今や前線に駆り出されているザクウォーリアも、初めは核エネルギーの技術を取り込もうとしたが、同じくユニウス条約によってその製造を禁止された。

それ故に、新たな設計思想の元、かつてストライクが使用していたバックパックの交換による戦場での戦闘最適化を取り入れ、『ウィザードシステム』取り込んで生まれ変わった。

そして時を同じくして、ザフトの新型機であり、フリーダム、ジャスティスに継ぐセカンドシリーズの機体の開発……。

インパルス、カオス、ガイア、アビスの四機が製造された。

このストライクルーチェにも、『S』の文字が入っている……という事は、ストライクルーチェもまた、セカンドシリーズの機体なのか?

 

 

 

「この機体の開発が再開したのは、インパルスの製造が完了したからだ」

 

(やっぱりか……)

 

 

 

ストライクとインパルスは、その形状から似ている点が多くある。

三つのバックパックを換装することで、変わりゆく戦況に適宜対処していく事を目的としたストライクの『ストライカー』とインパルスの『シルエットシステム』。

機体自体の性能や仕様は大分違うが、インパルスを製造し、後にカオス、ガイア、アビスと機体を完成させてきているのならば、ストライクルーチェを完成させることも難しくはなかっただろう……。

 

 

 

「この機体も性能は異なるが、強奪されてしまったカオス達と同等の性能を持っている……。

いや、もしかするとそれ以上かもしれない……!」

 

「っ? …………どういう事ですか?」

 

「この機体の元々の設計思想は、フリーダムの運動性能と、ジャスティスの格闘性能を両立させようとしたものだったからね」

 

「っ……!?」

 

 

 

地球連合軍によって開発された新型のMS。

『G兵器』と呼ばれた五機のMS。

その性能は、ザフトの主力MSを軽く凌駕するものだった。

PS装甲と呼ばれる新技術……ビーム兵器を実装した機体……五機それぞれに特色のある装備や能力。

その全てがザフト軍を……強いてはコーディネーターをも驚愕させるものばかりだった。

それ故、当時はザフト軍の一部隊が、それを強奪しようとし、五機中四機の強奪に成功。

そしてその四機の機体を解析し、ザフト初の『G兵器』型の機体が、先の大戦でもその力を発揮した『フリーダム』と『ジャスティス』という兄弟機だ。

 

 

 

「この機体が、その二機の能力を受け継いでいると……?」

 

「あぁ……。メインとなるのは、格闘性能だがね。この機体は、接近戦に特化した機体だ。

その証拠となるのが、メイン装備だ」

 

 

 

そう言って、ギルバートはストライクの手元を指差す。

そこに装備されていたのは、一本の実体剣。

そして、右の腰にも、同じ実体剣がマウントしてあった。

 

 

 

「あれは?」

 

「我が軍が開発した新型の武装……銃剣一体型武装《クラウ=ソラス》」

 

「銃剣一体型っ?! じゃあ、ライフルとしても使えるって事ですかっ!?」

 

「その通り。剣の刀身を回転して寝かせることで、銃身を作る……剣と銃……即座の切り替えによって、接近戦と射撃戦をつつがなくこなせるという新しい武装だ。

まだこのストライクルーチェにしか搭載されていない」

 

 

 

それは画期的な装備だと言わざるを得なかった。

武装としての近接格闘武装と、遠距離射撃武装が混合した武装はそう多くはない。

ましてや、エネルギー消費が比較的に激しいビーム兵器を搭載したMSならなおさらだろう。

 

 

「その《クラウ=ソラス》以外にも、ビームサーベルを四基搭載しているから、格闘戦仕様になっていると言っていい……」

 

「では、このストライクのバックパックのあの装備は……?」

 

「私はMSには詳しくないが、あれもあれで、技術者たちが新たに作り上げた新型のバックパック装備だそうだよ?

フリーダムの機動性を生み出していたウイングスラスターを改良して、さらに射撃武装まで搭載しているらしい……フリーダムのような高速機動戦闘もできるそうだ」

 

「ぁ………」

 

 

 

 

ストライクのバックパックとして存在する装備。

背中に新たに装備された新型のスラスター。

そのスラスターにマウントしてある二基のビームサーベルと、スラスターを基点に両サイドをアームで繋がっているバインダー型装備。

そのバインダーの先には、砲口が見えるため、それが射撃武装となっているのだろう。

 

 

 

(なんなんだよこの機体はっ……!!? インパルス……いや、それよりも高性能の機体なんじゃ……っ!!!)

 

 

 

詳しい性能はまだ見ていないため、まだはっきりは断言できないが、もしもギルバートの言っていることが正しければ、目の前にあるこの機体は、戦闘如何ではインパルスやカオスなどを凌駕するかもしれないと悟ったイチカ。

しかし、そこで疑問が生じるのは、その機体を、何故自分に渡すのか……だ。

 

 

 

「議長……」

 

「ん? 何かな?」

 

「なぜ、この機体を自分に? こう言っては図々しいと思われるかもしれませんが、自分よりも、この機体に乗るに相応しいパイロットがいるはずです!

それなのに、何故自分に……?」

 

「ふむ…………」

 

 

 

イチカの問いかけに、ギルバートは困ったという表情をする。

この問答を、先ほどアスランともしたのだが、それがデジャヴのように感じた。

 

 

 

「イチカ君、君は自分のことを謙遜しすぎだ……。君のパイロットとしての能力は、群を抜いていると思っていいよ」

 

「え?」

 

「君のプロフィールを見させてもらったが……君もまた、シンと同じオーブからの移住者だったね?」

 

「は、はい……その、姉のアリサもです……」

 

「あぁ、君たちは義姉弟だったね……先の大戦でも、君たちは辛い思いをしてきた……。

だから軍に入り、MSのパイロットになる事を決めた……そうだったね?」

 

「はい……」

 

 

 

あのオーブ解放戦線の折に、家族を失い、残された義母ユリスと、義姉アリサとともにプラントへと避難して、なんとか九死に一生を得た。

だがそれ故に、生き残ってしまったが故に、何もできなかった自分の無力さに、憤りを感じた。

だからこそ、今度こそ大切な人たちや、大切なものを守れるようにと、MSパイロットになり、戦うことを決めた。

 

 

 

「君の強さは……その信念から来るものだと、私は考えた」

 

「え?」

 

「君の同僚に、レイ・ザ・バレルがいるだろう」

 

「は、はい」

 

「実は、彼とはプライベートでも少し交流があってね。士官学校卒業の時に、君たちの話も聞いていた……」

 

「レイが……」

 

「レイもまた、君のことを認めていたよ。自分や、シンとは違った強さが、君にはあるとね」

 

「っ…………」

 

「そして先のユニウスセブン落下の際の戦闘……そしてついさっきの開戦時の君の戦い方……報告で見させてもらったが、有無を言わさない活躍ぶりだったそうじゃないか」

 

「あ、いえ、そんな……」

 

 

 

 

レイがそう思ってくれていたことも意外だし、先の開戦時には、ほんと、自分でも何故あれほどの動きができたのか……。

それがわからずにいた。

 

 

 

「連合からの強引な開戦……。そのせいで今後も世界各地で戦端が開かれてもおかしくはない情勢になってしまった……。

そうなると、君たちパイロットはその都度戦いに赴かなければらない……。

我々とて、かつての大戦の様にはしたくはないが、今のところ連合側は戦いを止める気配は一切ない」

 

「っ…………」

 

「だからこそ、我らも立ち上がらねばならないのだ……っ!」

 

「っ!? 議長……まさか、このまま戦争を行おうと?」

「いや……あくまで、我々は自衛権を行使するという体裁は保って置かなくてはならない。

我々は戦争をしたいわけじゃないしね……」

 

「はい、それはもちろん」

 

「あぁ……。だが、事を構える気でいる彼ら連合は、こちらの話を聞く気は全くないのだよ……今のところはね。

だからこのままでは、一方的な報復行動によって、プラントが攻め込まれる可能性だってある」

 

「それはっ……!!」

 

 

 

その可能性がないとはいない。

現に、核ミサイルを撃ってきたのを、イチカだってしかと自分の目で確かに見ている。

もはや話をする余地すらないかの様に、連合はプラントを攻め滅ぼす考えだった。

 

 

 

「我々は今後も対話による解決を模索していくが、今の情勢では、到底受け入れられない……。

だからこそ、君たちの力が必要になったんだよ……!」

 

「っ……!」

 

「君の力も、君の信念も、今この時のプラントには必要不可欠なものなんだ。

ストライクルーチェ……ルーチェとは、イタリア語で『光』を意味する言葉だ。

君が、我々を光へと導く存在なってほしい……この機体には、そんな思いが込められているんだよ……」

 

「光へ……導く……」

 

「そうだ……。今や混迷の闇へと落ちようとしているこの世界に、一筋でもいい……希望の光が必要なのだ……!

そうすれば、人々の思いも変えられるっ……! だからこそっ、君の力を私に貸してほしい!」

 

「っ……議長……!」

 

 

 

議長の思いは、紛れもなく本物だった。

それは、イチカの目から見ても明らかだった。

他の人が聞けば、ただの夢想家だと言うかもしれない……だが、もしそれで、人々の思いや、考え方を変えることができるのなら……。

 

 

 

 

「弱い己を律し、自らの信念を貫き通す…………」

 

「ん?」

 

「あ、いえ……昔、剣道を習っていた時に、教わった言葉で……」

 

「あぁ……君は剣術家だったか」

 

「剣術家……というほどのものではありませんが、武士道……武の道を歩むものとしての矜持は、一応習ったつもりです。

しかし、それもまた夢想……実際にその理念を守り、通すためには、それなりの力がある……」

 

「ふむ……」

 

「自分にも、守りたいものがあります……約束もしました……。だから……!」

 

「ふっ…………」

 

 

 

微笑むギルバートに対して、イチカはまっすぐ目を見て返答した。

 

 

 

「戦う意志はありますっ……! この機体、ストライクルーチェ……ありがたく、頂戴いたします……っ!!」

 

「そうか……っ! ありがとう、イチカ君」

 

「いえっ、こちらこそ、ありがとうございます!」

 

「さて、今日はもう遅い。明日改めて整備班の人と、この機体の各種機能や性能をチェックを済ませるといい。

後日、君もミネルバへの復隊命令を出させてもらう……それまでは、ゆっくりと休んでくれたまえ」

 

「ハッ! ありがとうございます!」

 

「今後の活躍を期待するよ……っ!」

 

 

 

 

それだけ交わして、イチカは格納庫を後にした。

その場に残っていたギルバートは、ストライクルーチェの機体を見ながら、思いを馳せる。

 

 

 

「さぁ……君はどうするね、アスラン…………」

 

 

 

 

 

 

 






さて、イチカの新しい機体となる『ストライクルーチェ』。
気になる機体設定は、また後日にでも本編で紹介したいと思います。
まだどういった武装で、どの様な性能なのかも書かないといけませんので、次回をお楽しみください^_^


感想よろしくおねがいします!!


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