機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜 作:剣舞士
ええ、書きだめしてた分です。
「ん……あぁ……」
空気に匂いがある。
生活感のある匂い。
いつも自分の家で感じていた物と同じだ。
そのことを認識した瞬間、一夏はハッと目を覚ました。
(ここは……?)
目の前にあったのは、知らない天井だった。
自分の部屋の天井の色は白だったのだが、今目の前にある天井の色は暖かな橙色。
部屋の明かりも、白い蛍光灯ではなく、ランプ調の暖かさを感じる光だった。
もうその時点で、ここが自分の部屋でないことを確認できた。
一夏は周りを見回して見る。
自分は、ベッドに寝かされているという事を知り、今朝の事を思い出した。
たしか今朝は、浜辺で倒れているところを、女の子に助けてもらったんだった。
そして、自分が生きているということを実感したら、安心して、そのまま気を失って……。
「そうだ……あの子は……」
「スゥー……スゥー……」
「ん?」
誰かの寝息が聞こえる。
それも、凄く近いところから。
一夏は視線を自分の左腕の方に向けた。
すると、そこには一人の女の子が、ベッドにうつ伏せの状態で眠っていた……。
綺麗な銀髪の長い髪が、流麗にベッドや少女の体を流れ、透き通る様な白い肌は、触れればサラサラとしていそうなほど綺麗だった。
「……アリ、サ…」
そう、彼女の名前は『アリサ・ラインハルト』。
海岸で倒れていた一夏を発見し、助けてくれた女の子だ。
一夏はアリサに触れようと左手をのばしてみたが、ギリギリのところで届かない。
なので、上体を起こそうとした瞬間、体に激痛が走った。
「っ〜〜〜、痛っ……!」
まだ殴られたり、吹き飛ばされた時のダメージが残っていた様だ。
起き上がるのを諦めて、そのまま再び仰向けに横になる。
そんな時、アリサの方が目を覚ました。
「んんっ……ふあぁ〜〜〜……ん?」
「あ、えっと……」
「あっ……」
「その……おはよう?」
何故疑問系であったのかは自分でもわからない。
しかし、一日の始まりを告げる挨拶は、『おはようございます』だから、これはこれで、なんの問題もないはずだ。
「っ……うわあっ!?」
女の子は驚いた様子で、その場を飛び退いた。
尻餅をつき、痛そうにしていた。
「あ、えっと、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫大丈夫……それより、良かった……」
アリサら再び起き上がると、一夏の方へとよっていって、隣に座った。
ベッドの高さから、アリサの顔がちょうど横たわっている一夏の顔と同じ高さにある。
綺麗な顔立ちのアリサ。
そんな彼女を間近で見ていて、ドキドキしないわけがなかった。
「ずっと寝たままだったから、このまま起きないんじゃないかって、心配してたのよ?」
「そんなに寝てたのか?」
「うん。丸2日くらいは寝てたかも」
「そんなに……」
ならばずっと、アリサが看病をしてくれていたのかもしれない。
助けてくれただけじゃなくて、看病までしてもらっていたとは………。
「そういえば、ここは?」
「ん? あぁ、私の家だよ。パパがお医者さんだから、ここにも薬とか、傷の手当てに必要なものが揃ってるから、ここに運んで、手当てしたんだよ」
「そうだったのか……ありがとう、この恩は一生忘れないよ」
「大袈裟だよぉ〜。まぁでも、ほんと、無事で良かった」
優しく微笑むアリサに、自然と自分の顔も綻んでいた。
そんな時、部屋のドアをノックする音が。
「アリサ、入るぞ?」
「うん、いいよぉ〜」
ドアな開かれ、そこから大人の男性が入ってきた。
アリサが『パパ』と呼んだということは、この男性が父親ということになるのだろう。
「あぁ、目を覚ましたんだね。良かった良かった」
そう言いながら、アリサの隣に座る男性。
アリサと同じ銀色の髪。
それを短めに切りそろえており、優しそうな微笑みを一夏に向けてくる。
「初めまして、私はここにいるアリサの父で、アッシュ・ラインハルトという。よろしくね」
「あ、はい……織斑 一夏です。傷の手当てをしていただいて、ありがとうございました」
「いやいや、それは医者として当然のことをしたまでだよ。それにしても、イチカくん……だったか。珍しい名前をしているんだね」
「珍しい……ですか?」
「あぁ〜、それは私も思ったかも。名前はイチカでいいんだよね?」
「うん……そうだけど」
「じゃあ、オリムラっていうのは、ファミリーネーム?」
「うんそうだけど……そんなに珍しいの?」
「うん……。だって、オリムラなんてファミリーネームの人、多分この島にはいないと思うんだけど」
「この島に……いない? どういう事?」
「パパはお医者さんだから、よく患者さんのカルテとかを見てるんだけど、オリムラって名前の家族は居なかったと思う」
「そう……なのか……」
「まぁ、このオノゴロにいる住人全てを知っているわけではないが、少なくともオリムラという名前がいたら、すぐにわかると思う」
「あの……一つ気になったことがあるんですけど……」
「ん? なんだい?」
一夏は視線だけをアッシュに向けて、肝心な質問をした。
「えっと、そのオノゴロって名前は、この島? の名前なんですよね?」
「あぁ、そうだよ。本当の国の名前は、『オーブ連合首長国』。南太平洋に浮かぶ大小さまざまな島……火山列島から構成されている島国でね。
このオノゴロ島と、その他にある三つの島の計四つの島があるんだ」
「島国……日本と同じなのか……」
「ニホン?」
「あぁ、俺が住んでいる国なんだけど……聞いたことないかな?」
一夏の言葉に、アリサは首を捻るだけだった。
しかし、隣に座っていたアッシュは、少し考え込むように顔を俯かせる。
「イチカ君。君の言ったニホンという国は、西暦末に起こった『再構築戦争』……『第三次世界大戦』の時に消滅した国家だと思うんだが……」
「えっ?! しょ、消滅したっ?!」
日本が消滅……ありえないという気持ちが湧き出てきた。
一夏の世界では、インフィニット・ストラトス……ISと呼ばれる超発明がなされて、日本が世界の中心となっていた。
しかし、ここではその常識がないのかもしれない。
「えっと、ISって単語に心当たりは?!」
「アイエス……? いや、聞かないな」
「じゃ、じゃあっ! インフィニット・ストラトスってやつは?」
「インフィニット・ストラトス………直訳すると、無限の成層圏かな? いや、残念だけどそれも聞かないよ」
「そ、そうですか………」
「えっと、イチカのいるところ……ニホンって、そのアイエス? が、あるの?」
「うん……それが、一人の日本人の手によって開発されて、現行の兵器を凌駕するほどの性能を持ったものなんだ」
「現行の兵器を凌駕っ?! え、それってどの程度?」
「えっと、戦闘機とか、戦車が今まで最強の兵器だったけど、ISはそれらを凌駕する性能をもってるだ。
けれど欠陥があって、数が少ないのと、女性にしか扱えないって点がある」
「え? なんで女性にしか扱えないの?」
「それは、わからない。ISは、体に纏うマルチファームスーツなんだ。そんなISだから、男性が纏っても、ISはただの機械の鎧でしかないんだけど……女性にはそうじゃなくて、触れると、ISの方が反応して、自動で体に纏えるようになるんだ」
「ヘェ〜」
物珍しいと言った感じで、アリサは感心する。
しかし、日本という国がなく、ISも存在しないこの世界は、一体なんなのだろう。
「そういえば、さっき日本が西暦末の大戦で消滅したって言いましたよね?
じゃあ、今は西暦じゃないってことですよね?」
「ああ。今はコズミック・イラと呼ばれているよ」
「コズミック・イラ……」
「今はコズミック・イラ70……。つまり、西暦からコズミック・イラに変わって、70年は経っているという事になるね」
これもまた聞かない単語だ。
一夏の生きていた時代がまだ西暦であることから考えると、ここは未来の世界なのかもしれない。
しかし、それだとしたら、なぜアリサたちがISの存在を知らないのか……?
「まぁ、色々と聞きたいこともあるとは思うが、少し休みなさい……なに、まだ時間はたっぷりあるんだ。
明日でも明後日でも、これからいくらでも話を聞けるだろう」
「えっ? で、でも……」
「ん? どうしたんだい?」
「そんな、そこまでご迷惑をかけるわけには……」
「「…………」」
一夏の言葉に、アリサとアッシュはキョトンとした。
そして、アリサは呆れたような表情をし、アッシュは優しく微笑む。
「イチカ、自分がケガしてるってちゃんとわかってる?」
「あ、えっと……その……」
「子供が変な気を使うものじゃないよ。それに私は医者だ。その昔は、軍に所属していた軍医でもある。
患者をみすみす見逃していたら、それは医者として愚者の称号を贈られてしまうよ。
君はなんの心配もいらない。だから、治るまでここにいなさい」
「えっと……」
「もうっ、ウジウジ言ってないでしっかり休みなさい!」
「は、はい………!」
「はっはっは! イチカ君は女性からの押しには弱いようだね」
「い、いやぁ〜……別にそんな……」
いや、正直弱いと思う。
なんせ、実の姉である千冬にすら頭が上がらない。
幼い頃から、強い女と怖い女を見てきているため、ほんと、女性に対する接し方では、少し気を使ってしまう。
「じゃあ、ゆっくり休んで……アリサはどうする? イチカ君のことを見ているか?」
「うん……。そうしようかな……なんか、そのままにしておくと勝手に出て行っちゃいそうだからぁー」
「そ、そんな事っ……し、しないって………」
「言いよどんでる時点で怪しいぃ〜……っ!」
「ん………」
ジィーっと見つめながら詰め寄ってくるアリサに、一夏はタジタジだった。
思春期真っ盛りの年頃の男子に、こんなに綺麗な子が詰め寄ってきたら、ドキドキせずにはいられない。
それに、今は体を動かす事ができないため、逃げることもできない。
「というわけで、しっかり監視させてもらうからねっ!」
「いや、その……大丈夫だって、体動かせそうにないし……」
「まぁ、それもそうか……」
納得したかのように、アリサは前かがみになっていた体勢を戻した。
「そういえば、イチカって、いくつなの? 見た感じ私と同い年っぽいんだけど……」
「えっと、13……今年の9月で14になるんだけど……」
「えっ?! 嘘っ、同い年だよっ! それに誕生月私と同じだ! 9月の何日っ?!」
「27日」
「私は20日生まれ。ふっふーん、私の方がお姉ちゃんなんだなぁ〜♪」
「たった7日じゃないか」
「そ・れ・で・もっ、私の方がお姉ちゃんです♪」
「あっはは……はいはい」
「もぉ〜う! なによ、その面倒くさいって感じ……!」
「いやいや、そういうわけじゃないってば……」
「むう………」
なんだか、膨れている顔も可愛かった。
しかし、アリサも同い年という事は、中学生ということになる。
ならばと思い、一夏はアリサに尋ねた。
「ねぇ、アリサ。アリサは中学生……なんだよね? だったら、その、学校の歴史の教科書とか、見せてくれないかな?」
「え? 歴史のデータを見たいの?」
「うん……ちょっと、今の世界のことを知りたい」
「まぁ、それはいいけど……でも、今は休んどかないと……」
「大丈夫……動き回ったりするわけじゃないから……それに、参考書をめくるだけなら、できるからさ」
一夏は両手を上げて、指先を動かす仕草を取る。
アリサは考えたが、一応納得してくれたようで、自分の部屋から参考書を持ってくると言って、その場から離れた。
そして、五分もかからないうちに戻ってきた。
しかし、その手に持っていたのは、本ではなかった。
「あれ? ノートパソコン?」
「うん。私たち、これで授業してるから」
「えっ? パソコンで授業受けてるの?」
「うん、そうだけど……今時珍しくもないよ? 多分、どこでもやってるだろうし……」
一夏のいた学校では、まだシャープペンシルと紙のノートで勉強していたのだが、ここは随分と文明レベルが高いようだ。
「えっと、歴史のデータは……あ、あった、これだ」
アリサは片手キーボードを打っていき、パソコンの画面を一夏に向けた。
先ほどと同じように、一夏の隣に腰を下ろして、一夏が見えやすい位置にパソコンをおき、再びパソコンを操作する。
「イチカは、もしかしてコズミック・イラの歴史を知りたい感じ?」
「あぁ……。俺が知ってる歴史と、なんだか、食い違う部分があって……」
「まぁ確かに、文献が残っていれば、色々とわかることもあるか……」
アリサは過去の授業で習った範囲のデータファイルを開き、それを一夏に見せた。
「これが、西暦からコズミック・イラに変わった経緯……『再構築戦争』いわゆる、通称『第三次世界大戦』の歴史」
「……………」
再構築戦争(第三次世界大戦)
西暦年代末、世界各地で民族紛争や宗教紛争が勃発・激化し、なおかつ石油などの資源の枯渇や、環境汚染の深刻化、世界規模での不況が起こり、世界各地で代表勢力による分割が行われ、世界各地でブロック化が進む。
いわゆる、国家統合・再編を行なった戦争。
C.E1年には、中央アジア戦線において核兵器が使用される『最後の核』と呼ばれる事件が起きる。
C.E9年に、再構築戦争が終結。
・アメリカ、カナダ、イギリス、アイスランド、アイルランドによる『大西洋連邦』
・ロシア、ヨーロッパ諸国による『ユーラシア連邦』
・日本・中国、韓国、北朝鮮、モンゴル、台湾による『東アジア共和国』
・ラテンアメリカ諸国による『南アメリカ合衆国』
・北アフリカの国々による『アフリカ共同体』
・アフリカ大陸南部の国々による『南アフリカ統一機構』
・スカンディナビア半島にある王国による『スカンジナビア王国』
・中東、アラビヤ半島の国々による『汎ムスリム会議』
・東南アジア、南アジア地域の国々による『赤道連合』
・オセアニアの地域による『大洋州連合』
・ソロモン諸島の『オーブ連合首長国』
この11の国家が誕生する。
世界大戦により凍結されていた第四世代国際宇宙ステーション『世界樹』の建造が再開し、C.E11年に完成した。
C.E10年にはコロニー構想が本格化し、月面に資源採掘、組立基地として月面基地《コペルニクス》市の建造開始。
C.E12年に建造が完了し、世界で初の一般居住可能な月面都市になった。
大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国が宇宙軍を設立。
「これが、C.Eになってからの動きかな。私も今思いだしたけど、イチカの住んでた日本は、東アジア共和国になってるんだね」
「そう……みたいだな……」
やはり違かった。
日本という国が消え、東アジアで連携をとり、新たな国家が生まれている。
そして、ここまでISの存在が出てきていない。
アリサたちが知らないのも頷ける……この世界では、IS存在そのものがまったく知られていない。
それよりは、存在がない。
しかし、歴史的に西暦からだいぶ進み、文明レベルが発展しているのならば、ISの登場もおかしくないはずなのだが……。
「ねぇ、アリサ。コロニーって事は、人は宇宙での活動拠点を発展させるまでの文明の力を持ってるってことだよな?」
「え? まぁ、そうね……。確かに、もう何万人単位で宇宙に住んでるし、オーブだって、《ヘリオポリス》があるからね」
「その……そのコロニー建造なんかで、ISは使われなかったのかな?」
「アイエス……イチカの世界にあるっていうパワードスーツ? いや、なかったと思うけど。
宇宙の作業は、宇宙作業用のワークローダーくらいの物だと思う」
「そうか……」
「あぁ……でも今は、モビルスーツとか、モビルアーマーがあったっけ……」
「モビル……なに?」
「モビルスーツ。えっと、待っててね」
アリサは再びパソコンを操作し、今度は学校の参考書ではなく、動画サイトを開いた。
そして、ある動画を開いて、また一夏に画面を見せた。
『ご覧ください!! カーペンタリア海岸線に、ザフトのモビルスーツが押し寄せてきております!!』
「っ………! これが、モビルスーツ?」
「そうだよ。この地球から飛び立って、宇宙に活動拠点を移したコーディネーターたちが住む《プラント》ってところで、『Z.A.F.T.』……《ザフト》って呼ばれる軍が発足して、この兵器を作っちゃったんだって」
「っ…………」
そのパソコンの画面に映るのは、灰色の巨大な機械兵士。
一つ目を左右に動かし、手に持った大きなマシンガンを連射し、時には、腰に装備している剣を抜き、自身に砲弾を撃ってくる戦車を斬り裂いたり……。
背中の羽根のような物から勢いよくブースターが噴かれて、空を飛び、上空から雨のような銃弾を降らす。
これは、ISどころの騒ぎではない。
「っ、そういえば、さっき『コーディネーター』って言ってたけど、それってなに?」
「コーディネーターっていうのは、簡単に言えば、産まれてくる前に、自分の遺伝子を操作して産まれてきた人の事。
通常の人を遥かに超える頭脳と、身体能力。そして、大きな病気をしない強い体を持っている人たちが、『コーディネーター』って呼ばれているの。
逆に、何もしてない……人の誕生そのままに産まれてきた人たちを、『ナチュラル』って呼んでいるわね」
「『コーディネーター』と、『ナチュラル』……」
「うん……今は、その……『コーディネーター』と『ナチュラル』同士で、戦争してるんだけどね」
「っ!? せ、戦争っ?!!」
「うん……その……ナチュラルの人たちっていうのは、コーディネーターの事をよく思っていないからね」
「それは……なんで?」
「なんでって……だって、そうでしょう? 自分よりも強くて、頭良くて、凄い身体能力を持ってて……。
そんな人と自分を見比べて、もの凄く嫌悪になる人はたくさんいる。だから、今戦争が起こってるんだもん」
「なるほどね……」
「大半のナチュラルの人たちは、この地球に残ってる。そして、コーディネーターたちが、宇宙にコロニーを作って、そこで生活してるの」
「っ……じゃあ、アリサたちは?」
「ん? あ、私たちはコーディネーターだよ?」
「じゃあっ、地球にいたら、危ないんじゃないのかっ!!? このオーブは、ナチュラルの国なんじゃないのかっ?!」
「あぁ……それなら大丈夫だよ。だってオーブは『中立国』だもん」
「中立国?」
「うん。この国には、コーディネーターとナチュラル……二つの人種が共存している国なの」
「えっ?! そうなのかっ!?」
「うん。オーブの理念に反かない限りは、コーディネーターだろうとナチュラルだろうと受け入れてくれる。
それが『中立国』。オーブもその中立国の一つなの」
「そうなのか……」
「オーブの理念はね、『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の戦に介入しない』なの。
そして、『いかなる状況においても、中立を貫く』っていうのが、今の代表……ウズミ様の宣言」
「…………凄いな……こんな世界において、そんな事をはっきり言うなんて……」
「だから、オーブは中立でいられて、戦争にも巻き込まれてないし、この国は、コーディネーターやナチュラルだからって、大きな争いが起こることもないしね」
「そっか……それなら、安心だな」
「そう言えば、気になってたことがもう一つあった」
「なに?」
アリサはまじまじと一夏を見つめる。
「イチカって、ナチュラル? それともコーディネーター?」
「え?」
順当に言えば、おそらくはナチュラルだろう。
しかし、自分の出生がわからないのだ。
物心つく前に、母親と父親は蒸発していなくなった。
唯一の家族は、姉の千冬だけだった。
そんな千冬とも、両親の話をしたことはない。その話を切り出そうとすると、決まって千冬の顔が強張り、頑なに教えてくれないからだ。
だが、産まれてくる前に、そんな遺伝子操作をしたなんて話も聞いたことがなかった。
ならば、ナチュラルではないだろうか……。
「うーん……わからない。そういうのって、検査して判るものなのかな?」
「多分……遺伝子……DNAを見れば、判るんじゃないかな?」
遺伝子操作を行なっているのがコーディネーターならば、ナチュラルとは遺伝子の構成などが多少違っているだろう。
ならば、DNA検査で、それは明確にできるはずだ。
ならば、と……その検査も含め、改めて検診するということになった。
その後、アリサに学校はどのようになっているのか、オーブという国はどういう感じなのかなど、たわいない世間話で盛り上がった。
どうやらアリサは、小学校から大学までが一貫している学校に通っているらしく、そこの中等部に所属しているそうだ。
オーブは経済面や、工業技術に対しての力が強いため、そういう方面の仕事につく人が多いという。
そして、何と言っても、オーブが独自に持っている軍隊。
そこのパイロットや、技術スタッフとして軍に入るという者がいるらしい。
なんでも、このオーブ連合首長国は、昔の再構築戦争のおり、たくさんの日本人が住み着いたそうだ。
なので、技術力の高さが今もなお生きていると言ってもいいだろう。
それ故に、アリサに町の外観が乗った写真などを見たとき、日本語が多いと思った。
無論、アリサたちが日本語を話していた時から、薄々は感じてはいたのだが、こうして改めて知ると、変に安心感が出てきた。
「っと、もうこんな時間か……もうそろそろお母さんが帰ってくると思うから」
「アリサのお母さんは、仕事だったのか?」
「うん。うちは両親が共働きでね……。お母さんは初等部で教師やってるの」
「学校の先生かぁ〜……じゃあ、アリサもお母さんの仕事する姿を見てたってことか」
「うん。学校では、怒ると怖い先生って事で、初等部の頃はみんな怖がってたんだよ♪」
「あぁ〜そういう先生いたなぁ〜」
小学校のときの先生もそうだったが、何より怖かったのは、姉の千冬だ。
同じ血を分けた姉弟である一夏ですら、時折千冬が怖いと思ったことがあった。
それはまるで、触れれば何でも斬り裂くナイフのようだったと、今でも思いだす。
「あっ、そうだ! イチカは、食べ物は食べられるのかな?」
「え? うーん……体調は普通……だと思う。特に熱っぽいとかはないし……」
「そう? 一応、お粥とかの方がいいかなぁ?」
「うん……それでいいよ」
「わかった! じゃあ、作ってくるから、待っててね!」
「え、アリサが作ってくれるのか?」
「うん、何とか作ってみる」
「えっ?」
何か途轍もなく嫌な言葉を聞いたような……。
「作ってみるって……アリサ、料理の経験は?」
「何回かあるよ? 学校でも調理実習とかあるし」
「ええっと……」
つまりは、あまりないという事なのではないだろうか?
だが、作るのはお粥だ。
炊いた後のお米に、多少の水を入れ、鍋で煮ていく。
お好みで梅干しや卵を入れるのもいいだろう。
「わ、わかった。まぁ、その……が、頑張ってな」
「うんっ! まぁ、何とかなるでしょう♪」
「…………」
そう言いながら、アリサは部屋を出て行って、キッチンの方に向かったのだろう。
一夏はただただそれを横になって待っていた。
しかし、キッチンの方から何やら音が聞こえてくる。
「うわあっ!!?」
「っ……大丈夫なのか?」
「あっちゃあ〜……グラス割っちゃったよぉ」
(大丈夫ではないか……)
「よしっ! 気を取り直して! えっと、お鍋にご飯と、お塩と……」
不安しかない。
しかしそんな時に、父のアッシュが部屋から出てきた。
「アリサ、お前何やってるんだ?」
「え? イチカにお粥作ってあげようかと思って……」
「ほう? まともに料理をしたことないアリサが、自分から作ろうとするなんてなぁ」
(やっぱり作った事なかったのかっ!!?)
「作った事くらいあるわよっ!」
「だが、結局あれは失敗したんじゃなかったか?」
「っ〜〜〜!! う、うるさいなぁ〜! パパはあっちに行っててよ!」
「おいおい、さすがにグラスは片付けないと、お母さんに怒られるぞ?」
「そ、それはっ……片付けた方がいいよね……」
「……………」
親子の会話を盗み聞きではないが、何だか羨ましく感じる。
一夏には両親がいない。
それ故に、母親からもらう愛情も、父親と何かをするという感覚も、何も知らない。
常に外に出て、頑張って働いてきてくれている姉を思い、自分は家事をこなしていた。
時折、中学校の友人の実家が定食屋で、そこでアルバイト紛いの手伝いをしたり、早朝の新聞配達をしたり……。
子供なりにお金を稼いで、生活の足しにして欲しいと言ったこともあった。
その時は、受け取ってもらえなかったが、「その気持ちは嬉しい」と言われた。
それはそれで嬉しくもあり、何だかやり甲斐もあった。
しかし、本当の親子として関係ではない。
あくまで、千冬とは姉弟だ。
だから、一夏はアリサとアッシュの関係が、どうしようもなく羨ましいと感じた………。
「ただいまぁ〜……って、何してるの二人とも?」
「わあっ!? ママっ!」
「お帰りなさい。いま、アリサがイチカ君のためにお粥を作ろうとしたんだが、グラスを落としてしまってな」
「もう、何してるの……。怪我はない?」
「うん、それは大丈夫……ごめんなさい……」
「反省しているのなら良しっ。お粥ならお母さんが作るから」
「ダメよっ! 私が作りたいの!」
「そんなこと言って、また黒焦げの暗黒物質を作るんじゃないの?」
「つ、作らないわよっ!」
一夏は視界で捉えているわけではないので、声だけで判断していた。
アリサの母親。顔は見えていないのだが、とても優しそうな声色だった。
それにしても、やはりアリサは料理を作るのが苦手と見える。
何故そうやって、頑なに自分に作ってくれようとするのか……?
そこまで考えていると、今度は部屋のドアをノックする音が……。
「イチカ君……だったわね? 入ってもいい?」
「あ、はい……」
「お邪魔します♪」
入ってきたのは、ふんわりとした綺麗な長いウェーブのかかった茶髪の女性。
エメラルドのような瞳は大きくパッチリとしていて、アリサの目元に似ている。
やはり親子なのだと実感させられる。
「イチカ君、目を覚ましたのね? よかったぁ〜」
「ご迷惑をおかけして、ほんと、すみません。助けていただいた上に、こんな……」
「ううん。助けたのはアリサだし、治療をしたのはうちの夫だもの。私は何もしていないわ」
アリサの母親は、アリサと同じように、一夏の寝ているベッドの横に座り、一夏の様子を見ている。
「私はアリサの母で、名前はユリス。ユリス・ラインハルトっていいます。よろしくね、イチカ君」
「あ、はい。よろしくお願いします、織斑 一夏っていいます」
「うんうん。それじゃあ、何か作ってきてあげるから、イチカ君はそのまま寝ててね?」
「えっ、いやでも……」
「もう〜、子供なのに、そんなに気を遣っちゃって……。大丈夫、迷惑だなんて、一回も思ったことないから。ね?」
「えっと……すみません」
「そ・こ・は、『ありがとう』っでいいのよ?」
「………ありがとうございます」
「うん♪」
何故だろう。この人の前だと、有無を言わせないような雰囲気に飲み込まれる。
ユリスはそのまま部屋を出た後、着替えて、アリサと共にキッチンに入った。
その後、悔しそうな表情のアリサ、ニコニコと満面な笑みのユリスが一夏の寝ている部屋に入ってきたのだが、一体何があったのかは、ご想像にお任せするとしよう。
それからずっと、アリサの家……ラインハルト家と共に過ごし、突然の異世界訪問にも慣れた頃。
世界は、その戦火の火種を、より大きくしていったのだった………。
多分もう少しプロローグが続くと思いますので、ご容赦ください( ̄▽ ̄)
感想よろしくお願いします。