機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜   作:剣舞士

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長らくお待たせしてしまって申し訳ありません( ̄ー ̄)




第17話 選びし道

「くうっ!!!!」

 

 

 

ガシャーーーン!!!

 

 

 

 

地球のある豪邸の一室。

地下区画にあると思われるその一室には、大量のモニターが設置してあった。

そこに映る人物たちと、会話するための物だろう。

そしてそこに佇む一人の男性は、あまりの激昂に、自分の身を抑えることができず、近くに置いてあった酒瓶やグラスを思いっきり床に散らばせる。

その行動に、飼っているネコも、ビクビクも震え上がっている始末だ……。

 

 

 

『これは一体どう言うことかね、ジブリール』

 

『しかしこれは、ものの見事にやられたな……』

 

『君の書いたシナリオはコメディーなのかねぇ?』

 

「っ〜〜〜〜!!!!!!」

 

 

 

 

モニター越しに映るのは、ロゴスの幹部メンバーだ。

強引に開戦を論じたのは、他でも無いジブリール本人だ。

しかし、いざ開戦してみれば、あっという間に戦況は覆り、プラントのコロニーを落とすどころか、連合側が負けると言う事態に……。

ジブリールとて想定していなかった事態だった。

しかし、そうなってくると、ますます許せなくなるのも必然だ。

 

 

 

『冗談では無いよ、ジブリール』

 

『威勢良く開戦を切り出しておいて、おめおめと逃げ帰るとはな……』

 

『勢いよく振り上げた拳を、そのまま下ろすとなると、世界中の物笑いだわな……』

 

『さて……この責任を何に、いや誰にとって貰えばいいのかな? ジブリール、君にかな?』

 

「っ〜〜〜〜、ふざけた事を仰いますなっ!!」

 

『『『『んっ……!!!!??!?』』』』

 

 

 

 

いい加減堪忍袋の緒が切れたのか、ジブリールは鬼の形相で幹部たちを睨みつけ、これからの事を宣言する。

 

 

 

「この戦争、ますます勝たなくてはならなくなったと言うのにっ……!!

我々の核を一瞬にして消滅させたあの兵器っ! あんな物を持っている化け物どもが、我々の頭上にいるのですよっ?!

それを、どうして放っておけるのですかっ!!?」

 

『『『……………………』』』

 

「戦争はこのまま続けますよ。いい気になっているコーディネーター共に、今度こそ屈辱を味あわせるのですっ……!!

以前のプランに戻して…………いや、それよりもなお強化してね!!」

 

 

 

ここまでくると、もはや誰のための戦争なのかがわからなくなってきた。

ただ一つ言えることは、世界はふたたび、ナチュラルとコーディネーターとの対立によって、戦火が広がって行くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、プラント最高評議会は、『積極的自衛権の行使』を賛成派多数により、可決しました。

ですがあくまで、我々は対話による問題解決に勤しむようにしてください。

我らとて、かつての争いを二度と繰り返したくはない……これから先、あの大戦を繰り返さないためにも、各皆様のご協力をお願いしたい……!」

 

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

 

 

 

プラントでは、先の開戦による連合側の核攻撃を受けて、今回で終わりではないだろうという意見から、いつでも自衛権を行使できるようにと『積極的自衛権の行使』を提唱した。

これはあくまで、領土の侵攻や攻撃を受けた時に際して発令されるものであり、こちらからの攻撃は極力しないという働きかけだ。

プラントには領土的野心はなく、あくまで自衛にのみ行使される権限だ。

だが、これによりプラントもまた、連合側との戦闘行為を辞さない覚悟を決めた事になる。

ならば当然、これはロゴスの望んだ展開だ……。

その提唱した今後の方針は、ザフト全軍に通達され、プラントではMSが多数出撃し、地球への大気圏再突入による上空からの援護命令が出ていた。

というのも、開戦が行われてから、ジブラルタルには警戒が、カーペンタリアのザフト駐留軍の前に連合の艦隊が押し寄せているとの報告を受けていた。

連合側は開戦時の核攻撃が成功した後、上空からの援護がないザフト軍を数で圧倒しようとしていたみたいだが、その核攻撃が失敗……しかも多大なる被害を出した為、作戦実行に移せていなかった。

なのでカーペンタリアに集まっていた連合艦隊は、まだ行動を起こせていない。

そのまま駐留しているだけだった。

 

 

 

 

「しかし、議長や議会の方々も、ずいぶんな言い訳を考えたものですね」

 

「そう言うな……政治的なやりとりだからな。そうやって良いイメージを持たせておいた方が、後々いい風向きを呼び込んで来るものだ」

 

「『積極的自衛権の行使』ですか……確かに、こちらには領土的な野心はありませんからね……」

 

「そうだ……。我々とて、かつての大戦をもう一度したいだなんて思ってもいないさ……。

だが、一方的に核まで撃たれては、動かずにはいられまい。守るためには、戦わなくてはならない……!」

 

「そうですね」

 

 

 

宇宙では、着々とMSの大気圏突破用のカプセル収容が始まっている。

プラントの軍港基地にいる司令官たちは、まず行われる降下作戦の準備に追われていた。

ジンやシグー、ザクウォーリアといった量産型機が次々と集結して来る。

 

 

 

 

「この戦況がどうなるか次第で、対応も変わって来る。こちらはこちらの仕事をするとしよう……あとは、うまい落とし所を見つけて、政治的なやりとりして、評議会の判断に委ねるさ」

「まぁ確かに、それが一番無難ですね……」

 

「なら、早急にMSの収容を急げ。いつ命令があってもいいようにな」

 

「ハッ!」

 

 

 

作戦実行まで、残りわずかとなった。

これが二年前の大戦と並ぶ、混沌とした戦火になるとは、誰も予想だにしていなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーン……!

 

 

 

「はい」

 

 

 

一方、ブルーコスモス……いや、ロゴスによる暗躍がはじまりつつあったその時、プラントでは、アスランがホテルの部屋でくつろいでいた。

そんな時、不意に来客を知らせるチャイムが鳴る。

チャイムの音を聞き、アスランがドアを開けると、そこには見知った顔があった。

 

 

 

「っ……!」

 

「イザークっ?!!」

 

「アスランっ、貴様あぁぁっ!!」

 

「のわあぁぁっ??!!!」

 

 

 

いきなり胸元を掴まれたかと思いきや、そのまま部屋の中へと押し戻されるアスラン。

そんな二人を見て、後ろからやってきたディアッカは、苦笑を浮かべながらアスランの部屋へと入る。

 

 

 

「くっ、なんなんだっ! 一体っ?!」

 

 

ようやくイザークの腕を振り払って、一体どう言う事なのかを問いただすアスラン。

よく見れば、イザークは軍服ではなく白地のスーツ姿だった。

 

 

 

「それはこちらのセリフだっ、アスラン!! こんなクソ忙しい時に、なんで俺たちが前線から呼び戻されなければならないっ!?」

 

「はぁ?」

 

 

 

イザークの言っている意味が分からず、首を捻っていると、そのイザークの後ろからディアッカがフォローに入る。

 

 

 

「お前、外出許可を出したんだろ?」

 

「ディアッカっ……!」

 

「おひさし」

 

 

 

ディアッカも軍服ではなくカジュアルな服装をしているため、今はプライベートの時間……と言うことになるのだろうか。

しかし、たしかにイザークが言った通り、今はプラントもかなり厳しい状態のはずだ。

前線で戦っていたはずのイザークとディアッカが、こんな所にいるのもおかしな話だ。

 

 

 

「こんな情勢下だしな……いくら友好国の人間といっても、勝手にプラント内をウロウロされちゃあ困るってんだろうさ」

 

「あぁ……それは聞いている…。誰か同行者が付くとは……でもそれが、お前……っ?」

 

「っ…………そうだっ! ふんっ!」

 

 

 

アスランの問いかけに、イザークはそっぽを向く。

仲が良いのか悪いのか……この関係だけは、二年前から変わらない。

とにかく、同行者として付いてきてくれるのは彼らのようで、準備を済ませていたアスランは、二人を連れてホテルの部屋を出た。

 

 

 

「たぶん、俺たちの事情を知っている誰かさんが、気を使って根回ししたんじゃねぇかなぁ〜?」

 

「ん……?」

 

 

 

ディアッカの発言に、アスランはある人物を思い起こした。

アスランの正体を知り、なおかつかつての部隊の仲間たちとの関係性も知り尽くしている人物など、限られているし、当てはまる人物は一人しかいなかった。

 

 

 

「ふっ…………」

 

 

 

アスランの脳内で思い起こされた人物は、無論、ギルバート・デュランダルただ一人だった。

余計な気遣いをさせてしまったと思ったが、これはこれで、悪くないと思うアスランだった。

そして一行は、エレベーターに乗り、一階のフロントフロアへと降りる。

エレベーターの扉が開き、そこから出て、階段を降りる。

 

 

 

「それで? どこに行きたいんだよ、お前」

 

「これで買い物とか言ったら、俺は許さんからなっ……!」

 

「そんなんじゃないよ……ただぁ、ニコル達の墓にな……」

「「っ…………」」

 

 

 

アスランの言葉に、イザークとディアッカは先ほどまでの雰囲気をしまい、神妙な面持ちでアスランを見る。

 

 

 

「プラントには、中々来られないからな…………だから、行っておきたいって、思ってたんだ」

 

 

 

 

その後、アスラン、イザーク、ディアッカの三人は、車を走らせて、とある場所へとやってきた。

そこは、先の大戦で命を落とした軍人達が眠る墓地だった。

軍に所属し、戦場へと赴き、その命を散らせてしまった者たち……亡骸はないが、目の前にある石碑に刻まれた名前が、その者たちの記憶を呼び覚ます。

 

ラスティー・マッケンジー

かつてのアスラン達の同期。

ヘリオポリス内で、連合が秘密裏に開発していた新型MS、通称『G兵器』の強奪任務を受け、アスラン達と共に強奪部隊として派遣されたザフトレッドのMSパイロット。

しかし、彼は新型MSを強奪する前に、連合側の兵士が放った銃弾によって頭を撃ち抜かれ、そのまま殉職してしまった。

もしも彼が生きていたのなら、最後のMS『ストライク』は、親友のキラではなく、彼が搭乗していた可能性があった……今となっては、どうなっていたかはわからないが……。

次に三人が赴いた石碑に書いてあった名前は…………。

 

ミゲル・アイマン

アスラン達よりも前に正規兵として活躍していた緑服のMSパイロット。

しかしその実力は、エースパイロット級の腕前だった。

彼は自分専用のカラーリングを施したジンを所有していたほどの腕前であり、《黄昏の魔弾》という異名も持っていたそうだ。

しかし、ヘリオポリスの強奪作戦前の戦闘で、自身の愛機を損傷してしまい、強奪作戦当日は、機体の修理が間に合わず、一般的なジンを動かすしかできなかった。

そんな彼も、ストライクを捉えようと戦ったが、最終的にはソードストライカーを装備したソードストライクの対艦刀によって斬り裂かれ、そのまま爆散して殉職してしまった。

そして、最後に向かった場所には……。

 

ニコル・アマルフィ

アスラン達の同期であり、共に幾度となく任務こなしてきた、大切な仲間だった。

心優しい性格の持ち主であり、ピアノがとても得意だった。

アスランは、彼のピアノ発表会に何度足を運んだこともある。

アスラン達よりも一つ年下でありながら、エースを意味するザフトレッドの赤服を着るという優秀さ。

彼もアスラン達同様、連合のG兵器の強奪作戦を受けて、その内の一機『ブリッツ』に登場し、何度も作戦を共にした。

だが、その作戦の最中に、オーブを出たアークエンジェルを追撃する形で行われた戦闘で、エネルギー切れとなったイージスに乗るアスランを助けるために、中破した機体でストライクに突っ込んで行き、躱したと思ったソードストライクの対艦刀が、コックピットブロックを抉った。

その結果、ブリッツは爆散し、搭乗者であったニコルと共に、G兵器の中で一番早く戦場から消えてしまった。

 

 

そして……彼の死が、アスランにとって忘れられない出来事を生む。それは、親友であるキラ・ヤマトとの本気の殺し合いだった。

キラにニコルを殺されたアスラン……また、アスランに親友であったトールを殺されたキラ。

互いに互いの友を殺され、二人の感情は爆発して、これまで躊躇ってきたのが嘘みたいに、あの時だけは、本気で殺しあった。

イージスは左腕と頭を斬り飛ばされ、ストライクは左腕を斬り落とされ、胸部の装甲を斬り裂かれた。

最終的には、イージスがMA形態となり、ストライクに組みついてゼロ距離からの高出力エネルギー砲『スキュラ』を放とうとしたのだが、寸前のところでエネルギー切れを起こし、アスランは仕方なしに機体を捨て、ゼロ距離で自爆した。

その後、アスランは爆風に煽られて海へと不時着し、キラもキラで、あの時の爆風で吹き飛ばされ、マルキオ導師のところへと流れついた。

あの戦いからも、二年が経つのだ……。

ニコルが生きていれば、もう17歳になり、ピアニストとしても、MSパイロットとしても大成していたかもしれない……。

三人はそれぞれの石碑に花束を置き、敬礼をもって挨拶を終えた。

そして話は、今のプラントの状況と、今後の方針について話し合われた。

 

 

 

「積極的自衛権の行使っ………?!! やはり動くのか、ザフトも」

 

「仕方がなかろう……。強引に開戦された挙句に、いきなり核まで撃たれてしまったからな……」

 

「っ…………」

 

「俺たちも、開戦の時には出撃したけどな……あいつら、あれでプラントを破壊する気だったと思うぜ? 多分な……」

 

「っ…………」

 

 

 

 

実際に戦場に出て行ったイザークとディアッカは、この目でしかと見ている。

極軌道からやってきたMS部隊が保有していた巨大なミサイルケース。

そのケース全てに、核ミサイルが装備されていたのだ。

核の使用……そして核エネルギーを搭載した兵器、MSの製造は、条約で禁止されていたにも関わらず、開戦してしまえばそんな条約知ったことが言わんばかりに撃ってきた。

本当に、あのまま『ニュートロン・スタンピーダー』が間に合っていなければ、プラントは全てユニウス・セブンと同じ巨大なデブリへと変わっていただろう……。

 

 

 

 

「それで……お前は?」

 

「え?」

 

「何をしているんだこんなところでっ?!」

 

「…………」

 

「オーブは? どう動くっ?!」

 

「…………まだわからない……」

 

 

 

 

正直な話、今後オーブがどう動くかは、本当にわからない。

カガリもオーブ国内の事も含めて、その事には一生懸命検案しているだろうが、周りは大西洋連邦との同盟に賛成のようだ。

オーブは一度、大西洋連邦の侵攻によって、その国土を焼かれている。

再び同じ状況になってしまう事は、何が何でも避けたいと思っている筈だ。

それは代表を継いだカガリも同じ考えだろう……。

だからこそわからないのだ……。

オーブは元々中立国だが、だからと言って大西洋連邦の申し出を無下に断ったりしたら、それでこそ大軍に攻め込まれてしまう。

オーブも戦力を増やし、新型MSの『ムラサメ』を製造した事で、対空戦力の強化を図ってはいるが、物量のままに押されてしまう可能性も無くはない。

 

 

 

「戻ってこいっ…………アスラン」

 

「っ?!」

 

 

 

イザークの言葉に、アスランは驚きを隠せなかった。

 

 

 

「色々と事情があるのはわかっている……だが、それも俺が何とかしてやるっ!

だから戻ってこいっ……お前は、プラントへ」

 

「いやっ……だけど、俺は……!」

 

「俺だって、こいつだって、本当はとっくに死んだ身だ……」

 

「っ…………」

 

 

 

そう言って、イザークは視線をディアッカに移した。

そう……本来ならば、イザークとディアッカは、この場にいなかったかもしれなかったのだ。

イザークは戦闘中、ヘリオポリスから避難してきた民間人が乗るシャトルを、退艦した逃走兵だと思い、ビームライフルで撃ち抜き、全員を死亡させた。

ディアッカに至っては、捕虜となっただけならまだしも、そのままオーブの軍勢に加勢し、ザフトと戦った。

明らかな敵対行為だった。

そんな二人は、当然軍法会議にかけられる……そんな時に救ったのが、意外な人物だった。

 

 

 

「だが、デュランダル議長は、こう言ったーーーー」

 

 

 

 

ーーーー大人たちの都合で始めた戦争に、若者を送って死なせ、そして再び誤ったからと言って、今ここで彼らを処分してしまったら、一体、誰がプラントの明日を担うと言うのですっ……!!!

辛い経験をしてきた彼らにこそっ、私は……平和な未来を築いてもらいたいッ!!!!

 

 

 

 

「っ……!」

 

「だからこそ、俺は今も軍服を着ていられるんだ……。それしか出来る事もないが、それでも何か出来るだろう……」

 

「…………」

 

「だからお前も何かしろ」

 

「っ……!」

 

「それほどの力……使わずにただ見ているだけか……!」

 

「っ…………」

 

 

 

イザークの言葉に、アスランはただただ胸を締め付けられるような思いだった。

今の自分にできる事……自分がしている事は何だろう……?

政治に口を出せる権限は持ち合わせていない……できる事といえば、MSに乗って戦うくらいだろうか……。

 

 

 

ーーーーだが君にできる事、君が望むもの……それは、君自身が一番よく知っている筈だ……!!

 

 

 

 

また、ギルバートの言葉が頭をよぎった。

そして、あの機体……『セイバー』の存在も、脳裏をよぎる。

 

 

 

 

(俺は…………俺に、できる事は…………っ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を言っているんだ! ダメだダメだっ、そんな事、許させるわけがないだろう!!!」

 

 

 

 

アスランが自身の事に悩んでいるその時、オーブでは連日今後に対する政策という題名での会議が開かれていた。

代表であるカガリを筆頭に、それを補佐するユウナと、宰相のウナト。

そして市長会の面々……。

議題に挙がっていたのは、大西洋連邦から出された世界安全保障条約に加盟するか否かだった。

市長会や宰相のウナト、そしてその息子であるユウナは、即座にそれを受け入れようとカガリに追求するも、カガリは断固としてそれを拒絶していた。

元々、大西洋連邦との間には、未だに不信感を抱かずにはいられなかったという理由もあるが、一番はやはり “オーブの理念” という存在だ。

他国と組みするわけではなく、あくまで中立を貫くという前代表からの理念。

それがオーブを平和な国と言わしめる最大の理由でもあるが、今は情勢が情勢であるために、カガリの言うことも、市長会やウナト、ユウナにはまるで届きはしない。

 

 

 

「ではどうすると言うのですか、代表は? 大西洋連邦からの招集を断って、今後、オーブはどうしようと言うのです?」

 

「そ、それは……オーブは、今まで通り中立を貫いて……」

 

「そして再び、国を焼くつもりですか?」

 

「っ!!?」

 

「前代表、ウズミ様のように」

 

「誰もそんな事は言っていないっ!!!!」

 

 

 

発言した市長の一人に、カガリは激昂して食ってかかる。

無論、カガリだって市長達の言いたい事は分かっている……今同盟に参加すれば、オーブはひとまず窮地を脱することが出来る。

しかしそれを言い換えてしまえば、大西洋連邦にとって、使い勝手いい駒になる事でもある。

大西洋連邦……それが中心となって組織されている地球連合軍は、オーブ軍、ザフト軍に比べると、計り知れないほどの物量を保有している。

兵士一人一人の戦闘スキルや熟練度はともかく、数が圧倒的に多い。

ならば、オーブ軍はその物量に耐えられるのか……?何日も戦闘が続けば、国土が小さなオーブは、たちまち焼け野原になるだろう……。

そう、二年前のように……。

そしてその侵攻作戦が、シンやアリサ、イチカのような、戦争による被害者を出してしまう。

カガリの頭には、憎しみのこもった目で、自身を睨みつけてくるシンの顔と、涙目ながらに心情を訴えてきたアリサの表情が焼き付いて離れない。

 

 

 

 

「代表……。代表の仰っている事は、我々とて重々承知です。先の代表であった、ウズミ様の志した理想、理念は、とても素晴らしい物だと我々も思います。

ですが、今はあの時とは違うのです……! 再び連合とプラントが戦争状態に入れば、少なからずオーブにもその影響が出てくるはず……ならば我々のする事は、もう二度とオーブをっ……国を焼かない様にする事のはずです……!!」

 

「っ…………」

 

「どうか、今一度お考えください……!」

 

「………………」

 

 

 

結局、この日の会議で、オーブの今後の対策についての話し合いはまとまらなかった。

事が事だけに、カガリも迷い続けている……。

会議室から出て、通路にあるソファーに腰をかけて悩んでいた。

 

 

 

(どうすればいいんだっ……!! オーブを二度とあんな惨状にしないために、一体何をどうすればいいっ?!

お父様っ、教えてくださいっ、私は……どうすればいいだっ……!!!)

 

 

 

頭を抱えて悩んでいるカガリ。

そんな彼女の元へと近づいてくる人影が見えた。

 

 

 

「大丈夫かい? カガリ……」

 

「ユウナ……」

 

 

 

 

ユウナ・ロマ・セイランだった。

彼はそっとカガリの隣にしゃがみ込んで、頭を抱えているカガリに優しく声をかける。

 

 

 

「大変だったね……君も代表だとは言っても、まだ18の女の子だと言うのに……」

 

「いや、大丈夫だ。気にしてないよ……」

 

「何も市長たちも、本気でウズミ様の事を責めているわけじゃないんだ……それだけはわかってやってくれないか?」

 

「それも、わかっているよ。みんなとて、もう二度と国を焼きたくないという気持ちは、同じだと思うからな……」

 

「うん……でも、こうしていても何も解決しないのも事実だ。今日の午後までには方針を決めておかないと、今後の政策にも支障をきたすかもしれないからね」

 

「そうだな……」

 

 

 

力無く頷くその顔には、疲労という色が見えていた。

しかしユウナには、別の物が見えていた。

 

 

 

「っ…………」

 

 

 

ユウナの視線の先には、カガリの左手薬指にはめられている指輪があった。

小さいが宝石が付いている……決して安くは無かった代物だろう。

それも左手薬指につけているのは、結婚指輪ということでもある……。

幼い頃からカガリとの将来を約束されていたユウナにとっては、途轍もなく不愉快なものだろう。

 

 

 

(彼か……全く、無駄な事を……。カガリはもうすぐ僕の物になるっ……僕たちで、カガリを正しく導くんだ……!)

 

 

 

 

ユウナの思念の相手は、いま宇宙にいる。

この事が後に大変な事態になる事を、この時はユウナも、カガリすらも予想だにしていなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふっ……イチカと一緒にお料理なんて、本当に久しぶりねぇ」

 

「そうだな。俺も、軍に入ってからは、作ること無くなったし……」

 

 

 

一方プラントの方では、イチカとユリスが自宅にて、料理を行なっていた。

昨日の晩に帰ってきたイチカ。

朝は軍のMS格納庫へと向かい、新たな機体となるストライクルーチェの整備チェックと性能を調べていた。

その間ユリスは、昼間に近所の奥様たちとの食事会を開いていた。

昨日の晩にイチカも食べた、ビーフシチューを振る舞ったそうで、来客の奥様たちもたいそう喜んでいたそうだ。

なんでも、ユリスの料理の腕の良さは、奥様たちにも知られている様で、中には、ユリス本人に料理を教えてもらいに来る人もいるんだとか……。

まぁそれはさておき、ユリスの家で行われた食事会は、ちょうど夕方くらいには終わり、ユリスはそのまま片付けを開始……。

そんな時に、イチカが帰宅して、今度は夕飯の買い物ときた。

最寄りのスーパーマーケットへと買い物に来た二人は、それぞれが作りたいもの、食べたいものを言い合いながら、今晩のおかずを決めていく。

イチカがリクエストしたものといえば、ハンバーグやステーキ、から揚げ……肉以外にも、焼き魚や煮魚などなど。

一方ユリスは、天ぷら、トンカツ、焼きそば、お好み焼きなどなど。

どれもイチカが依然、オーブの家で作った事があるものだ。

オーブは旧日本国の文化などが流れ着いているため、白米も食べられているし、かつての食文化もそのまま継承されてきているが、こういったものを家で食べるのは極少数になってしまったとか……。

ほとんどが欧米食になっていっているそうで、天ぷらなどは、その手の専門店に行ったりして食している様だ。

そのため、オーブの家でイチカが天ぷらを作った時には、その美味たる味と腕前に、家族みんなでイチカに賞賛を贈った事もある。

 

 

 

「作るのは、天ぷらでいいの?」

 

「ええっ、イチカの天ぷら、美味しいもの♪」

 

「ほんと? なら、作りがいがあるってもんだな……!」

 

 

 

ユリスとイチカ。

二人は並んで台所に立っている。

ユリスはご飯を炊くために、米を洗ってとぎ汁をこぼしていき、イチカは天ぷらにする食材の下拵えをやっている。

 

 

 

「今日はちょっとアレンジで、天丼を作ってみようかと思います」

 

「天丼……?! 天ぷらのどんぶりだったかしら?」

 

「そうそう。海鮮丼とか、牛丼は食べたことあったよね? それの天ぷらバージョン」れ

 

「へぇ〜♪ 天ぷらは食べたことあるけど、どんぶりにして食べるのは初めてね! 楽しみだわ」

 

 

ユリスは慣れた手つきで米を洗って行き、とぎ汁を綺麗に流し台へと捨てていく。

その間イチカは、エビの背わたを取り除いて、尻尾の先端を切り、水分を流していく。

そのあとかぼちゃを1センチ間隔で薄切りにして、椎茸の表面の皮に切り込みを少し入れて、柄の部分を切り落とす。

その後にシシトウやサラダチキンなどを用意して、チキンは一口サイズへと切り分けていく。

その後、小麦粉に卵黄を混ぜ合わせて、氷水を少しずつ入れながら混ぜて行き、天ぷら粉を作っていく。

ユリスはすでに炊飯器にご飯をセットし終わり、早炊きとスイッチを押している。

事前に温めていた油に、衣を落とし、油の温度を確かめる。

 

 

 

 

「う〜ん、やっぱりイチカがいると、料理のレパートリーが増えるから、夕飯が楽しみになるわね♪」

 

「そういえば、オーブにいた時は、アリサも手伝ってたもんね〜」

 

「といっても、あの子は食材切るだけで、調理とかは全然だったけどね」

 

「うーん……筋は悪くないんだけどなぁー……何事も豪快に行っちゃうから、最後に失敗するんだよねぇ……アリサは」

 

 

 

 

狙撃の時には落ちつているのに、何故か料理やその他の事には慎重に行けない節がある……。

もはやそれもある種の才能なのではないかと思うほどに……。

 

 

 

「さて、天ぷらだけじゃ物足りないから、味噌汁も付けとくか」

 

 

 

余っていた食材……ねぎ、わかめ、豆腐を切り、顆粒ダシを入れ温めておいた鍋に入れて、火を入れていく。

食材に火が入り始めた時に、天ぷら粉をつけた食材を油に投入。

油の跳ねるいい音を聞きながら、ユリスは味噌を鍋の中で溶きながら、炊き上がり間近の炊飯器の様子をチラチラと見ている。

そして、ちょうど天ぷらが揚がったのと同時に、炊飯器からの合図が鳴った。

 

 

 

「よしっ、ジャストタイミングだな」

 

「ご飯はどんぶりによそっておくわね?」

 

「うん、お願い」

 

 

 

 

ユリスはどんぶり茶碗を二個取り出し、ご飯を盛っていく。

イチカはユリスからどんぶりを受け取ると、揚げた天ぷらをご飯の上に乗せていき、最後に出汁つゆを温めておいたのをさっとかける。

 

 

 

「よし! できたぞ!」

 

「わあ〜〜♪♪♪」

 

 

 

 

パチパチと子供みたいな拍手をするユリス。

天丼と味噌汁をテーブルに並べ、飲み物を取り、二人は食卓を囲む。

 

 

 

「じゃあ、いただきます」

 

「いただきます!」

 

 

 

二人で手を合わせて、まずは味噌汁から……。

 

 

 

「うーん……沁みるなぁ……」

 

「イチカ、おじさんくさいわよ?」

 

「うーん、だって、本当の事だし……」

 

「でもまぁ、たしかに美味しいわね」

 

 

 

ネギの甘みが出ていて、とても美味だった……そして、天丼を頬張る。

エビのプリプリな食感やキノコの繊細な味わい、元々味付けがなされていたサラダチキンは塩や天つゆをつけなくとも、元々の味わいが天ぷらの衣と合わさって、実に美味だった。

ユリスとイチカは、その後も二人っきりの夕食を堪能して、その日一日が終わりに近づこうとしている。

 

 

 

 

「ねぇ、イチカ……あなたは、あとどれくらいでプラントに居られるの?」

 

「あぁーー…………」

 

「ん?」

 

 

 

 

ユリスの問いかけに、イチカは歯切れの悪い返答をした。

 

 

 

「えっとだなぁ……実は、明日出発することになんだんだ……」

 

「え? 明日っ?」

 

「うん……今日、軍の司令部から呼び出されてさ、急な指令がきてな……明日からまた地球に行くことになってな……。

今オーブに停泊しているミネルバに戻るようにって指令だった」

 

「そう……またしてもいきなりの指令ねぇ……」

 

「うん……でも、こればかりは仕方ないよ……。それに、俺もミネルバのみんなが心配だったのは事実だし」

 

「そうね……じゃあ、早くアリサにあって、安心させてあげないとね♪」

 

「ん、んんまぁ、そうだね……」

 

 

 

にんまりと笑うユリスの表情には、どこか深みのあるような気がしてならなかったが、事実、今アリサ達ミネルバクルーは、どうしているのか、もの凄く気になっている。

オーブは中立国だが、今はまた微妙な立ち位置にいるのは明白だ。

オーブだから大丈夫……なんて言葉が、いつまで通用するのか……。

 

 

 

「じゃあ、今日も一緒に寝ましょうか?」

 

「なんでそうなるっ?!!」

 

「だってぇ〜、寂しいぃぃ〜〜んだも〜〜ん!!!」

 

「若者言葉で言えばいいってもんじゃねぇだろっ! いい歳して何言ってんだよっ!?」

 

「むっ……いい歳とはなによぉー! いい歳って!!」

 

「いや、実際そうだろうが!」

 

 

 

ユリスも見た目は若いが、しかし、16歳になるアリサを産んでいる女性だ。

若くても30代の筈。

いつまでも若々しく見えるのは女性の素晴らしさだが、これはどうなのだろうか?

 

 

 

「母親命令です! 今日までは一緒に寝なさい!」

 

「どんな命令だよっ?!」

 

「軍の上司の命令は聞くのにっ、母の命令は聞かないと言うのかっ!」

 

「何と勝負してんだよっ!?」

 

「い・い・か・らっ! …………また戦場に戻るのでしょう」

 

「っ…………」

 

 

 

その言葉に、ハッとさせられる。

また、戦場に戻る……軍人ならば同然だ。

ましてや今の情勢ならばなおのこと……だが、ユリスにはそんなこと関係ない……愛する我が子が戦場に行くだけでも、正直に言って辛いだけだ。

 

 

 

「ごめん……これも、俺が選んだ道だ」

 

「イチカ……」

 

「俺も、アリサも、二年前のあの日に、必ず守ると誓った……そして、強くなろうと……」

 

「……イチカ」

 

「だから、こればかりは逃げるわけにはいかない……」

 

「………………」

 

「でもまぁ、そんな息子と娘の事を待ち続けてる義母さんも、辛い……んだよな」

 

「ええ、そうよ……二人とも危険なところに行くんだもん……」

 

 

 

 

ユリスはそういうと、食器を洗っているイチカのそばにやってきて、後ろから抱きついた。

 

 

 

「イチカとアリサの事は、私は信じてる……でも、戦場じゃあ何が起こるかわからないわ……」

 

「わかってる……だから、俺はアリサを守るし、アリサは俺の背中を守ってくれてる……それが成せるのなら、俺たちは絶対に死なない……!!」

 

「…………じゃあ、お母さんとも、約束してちょうだい」

 

「ん?」

 

「必ず、二人で戻ってくるって……」

 

「…………あぁ、わかった」

 

 

 

 

父、アッシュと約束した “家族を守る” という約束……そして、母、ユリスとの新たな約束 “二人で生きて帰ってくる” という約束。

かなり難しい約束なのは承知しているが、それでも、それを破る事は出来ない……。

今回はイチカの根負けだった。

家にいる限りは、ユリスの願いを叶えてあげようと思ったイチカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ホテルの自室で、電話の受話器を取り、連絡を取っていた。

 

 

 

 

「デュランダル議長に、アポイントをお願いします」

 

 

 

 

 

その選択が、この後の運命を変えることになるとは、この時、誰も思わなかった……。

 

 

 






次回は、オーブでの地球軍の戦闘を書いていこうと思います。


感想よろしくお願いします!!
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