機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜   作:剣舞士

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お待たせして申し訳ない(>人<;)

最近はリアルの方が忙しく、中々筆が進みませんでした。


第18話 血に染まる海

 

 

プラントが『積極的自衛権の行使』を正式に世界に向けて公言したことで、状況が一変した。

地球軍はもちろん、オーブの行政府にもこの情報が流れ込み、宰相のウナトと、その息子でカガリの補助係のユウナはため息と思案顔を見せる。

 

 

 

「はぁ〜……」

 

「ふむ……これは、早々に事を決めるべきではないですかね?」

 

「あぁ、そうだな……どうだ? 代表の説得は、うまくいきそうなのか?」

 

「ふん……カガリだって、そこまで馬鹿な子ではありませんよ……まだ子供なだけでね」

 

「それならいいが…………」

 

「まぁ、その事については、僕に任せてくださいよ。結婚のこともあるしね」

 

「あぁ、任せたぞ、ユウナ」

 

 

 

オーブの行政府内では、すでに大西洋連邦からの同盟条約の調印に前向きな者たちは多い。

それに、すでにもうカガリの心は折れかけている。

カガリとて国を再び焼かせるわけにもいかない……そのためには、最善の選択をしなければならないと思ってるはずだ……。

そこに漬け込もうとするユウナ達の顔は、どこの誰が見ようとも、悪役のような表情だっただろう…………。

そして、次の日には、ユウナ達は行動に移した。

再び開かれた会議の場で、プラントの公式発表した『積極的自衛権の行使』を受けて、今後オーブがどうするか……。

 

 

 

「そんな……っ!?」

 

「積極的自衛権の行使……とは言っていますが、戦争は生き物です。その戦火が、いつ、いかなるところから飛んでくるかもわかりません……!」

 

「っ…………」

 

「我々オーブは、大西洋連邦からの同盟条約を結びます」

 

「えっ!?」

 

「それが、今は最善の策です……! もう二度と、国土を焼かせるわけにはいきません……!

国を守るための決断です……!!!」

 

「くっ…………!!」

 

 

 

もはや、カガリに反論する余地はなかった……。

カガリだって、国を焼くのは本意ではないし、もう二度とあってはならないと考えている。

かつてオーブの理念を貫いた父、ウズミ前代表は、とても優秀で、勇敢だったかもしれない……だが、その結果、オーブは国土のほとんどを焼かれ、イチカ、アリサ、シンの三人のような、家族を奪われて、ザフト軍でMSパイロットとなった者達を生み出した。

家族を失う苦しみ……それは、カガリだってわかっている。

ならば理念よりも、一番に考えるべきは、やはり国を守る事のはず……。

結果……カガリは氏長会からの意見を止めることが出来ず、大西洋連邦との同盟条約は、ここに締結された。

正式な発表はまだだが、これにより、オーブ連合首長国は、中立国から地球連合へと変わってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…………タイムリミットか……」

 

 

 

 

オーブ国内の某所。

海岸沿いにある家の個室にいた人物はそう言うと、椅子に浅く座っていた状態を解除し、近くにあった無線機へと手を伸ばす。

オペレーター用の応答機材……つまりはマイク付きのヘッドフォンを頭にかけて、無線機のダイヤルを回す。

その発信先は……。

 

 

 

 

『聞こえるかミネルバ! 聞こえているならしっかり聞いてくれ』

 

 

 

その通信相手は、ミネルバだった。

ミネルバの索敵担当のバートがそれを受け取り、ブリッジにいたタリアへと連絡する。

 

 

 

「艦長!」

 

「ん? どうしたの?」

 

「それが、さっきから我が艦に対して通信が入ってきていまして……」

 

『聞こえるかミネルバ! もはや猶予はない! オーブの地球軍の参加はもう時間の問題だ……そうなれば、君たちにも容赦なく戦火が降りかかるだろう……!』

 

「さっきから、ずっとこうなんですよ……」

 

「………………」

 

 

タリアはその通信を不審に思いながらも、手を伸ばし、その通信を受けた。

 

 

 

「あっ、艦長っ?!」

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスよ。この通信はどう言う事? 何を言っているの、あなたは?」

 

『おお? まさか応答してくれるとは……。はじめまして、艦長殿』

 

「あなたは? この通信は、一体どう言う意味?」

 

『どうもこうもない……。事実を言っているだけなんだけどねぇ〜。

大西洋連邦から出た同盟条約に参加するのは時間の問題だ……そうなれば、プラントとしても動かざるを得ない……君たちも、このままそこにいては危険だと言う忠告だよ』

 

「…………正規軍である我々が、どこの誰とも知らない民間人の情報を信じると思うの?」

 

『うーーん…………アンドリュー・バルトフェルドって奴を知っているか?

これはそいつからの伝言だ…………』

 

「っ…………『砂漠の虎』」

 

 

 

アンドリュー・バルトフェルド。

その名前は、ザフト軍の軍人で知らない人はいない。

アフリカ大陸のリビア砂漠を拠点に、対ゲリラ戦を行い、地上戦艦『レセップス』を駆り、アークエンジェルと交戦したザフト軍内でも屈指の切れ者で、優秀な軍人だ。

かく言う、いま通信を行なっている者こそが、そのアンドリュー・バルトフェルドなのだが……。

 

 

 

『とにかく忠告はした……君たちの、幸運を祈る』

 

「っ…………」

 

 

 

それだけ言って、通信は切られた。

途中から話を聞いていたアーサーも、タリアの指示を待っている。

 

 

 

「カーペンタリアとの連絡は? まだ取れないの?」

 

「はい……開戦の折、地球軍側の圧力もあってか、レーザー通信でも、カーペンタリアの司令部にコンタクトできません」

 

「っ………………」

 

「艦長……どうするんです?」

 

 

 

 

いつも通りに、不安そうに尋ねてくるアーサー。

タリアは一瞬だけ逡巡したが、覚悟を決めたかのような顔つきに変わり、その場にいたブリッジクルーに指示した。

 

 

 

「カーペンタリアからの指令がまだだけど、本艦は整備と補給を終え次第、出航します! オーブ政府にも、概ねの事を伝えておいて。

アーサー、すぐに準備してちょうだい!」

 

「ハッ!」

 

 

 

 

その後、メイリンによって、オーブ政府に早々出航すると言う事を伝えてもらい、アーサーの指揮の元、着々と出航準備を整えるミネルバ。

慌ただしく準備を進めていると、しばらく経って一台の公用車がミネルバの停泊する港の近くに止まった。

その公用車の後部座席から、オーブ代表であるカガリが姿を現し、ミネルバ艦内にいる警備兵に連れられて、ミネルバ艦内へと入って行った。

 

 

 

「そう言えばさ、カーペンタリアとジブラルタルへの降下作戦って、いつ始まるの?」

 

「さぁね? 私にもわかんないわよ……」

 

 

 

 

一方、ミネルバ艦内の通路を歩いていたシン、ルナマリア、レイ、アリサの四人。

副長のアーサーの指示の下、MSパイロットはブリーフィングを行い、すぐに各自の機体に搭乗できるように待機する様にと命令が下った。

 

 

 

「でもまぁ、これでオーブも地球軍の仲間入りってことよね……」

 

「「っ…………」」

 

「結構好きだったんだけどなぁ〜、この国……あっ、ごめん、アリサとシンには辛いよね」

 

「別に…………」

 

「私も、そこまで気にしてないから…………」

 

「そ、そう? なら良いんだけど……」

 

 

 

 

そっぽを向いて返事をする元オーブ出身の二人。

しかしながら、その表情は、やや複雑な感情を抱えているようにも見えた。

かつては家族と暮らした故郷そのものだと言うのに、それが今や敵対する国家となったのだ。

いつの日にか、自分たちがオーブを攻めるような事があるのではないかと、二人は考えているのだろう……。

 

 

 

「正式な条約の調印はまだでしょうけど、早々に出発して、悪くはないと思うわ……。未だにカーペンタリアとの連絡が取れないって、メイリンが言ってたし……」

 

「命令違反には……ならないわよね?」

 

「こんな切迫している状況なんだし、大丈夫じゃないかしら?」

 

 

 

などと、主にアリサとルナマリアの女子二人で話しながら歩いていると、一行は向こうから歩いてくる人影に気づいた。

その人影の姿を捉えた瞬間、シンとアリサが目を見開き、驚きの表情をした。

なぜなら、その人物は…………

 

 

 

「ア、アスハ代表……!」

 

 

 

ルナマリアが言葉を零すように言う。

 

 

「ぁぁ……えっと……」

 

「くっ…………!!!」

 

 

目を合わせようとするが、今回オーブのたった行動に、ミネルバクルーたちも複雑な思いを抱いているに違いない……ましてや、初めから不服な感情を抱いているシンの姿を見れば、尚更だ。

 

 

 

「はっ、今度は敵だったはずの大西洋連邦と同盟かよっ!?」

 

「っ!!?」

 

「ほんっと、身勝手だよなっ、あんたは! いや、あんた達アスハは!!」

 

「ちょっと、シンッ?!」

 

「それは…………」

 

 

 

我慢できずに、シンが声を荒げて言う。

それを諌めようとルナマリアが間にはいるが、それもほとんど意味をなさない。

アリサはうつむき、綺麗な銀色の前髪が目元を隠しているため、何を考えているのか読み取れない。

そしてレイも、何も口を挟まずにただその様子を見守っている。

 

 

 

「今度は敵になるってんならっ、そん時は俺がオーブをぶっ潰してやるよッ!!!!」

 

「ぅっーーーー!!!」

 

 

 

言葉が詰まってしまったカガリ。

憎しみのこもった鋭い視線が、彼女の体を射抜いたからだ。

シンはそのままカガリの側を通り抜けて、早々にその場から立ち去っていく。

カガリも堪らず、「シンッ!」と叫んで呼び止めようとするが、シンは振り向きもせずにその場から離れた。

そんなシンを見ながら、ルナマリアは慌ててシンを追いかけていき、レイもカガリに敬礼してその場を離れた。

後に残ったのは、カガリとアリサの二人だけ……。

 

 

 

「くっ…………」

 

「…………」

 

 

 

自分の不甲斐なさ……そしてシンのあの態度を見て、断腸の思いを隠しきれないといった表情をするカガリ。

そんなカガリに対して、アリサは改めて向き直り、カガリをしっかりと視る。

 

 

 

「今回の同盟条約の締結……私は正直に言って、意外だと思ったわ」

 

「っ…………」

 

「あなたは確かに甘い……考え方も、あなたの口から出る言葉も……。

でも、イチカはそんなあなたの言葉を、ただの戯言だとは一度も言わなかった。それこそがオーブの理念であり、先代のウズミ様の意思を引き継いだ証なんだろうって……。

私も、あなたはそんなに弱くないと思っていた……実際、オーブを今の状態にまで回復させたのは、他でもない、あなたなんだしね」

 

「アリサ……お前……!」

 

 

 

正直なところ、意外だと思った。

アリサもシンと同じように、罵声を浴びせてくるものだと思っていたからだ。

しかし、今のアリサからは、シンのような殺気立ったような感情は見当たらない……。

 

 

 

「でも、これだけは聞かせて……あなたが今回とった政策は、あなたの望むところだったの?」

 

「っ……そ、それは……」

 

「はぁ……なるほど、氏長会議に押された形なのね?」

 

「仕方がなかった…………もう二度と、同じ結末を迎えるわけにはいかないんだ……!

もう二度とっ、あんな事があってはならないんだ! お前達や、シンの様に…………そして、私も……あんな思いを、もうしたくないんだっ…………!!!」

 

「………………」

 

 

 

この場にいる二人にしかわからない事……。

もう二度と、自国を焼かれないために……その為の政策なのだと……。

 

 

 

「まぁ、いいわ。私はあなたとは違う……一国を背負うような人でもないし、そんな柄じゃないって思ってるしね……。

だから、あなたの苦労も察するわ」

 

「………………」

 

「国の代表と言うものが、どれだけ大変で、その苦悩をちゃんとわかってやれるのかは、微妙なところだけどね」

 

「アリサ…………」

 

「けれど、私にも……守るものがある……!」

 

「っ…………」

 

「あなたは国を……そして私は、家族を……。規模は違っても、私にとって家族は、あなたが国を思う心と同じくらい大きいものなの……。

だからもしも、あなた達がプラントの……私たちの敵として前に立ち塞がるというのならーーーー」

 

 

 

 

アリサはゆっくりと右腕を上げて、カガリの顔の前に突き出すと、手をピストルの形を作くる。

 

 

 

 

「ーーーー私は全力で狙い撃つわ…………ッ!!!!!!!」

 

 

 

鋭い眼差しと、気迫のこもったオーラ。

そしてピンッと伸ばされた人差し指が、本物の銃の様に見えてしまう。

彼女の戦闘能力……MS戦での戦闘は、カガリもその目でちゃんと見ている。

高速で動き回るMSを狙撃銃で正確に撃ち抜く。

戦闘スタイルは全く違うが、弟であるキラ・ヤマトと並ぶのではないかと思うほどの精密狙撃。

と言っても、キラのMSを扱う技術を目の当たりにしているカガリからしてみれば、彼女の実力でキラを撃ち抜けるのかと聞かれれば、当然首を横に振るだろう……。

しかし、自軍のパイロット達ならば?

今はオーブも、対空戦力として新型の可変機MS『ムラサメ』を製造し、国防力が増してはいるが……果たして、アリサの狙撃にムラサメのパイロット達がどのように対応できるかどうか……。

 

 

 

「っ………………」

 

「では、私はこれで……。オーブのこれからの事、ささやかですが祈らせてもらいます……元住民として」

 

「あぁ……ありがとう……」

 

「失礼いたします」

 

 

 

 

それだけ言って、アリサはその場を離れてブリーフィングルームへも向かっていった。

その後、カガリはブリッジへと赴き、艦長タリアと面会。

今回の事は、地球の危機を救ってくれたはずのミネルバに対しては、あまりにも失礼極まるところだろうと、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

 

「本当にすまない……あなた方がいるこんな時に……私は、何の力にもなってやれなかった……!」

 

「いいえ……これも、仕方のない事ですわ」

 

「本当にすまないっ、艦長……!」

 

「そのお気持ちだけで、十分ですわ、アスハ代表……」

 

 

 

力なく肩を落とすカガリの姿に、タリアは肩へと手を置き、あまり自分を責めないでほしいと言わんばかりに悟す。

その後、ミネルバは出航準備を終えて、最終確認に入る。

カガリは退艦し、出航するミネルバを傍でずっと見送っていた。

しかし、そんなミネルバの出航を待っていたかの様に、オーブ領海の外から現れる船団が近づいてきていた。

 

 

 

 

「アレか、件の『ファントムペイン』が撃ち漏らしたという艦は……」

 

「はい。ザフト軍最新鋭艦『ミネルバ』……やはり “オーブからの情報” は正しかった様ですね?」

 

「ふん……まぁ、いくら軍事力の強い中立国と言えど、所詮は小国だ。

連合の規模で戦争を吹っかければ、どちらが不利かなどとすぐにわかる」

 

「確かに……オーブの軍事力は侮れませんからね……。二年前でも苦戦を強いられたと言う報告でしたが……それからさらに国防力を強めてきた国だけに、敵に回せば厄介だと言われるだけのことはあります」

 

「まぁな……だが、その中立国も今は連合側だ。正式な調印はまだだが、厄介な種は、早めに摘んでおかねばな」

 

「ハッ!」

 

「敵艦補足と同時に、MS部隊発進準備! 準備でき次第、即座に発進!!」

 

「了解! MS部隊は発進準備! 繰り返す、MS部隊は発進準備!」

 

 

 

わざわざオーブ領海にまで来ていた、空母四隻を含む地球軍艦隊だ。

巡洋艦や駆逐艦も複数おり、ミネルバ一隻に対して相当なお出迎えになりそうだった。

そしてそれは、オーブの軍本部でも確認していた。

その場に一人、護衛も付けずに本部へと訪れていたユウナは、軍部の人間と何やら話し込んでいた。

 

 

 

「ミネルバが発進したようだね?」

 

「はい。先程、ミネルバからの早急な出航要請の知らせを受けました。

もう間も無く、発進し、数分でオーブの領海を出ると思われます……」

 

「彼らにこのことは伝えているかい?」

 

「ハッ、すでに」

 

「よし。護衛艦群も出撃させておいてくれ、何があっても、あのザフト艦をオーブ領海内に侵入させてはならない」

 

「ハッ!」

 

 

 

 

正式な調印はまだなはずだが、もはやオーブも中立国ではなくなった……。

ならば、外敵がそこにいるのならば、早々に始末をつけようという腹づもりらしい。

ユウナの口元は不気味な笑みを浮かべており、その視線の先には、出港したミネルバの後ろ姿が見えていた。

 

 

 

「さて、どうなることやら……」

 

 

 

 

 

 

一方、オーブ領海を抜けたミネルバは、なんとかカーペンタリアに通信を行おうしていたが、今この瞬間、カーペンタリアではザフト軍による降下作戦が行われているはずだった。

カーペンタリアの領海ギリギリの場所で待機していた地球軍艦隊、カーペンタリアに駐留するザフト軍共にMS部隊を発進させ、交戦している頃だろう。

 

 

 

 

「オーブ領海、抜けました」

 

「カーペンタリアでの降下作戦は、どうなっているのかしら? 通信は? まだ繋がらない?」

 

「はい……先程から、何度も呼び出しているのですが、反応ありません」

 

「………………」

 

 

 

ミネルバオペレーターのメイリンが、先程からカーペンタリアの司令部にコンタクトできないか何度も試しているのだが、一向に通信がつながる様子がない。

そんな時に、索敵担当のバートから思いもよらぬ知らせが入る。

 

 

 

「本艦前方20にっ、多数の熱源を感知っ!!」

 

「っ?!」

 

「ええっ?!」

 

「これは……地球軍艦隊です!!」

 

 

 

レーダーに表示された熱源は、ミネルバの左右に広く展開していた。

 

 

 

「スペングラー級4、ダニロフ級8……他にも中小艦艇が10隻ほど……本艦前方。左右に展開しています!!」

 

「どういうことだっ?! オーブの領海を出た途端に、こんな……!」

 

「俺たちの出港を、事前に予測していたっていうのか? ったく、地球軍はみんなカーペンタリアじゃなかったのかよっ……!」

 

 

 

バートの報告に、ブリッジのクルー達にも同様の輪が広がる。

そしてさらに、最悪な知らせが入った。

 

 

 

「本艦後方に、オーブ軍の艦艇がっ!」

 

「えっ……?!」

 

「展開中です!」

 

 

 

ミネルバの後を追うように、複数のオーブ軍の護衛艦群が展開していた。

イージス艦である戦艦は4隻。

その後ろから、さらに巡洋艦が押し寄せていた。

そしてその艦艇の甲板上には、すでにM1アストレイも出撃可能な状態で待機している。

すると、イージス艦の主砲が旋回し、ミネルバに照準を合わせた。

 

 

 

「オーブ艦の砲塔が旋回っ! 本艦に向けられています!」

 

「くっ……」

 

「そんなっ!? 何故っ!!?」

 

 

 

バートの知らせに、タリアは苦渋の表情を浮かべ、アーサーはオーブ艦隊の行動に、信じられないと言った表情をする。

 

 

 

「領海内へは入れさせない……そういう事でしょうね」

 

 

 

出港する前に、カガリがわざわざ訪ねてきた理由はこれなのか……と、頭の思い出すタリア。

しかし、同時にこんなことをカガリがするとは思えないとも一瞬だけ頭によぎる。

しかし、今は包囲されつつあるこの状況を、どう切り抜けるか……即座に艦を預かる身としての、軍人として知恵が働く。

 

 

 

「どうやら、土産か何かにされたようね………。連合との正式な条約締結はまだでしょうに……やってくれるわね、オーブも」

 

「艦長!」

 

「ああぁ、もうっ! 四の五の考えたって埒があかないわ! ブリッジ遮蔽!! コンディションレッド発令っ!!

対艦、対MS戦闘用意っ!! 大気圏内戦闘よ、アーサー……わかっているわね?」

 

「は、はいっ!!」

 

 

 

 

艦長タリアの指示により、メイリンを通じてミネルバ全体にコンディションレッドが発令された。

ブリッジは遮蔽して行き、CICとドッキングする。

ブリーフィングルームで待機していたMSパイロット達も、即座にパイロットスーツへと着替えて、機体の元へと向かい、整備班も機体の最終チェックに追われていた。

 

 

 

「レッドって、一体どういうことだよっ?」

 

「知らないわよっ……何で私に聞くのっ?!」

 

「やっぱり、地球軍艦隊かしらね?」

 

「そう考えるのが、妥当だろうな……」

 

 

 

MSパイロット達はそれぞれの考えを言いながらも、無駄のない動きでエレベーターから降り、即座に自分の機体の元へと行く。

 

 

 

『艦長タリア・グラティスより、全クルーに通達! ただいま本艦前方には、空母4隻を含む多数の地球軍艦隊と、後方には、自国の領海警護と思われるオーブ軍艦隊が展開中である』

 

「空母4隻っ?!」

 

「後ろにオーブっ!?」

 

『どうやら地球軍は、本艦の出港を事前に察知し、網を張っていたと思われる。そしてオーブは、後方のドアを閉めている。

我々には、前方の地球軍艦隊を突破すること以外に活路はない! この戦いは、かつてないほどに厳しいものになると思うけれど、ミネルバクルーとしての誇りを持ち、最後まで諦めることなく死力を尽くしてくれることを祈るわっ!』

 

 

 

通信越しに聞こえるタリアの声からも、切迫している様子が伺える。

また、オーブが後方からやってきていることが気に食わないのか、シンは悪態を吐き、そのまま急いでコアスプレンダーの元へと走っていった。

そして、アリサは……。

 

 

 

「オーブ軍が展開……か……やってくれるじゃない、アスハ代表」

 

「おいアリサ、機体のチェックは終わってるけど、念のためお前も確認……っひ!!?」

 

 

 

 

アリサの元へと近づいてきたヨウラン。

しかし、そのアリサの瞳は、かつて見たことがないほどに鋭く、鬼気迫るようなオーラを放っていた。

 

 

 

「ごめん、ヨウラン……なに?」

 

「あ、いや……ほらぁ、これ……機体チェックの結果……」

 

「うん……あ、そうだ。私、今回の戦闘からスラッシュウィザードを使ってもいい? ちょっと本気で行くわ」

 

「えっ?! せっかくブレイズとの接合システム改良したのにっ?!」

 

「うん、ごめん。スラッシュウィザードは、イチカが付けてたやつがあったわよね? それでいいわ……お願いね?」

 

「お、おう……その……気をつけて、くださいね……」

 

「うん…………」

 

 

 

 

険しい表情のまま、アリサはMS搭乗用のクレーンに乗り込み、そのまま一気にコックピットブロックへと登り、素早くコックピットへと入り込んだ。

 

 

 

「うへぇ……またマッド隊長に怒られそうなんですけど……っていうか、アリサ怖すぎだろう……!

イチカがいないから、ちょっとナーバスになってんのかな?」

 

 

 

ヨウランは急いで整備班長のマッドに事情を伝え、スラッシュウィザードへの装備変更を通達。

その後も整備機材の補充と準備があるため、ヴィーノと一緒に走り回る羽目になった。

そして、そんな中で地球軍の艦隊からは、地球軍の最新鋭MSのウインダムが多数発進していた。

背中に装備されているバックパック『ジェットストライカー』は、かつてのストライクのバックパック『エールストライカー』を元に制作された最新型のスラスターウイングだ。

それにより滞空性能を得て、上空からミネルバを追い詰めようという算段だろう……。

 

 

 

「CIWS起動! ランチャー1からランチャー10、『パルジファル』装填! トリスタン、イゾルデッ発射用意っ!!」

 

「メイリン! シンには発進後、あまり艦から離れなようにと伝えて!」

 

「はい!」

 

「MS、全機発進!!」

 

 

 

タリアの指示に答えるように、中央カタパルトでは、すでにコアスプレンダーが発進準備を完了して、メインスラスターが起動し始めていた。

 

 

 

「シン・アスカ! コアスプレンダー、行きますッ!!」

 

 

 

小さなカタパルトデッキからファイターが滑空し、その後を追随するようにチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットを装備したシルエットフライヤーが順番に射出される。

 

 

 

『ザク、レイ機、発進スタンバイ! ザク、ルナマリア機のウィザードはガナーを装備! 発進、どうぞ!』

 

『レイとルナマリアは甲板から上空の敵を狙撃して! アリサは艦の中央部……中央カタパルトデッキの前で狙撃して!』

 

 

 

左のカタパルトからは、白いザクファントムが現れ、背部にブレイズウィザードを装備した後、カタパルトを歩いて外に出て、スラスターを噴かせると、そのままミネルバの左舷甲板へと飛ぶ。

 

 

 

「海に落ちるなよルナマリア! 落ちても拾ってはやらないからなっ!」

 

「意地悪ね……」

 

 

 

 

レイの視線の先には、レイと同じように、カタパルトから甲板に向かって飛んできた赤いザクウォーリアが……。

背部にはガナーウィザードを装備し、すでに砲身を展開中だ。

そして、再び左舷カタパルトからは、赤紫色のザクウォーリアが現れる。背部のスラスターを噴かせて、《イゾルデ》の後方……中央カタパルトの前に着地する。

 

 

 

 

「アリサ、お前の狙撃が一番射程が長い……出来るだけ敵を撃ち落とせ」

 

「はいはい、わかってますよぉ」

 

 

 

右手に持っていた《ビーム突撃砲》を腰にマウントして、右肩に接続しているビームスナイパーライフル《ファルコン》を取り、砲身を伸ばして展開する。

 

 

 

 

「っ…………今日は本気モードで行くわよッーーーー!!!!」

 

 

 

 

アリサのザクが狙撃体勢に入る。銃を構えて、腰を低くし、モノアイのメインカメラが、狙撃用の特殊カメラへと変わる。

コックピット内では、精密射撃用の特殊スコープが出てきて、アリサを一介のスナイパーへと変化させる。

ミネルバも戦闘体勢が整った頃、先に出撃していたインパルスは合体し、フォースシルエットを背部へと装備……インパルスの装甲が、灰色から色彩鮮やかな青・赤・白のトリコロールカラーへと変わる。

 

 

 

 

「いっけえぇぇぇーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

先行するインパルス。

向かってくるウインダム数十機に向かって突撃して行くと、即座にライフルを向け、ウインダムを次々に撃ち落として行く。

 

 

 

「ええぇいっ!!!」

 

「シッーー!!!」

 

「っ…………狙い撃つッ!!!!」

 

 

 

続いて、ミネルバ甲板にいるルナマリア、レイ、アリサが近づいてくる地球軍MSを迎撃する。

ガナーウィザードの高エネルギー長射程砲《オルトロス》が火を噴き、レイは《ビーム突撃砲》による精密射撃、そしてアリサは《ファルコン》とスナイパーモードによる超長距離狙撃。

オルトロスの高威力の砲火が一気にMSの機体を撃ち抜き、ビーム突撃砲が正確にコックピットブロックへと命中し、ファルコンの放ったビームは超高速で飛翔し、一番離れていたMSを次々に撃ち落として行く。

だが地球軍艦隊も、負けじと艦の砲塔をミネルバに定めて、その引き金を引く。

僅かに照準がずれていたために、直撃はしていないもののその衝撃は海の水を伝わり、本艦にまで押し寄せる。

 

 

 

 

「アーサー! 迎撃!! 左前方の艦隊に砲撃を集中!」

 

「ランチャー2からランチャー7っ! 《パルジファル》、《イゾルデ》っ、撃てえぇぇぇぇッ!!!!!!」

 

 

 

 

アーサーの号令とともに、ミネルバ左舷のミサイル発射管から、大気圏内用迎撃ミサイル《パルジファル》と、中央部にある連装砲《イゾルデ》が発射された。

ドンッ!! という思い響きの音を立てて、《イゾルデ》の放った砲弾は、まっすぐ地球軍艦隊へと向かって飛翔する。

三連装からなる砲身の内、二発の砲弾が艦艇を直撃、おそらく動力炉を撃ち抜いたのか、被弾した艦艇は木っ端微塵に吹き飛ぶ。

そして、迎撃ミサイル《パルジファル》がその近くにいた巡洋艦を直撃。

これまた弾薬庫に被弾したのか、巡洋艦も木っ端微塵に吹き飛んでいった。

しかし、まだまだ艦艇は多く、こうからやってくる空母からは、次々にMSが発進してくる。

 

 

 

「くそっ! こんな事でッーーーー」

 

 

 

唯一上空から敵を迎撃しているシンの駆るインパルスは、高機動に乗るとビームの弾幕をくぐり抜け、ウインダムに肉薄。

ライフルを腰に取り付け、背部のヴァジュラビームサーベルを抜く。

相手のライフルの射線上から即座に退避して、一気に間合いへと詰め寄り、渾身の一撃を敵の脳天から振り下ろす。

 

 

「ーーーーやられてたまるかあぁぁぁッ!!!」

 

 

 

ビームサーベルが機体をいとも簡単に両断し、機体を爆散させる。

しかし、空母からは次々とウインダムとダガーLの部隊が出撃し、空一面にMSが広がっていた。

 

 

 

「ちょっとあの数っ!? 冗談じゃないわよ!」

 

「無駄な口を聞いてる暇があるのかっ!」

 

「口をより手を動かす! ほらルナっ! そっちに二機行ったわよ! 迎撃!!」

 

「くぅ〜〜!!! でえりやあぁぁぁ!!!!!!」

 

 

レイとアリサに説教されながらも、ルナマリアはオルトロスの引き金を引く。

高火力の砲撃がウインダムのコックピットを見事に撃ち抜いた。

それ以外にもミネルバのCIWSがダガーLを弾幕で圧倒し、撃ち込んでくるミサイルを落として行く。

 

 

 

「5時の方向より、ミサイル来ますっ!!」

 

「取舵20! 迎撃!」

 

「《トリスタン》撃てえぇぇぇぇッ!!!!」

 

 

 

次々に襲ってくる連合のMS。

ミネルバも応戦するが、なにぶん物量の差がある。

放ってくるミサイルを撃ち漏らし、右舷の甲板へと被弾……大した損傷は見受けられないが、被弾した衝撃が、クルー達に恐怖を与えてくる。

 

 

 

 

「ふむ……中々に手強い艦のようだな。ロアノークの言うこともあながち間違いではなかったか……」

 

「艦長、どうされますか?」

 

「ふむ……」

 

 

 

今回のミネルバ撃破の命を受けてきた艦隊の司令は、一瞬悩んだが、即座に判断を下した。

 

 

 

「ザムザザーを出せ……。あまり相手が消耗してからでは、大したデモは取れんだろうからな……」

 

「ハッ!」

 

 

 

艦長の指示のもと、即座に空母内で動きがあった。

三人のパイロットスーツに身を包んだ男たちが、ある一機の機体へと登場する。

コックピット内には、三つの操縦席か設けられており、それぞれ一人ずつ乗り込む。

 

 

 

「こう言っては身贔屓に聞こえるかもしらんが、私はこれからの戦力になるのは、ザフトの機体を真似て作った蚊トンボのような機体よりも、ああいう新型のMAの方が、圧倒的に戦力になるとな」

 

 

 

空母の大型ハッチが開き、中から巨大な機体が現れる。

MSのように人型の形をしたものではなく、どこか生物的な造形を取っている機体だった。

 

 

 

 

『YMAF-X6BD ザムザザー……発進よし!!』

 

 

 

 

甲板に響く声。

その直後、スラスターが点火し、その大きな巨体が宙に浮かび上がると、驚異的なスピードで海の上を滑空する。

そして、そのザムザザーの姿を、ミネルバでも捉えた。

 

 

 

「っ! 本艦前方より接近する機影っ! これはっ!?」

 

「高画映像出ます!」

 

 

 

メイリンが手元のデバイスを使って、メインモニターにその姿を映し出した。

 

 

 

 

「なっ、なんだ、あれはっ!!?」

 

 

 

その存在感……異様さに、アーサーが狼狽えるが、タリアは一瞬でその正体を看破した。

 

 

 

「モビルアーマーっ……!!」

 

「あんなにデカいっ!!!??」

 

 

 

従来のMAは、戦闘機程度のものだったはずだ。

しかし、連合にもMSの製造技術と、それをナチュラルが操縦できるだけのシステムの開発に成功している……。

故に、その技術を織り込んだ新たなる兵器が完成していたとしても、なんら不思議なことはない。

発進したザムザザーは、連合の新たなる兵器の一つ。

その巨大な体格に似合わず、機動性はMSとほとんど変わらず、火力と防御力においてはMSを凌駕する。

連合の新たなる戦術……MAでの圧倒的火力による蹂躙だ。

 

 

 

 

「あんなのに取り付かれたおしまいだわッ!! アーサーッ、《タンホイザー》起動! アレと一緒に、左前方の艦隊を薙ぎ払う!!」

 

「えええっ!!!??」

 

「沈みたいのっ!?」

 

「あ、はいっ! い、いいえっ!!!」

 

 

 

タリアの一声に、アーサーは急ぎ陽電子砲《タンホイザー》を起動させる。

 

 

 

「《タンホイザー》起動! 発射シークエンススタンバイ!」

 

「プライマリー兵装バンクっ、コンジット!」

 

「目標補足! 前方っ、巨大MA!!」

 

 

 

ミネルバの艦首部分のハッチが開き、そこから巨大な砲塔が現れた。

ミネルバの主砲は《トリスタン》だが、実質、この《タンホイザー》こそが、ミネルバ最大火力の砲塔になる。

しかし、そんな武装を曝け出して、なんの対応もしない連合ではなかった。

ましてや、接近中のMAのパイロット達は……。

 

 

 

「敵戦艦っ、陽電子砲発射体勢!」

 

「艦隊の前に出せ! 陽電子リフレクター展開準備!!」

 

「了解! 陽電子リフレクター出力向上!」

 

「機体を、リフレクション姿勢へ!」

 

 

 

ザムザザーの後ろ脚だと思える部分がブースターによって浮かび上がり、まるでミネルバに対して真正面から向き合うように体を傾ける。

そして、機体の一部分から光が灯ると、その光は一瞬にして広がって行き、機体全体を覆う大きな網目模様の光の壁を作り出した。

 

 

 

「姿勢制御! セーフティー解除っ!」

 

「撃てえぇぇぇぇッ!!!!!」

 

 

 

ミネルバの艦首砲《タンホイザー》が放たれた。

高出力の赤く太い光線は真っ直ぐザムザザーへと向かって飛ぶ。

そして、ザムザザーの展開した光の障壁にタンホイザーがぶつかる……凄まじい衝撃がザムザザーに襲いかかり、今にも機体がバラバラに弾け飛びそうだ……しかし、その機体はいまだ健在。

周りにいた巡洋艦を巻き込む形で起きた大爆発。

誰もがやったと思ったが、吹き荒れる水飛沫の中で、その場にいた全員が息を飲んだ……。

 

 

 

「っ……!」

 

「ぁ…………!」

 

「う、そ…………!?」

 

「なっ……?!」

 

 

 

 

ミネルバの甲板にいたレイ、ルナマリア、アリサ……そして、上空からその様子を見ていたシンは、驚きを隠せなかった。

何故なら、《タンホイザー》を受けてもなお、ザムザザーは連合艦隊の最前線にとどまっていたからだ。

 

 

 

 

「う、嘘だろっ……?! タンホイザーを……そんな、弾き返したっ?!」

 

 

 

信じがたい事実。

嘘であってくれと思うしかなかった。

そんな中、タリアは次の指示を出す。

 

 

 

「取舵20! 機関最大! 《トリスタン》照準、左舷敵戦艦!!」

 

「で、でも艦長!! ど、どうするですアレェっ!?」

 

「あなたも少しは考えなさいッ!! マルクっ、回避任せる!!」

 

「はい!」

 

「メイリン! シンは? 戻せるっ?!」

 

「は、はい!」

 

 

 

ザムザザーの見せた新兵器に、ブリッジにいるクルー達も動揺している。

また、副長であるはずのアーサーが一番動揺しているのを見ると、とても腹ただしいと思ってしまうタリア。

アーサーには誰よりも厳しい口調になってしまう……。

しかし、そんな混乱の最中にいるブリッジの事など御構い無しに、ザムザザーはミネルバに対して高速で近づいていく。

 

 

 

「主砲っ、1番、2番、照準敵戦艦!」

 

 

 

ザムザザーの脚とも、腕とも呼べる部位がミネルバに向けられる。

その先端部には、複列位相エネルギー砲《ガムザートフ》と、その上に《単装砲》が装備されている。

二門の《ガムザートフ》と《単装砲》がミネルバに照準を合わせた瞬間、そのザムザザーに対して斬り込んでくる機影が一つ。

 

 

 

「させるかあぁぁぁッ!!!!」

 

「っ?! 回避っ!」

 

 

 

そう、シンの駆るインパルスだった。

ビームサーベルを抜き、直接的な攻撃へと変えていく作戦だったが、ザムザザーはその見た目とは反するような機動性でインパルスの強襲を回避。

 

 

 

「チィッ!」

 

 

 

シンはUターンして、再びザムザザーに対して近接攻撃を仕掛けにいく。

 

 

 

「クロー、展開!」

 

「クロー、展開します!!」

 

 

 

しかし次の瞬間、ザムザザーの砲台が回転し、巨大な腕から現れたのは、カニの爪を彷彿とさせる大型クローだった。

そのクローが赤色に染まり、またしても不気味さを増す。

 

 

 

「突撃っ!」

 

「なっ……!?」

 

 

 

奇襲が一変、今度はシンが攻撃される側になってしまった。

高速で近づいて、大きなクローで挟み込もうとするザムザザー。

シンは辛うじてその攻撃を躱して、ザムザザーの背後を取るが、ザムザザーの後脚にも、同じ《ガムザートフ》と《単装砲》が存在する。

それを確認したシンは、突撃をやめ、回避行動に出る。

すると、その直後に、高出力のエネルギー砲が飛んできた。

あのままそこに留まっていたら、まず間違いなく大きな損傷を受けていたに違いない。

初戦ながら、大いに力を見せつけるザムザザー。

そして、ダガー部隊とウインダム部隊が、変わらずミネルバへと進軍する。

甲板上のアリサ達やミネルバクルーたちも応戦しているが、数で圧倒されている状況で、流石に無傷とは言えない。

 

 

 

『7時の方向にっ、MS3機っ!!』

 

「レイっ!」

 

「チィッ!」

 

 

 

ビーム突撃砲のカートリッジパックを交換しながら、再び狙いを定めるレイ。

アリサも左右に振り返りながら、《ファルコン》による狙撃を行う。

しかし、数が多いのもそうだが、広い空を飛び回る機体を正確に撃ち抜くのも、それはそれで至難の技だ。

一方、シンの方の状況は相変わらずだった……巨大な体ではあり得ないような機動力で斬り込んでくるザムザザー。

ビームライフルで対抗しようにも、相手は《タンホイザー》を弾き返した盾を持っている……。

ビームライフルなんて、陽電子リフレクターの前では豆鉄砲もいいところだった。

 

 

 

 

「くそっ! なんて火力とパワーだよっ、こいつは……!!」

 

 

 

ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ!

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

突然機体から発せられた警告音。

それは、インパルスの機体エネルギーが枯渇している事に対する警告だった。

つまり、パワーが危険域に入ったのだ。

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 

 

パワーが危険域に入っているのはわかっているが、このバケモノの様な機体をどうにかしなければならないと、エネルギー供給もままならない。

苦虫を噛み潰したような表情で、シンはなんとかザムザザーを振り切ろうとした。

一方で、この戦闘を見守っていたオーブの軍本部では……。

 

 

 

 

 

「ふむ……」

 

「いやぁ〜しかし、凄いですねあの兵器……!」

 

「あぁ、陽電子砲を跳ね返すとはな……」

 

 

 

 

連合の見せた新型MAの最新の兵器を目の当たりにして、オーブ軍の将兵たちも驚きを隠せずにいた。

なにせ、陽電子砲は戦闘艦の中でも一番強力な武装だ。

それを跳ね返すとなると、とてもじゃないがあんな兵器に勝てるわけがないと思ってしまう。

皆がその話題で盛り上がっている最中、唐突に開かれた扉。

そこから聞こえてきた声に、一同驚くことになる。

 

 

 

「何をやっている」

 

「「「「っ!!!!!????」」」」

 

「おや? カガリ……」

 

 

 

そう、オーブの代表であるカガリだった。

その場にいた将兵たちはカガリに対して敬礼し、そこで唯一驚かなかったのはユウナだけだった。

カガリはユウナの元へと近づいていき、その際にメインモニターに映し出された戦闘の様子を見てしまった。

 

 

 

「っ!? な、なんだこれはっ!」

 

「オーブ沖で戦闘が行われていてね……あのミネルバと、地球軍艦隊がやっているんだ。

オーブ領海の外とは言え、危険が全くないとは言い切れないからね……念のため、護衛艦隊を出させているよ」

 

「…………」

 

「ザフト艦ミネルバっ、オーブ領海へ近づきつつあります! もう間も無く、領海へと侵入します!」

 

「えっ……!?」

 

「領海内に入れてはならん。護衛艦群に威嚇射撃の命令を……それで転進、あるいは止まらなければ、直接攻撃も辞さない!」

 

「な、なにっ!?」

 

 

 

ユウナの言葉に耳を疑ったカガリは、急いでユウナに詰め寄った。

 

 

 

「領海に入れさせない気かっ!? あれではっ……!」

 

「我々は既に、大西洋連邦との同盟を締結することを選びました……正式な同盟締結はまだですが、それでも……敵国となるザフト艦を保護しようとするならば、それがどの様な事になるのか……代表もお分かりでしょう?」

 

「し、しかしっ! あの艦はっーーーー」

 

「ザフト艦です」

 

「っ!?」

 

「そう、我々が敵対している国の艦です。ならばなおのこと、領海内に入れるわけにはいかない。

そして、我らの盟友となる大西洋連邦が敵として落とすと決めた艦なのですから……」

 

「だがっ、それではっーーーー」

 

「っーーーー!!!」

 

 

 

何を言おうと食い下がろうとするカガリに、ついにユウナがキレた。

 

 

 

「国はあなたのおもちゃではないっ!!!!」

 

「な…………!!?」

 

「いい加減っ、感傷で物を言うのはやめなさいっ!!!!」

 

「くっ…………」

 

 

 

たしかに昔と違い、今のカガリは国の代表だ。

そらゆえに、安易な言動が、国の行く末……すなわち未来へと直結しているのだ。

ならば、ここはどう判断すべきなのか……。

感情では、こんな事認められるわけもない……人として、地球の危機を救ってくれたミネルバを撃てと……そんな事、カガリにはできなかった。

しかし、自分たちの周りにいる将兵達の目を見ると、厳しい眼差しを向ける者もいれば、これは仕方がないんだと、カガリと目を合わせない様に俯く者もいる。

そして、ユウナの叱責に流されるままに、オーブ護衛艦に対して伝令が降った。

 

 

 

 

 

「トダカ一佐!」

 

「ん?」

 

「軍本部より伝令です!」

 

「なんだ?」

 

「現在ミネルバは、オーブ領海線へと再接近中……艦隊はすぐに、威嚇射撃を行い、停止あるいは転進する様子がなければ、攻撃対象として対応せよ! との事です……」

 

「はぁ……」

 

 

 

 

護衛艦隊の旗艦として前線に出ていた艦のブリッジでは、トダカが伝令に対しておもむろにため息をついた。

 

 

 

「やれやれ……以前国を焼いた連中に味方し、その身を賭して地球を救ってくれた艦を撃て、かぁ……」

 

「…………」

 

「こう言うのを、“恩知らず” って言うんじゃないかと俺は思うんだけどねぇ……まぁ、政治の世界にはない言葉かもしれないがな……」

 

 

 

そう毒づくトダカ。

しかし、それを肯定する者も、否定する者もいなかった。

軍人である以上は、命令に従わなければならない……そう言う事なのだろうか……。

 

 

 

「主砲照準……前方ザフト軍艦。威嚇射撃だ、絶対に当たるなよ?」

 

「ト、トダカ一佐っ?! しかし、それでは命令に……!」

 

「知るか……俺は政治家ではないんでな……いいから警告の後、威嚇射撃を一発ずつ撃て」

 

「ハッ!」

 

 

 

 

この旗艦の中ではトダカが一番上の階級になるため、実質的にトダカが艦長という事になる。

トダカの命令に、部下と思われる将兵は、すぐさま音声通信による計画を放った。

 

 

 

『ザフト軍艦ミネルバに告ぐ! ただいま貴艦はオーブ領海線へと接近中である。

本艦は、貴艦の領海侵入を許してはいない。直ちに転進されたし!』

 

 

 

不利な状況にあるミネルバにとって、この警告は一番受け入れがたいものだった。

当然、タリアはそんなことをすぐに行うことはしなかった。

 

 

 

「いま転進したら、間違いなく沈むわっ……! オーブ領海線ギリギリまで逃げなさい!」

 

「はい!!」

 

 

 

タリアの指示に、操舵士のマルクはギリギリオーブ領海線に入るか入らないかくらいのギリギリのところを進んでいく。

しかし、それは当然オーブ護衛艦隊もわかっている。

すると、トダカが合図をし、艦隊の主砲全てがミネルバへと向く。

しかしその照準は、全てミネルバから離されている。

 

 

 

「撃てえぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

 

トダカの号令と共に、艦隊の主砲が一斉に火を噴く。

四発の艦主砲の砲弾が、ミネルバに向かって飛んでいく。

しかし、どれもミネルバの周りの海へ落ちる。

直撃は無かったものの、その発砲が、ミネルバクルーたちに動揺を誘った。

 

 

 

 

「あいつらぁぁぁっ!!!!」

 

「ちょっ、アリサっ!?」

 

「やめろっ、アリサ! いまオーブ艦を撃てば、オーブからも狙い撃ちされるぞ!」

 

「くっ……!!」

 

 

 

 

オーブ艦の発砲にキレたアリサが、《ファルコン》をオーブ艦に向けたが、ルナマリアとレイがそれを急いで止める。

そして、上空からその様子を見ていたシンも…………。

 

 

 

 

「オーブが……、本気でっ?!」

 

 

 

中立国……。

そう言われていたオーブが、今はもう連合加盟国となったのだと、改めて確信した。

しかし、その驚きと動揺が、命取りになってしまった。

突然機体が激しく揺らぎ、センサーも警告音を鳴らす。

 

 

 

「うわっ?!」

 

 

 

何事かと思い、衝撃が起きた方へと視線を移すと、そこにはインパクトの右脚を大きなクローで挟み込んでいるザムザザーの姿があった。

 

 

 

「しまったっ!!」

 

 

 

危機感を覚えたシンであったが、時すでに遅し。

右脚を掴んだザムザザーは思いっきりインパルスを振り回して、海面に向かって大きな腕を振り払った。

その瞬間、インパルスのパワーは完全に消失し、VPS装甲が機能停止。

装甲の色が灰色になっていく。

その瞬間、シンの表情も絶望に染まった。

ザムザザーが振り切った瞬間、インパルスの右脚はふくらはぎ部分で亀裂が走り、ザムザザーのクローはインパルスの脚をもぎ取った。

インパルスはそのまま、力無く海面へと落ちて行くだけだった。

 

 

 

 

「うわあああああぁぁぁっ!!!!」

 

「シン!」

 

 

 

オペレーターのメイリンの声が響き、一同がシンの乗るインパルスへと視線を泳がせた。

 

 

 

「ぁ……ぁぁ…………」

 

 

 

 

消失しかける意識の中、シンはかつての記憶を思い出していた。

そう、それは二年前のオーブ領オノゴロ島での事だ。

家族とともに、軍の施設へと逃げている時だった……。

母と、父と、妹のマユと、そしてシン……後もう少しで助かる……みんなで助かるんだと……そう思っていた……だが、たった一発の砲弾が、全てを奪った。

無残な屍となった家族……マユだと思っていた左手は……ただの肉塊……体の一部しかなかった。

もう、見ることもできない…………話すこともできない…………会うことなんて、到底叶わない……。

だからこそ誓ったはずだ……今度こそ、強くなると……何物にも奪われない……自分の大切な物を守るために……。

 

 

 

 

「こんな事で……こんな事で俺はぁぁぁっ!!!!!!」

 

 

 

 

ッーーーーーーーー!!!!!!

 

 

 

 

シンの中で、何かが何かが弾けた。

その瞬間、頭の中が驚くほどクリアになり、全てがスローモーションのように見え出した。

咄嗟に左手でスラスターの出力を調整するレバーを全開に引き上げる。

エネルギーが切れてはいるが、全ての機能が使えないわけではない。

その証拠に、フォースシルエットの高出力スラスターにエンジン光が灯った。

だが、それを見て、やすやすと見逃すザムザザーではない。

 

 

 

 

「まだ落ちないかあぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

ザムザザーは手脚四基の《ガムザートフ》と《単装砲》をインパルスに向けて発射する。

だが、その砲撃が直撃するよりも前に、インパルスがその場から飛び去る。

 

 

 

「ミネルバっ、メイリンっ! デュードリオンビームをっ!!」

 

 

 

インパルスは真っ直ぐミネルバに向かって移動する。

その後ろをザムザザーは追いかけ、再び砲撃するが、インパルスは錐揉み状に飛んでこれを回避。

さらに加速して、着々とミネルバに近づいていた。

 

 

 

『それからっ、レッグフライヤーとソードシルエットを射出準備っ!!!』

 

「シ、シンっ……?」

 

『いいからっ、やれるなっ!?』

 

「ぁ…………」

 

「指示に従って!!」

 

 

 

 

艦長であるタリアに、一応指示を仰ごうとしたメイリン。

しかしタリアも、この状況で動いたシンを信じたようだ。

 

 

 

「デュートリオンチェンバー、スタンバイ! 索敵追尾システムっ、インパルスを捕捉しました!」

 

 

デュートリオン送電システム。

それが、セカンドステージの機体に盛り込まれた新システム。

従来のG兵器と呼ばれていた連合の開発したフェイズシフト装甲……略称でPS装甲と呼ばれるこの新技術は、従来のMSの性能を度外視するような技術だった。

しかし、これにも弱点があり、従来のMSよりも多くのエネルギーを消費してしまうという事だ。

故に二年前……ザフトがファーストステージとして開発した三機のMS……フリーダム、ジャスティス、プロヴィデンスは、PS装甲を積んだ上、エネルギー切れの無いように半永久的に戦闘継続させるために、核エネルギーを使うという禁忌に触れた。

しかし、停戦締結と同時に調印したアラスカ条約によって、核兵器の使用を禁じられ、その派生とも言える核エンジンを搭載したMSの開発も禁止された。

そこで新たに生み出されたのが、この『デュートリオン送電システム』だ。

母艦であるミネルバあってこそ成り立つ技術だが、母艦から放たれたエネルギー送電によって、いつでもエネルギーの補給ができるという画期的なシステム。

同型機のカオス、ガイア、アビスは連合の手に渡ってしまったが、連合にはこのシステムは存在しない。

故に、このシステムを使用して、戦闘が継続できる機体は、今のところ、シンの駆るインパルスだけだ。

 

 

 

 

「デュートリオンビームッ、照射っ!!」

 

 

 

ブリッジ横の送電機から、真っ直ぐインパルスに向けてビームが飛ぶ。

インパルスの額……V字のアンテナブレードの真ん中に、ビームを受信する機関が内蔵されており、その一点にビームが入っていく。

すると、緑色のツインアイが息を吹き返した様に灯り、コックピット内のパネルでも、エネルギーの残量を知らせるパラメーターが、ぐんぐんと伸びていき、やがて満タンになっていった。

そして、灰色になっていたインパルスの装甲が、もとトリコロールカラーを取り戻した。

 

 

 

 

「なっ、なんだとっ!!?」

 

 

 

これに驚いたのは、もちろんザムザザーのパイロットたちだ。

従来の機体ではあり得ないシステム。

エネルギー切れを起こし、成す術なかったインパルスが復活……。

インパルスはザムザザーに対して振り向くと、ビームライフルを腰にマウントし、背部のヴァジュラビームサーベルを引き抜き、ザムザザーへと肉薄する。

 

 

 

「っ!!? 撃てえぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 

 

脅威を感じたパイロットは、即座に砲撃を行う。

しかしその攻撃を、インパルスは真正面から受ける。

《機動防盾》……インパルスに実装された新型の盾だ。

それが真正面から放たれたザムザザーの砲撃になんとか耐えていると、インパルスは途端に上空へと方向転換。

盾をそのまま使い捨て、“上への攻撃手段がない” ザムザザーに対して、逆手に持ったビームサーベルを思いっきり振り下ろした。

 

 

「「「うわあああぁぁぁっ!!!!???」」」

 

 

 

コックピットのすぐ後ろ。

ヴァジュラビームサーベルを突き刺したインパルスは、それ自身の方へと振り抜く。

 

 

 

「うわあああぁぁぁーーーーーー」

 

 

 

ビームサーベルの通った場所には、三人のうち真ん中にいたパイロットがビームサーベルの餌食となってしまった。

発した断末魔のような叫び声も、爆発の音によってかき消されてしまう。

その直後、インパルスは残っていた左足でザムザザーを蹴り、スラスターを噴かせてその場を離れる。

ザムザザーはそのまま海へと落ち、海中へと沈んだ瞬間に大爆発を起こした。

 

 

 

「っ………………」

 

「ぁ……ぁぁぁ…………」

 

 

 

突然の逆転劇に、ブリッジのクルー達も言葉を出せなかった。

 

 

 

『シルエット射出っ!!』

 

「は、はいっ!!」

 

 

 

シンの指示に、メイリンは慌てて中央カタパルトにスタンバイしていたレッグフライヤーとソードシルエットを射出した。

破損したレッグフライヤーをパージし、ミネルバから射出された新しいレッグフライヤーを装備する。

そして、背中に装備していたフォースシルエットをパージして、シルエットフライヤーが運んできたソードシルエットへと換装……。

機体のトリコロールカラーが一新。

赤、白、黒のトリコロールへと変化……VPS装甲特有の、電圧変化による配色の変化だ。

これも元々は、オーブの技術者によってもたらされたものだが……。

 

 

 

「くっ…………!!」

 

 

 

シンは、ハイライトの消えた瞳で、狙うべき敵を見据えて背部の対艦刀《エクスカリバー》を二本とも引き抜く。

途中、連合艦隊からの迎撃ミサイルによる攻撃があるも、背部のスラスターで上昇し、これを回避。

そのまま巡洋艦の上へと着地すると、《エクスカリバー》の柄の部分を連結させた『アンビデクストラスフォース』と呼ばれる形態に変化させ、巡洋艦の甲板装甲を斬りつけ、振り向きざまに艦橋を叩き斬る。

すぐにその場を飛び去り、巡洋艦の爆発を確認すると、そのまま別の巡洋艦へと飛び移り、今度はミサイル発射管の上へと降り立ち、《エクスカリバー》を突き立てる。

中にあった発射準備中のミサイルは《エクスカリバー》によって断ち斬られ、その勢いで爆発し、巡洋艦も木っ端微塵に爆散する。

そしてまた飛び移り、今度は《エクスカリバー》を分裂させて、二本の剣先を思いっきり甲板に突き立て、そのまま右へと斬り払った。

その戦況に焦った連合艦隊は、まるで蜘蛛の子を散らしたかのような慌てっぷりを見せる。

駆逐艦の前を空母が通ってしまったことにより、駆逐艦がそのまま突っ込んで行き、二隻とも航行不能状態に陥る。

その隙に、インパルスは駆逐艦へと飛び移る。

迎撃用の機関砲が起動し、砲塔をこちらに向けてくるが、それよりも早く《エクスカリバー》を叩き込み、船体に大きな溝を作り込んだ。

そして最期の一隻……。

駆逐艦の隣にいた空母へと飛び移る。

艦橋のあるブロックの近くに着地すると、迎撃用機関砲がインパルスに対して銃撃を行ってくる……が、PS装甲を施した機体に、実弾の装備は意味をなさない。

 

 

 

 

「はあああああぁぁぁっ!!!!!!!」

 

 

 

 

最期の一撃は、左に持った《エクスカリバー》を思いっきり左へと振り切った。

艦橋と甲板をつなぐ装甲板は、いとも簡単に断ち切れて、一番上にあった艦橋はそのまま積み木崩しのように、真っ逆さまに甲板へと落ちていく。

 

 

 

 

「くっ……!!!!!!」

 

 

 

 

これでもかというインパクトを残したシンの戦闘。

最後に後方から様子を見守っていたオーブ軍艦隊に視線をやったが、これ以上の戦闘は無駄だと判断し、インパルスはミネルバへと飛び移った。

この戦闘により、連合艦隊は即座に撤退を開始し、残存の機体もその場から去っていった。

本来ありえないほどの逆転劇。

そしてこれが、シンの初めてSEEDを持つ者として、覚醒した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、プラント本国では、ギルバートにアポイントメントを取ったアスランが訪れ、ある制服を渡されていた。

それは、ザフトの軍人である証である軍服だった。

そして、その色は、かつてアスランも袖を通したことのある赤色だ。

上着も、スボンも、全てが真っ赤に染まった新品の軍服。

襟首の留め具を閉めて、キチンとした身なりに変わった。

そんなアスランの姿を、ギルバートだけではなく、昨日までアスランとともにいたラクス・クラインの替玉、ミーア・キャンベルもその場にいて、着替え終わった彼の姿に、歓喜の声をあげた。

 

 

 

「ぅわああっ〜〜!!!!」

 

「っ…………」

 

 

まるで自分の事のように喜び、はしゃぐ彼女に、アスランはただ沈黙を貫いた。

彼女は本物のラクスではない。

しかし、あの時と同様に、自分は今ザフト軍の軍人なのだと、改めて思った。

そう、今はもう、“オーブのアレックス・ディノ” ではなく、“ザフト軍MSパイロットのアスラン・ザラ” に戻ったのだ。

制服に着替え終わったアスランの元に、ギルバートはある物をアスランに対して提示した。

 

 

 

「これを君に……」

 

「っ……!! 議長、これはフェイスの……っ!!」

 

 

 

まるで片翼のような形をしたバッヂ。

それは、ザフト軍の中でも、上位の階級に当たる証。

『FAITH』……または、『特務隊』とも呼ぶその部隊は、ザフトの軍人の中でも成績優秀で信頼も厚く、上層部から頼りにされている者のみに送られる称号だ。

かつてはアスランも、その証を手にしていたが、ザフトを抜ける際に、その称号は白紙になっていたはず。

これを提示したということは、そういうことだろう……。

 

 

 

「君を通常の指揮系統の中に組み込みたくはないし、君とて困るだろう?

これは、その便宜上と措置だと考えてくれたまえ」

 

「っ…………」

 

「忠誠を誓うという意味の部隊……FAITH。君は、己の信念や信義に、忠誠を誓ってくれればいい」

 

「議長……」

 

「君は自分の信ずる所に従い、今に堕することなく、必要な時には戦っていく事のできる人間だろう?」

 

「…………そうでありたいとは、思ってはいますが……」

 

「君にならできるさ……! だから必要な時には、遠慮なく、その力を使ってくれ」

 

「っ…………」

 

「王業な言い方だが、ザフト・プラントの為だけではなく、平和な世界のために……!」

 

「っ…………!!」

 

 

 

 

その言葉に、いま新たに決心がついた。

その心に、もう迷いなどなかった……。

 

 

 

「はいっーーーー!!!!」

 

 

 

『FAITH』のバッヂを受け取り、力強く返事をしたアスラン。

それを受けて、ギルバートとミーアの表情も明るくなった。

 

 

 

 

ピーーーーッ!!

 

 

 

『議長、イチカ・ラインハルトが到着しました』

 

「あぁ、通してくれ」

 

『ハッ』

 

 

 

突然の訪問。

議長室の扉が開くと、そこには同じ赤服を着た少年……ミネルバのMSパイロットのイチカ・ラインハルトの姿があった。

 

 

 

「イチカ・ラインハルト、入ります!」

 

「あぁ、すまないね、急に呼び出したりして」

 

「いえ、自分も遅れてしまい、申し訳ありま……え?」

 

 

 

イチカは議長に対して敬礼し、呼び出しに少し遅れてしまったことを謝罪しようとしたが、そこにいた人物の姿に、言葉を詰まらせた。

 

 

 

「ア、アス、ラン……さん?」

 

「イチカ……きみか……」

 

「あぁ、二人はすでに顔見知りだったね……。イチカ君、改めて紹介しておこう……本日付けで特務隊『FAITH』として原隊復帰する事になった、アスラン・ザラ君だ」

 

「フェ、フェイスっ!!??」

 

 

 

ギルバートの言葉に耳を疑ったイチカ。

しかし、アスランの右手に握られているFAITHのバッヂを確認すると、急いで敬礼した。

 

 

 

「し、失礼しました!」

 

「あぁ、いや……そんな、やめてくれ……俺もまだ復隊したばかりだ……そうかしこまらないでくれ」

 

「え……あぁ、すみません」

 

「はっはっは……! なるほど、すでに部下に慕われているようだね、アスラン」

 

「いや、それはどうでしょうか……?」

 

「ぶ、部下?」

 

「あぁ、アスラン君には、きみと共にオーブにいるミネルバに合流してもらう事になる。

そこでアスラン君には、きみたちMSパイロットをまとめる隊長として乗艦してもらおうと思ってね」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

いきなりの話すぎて、頭が追いついていかなくなったイチカ。

だがまぁらとりあえず理解できたのは、アスランが原隊復帰して、自分たちの上官となった事。

そしてこのまま二人で、オーブにいるミネルバに合流するという事。

 

 

 

「では、二人とも気をつけて行ってくれ……私は、あのミネルバにも期待を寄せていてね。

かつての、アークエンジェルの様な働きをしてくれるのではないかと思っているのだよ……君たちも、そのために力を貸してやってくれ」

 

「「ハッ!!」」

 

「うむ。話は以上だ……。準備が出来次第、ミネルバと合流してくれ」

 

 

 

 

 

二人でギルバートに対して敬礼し、議長室を後にした。すでに荷物をまとめているアスランとともに、機体のあるMS格納庫へと向かう。

 

 

 

 

「えっと、その……これから、よろしくお願いします! ザラ隊長」

 

「えっ? あ、あぁ、そうだな……よろしく、イチカ」

 

「まさか、こうして同じ艦のクルーになるなんて、思ってもいませんでしたよ」

 

「あぁ……俺もだよ。でも、俺も何かしなければいけないって、そう思ったんだ……」

 

「それは……オーブの為に、ですか?」

 

「あぁ……そうだ……それに、俺の為でもある」

 

「隊長のため?」

 

「あぁ……もう覚悟は決めた。しかし、君だけなのか? プラントに居るのは?」

 

「あ、はい……ユニウスセブン落下事件の後、議長に召集されまして……新しい機体の受け渡しがあるとかで……」

 

「新しい機体? 君が乗るのか?」

 

「はい! あ、そういえば、隊長もMSパイロットなら、機体はどうするんです? またザクに乗るんですか?」

 

「いや……この前、議長に見せてもらった最新鋭機があって、それを俺に託すそうだ」

 

「最新鋭機っ!!? まさか、セカンドシリーズの機体かっ?! インパルスやカオス達だけかと思っていたけど……まだ新型があったのか……!」

 

「君こそ、新しい機体というのは?」

 

「え? あぁ、それが……俺のもセカンドシリーズの最新鋭機みたいで……」

 

「ほう? どんな機体なんだ?」

 

「あぁ、えっと……その、見てもらった方が早いかと思います。あ、もうすぐ着くみたいですし……」

 

「………………」

 

 

 

百聞は一見にしかず。

ならば見せてもらおうと思い、アスランはパイロットスーツに着替えた後、改めて格納庫に入った。

そして、そのイチカの言っていた最新鋭機の姿に、アスランは言葉を失った。

 

 

 

「なっ……こ、これはっ……! 何故、この機体がここに……!」

 

 

 

それは、アスランにとっても因縁のある機体だ。

なぜなら、その機体はアスランの親友が乗った、最初のMS。

そして、自分とも、仲間であったイザーク達とも死闘を繰り広げた機体……。

最後には、アスランが自らの機体を犠牲にしてまで倒した機体……。

 

 

 

「ZGMFーX15S ストライクルーチェ……それが、こいつの名前です」

 

「ストライク……ルーチェ……」

 

 

アスランの後ろから、パイロットスーツを着たイチカが近づいて来ていた。

よもやイチカが、かつてキラの乗った機体に乗ることになろうとは、想像もつかなかった。

ましてや、ザフトにはストライクの情報はほとんど入って来ていないはずだ……それどころか、敵機として猛威を振るった機体を、よくもここまで作り上げたものだと、ある意味感心していた。

目を引くのは、手に持っている実体剣型の武装と、背部のバックパックの存在……。

ストライクでありながら、ストライクとはまた違った印象を受ける。

 

 

 

「それにしても、隊長の機体だって、ものすごくカッコいいじゃないですか!」

 

 

 

イチカの視線の先には、アスランが搭乗する予定の機体……セイバーの姿があった。

 

 

 

「なるほど、これは、インパルスともカオス達とも違う機体ですね……高機動系の機体になるですか?」

 

「あ、あぁ……まぁね」

 

「へぇ〜」

 

元々機械いじりをしていた癖で、機体全体を観察するようになったイチカ。

パッとみた感じでも、セイバーの性能の高さを伺える。

 

 

 

「これも……ある意味では、因果な物なんだろうな……」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない……。さぁ、早く出撃準備を済ませるぞ……早いうちにオーブにいるミネルバと合流したい」

 

「了解です!」

 

 

 

イチカとアスラン……二人は互いの機体へと乗り込む。

システムを起動させ、メインパネルにOSの文字が浮かび上がり、全てのシステムの起動を確認した。

そこで二人は、VPS装甲のスイッチを押す。

セイバーは、紅と黒、所々の装甲か白く染まっていき、バックパックの二門の砲身は、紅と白へと染まっていく。

ストライクルーチェは、胸部と肩部の装甲がオレンジ色に染まり、腹部の一部装甲と足底が黒く染まり、残りの手脚の装甲や所々の装甲が白く染まっていった。

バックパックは、全体的に黒に染まったが、バインダーはオレンジに染まり、新たなストライクのパーソナルカラーを生み出した。

 

 

 

 

「では、いくぞ……イチカ」

 

「了解です、ザラ隊長……!」

 

 

 

メインスラスターが起動し、そのエンジン音が格納庫内に響く。

二機の発進命令を受けて、格納庫の発進ゲートが順番に開いていく。

 

 

 

「アスラン・ザラ、セイバー、発進するっ!!」

 

「イチカ・ラインハルト、ストライクルーチェ、行きますっ!!」

 

 

 

二機の出力が上昇し、一気に頭上にある発進ゲートに向かって飛び立った。

狭い通路を一気に加速して、格納庫から飛び出す、二機の新型機。

紅とオレンジ……新たなる翼を広げ、混沌と化した世界に、二振りの剣が舞い降りた。

 

 

 

 

 






いよいよ、満を辞して登場しました!
イチカの機体、ストライクルーチェ。

イチカの機体登場によって、原作から少しストーリーの展開が変わっていくかもしれませんとで、そこは温かい目で見守っててください(◞‸◟)
また、それに伴い、オリジナルのキャラや、機体も出す予定ですので、お楽しみに^_^

感想よろしくお願いします!!


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