機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜   作:剣舞士

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お久しぶりです。

しばらくぶりの更新となりました!




第19話 舞い降りた剣

数十分前。

ミネルバは、かつてないほどの戦闘を経験した。

オーブ領海を出た途端に、地球軍の艦隊に包囲されており、オーブは大西洋連邦との同盟条約を締結するということで、既に中立国では無くなっていた。

そのため、敵国の艦であるミネルバの領海線への侵入を許さないという姿勢を見せ、領海線に近づいてきていたミネルバに対して、威嚇射撃を行った。

これでオーブも正式に、ザフトと敵対する道を選んだのだ。

最悪な事態に、万事休すかと思ったがSEEDを覚醒させたシンによって、空母を含む戦艦6隻を落とすという偉業を成し遂げた。

それにより、ミネルバは九死に一生を得て、カーペンタリアへと向かっていった。

 

 

「レイ機、ルナマリア機、アリサ機、収容完了。インパルス、帰投しました!」

 

「これ以上の追撃は無いと思うけど、警戒は厳に。パイロットたちはしっかりと休ませておいて……。アーサー、艦の被害報告、お願い」

 

「ハッ! ダメージコントロールっ、各セクションは被害状況を報告せよ」

 

 

 

艦の外装は酷い損傷を受けて入るものの、メインスラスターや主要武装機関などは健在。

カーペンタリアまでは、あと数十分ほどで到着する。

 

 

 

「にしても、あの状況を突破できたのも、なにもかもシンのおかげね……」

 

「ええっ、私も正直驚いていますよ! 空母を含む戦艦6隻ですからねぇ〜! 私はそんなの、今までに聞いたことがありませんよ」

 

「えぇ、全くね……。しかし、あれがインパルス……ううん、シンの力……ってことかしらね……」

 

「え?」

 

「なんでレイではなく、シンにあの機体が渡されたのか……ずっと疑問に思っていたんだけど……ここまでわかっていたのかしらね、デュランダル議長には……」

 

「そうかもしれませんね。議長は、遺伝子工学の専門家でもありますからね」

 

 

 

士官学校の成績では、全てにおいて優秀だったのはシンではなくレイだった。

ならば、順当に新型機に選ばれるのはレイだったはずだ……だが、実際に選ばれたのはシンだった。

それを決定したのも、全てプラント最高評議会議長である、ギルバートだ。

 

 

 

「にしても、ほんと凄かったですよねぇー、シンは! あの状況であんな活躍……正直、自分もあそこまでやるとはとても……。

噂に聞くヤキン・ドゥーエのフリーダムだって、ここまででは無いでしょう! ふふんっ♪」

 

「ふふっ……そうね。カーペンタリアに戻ったら、叙勲の申請を出しとかなきゃいけないわね」

 

 

 

 

ミネルバ艦内が歓喜の輪に包まれる。

ブリッジにいたアーサーがこれほど盛り上がっているのだ。

当然、格納庫にいるメンバーはもっと大盛り上がりだ。

 

 

 

 

「シーンッ!!! オォーーイ!!!」

 

「ん…………」

 

 

 

インパルスを格納庫へと入れた途端、インパルスの足元から声が聞こえる。

コックピットハッチは開いていた為、シンはそのまま下を覗き込む。

すると、一番下で手を大きく振っているヴィーノの存在に気づいた。

シンはシートベルトを外し、コックピットを出ると、MS搭乗用のワイヤーケーブルに足を引っ掛けて、そのまま下に降りていく。

一番下についた途端、ヴィーノを含め、大勢の整備班の連中に囲まれた。

ヴィーノなんかは、一番初めに近づいていき、勢いそのままにシンに抱きついてしまう程だった。

 

 

 

 

「聞いたぜこのこの! 大活躍だったんだってっ?!」

 

「いやぁ〜凄いぜ! 6隻をたった一人で落とすんだぜ?」

 

「もはやエース級パイロットって言われても不思議じゃねぇよなっ!!!」

 

 

 

四方八方、360度見回しても、人、人、人である。

それだけやばい状況だったし、それを掻い潜り、反撃して地球軍を追い返したという結果は、クルー達にとっても励みとなり、希望となったのだ。

興奮冷め止まない中、整備班長のマッドが、これ以上はお開きという感じに、シンと整備班メンバーとの間に入る。

 

 

 

「さあっ、終いだ終い!! さっさと持ち場に戻れ! カーペンタリアまではまだあるんだからなっ!

まだ気をぬくのは早いぞ!! 確実っ、整備漏れがないかしっかりチェックしとけ!!」

 

「「「「はい!!!!」」」」

 

 

 

マッドの一声で、メンバーは散り散りになっていく。

そう、今回は運良く撃退できただけで、まだ襲撃がある可能性だって十分にある。

ミネルバは未だに海の上、カーペンタリアへと領海線が見えない地点にある為、連合艦隊の第二波攻撃があったっておかしくはないのだ。

艦内だけに限らず、艦の外……甲板や迎撃武装の修繕なども行わなければならない。

整備班メンバーがシンの元から去っていくと、今度はルナマリアとアリサの二人が、シンのところへとやってくる。

 

 

 

「しっかし、いきなりどうしちゃったわけ? なんだかいきなりスーパーエース級じゃない? いったい全体何があったの?」

 

「え? うーん……俺もよく覚えてなくてさぁ……。オーブ艦が発砲したのを見て、それでブチ切れて……そしたらさ、なんだか頭がクリアになって……」

 

「無心になったってこと?」

 

「うーん……よくわかんないんだよなぁ〜、ほんと……」

 

「でも、ほんと凄かったわよ? MS一機で戦艦6隻を沈めた上に、あの戦況をひっくり返しちゃうんだもん! シン、きっと後で勲章をもらえるんじゃない?」

 

「えっ?! マジで!? お、俺が勲章っ?!」

 

 

 

アリサの言葉に、シンは心踊るような感情になった。

しかし、これは快挙と呼ぶべきものなので、当然タリアは報告するだろう。

 

 

 

「勲章……かぁ……!」

 

「まぁなんにせよ、お前がこの艦を守ったということだな」

 

「……レイ…………」

 

 

 

と、いつのまにか近づいて来ていたレイが、珍しくシンに賞賛を送った。

その言葉に、シンはおろか、アリサとルナマリアの二人も、固まっている。

 

 

 

「お前はそれだけ、大したことをやったということだ……シン。生きている……ということは、それだけでとても価値あるものだからな……」

 

「「「………………」」」

 

 

 

それだけ言うと、レイはそのまま待機室の方へと向かって歩いた。

そんなレイの後ろ姿を見て、シン達三人は、思わず笑いあった。

兎にも角にも、こうして、ミネルバは連合からの脅威を力ずくではねのけ、あとはカーペンタリアへと入るだけとなった。

その一方で、ミネルバを見送った側になるオーブ国内のとある場所には、たった一人……護衛も誰もつけずに、たった一人でそこへと訪れている人物が一人。

建てられている慰霊碑に向かい、神妙な面持ちで、そこに刻まれた文字を読み込んでいた。

 

 

 

 

平和を愛し

 

 

最後まで

オーブの理念を貫きし

先人達の魂

 

 

我等

永遠に忘れん

 

 

 

 

 

 

石碑に書いてある言葉は……当然、二年前に散っていた当時のオーブ政府の者達のことを意味している。

その中には、前オーブ連合首長国代表であり、カガリにとってはかけがえのない家族である義父、ウズミ・ナラ・アスハも入っている。

二年前の侵攻作戦は、地球軍の大型拠点であるアラスカ基地『JOSHーA』の消滅と引き換えに、ザフト戦略を大幅に削るところから始まった。

『オペレーション・スピットブレイク』

それが、ザフトの出した地球軍基地攻略作戦の名前だ。

しかし、当初予定されていた攻撃目標はアラスカではなく、宇宙へと昇るための玄関口である『マスドライバー』システムを保有していたパナマのはずだった。

しかし、土壇場に目標がパナマ基地からアラスカ基地へと変更されて、部隊の大半をパナマに送っていたアラスカ基地の戦力を言うまでもなく最小限……。

基地の護衛に付いていたユーラシアの部隊と、上層部から切られた関係にあったアークエンジェルが防衛戦に参加。

劣勢の中で、地球軍の上層部は基地の消滅と引き換えに、基地の地下に埋め込んでいた大型兵器《サイクロップス》を発動させ、この戦闘に投入されたザフト軍戦力のおよそ80パーセントの戦力を奪うことに成功した。

しかし、それが原因で、ザフト軍は再三に渡る侵攻作戦を始めた。

今度は主戦力の集まっていたパナマ基地だ。

そこで初めて、連合が作り上げた初の量産型MS《ストライクダガー》がお披露目になった。

ストライクのデータをもとに製造され、連合側にも大量のMSによる戦闘という戦術が展開され始めた。

しかし、当初は優勢に動いていた連合だが、ザフト軍の使用した戦略兵器によって、その劣勢を覆される。

電磁衝撃波発生装置『グングニール』。

それによって、電磁衝撃波に耐性を持っていなかった連合のMSと基地の装備は壊滅し、使用不能状態に陥り、またマスドライバーも発生した磁場の影響を受けて破壊されてしまう。

これによって、連合は空への玄関口を失ったのだ。

そこで、ブルーコスモスの盟主であったムルタ・アズラエルが目をつけたのが、オーブだった。

ザフト・連合のいずれにも与せず、中立を保っていながらも、その戦力は両軍を退かせるほどの物があるという話だった。

ならばと、アズラエルは実力行使に出た。

新型のMSフォビドゥン、レイダー、カラミティと呼ばれる新型のGATーXシリーズの機体。

しかしこれは、オーブ防衛軍とアラスカ基地から避難してきたアークエンジェルとフリーダムの義勇軍、そしてプラント本国から特務隊の任務として参戦したアスランの乗るジャスティスにより、二度にわたる侵攻を防ぎ、首の皮一枚繋いだ状態だった。

だが、抵抗もそこまで……。

これ以上の防衛は不可能と判断した代表のウズミは、残る戦力をオーブ宇宙艦『クサナギ』に乗せ、オーブのマスドライバーシステムである『カグヤ』に乗せ、アークエンジェルには推力上昇を促す特殊ブースターを装備し、オーブから宇宙への脱出を促した。

 

 

 

 

ーーこのまま争いが続けば、世界はやがて、互いに認めない者同士が争い合うばかりのものになる。

 

そんな物でいいか……? 君たちの未来は……?

 

戦争の芽を学べ、カガリ! 撃ち合うだけでは、何も解決しない……!

 

 

 

 

その言葉が、皆を突き動かした。

そして、アークエンジェルとクサナギは、その全ての戦力を乗せて、宇宙へと旅立った。

思いを受け継いだ種子は、羽ばたいたのだ。

そして、ウズミは……残った政府関係者や、氏族の長たちと共に、マスドライバー施設『カグヤ』と、オーブの戦力の源とも呼べる軍事工場『モルゲンレーテ』を爆破。

その全てを無にしたのだ。

これにより、アズラエルの目論見は無に帰したが、その後は連合が再び侵攻を始め、ザフトが占領していた『ビクトリア』を攻めて、マスドライバーを確保。

その後戦場は宇宙へと変わっていった……。

そんなことが、もう二年も前になるなんて………。

 

 

 

意地を張り、あの大国を敵に回す方がどれだけ危険か……!

 

 

国はあなたのおもちゃではない!! いい加減、感情でモノを言うのはやめなさい!!

 

 

 

「っ…………」

 

 

 

 

ただ一人、慰霊碑の前に花束を添えて、黙祷を捧げるカガリ。

しかしその胸中は、不安によって押しつぶされそうだった……。

 

 

 

(お義父様……私はっ、私はどうしたらいいんだ……? これが、本当に正しい道だったのかな……オーブは、中立じゃ無くなった……。

私は、本当はっ、どうすればよかったんだっ……!! 教えてくださいっ! お義父様っ……!!!!)

 

 

 

もう、今は聞くことのできない声。

記憶の奥底に眠る姿。

呼び起こしても、義父であり、前代表のウズミは、何も答えてはくれない。

オーブは……中立国ではなくなった。

散々それを信念にし、頑なに貫いてきたのは、平和な世界を築く上で、もっとも重要なことだとウズミも言っていた。

それはカガリも同じはずだった……なのに……。

 

 

 

「…………」

 

「ふぅ……相変わらずだねぇ、ここは」

 

「っ…………ユウナ」

 

「いい加減、おじさま達の墓も、ちゃんとしないといけないね」

 

 

 

思い悩んでいたその時。

思いもよらぬ来客……先程オーブ軍の軍本部で言い合いになったカガリの補佐を務めているユウナ・ロマ・セイランだった。

 

 

 

「ここだと思った……でもダメじゃないか、護衛も付けずにこんな所に一人で来るなんて。

オーブ国内とはいえ、今は情勢が情勢なんだよ?」

 

「ぁ……あぁ……その、すまない」

 

「いいさ……。ちょうどいい機会だ、僕も祈らせてもらうよ」

 

「…………」

 

 

 

 

そう言って、ユウナは慰霊碑に対して向き直り、右手で握りこぶしを作ると、それを胸に当てて、祈りを捧げた。

その後、祈りを済ませた二人は、ユウナが乗ってきた車に一緒に乗り、行政府の施設へと向かった。

 

 

 

「で?」

 

「ん? なんだい?」

 

「用があったから来たんだろ? わざわざあんな所まで……さっさと話せよ」

 

 

 

本来なら、カガリもユウナも行政府の施設にいる。

それをわざわざ、カガリの帰りを待たずに、あの慰霊碑の場所まで来たと言うことは、なんらかの用事があったからのはずだ。

 

 

 

「やれやれ……君はまずの口調から直した方がいいね……。それじゃあ国民も皆呆れてしまうよ?

今は良くてもね……」

 

「ふん…………」

 

 

 

 

たしかに、少し子供っぽいと言われることがあるが、今すぐに変えようなどとは思っていない。

ましてや、ユウナに対しては…………。

 

 

 

 

「僕は先程、おじ様達に誓いを立ててきたところだよ」

 

「え……?」

 

「オーブとカガリは、僕が命を変えても守りますっ……てね」

 

「っ!? ユウナ、それは……!!」

 

「だいぶ慌ただしくなってはいるが、式は同盟条約の正式加盟と時を同じくして執り行う事になった」

 

「ええっ!!?」

 

 

 

 

そんな事、カガリは初耳だった。

ユウナとは、婚約者としての関係性であったが、今はそんな場合ではないと、カガリ自身もユウナと関係を持とうとは思っていなかったし、アスランというパートナーがいる以上、婚約を破棄したいと考えていた。

にもかかわらず、急すぎる申し出に、カガリも驚くばかりだ。

 

 

 

 

「最近の情勢を鑑みても、国民はみな不安を抱いている筈だ……ならばこそ、今ここで僕と君が結婚して、国民が喜び、この国が一致団結するには最高のタイミングだと思わないかい?」

 

「ちょ、ちょっと待てよユウナ! 私はまだーーーー」

 

 

 

 

結婚する気は無い……。

そう言おうとした瞬間に、ユウナは素早くカガリの左手を掴んだ。

 

 

 

「うっ……!?」

 

「子供の時間は終わりだよぉ……カガリ。少し早くて可哀想だと思うけど……これも仕方のないことさ」

 

 

 

そう言いながら、ユウナはカガリの左手薬指にはめられた指輪を弄る。

それは、プラントに旅立つ前にアスランが渡してくれた指輪だった。

婚約指輪でも、結婚指輪でもない……ただ、ユウナとの関係性を知っていても、それでも、カガリとの繋がりを断ち切りたくないというささやかな抵抗。

しかし、それももうダメかもしれない……。

 

 

 

「どの道、無理な話だったんだよ……僕たちナチュラルと彼らコーディネーターが一緒になるなんて。

僕たちと彼らとでは、住む場所が違うんだから……」

 

「ユウナッ!!」

 

「おいおい、僕を怒鳴っても仕方ないだろう? では、国民にはどう説明するんだい? 僕との結婚をやめて、コーディネーターの彼を選ぶと? だからプラントとは仲良くしたい、戦えませんというつもりかい? 君は……」

 

「そ、そんな事はーーーー」

 

「じゃあ国の責任も、何もかも全てを捨てて、国から出て行くというのかい? アスハの名前を持ちながら」

 

「くっ〜〜〜〜!!!!!」

 

 

 

 

まるで貶すような……蔑めるような視線と口調。

一番カガリの近くで、カガリを支えると豪語するユウナだが、その実、一番カガリの思いを理解できていない者でもある。

ユウナの家……セイラン家は、オーブの政を行ってきた一族ではあるが、どうも大西洋連邦との繋がりが強いのか、思想も少々偏っているような気がする。

あくまでも政治的観点から物を言うユウナに対して、反抗できないカガリ、自分の無力さやわかってくれようとしないユウナに失望する。

その目には、薄っすらと涙が浮かび上がってきていた。

 

 

 

「勘違いするなよ……僕は別にコーディネーターか嫌いだと言っているわけじゃない……。

ただ(アスラン)にしろ、あの(キラ)にしても、今の君の隣には居させられないって言っているんだよ……カガリ・ユラ・アスハ……オーブの国家元首たる今の君の隣にはね」

 

「くっ…………!!!」

 

 

 

得意げに話すユウナに対して、カガリは不満顔のまま窓の外へと視線を向けた。

カガリの想い人であるアスランも、カガリの生き別れであった双子の弟のキラも、自分とは違う人種……コーディネーターだ。

だが、ならばいけないのだろうか……?

コーディネーターだろうが、二人はカガリにとって大切な家族、大切な想い人だ。

だが、世論はそれを認めない……世界情勢が、それを許さない。

国家元首のアスハとしてのカガリ……ただのオーブ国民としてのカガリ……。

二つの自分という存在に、カガリ自身が揺さぶられていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜〜……これは、どうかな?」

 

 

 

一方、海沿いにある邸宅の一室では、バルトフェルドが好物であり、半ば趣味としての素養が大きいコーヒー作りを行っていた。

彼のコーヒー好きは、通常の人の “好き” よりも常軌を逸しており、彼は自分でコーヒー豆を選別し、自分でコーヒー豆を挽いて、自分でコーヒー豆をオリジナルでブレンドする。

そして淹れるのも自分で……。

コーヒーは、産地やその土地の気温や湿度、焙煎などでいろいろな味に変わるという……。

コク深いものや、酸味のあるもの、独特な香りがするものや、フルーツのような後味が出るもの……。

はまってしまうのも仕方ないのかもしれないが、彼のコーヒー好きは本当に凄い。

かつてはザフトの地上部隊の一軍を率いていた人物であり、『砂漠の虎』という異名までつけられていたほどの人物。

その頃から、部下であったダコスタから、コーヒーに関することで苦言を言われていた。

しかし、今はそんなことを言う者はどこにもいない。

自分の好きな時に、好きなように、新しいコーヒーの味を開発していく。

 

 

 

 

「よぉし……これでいいかな?」

 

 

 

 

出来上がったコーヒーを、コーヒーカップ二つに分けて淹れる。

軍人だった頃から愛用していた厚手の器になってる二つコーヒーカップを持って、バルトフェルドは外に出る。

ベランダへと通じる道を歩いていくと、そこには、一人の女性が……。

ウェーブのかかった艶やかで控えめな茶色の髪。

その女性は、バルトフェルドの姿を捉えると、ニッコリと笑って差し出されたコーヒーを受け取った。

女性、マリュー・ラミアスもまた、彼の淹れるコーヒーが好きだ。

普段からもよく飲むし、彼女もまた以前は連合の軍人であり、『不沈艦』の名で呼ばれることとなった戦艦《アークエンジェル》の艦長を務めていた為なのか、部屋で一休みをする時は、必ず飲んでいた。

受け取ったコーヒーを一啜り。

 

 

 

「どうかなぁ? 昨日のやつよりも、ちょっとシナモンを足してみたんだけどねぇ」

 

「うーん……昨日の方が好き」

 

「んっ……ふむふむ……なぁ〜るほど、だんだん君の好みがわかってきたぞ」

 

 

 

マリューの好みを確かめるように、淹れたコーヒーを一口啜るバルトフェルド。

繊細な味の違いを確かめるように、舌に含むような飲み方をする。

好みの違いは、人それぞれ。

コーヒーもまた然り……色々な物を足してみたり、引いてみたり……それで味が変わることもある。

そんな事を言い合っていたら、二人とも自然と笑みが溺れていた……。

以前ならば、マリューは連合、バルトフェルドはザフト軍にいた。

互いに銃を向けあう関係性だったと言うのに、今では同じ空の下で、同じコーヒーを飲むような関係になっているのだから、とても不思議な感じがする……。

そして、話の話題は、今後のオーブについて……カガリの取った選択。

大西洋連邦との同盟条約の締結についてだ。

 

 

 

「それにしても、これからオーブは……どうなっちゃうのかしらね」

 

「まぁ……仕方がないっちゃあ〜、仕方がないけどねぇ。国家元首と言っても、まだ18歳の女の子だ……そんな子に、今の世界情勢での政治は難しすぎる……」

 

「ユニウスセブンの事は、私たちだって辛くて、嫌な思いを受けてるだろうけど…………」

 

 

 

マリューはそう言いながら、コーヒーを一口啜る。

 

 

 

「こうなってくると、考えなきゃいけないかもしれないな……お引越しを……」

 

「………………」

 

「君はともかく、俺やキラやラクスは……もう今のオーブにはいられないかもしれない……。

オーブが同盟を結んだと言う事は、つまりは連合側になった……と、極論を述べるならそう言うことになるからな」

 

「そう……ですわね……」

 

 

 

 

オーブは中立国だった故、オーブの理念受け入れるのならば、ナチュラルだろうがコーディネーターだろうが関係なく居住できていた。

しかし、連合側になったと言うことは、実質ナチュラルの人口が多い現状の今、コーディネーターたちの居場所が無くなりつつある。

ならば、コーディネーターであるキラと、その恋人ラクス……そしてバルトフェルドもおいおいこの国から出て行かなくてはならないのかもしれない……。

 

 

 

「あぁ……それはそうと、なんなら、君も一緒にどうかな?」

 

「え……?」

 

 

 

そう言ったバルトフェルドの表情は、何処と無く真剣な眼差しをしていた。

 

 

 

「えっと……でも、私はナチュラルだし……」

 

「まぁ、最初のうちはそう言う事も言われるとは思うが、プラントだって、悪いところじゃないと思うよ?

デュランダルっていう、今の議長も優秀な人物だと聞く……そんないきなりナチュラル排斥なんていう馬鹿げたことをするとも思えんしね」

 

「…………ふふっ、まぁ、それもいいのかもしれないわね……」

 

 

 

 

二年前の大戦で、連合・プラント、双方に甚大な被害が出た。

あのまま行けば、地球は壊滅的被害を被り、プラントとの間に開いた溝は、取り返しのつかないほど深くなっていただろう。

こうして大戦を終えた上で、仮初めとは一応の平和を手に入れた世界。

そんな中でも、たしかに平和で、今を生きているという大切なことを感じ取れているというのに……どうして、世界は争うことをやめないのか……。

 

 

 

 

「このまま、また戦争が起きちゃうのかしらね……」

 

「さぁてね……それは、誰にもわからんだろう……少なくとも、そんな事をしたいだなんて考えている連中がいるのも、事実だがな……」

 

「あれだけ失って、ようやく取り戻せた平和だっていうのに……私たちは、まだ何を得ようとしているのかしらね……」

 

 

 

 

 

マリューの問いかけは、この情勢の中での一番根幹に触れる問いかけだろう。

何を欲して、何を得るのか……人の歴史は、戦いの歴史。

その悲痛な運命に抗うため、革命を起こすために、その他に剣を取り、銃を向けあう。

全ての物を我が物にせんとして、その力を否応なしに振るいかざす。

その傍若無人ぷりに呆れ、そんな世界を変えようと立ち上がる。

こんな事を、人は繰り返してきている。

過去・現在……そして、まだ見ぬ未来……。

人は、一体どこへ向かおうとしているのだろうか…………。

他者よりも上へ、他者よりも先へと……そうやって進化を求めた先が、コーディネーターという新人類の誕生。

しかし、それに飽き足らず、人はさらにその上を行こうとした。

最強のコーディネーターを作る。

そのために、多くの犠牲のもとに生まれたのが、キラ・ヤマトだ。

彼もまた、先の大戦で多くの物を犠牲にしてきただろう。

自分の出自や、守りたい人を失った悲しみ……全てをその身に受けながらも、最後は平和を守りたいと叫び、最後まで戦い抜き、最後まで生き抜いた。

今の彼の瞳には、何が映っているのか……。

恋人のラクスは、プラントを離れ、今は共に暮らしている。

キラの義母とは、仲睦まじく一緒に家庭菜園の野菜を収穫したり、料理の作る義母の手伝いをしたり……。

とても幸せな一日を過ごしている。

こんな平和な日が、いま再び崩れ去ろうとしていると、この時は誰も思いもしなかった……。

そうしながら、今日も一日が終わる……そう思っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、彼女の死の痕跡は決して残すな……だが、確実に仕留めろ……!」

 

「「「「っ!!!!!!」」」」

 

「よし、では行くぞ……!!」

 

 

 

 

 

その日の夜。

キラ達が住む海岸沿いの邸宅付近に、怪しげな影が多数。

時刻は深夜をとっくに回っており、普通の人ならば熟睡している頃合いだ。

しかし、その多数の影たちは、淀みない動きで、すぐさま邸宅を包囲……。

さらには、無断での侵入を行なっていた。

 

 

 

『テヤンデイっ!! マイド! マイド! アカンデェーー!!!』

 

「んっ!?」

 

「ぁ……!!」

 

 

 

廊下にいた、ラクスのピンクハロが何やら叫んでいた。

その声に、バルトフェルドとマリューが瞬時に起き上がる。

近くに置いてあった拳銃を握りしめて、二人は部屋の外に……。

出てすぐに合流し、二人は行動に移る。

 

 

 

「どこの連中かな……子供達を連れて、早くシェルターへ!」

 

「ええっ!」

 

 

 

マリューはラクスと子供たちが寝ている寝室へ行き、バルトフェルドはキラのいる方へ……。

しかし、キラも近づいてくる気配を察知していたのか、廊下を走るバルトフェルドと合流した。

 

 

 

「っ……どうしたんですかっ?!」

 

「早く服を着ろ……嫌なお客さんだぞ。子供たちはラミアス艦長に任せてある、お前も早く合流して、シェルターへ行け」

 

「っ……わかりました!!」

 

 

 

キラも部屋へと戻り、すぐに服装を変えて、ラクスたちの元へ向かった。

邸宅内には、多くの武装した者達が侵入し、即座に銃撃戦が始まった。

リビングでテーブルを横に倒して、防壁代わりに使って迎撃するバルトフェルド。

相手は否応なしにサブマシンガンを連射してくる……。

バルトフェルドも負けじと反撃するも、数の多さと装備の違いで圧倒的に不利な状況に追い込まれる。

 

 

 

「チィッ……!」

 

 

 

一方で、子供達と合流したマリューは、ラクスと子供達、マルキオ導師とキラの義母、カリダ、そしてその後でキラと合流し、地下にあるシェルターへと向かっていた。

 

 

 

「みんなっ、離れないでね……!」

 

「こわいよぉ〜……」

 

「なにがいるのぉ……?」

 

「皆さん、大丈夫ですわ……さぁ、早く。急ぎましょうか……」

 

「っ……!」

 

 

 

マリューを先頭にして、子供達とラクス、マルキオ導師、カリダ、そしてキラという順に廊下を移動して、地下シェルターへと向かう。

所々、T字路などがある時は、マリューが先に様子をみて、牽制しながら皆を誘導する。

 

 

 

「っ……」

 

「っ…………!」

 

 

 

最後のキラに、アイコンタクトで合図をするマリュー。

その瞬間、銃口を向けていたドアが突然開き、中から武装した人間が二人現れる。

容赦なく引き金を引く侵入者たち。

マリューはとっさに壁の影に隠れたため、傷は負っていなかった。

 

 

 

「マリューさんっ!!」

 

「早くっ!」

 

 

 

マリューの悲鳴に立ち止まりそうになったキラ。

しかし、マリューはそんなキラに先に行くように指示を出し、近づいて来ている侵入者を待ち構える。

どんどん近づいてくる銃声……そして曲がり角に差し掛かった瞬間、マリューの左脚から放たれた渾身のハイキックが、侵入者の顎を捉える。

 

 

 

「ふんっ!!」

 

「ぐはっ?!!」

 

 

 

バンっ!! バンっ!!

 

 

 

素早く体勢を整えて、マリューは二発の銃弾を倒れている侵入者に浴びせた。

その後もこちらに来そうな侵入者たちに向けて発砲を繰り返しながら、皆で地下区画へと向かう。

一方で、バルトフェルドの方でも、かなりの銃撃戦が繰り広げられていた。

圧倒的な数を前に、バルトフェルドはその場から飛び移り、一気に裏口へと飛んだ。

そこは外からは死角になっているため、銃弾が襲うことはない……。

そのまま地下へと向かおうとした瞬間、物陰から現れた侵入者。

 

 

 

「ぬっ!!?」

 

 

 

手にはコンバットナイフが握られており、バルトフェルドはとっさに左手でナイフを受け止める。

 

 

 

「ぐうぅっ!!!?」

 

「くっ!!!」

 

 

 

グリグリとナイフの刺さった左腕を弄る侵入者。

バルトフェルドは侵入者を蹴り飛ばし、向かいの壁に吹っ飛ばす。

しかしすぐさま侵入者はバルトフェルドへと襲いかかる。

その瞬間……。

 

 

 

バンッ!! バンッ!!!

 

 

 

拳銃よりも大きな炸裂音。

見ると、バルトフェルドの左腕には、大きな隠し銃がある。

かつてキラとマリュー……アークエンジェルとの激闘の際に、MS《ラゴゥ》に乗り出撃した。

最後までキラと接戦を繰り広げ、最終的にはフェイズシフトダウンを起こしたストライクに向かって特攻していったが、SEEDを覚醒させたキラによるアーマーシュナイダーの一撃が背部装甲を貫き、そのまま爆散。

共に搭乗していた恋人アイシャは死亡し、バルトフェルドも左腕と足を失った。

 

 

 

「ふっ……」

 

 

 

 

不敵な笑みを浮かべるバルトフェルド。

床に倒れた侵入者の腹部や胸部には、大きな銃創が二つも……。

バルトフェルドは侵入者の近くに落ちてあった自分の義手を拾い上げ、そのまま隠し銃を覆い隠すように取り付ける。

 

 

 

 

『ジジッ……目標は地下に移動した。早急に仕留めろ……』

 

「っ…………」

 

 

 

倒れている侵入者の耳から外れていた無線機から聞こえた声。

おそらく今回の襲撃を指揮している隊長格の人間の声だろう。

バルトフェルドは、急ぎその場から離れて、先に地下へと向かったマリューたちを追いかけた。

そして、先にシェルター前についていたマリューたちはというと、マルキオがシェルターのロックを解除しつつ、マリューが侵入者を迎撃しているという構図だった。

その反対側の通路から、バルトフェルドが合流し、なんとか侵入者たちを追い返そうな感じに思えた。

そんな時、ようやくシェルターのロックが解除でき、子供達とカリダ、マルキオが先に入る。

そして、続いてラクス、キラと入ろうとした時だった……。

ラクスの立つ場所から対角線上にある排気口の中……。

立てられない銃を横にしながら、慎重にラクスの頭部に狙いを定めている侵入者の姿が……。

 

 

 

『ミトメタクナイッ! ミトメタクナーーイッ!!!』

 

 

 

ピンクハロがラクスの手元へと飛んだ瞬間、キラが気づいた。

ラクスに銃口を向ける、侵入者の姿を……。

 

 

 

「ラクスゥゥゥゥゥッーーーー!!!!!!」

 

「ぁっーーーー!!!!!?」

 

 

 

 

バンッ!!!!!!

 

 

 

 

その場に響いた銃声。

放たれた弾丸は、まっすぐラクスの頭部めがけて進んで行く。

しかし、その銃弾がラクスの頭部を貫くよりも前に、キラがラクスに覆いかぶさり、ラクスの体勢が傾き、銃弾は当初の目標から逸れて、床に着弾する。

 

 

 

「「っ!!?」」

 

 

 

まさかのところからの奇襲にマリューとバルトフェルドは即座に手持ちの拳銃を向け、複数回発砲。

その全ての弾丸が、侵入者の体を射抜き、侵入者はその場で絶命してしまった。

 

 

 

「ぁ…………」

 

「ラクス、早くっ……!」

 

「はい……!」

 

 

 

キラが差し出した手を取るラクス。

すぐに倒れているラクスを起こして、キラとラクスがようやく入った。

そのすぐあとに、マリュー、バルトフェルドの順でシェルターの中に入って行く。

全員入ったのを確認し、バルトフェルドが装置を動かす。シェルターの硬く重厚な扉が閉まっていき、外からの解除装置も使用不可能な状態にする。

ここまで来てようやく、全員無事だということを悟り、マリューはその場に座り込んだ。

膝にかかる力が抜けて、そのまま地面に両手を付けて、ピンと張っていた緊張の糸を緩ませる。

 

 

 

「はぁ……はぁ……コーディネーターだわっ……!」

 

「あぁ、それも素人じゃないなぁ……。ちゃんとした戦闘訓練を受けている……熟練の部隊だ」

 

「っ……ザフト軍っ?! ってことですかっ?」

 

 

 

マリューとバルトフェルドの見識に驚いたのは、他でもないキラだった。

同盟条約の締結を表明したオーブは、今やプラントとは敵対関係あるのは周知の事実だ。

しかし、だからといってラクスは……ラクス・クラインは、ザフト……プラントにとっては絶対的な平和の象徴だ。

そんな彼女の発言力は、現最高評議会議長であるギルバートを凌駕するほどだ……。

そんな彼女を、ましてやザフト軍が暗殺しようとするなど、前代未聞だ……。

マリュー、バルトフェルド、キラは一同にラクスに視線を集める。

当の本人は、怖がっている子供達を安心させようと、その身を寄せ合い、恐怖を払拭させようとしていた。

 

 

 

 

「チッ! くそっ……よもや仕損じるとはっ……!!!」

 

 

 

一方、シェルターの外では、侵入者たちが集まり、完全にロックされたシェルターの扉を睨みつけていた。

今回の暗殺計画のリーダー、ヨップ・ファン・アラファスは壁を強く叩き、失態の重さを痛感していた。

そして、覚悟したかなような表情で、生き残った部下4名に告げた……。

 

 

 

「アッシュを使う……っ! こうなっては仕方がない、ラクス・クラインの命、いまここで貰わねばならないのだっ……!!!」

 

 

 

ヨップたちがその場から去った後、シェルター内では、相変わらずの様子だった。

子供たちは導師マルキオやキラの養母カリダの側に集まり、不安な表情を滲ませながらも、なんとか落ち着きを見せていた。

そんな中、キラ達の元へと向かうラクスは、神妙な面持ちで問いかけた。

 

 

 

「キラ……マリューさん、バルトフェルド隊長……」

 

「「「………………」」」

 

「狙われたのは、わたくしなのですね?」

 

「「………………」」

 

「ラクス…………」

 

 

 

不安な面持ちのラクスを抱きよせようと近づくキラ。

しかし、その瞬間…………。

 

 

 

 

 

ドオォォォォォーーーーーーンッ!!!!

 

 

 

 

「「「キャアアアァァァッーーー!!!!??」」」

「「うわぁぁぁぁっ!!!?」」

 

「っ!? これは……!」

 

「なんだっ?!!」

 

「「っ…………!!」」

 

 

 

 

シェルター内に響く子供達の悲鳴。

突如押し寄せた衝撃と爆発音。

地響きがシェルターに轟き、マリューとバルトフェルドは天井を見つめて、ラクスはキラの腕の中に収まりながら、今起こっていることに対して、不安感と恐怖をより一層感じていた。

外では、ヨップたち暗殺部隊のメンバーたちが、ザフト最新鋭の水中型MS『アッシュ』に搭乗し、その圧倒的な火力で邸宅を一斉放射。

両肩に二門ずつ装備している高エネルギービーム砲が、一点集中で放たれる。

邸宅からは火災が起こり、石造の外壁は見るも無残に破壊され、シェルター部の地下区画は、ある程度の耐性を持っているものの、このまま集中砲火を食らっていては、いずれ破られるのは必至だ……。

 

 

 

「これは……MSによる攻撃ね……!!」

 

「いくらここのシェルターでも、MSからの一斉砲撃には耐えられんぞ……」

 

「っ…………」

 

「………………ラクス?」

 

 

 

 

バルトフェルドの視線が、ラクスに向けられていた……。

そして、その視線と、バルトフェルドの意図が読めたラクスは、手に持っていたピンクハロを抱きしめるようにして持つ。

そんな彼女の様子に、キラも疑問に思っていた。

 

 

 

「…………ラクス、鍵は持ってきているな?」

 

「っ……!! それは……」

 

「ラクス?」

 

 

 

一体なんの話をしているのだろう……。

この二人……もしくはマリューも一枚噛んでいるかもしれないため、三人の間で、何か準備していたのだろうか?

 

 

 

「仕方があるまい……。それとも、ここでみんな大人しく死んだ方がマシだと思うか……?」

 

「いえっ、そんなっ……!! でも、これは……!!」

 

 

 

何かを必死で守ろうとしている……そんな表情だった。

そんな彼女の視線は、自然とキラヘと向き、キラもラクスの視線で、彼女たちが何を秘密にしているのか、悟ってしまった。

 

 

 

「っ……まさか……っ!?」

 

 

 

自身の右側にあった壁へと視線を向けるキラ。

その視線の先にあるのは、たしかに大きな壁だ……しかし、よく見てみると、それはただの壁ではなく、大きな鋼鉄製の扉だった。

あまりにも不自然な作りの壁。

シェルターから脱出するための扉と言うには大きすぎて、なおかつ目の前の扉は、まるでMSハンガーのMSを格納している区画の扉と酷似していた。

 

 

 

「キラ……」

 

「ラクス……もしかして……」

 

「っ…………!」

 

 

 

愛する人が、悟った表情で自分を見てくる。

ラクスもまた、そんな彼の心情を知ったからこそ、視線を逸らし、俯いてしまう。

 

 

 

「…………貸して」

 

「え……?」

 

「僕が、あけるから……」

 

「いえっ、キラ……これはっ、ダメですわ……!」

 

 

 

断固として渡すわけにはいかない。

ようやく訪れた平和。

そして、ようやく癒えようとしていた過去の傷痕を、再び掘り返すような行為だと、ラクス自身が知っている。

だからこそ、キラにはもう、戦って欲しくないのだ……。

 

 

 

「僕は、大丈夫だから……ラクス」

 

「キラ……!」

 

「このまま何もできずに、みんなを死なせてしまう……守れるのに……守れる力があるのに、何も守れないのは……それが、一番辛い……!」

 

「っ……!」

 

 

そっと、愛する恋人を優しく抱き寄せるキラ。

純粋で、優しくて……それでいて、触れれば壊れてしまいそうな心を持つ少年……それがキラ・ヤマトという少年だった。

しかし、今目の前にいる少年は、戦う覚悟を決めた、戦士の目をしていた……。

 

 

 

「キラ……!」

 

「だから、鍵を貸して……ラクス。僕に、もう一度君達を守らせて欲しい……っ!!!」

 

「っ………………」

 

 

 

まっすぐに見つめてくる瞳。

そして、それに答えるかのように、ラクスは両手で握っていたピンクを差し出した。

 

 

 

『ナンデヤネン』

 

 

 

ピンクハロはそういうと、丸い球体の真ん中部分がパカッと開き、その中から金色と銀色の二本の鍵が出てきた。

その二つとも、まるで天使の羽をモチーフにしたかのような造形で、その二本の鍵は、合わせて役目を果たす一対の鍵だ。

金色をキラが、銀色をバルトフェルドが手に取り、それぞれ扉のある壁の方へと歩み始める。

壁に到達すると、そこに内装してあった扉の解除装備を引っ張りだし、鍵穴の空いている場所に、二人は鍵を差し込んだ。

 

 

 

「行くぞっ……!」

 

「っ…………!!」

 

 

 

バルトフェルドの視線が合図に、キラは無言で頷く。

 

 

 

「3……2……1……!」

 

「っ!」

 

 

 

ピーーー!!

 

 

 

 

同時に時計回りに九十度鍵を回す。

すると、解除されたことを知らせる音がなり、重厚な扉から左右にスライドして行く。

開かれた扉の先は薄暗いが、その中に鎮座していた物をキラはしっかりとその目でみた。

 

 

 

「っ…………!!!」

 

 

 

扉が完全に開き切ると、室内の灯りが一斉に付けられた。

一点に集中して放たれた光の筋は、そこに鎮座していた物の正体をあらわにする。

ZGMF-X10A フリーダム。

それが、そこにあったMSの名前だ。

二年前の大戦では、その力を存分に振るい、圧倒的火力と驚異的なスピード、キラ自身のパイロットとして操縦技術の高さという一級品の物を掛け合わせてたことによって、ヤキン・ドゥーエでの大戦最終戦を停戦にまで導いた機体。

それと同時に、ラクス自身が、キラの願いに応えて譲り渡した機体でもある。

二年前の大戦の時には、同時期に開発されていた最新鋭『プロヴィデンス』との死闘の末、これを撃破。

フリーダム自体は大破し、その後は収容されて、キラ自身もどうなっていたか知らなかった……。

だが、今この機体が目の前にあり……自分たちは襲撃を受けている。

この状況で、躊躇う理由はなかった。

キラは一度バルトフェルドに目で合図し、バルトフェルドもそれに頷く。

そして、一度も後ろを振り返ることなく、キラは歩み始めた。

目の前にある自身の愛機と、今再び向きあい、共に戦って行く覚悟を決めた。

そんな背中を、皆が見ていた。

扉が閉められて行く最中、ラクスは一番近くでキラを見送り、やがて扉が完全に閉まってしまう……。

不安と悲しみ……しかし、キラに対する希望を抱く。

複雑な思いがあるが、それでもラクスは、愛する人を見送った。

 

 

 

 

そして、外では…………

 

 

 

 

「よしっ、行くぞ……!!」

 

 

 

ようやくこじ開けたシェルターの外壁。

MSの集中砲火がようやく終えて、続いて目標であるラクスを見つける為に、行動を移そうとするヨップ達。

中にいたラクスやマリュー達も、シェルターの外壁が破られたことを悟り、すぐにその場から立ち去る。

別の区画へと逃げ延び、あとは外へと通じる回廊を走り抜け、外へと出るだけ……。

そうとも知らず、ヨップ達はシェルター内をくまなく探そうとしていた。

 

 

「中の損傷はそれほどでも無いな……オルランとクラミックはーーーーーー」

 

 

 

 

ゴオオオオオオオーーーーーー!!!!!!

 

 

 

「んっ!? なんだっーーーーーー」

 

 

 

 

突然の轟音。

そして、邸宅のすぐそばにあった山の一角から、一筋の閃光が迸った。

その光は外側からではなく、山の内側から発せられたもの。

そして、その閃光が消えたとほぼ同時に、山の一角が爆発。

大きな土煙を上げ始めたかと思いきや、その土煙から一機のMSが姿を現した…………。

 

 

 

 

「んっ? なんだっ、あれはーーーーーー」

 

 

 

 

白と黒のカラーリングの装甲……光る黄色のツインアイカメラは、ガンダムタイプのMSであることを示している。

胸部の排気口からは蒸気が出てきて、背中に生えている蒼い翼は、さながら天使を彷彿とさせた……。

 

 

 

「ま、まさかあれはっ…………フリーダムゥッ!!!!!???」

 

「ええええぇぇぇぇっーーーーーー!!!!!!???」

 

 

 

部下の一人が、そのMSの名を叫んだ。

その瞬間、ヨップもまた絶叫した。

いや、ヨップだけではない……その場にいた全員が息を飲んだ。

何故なら、自分たちの目の前にいるMSは、二年前の大戦を終結させた伝説の機体として語り継がれていた、最強の機体なのだから。

上空からヨップ達の乗るアッシュを見下ろすフリーダム。

背中の翼が、大きく開かれた瞬間、翼と翼の間からも放熱用のラジエータフィンから放たれた熱と粒子化したプラズマが放出される。

今ここに、最強のMSが舞い降りた瞬間だった。

 

 

 

 

「ッーーーーーー!!!!!」

 

 

 

 

キラの中にあるSEEDが割れる。

その瞬間、フリーダムの背部スラスターが火を噴く。

超高速で飛行するフリーダムは、手に持っていたライフルを後ろ腰にマウントし、左腰のビームサーベルを引き抜く。

一気にアッシュに肉薄すると、通り抜け様にビームサーベルを一閃。

アッシュの両腕、左脚を斬り落とす。

 

 

 

 

「う、撃てッ! 撃ち落とせぇぇぇぇっーーー!!!」

 

 

 

ヨップの叫びに仲間が呼応して、二機のアッシュがビーム砲で上空を飛んでいるフリーダムに狙い撃つ。

しかし、フリーダムはその機動性を生かして、空中を自在に飛び回り、アッシュから放たれたビームの悉くを躱していく。

そして、今度はお返しとばかりに逆さまの状態からのハイマットフルバースト。

大きく開いた翼からはバラエーナプラズマ収束砲……両サイドの腰にはスラスター付きのレールガンがその砲身を伸ばして、手に持ったビームライフルを合わせて五点バースト。

バラエーナとビームライフルから放たれた砲撃はアッシュの両腕と左脚を撃ち抜き、連続で放たれたレールガンの弾丸は、隣にいたもう一機のアッシュの四肢を確実に撃ち抜く。

あっという間に三機。

姿を現してからものの数分で過半数を打ち呑めされたヨップたち襲撃部隊。

続く四機目もビーム砲を連射し、その火力と弾幕でフリーダムを落とそうとするも、フリーダムの動きは止まらない。

逆に加速して接近すると、ビームサーベルを抜き、放たれるビームとビームの間をすり抜けるようにして滑空する。

一気に肉薄し、再び通り抜け様に両腕を斬り落とす。

さらにダメ押しとばかりに逆さまの状態からバラエーナを放ち、今度は両脚を撃ち抜く。

四機揃って四肢を斬られ、撃ち抜かれで地面にその重い機体が転がっている。

残るのは、襲撃部隊のリーダーであるヨップただ一人。

 

 

 

「くっ! そんな馬鹿なっ……!!」

 

 

 

ヨップはこの状況に焦ったのか、撤退するわけではなく、そのまま背部のミサイルポッドからミサイルを発射。

八発のミサイルか、フリーダムめがけて飛んでいくが、フリーダムはまたしてもスラスターを噴かせてミサイルを躱す。

最初の四発をまるで滑るように後方に下がることで射線から外れ、続くもう四発は空中でローリングしながら躱していく。

そして、ビームサーベルの刀身を発生させて、一気にヨップの乗るアッシュへと肉薄。

振り上げサーベルを一気に振り下ろすが、ヨップも黙ってやられない。

その場を飛び退き、地上に降りたフリーダムめがけて思いっきり突進。

 

 

 

「おおおおおおッーーー!!!!!!」

 

 

 

アッシュの腕の先には鋭い刃を持つクローがあり、そのクローからビームの刃が形成される。

水中戦型MSアッシュの唯一の近接格闘装備ビームクロー。

地上に降り立ち、隙のできたフリーダムめがけてビームクローを突き出す。

しかし、キラは即座にそれに反応して、フリーダムの上体をさらに下げると、左腕に装備してあるラミネート装甲のシールドをアッシュの股下へと差し入れて、その振り上げる。

バランスが前に傾いていたのと、突貫してくる勢いを利用して、フリーダムはアッシュの重い機体を左腕一本で持ち上げ、さらには後方へと投げ飛ばしてしまった。

 

 

 

 

「ああああああっーーー!!!!????」

 

 

 

 

何が起こったのかわからない……といった感じの叫び声。

しかし、地面に叩き落とされた衝撃をその身に受けたことで、ようやく自分が投げ飛ばされたことを知るヨップ。

敵に背を向けた状態で、なおかつその場に倒れこむというのは、はっきり言って死を意味する。

急いで機体を起こして、ビーム砲の照準をフリーダムに合わせるが、それよりも先にフリーダムの放ったビームライフルの弾丸が、アッシュの右腕を撃ち抜く。

右腕が爆発し、即座に左腕を向けるが、またしても撃ち抜かれる。

これで攻撃手段をほぼほぼ奪われた状態だ。

さらに背部のミサイルパックを右、左へと順番に撃ち抜き、最後は左脚、右脚と順番に撃ち抜いて、完全に行動不能にさせる。

全てが終わったその瞬間、フリーダムの機体を明るく照らす光が現れた。

その正体は、むろん朝陽だ。

恐怖の長い夜が終わり、希望の朝が現れたような感じだった。

朝陽に照らされたフリーダムの機体は美しく輝き、フリーダムもビームライフルをゆっくりと下ろして、悠然と立っている。

もう誰が見ても、フリーダムの……キラの勝利は確定だった。

そして、その結果をヨップたちも知る。

 

 

 

 

「くうぅっ……!!」

 

 

 

苦虫を噛み潰したような表情。

しかし、その後に、ヨップはコックピットのシートのすぐそばにあったレバーを何の躊躇もなく引いたのだ。

 

 

 

「くああっ!!!」

 

 

 

 

バアアアアアーーーーーーン!!!!!!!

 

 

 

 

「ぁっ……!!!?」

 

 

 

 

キラの見ている目の前で、ヨップの乗るアッシュが爆発……機体は散り散りに四散していく。

そう、ヨップが引いたのは機体の自爆装置だったのだ。

そんなヨップに続くように、残っていた四機のアッシュも順番に爆発していく。

おそらくは、余計な情報を流さないための自爆……。

軍の者たちから見れば、その行動は正しい。

しかし、そんな惨状を目の当たりにして、キラはどことなく悲しい表情で見ていた。

そしてその様子を少し離れた丘から見ていた人物たち。

シェルターから脱出し、外へと避難していたラクスたちだった。

キラの勝利を疑わなかったが、目の前の惨状を見て、誰一人として喜んでいる者はいなかった。

子供たちはいまだに不安そうな表情で見つめ、バルトフェルドやマリューたち大人は、なんとも言い切れないような表情を……。

そしてラクスは、大切な想い人の心情を察してか、とても悲しそうな表情で、愛する人の乗る機体、フリーダムを見つめていた。

 

 

 

「キラ…………」

 

 

 

再び剣を手にしたキラ。

この行動が、のちに世界を混沌へと誘う予兆である事を、この時は、誰も知る由もなかった……。

 

 

 

 






最近リアルが忙しくなり、睡眠時間もまばらとなり、生活リズムが築けないでいるためなのか、執筆が遅くなってしまい申し訳ないです(><)

暇がある日は極力書いていますが、今まで以上に亀更新になりそうです。ご了承下さいませ。


感想よろしくおねがいします!!

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