機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜 作:剣舞士
今回はわりと短めです。
「全くっ、なんてバカな事をしてくれたんだっ!! よりにもよって国家元首をさらうなんてっ……正気の沙汰かっ!?」
アークエンジェル艦内。
そのブリッジにて、現在オーブ連合首長国代表であるカガリ・ユラ・アスハによる説法が行われていた。
結婚式を行なっていた国家元首であるカガリとそのカガリの補佐を担当していたユウナとの結婚。
同時にオーブの世界安全保障条約機構への加盟により、世界は再び動き始めた。
中立を貫いていたオーブの連合側の参加により、世界の軍事バランスも傾いた。
今後世界がどのように動くか、国家元首であるカガリにもわからないこの状況なのにもかかわらず、カガリの周りにいる面々は、なんと大胆不敵な事をやってくれたのか……。
カガリをMSで攫ったと思えば、戦艦に乗せて、今はどこともしれない海の底で息を潜めている。
それが今の状況だった……。
「全くっ、あなた方まで、揃いも揃って何をやっているんだっ!!」
「それはまぁ……ねぇ……」
「ええ、それに関しては、ほんと、ごめんなさい……」
この場でこの状況で指揮を執れる人物であるバルトフェルドとマリューに対しても、カガリは臆する事なく言及する。
あなた方がいながら、何故こうなったのだ……と。
「でも、ああしなきゃいけないって思ったから……。カガリが、バカな事をする前に」
「バッ、はあっ!?」
そういったのは、他でもないキラだった。
謝罪ならばともかく、よもやバカ扱いとは……流石のカガリもキラに対して怒りを露わにした。
「バカとはなんだッ、バカとはッ! そもそも、お前は拉致した張本人だろうがっ!!
バカと言われなきゃならないのはお前の方だぞッ!!!」
「だって、あのまま行ったら、カガリはあのユウナさんと結婚してたでしょう? それだけは、どうしても避けなきゃならないって思ったから……」
「なっ……?! えっ、はぁ……?! お前は、一体何を言って……」
流石にキラの言葉には、理解が追いついていなかった。
そもそもキラ達にちゃんと話さなかったのも悪いが、結婚する理由は、手紙に書いて、マーナに届けさせた筈だ。
にも関わらず、まさかの強硬手段に出るとは、カガリも思いがけなかった。
「このままオーブが、大西洋連邦との同盟を許して、プラントと戦争をすることが、カガリの望みなの?」
「っ……!! そ、それは……」
「ウズミさんは、カガリにそんな事をして欲しいだなんて、絶対に思ってはいないはずだ……。
オーブの理念、それは、カガリが一番よくわかっていた事じゃないの?」
「っ〜〜〜〜!!!!!!」
キラの出した名前、そして、もっともな正論。
それが、カガリの溜め込んだ感情を爆発させた。
「っ……かたないじゃないか……」
「え……」
「仕方ないじゃないかっ!!! じゃあどうすればよかったんだよっ!!!!」
両目の目尻には、涙が溢れて……それが次第に頬を伝って床へと落ちる。
「私だってっ、お父様の目指した国にしたいとっ! お父様の行ってきた理念を元に、跡を継ごうとっ……そう思ってきたんだっ!!」
「っ…………」
「でも……それだけじゃダメだったんだ…………! 二年前のあの侵攻戦でっ、私たちのせいでっ、家族を失ったって奴もいるんだよっ!!!!」
「え……?」
「カ、カガリさん……それは…………!」
「………………」
カガリの言葉に、キラ、マリュー、ラクス……それぞれが違った反応を見せる。
「ザフトの……あのミネルバに乗っていた奴の中に、オーブの出身者がいた…………」
「…………」
「一人は家族全員を失い……もう一組の姉弟は、父親を亡くした…………それは、あの戦闘での事だった……!
あの時、守れなかった奴が、確かにいた! だから今度はっ、そうならないようにっ、そう……しようとして……ううっ、くう〜〜〜」
両手で自身の体を抱きしめるようにして、前かがみになるカガリ。
あまりにも弱々しい彼女の姿に、ブリッジに集まっていた面々は驚きの表情で見ていた。
そんなカガリのそばに、ラクスが寄り添い、両肩に手を置き、自身に抱き寄せた。
「カガリさん、一体何があったのですか? あなたがそのザフト艦、ミネルバとともに地球へと降下してきたのは、アスランから大体聞きましたわ……その時に、なにがあったのか……ユニウスセブンでの事も、関係あるのではないですか?」
「っ…………」
ラクスの優しい声色で尋ねられ、カガリは、ミネルバであった出来事を語った。
不測の事態により、アスランとともにミネルバに乗艦したこと……そこで新型MSを強奪した部隊と交戦したこと、ユニウスセブンの落下阻止のための破砕作業に出たアスランが、敵と交戦した際に言われたこと。
そしてその戦闘の前、元オーブの出身者であるシンと、イチカ、アリサの姉弟から、あの時の事……つまりは、家族を失ったことに対する怨恨にも似た感情をぶつけられたこと……。
それにより、自分の……父親の成してきたことに対する不安感が押し寄せてきたこと。
「そんな方が…………」
「っ…………」
一通りの話を聞いて、ラクス、キラの二人は、言葉にし難いような思いを抱いていた。
いや、二人だけではない……あの戦闘が避けられないのは、あの時戦場にいたアークエンジェルのクルー達ならば誰もが知っている。
元々軍人であるバルトフェルドも、割り切れるような感情ではあるだろう……。
しかし、シンとアリサの気持ちを否定することは、誰にもできなかった。
「お父様の理念は、私だって信じている……! 他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない……それが正しいとっ、私だって思っているんだ……。
だけどっ、その理念のせいで、死んでいった人たちがいて、そんなオーブをっ……私たちアスハをっ、恨んでいる人たちだっていたんだ……! だったらっ!私はどうすればいいんだっ! どうすればよかったんだっ!
オーブを二度と焼かない為にっ! 必死で考えたんだっ!」
悲痛な叫び……カガリのその言葉を否定できる者は、誰一人としていなかった。
カガリの思いや行動は、間違いではない。
だから、否定なんてできるものじゃない……だが、キラの中では、譲れないものがあった。
「ごめんね、カガリ……僕たちがカガリに全部、押し付けちゃってたんだね……」
「キ……ラ……?」
「二年前の大戦で、いろんな人が戦って、いろんな人が亡くなって……とても悲しくて、もう二度と、あんな事をしないようにって……そう決めたのに……。
戦いから遠ざかって、オーブという国を、ウズミさんから受け継いで、頑張ってるカガリを放っておいて……僕たちは、カガリに守られるだけだった……。
だから、ごめんね……カガリ。一人で背負わせてしまって……」
「そんな事……言うなよ……」
父・ウズミの跡を継ごうと決めたのは、自分自身だ。
それに、キラが、戦いや血なまぐさい世界で生きていける人間だとは、カガリだって思ってない。
MSに搭乗し、地球軍として戦うことになる前は、銃すら撃った事のないただの民間人だった。
それが、実はコーディネーターの中でも特殊な出自であり、たった一人の成功者を出すために、無数の犠牲を孕んで生まれてきた子供だと言う。
そんな彼に、軍務に従事しろとは、とても言えなかった。
「でもそれは、カガリが本当に望んだ事じゃないでしょう?」
「っ……え……?」
「本当は、カガリだって、同盟には参加したくなかった……このまま、中立を貫きたかったんじゃないの?」
「それは……そうだが……!」
「なら僕は、君の心に従いたい………!!」
「え……?」
キラはゆっくりとカガリに近づいていき、カガリの右手を自身の左手でそっと優しくとった。
そして、その右手の手のひらに、ある物を渡す。
「ぁ……っ、これ……!」
「大事な……物なんでしょう?」
カガリの右手に渡されたもの……それは、アスランからもらった大切な指輪だった。
もう二度と、目にする事のできないと思っていたものが、今、ここにある。
「僕だって正直、何が正しくて、何が間違っているのかなんて、全然わかんないよ……でも、カガリが苦しんでいるのは、わかってるつもりだ……」
「ぁ…………」
「国のために……一生懸命頑張ってるカガリを見てきたから……だから、何も手伝えなかった事、本当に申し訳ないって思ってる。
だから今度は、カガリに守られるだけじゃなくて、僕たちも一緒に頑張ろうって、思ったんだ……!」
「キラ……」
「カガリは、ウズミさんの思いを、ちゃんと受け継いだんでしょう? これから世界がどうなるのか、誰もわからない……でも、思いは受け取ったんだ……なら、それを貫いて見せなきゃ、ウズミさんや、あの時一緒に戦った人たちのために……オーブに住む人たちのために……そして何より、カガリのためにっ……!!!」
「ぁ……!!!!」
「僕たちも手伝うから……! 今度は、一人にさせない……!」
「キラァ……! う、うううっ〜〜〜〜!!!!」
ずっと溜め込んでいたものが、諸々決壊し、涙とともに溢れてくる。
頬を叩い、床に落ちる涙。
ラクスとキラに支えられながら、カガリは手に握りしめた指輪を大事に抱え込むようにして、大声で泣き叫んだ。
父・ウズミが亡くなって、その跡を継ぐ形で代表となった。
それからというものの、泣き言は許さないと……自分自身にも言い聞かせていたはずだ。
カガリにとっては、こんな姿は見せられないと、強く立っていようとするが、溢れる涙は止まらず、ラクスとキラの優しい手と暖かな気持ちが、アークエンジェルにいるクルー達の思いが、今は何よりの救いだった……。
「大気圏突入から、だいぶ飛んできましたけど……やっと到着ですね」
「あぁ、もうそろそろオーブの領空圏内に入るから、注意を怠るなよ?」
「了解です」
一方、キラ達が海底にいる間、空では二機のMSがオーブへと近づきつつあった。
一機は全身深紅に染まった機体。
飛行形態であるMA形態へと変形できる機体『ZGMFーX23S セイバー』。
そのパイロットは、アスラン・ザラ。
ギルバートの意向により、特務隊『FAITH』へと服隊し、最新鋭の機体を与えられた。
そしてもう一機……。
オレンジと黒、白のトリコロールカラーに染まった機体。
その背中のバックパックは、今までの機体にはない、高機動性能と高火力の射撃武器を複合した最新型の装備『ウェポンバインダースラスター』。
前世代機であるフリーダムとジャスティスの両機の性能を引き継ぐ機体として開発された『ZGMFーX15S ストライクルーチェ』。
そのパイロットは、イチカ・ラインハルト。
彼もギルバートの意向により、専用機として与えられたものだ。
「イチカ、君は二年前にプラントに来たんだろ? オーブへは、その後行かなかったのか?」
「ええ……。プラントに来てすぐに、士官学校に入って、そのまま入隊が決まって、ザクファントムのパイロットに選ばれて……なんか、気づいたらこんなに時間が経ってたんだなぁ〜って感じなんですよね……」
「そうか……入国した後、すぐにミネルバに合流するが、俺もオーブ政府に……カガリに、今回のことについて話さなきゃならないことがあるからな……よければ君も一緒に上陸許可をもらったらどうだ? その、墓参り……とか、したいかと思ったんだが……」
「っ……ありがとうございます。すみません、アスランさん……気を遣わせてしまって……」
「これくらいどうって事ないさ……さぁ、そろそろ警戒網に入る。入れてくれるとは思うが、油断はするなよ?」
「了解!」
二機のMSは、次第に速度を上げて、オーブ領空圏内へと入った。
アスランにとっては数日ぶり、イチカにとってはおよそ二年ぶりの帰国となった。
(久しぶりに帰ってきたな…………義父さん、ただいま……)
亡き父は、今もオーブの地で眠っているだろう。
戦後処理のことは、まだだか知らないが、おそらくそのまま眠っているに違いない。
久々の再会に、イチカも少し安堵した。
しかし、地上ではそれどころではなく、代表であるカガリが行方不明になった事と、敵国であるザフトの機体が接近中ということで、軍本部ではスクランブル要請までかかっていた。
『こちらっ、貴国に接近中のザフト軍MS二機。貴国に入港中のザフト艦、ミネルバとの合流のため、貴国へと入国を希望する。
オーブコントロール、応答願う! 聞こえるか、オーブコントロール!』
「班長!」
「今度は何だっ?!」
「本国に向けて接近してくる機影が2! ザフト軍MSです!」
「なんだとっ!!? すぐにスクランブルを発令しろ! ムラサメを先行! 『サクヤ』は出られるかっ!?」
「先程整備を終えたとの報告が上がってます!」
「ならばムラサメ三機と、サクヤに発進命令!」
「了解!」
地上は再び、混乱の渦にあった。
まぁ、代表が攫われたというだけでも大問題なのに、そこに敵国であるザフトのMSが来ているとなれば、当然の事。
MSハンガーでは、スクランブル要請の警報が鳴り響き、三機のムラサメと、サクヤという名のMSにパイロットが搭乗する。
「もうっ、なんなのよぉ〜! カガリ様が攫われて、こちとら大慌てなのにぃ〜!」
「アマ姉! 出るのっ?!」
「うーん! さっき勅令が出た!」
「気をつけてねっ!」
「わかってる! アヤノちゃんはお留守番、よろしくね!」
「はいはい!」
そう言って、コックピットに入る黒髪ロングの女性パイロット。
名をアマネ・スメラギと言う……。
ピンクと黒の女性用パイロットスーツに身を包み、MA形態になっている機体のメインシステムを起動させる。
「主導力起動を確認……プラズマジェットシステム、安定稼働……各システムオールグリーン……メインシステム、戦闘ステータスで起動、オールウェポンズフリー……!」
オーブの開発した、最新鋭の機体。
白と桜色のカラーリングがハンガー内に集結している機体の中で、異彩を放っていた。
『スメラギ、先に出撃するぞ。急いで合流しろよ』
「了解!」
すでに発進準備を終えていたムラサメ三機が、先に出撃する。
背部の主翼を展開して、対ビームシールドが機首の役割を担っており、脚部は折りたたまれた状態の、飛行形態。
オーブの開発した新型量産機。
二年前はなかった対空戦力としての新たな戦略を組めるようになった。
「馬場一尉、スメラギ一尉を待たなくてよろしかったのですか?」
「スクランブルがかかってるんだ……そうも言ってられんだろう。それにーーーー」
三機のムラサメのうち、先頭を飛行するムラサメには、小隊の隊長として若い隊員を連れて行く立場のパイロット、馬場一尉が乗っていた。
その馬場に対して、若い隊員は問いかける。
「ーーーースメラギの『サクヤ』は、俺たちの機体を軽く凌駕する機体性能を持っているんだ……すぐに追いつくさ」
「は、はぁ……」
「そんなに信じられないなら、自分の目で直接確かめてみろ……そら、会敵するぞ! 気を引き締めろ!」
「りょ、了解!!」
馬場はそれだけ言って、先に飛んでいった。
そして、ようやく発進準備の整った『サクヤ』。
ムラサメとはその姿からして違った印象を受ける。
ムラサメと同じ飛行形態をとるMSではあるが、背部に主翼を展開するムラサメとは違い、サクヤの主翼は、ガニ股状に開いた脚部についたおり、その主翼はとても鋭いブレードを彷彿とさせるような形だ。
そして、シールドを機首としての役割を担うムラサメとは違い、機首部が初めから背部に装備されているため、効率のよい変形機構を採用した。
左手に装備しているシールドは、セイバー同様に機体下部に装備しており、死角からの攻撃を防ぐためだ。
『サクヤ、発進準備完了、発進よろし』
「了解、アマネ・スメラギ……サクヤ、迎撃行動に入ります!!」
操縦桿をグッと前方に押し込むアマネ。
その瞬間に、サクヤの背部、脚部のバーニアスラスター機関が一斉に稼働し、高速で滑走路を進んでいく。
限界まで速度を上げていき、やがて大空に向けて滑空する。
大空へとその機体を飛翔させた。
すると、機首の部分からは、金色のブレードアンテナが現れて、グンッと加速していく。
その加速スピードは、ムラサメの約倍以上だ。
風を切り、どんどん加速していくサクヤ……三機のムラサメと、オーブの開発した新型MSサクヤが、何も知らないアスランとイチカの元へと向かっていく。
ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ!
「ん?」
「接近警報……っ?! 敵機が近づいてきてる?」
アスランの乗るセイバー、イチカの乗るストライクルーチェから警報が発せられて、接近中の機体のデータを表示した。
「ムラサメ……?」
「オーブの新型量産機……三機がこちらに近づいていますね」
センサーだけでなく、メインカメラが、こちらに近づいてくる機影を捉えた。
しかし、次にセンサーが反応したのは、敵機の銃器照準が、こちらに向けてくるものだった。
「ロックされたっ??!!!」
「えっ! なんでっ……!!」
二人はムラサメ三機の行動に驚きをあらわにした。
しかしその瞬間、ムラサメ三機は容赦なく撃ってきた。
両翼の機関銃が火を吹き、銃弾が空を切り、センサーとストライクに向けて飛翔するが、寸でのところで二機は回避行動をとり、直撃を免れた。
「くっ!!?」
「あっぶねっ……!! っていうか、なんでオーブが撃ってくるんだっ?!」
中立国であるオーブは、自国以外の軍機が近づいてくると、まずは警告を発して、敵対する者かどうかを判断する。
それで敵対の意思があるならば、問答無用で撃ってくるが、それがない場合は、追随する形で、国内まで誘導するはずだ。
しかし今のは、こちらの応答にすら答えることなく、こちらを撃ってきた。
しかも、回避したことで、アスランとイチカは散開し、アスランには二機、イチカには一機のムラサメが追撃する。
スカートアーマーに内蔵しているミサイルパックの砲門が開き、四発の小型ミサイルが発射される。
アスランは巧みな操縦でミサイルを躱して、ミサイルの後ろからバルカン砲を発砲……イチカも躱した後に、《クラウソラス》をライフル形態に切り替えて、散弾のようにビームを放つ。
緑色のビーム光が四散し、飛んでくるミサイルを撃ち抜く。
「オーブコントロール!! これはどういうことだっ!!? こちらには貴国への攻撃の意思はない!! なのになぜ撃ってくる!?」
『寝ぼけたことを抜かすなっ! オーブが世界安全保障条約に加盟した今、プラントは敵性国家だ!』
「「っ!!?」」
『オーブはまだザフトとの戦闘はしていないが、敵国の機体を入国させるなど、できるはずもないだろう!』
「そんなっ……! カガリは氏長会を抑えられなかったのかっ?!!」
「じゃ、じゃあオーブは……今は地球連合って言うのかよっ……!」
衝撃の事実に、アスランもイチカも言葉を失う。
長年中立を貫いてきたオーブが、今では大西洋連邦と同盟を結び、プラントに仇を成す存在になっていようとは……。
『それに、すでに居もしないミネルバをダシにしようなどと、あまりにも間抜けすぎるぞ』
「えっ……!!?」
「ミネルバがいないっ?!! ちょっと待ってくれ! それはどう言うことだっ、こっちはっ、そんな報告受けてないぞっ??!」
『知るかっ! ミネルバなら、全ての補給と整備を終えて、二日ほど前にオーブを発った! 行き先は知らん!』
これまた最悪な知らせだ。
これでアスランたちの信憑性は完全に失われた。
合流すると言うミネルバはすでにおらず、自分たちはただただオーブの領内に足を踏み入れただけ……。
これでは、オーブ側の正当性が成り立つというものだ。
「行政府っ! こちら市民番号2500474C……アスハ家のアレックス・ディノだ! 代表につないでくれ!!」
『こちら行政府。残念だが、貴官の要望には応えられない』
「緊急を要することだっ、頼む!!」
『残念ながら、不可能だ』
ブッーーーー!!!
「なっ……くそっ!」
強制的に通信を切られた。
それもそのはずだ。
アスランたちは知らないが、カガリはすでにオーブにいない。
フリーダムとアークエンジェルによって攫われて、今は行方知れず……故に、“不可能” なのだ。
ピーッ、ピーッ、ピーッ、ピーッ!!!
「今度はなんだ?」
ムラサメ三機に追撃されている最中、イチカのストライクが何かに反応きた。
どうやら、こちらに接近してくる機体があるようだ。
(敵機が接近中……? 方角的にはオーブからだけど、でも、この速さは…………?!)
先ほどのムラサメとは、段違いの速さ。
超高速で近づいてくる機影を、イチカはその両目に捉えた。
「なんだ? あの機体……!」
背中の機首は黒く、金色のブレードアンテナが生えており、桜色と白い装甲を持つ機体。
ムラサメと同じ飛行変形するMSみたいだが、その見た目、速さはムラサメのそれとは全くの別物だ。
「っ!? あれはっ!」
どうやらアスランも、その機体を視認したのか、驚いてる様子でイチカに告げてきた。
「イチカ気をつけろっ!! それはっ、オーブの開発した新型MSだ!!」
「っ!!!?? 新型っ……!」
ムラサメだけではなかった。
オーブが開発した機体は、量産機だけではなく、一人のパイロットのために作られた、ワンオフ機も存在していた……。
そんな事実に衝撃を受けていると、その新型……『サクヤ』からの攻撃が始まった。
機体の右下部に装備してあるビームライフルから緑色のビーム光が放たれる。
二連装の銃身か並んでいるライフル……さしずめツインライフルと呼べる代物だろうか……。
「ちっ! 問答無用かよっ!?」
左手に装備している機動防盾を展開して、フォースインパルスと同じ盾の形態をとる。
シールドでビームを防ぎ、反撃に出よう思ったが、敵の機体は高速で飛翔し、イチカのそばを通り過ぎていく。
「なんだよこの速さはっ……!」
「イチカ! その機体、サクヤは、オーブの開発した新型動力炉を有している! 既存の機体のようにはいかないぞ!」
「新型動力炉?」
通信越しに聞こえるアスランの声から察するに、彼の言っている言葉は本当なのだろう……。
少なくとも二年間はオーブに滞在して、行政府や軍本部にも顔を出しているアスラン。
その過程で、あの機体の事を目にしたのだろう……。
「なるほど……だけど、速さならこっちにだってっ!!」
足元のペダルを踏み、エンジン出力のレバーをあげる。
すると、ストライクのバックパックであるバインダーの砲身が、それぞれ左右に展開し、Vの字状に広がる。
「ハイマットモード……!!!」
六基のスラスターが全力稼働し、ストライクの機動力を大幅に向上させる。
驚異的なスピードに、イチカの体にもGがかかる。
だが、耐えられない衝撃でもない……故にイチカは速さをそのままに、攻撃してきたサクヤの後方を位置取り、追撃を開始。
「狙い撃つ!!」
ライフルモードにした《クラウソラス》でサクヤを狙い撃つが、サクヤの……いや、そのパイロットの驚異的な旋回技術や機動性に振り回されてない操縦技術で、後方から撃たれているのに、全く掠りもしない。
しかも機体の体勢を少し変えただけで、一瞬で軌道を変えていき、いつのまにかイチカの背後を取った。
「っ!!? このパイロットッーーーー」
「もらったっ!!」
飛行形態のサクヤが変形を始めて、一瞬でMS形態にかわる。
胸部、腹部、足底、背部と肩部の一部が桜を彷彿とさせる過度の色彩がない……柔らかなピンク色。
それ以外の手足の装甲は、太陽の光に当たって反射する綺麗な白。
そして背部の機首を起こして現れたその顔立ちは、アストレイ、ムラサメの両機とは似ても似つかないが、鋭い眼光のツインアイカメラか、水色に輝いた。
右手にはツインライフル、左手には菱形状の対ビームシールド。
両肩の装甲は大きく鋭角張っており、両脚にも主翼となる可動式の羽根が一対。
ムラサメよりも攻撃的な印象を受ける機体……そして何より驚きなのは、胸部にはめ込まれているように存在している緑色の円状のパーツ。そのパーツは、半透明な素材で、中から青白い光が灯っているのが見てわかる。その下にコックピットがあるようで……おそらくは新型の動力炉関連の基部だと思うが……。
「やらせるかよっ!!」
向けられた銃口……そこから二連装のビーム光を放つが、イチカも機体を反転させ、逆さまの状態でサクヤに向き直り、シールドでビームを受け止める。
「くっ……やるわねっ!!」
しかし、敵のパイロットも手を緩めることはしない。
すぐに銃を手から離し、腕にマウントすると、腰部のリアアーマーからビームサーベルを取り出して、接近戦を挑んでくる。
どうやらビームサーベルはムラサメと同じ物のようだ。
「接近戦でっ、負けるわけにはいかないなぁっ!!」
イチカは機体の体勢を立て直して、自らも接近戦に変える。
ライフルモードだった《クラウソラス》をソードモードに切り替えて、一気に肉薄する。
二機が斬り合うタイミングは、同時だった。
「やあああああッ!!!!」
「はあああああッ!!!!」
クラウソラスの実体剣と、サクヤのビームサーベルが斬り結び、一度距離を取る……そして、再び肉薄すると、サクヤは上段から振り下ろし、ストライクは下段から斬りあげる。
互いに互いの盾で受け切ると、そのまま鍔迫り合い……。
「くっ……ライフルと剣の両方を賄う武器っ……?! 厄介なっ……くうっ!」
「流石にビームサーベルのほうが、取り回しは効きやすい……だが、パワーとスキルならば、こっちの方が上だッ!!!」
イチカの強引にサクヤを引き離すと、そのまま左脚で蹴りを入れ、一気に引き剥がす。
海面に向かって落ちるサクヤ……それに向けて、再びライフルモードにしたクラウソラスの銃口を向ける。
「スメラギ一尉!!」
「っ!」
だが、銃口から発射される前に、もう一機追いかけてきていたムラサメから邪魔が入る。
両翼のバルカン砲と右半身下部にマウントしているビームライフルから、銃弾の雨が降り注ぎ、イチカは撃つのやめて、その場から離れる。
「イチカ! 撤退だ! これ以上の交戦は……!!」
「っ!? っ………………了解!!!!」
熱くなりかけたその時、通信越しに再びアスランの声が聞こえた。
アスランもすでに撤退のために機体をMS形態へと変化させて、攻撃を仕掛けてくるムラサメのビームライフルだけを狙い撃つという離れ業をやってのけた。
「逃がさないっ!!!」
「うおおおおっ!!!」
「っ…………」
イチカも撤退しようとするが、それを阻もうとサクヤとムラサメが接近してくる。
ムラサメはMA形態のまま、先行してビームライフルを放ってくる。
その攻撃を流れるように躱し、近づいてきたムラサメの、左翼をクラウソラスで斬り落とした。
「せやあああッ!!!!」
「のおっ?!! うわああああっ!!!!??」
「ミナトっ!! よくもっ……!!」
仲間を落とされた事でアマネは激昂し、ツインライフルと左手に装備している盾をイチカに向けた。
すると盾が可動して、先端が左右に少しずつ広がると、その奥から小さな二連装の砲門が現れた。
「落ちろぉぉぉぉ!!!!!!」
ツインライフルと、盾から放たれたのは、ビームのマシンガンだったようで、盾の中に、サブマシンガンのユニットが内蔵されているようだ。
威力はそれほど高くないものの、その速射性は大いに驚異だ。
しかし、それはイチカの機体性能と速さの前には、あまり功を為さなかった。
「そんな攻撃っーーーー!!!」
「くっ!?」
盾を展開して、高速で飛翔してくるストライク。
しかも右手には、先ほどの握っていた実体剣がなく、左腰にマウントしていた。
「なっーーーー!」
「はあああああッ!!!!!!!」
ストライクの右手が背部にいき、そこに装備していたヴァジュラビームサーベルの柄を握る。
「ビームサーベルっ!!?」
驚くアマネをよそに、ビームサーベルでサクヤのツインライフルを斬り裂く。
「離脱する!!」
「了解!!」
アスランの声を聞き、イチカは再びストライクをハイマットモードへ……アスランもMA形態へと変形し、急ぎその場から離脱する。
馬場たちムラサメ隊と、サクヤに乗るアマネは、その場から離れていくストライクとセイバーを見送り、追撃することはなかった。
「カガリっ…………くそっ!」
「オーブが……連合側になった……そんな…………」
二人にとっては、あまりにも衝撃的事実。
代表であるカガリの失踪……いや、拉致誘拐され、オーブ自体はすでに中立ではなくなり、地球連合側としてプラントの敵となった。
その事実が、アスランとイチカの心にも、なんらかのシコリとなってしまったのだ。
混乱していく情勢……今はとにかく、ミネルバと合流するべく、二機は急ぎ、オーブにほど近いザフト軍基地のあるカーペンタリアへと向かった……。
次回は、インド洋での戦闘ですね。
初のインパルス、セイバー、ストライクルーチェの三機による大気圏内戦闘となります。
感想よろしくお願いします!!