機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜 作:剣舞士
今回は、アスランのミネルバへの入艦を書いてます。
オーブでの一悶着があった時、カーペンタリアにあるザフト軍基地では、損傷したミネルバの修復と物資搬入が行われていた。
その間、クルーたちはそれぞれの仕事、休養を取っていた。
「はぁ〜……また出撃するのかなぁ〜」
「まぁ、そうでしょうねぇ〜……ミネルバは元々月軌道の配属になる予定だったし、多分、今度こそ宇宙に上がるんじゃない?」
「やっぱそうなるのかな? なら、すぐに軍務規定のお仕事ばっかりになっちゃうわねぇ……今のうちにに休んどかないと……」
「うん……いつ出撃するかわからないし……早めに買い出しとかないと……!」
軍施設にあるショッピングモール。
戦場へと向かう兵士達に、少しでもくつろいでもらえればと作られた施設だ。
その日用雑貨売り場では、ルナマリアと妹のメイリン、そしてアリサの女子ーズが買い物をしていた。
ルナマリアとアリサの籠には、日頃から使っている消耗品やら日用品を買って行っているが、メイリンの籠には、これでもかとメイク用品が入っていた。
乳液に化粧水、ファンデーションなどなど……。
同じメーカーのものを複数個買って、自分の部屋にストックしておくためだ。
しかし、その買い物籠の中身を見て、ルナマリアは「はぁ……」と溜息をつきながら、メイリンに小言をいう。
「あっそ……。なにがどうして、そんなに必要なんだか知らないけど……」
「むっ……悪かったわね……っ!」
ルナマリアの小言に、メイリンは顔をしかめた。
正直な話、メイリンはルナマリアの事を尊敬している反面、少しだけ恨めしいと思っているのだ。
自分とは違い、軍の士官学校でも、優秀な成績を収めていた姉、ルナマリア。
活発で人当たりも良く、人気を総なめにしたような学生時代……それに比べて、メイリンは運動は苦手で、姉よりもそこまで人付き合いが上手い方ではなかった。
スタイルも姉の方が断然いいため、男からの受けも良かった。
そんな所を間近で見ていたため、羨ましいと思ったことも何度かある……。
「別に買いたいものを買ってるんだから、いいんじゃない? 私もちょうど切れかかってたし、買い込んでおこーっと」
アリサがメイリンをフォローしようとしてくれるが、そういうアリサもなかなかのプロポーションだ。
出るとこは出ており、引っ込むところは引っ込んでいる……それに、混じりっ気のない綺麗な銀髪のストレート。
整った顔立ちに、透き通るように綺麗な白い肌。
蒼い綺麗な瞳も、彼女の特徴だ。
「はぁ〜……。どうして私の周りって、こんなにも敵が多いのかな……?」
「ん? メイリン、なんか言った?」
「別にー。なんでもありませんよーだっ!」
「ん???」
どことなく拗ねた様子のメイリンに、アリサは頭をひねった。
何か怒らせるような事をしただろうか……?
そう言いだげな表情だったため、メイリンはそっぽを向いて、そそくさとお会計をしに行った。
一方で、食事ができるモールでは、整備班のヴィーノとヨウランの二人がいた……。
いや、二人だけではない……その場には大勢のザフト軍人たちがいる。
無論、ミネルバクルーのメンバーも……。
「はぁーあー……ほんと、これからどうなっちゃうのかなぁ〜」
「どうって?」
「いやさ……ミネルバも、これで今度こそ宇宙に戻るんだよね?」
「そりゃあそうだろ……。ミネルバは元々宇宙用戦闘艦だぜ? 普通なら、宇宙にいなきゃおかしいってんだよ」
「だよなぁー」
二人は、ファストフードをすでに食べきっており、今後の自分たちの処遇について危惧していた。
元々は進水式を行うはずだった最新鋭の戦闘艦。
それを明日に控えていた時に、突如として事件に巻き込まれた。
ミネルバ搭載機となるはずだったカオス、ガイア、アビスの最新鋭のMSを強奪され、アーモリーワンのMS格納庫区画はほぼ全壊。
ミネルバは緊急発進し、奪われた機体と、それを画策していた母艦の追撃戦を繰り広げていた。
初の実戦から、とんでもない試練が待っていたわけだ。
その後、デブリ帯に誘い込まれての航行不能となり、絶体絶命のピンチに陥った。
それを、オーブから来ていたアスランの機転により脱し、犠牲は出たものの、何とか生き残れた。
そして、その時に入った最悪な知らせ……。
ユニウスセブンが地球に向かって軌道を変更した……と。
ミネルバも急いで現場に向かい、先行していたジュール隊の支援という形で、シン達MSパイロットは現場に急行。
そこで知らされた真実……ユニウスセブンの急な軌道は、自然の現象によって起こったものではなく、前議長パトリック・ザラを支持していた旧パトリック派のザフト軍人たちによるテロ事件だったということ。
そして、戦闘が行われて……ユニウスセブンは地球の重力に捕まり、そのまま落下。
ミネルバも、共に降下しながら艦首砲《タンホイザー》を撃ち、ユニウスセブンを最後まで破砕し続けた。
その後、オーブに入港し、わずかながらの休息と、補給と整備を終えて、予定よりも早く出航。
しかし、そこで待っていたのは、オーブ領海を出る瞬間を狙って進軍してきていた地球連合軍の艦隊だ。
初の大気圏内戦闘。
相手側は新型のMAを投入してきて、今度こそ撃沈する可能性だってあったが、ここはシンの超常的な戦闘によって、これを撃破。
ミネルバは、晴れてカーペンタリアへと入港できた……。
これが、これまでの旅路だ。
「しっかし、プラントって、今どうなってるのかなあ〜?」
「あん?」
「だってさぁ〜、いきなり核なんて撃たれたんだぜ? お袋たちも大丈夫かな〜……」
「ハッ……彼女とかか?」
「バカ……ちげぇーよ……。そんなのいないし……って言うか、なんでお前はいつもそっち方面に話が行くんだよー」
年頃の男子がよくするたわいもない下世話な話。
そんな感じにわずかな休息を楽しんでいる一同……食堂では、窓辺の近くに置いてあるグランドピアノの前に、レイの姿。
蓋を開けて、鍵盤に触れてみる。
軽く弾いて、調律が取れているかを確認すると、レイは安心した様にそのまま椅子に座った。
特に意識することなく、レイは両手の指を動かした。
滑らかな指使いで弾かれる鍵盤は、美しい音色となり、食堂全体に響き渡っていく。
そんな中、シンは外に出ており、ちょうど帰ってくる頃合いで、カーペンタリア基地のMS格納庫のエリアを歩いていた。
目の前には、自分が乗艦するミネルバがあり、そこへと向かう道すがら、両サイドにはMSハンガーが立ち並んでおり、入り口付近には、大気圏内用MSの姿も……。
以前から正式な登録を済ませている機体《ディン》の姿や、最近ロールアウトされたての新型《バビ》の姿も見受けられる。
プラント本国の、アーモリーワンにいたシン達にとっては、こちらの部隊編成や機体などは珍しく思うだろう。
シンもそんな機体たちを眺めていると、突如として空に現れた機体に目がいった。
「ん……?」
よく見れば、全身赤色の機体であり、MSではなく、MAだった。
しかし、ミネルバに近づいていくにつれて、高度を下げ始め、一瞬にしてMSに変形した。
そして、その後ろからもう一機……オレンジと白、黒の三色からなるトリコロールカラーの機体。
見た目がインパルスに似ている事から、シンの目には変形した機体以上に注目を集めていた。
二機は共に、ミネルバの方へと向かった……つまりは、ミネルバに乗艦するのかもしれない……そう思ったシンは、急いでミネルバへと向かった。
どう見ても新型の機体だ。
MA形態をとるMSで、あんな紅い機体は見たことないし、その後ろから来たオレンジの機体も、見たことのない装備をつけていた。
新しい部隊の編入なのか……? シンは駆け出して、ミネルバへと急行する。
一方で、紅い機体……セイバーからの乗艦要請を受けたミネルバは、左右両方のカタパルトデッキを開き、二機の乗艦を認める。
セイバーは左舷カタパルトデッキへ、ストライクルーチェは右舷カタパルトデッキへと入っていく。
宇宙空間ではないため、機体を減速させながら、カタパルトデッキを滑る様にして着地……そのあと、機体を格納するためのコンテナに拘束させて、艦内への格納庫に運ばれていく。
その格納庫では、ちょうど買い物を終えてきたルナマリアやアリサ、メイリンにヴィーノとヨウランの姿もあった。
「なに、あの新型……?」
「一体誰が乗ってるの?」
「おーい! 右舷側からも来たぜ! 向こうも新型だ!!」
二機の新型機が格納庫に納められて、ミネルバクルーたちが皆寄ってくる。
そんな中、機体のコックピットが開き、その中からパイロット達が降りてきた。
セイバーの方からは、紫色のパイロットスーツに、胸元には『FAITH』の証である翼の様なバッチが付いている。
ストライクの方からは、ザフトレッドの赤色のパイロットスーツに包まれているパイロットが……。
その場に集まっていたミネルバクルー全員が、謎の新型機から降りてくる二人に視線を向けている。
そのパイロット二人は、床に降りると、ほぼ同時にヘルメット取った。
「っ……ぁ……」
「ふぅ〜……」
「あっ……!!」
「アスランさんっ!!? そ、それにっ……!」
「認識番号285002……特務隊『FAITH』所属アスラン・ザラ、乗艦許可を」
パイロットの姿を見たメイリンとルナマリア……そして、皆の視線を二分したもう一人のパイロットの姿に、アリサが驚く。
「イ、イチカっ!!?」
「よお、アリサ……みんなも、ただいま。イチカ・ラインハルト、本日付で、ミネルバクルーに復帰だ!」
ユニウス・セブン落下テロ事件以来の再会。
それも、新型に乗っての登場に、誰もが驚きを隠せない。
そして、その沈黙を破ったのは、当然彼女だった。
「イチカっ!」
「うおっとっ?!」
銀色の長い髪が跳ねる。
イチカの首に回された両腕、勢いよく飛び込んで来た彼女の体をなんとか抱きとめ、イチカは再び言葉を発した。
「ただいま、アリサ」
「お帰りなさい!」
ニッコリと笑うアリサの表情を見て、イチカも心なしか安堵した。
オーブが敵対国となってしまった現状で、アリサとシンの影響が出ているのではないかと思っていたが、考えていたよりも無事だった様だ。
そんなことを考えている時だった……噂をすればなんとやら、とは言ったものだが、外から帰ってきたシンが合流する。
「ねぇっ、さっきの……って、あんた……!」
本当に帰ってきたばかりみたいで、その他にはファストフード店のロゴの入ったビニール袋と紙コップに入ったドリンクを持っている。
格納庫に集まっている集団を見つけ、そこに混じった瞬間に、シンの視界に入った人物の姿……。
その姿に、シンは驚いた。
なぜなら、もう会うこともないだろうと思っていた、アスランの姿があったからだ。
それも、見たことのない新型に乗って、ザフトのMSパイロットの着るパイロットスーツに身を包んで……。
「はぁ? 何だよ、これ……一体どういう事だ……!!」
ここ来るまで、いろんな可能性を考えていた。
ミネルバの戦力は正直言ってほかの舞台に比べて見劣りしている。
元々が宇宙戦闘艦であることもあるが、大気圏内戦闘を行うには、ミネルバに搭載されているMSはあまりに戦力不足だ。
空を飛べるのはインパルスだけ……。
新型の量産機であるザクウォーリアとザクファントムは、戦力的には申し分ないが、対空戦力としては物足りない。
現に先の海上戦では、連合の新型MAを相手に、シンのインパルス一機だけで戦闘をした。
あれほどの巨大な機体を、MS一機だけで倒しきるには、火力が足りなかった。
そんな中で、その大気圏内を飛行してしてきた二機……MA形態をとる新型機ということは、カオス、ガイア、アビスと同じセカンドシリーズの機体。
そしてその後ろからやってきたオレンジの機体は、バックパックスラスターを装備していたため、インパルス同様に対空戦にも秀でてるのだろう……。
それがミネルバに入っていったということは、ミネルバの戦力増強のためではないか……?
ならば、あとはそれに乗るパイロットは一体誰なのか?
新型に乗るということは、腕のいいパイロットであるのは間違いない……ザフトレッドと称される赤服を着たパイロットなのだろうと……。
しかし、その結果が、まさかのカガリの護衛をしていたアスランだったとは……。
シンはアスランを睨みつける様な眼光で彼に迫ろうとするが、それをシンの前に立っていたルナマリアが止める。
「ちょっとっ! 口の聞き方には気をつけなさい! 彼は『FAITH』よ!」
「えぇっ……!!?」
ルナマリアに言われて、シンは改めてアスランの胸元を見る。
ルナマリアに言われた通り、アスランの胸元を見ると、そこには『FAITH』のバッチがつけられている。
ルナマリアの言葉を聞いた瞬間、集まっていた整備班やパイロットたちはみんなアスランに向かって敬礼。
アスランもそれを返すようにして集まっていたメンバーに対して敬礼を返した。
「な、なんであんたがっ……!」
「シンっ……!」
納得いかない。
この間までオーブの……ましてや毛嫌いしていたアスハの護衛をしていた相手が、いきなり自軍のトップエリートになるとは……。
しかし、上官は上官。
シンも一応は敬礼しようとするも、両手にある荷物に気づく。
それを自分の後ろにいたメイリンに強制的に渡すと、そのまま敬礼……しようと思っていたが、上着を着崩していたのに気づいて、それを直してから、改めて敬礼し直した。
「艦長は、艦橋ですか?」
「え、ええ……多分そうです」
全員と敬礼が終わり、アスランは艦長であるタリアへと会い、ザフト軍に復隊することと、同時にミネルバ隊に所属するという事を報告しなくてはならないため、タリアの所在を、整備班リーダーのマッドに尋ねる。
しかし、彼は整備班……タリアの事を正確に知ってるわけではないので、曖昧な答えになると、そこにメイリンが出る。
「確認してーーーー」
「確認して、ご案内します」
しかし、メイリンの言葉は、彼女より前に出たルナマリアによって遮られてしまった。
アスランはただ「あぁ、ありがとう」というだけで、気に留めていなかったのだが、その背後では、メイリンが不満げな表情で姉、ルナマリアを睨んで呻いていた。
「ザフトに戻ったんですか?」
「…………そういうことに、なるね」
格納庫から出てブリッジにいこうとすると、後ろからシンに問いかけられる。
二人の間には、言葉には言い表せない緊張感が漂っていた。
アスランも答えるが、どこかぎこちない会話だ……。
「何故ですか……」
「………………」
シンの問いかけに、アスランは答えず、そのままその場を離れていく。
「イチカ、君はどうする?」
「あぁー……あとで行きますよ。アスランさん、先に色々と報告しなきゃいけないでしょ?」
「あぁ、そうさせてもらうよ、ありがとう。君も早めに艦長のところに行っておけよ?」
「はい、アスランさんの後にでも」
アスランはそれだけ言って、その場から離れていった。
「っていうかイチカっ! 何よ、この機体っ!?」
「そうだぜお前! なんでこんな新型にお前が乗ったんだよ! っていうかこれ、ストライクじゃん!!」
「あぁ〜……えっと、話すと長くなるんだけどな……」
アスランが離れた後、当然のごとく話題はイチカの専用機の話へ。
アリサに続いて、MSに詳しかったヴィーノが興奮する。
「ストライクってあれか? 連合最強の?」
「そうだよっ!! 二年前に連合で開発された新型の機体でっ、ことごとくザフト軍MSを打ち破ったって聞いたことあるよ!」
「でもそのMSって、途中で倒されなかったっけ?」
整備班のヴィーノとヨウランの話に、みんな耳を傾けている。
その通り、かつてストライクは、アスランの搭乗していたイージスとの一騎打ちで、戦闘継続不可になるほどのダメージを負い、一時戦線を離脱……オーブ軍によって回収されて、その後は修復して再度戦場に立つも、陽電子砲を受け止めて爆散。
後に残っているのは、デブリとして宇宙に彷徨う残骸と、オーブの国家元首たるカガリの専用機『ストライクルージュ』だけだ。
「この機体は、二年前から製造を開始してて、最近になってようやくロールアウトしたばかりの機体だそうだ……名前は『ストライクルーチェ』」
「マジでっ?! じゃあ、これもセカンドシリーズの、インパルスと一緒なのか?!」
「うーん……どっちかって言うと、カオスとかに近いのかな?
たぶん、アスランさんの機体……セイバーも同じだと思うぞ?」
「へぇー……!」
「なんだなんだ? いきなりお前もエース級パイロットに任命されたわけ?」
「そう言うわけじゃないと思うけど……うーんまぁ、俺が使うのに、ちょうどいい機体だろうって、議長が言ってだな……」
ヴィーノとヨウランに詰め寄られながらイチカは断片的に答えていく。
「じゃあ、イチカが議長に呼ばれた理由って……」
「あぁ、この機体を渡すためだったらしい……」
「スゲェーじゃん! 議長から直接渡されるって、中々無いぜっ!?」
「あぁ、議長もお前に期待してんじゃねぇーの? 頑張れよ、イチカ……あとで機体の確認させてもらうからな」
「あぁ……ヴィーノもヨウランも、よろしく頼むわ」
機体を整備班達に委ねて、イチカもロッカールームに行き、赤色の軍服に着替える。
「はぁ〜……」
「お疲れ様」
ロッカールームに入って、一通り着替え終わり、最後に上着を羽織ろうとしたところで、ロッカールームの扉が開いた。
そこに立っていたのは、もちろんアリサだった。
たった二、三日会っていなかっただけなのに、アリサの声を聞いたり、表情を見ると、とても恋しくなってから自分がいる。
ーーーーそれで? 二人はいつ結婚するの?
(いかん……義母さんが余計なこというから…………)
正直言って、まんざらでも無い……というのが、イチカの気持ちだ。
そりゃあ、結婚したい。
アリサはそれくらい魅力的な女の子だ……街を歩けば、10人中10人は振り返って視線を送るような女の子だ。
スタイルも良く、顔もモデルや女優並みに良い……それに、混じり気のない綺麗な銀髪。
男ならば、アリサのような美少女を放っておくわけがないだろう……そんな彼女とイチカは、現在義理ではあるが姉弟だ。
しかし、恋仲である。
血の繋がりがないとはいえ、そんな関係になっていることに、多少の背徳感を感じながらも、彼女の気持ちに応えてたいと思った……。
「イチカ? どうしたの……?」
「え? あぁ、いや……なんでもないよ?」
「ん〜? 本当にぃ〜?」
「ほんと、ほんと……!」
「ふーん……」
「そう言えば、本国に戻った時、義母さんに会ってきたよ」
「あら、ママ、元気にしてた?」
「うん。2日泊まって、義母さんのビーフシチューも食べた」
「ええ〜〜!!! 食べたのぉ〜!? いいなぁ〜! 私も食べたいよぉ〜〜!」
「ははっ、いいだろう? 帰ったらアリサに自慢してやろうと思ってたんだよ♪」
「何よぉ〜! 意地悪ねぇ! ふんっ、いいもん! 私はこっちで美味しいもの食べてたし!」
「アッハハ、ごめんごめん」
普段は凛と佇んでいるアリサだが、こういう所は子供みたいな反応だ。
オーブでは、大変な目に遭っていないか心配だったが……。
「そういえば、オーブに行った時、義父さんのところへは行けた?」
「…………うん」
「そっか……。なら、良かったな……俺は行けなかったからさ……」
「っ! って事は、オーブに行ったの?」
「あぁ……ミネルバも停泊しているし、本当ならオーブで合流する筈だったんだよ。
でも、今のオーブは……」
「ええ……もう中立じゃなくなってた……。私たちも、日程を変更して、早めに出港したんだけど……私たちの出港を察知していた連合の艦隊が待ち受けていたわ」
「っ!! 戦闘したのか?!」
「うん……初の大気圏内戦闘……それも、連合は新型のMAまで投入してきたわ」
「MA……!」
MA……モビルアーマーと呼ばれる機体は、ずっと前にあったが、アリサから詳しい話を聞くに、今までの機体とは段違いの大きさとパワーを持った機体だったようだ。
「連合は、そんなものまで開発していたのか……!」
「ええ……あのとき、シンが頑張ってくれてなかったら、私たちは沈められてたかもしれないわね……」
「そうか……」
ザクウォーリアでは、大気圏内での戦闘は不向きだ。
何しろインパルスのフォースシルエットの様な空中を飛び回れるような装備がないためだ。
故に先の戦闘でも、インパルス一機に空中戦を任せっきりになっていたわけだ。
しかし、ここでセイバーとストライクが加わったのは、たしかに大きい。
性能もさることながら、これで対空戦力の問題は、ある程度改善されたと思う。
「でも、私が許せなかったのは、オーブ……」
「ん? どういうことだ?」
急に深刻な表情を作るアリサ。
その瞳には怒気をはらんでいるようにも思えた。
「オーブは、早々に私たちを見限ったわ……! 連合との戦闘をしている最中に、領海線に近づいて来ているって理由で、私たちに艦首砲を向けて来た……!」
「っ!?」
「そして、警告を聞かなかったミネルバに向かって、発砲して来たわ……!
ほんっと! あの時は最悪な気分だったわ……!」
アリサの言葉で、ようやく確定した。
オーブはもう、敵国という立場になったのだと……。
イチカ、アリサ、シンの三人にとっては、故郷といってもいい国。
そんな国が、今や自分たちの敵になるとは……。
シンは戦う気満々と言った感じなんだろうが、イチカはまだ迷いがあった。
本当に、戦わなきゃいけないのか……と……。
しかし、もうそうせざるを得ない状況なのは確かだ。
「イチカ……もう割り切った方がいいかもしれないわ……私も、ギリギリまでアスハ代表のことを信じようしてたけど……もう、あの国は……」
「っ…………」
アスハ代表……カガリだって、大西洋連邦との同盟なんて範囲ではない筈だ……。
オーブの政権にだって、アスハ代表を支持する側と、反対する側がいる。
二年前の侵攻作戦の折、前代表であるウズミ代表を支持する者たちは、みんな代表と共に逝ってしまったため、今残るのは、大西洋連邦よりのメンバーだけだとは、昔軍のコンピューター機材を使って調べた。
「まぁ、だよな……。俺も、オーブに行った時にスクランブルかけられたし……」
「っ!? もしかして、イチカも戦闘を……?」
「あぁ……新型の量産機、ムラサメ三機に、ご丁寧に新型までお出迎えさ」
「新型……オーブも国防力を上げてるとは聞いてたけど……その新型、強かったの?」
「あぁ……。大気圏内戦闘じゃ、まず間違いなく苦戦は強いられるな……空を飛べるのは、今のところシンのインパルスと俺のストライク、そして、アスランさんのセイバーだけだしな」
「そういえば、あの人、なんでまた復隊してきたわけ?」
「…………自分にしか出来ないことだから……とか言ってたかな?」
「自分にしか出来ないこと……? それって……?」
「さぁ……。まぁ、アスランさんも悩んで、考えた上での決定なんだろうけど……っと、アスランさんたち、艦長との話終わったかな?
そろそろ行かないと……」
「あ、じゃあ私も行くわ。話が終わるまで、廊下で待ってるから……」
「うん。じゃあ行こうか」
「うん♪」
上着を着て、外に出た途端、アリサはイチカの右腕に、自身の両腕を絡ませて、抱きついてくる。
柔らかに実る双丘か、イチカの右腕にダイレクトに伝わってきた。
「ア、アリサさん? 流石に艦内じゃあ、恥ずかしいです……」
「いいじゃない……こっちは戦闘やら気疲れやらで、くたびれてるの……ちょっとは癒しか欲しいの〜」
「こんなんで癒しがもらえるのか?」
「私の体の半分は、イチカの愛で出来ているのよ?」
「なんだよその痛い設定は……」
冗談を交えながら、イチカたちは艦長のいる艦橋へと向かっていった。
一方で、先に向かっていたアスランたちは……。
ちょうどイチカがロッカールームで着替えている時、アスランはルナマリアとともに、エレベーターに乗っていた。
「しかし、本当にどうして、復隊なさったんですか? …………って、すっごく気になっちゃったんですけどぉ〜♪ 聞いてもいいですか?」
「え? いやぁ、まぁ……色々あってね。それよりも、ミネルバはいつオーブを出たんだ?
俺とイチカは何も知らなかったから……」
「っ?! ってことは、オーブに行かれたんですか!? 二人で!?」
「あぁ、スクランブルかけられたよ……二対一の状態で交戦したさ……。
まぁ、なんとか振り切れたけど、いきなりの事で、俺たちも驚いた……」
「そんな……! でもまぁ、私たちも似たようなものだったか……」
「え?」
「聞いてくださいよ! 私たちがオーブから出た途端っ、地球軍の艦隊が待ち伏せてたんですよっ!?
それも、空母を四隻含む大艦隊で! あの時、シンが頑張ってくれてなかったら、どうなっていたことか……マジで沈んでましたよ、このミネルバ!」
「っ…………」
ミネルバは最新鋭の戦艦……地球軍はそれを危機として感じて、ミネルバを標的にしたのだろうと思うが……。
それにしては、対応が早すぎる……。
「多分だとは思いますけど、オーブの関係者が、地球軍に情報をリークしていたんだと思います……!
敵側は新型のMAまで投入してきたし、準備が良すぎる……!」
「っ……しかし、カガリはそんな事……」
そう、カガリはそんなことを望んだりはしない……。
ましてや、ミネルバは地球滅亡の危機を救った戦艦……ユニウスセブンの破片は、たしかに地球上の都市を壊滅的なまでに破壊した……しかし、あの巨大構造物のままぶつかっていたのなら、都市規模ではなく、大陸規模で消滅していておかしくはなかった……。
そして、カガリはそれをじかに見ているし……オーブ政府にとっても、ミネルバはカガリを無事に自国へと送り届けてくれた恩がある……。
下手な手出しは、カガリがさせないはずだが……。
「私も、昔はちょっと憧れてたりしたんですけどねぇ……カガリ・ユラ・アスハ」
「っ…………」
「大西洋連邦とは同盟結んじゃうし、変な奴とは結婚するし……」
「っ!!?!?!!?」
ルナマリアの言葉に、アスランは思わず血相わ変えて、ルナマリアに問い詰めた。
「け、結婚っ!!!??」
「へぇっ!? え、えっと、はい……確か、数日前に、そうニュースで見ましたが……」
「ぁぁ…………」
結婚した相手とは、十中八九ユウナ・ロマ・セイランで間違い無いだろう……。
しかし、カガリ自身は、そのユウナとの結婚にはあまり乗り気ではなかった……。
元々の性格上、カガリと合わないところがあったし、何より、アスランという恋人の存在が大きかった……。
だが、前代表であり、義理の父親であったウズミが亡くなってからというものの、ウズミに変わってセイラン家がカガリの周りに居座るようになり、いつのまにか、カガリ自身の取り巻く環境を変えつつあった。
婚約を結んでいたユウナは、事実上カガリの将来の伴侶的存在だ……。
そしてそれを、オーブ政府の面々は承諾しており、逆に元プラントのザフト軍パイロットという経歴を持つアスランの事を、毛嫌いする者たちが多かった。
だがそれでも、カガリがユウナと一緒になるなんて、考えたくもなかった……。
呆然するアスラン。
エレベーターは、いつのまにか最上階に到達して、艦長室のある部屋へと繋がっている廊下が見えた。
「あ、あの……?」
「へ……?」
「えっと、着きました……けど……」
「ぁ、あぁ……ありがとう……」
ルナマリアの問いかけにも、あまり反応しないアスラン。
それほどまでに、カガリの結婚というのは、アスランの心境に響き渡ったのだ。
「あ、あのっ!」
「ん?」
しかし、そんな状態て艦長室へと向かうアスランの背後で、ルナマリアは必死な表情でアスランを呼び止める。
「でも、そのアスハ代表なんですけど……」
「…………」
「その結婚式の最中、何者かに攫われちゃって……」
「えぇっ!?」
「結局、結婚式どころじゃなくなったぁ……って聞いたんですけど……」
「カガリがっ……攫われたっ?!」
「あっ、いえっ、あのっ! 私もよくわかんなくてっ、その、噂程度に聞いた話なので、その……すみません!!!」
「ぁぁ…………」
もう、何も言葉が出なかった……。
もうあと数歩で艦長室の扉の前に立つことになる。
しかし扉の前に立つと、アスランは気を引き締めて、呼び出しのボタンを押す。
中からタリアの声が聞こえてきて、自動ドアを開けてもらう。
すると部屋の中には、タリアだけではなく、副長のアーサーの姿も……。
タリアとアーサーの表情に、あまり変化はなかった。
おそらく、あらかじめ軍本部からアスランが復隊したという情報と、今後の所属が、ミネルバ隊になるという事を聞いていたのだろう……。
二人から視線が送られるアスランは、二人に対して敬礼をし、これまでの流れを軽く説明。
議長との会談の後、用意されていた新型MSのパイロットとして、ザフト軍に復隊した事。
そのときに、かつて所属していた部隊……特務隊『FAITH』としての権限を持っている事……そして、無事に合流した際には、艦長のタリアに渡す書類と、アスランが襟元につけているバッヂ……同じ『FAITH』のバッヂが同封されている指令書をタリアに渡した。
「なるほど……。しかし、議長も何を思ってこんな事をしたのかしらね……何を考えているかわからないわ」
「…………」
「それにあなたも」
「…………申し訳ございません」
本当に困った……と言いたげなタリア。
その横では、アーサー少々睨みつけるような目でアスランを見ていた。
「まぁ、謝らなくてもいいわ。別にあなたは悪く無いのだし……」
「恐縮です……」
「それよりもあなたは、この内容は知っているのかしら?」
タリアの視線は、自身の手元にある資料に向けられていた。
それは議長であるギルバートからの、勅令の書類……。
「いいえ、自分は聞かされていません」
「そう……中々面白いことになつてるわよ……」
「と、言いますと?」
「ミネルバは補給と整備が整い次第、カーペンタリアを出港し、ジブラルタル基地へ入港せよ。
途中、ユーラシア西側地域、スエズの駐留軍と合流し、その支援をせよとの指令が下ったわ」
「スエズの駐留軍支援ですかっ!? 我々がっ?!」
タリアの読み上げた内容に、アーサーは本気で驚いていた。
スエズ……そこは西ユーラシアに属する地域であり、カーペンタリアのあるオーストラリア大陸からは多少離れた位置。
そして、地上にあるザフト軍基地、カーペンタリアのほかにもう一つ……ジブラルタル基地と地球軍の勢力となっているユーラシア大陸の狭間にある地域だ。
「ええ……今もっとも過激で、危険な地帯よ……」
「ユーラシア西側の紛争地帯ですよね……」
「でも、何も私たちがここから向かう事もないでしょうし……」
「そうですよねぇ〜……ミネルバは地上艦では無いですしぃ〜……しかしまたなんで?」
「あの……」
「ん?」
タリアとアーサーの会話に、アスランが割って入る。
「ユーラシア西側の紛争というのは?」
「え?」
「あぁ、すみません……まだこっちにきたばかりで、あまり把握してません」
「あぁ、それなら……」
そう言って、情報不足のアスランに対して、アーサーはある映像を見せた。
そこには、地球軍MSのダガーLの戦闘シーンを抜粋した映像や、デモ行進をしている民衆。
大量の血を流し、倒れこむ民間人……地球軍の将兵たちによって拘束されて、顔が腫れ上がるまで暴行を加えられている人の映像が出てきた。
「大西洋連邦に同調、というか隷属させられている国や地域から、分離・独立の声があがっているのよ」
「開戦の頃から、ですよね?」
「ええ。今までずっと虐げられてきて、それを更に徴収や制限をされるなんて、もうごめんだ……というのが、地元住民の言い分よ。
そういった強い反発を、地球軍側は力で抑えつけているのが現状……だから、あそこは一番悲惨なことになってるわね……」
タリアとアーサーの会話の途中にも、タリアが端末を操作する度に、地元住民達と地球軍側の激しい抗争の様子や、死体となった住民をトラックに乗せていく軍人達、子供を抱きながら倒れて、生き絶えている母親と思しき女性の写真などなど……。
その様子から、タリアの言った “一番悲惨な” という言葉がわかる。
「……たしかに、前々から火種はありましたが……」
「それが開戦と同時に、一気に爆発したって感じね……」
「でもまぁ、私たちに課された命令は、そこに行けってことでしょう?」
「「っ……!!」」
「我々プラントは、『積極的自衛権の行使』と言っている以上、下手に手出しはできないわ……。
そんな中で、我々が行くことになった……それも『FAITH』である私たち二人が、ね」
「っ……」
「とにかく、整備と補給が済み次第、本艦は出港するわ。とにかく、これが命令だと言うのなら、私たちはそれに従うしかない……とりあえず私たちが行くのは、そう言う場所だって言うことだけは、覚えておいて」
「「ハッ!!」」
話は終わり、アスランは退室しようとしたのだが、ずっと気になっていたことがあり、タリアに尋ねた。
「あ、あの……艦長……」
「ん? なに?」
「あの、艦長は……オーブの事を何かご存知ですか?」
「え?」
「その……自分は何も知らなかったものですから……」
「あぁ……」
オーブで起こった出来事。
大西洋連邦と同盟を結んで、国家元首たるカガリは、何者かによって攫われてしまった……。
今オーブ国内は、かなり混乱している筈……代表不在のこの状況下で、今はセイラン家が主体となって、国政を執り行っているだろう……。
「かなり大変なことになっているようね……代表が攫われたりとかで……」
「…………」
「これは確定情報というわけではないし、オーブは隠したがってるみたいけれど、代表を攫ったのは、フリーダムとアークエンジェルって話よ?」
「ええっ?!!」
まさかの答え。
フリーダムとアークエンジェル。
それを言われて、アスランが知らない筈ない……。
「フリーダム……? キラ?」
フリーダムという単語……それはある人物が乗るMSの名前だと、アスランは即座に理解した。
しかし、フリーダムは二年前の大戦の時に大破した筈。
そのままキラと一緒にオーブに運ばれたが、その後どうなったのか、アスランは知らない。
そしてそれはキラも同じだった筈だ。
ならば、それを用意したのはだれか……?
無論それは、ラクスとバルトフェルトの二人だろう。
しかし、なぜ彼らがカガリを拉致するのか?
話を聞く限り、結婚式のその日に、強引に攫ったと聞いている。
その目的がわからない。
「なんだか、向こうは向こうで大変みたいだけど……あなたはこっちに来て良かったの?」
「え? あぁ、はい……」
「もうあなたは、戻ることはできないのよ? 一応『FAITH』という立場ではあるから、単独での行動はできるけれど、それでも、軍を裏切るようなことはできない……それは、わかってるわよね?」
「はい……大丈夫です。決断したのは自分ですから……」
「そう……ならいいわ。今後は、あなたにも期待させてもらうからね?」
「ハッ!」
部屋を出る時に、一度敬礼してから、アスランはその場を去る。
(…………大丈夫。キラ達が一緒にいるなら、カガリは大丈夫だ)
攫っていった人物がキラならば、カガリがひどい仕打ちを受けることはないだろう……。
あとはそのまま、面倒なことなく、オーブの情勢を整えてくれればいいのだが……。
「あっ……アスランさん」
「っ……イチカ」
「報告、終わったんですね?」
「あぁ……君は今からか?」
「はい……と言ってもまぁ、ただ単に所属変更の手続きみたいなもんですけどね。
すぐに終わると思います」
「そうか……じゃあ、俺はお先に」
「あ、はい…………あ、あのっ!」
「ん?」
「えっと、その…………」
どこか気を使っているような、よそよそしい表情のイチカ。
アスランが首を傾げていると、再び言葉にする。
「その、さっき、ルナから聞いたんですけど……アスハ代表が、誘拐されたって……」
「っ……あぁ……その事なら、心配はいらない」
「え?」
「どうやら、カガリを拉致した人物は、身内のようだからな……」
「えっ?! そうなんですかっ!?」
「あぁ……。俺もよく知る人物だから、カガリが何か危害を加えられるというわけじゃないだろう……。
そこは心配しなくていい……」
「は、はぁ……それなら、よかったんですけど……」
「いや、変な心配させて、すまない。しかし君も、随分とオーブの事となると、気になるんだな」
「ん……? そうですかね?」
「あぁ……。あのシン・アスカとはまた違った感じだが……。君は、彼のように、オーブは恨んでないのか?」
ごく自然な疑問。
家族を失った悲しみを、その一身に受けているシン……そして、イチカとアリサだって、父親が二年前に亡くなっている。
その原因たるものが、オーブへの侵攻作戦なわけで……。
同然ながら、シンのように、カガリやオーブに対して憎しみの感情を持つのは当然のはずなのに、イチカからは、シンやアリサのように、憎しみや恨みと言った感情を感じられない。
「そりゃあ、俺にとってもオーブは故郷でした……。俺は流れ者で、路頭に迷っていた時に、アリサと出会って、救われました……。
オーブで過ごした期間は短くても、俺にとっては、もう一つの故郷なんです。
たしかに、二年前の侵攻作戦で、俺とアリサは父を、シンは家族を失った……悲しかったのは事実だし、あの時、何もできなかった自分が許せなかった……!」
「…………」
「でも俺は、オーブを恨んだりはしてないですよ。俺は、あの時戦ってくれていた軍人さんやMSパイロットのみんなが、必死に戦って守ろうとしてくれた事を知ってます……感謝はすれど、恨む理由がありませんよ……」
「っ…………」
「それに、俺自身がMSパイロットになってから、わかったこともありますよ……。
戦うことの怖さや、守る事の難しさ……。今度は俺が、誰かから恨まれるのかもしれないって思うときもあります……。
それでも、大切なものを守れるのなら、今度こそ、守れるだけの力を手にしているのなら、俺はっ、戦おうって、思ったんです!
あの時、必死に守ろうとしてくれていた、フリーダムのようにっ!!」
「っ……!!!!」
まさかの答え。
またしても、その名が出てくるとは思わなかった。
だがたしかに、あの時上空で戦っていたのは、フリーダム一機。
連合の開発したG兵器の最新鋭機三機を相手に、キラ一人で立ち向かっていた。
その光景は、さながら侵略から守るように戦っている天使にも見えたのかもしれない……。
(シン・アスカとは、真逆だな……それならそれで、カガリや俺は救われるような気がするが……)
家族を失った悲しみを、アスランやカガリだって知っている。
だが、アスランはもう二度とユニウスセブンでの出来事を繰り返さないようにと、軍に入り、連合と真正面から戦う決意をした。
カガリは、亡き父の意思を継ぐために、戦場ではなく、政界というもう一つの戦場で、戦う事を決めた。
シンは家族を失った苦痛と、何もできなかった自分を恨み、力を欲するようになった。
それはイチカも同じだが、それでもシンとは根本的な部分が違うようにも思えた……。
「そうか……それが、君が軍に入って……MSパイロットになった理由なのか……」
「はい……! 大切な人を守る……家族を守れと、義父さんからの最期の約束でしたから……」
「そうか……」
「綺麗事だというのは、分かっています。それでも俺は、この信念を貫きたい。
オーブで暮らして、オーブの理念で生きてきた……その理念や思想を、俺は間違いだなんて思っていません……!
それが人として、なくてはならないものだと思うから……だからっ、綺麗事だろうと、俺はその信念を胸に、戦うだけです」
「っ…………」
あまりにも真っ直ぐな瞳から放たれる眼光が、アスランの両目に突き刺さるようだった。
こんなに純粋な思い……とても戦争では被害に遭った者とは思えない……。
いや、これこそが、イチカ・ラインハルトという人物の強みなのだろうか……?
アスランはイチカの気迫に、少々押され気味だったが、改めて知れたイチカの真意に、少しだけ胸をなでおろした。
「そうか……なら、これからは期待させてもらうぞ? 同じ新型を授けられた者同士……議長からの期待も背負っている……。
君は君の信念を貫けばいいさ……俺も俺で、やらなきゃならない事をなすために戦う……!」
「はい! 改めまして、よろしくおねがいします!!」
イチカから出されて右手を、アスランは握り返した。
その後、アスランはその場を後にして、用意されている自室へと戻り、格納庫へと向かう。
イチカは艦長に異動の報告が完了し、その場を出てすぐに、別の場所で待っていたアリサと合流。
二人の部屋へと戻っていったのだった。
こうして、新たなクルーを迎え入れたミネルバ……その行く先には、またしても暗雲が漂っていた。
だがまだ、そんな事を……誰も知る由もなかった。
次回はいよいよ戦闘。
本格的にストライクルーチェ動かします。
極力活躍するよう書きます( ̄∀ ̄)
感想、よろしくおねがいします!!