機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜インフィニティー・セイバーズ〜   作:剣舞士

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なんか、超久しぶりですね^_^

一応、生存報告も兼ねて、更新しまーす^_^





第25話 戦士の条件

インド洋での戦闘からどれくらいか時間が経った……。

ミネルバは進路そのまま、中東のスエズ運河を渡り、ザフトの駐屯基地マハムールへと入港することになった。

 

 

 

「マハムール基地より、入港ビーコンを受信しました!」

 

「ビーコン固定、ミネルバ、入港する」

 

「了解。ビーコン固定、ミネルバ、マハムール基地港に接舷します」

 

 

 

ユニウスセブンの落下テロ事件以降、ミネルバの活躍は、大気圏内外問わずザフト軍内で話題になっていた。

自身も大気圏に突入しながら、艦首砲によるデブリの破砕。

落下は防げなかったにしても、その被害を出来るだけ最小限にとどめたのは、破砕に尽力した部隊とミネルバがあってのことだ。

それ故に、入港する基地の部隊の者たちも、その名声を持ったミネルバを前に、敬意を持った敬礼している。

艦内では、基地上陸前に搭載機であるMSの修理、補強などが行われており、整備班、MSパイロットたち共に端末やデータを覗き込みながら作業に没頭している。

 

 

 

 

「ザクのシステム群を少し補強してみたんだが、一度、自分の目で確かめてくれ、レイ」

 

「了解です」

 

 

 

レイは整備班長であるマッドと、補佐についていたほか二名のエンジニアたちの組んだ機体システムを確認するため、コックピットへと登っていく。

 

 

 

「このスナイパーライフルの発射時の挙動と、その反動による標準のズレがまだ残ってるんだけど、どうにか出来そうですか?」

 

「レールガンですからねえ……小型のものならば、反動が少なくなるんですが、スナイパーライフルとなるとどうしても反動を消すと威力も弱まってくるんですよね……」

 

「それがどうにかできれば、気にせず撃てるんだけど……」

 

「射程を短くして、それに応じた調整やパーツ交換をすれば、反動を気にせずに使えると思いますが……」

 

「うーん……スナイパーにとって、狙撃距離を落とすのはなぁ〜……」

 

 

 

アリサは別の整備班メンバーと、新たに装備した電磁砲型スナイパーライフルの改良を検討していた。

そしてその隣では、イチカがコックピット内で、整備班の男性と話し込んでいた。

 

 

 

「ここの関節フレームやモジュールが、少し傷んでいたんで、パーツ交換と補強はしておきましたが、この機体の機動性だと、また傷んでしまう可能性がありますね」

 

「うーん……大気圏内での戦闘だと、機体にかかる負担が大きいのかな?」

 

「元々は宇宙での戦闘を目的としていたものなのかもしれないし、実戦データ自体が足りないのかもしれません。

今後の戦闘で、機体の状態を見ながら直せるところは直していきますね」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

 

オーブ沖での迎撃戦とは違い、初めて本格的な交戦を行ったストライクルーチェ。

ロールアウトしたばかりの機体であるがゆえ、まだまだ実戦データが足りておらず、前世代機であるフリーダムとジャスティスの二機の性能を引き継ぐという案からも、多少の無理を投じて製造されたのだろう。

ならばそこは、整備と補強を行い、パイロットの腕によってカバーするしかない。

それぞれがそれぞれの課題を持ち、対応している中、シンはフォースシルエットを整備している担当者の話を聞き、たまたま近くを通りかかったアスランを睨んでいた。

 

 

 

「っ…………」

 

 

 

 

シンはつい数時間前に、アスランから平手打ちをもらっていた……それも二発。

原因は、先のインド洋での戦闘についてだ。

『FAITH』としてザフトに復隊したアスランは当然のごとくMS部隊の指揮を艦長から直々にお願いされた。

なのでシン、イチカ、アスランの乗る機体が先行して出撃した時点で、アスランが部隊長である事は明白。

ならばその彼の指示に従わなければならない……だが、シンはそれを無視して、敵部隊との戦闘を続行。

果てには、地球軍基地建設予定地にて敵機襲来により混乱していた基地内を蹂躙。

基地を徹底的に破壊した。

そのことが、アスランを怒らせる要因になったのだ。

 

 

 

 

「あっ、ザラ隊長っ! ここのところなんですけどー!」

 

 

 

見るとアスランの姿を発見して、嬉々として近づいていくルナマリアの姿を確認したシン。

それもそれで、なんだか面白くない。

別にルナマリアと男女の関係になっているわけではないにしても、ルナマリアや妹のメイリン、最近ではイチカもアスランの復隊に納得し、それを快く受け入れている。

レイは相変わらず、上からの指示ということで、アスランの復隊を認めている感じなため、はっきり言って味方がいないのだ……。

残るアリサも「イチカが良いっていうなら、それで良いんじゃないの?」なんて言っている。

ほんと、ここ最近は調子が狂うことが多い。

 

 

 

「はぁ…………」

 

「でもいいよなぁ〜……本部のやつら。ラクス・クラインのライブなんてほんと久しぶりだよねぇ〜……」

 

「あぁ……さっきニュースでも流れてたっけな」

 

「んん……?」

 

 

 

人が憂鬱になっている時に、そんな陽気な喋り声が聞こえてくると思いきや、その声の方向へと目をやると、そこに居たのはセイバーの整備担当になっていたヨウランとヴィーノの二人だった。

セイバーが格納されている場所の足元で、ケーブルに繋がれたセイバーの整備を行っていた。

二人の話題は、先日プラント本国で行われたラクス・クライン(ミーア・キャンベル)のライブのことだった。

二年前の大戦が終結したあと、行方を眩ませ、どこかで隠居生活をしているというのがもっぱらの噂だったのだが、開戦の折、突如としてもプラント本国……首都アプリリウスへと姿を現し、連合軍の行った核攻撃に対する市民たちの報復活動や闘争感情を治めて、再び、ザフトの平和の象徴として活動を始めたのだ。

その活動の一環として、彼女の美声を持って行われる歌唱ライブが有名だ。

元々、歌姫として世界的に知られている彼女が、政治や争いごとに介入するという時点で凄いが、彼女発言は、世界を動かすといっても過言ではない。

ましてや、二年前の大戦の終結を導いたと言われれば、なおのこと、世界の民衆は彼女を支持する。

そんな彼女のライブは実に二年以上ぶりだ。

ヨウランとヴィーノが気分良く話し合うのも無理はないだろう。

 

 

 

「にしてもよ、だいぶ歌の感じ変わったよな? 彼女。なんかこう〜、若くなったって感じでさ……!」

 

「そうそう! それに今度の衣装っ! なんか以前に比べてかなりバリバリだよねっ!」

 

「そうそう!! それ俺も思ったんだよなぁ〜!」

 

 

変わったのも無理はない。

かつてのラクスの歌は、平和への祈りの歌。

静かで優しい……しかし、人々の心へと深く入ってくる歌だった。

だか、今のラクスの歌は、若者向けのポップな要素を取り入れているため、原曲からはほぼかけ離れている。

曲名や歌詞は同じでも、リズムが違ければ、雰囲気も変わる。

おそらく、リメイク版として打ち出したものだろう。

しかし、意外にもそれが受けているのも事実だ。

まぁ、本当の彼女の歌を知っている者達からすれば、少し違和感を覚えるような感じなのだろうが、周りが盛り上がって認めているのであれば、それもまた一興……と言った感じなのだろう。

特にこれと言って否定的な言葉が上がっているわけではない。

ただ、あまりにも変化があったとすれば、ライブの時に着ている服装だ。

歌う際には、それなりのドレスを身に纏っていたラクス。

それもそれで、とても優雅で美しい姿ではあるのだが、今の彼女は、とても際どい服装をしている。

以前のラクス・クラインならば、着てもいなかったような、体のラインを強調するような際どい服を好んで着ている。

そのためか、女性特有のたわわに実った果実のような胸部や臀部が浮き彫りになっている。

 

 

 

「しっかし、あの衣装結構際どいよなぁ〜! そしたらさっ、胸、結構あんのなっ!」

 

「うんうん! 今まで着物とかが多かったからわかんなかったけど!」

 

「あの衣装のポスター出たら、俺絶対欲しいぃ〜〜!!!」

 

 

 

陽気に話す二人を見ていると、そこへ当のパイロット本人が背後からゆっくり近づいていく。

その気配を察したのか、二人が背後を振り向くと、ただただ憮然にこちらへと向かってくるアスランの姿を捉えた。

 

 

 

「「うわぁっ?!!」」

 

「セイバーの整備ログは?」

 

「あ、ああぁ、えぇっとぉっ、こちらになります!!」

 

「ふむ……うん、ありがとう」

 

 

 

手に持っていた端末をいくつか操作して、アスランらそのままそこから離れていた。

安堵のため息をこぼすヨウランとヴィーノ。

 

 

 

「はぁ〜、ビックリしたぁ〜……。でもいいよなぁ〜……婚約者だしなぁ〜」

 

「あんな美人でナイスバディな人が婚約者って……マジで羨ましいぜ……!

ちぇっ、ケーブルの二、三本も引っこ抜いといてやろうか? セイバー」

 

「聞こえてるぞっ、二人とも!」

 

「「っ〜〜〜〜!!!! なっ!!!??」」

 

「さっきのも全部丸聞こえだったよ」

 

「「す、すみませんッ!!!!」」

 

 

 

無論、アスランは本気で怒っているわけではなく、ちょっとした冗談のつもりだったのだ、ヨウランとヴィーノは深々と頭を下げて謝罪。

そのあとは二人とも整備に戻っていった。

アスランはため息をもう一回だけつくと、ふと視線を感じたのか、フォースシルエットの出力調整をするため、整備メンバーと一緒にいたシンの方へと視線を移す。

 

 

 

「…………」

 

「ふんっ…………」

 

「ふっ…………」

 

 

 

 

相変わらず空気が重いのである。

そんな二人の様子を、自分の機体の陰からこっそりと眺めるルナマリア。

そして、コックピット部分から離れていく二人を眺めるイチカ。

最近ではアスランの事が気になって仕方がないルナマリア……。

アスランの行動などを観察して、積極的にスキンシップを取ろうと試みているようだ。

そしてイチカの場合は、これから共に戦っていく仲間なのだから、もう少し仲良くして欲しいと願うばかりだ。

そして、ミネルバは誘導ビーコンに従い、ザフト軍マハムール基地の軍港へと接岸。

ゆっくりと停止し、岸から連絡橋がかけられた。

 

 

 

『ミネルバ、マハムール基地への着艦、完了しました。これより本艦は、別命あるまで待機。

それまで各員は、補給、整備の準備を進めてください。ザラ隊長はブリッジへお願いします』

 

「ん……すまない、ルナマリア。呼び出しがかかってしまった」

 

「あっ、はい! ご意見ありがとうございました!」

 

 

先程から色々と意見を聞いていたルナマリアに断りを入れ、アスランはその場を離れる。

少し歩くと、ストライクルーチェのコックピットから、イチカが降りてきた。

 

 

 

「機体の状態はどうだ? 昨日の本格的な戦闘で、色々と直すべき点が出てきただろう?」

 

「はい。思ったよりも、関節部やフレームへの負荷がかかってたみたいで……。

まぁ、それは今後の整備と俺の腕によって改善していくしかないですけどね」

 

 

 

戦闘のシステムチェックを進言してきたのは、他でもないアスランからだった。

自身もかつて乗っていた機体では、OSが未完成のため、すぐには戦闘ができず、一度母艦に帰ってから、改めてシステムを改修していった。

その経験からの助言だったのだ。

 

 

 

「着艦の挨拶ですか?」

 

「あぁ、多分そうだと思う。今のうちに休んでおけよ?」

 

「ええ、了解です」

 

 

 

それだけ言って、アスランは格納庫から出ていった。

アスランの姿が見えなくなると、イチカはそのままアリサの方へと向かっていった。

そして、アスランの姿が見えなくなるまでずっと睨んでいたシンのそばには、いつの間にかルナマリアが来ていて……。

 

 

 

「言いたいことがあるなら、ちゃんと言えばいいじゃない」

 

「…………ルナ」

 

「ずぅーと、睨みっぱなしで、何にも声かけないし」

 

「ふんっ……」

 

「ガキっぽいよ、そういうの」

 

「っ…………」

 

 

 

士官学校からの付き合いがあるため、シンの性格や行動パターンはある程度把握している。

かつては教官相手に突っかかっていったりもして、ルナマリアやイチカ達で止めに入ったことも何度か……。

 

 

 

「うっさいなぁ〜……ルナには関係ないだろう?」

 

「あっ、ちょっとシン〜!」

 

 

 

これ以上藪蛇を突かれたくないと思い、シンはその場から離れていく。

そんなシンのことが放っておけず、ルナマリアが追随し、そこにちょうど整備が終わったレイが合流していく。

いつもの三人組で、格納庫を後にした。

一方で、ブリッジに呼び出されたアスランは、艦長であるタリアと副長のアーサーらとともに、マハムール基地の統括責任者の元へと挨拶をしに向かうため、一度ミネルバを降りることとなった。

 

 

 

「艦長」

 

「ん? なぁに?」

 

「私も一緒に降りるのですか?」

 

 

そう聞いたのは、アスランだった。

一応『FAITH』に所属する者として、共に挨拶に行くのだろうが、どうやらそれだけではない気がしたのだ。

 

 

「ええ……。一応後でクルーの面々にも合わせるつもりだけど、今度の作戦がどんな物にせよ、あなたの意見を聞いていて、損はないでしょう?」

 

「え? あぁ、はぁ……」

 

「あなた自身が、自分の事をどう思っているのかはわからないけど……あなたに対する評価は、人によって様々よ」

 

「…………」

 

「私たちは一応、あなたの能力については、もう認めているわ。宇宙での戦闘における的確な判断と、それをやるという決断力。

そして何より、MSパイロットとしての技量と、シンやイチカ、レイ達にはない状況分析力と判断の速さ……。

色々あるけれど、それについて評価は、私とアーサーは認めているところよ」

 

「え……は、はあ……」

 

「ま、まぁー、議長自ら推薦し、復隊させた隊員ですからね……それに、君のお陰で助けられた場面だってあるのも、事実だ」

 

「副長……」

 

 

初めは良くない印象だと思っていたアーサーも、今では少しずつアスランの事を認めているのだ。

 

 

 

「というわけで、私たちはあなたの復隊に賛成したけれど、ほかの部隊の人間からしたら、面白くないじゃない?」

 

「ぁぁ……」

 

 

タリアの言わんとすることが、少しずつ理解できた。

自分はやはり、パトリック・ザラの息子であるのだと……。

そしてかつては、宇宙で名を馳せた部隊であるクルーゼ隊の一員であり、『FAITH』にまで上り詰めた事も、ザフト全軍に知れ渡っている。

もちろん、二年前の大戦時には、プラントでも連合でもない、クライン派と呼ばれる第三勢力に身を置き、大戦終結に一役買った事も……。

ならば一度公に立って、改めて復隊したという事を証明するのが一番合理的だ。

 

 

「それに、本艦のMS部隊の隊長はあなたなんだし、今後の作戦についても、あなたの意見を参考にしたいと思っているの」

 

「わかりました……。そういう事でしたら、私も異存ありません」

 

「ええ、ありがとう。それでは行きましょうか……アーサーは? 準備はいい?」

 

「はい! 問題ありません!」

 

「結構……。では、行きましょうか」

 

 

 

タリアを先頭に、ミネルバ上官メンバーは艦を降りて、港で待つマハムール基地統括責任者の元へと向かう。

艦を降りてすぐ、港の方では既に複数の兵士たちが集まっていた。

ミネルバ所属の者たちと、それを迎え入れるかのように、マハムール基地所属の兵士たちが並んで立っていた。

そこにタリア達、ミネルバのメンバーと、マハムール基地のメンバーが集まり、互いに敬礼する。

 

 

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです」

 

「副長の、アーサー・トラインであります!」

 

「特務隊、アスラン・ザラです」

 

「アスラン……ザラ……?」

 

「はい……」

 

 

 

ミネルバのメンバーから順にマハムール基地の面々に敬礼と共に名を名乗る。

ザフトには、目立った階級はないが、軍服そのものが階級の証。

この場にいる最上の隊員は、むろん艦長であるタリア。

その軍服は白。

これは前線における最高指揮官である隊員の証拠だ。

そして、副長であるアーサーの軍服は黒。

副官であることの証拠であり、緊急時には作戦指揮も取ることのある位だ。

そして、アスランの纏っている赤服。

MSパイロットの中でも士官学校にて上位20位以内に入った者に纏うことが許される軍服。

あくまで学校の成績順のため、緑服との差はないが『アカ』や『赤服』という呼称で呼ばれるだけの知名度は高い。

それよりも上に行くと、評議会の文官クラスが羽織っている青緑色のロングコートや国防委員会の委員たちが来ている紫色の軍服などがある。

しかし、基地統括責任者が驚いたのは『特務隊』という所でも、赤服を着ているという所でもない……アスラン・ザラという隊員の名前だった。

 

 

 

「お、おい、今アスランって言ったか?」

 

「あぁ、アスラン・ザラってあの……」

 

「あぁ、クルーゼ隊の……!」

 

「復隊したって噂は本当たったんだな……!」

 

 

 

 

ざわつく基地所属の隊員たち。

そのどよめきに、横にいたアーサーすらも、アスランの横顔を見つめる。

やはり彼の話題は、ザフト軍全体に知れ渡っているらしい……。

しかし、いつまでもどよめき立っている訳にもいかないと思ったのか、隊長格の人物が、タリア達に返礼する。

 

 

 

「失礼した。マハムール基地のヨアヒム・ラドルです。遠路はるばるお越しいただいて、ありがとうございます」

 

「いえ、こちらこそ」

 

「とにかく、こんな場所ではあれです……早速中へ、話はそこでしましょう……。

コーヒーはいけますか? まぁ、こんな所ですが、豆だけは良いのが手に入るので」

 

「ええ、ご馳走になりますわ」

 

 

 

そう言って、ラドル隊の後ろからついていくタリア達。

ミネルバにもいくつもの懸架台がかかり、そこに補給物資の搬入や整備班の面々による整備が始まった。

ミネルバにいるMSパイロットメンバーも、それぞれ整備を終えて、ゆっくり過ごす事になった。

一同は整備を終えて、艦内の廊下を歩いていた。

久しぶりの五人での会話。

アスランが来てからは、ルナマリアはアスランにご執心であられる様子……そしてシンはアスランとの仲の悪さは火を見るより明らかだった。

アリサはさほど気にはしていないため、アスランとも普通に会話しているし、イチカは軍の先輩として、人として尊敬の念を抱いているし、レイはレイで優秀な上官だという認識を持っているだけだ。

何はともあれ、アスランの復隊により、いろいろとミネルバクルーにも変化があったと言わざるを得ない。

 

 

 

「まぁ、シンの気持ちも分からなくはないわよ? いきなり帰ってきて『FAITH』で上官でって……。

それに二回も叩かれたんだもんね……」

 

「ん…………」

 

 

 

廊下で歩きながら、シンの憤りをなだめようと、ルナマリアがフォローに入るが、全然フォローになっていない気もする……。

そのせいか、シンの表情を余計に固くなってきている。

 

 

 

「でもさっ! あの人だって、その資格がないわけじゃないでしょう! 以前だって、部隊の指揮をしてたんだし、MSの操縦だって、申し分ないわけだしさ!」

 

「わかってるよっ! ったく、ルナはうるさいなぁ、もう……!」

 

「ちょっ、何よぉ〜! ねぇっ、シンってばあ!!」

 

 

 

ルナマリアの言葉を聞く事なく、シンはそのままスタスタと歩いていく。

そんな後ろ姿を、ルナマリアは頬を膨らませて見ていた。

その様子に、アリサは呆れた表情になり、イチカも苦笑い、レイは何故か微笑ましいと思っているのか、優しく微笑んでいる。

 

 

 

「もうっ……! どうせシンがまたアスランに怒られるに決まってるわよ! ふんっ!」

 

「ルナ〜……あなた、アスランが来てからやけに態度変わったわよね?」

 

「へ? そう? 私は普通だけど……」

 

「全っ然っ〜〜違うから。もう媚びへつらってるような態度だよ? あの人の前だと……」

 

「はぁ?! そんなわけないじゃん! まぁ、興味がないわけじゃないけどさぁ……」

 

 

 

 

 

シンの態度に不満を述べるルナマリアだったが、今度はアリサからの質問攻撃を受ける。

 

 

 

 

「なに? あの人のこと好きなの?」

 

「な、何よ、いきなり……!」

 

「別に? ただ興味本位で聞いてみただけよ」

 

「うーん……そんなんじゃないとは思う……うん」

 

「何よそれ……。曖昧ね」

 

 

 

人として好きかどうかなんて、正直自分でも分からない。

ルナマリアの心境で言えば、そんな感じだった。

別段嫌っているわけではないから、好きか普通かのどちらかだと言えるだろう……。

 

 

 

 

「でもまぁ、あの人って変に慌てたりとか、焦ったりとかしてなさそうだもんね……なんかこう〜……大人って感じがするわ」

 

「あれ? でもあの人と私って、一つしか歳違わないんじゃなかったけ?」

 

「ん? あぁ、そう言えばそうか……! ルナって17だもんね。たしか、アスランは18よね?」

 

「そうね……」

 

 

 

そんな恋バナ? って盛り上がる女子二人をよそに、後ろからついて歩くレイとイチカの二人。

目の前で始まった女子トークに、どのようにしていいのか迷ってしまう。

 

 

「えっと……レイ、この後どうする?」

 

「どう、とは?」

 

「いやさ……そのぉ〜、こんな女子トークには、俺たち男は入っちゃいけないような気がしてさぁ……」

 

「そう言うものなのか?」

 

「あぁ、多分……俺もあんまり知らんけど……」

 

「そうか……俺もあんまり経験がないからな。正直どうしようかと思っている」

 

「へぇ〜……レイって正直モテそうだから、そう言うのは自然に察しそうだと思ってた」

 

「モテそう? 俺がか?」

 

「え? 自覚なかったのか?」

 

「お前にそれを言われるのは、なんだか不思議な気分なんだが……」

 

 

 

困ったような表情でこちらを見てくるレイ。

何故だろう……レイにそんな表情をされると、こちらが何故か傷つく。

 

 

 

「いや、お前の方がモテてただろう? そのルックスで、女子隊員からは人気だって聞いたぜ?」

 

「それを言うのならお前もだぞ、イチカ……。お前は気にしていなかったんだろうが、士官学校時代からお前に視線を送っている奴らは大勢いたぞ?」

 

「え……そうだったの……っ?!」

 

 

 

 

あんまり身に覚えがないが……。

しかし思い返せば、時々アリサが強引に腕を引っ張ったり、わざとらしく大きな声で話したり、女子生徒たちが何かに怯えたような表情になってたり、いきなり走って逃げ出したりしてたような……。

 

 

 

「あれは……モテてたのかな?」

 

「ふむ……お前にも分からないとなると、俺にはもうどうしようもできない事案だな」

 

「そ、そんな……冷たい言い方するなよー」

 

「いや、いいと思っているんだぞ? これでも……」

 

「へ?」

 

「人から好意を寄せられるというのは、中々難しい事だからな……。

人はたしかに好意や友情、愛着、愛情と、さまざまな感情を見せるが、時として憎悪や嫉妬、怨恨なども抱える生き物だからな……。

特に俺たち軍人は、そういった感情を多く受け止めなければならない職業だ……。

仲間たちからそう言った好意的な感情を向けられるのは、ある意味において才能の一つと思った方がいいんじゃないか?」

 

「お、おう……!」

 

 

 

 

久しぶりにレイの哲学的講座を受けたような気分だった。

しかし、たしかにそうなのかもしれない。

先の大戦よりもずっと前から、人々の心情は荒んで行っていた。

元よりコーディネーターとナチュラルという人種間における争い……時間軸の異なる世界に迷い込んだイチカにとっては、あまり実感がなかったが、過去を遡ってみても、人種間差別による戦争というのは昔からあるものだ。

しかし、それはあくまで一部の人間によって引き起こされたものである。

その人間たちによって洗脳、扇動されて、人々は衝突しあった。

その愚かとも思える行為を、起こしては沈静し、再びやっては闘争を起こして沈静する……。

人の歴史=戦いの歴史とも言っていいくらいだ。

この世界も、イチカの元いた世界も、何も変わらない……。

ISがあった世界だろうが、MSがあった世界だろうが、それを操っているのは同じ人だ。

 

 

 

「だが、少々お前は女難の相が多々ありそうだがな……」

 

「ぐっ……! 上がってた気持ちを容赦なく落とすなぁ……レイは……」

 

「ふっ……。まぁ、アリサとの関係に俺は口出しはしないが、あまりそう言った問題を起こすと、後々面倒なことになるからな」

 

「あぁ……まぁ、それはわかってるよ……気をつける」

 

「なら良い」

 

 

 

廊下で繰り広げられたガールズトークと人生相談? をしながら、ミネルバのMSパイロットメンバーは一度それぞれの部屋へと帰っていった。

ルナマリアは、同室だったメイリンと一緒にシャワールームへと赴き、レイはそのまま自室に篭り、イチカとアリサは一旦部屋に入って、荷物を持って出るイチカの後ろをアリサが追っていく。

また始まる作戦前の貴重な休み時間を、各々は思い思いに過ごすのであった。

一方で、マハムール基地の司令官ヨアヒムに連れて来られたタリア、アーサー、アスランの三人は、今後の方針の確認をするため、会議室に集まって話し合いの場を設けていた。

 

 

 

「それで? 状況はどうなっているんです? こちらも大変な騒ぎになっていると、お聞きしたんだけれども……」

 

「ええ、まぁ……。ユニウスセブン落下事件以降からは、あちこちで連合側からの干渉を受けていましてね……。

我々もやっとの思いで凌いでいる状況でしてね……」

 

「なるほど……。やはり、こちらも色々と大変みたいね」

 

「ええ、それはもう。こちらとしても、迂闊にスエズの勢力には、手が出せない状況にあります」

 

「ふむふむ」

 

 

 

 

会議室では、窓側の席に座ったタリア達と、その真正面に座っているヨアヒムが、目の前にある電子端末を内蔵しているテーブルで、状況を確認していた。

真ん中にタリアが座り、その右隣をアスランが、左隣をアーサーが座っている。

三人は基地の隊員が入れてきたコーヒーを一口啜ると、現在このマハムール基地が置かれている状況について確認をし始めた。

テーブルの表面には、世界地図が映し出されており、ちょうど見えるのは中東地方……スエズ運河や地中海といったものが確認できる。

その地図には、赤や黄色の光で記されている箇所がある。

その上には「スエズ」や「マハムール」、「ジブラルタル」と記されている。

そんな中、ヨアヒムは再び状況を話し始める。

 

 

 

 

「本来ここの勢力とやり合うとなると、以前の大戦のように軌道上からの大規模な降下作戦をするのが通例なのですが………」

 

「「「…………」」」

 

「何故かその作戦は議会を通らないらしい……」

 

「 “こちらに領土的野心はない” ………そう言っている以上、大規模な降下作戦は出来ないわね」

 

「その通り。下手に手を出して、戦線の拡大を防ぎたいという現評議会と議長の意見には、私も賛成しています。

しかし、こちらが大人しくしている事をいいことに、好き勝手やられるのもまた困る……」

 

「何かあるのね? スエズの他に」

 

「ええ」

 

 

 

ヨアヒムは一度タリアの指摘に頷き、手に持っていた伸縮棒を伸ばして、ある地点を指した。

それは、敵軍である連合の勢力圏内にあるスエズだった。

 

 

「本来ならば、このスエズの地球軍戦力は我がマハムールを一気に攻め落とし、目と鼻の先にある我らのジブラルタル基地に攻め入りたい所……しかし、今はそれがうまく事を運ばない……それは何故か?理由はここです……!」

 

 

 

ヨアヒムが伸縮棒で指した地域。

それはスエズの戦力地帯と、マハムール基地との間の地域……すなわち……。

 

 

 

「ユーラシア西側地域……!」

 

 

 

アーサーは思い出したように口に出した。

今まさに混沌としている地域てあり、現段階では、地上で最も悲惨な場所として、マスコミでも取り上げられている。

地球軍の圧政に、地元民たちが反抗しているが、軍はそれを力ずくで従わせている……という状況なため、死者や負傷者などもどんどん増えている。

 

 

 

「そうです。インド洋、そしてジブラルタルがほぼ我々の勢力圏にある現在……大陸からスエズへのルートは、なんとしても確保しておきたいと思っているはずです。

なので、この地域の安定は、なんとしても絶対のものにしておきたい……でなければ、スエズの戦力が孤立してしまいますからね。

故に、奴らはここらの山間一帯……ガルナハンの火力プラント利用して強引に一大巨塔砲を築いて、ユーラシア西側地域の対抗運動にも睨みを利かせているという状況になっています。

まぁ、その影響で、ユーラシアからの圧力にさらされた人たちは、南下もままならないままで、かなり悲惨なことになっていると言うことです」

 

 

 

テーブルにあった地図画面を切り替えて、立体的な映像によるガルナハンの地形図へと変えながら、説明を続けるヨアヒム。

そんなヨアヒムに、今度はタリアの右隣に座っていたアスランが口を開く。

 

 

 

 

「しかし、ここを抑えてしまえばスエズへのルートを分断でき、抵抗勢力にも手を貸した上で、間接的にではありますが、地球軍にダメージを与えることができる……という事なんですね?」

 

「ふ…………」

 

「ほぉ…………!」

 

 

 

 

アスランの指摘に、タリアもアーサーもアスランに対して視線を送る。

そして、その答えにヨアヒムもニヤリと笑って答える。

 

 

 

「ええ、その通りです。しかし、それは向こうもわかっている事……。そうなれば、そう簡単には通してくれないさ」

 

 

 

そう言って、再びテーブルの地形図に手を加えるヨアヒム。

すると、山間の一角と、その後方にあった地域にだけ黄色い明かりが照らされる

後方にある地域は、どうやらガルナハンの地元民たちの村だと思われる。

そして、渓谷となっている山間の一角にある大きな黄色い印は……。

 

 

 

「ガルナハンにアプローチできるのは、この山間にある渓谷の一本道ただ一つ。

それを利用して、地球軍はここに陽電子砲を装備しており、その周りには、そのリフレクターを搭載した化け物のようなMAまで用意している……。

前にも突破を試みたんだが……まぁ、結果は散々なものでね……」

 

 

 

連合の陽電子砲『ローエングリーン』を設置している山岳の後ろには、ガルナハンの村があり、その山の火力プラントをエネルギーに、固定砲台として建設したようだった。

以前MS小隊複数と、ピートリー級地上戦艦一隻で突破を試みたが、艦主砲に付け加え、MS『バクゥ』『ガズウート』『ジンオーカー』の放つ攻撃を一点集中の一斉砲撃でローエングリーンを狙ったが、陽電子リフレクターを装備した連合の新型MAの前には無力だった。

そして、全ての攻撃を受け切った瞬間に、ローエングリーンが火を噴き、戦艦とMS部隊は壊滅……。

それ以降、マハムール基地の戦力も、迂闊に手を出さないようだった。

 

 

 

「ああ……っ! あの時みたいなっ……!」

 

「そういえば、ミネルバは同じリフレクターを装備したMAと交戦したとか……。

それも含めて、どうかご助力を願いたいと思った次第です」

 

「なるほどね……」

 

 

 

 

ヨアヒムの言葉に、タリアは妙に納得したと言うような言い方をする。

机に置いてあったコーヒーカップを取り、一口含むと、再び受け皿に置いた。

 

 

 

「つまり、ここを突破しなければ、私たちはそう簡単にジブラルタルへは行けない……という事よね? これは……」

 

「えっ? あ、ぁぁ……!」

 

「まぁ、そういうことです」

 

「なるほど……。私たちにそんな道を通らせるなんて、一体どこの狸が考えた筋書きかしらね」

 

「ん?」

 

「いえ、こちらの話よ」

 

 

 

なんの話か、ヨアヒムは首を傾げたが、すぐに話を戻す。

 

 

 

 

「作戦の日時等はまた時間を置いて話し合いましょう。

こちらも戦力を整えて、万全の状態にしなくてはなりません。今度こそ、ミネルバと共に、我々も道を切り開きたいものですよ……!」

 

 

 

 

 

ヨアヒムのはそう言って、今回の作戦会議を締めくくった。

ミネルバ隊のメンバーは、そのまま母艦へと帰り、マハムールの戦力が整い次第、作戦内容を詰めていくという方針になった。

また始まるであろう戦闘に、アスランはおもむろに空を見上げて思い込んだ。

今もどこかにいるであろう恋人であるカガリと、親友であるキラ、そしてラクス……。

 

 

 

「っ〜〜〜!」

 

 

 

しかし、今は迷っている場合ではない。

アスランは想いを振り切って、再び歩み始める。

おそらく早ければ明日には作戦が組まれて、即時戦闘開始となる。

自分たちの行動に、仲間の命が、地元民たちの安寧が、そして世界の行く末がかかっているのだから……。

 

 

 

 

 

 

「ふっ! はっ! やあっ!!」

 

 

 

ミネルバの艦中央にある甲板では、勢いのある掛け声と共に、木刀を振るう一人の少年の姿があった。

赤服の上着を脱ぎ、軍支給の水色の肌着の状態で木刀を振るうその姿は、真剣そのものだった。

 

 

 

「そんなに振り回して、疲れないの?」

 

「あぁ、慣れればこのくらい全然っ! まぁ、ここ最近は、振るう機会もなかったしなっ……!」

 

 

 

その少年の姿を、中央カタパルト直下の装甲板に背中を預けた状態で見守る銀髪の少女が、微笑を浮かべながら問う。

少年……イチカの素振り姿を見るのも久しぶりだと思ったからだ。

銀髪の少女……アリサにとって、この姿は日常そのものだった。

アリサの暮らしていた家にイチカが流れ着いてから、体が快復するまではどこにでもいる普通の男の子だと思っていたが、快復し切った後には、家の近くにあったそれこそ木刀くらいの大きさの木の枝を振り、稽古していた姿を目撃し、驚いた。

自分の周りには、武道を嗜んでいる者が全くいなかったのと、イチカの素振りが、とても綺麗だと感じたからた。

 

 

 

「そんなに振り込んで、次の作戦の時に体が痛いとか言ったら笑うからね〜」

 

「そんなヤワな体してないよ。それに、久しぶりだからさ、なんだか振り込んでおきたいんだよ……っ!!」

 

 

 

袈裟斬り、左薙、左斬り上げ、逆袈裟、唐竹。

流れるように木刀を振るうイチカ。

そんな時、艦内へと通じる扉が開き、そこからシンの姿が見える。

 

 

 

「ん……?」

 

「ん……おお、シン。なんだ、風にあたりに来たのか?」

 

「え、まぁ、うん……」

 

 

 

シンはそのまま甲板の手すりの方へと歩いて行き、港の風景を眺めながら、少しだけため息をついた。

 

 

 

「お前、まだそんな事やってるのかよ」

 

「ん? そんな事って、素振りの事か?」

 

「そうだよ。それに一体何の意味があるのさ……ただの棒振りだろう?」

 

「まぁ、素人からすれば、これもただの棒振りなんだろうが……。武道を嗜む奴からすれば、それも立派な自己管理なんだぜ?」

 

「……自己管理?」

 

「まぁ、簡単に言えば、集中力を高めたりするのに、必要なルーティンみたいなものさ」

 

「ふぅ〜ん」

 

「なんだよ、さっきから元気ないなぁ……。なんなら、お前も一緒にするか?

少しでも体を動かせば、多少は気も晴れるってもんだぞ?」

 

「いや、俺はいいや……」

 

「そっか」

 

 

 

そういうと、互いに黙って過ごす。

イチカは素振りを、シンは景色を眺める。

と、そんな時だった。

またしても艦内へと続く通路の入り口から、新たな人物が出てきた。

 

 

 

「あ……」

 

「っ……」

 

「あら……」

 

「ん? あぁ、アスランさん」

 

 

 

今もっともシンが会いたくなかった人物……アスラン・ザラだった。

アスランもシンがいることに驚いたのか、一瞬だけ顔の表情が強張っていた。

しかしすぐにその緊張をほぐすと、シンとイチカの元へと近づいていく。

 

 

 

「こんな所で、何やっていたんだ?」

 

「別に……」

 

「俺は、見ての通り素振りです」

 

「私はその付き添いです」

 

「そうか……。イチカはたしか、剣術を嗜んでいたんだったな?」

 

「ええ、まぁ……。多少我流が入っているんですけどね……今でも鍛練は続けているんですよ」

 

「そうか……」

 

 

 

アスランと気さくに話すイチカを尻目に、シンはジィーっと二人を……というよりかは、アスランの事を見ていた。

 

 

 

「……あなたこそ、こんな所で何やっているんですか?」

 

「ん?」

 

「作戦……明日なんですってね? こんな所で油を売っていてよろしいのでありますか?

隊長も、色々と忙しいんでしょう?」

 

 

 

わざと煽る様な口調でアスランに尋ねるシン。

そんな後ろ姿をため息交じりで見ていたイチカとアリサ。

奇しくもここには、オーブの関係者が勢ぞろいだった。

普段ならば絶対にあることのない組み合わせ……イチカは別として、アリサは別段気にしてなさそうではあったが、ルナマリアの様に進んでアスランに近づいていくことはしなかったし、シンに至ってはケンカはするし、一方的に睨んでばかりいるので、会話すらおぼつかない。

そんなシンの態度に、アスランもため息をついた。

 

 

 

「はぁ……本当に突っかかるような言動しか出来ないなぁ……君は」

 

「別に……。でも、殴られて嬉しい奴なんか、いないと思いますけどね……。

だいたい、この間までオーブでアスハの護衛やってた人間が、いきなり復隊だのFAITHだの言われて、ハイそうですか……なんて、思えるわけないじゃないですか……!

ほんとっ、あなたは何を考えているんですっ?! やっている事、滅茶苦茶じゃないですかっ……! あなたは!」

 

「シン、それは……!」

 

「いいんだ、イチカ」

 

 

イチカがアスランの弁明をしようとしたが、アスランは左腕をあげてイチカを制した。

そした、シンのいる甲板の端にある手すりに、自らも腕をかける。

 

 

「まぁ、そうだろうな……」

 

「え……?」

 

「認めるよ。確かに、君のいう通りだ。俺のやっている事は滅茶苦茶で、君にとっては、納得のいかない事なんだろう」

 

「えぇ……まぁ……」

 

「でも、だからだと言いたいのか?」

 

「ん?」

 

「だから俺の命令は聞けない……気に入らないと……そう言うつもりなのか? 君は……」

 

「そ、そんなことはっ……!」

 

「君の事情も、改めて調べさせてもらったよ。君がザフト軍に入隊した経緯、そして入ってからの戦い方や実績も……ある程度は調べられた」

 

「…………」

 

「ならば、あのインド洋での戦闘については、自分ではどう思っているんだ?」

 

「っ……!」

 

 

 

アスランは確信をついた言葉を放った。

ここ数日シンとアスラン自身との間にあったわだかまりの原因。

その事について、話し合う機会すら、今までなかったのだ。

 

 

 

「あの戦闘を、君は今でも、正しいの思っているのか……?」

 

「っ…………」

 

 

 

シンに対して真正面を向いたアスランの表情は、とても真剣で、ふざける余地なんて全くない……真面目そのものだった。

だからこそ、シンもそれに答える。

 

 

 

「…………はい……っ!!」

 

「…………そうか」

 

 

 

真剣な表情で話し合う二人を、隣で見ていたイチカとアリサにも、その雰囲気や、感情が伝わってくる。

インド洋の海上にて、地球軍からの奇襲を受けた際、シンは建設途中の地球軍基地を発見した。

そこではその土地に住む現地民の人たちが強制的に労働をさせられており、地球軍からの圧力を恐れていた様子だった。

近くで戦闘が起きたが故に、ようやくできた隙を突いて、その場から離れようとしていた住民たちに、地球軍の兵士たちは、容赦なく手にしていた銃を乱射した。

何人かの住民は、その時すでに即死しただろう……。

その光景を見たシンは、かつての記憶を思い出してしまった……。

オーブで……オノゴロ島での出来事。家族が一瞬にして死別してしまったあの出来事を。

 

 

 

「君は、オノゴロ島で家族を失ったと言ったな……。それに、イチカとアリサの父親も、あの時に亡くなったと」

 

「「っ…………」」

 

「殺されたって言ったんですよ……アスハに……っ!」

 

「っ……! シンッ! それは違うと何度も言ったじゃないか!」

 

「何が違うんだよ! あの戦闘は、避けられたはずだろう!!」

 

「あの状況で戦わなければ、オーブは全滅していた……! それも、中立国オーブそのものが消えていてもおかしくなかったんだぞ?」

 

「そんなのっ、今だって同じだろう!!」

 

「っ……!」

 

「結局、地球軍の圧力には逆らえないっ、口だけで、何の力も持っていないっ……!

だからっ、俺の家族はっ……! お前たちの父親もっ……!!」

 

「っ…………」

 

 

 

シンの言葉に、イチカは俯いていた。

隣にいたアリサは、いつのまにか背中を向けていた。

ちゃんと確認できたわけではないが……頬には、流れ出た一筋の雫の跡が残っていた。

 

 

 

「そうか……でもだから、君は考えたわけか? あの時力があれば……何者にも負けない力があればと」

 

「っ……!! ど、どうして、そんな事言うんです……?!」

 

「…………一度、自分の無力さを知った者は、誰しもが思うことだからな……」

 

「え…………」

 

「アスランさんも、そう思っていたんですか?」

 

「…………あぁ」

 

 

イチカの質問に、アスランは答えた。

まるで、かつてを思い出すかのように……。

 

 

 

「ユニウスセブンには、俺の母がいた」

 

「「「っ……!!」」」

 

「血のバレンタイン事件……それが、俺が軍に身を置くようになったきっかけさ……。

ナチュラルとコーディネーター……決して交わるはずのない両者間の争いの中に……その戦乱に、俺の家族も巻き込まれた。

それ以降、父であるパトリックは、反ナチュラル政権を掲げて、徹底的に地球軍を殲滅することを望んでいた。

そして俺も……その事を正しいと思っていたんだ……」

 

 

軍に入り、訓練を幾度も受けて、クルーゼ隊に入隊し、中立国オーブが所有する資源衛星コロニー『ヘリオポリス』にて、新型のMSが開発されているとの情報を知り、その機体を奪取するという任務を受けた。

その後も、幾度となく地球軍との戦闘を重ねていき、結果を見れば、同期を二人亡くし、それ以外の味方も大勢死んでいった。

その中には、自分の不甲斐なさゆえに、命を落とした者もいる。

 

 

 

「軍の命令に従い、敵を討つ。それでいい……それが、俺たち軍人の役目なんだと……そう思っていた。

だか、戦争が終盤に差し掛かっても、中々終わらなかった……そんな時に、父の言葉を聞いて、度肝を抜かれたよ……。

ナチュラルが全て滅びれば、戦争は終わる…………俺の父は、そんな事を言い切ったんだよ……」

 

「…………」

 

「シン……君にはわからない世界だったかもしれない。あの時無力さだけを感じていた君には、俺たちの気持ちなんて、当然わからなかっただろうさ……。

でもな……これだけははっきり言える。君の力の使い方には……とても危険な物を感じる……!」

 

「危険……?」

 

「そうだ……危険な物だ。君は自分だけが正しくて、そのほかの事は間違っている……そう思っているように戦っている……違うか?」

 

「そ、それは……」

 

「だがそうやって、自分の感情だけをぶつけて、力を振るって、一方的に破壊を行う事は、俺は間違っていると思う。

何故なら、そんな光景を、俺は何度も……何度も見てきたんだよ……二年前の大戦で」

 

「…………」

 

「その果てには何もない……ただ虚しく溢れ出る悲しみと、抑えきれない怒りが湧き上がるだけだ……。

そうやって、再び戦火は広がっていく……!」

 

 

 

アスランの言ったことは、事実なのだろう。

何を隠そう、その二年前の大戦に関わっていた人物であり、その最前線に立っていた人物なのだから。

 

 

「圧倒的な力でねじ伏せる……そんな戦いをするために、君はMSのパイロットになったわけじゃないんだろう?」

 

「っ……」

 

「君がオノゴロで、アスハ家に家族を殺されたと思うのは勝手だ。そうじゃないと弁明したところで、君の気持ちが晴れるわけでもない……。

でも、いつまでもその力を、正しく使わなかったら……今まで自分が受けてきた痛みや悲しみを、今度は自分が誰かに与えることになる……!」

 

「「「っ…………」」」

 

「それだけは忘れるなよ……!」

 

 

 

 

その言葉には、重みがあった。

泣く者から、泣かす者に変わる……被害者から加害者に変わる……戦争では正義と悪は立ち位置の問題で変わる。

何が正しくて、何が間違いなのか……それを考えなくなってしまったら……その先にあるのは、破滅だけなのかもしれない。

 

 

 

「俺たちは軍の命令で出撃するんだ。ケンカをしにいくわけじゃない……」

 

「そ、そんな事っ……わかってます!」

 

「……そうか。それなら安心だな」

 

「え?」

 

「たしかに、それを忘れていないのならば、君は優秀なパイロットだ」

 

「ぁ…………」

 

 

 

アスランの思いがけない言葉に、シンは呆然と見ていることしかできなかった。

アスランは踵を返して、艦内に戻ろうと歩いていく。

入り口に差し掛かったところで、再びアスランがこちらを振り向く。

 

 

 

「でなければ、ただのバカだかな、君は」

 

「っ…………って、何なんだよっ、あの人は!」

 

 

 

最後の言葉は余計だろうと、シンは憤慨していたが、アスランはそんなシンを見ることもなく、艦内へと入っていった。

そして、取り残されたシン、イチカ、アリサの三人の中に、アスランの言葉が繰り返し流れる。

自分は、何のために力を欲したのか……。

シンの考え、イチカの考え、アリサの考え……。三者三様の答えが出るであろうが、今はまだ、それを言葉にして語るには、まだまだ時間が必要だった……。

 

 

 

 

 

 

 






なんか最近、バイトは忙しいのですが、小説の小ネタはコロコロと出てくるんですよね。
まぁ、出ても書く暇がないので、日々悶々としているんですが……( ̄∇ ̄)

ガンダムシリーズも、本作以外にちょっと書いてみたいと思って、書きだめしているんですが、投稿するかはまだ未定です。
まぁ、苦し紛れに書いた物なので、あまり期待はしないでください(>_<)


とりあえず、SEEDの更新完了!

感想、よろしくお願いします!!!(^ω^)

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