【改稿版】ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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感想や応援等を参考に再構成したリメイク版第一部になります。
リメイク前より長くなる予定です。
1からのやり直しになりますが、またよろしくお願いします。


プロローグ

 ふと目が醒めるとそこは森林でした。

 

 地面に仰向けになっている私の目に映るのはそびえ立つ巨大な大木と、生い茂った葉、その隙間から見える青い空。

 ……あれ?私は確か自分の部屋のベッドで寝ていたはずじゃ?

 なんだってこんな自然豊かな場所で寝そべってるの?

 

 まだ寝ぼけているのか、意識がハッキリとしないな。

 ひとまず上半身を起こして辺りを見回す。

 

 が、ここが森林であるという確証が深まっただけで、現状の把握には至らず。 

 一つ分かったことと言えば、私の寝ていた場所が、自分が小さくなったのかと錯覚するほどに大きな樹の根っこだったということくらい。

 

 起き上がり、自分の体に異常がないか確認する。

 

 ここで気付いたのは、自分の格好が寝る前と今着ている物とはだいぶ違いがあるということ。

 そもそも肌の色も、こんな病的なほど白くなかったはずだし、ついでに言えば、体が軽いような、重いような、自分の体ではないような不思議な感覚がある。

 

 そこまで考えてようやく意識が覚醒し始め、どうした事だろうと、もう一度辺りを見回し、「誰かいませんか?」と口にしようとして……異変に気づいた。

 

 口が、動かない。

 いやそれどころか表情がピクリとも動かない。

 顔全体が仮面になってしまったような、表情筋が全部鉄になってしまったかのような感覚。

 

 様々な感覚に違和感を覚える。

 

 木々が風に煽られ枝や葉が擦れてザァザァと音を立てており、微かに風が私を撫でる感触がする。

 だというのに、風に乗って流れてくるはずの匂いという匂いを一切感じない。

 木の匂いも、土の匂いも、草の匂いも、一切感じない。

 

 まるでよくできた作り物の世界に迷い込んでしまったかのよう。

 

 おかしい。

 私がおかしいのか、それともここがおかしいのか。

 

 途端に怖くなってきた。

 ひとまずここから離れることにしよう。

 

 

 勢いであの場所から離れ、歩き出したはいいものの、どこに行けばいいのだろう? 

 

 歩けども歩けども、見つかるのは木、良くて木の実、草ばかり。

 鳥や虫の声もするけれど、目の前に現れる気配はなし。

 

 だが歩いていくうちに、遠くから水の流れるような音がすることに気がついた。

 

 水。

 

 口すら動かないけれど、水って飲めるのかな?

 というか、水って必要なの?

 そもそも、喉は渇くの?

 

 いや、それはいいとして、もしそこに川などがあるのであれば、水の流れを辿っていけばそのうち人が住む場所に出るかもしれない。

 

 そうじゃなくてもこの山(と言えるほど高所であるかも分からないが)から降ることくらいはできそうかな。

 

 

 そう考え、私はひとまずその音がする方へと足を進めた。

 

 

 しばらく歩くと、思った通りそこには川があり、水がサラサラと流れていた。

 しかし思った通りではなかったのが、そこが思っていた以上に幻想的で綺麗な場所であったという事である。

 

 見たこともない花や草が生い茂っており、遠くを見れば……あれは……虫……? なのだろうか? チラチラと光の粒子のような物を散らしながら水辺を踊るように飛んでいる虫などが目に入った。

 

 ついしばらくその光景に見入ってしまっていたが、やがてハッと我に返り、ひとまずその川の流れに沿って歩くことに決めた。

 

 その矢先、進行方向に一つ、半径5m程度の、小さな池のような物があることに気づく。川の水がすぐ傍の地面の窪みに染み出してできた水たまりのようなそれ。水面は静かで、まるで鏡のように周囲の様子を映している。

 

 丁度いい、これで自分の姿をハッキリと確認することができる。

 

 私は、自分の格好の確認をするために、その池の前に立ち、上半身をお辞儀するような形に折り、落ちないよう注意しつつ、池を覗き込む。

 

 

 …………そこには、私の好きな小説、オーバーロードに登場する、【シャルティア・ブラッドフォールン】……の親戚みたいな娘が居た。

 

 

 髪は先程から確認はしていたが、毛先が赤い絵の具に付けたように染まっており、それ以外はシャルティアと同じく銀髪である。ただしシャルティアが被っていたようなヘッドドレスは無かった。

 それ以前に、シャルティアが着ていたようなドレスに比べると、なんというか、こう……チープというか、ちゃちい(・・・・)というか……。

 

 顔はというと、シャルティアに似ているが、所々差異がある。

 目は鋭くなかったと思うし、目の色も彼女は赤だったハズだが、私はなんか黄色というかオレンジというか、彼女がルビーだとすれば私はトパーズのような色の目だ。

 

 逆に似ている場所を挙げるならまず背丈、肌の色、そしてこの胸のパッド……ん?……いや、どうやら胸は全然似ていなかったらしい。道理でパッドにしては引っ張られるような妙な感覚だと思った。

 

 というかデカ過ぎじゃない?

 後ろから見ても横乳が胴体からはみ出て見えちゃうくらいデカい。

 

 デカい(確信)

 

 成長したらさぞナイスなボディに……いや、シャルティアと同じくトゥルーヴァンパイアだったとしたら私これ以上成長しないのでは……?

 

 

 ……なんだか虚しい気持ちになった。

 

 

 ちなみにというのもなんだが、本来の私は普通なのが個性ってくらい普通の女子高生で、ロリ巨乳でもなければヴァンパイアでもない(まぁ当たり前だが)はずだ。

 

 

 

 ……思わず好きなキャラに似た物を見てしまったから、その作品の世界に入ったかのような錯覚に陥っていたが、そもそもここがオーバーロードの世界だと決まったわけでもない。

 

 とりあえず、このまま川を降って人がいる場所を目指そう。

 私は池の中で泳いでいるエメラルドグリーンの魚を横目に、歩みを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人がいる場所を目指そう……そう考え歩いてこの方どれほどの時間が経っただろうか。

 そもそもここは人の住む世界なのかと疑うほど、行けども行けども川ばかり。

 ひょっとしてループしているのでは?と思うほど景観に変わりがない。

 

 ……考えが甘かったと言わざるを得ない。

 川を抜けたらそこは海でしたなんてことも有り得るのだから。

 

 

 しかし私には歩く以外に選択肢など無い。

 私は、自然とどうしてこうなっているのか、ここはどこなのか。

 そんな、可能性について考えながら歩き続けた。

 

 

 まず一つ目の可能性。

 

 『実は私の本体である女子高校生の身体が昏睡状態にあり、めちゃくちゃ長い夢を見ている』

 ……うん、正直信じたくもないがこれが一番納得できるという複雑な気分だ。

 もしこれだった場合今頃私は病院のベッドの上だろうか?

 それとも集中治療室?

 ともかく異常事態であることには変わりないだろうなぁ。

 

 

 二つ目。

 『あなたは死んでしまいました、ここは来世の世界です』

 信じたくない……いや、だって、明日も学校だから早く寝なきゃ~と思ってベッドで寝たら死にましたってどういうことなの……?

 んでもってここが来世だというのも信じたくない。

 その場合私は表情と、匂いといった概念が存在しない世界に転生してしまったことになる。

 というか生まれ変わったのなら赤ん坊になって然るべきだろう。

 何故こんな中途半端に……いや一部立派に成長しているけれども。

 

 

 三つ目。

 『あなたのあたまはおかしくなってしまいました』

 自分でも、この状況を人に説明できる自信はない。

 だが仮にこの状況を、千の言葉を用いて説明したとしても、それで返ってくるであろう反応は「なにそれ? 君、頭大丈夫?」がいいとこだろうと思う。

 そもそも口も動かないから、言葉を用いて説明なんて土台無理な話だけれども。

 

 

 四つ目。

 『実はよくできたゲームのような世界にあなたは召喚されてしまった』

 オーバーロードの観過ぎだろうか?でもあの世界も確か表情とかが無かったはずだし、電脳法とかいうので、現実世界と混同しないよう、五感の内味覚と嗅覚は完全に削除されており、そして触覚もある程度制限されている。

 

 ……という設定が有ったはずだ。

 

 

 この状況はそれに酷似している。

 

 

 ……そうなると私はこのユグドラシル(仮)の世界のプレイヤーになったということだろうか?だがだとすると何故声が出ないのだろう?

 

 モモンガさんたちはボイスチャットのような物で会話していたのだろうし、私にだって声ぐらいあっていいのでは。

 

 ゲームだったら、ステータスとかそういうの、どうなっているんだろう?

 自分で見られないのだろうか?

 オーバーロードの……転移後の世界では、自分の中に意識を向けることで使える魔法、MPやHPが手に取るように分かる、みたいなことを言っていたような気がするが……。

 

 自分の中に意識を向けると……胸のあたりで何かがそこに有るのが分かる。

 

 ただしそれは、今にも消えそうな蝋燭の火にも劣る頼りなさで、フッと息を吹きかければ消えてしまいそうなほど脆弱。気のせいの一言で済ませてしまえるような不確かな存在だった。

 

 しかし恐らくはこれがMPなのだろう……魔法とかスキルに至っては、そもそも存在すら感じない。

  

 というか、ひょっとして、私は今レベル1だったりするのだろうか。

 もしくは1ではないにしろかなりの雑魚。

 

 ……うん、有り得るな。

 むしろ最初からレベル100っていう方がどうかしている。

 

 もしここがオーバーロード……あるいは他の、剣とか魔法とかのファンタジーな世界だったとしたら……私は、生き残れるのだろうか。

 

 いや、生き残るしかない。

 生き残って、とりあえず、そう、もし本当にオーバーロードの世界だったとしたら、モモンガさん辺りにコンタクトを……そもそも今アインズ・ウール・ゴウンは存在するのかという問題もあるものの、それも追々知っていけばいい。

 

 まず目先の問題として、これから生き残るにしても、武器がないんだよな……シャルティアだったら雑魚モンスターなら手刀……というか小指の爪で十分なんだろうけど……。

 

 今は考えても仕方ない。

 とりあえず死なないようにとだけ考えて行動するしかない。

 

 

 死なないように、という行動方針ができた私は、先程まで無鉄砲に歩いていたことが急に怖くなって、どこかから魔法で監視されているのでは?どこかから狙われていないだろうか?と不安になり、こんなレベル1の糞雑魚ヴァンパイアを誰が相手にするというのだろうかと気付くまではビクビクとしながら進んでいった。

 

 それから、何度か先程光っていた虫……蛍というよりかは小さな妖精のように見えるそれ……に出会ったり、それ以外にも、緑色のイノシシっぽい何かとか……ゴブリンらしき何かとか……人喰い草的な何かが欠伸をしている現場にも出くわした。

 

 それらを全てスルーして進んでいる。

 

 さっきから全然人に会わないのは何故……いや、ひょっとしてさっきのモンスター、実は中身はプレイヤーだったりするのだろうか……?

 

 そんな、今更考えても仕方のないことを考えつつ足を進めて、「そういや疲れとか全然感じないな?」と思い始めた頃になって、いったいどれだけの距離を歩いていたというのか、それか単純に時間の問題だったのだろうか。

 

 変化に気付いたのは、辺りに風が吹かなくなってからだった。

 

 

 

 

 急に辺りが暗くなり始め、気が付けば、空に浮かんでいる星々と、妖精さんの放つ光だけが辺りを照らしていた。

 

 

 けれどそれも次第に消えていき……。

 

 

 とうとう、私は何の準備もしていないまま、異世界転移よろしく美少女が悪い奴に襲われている所に通りすがることもなく、とっぷりとした暗闇を持つ夜を迎えてしまいた。

 

 

 夜になると、今まで「森でハイキング気分!たーのしー!」という、とても強引な方法で保っていた自我が段々と薄れ、漠然とした恐怖が私の心を支配し始めたのを感じる。

 

 

 

 このまま帰れなかったらどうしよう。

 

 このままここで野垂れ死んだらどうしよう。

 

 このまま歩いていて、誰かに襲われたらどうしよう。

 

 この先もずっと暗闇だったらどうしよう。

 

 

 

 このまま、ずっと独りぼっちだったら、どうしよう。

 

 

 じわり、じわりと漠然とした不安感、焦燥感が心を支配していく。

 

 あるいは見ないようにしていただけ。

 

 

 先程まで見えていた淡い光も既に遠くへ。

 辺りは真っ暗闇で、非常に静かでした。

 

 本当に真っ暗で、足元もよく見えないけれど、それでも、歩くことは止めない。

 

 止まれない。

 

 止まったら、暗い考えの坩堝にハマってしまいそうだったから。

 

 

 

 けれど、その歩いていた先の地面に異変が起こる。

 

 ただ単純に、一寸先も見えない闇の中で、川の音だけを頼りに歩き回っていたから、ソレの存在に気付かなかっただけ。

 

 ザブッという、思い切り深い水溜りに足を滑らせた音が鳴り、私の片足の足首の上辺りまで一気に冷たくなる。

 

 冷たくなっただけではないようだ。

 

 バランスを崩して全身ずぶ濡れになりそうになりつつなんとか体勢を整え、大慌てでその水から引き抜くと、足からジュウジュウという音と、不快感。

 

 履いていた初期装備の靴がドロドロに溶けてしまっていた。

 

 酸なのか毒なのか分からないが、この水たまりにはそういうバッドステータスが付加されているらしい。

 

 ……さしずめRPGでよくある、上を歩くとダメージを受ける毒の沼と言ったところだろう。

 

 痛みこそないけれど、恐らくは惨状になっているであろう足の全貌を見ることがなくて良かったという点でだけは、暗闇で良かったと思いました。

 

 しかし、とうとう困り果てた。

 

 

 ここから先は、ずっと毒の沼なのだろうか?

 

 それを確かめる手段は私にはない。

 

 強引に進んだりしたら、骨も残らなかった、なんてことになりかねない。

 

 あの妖精が飛び交う綺麗な川はとんだ死地に続いていたようで。

 あるいは最初から三途の川を見ていたのだろうか。

 

 

 突然のことで一気に恐怖が煽られ、戻るにしたって結構な距離があることを思うと億劫で、ついに歩く気力すら失い、暗闇の中、一人、膝を抱えました。

 

 

 どうしてこんなことになったの。

 

 助けて……。

 

 だれか助けてよ……。

 

 お願いだから誰か私を救ってよ、見つけてよ。

 

 

 お母さん、お父さん。

 今頃どうしているのかな……。

 

 

 心の中では、とっくに涙でいっぱいなのに、この顔じゃあ涙一つ流すことができないのだなぁ、と途方に暮れていました。

 

 

 そう、丁度、そんな時だった。

 

 

「あの……大丈夫、ですか?」

 

 

 私が”あの人”と出会ったのは。




リメイク前よりユグドラシル時代に触れてみようかと思っています。
改変過多になったら申し訳ない……。

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