【改稿版】ユグドラシルのNPCに転生しました。 作:政田正彦
ここで改めて漆黒の剣について触れようと思う。
漆黒の剣とは4人組の冒険者チームであり、リ・エスティーゼ王国の城壁都市エ・ランテルを拠点としている。その階級は銀級。
リーダーであるペテル・モークは戦士。
この国では特に珍しくもない金髪碧眼の好青年で、それ以外に特徴らしい特徴はないが顔立ちはそれなりに整っており、爽やかな印象を持つ。チームのまとめ役である。
次いで、レンジャーのルクルット・ボルブ。
金髪で茶色の瞳の若者で、細身で手足が長い印象を持つ。
皮鎧を纏い、合成長弓(コンポジット・ロングボウ)とショートソードを装備している。
その次に、
口の周りにボサボサとヒゲを生やした、がっしりとした体格の、野蛮人のようにも見える青年。
チームの中では回復役や植物の力を借りる魔法でのサポートを担い、本人はメイスで攻撃をする。
ヒゲのせいで老けて見られがちだが、まだ20代である。らしい。
そして、
濃い茶色の髪と青い瞳を持ち、チームでは最年少で一番背も体格も幼く、それでいて肌は白く、顔立ちもチームでは一番美形で中性的な美しさがあり、声もやや甲高い為、中性的な印象を受ける。
そして、彼ら曰く、ニニャにはこの世界特有の武技に次ぐ生まれつきの異能、「タレント」と呼ばれる才能、「魔法適性」というタレントを持っており、本来であれば8年かかる魔法の習得を4年で済むという、ある種驚異的とも言える才能の持ち主でもある。
「タレント、ですか……」
「とはいえ、この街には私よりももっと有名なタレントを持った方が居ますから」
「というと?」
「成る程、彼の事を知らないということは、モモンさんは出身はここではないようですね」
「この街には、ンフィーレア・バレアレという、”全てのマジックアイテムが使用可能”というタレントを持った方がいらっしゃるんですよ」
「ほう、それはすごい」
感嘆の声を上げるが、内心では警戒心を強める。
全てのマジックアイテムが使用可能、それはつまり、本来そのマジックアイテムを使用する為に必要な技能やステータス、レベルの全てを無視して、そのマジックアイテムの使用が可能であるという事。
かなり上位の、制限が多く、扱いづらい、それこそ神器級のマジックアイテムでも同様であるというのならば、これ程の驚異はない。
ナーベも同じことを考えているのだろう。
無言で縦に首を振り、連絡するべき特記事項として頭の中に「ンフィーレア・バレアレ」という名を叩き込んでおく。
そうして漆黒の剣の各々の自己紹介が済んだところで、「では今度はそちらの紹介をお願いします」という空気になる。
「では今度はこちらの自己紹介をしておきましょう。私の名はモモン。私の場合は見てわかるかと思いますが、双大剣を扱う戦士です。こっちは……」
「ナーベです。魔法詠唱者を修めていて、第三位階までの魔法を使うことが出来ます」
第三位階、と聞いて漆黒の剣の面々から、おお、と小さな歓声が沸き起こる。
ナザリックの面々からすれば児戯にも等しい程度のことであり、ナーベ自身、実際は第三位階どころか、第八位階まで使役が可能であるが、それはこの世界では人外の英雄でしか踏み入ることができない領域を指していた。
下手に目立つ事を避けるための虚偽。
だが、第三位階でも、ナーベの若さであるならば、この世界ではとてつもない才能を有する魔法詠唱者である事を指す。
ナーベ自身としては「第三位階程度で騒ぎやがって」程度にしか思っていないが。
「その若さで第三位階まで使えるなんて……凄い才能の持ち主ですね!」
「(第三位階程度)それほどでもありません」
「……さて、共に仕事をするのですから、顔位は見せて置きましょう」
冒険者ギルドのとある一室にて、モモンはそう言いながら自らのヘルムを取り外した。仕事の話はまとまったので、お互いの信頼関係の為に顔位は見せる必要があると判断した為である。
まぁ尤も、彼らに本来の顔、つまりはオーバーロードとしての骸骨の顔を見せるつもりがあるわけではない。無論その顔が見えないようには細工をしてある。
「……おお、なんと言ったらいいか……」
「……なんだよ、どんな面が出てくるかと思ったら、むしろかなりの
ただし、モモンガの幻影魔法で誤魔化す、という方法では無かった。
ヘルムの下にあったのは、黒髪短髪の黒目の異邦人らしい顔でありながら、彼から見ると異国の者である漆黒の剣から見ても明らかに整った顔立ちと言えるだろう、かなりの美青年だった。
本来は適当に自分のリアルの顔を幻影魔法で再現して誤魔化すつもりだったモモンの顔が、どうしてエキゾチックな美青年になっているのか。
その理由を語るには、モモンが冒険者として活動を始める約三日前まで遡る。
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「モモンガさん、偽装はどうするつもりなの?」
「え?」
それは、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ、モモンガの三人で定期的に行っている報告会とは名ばかりの愚痴の言い合いやあの子がカワイイとかあいつがヤバいといった雑談をする機会で、モモンガが冒険者として外部で名声を高めながら情報収集をすると言った際の、ぶくぶく茶釜からの一言であった。
「いや、え?じゃなくってさ、その骸骨の顔はどう隠すつもりなの?」
「フルフェイスのヘルムでも被れば十分じゃないですか?いざとなったら魔法で偽装すれば……」
「……でもご飯とかはダダ漏れですよね?」
「……そこはこう、うまいこと誤魔化せば……」
そう言いながら、何か問題でもあるのかとペロロンチーノにも視線を向けるが、「いや、別にそれで良くない?俺に至ってはぶっちゃけ姿を現すつもりすらないから何もしないよ」とペロロンチーノも何が問題なのか分かっていないようだった。
しいて問題点を挙げるなら、今しがた言った通り、食事時になって困ることになるという事くらいだろう。
何故かスケルトンなのに喋れたり歩けたりするモモンガだが、彼に肉体、骨以外の物は存在しない。無論内臓、食道に該当する物等も存在しない。そんな彼が食事をとろうとしたらどうなるか。
無論、ダダ漏れのびちゃびちゃである。
そして、これは幻影による隠蔽ではどうにもできない問題でもあった。
「フッフッフ、そこはね、このアイテムがあれば全部解決するんだよ、お兄ちゃん!」
「お兄ちゃんて言うのやめて!?」
「モモンガさんはワイの兄貴だった……?」
モモンガにとって食事とはすなわち栄養補給の為のルーチンワークの一つでしか無かった為あまり意識していなかったが、ぶくぶく茶釜曰く、本来、仲間内で同じ鍋をつつきあうような食事は、仲間との間で信頼関係を結び、またそれを高める事にも繋がる重要な事である。
そうでもない、と思うかもしれないが、実際問題「じゃあ皆でご飯食べるぞ〜」という時になって一人だけ「あ、俺はいいや」とその場に居ない者へどんな感情を抱くか。想像に難くない。
「で、結局そのアイテムってなんなんです?」
「ふふふ、これは私が仕事仲間とユグドラシルで遊ぶ時に使ってたアイテムなんですけどね……?」
「あーそういや姉ちゃん仕事仲間に人間種の友達居たっけな。なんだっけ、姫騎士とかエルフとか……」
「おっとそれ以上はいけない」
実際、彼女の仕事(エロゲ声優)仲間にもユグドラシルをプレイしているプレイヤーが居たのだが、まさかぶくぶく茶釜が異形種のスライムでプレイしているとは露知らず、人間種でアカウントを作ってしまったが為に、会うのにそういった処置が必要だった頃が有ったのだ。
……というのは表向きの理由で、実際はスライムの姿でも良かったのだが、唯一彼女らと街等で行動する際にのみそのアイテムを使った、他は当たり前のようにスライムの姿で共にプレイしていたが、情報が命より価値のあるユグドラシルで、今から考えるとかなり大胆な事をしていたなと思う。
まぁ、その子はガチ勢になる前にゲームを辞めてしまったが。
それはそれとして。
「テケテテン!【裏切りのロケットペンダント】〜〜〜(ダミ声)」
「ふむ……?」
モモンガでも知らない名前のアイテムだった。
ひょっとすると、かなりのレアなアイテムか、あるいは名前も語られない程のゴミアイテムだったか。
これはねモモンガ君とぶくぶく茶釜は自身の覚えている限りのそのアイテムの効果を説明する。
「効果なんですけど……まぁ、ぶっちゃけゴミアイテムなんですが、【
「……
ぶくぶく茶釜から手渡されたそれを手に取り、試しに鑑定でどんな物かを見てみたが……その人化の魔法を使えるようになる代わりに能力値も人間仕様に、なんと脅威の15%ダウン。
正直言って、もしユグドラシル時代自分がこれを手に入れていたら、コレクター欲も沸かない程に要らない物と言わざるを得ない、まごう事なきゴミアイテムであった。
そう言わしめる程に、
そもそもこの魔法自体、ドッペルゲンガーが持つ変身能力……その下位互換の更に下位互換、ドッペルゲンガーがレベル3で覚えられるような、ただし他の種族の者であるとあまり使う方法が思いつかない程度の物。
尚、看破系のスキルをもっていたりすると一瞬で正体もバレてしまう為、ガチで救いようが無い魔法であった。
「せめて減少値がこの半分だったならまだしも、これはちょっと……」
「でも、これなら確か種族ごと変化した筈だから、食事や睡眠も取れるんじゃないかな?」
「とはいえ……う~~~ん……」
正直食事に関して言えばかなり魅力的である。睡眠も取れるかもしれない。もしかするとソッチの方も復活するやもしれなかった。最後に限って寒気がしたのでモモンガは考えを中断したが。
「アレだね、使う時だけ装備すればいいんじゃないかな?」
「う~ん……そう、そうですね……それなら確かに使えるかもしれませんね」
「じゃあ、試しに今ここで使ってみて貰える?確かそれ、一回使うと課金アイテム使わないと変化後の外見変えられなかった筈だから」
「分かりました」
……こうした経緯でモモンは厳密には人化では無いが、概ね人の身体を手に入れる事を可能としたのだった。
「(なんでガチャでは引きが悪いのにこういうとこで妙に運がいいのやら)」
しかもこの外見はモモンガが一発で引き当てたものであった。
本来は数十種類の、それこそ老若男女を問わずとりあえず人間になるというような魔法で、課金で魔法使用後の姿を変えられるようになるというゴミ仕様だったが、課金アイテムを使いもせず、自他ともに認める”まとも”な外見を引き当てられたのだから、この男の運はどこか間違っているのかもしれない。
この運を何故あの時のあのガチャで発揮出来なかったのか。
「てっきり戦傷でもあるのかと思ったぜ俺は。なあ?」
「う~む、男の目線から見ても、フルフェイスのヘルムを被るのは勿体ない気もするであるな」
「いや、その……異郷の者だと知られると色々とトラブルに巻き込まれやすいですからね、ハハハ」
「そういう事情なら、仕方ありませんね」
顔見せも終わった事で、モモンもヘルムを被り直す。
……そして、赤いマントの下に隠して付けていたロケットペンダントをこっそりとバレないようにアイテムボックスへと入れる事で外した。
魔法を使用していなくてもステータスは下がるというのだから、外さない理由が無かった。
「(食事の時もこれを付けないといけないのか……いや、まあいいけどさ)」
「ところでお二人は付き合っていらっしゃるんですかっ!?」
「はぁ……」
「ルクルット、お前……」
「さぁ仕事の話はこれくらいにして」とでも言いたげに、機会を待っていたかのよう、いや、実際待っていたのだろう、漆黒の剣のメンバーの一人、ルクルット・ボルブが勢いよく立ち上がり、そんな事をのたまり、他のメンバーは「またかコイツ」とため息を吐いた。
「いいえ」
「惚れました!一目惚れです!付き合ってください!」
最早ここまで来ると天晴と言わざるを得ない程堂々としたナンパ野郎であった。
ルクルットも初対面の相手に本気の本気で告白している訳ではない。仮に断られたとてそれはそれで燃えるしよしんば受けて貰えたなら儲けもの、程度にしか考えていないだろう、それ以上に、彼にとって美しい女性=ナンパ対象なのである。
もっと言うならナーベラル、冒険者の姿であるナーベは、本来のメイドとしての姿ではなく、”ごく普通の冒険者”としての格好であってもその美貌は陰る事を知らなかった。
いわば絶世の美女。これにニコリと微笑みでもかけられてときめかない男が居るだろうか。いや、居ない。ルクルットはそう断言できる。
「告白ですか……お気持ちは嬉しいですが今は冒険者として駆け出しで色恋事に耽っている暇は無いので誰ともお付き合いをするつもりはありません」
ここまでノンブレスである。
言葉だけ聞けば相手の事を思いやる気持ちに溢れており、気持ちは嬉しいと言っておくことで男性側へのダメージの軽減、そして具体的に何故付き合えないのかを説明するというフォロー付き。まさに異性からの告白の断り方としてはお手本のような断り方だろう。
……「いちいち断るのもめんどくせえ」と言わんばかりの靴の裏にこびりついた虫の死骸でも見るかの如き冷たい目と取り付く島も無いと悟らざるを得ない程の早口の断り文句でなかったならば、だが。
尚、ほぼ人間対応マニュアルの完コピである。
ナーベ、脅威の記憶力であった。
「ンンン~~~真面目な所も素敵だ~~~!!では、お友達からお願いします!」
「お互い初対面で良く知りもしませんし貴方とは同業の者としてやっていきたいです」
ナーベ、ルクルットへの心のシャッターが降り切った瞬間である。
何気に仲間とも友人とも認めず同業の者でしかないと断じている辺り嫌悪感がかなり明け透けに見えているが彼女本人としてはこれでもまだまだ抑えに抑えまくっているつもりであるし、実際本来の歴史の彼女であったなら彼はスプーンで目玉をくり抜いてやろうかとすら言われている。
「っか~~~!冷たくあしらわれてしまいましたがこれはこれでぐぁっ!!」
「ハハハ……ウチの馬鹿がすみません」
「あぁ……いえいえそんな、とんでもない」
これには流石のモモンも苦笑いであった。
ナーベに至ってはこめかみに青筋を立てていたが、角度的にモモンにしか見えない位置であった為助かった。ただし本人のストレスはかなり溜まっているようである。
「(……これは、多分ナーベにとって物凄く頑張ったって事だよな……うーん、出来ればもう少し感情を露わにしないようにしてほしいけど……でもまあ、そうまで焦る事も無い、か。うん、後で褒めておこう)」
「モモンさん?指名の依頼が入っています」
さて、それじゃあお互いの準備が済んだら出発しましょう。そう話しながら冒険者ギルドを後にしようとしていた所、受け付けの娘からそう声がかかる。
モモンとナーベは先日この街へ来たばかりで、自分達の事を、そしてその実力の高さを知る者は本人達しか存在しないハズ。
にも関わらず指名というのはどういう事だろうかとナーベの警戒心が強まる。
「ンフィーレア・バレアレという方です」
某天然水「なんですかそれ口説いてるんですかごめんなさい狙いすぎだし気持ち悪くて無理です」
ナーベ「冒険者として駆け出しで色恋事に耽っている暇は無いので誰ともお付き合いをするつもりはありません」