【改稿版】ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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ほんの一瞬だけ日間ランキングに載ってた事、お気に入りが4000人を超えた事
大変嬉しく思います、これからもよろしくお願いします。

これらの事が嬉しくて、作者は久々にビールを解禁しました。

本編とは全く関係ないどうでもいい話ですが、作者の家系は血筋をどう辿っても酒に強く、
そして酷い酔い方をする血筋だそうです。実際母も兄も父も祖父も強いし酷い。

今の所、作者(21)は自分の血に抗えています。
というか、ビールとかだと酔えないままお腹いっぱいになってしまう。

今回は本来シャルティアが暴走してしまう回ですが、シャルティアとエレティカは血に抗えるのでしょうか?(申し訳程度の前書き要素)


夜襲、二人のブラッドフォールン

 

 

 「……クレマンティーヌ」

 

 「は、はいっ!」

 

 「どこでその名前を……いや、プレイヤーというものを、一体どこで聞いた?」

 

 

 ペロロンチーノは目の前の爆弾を落とした女の発言に、内心凄まじい焦りを見せていた。

 

 可能性として考えていなかったわけではない。自分達だけが選ばれたと考えていた訳でも無い。ただ少し、そう、ただ少しだけ、その名をこの世界で聞くにはタイミングが早すぎた。

 

 対するクレマンティーヌも、目の前の、さっきまでは柔和で軽そうな雰囲気を醸し出していた、鳥と人間が合わさったような異形種の男の纏う雰囲気がガラッと変わった事、そして、そんな彼に侍る女や彼を守る存在であろう老人の執事の「こいつらには勝てない」と本能が最大音量の警告音を鳴らしている事実に、内心焦り等と言う言葉では説明できないような感情が渦巻いていた。

 

 ただ、あの絶望的で混沌とした強さとかそういう次元の話では説明のつかない力を前にして、もしかして、と思って聞いてみただけなのに。

 

 少しでも発言を間違えたなら()られる。

 

 クレマンティーヌは、そんな状況で、驚くほど冷静に、そして淡々と自分の知っているプレイヤーの情報を目の前の怪物に話した。

 

 

 

 かつてこの世界に存在し、魔神達を従えてこの世に降臨した六大神、八欲王、それらの神話の人物達は、人間種であったり異形種であったり様々な形でこの世に現界したのだが、彼らは自分達を「ぷれいやー」と総称していたという。

 

 ぷれいやーは百年に一度の周期でこの世界に現れ、六大神のように人間達を救ってくださる場合もあれば、八欲王のように、絶大な力は持つもののとても欲深く、最期には自身達の力で滅んでしまった者も居る。

 

 百年の周期で現れる筈が、ここ数百年は姿も見せておらず、法国、クレマンティーヌの捨てた祖国はとある事情からぷれいやーを血眼で探し回っており、そして救いを待っている……。

 

 ……というのが、クレマンティーヌの知るぷれいやーの全容。

 

 具体的にどんな力を持っていたか、何を成したのかという情報は残念ながら頭に無い。

 

 

 「そうか……やっぱりこの世界に来ていた奴が他にも居たんだな……でも、100年も……いや、クレマンティーヌ達の知る限りではそれ以上の周期が空いているのか」

 

 それって、暗に不老不死の存在以外の、よほど特別な人間じゃない限りは、今生きているであろうプレイヤーは異形種に絞られると考えていいのだろうか……いや、うちにも一応不死の人間は居るし、そもそも、プレイヤーなら人間なんていつでも辞められるだろうし、今もなお人間であるかどうかも分からない。

 

 結局、他のプレイヤーがいるかどうか、という事については分からず仕舞いであるようだ。

 

 だが、かの法国という国ではプレイヤー=神として考えている、と。

 

 

 確かに、ユグドラシルのプレイヤーであれば、何の力も無かった人間種を救えるだけの力があるだろう。それも、今でさえ技術の進歩がこの程度である。600年前とか一体どれほどの力が人間にあったというのか。

 

 「詳しく聞く必要がありそうだな……アイツの呪いってのはまだ解けてないんだっけ?」

 

 「アイツ、と申しますと……あぁ、あの者の呪いなら、スクロールさえ確保してしまえば解呪は可能との事ですが、未だにそのスクロールの素材の確保に手間取っておりまして……」

 

 「あー、そっか」

 

 

 スクロール、かいつまんで言えば魔法を使える、巻物の形をしたマジックアイテムなのだが、これを作る為に必要な材料はこの世界ではまだ確認できておらず、在庫を使ってしまうのも憚られていた。

 

 それさえなんとかなってしまえば解呪の魔法であの忌々しい、三回質問に答えると死んでしまう呪いは解呪できるのだが。

 

 尚、そんなものを使わなくても、今の彼なら一言()()すればペラペラと勝手に喋り出してくれるだろうが、今や立派な食糧兼、苗床兼、玩具兼、捕虜である彼にはそうする自由すら無いし、ペロロンチーノがその事実に気付くのはもっと先の話だ。

 

 

 「ええと、ああそうだ、俺達がプレイヤーかどうかって話だけど、プレイヤーはこの中では俺だけ。で、あと二人、オーバーロードとスライムのプレイヤーが居る」

 

 「ま、まじ、あぁいや、本当ですか?」

 

 「本当だよ。ちなみに……そっちの執事はセバス、で、そっちのお嬢様は実はうちのメイドで、名前はソリュシャン、でこっちが俺の娘のシャルティアとエレティカだ。君達の言う、魔神……て事になるのかな?すまん、まだちょっと良く分からなくて」

 

 

 クレマンティーヌはようやく合点がいったという様にストンとその事実を受け入れた。まぁ、目の前であれだけのでたらめな力を見せつけられたらそうだとしか考えられないのだが。

 

 

 「それは……本当か」

 

 「!、カジッちゃん」

 

 

 縛られていた内の一人、カジット・デイル・バダンテールがおもむろに口を開く。

 クレマンティーヌは「お前生きてたのか」とでも言いたげな表情で彼を見るが、当の本人はそれどころではない。

 

 「勝手に口を開かないでくんなまし。下等な人間風情が」

 

 ただでさえ人間が同じ馬車の車内に乗っているのが気に食わないシャルティアが殺気を飛ばし、やや怯んだ様に見えるカジットだったが、朦朧とした頭で話は聞いていたようで、発言する許可を求め、その上で再度口を開く。

 

 

 「もし、貴方様が人間を、魔神も超える神に等しい存在だというのなら……どうか、ワシの願いを聞いてはくれないか」

 

 「願い?」

 

 「願いだと……!?人間風情がっ、おこがましいにも程がある!」

 

 「……ッ!何卒!何卒お願い申し上げますッ!代価なら、なんでも!ワシの持つ全てを!貴方様に捧げます!だからどうかっ、どうかぁ~~~っ!!」

 

 「ちょちょ、ちょっと待てっつーの!ちょっと落ち着け!シャルティアも、アンタも!話を聞いてみないと分かんないって」

 

 

 この、馬車にしてはかなり広いにしてもそれでもお世辞にも広いとは言えないこの馬車の車内で、床にへばりつくように土下座をかますカジットと、一方そのカジットの脳天目掛けて手刀を振りぬこうとしているシャルティア、それを止めるセバスとエレティカ、そしてペロロンチーノ。限界まで影を薄くしてとばっちりを受けないようにしているクレマンティーヌ。

 

 数分そのカオスな状況が続いただろうか、ようやく落ち着いてカジットに話を聞いてみれば、それはまあ、なんとも単純明快で良くある話であった。

 

 「死んだ母親を生き返らせてほしい、ねえ……生き返らせる代わりに、一生俺達に従属する事を誓う、と」

 

 「そうです、それこそが我が望み」

 

 

 マザコンかよ、このおっさん……。

 聞けば母親の死から30年以上経過し、その上5年程の準備期間を要し、死の螺旋という儀式を行い自分がエルダーリッチとなる計画も全ては母の為。エルダーリッチとなり、現存する、レベルの低い者はペナルティで灰になってしまう蘇生魔法では無い、全く新しい蘇生手段を不老不死の身体で研究する為にやっていたとの事。

 

 やけに不死に対しての執念尋常じゃないなと思ったらまさかの狂気のマザコンだった事を知ったクレマンティーヌはそんな事を目的にしてたのかとかなりドン引きである。

 

 ……まぁ、そこまで死の螺旋に拘ったり、本物の狂人となってしまった一因は彼の持っていた死の宝珠にもあるのだが、知る由も無い。

 

 

 「……まぁ、実際、俺ならお前の母親とやら、簡単に生き返す事は可能だ」

 

 「ほ、本当でございますか!?」

 

 「出来ちゃうのかよ……やば……」

 

 「ただし、だ……ぶっちゃけ俺の一存で決める訳には行かない。お前らをこうしてナザリックに送らずに生かして拷問もしていない事、それ自体が奇跡みたいなもんなんだからな」

 

 そう言われて、クレマンティーヌは先程愚かにもこの神の乗る馬車を襲った盗賊達が、恐らくは転移系であろう、真っ黒な渦のような門にポイポイと投げ捨てられて行く様を思い出す。

 

 恐らくあの先にあるのだろう。ナザリックと呼ばれる神の拠点が。そしてあるのだろう、盗賊達を拷問する施設や、人を食う化け物達の巣窟のようなものが。

 

 自分自身もそうなっていたかもしれない。

 

 まだ何も事件を起こしていないのに、目を付けられたというだけでその有様では流石に笑えない。

 

 「だから……まぁ、あれだな、今後の働きが良かったら俺から二人に話を通してやるくらいの事はしてあげるよ。それでいいな?」

 

 「は、はい!もちろんでございます!」

 

 「あ、あの……その事で、大変申し上げにくいのですが、私、王国出身じゃないし、道案内とか出来ないんですが」

 

 あまりの恐怖にクレマンティーヌは自分からそう自白し始めた。

 じゃあ案内してと言われた時に言うよりかはいい筈だと判断した為である。

 

 「あぁ、それに関しては期待していません。私達が知りたい道案内というのは何も王都の観光の道案内ではなく……そうですね、例えば……今私達は殺しても良くて食べても苛めても良いような人間を探しているんですが、心当たりはありませんか?」

 

 「(それ私の事じゃねーよな?)……ええと、居なくなっても問題無いというのがあたしらみたいな犯罪者とかロクでなしの事を差しているんだとしたら、王都には一杯居ると思いますよ、例えば、八本指とか、六腕とかいう犯罪者組織があったと聞いたことがあります」

 

 「そう、それです。そういう情報を求めているのです。これからもそういった情報を持ってきてくれたり……」

 

 そう言いながらエレティカはチラ、とペロロンチーノを見る。

 何となく、言いたい事は理解していたペロロンチーノはエレティカに続ける形でこう続けた。

 

 「そうやって役に立ってくれるなら……まぁ、無事は保証するように俺から言ってみるよ、あ、カジットもな」

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 

 こうしてクレマンティーヌとカジットは利用された後安らかに死を迎えるというルートの回避に成功した。とはいえ今後の働き次第というところではあるが。

 

 クレマンティーヌは、この中でも比較的に積極的に人を殺そうとしたりせず、自分達に道案内を任せてくれたエレティカと呼ばれていたヴァンパイアらしい少女には、足を向けて寝れないどころか毎朝毎晩祈りを捧げたい程だ。

 

 恐らく、彼女が居なければあのシャルティアという明確に人間を嫌っているヴァンパイアに八つ裂きにされていたか、拷問され生き地獄を見る羽目になっていたのだから。

 

 比較的温厚そうなこのプレイヤーのバードマンにしたって同じ事、おそらくエレティカが居なければ私達を案内人に、等とは考えていなかったようだった。

 

 「ん?どうかしたかしら?」

 

 「い、いえ、なんでも」

 

 「煩わしい……何も用が無いのにじろじろと不快でありんす」

 

 「シャルティア、そう言わないであげなさい」

 

 クレマンティーヌにはむしろ鳥人野郎よりエレティカこそ救いの女神なのではないかと思い始めていた。実際、あながち間違いでも無い。彼女は本来一度死ぬハズだった彼女を、理由はどうあれ救った事に変わりはないのだから。

 

 

 

 

 「では、私達は一足先に王都へ行っております」

 

 「私達も盗賊を片付けたら向かいます」

 

 こうして、一通りの話が済んだ後、セバスとソリュシャンの二人と、クレマンティーヌとカジットは一足先に王都へ向かい、ペロロンチーノとブラッドフォールン姉妹は盗賊の居る洞窟へと向かった。

 

 

 「で、さっきの人間から聞きだした武技の使える……ええと、ブレインとかいう人間でしたかえ?それを探せばいいのでありんすね」 

 

 「そうよシャルティア、ちゃんと、殺さずに捕えなきゃダメよ。出来る?」

 

 「ご冗談を、この私が人間に後れを取るとでも?」

 

 「(実際、後れを取るという程では無いにしろ、貴女は本来ここでブレインという男を逃してしまうハズ、なんだけどね)」

 

 「(姉妹同士の絡み……キマシタワー)」

 

 

 因みにだが、作戦何てものはほぼ無いに等しい。

 シャルティアとエレティカの二人を盗賊のねぐらに突っ込み、ブレインという男を確保、他の者達は全員殺してもいいし、ナザリック送りにしても良い。それ以外はその都度対応。基本スタンスはこんな感じだ。

 

 ……約一名、エレティカを除いて。

 

 

 エレティカは、本来であればこの作戦とも言えない作戦が失敗に終わる事を知っている。

 

 本来であるならば、シャルティアが血の狂乱の効果による高揚と狂化によって冷静さを欠いた結果、ブレインは逃すわ、向かった先にたまたま居合わせた漆黒聖典のワールドアイテムによって支配されかけるわ、その結果モモンガと戦う事になるわと散々な結果となるのだ。

 

 「(……まぁ、私と御主人様が居るんだから、そうはならないけどね……)」

 

 

 

 

 

 

 

 「ぎゃあああ!!」

 

 「化け物ォ!!」

 

 

 「こんなものでありんすか?……はぁ、退屈でありんすねえ、ブレインとかいうのはまだ出てこないのかしら?ねぇ姉上?」

 

 「そうねぇ……それよりシャルティア?血の狂乱は大丈夫?」

 

 「平気でありんす。姉上と()()()にしてありんすし、むしろ少し血が足りないくらいでありんすえ」

 

 

 エレティカがまず先に行ったのは、シャルティアの本来の失敗した原因である『血の狂乱』対策である。

 

 敵の流した血を使って様々なスキルを扱ったりする、ヴァンパイアやブラッドドリンカーといった職業のスキルによって、彼女の頭上には、今まで敵が流した血が蓄積された赤い球が浮かんでおり、それと全く同じものがエレティカにも浮かんでいる。

 

 それこそが対策その1、シャルティアと血を半分にする事で、狂乱に陥る可能性を減らすという事。

 

 半分になった事で物足りないのでは、と思いきや、むしろ「姉上と半分こでありんす~」とまるでお菓子でも分け合う少女のように喜んでいる。

 

 周囲が血みどろの洞窟内で無ければ思わずきゅんと来てしまうかもしれない、屈託のない笑顔だ。

 

 ちなみに、ペロロンチーノはその後方で、もしもの時に備えて透明化しながらいつでも矢を放てるようにスタンバイし……そして姉妹がいちゃいちゃしている様に悶えるべきか、あるいはこの惨状に少しは困惑すべきかと頭を悩ませ……いや、仕事をしろお前は。

 

 

 そうして数分が経っただろうか。

 

 不意に何者かの斬撃が姉妹の片方、シャルティアの方に襲い掛かり、そして難なく躱され、その斬撃は空を切る。

 

 

 「ヒュウ、やるな、不意を打ったつもりだったんだが」

 

 「……おや?一人でありんすかえ?お友達の皆さんをお呼びなされても構いんせんよ?」

 

 「いらねーよ。あんな奴らが何人居ても邪魔なだけだ」

 

 「勇敢でありんすねえ」

 

 

 ニヤリとどちらともなく不敵な笑みを浮かべる両者。奇しくもどちらも自分の実力に一遍の疑いも持たず、そして慢心している者同士であるという事に気付き、改めて思うと皮肉な話であるとエレティカは心の中で笑う。

 

 

 「ところで、貴方もしかしてブレインって名前じゃないかしら?」

 

 「ん?なんだ、俺を知っているのか」

 

 「そうよ、だって私達、貴方に会いに来たんだもの」

 

 「そりゃ光栄な事だね。わざわざこんな所まで会いに来てくれるとは。で?目的はなんだ?」

 

 

 はん、と笑いながらも決してこちらから目線を逸らそうとはせず、瞬き一つしていない。油断はしているようだがそれでも戦士という事だろう。エレティカはニコリと屈託ない……およそこの戦いの場では不相応な笑顔で、ブレインに手を差し向けながらこう言った。

 

 

 「私達の僕になりなさい」

 

 「……はっ、ハハハハ、ハーハッハッハッハッハ!!そりゃ一体なんの冗談だ?クク、いや傑作だ、何を言い出すかと思えば、ククク……」

 

 「あらあら、冗談を言ったつもりは無いけれど」

 

 「…………正気かお前、俺をおちょくってんのか?」

 

 「まさか」

 

 

 ピリッ、とした空気が辺り一面に充満する。それを横で見ていたシャルティアは、本当であれば自分が殺そうと思って居た相手だったが、ほんの一瞬かもしれないが、それでも姉が戦う姿が見れるかもしれないと思い、実はこの数秒前にそそくさと後ろで待機済みであり、丁度その横にペロロンチーノも居た。見えてはいないが。

 

 

 「……ハッ、いいだろう、僕にでも何でもなってやるよ……俺に、勝てたらな!」

 

 「……フフ、それでは、行きますよ?」

 

 

 ブレインが構えると同時に、エレティカがゆっくりとブレインに歩み寄る。

 そうする必要はないが、あまりに早く決着をつけてしまうと、ブレインの武技が見れない可能性があった。

 

 別に、バトルジャンキーという訳ではないが、一応、一つの可能性として、一つの技術として、武技というスキルを実際に見て、体験してみたいという思いからの行動であった。

 

 対するブレインも一切の手加減をするつもりは無く、本来、ガゼフとの来る再戦の時の為の技であるそれを惜しみなく使おうとしていた。

 

 絶対必中の【領域】と神速の一刀【神閃】を併用し、対象の急所”頸部”を一刀両断するという、いわば必殺技と呼べる武技、秘剣虎落笛。

 

 

 そして、領域の中に今、エレティカが完全に踏み込んだ。

 

 

 

 瞬間、おそらくはこの世界の中でも有数の刀の腕でもって放たれた音速を越える一閃はエレティカの喉元へと放たれ……そして、難なく止められた。それも、指で。

 まさか、そんな筈は無い、とブレインは目を疑った、だが、自分の鍛え上げた刀は、ビクとも動かない。

 

 

 「貴方、勘違いしているわ。勝てたらなってやる、ですって?悪いけど、貴方に最初から選択肢なんて無いのよ、ブレイン・アングラウス」

 

 「ば、化け物……!!」

 

 「いいえ違うわブレイン・アングラウス、確かに私達は化け物かもしれない。けれど、今この現象が起こっているのは、私が化け物だからじゃない。……貴方が弱いからよ」

 

 「弱い、だと……?この俺が……?」

 

 

 ええそうよとエレティカは続ける。

 

 

 「私達は化け物。でも、かつての世界では私達に匹敵しうる程の力を持った、強き人間も居た。化け物じゃないのに、私達より強い存在が」

 

 「それは……」

 

 「しかも、その世界では武技は存在しなかったわ」

 

 「何だと?いや待て、さっきから一体何の、どこの世界の話をしているんだ?」

 

 「どこでもいいじゃない。とにかく武技は存在しなかった。だからこそ、武技が使える人間を探し、そして貴方を求めるのよ」

 

 

 万力のような力で受け止められていた刀が離され、ブレインは最早構えをとる気にもなれず、ただ彼女の話に耳を傾けていた。

 

 

 「私達の元へ来なさい、ブレイン・アングラウス。貴方の求める物を、私達は持っている。それを手に入れられるかどうかは、貴方の今後の身の振り方と……御主人様次第って所かしらね」

 

 「御主人様……?お前達より、更に上が居るってのか……!?」

 

 「少なくとも四十一人はいるでありんすえ」

 

 「ハハ……ハ……そりゃ、弱いって言われちまう訳だな」

 

 

 

 「……話は済んだみたいだな」

 

 「うおっ!?」

 

 話が済んだと判断したのか、ペロロンチーノがスッと不可視化を解除し、三人の前に姿を現す。だが、本来は非常時以外では姿を現さない手はずになっているが……。

 

 「御主人様?」

 

 「……御主人様……コイツが!?」

 

 コイツ呼ばわりしたのが気に食わなかったのか、シャルティアから殺気が飛ぶ。

 ブレインはそれに怯むが、裏を返せばその怒りこそ目の前のバードマンが彼女達の主人であることの証明であった。

 

 確かに強さは自分などでは足下どころか、同じ次元に立つ事すらおこがましい強さを持っている。それは黄金の太陽のような輝きを放つ装備が裏付けている。だがそんな装備を太陽を忌み嫌うとされているはずのヴァンパイアが主人と呼ぶような存在がつけているのだから、困惑して当然だ。

 

 「ああうん、一応ね。まぁその話は後にして……シャルティア、エレティカ。外からお客様が来ているみたいだ。どうも、この盗賊を俺らより前に目を付けてたっぽい、多分、冒険者かな?とっとと盗賊をとっ捕まえて帰ろう」

 

 「「了解で(ありん)す」」

 

 ブレインの困惑をよそに、さっさと必要事項を伝えていくペロロンチーノ。

 お客様、というのは恐らく、ブリタ達の事だろうと判断しながら、エレティカは思案する。見つかっていないのであれば、彼女達は無視してもいいだろう。

 

 となるともう一方の方、本来であれば、シャルティアを待機状態のままにしてしまったとはいえ支配する事に成功した漆黒聖典の方だが……あれは、どうしたものか。

 

 彼らを無視するのは簡単だが、かといって無視していいレベルの人間では無い事も確かだ。

 

 無策で突っ込んで自分が支配されては元も子もない、というかそんなつもりは無いのだが……相手はそれなりの、この世界では間違いなく五本、いや十本の指に入るか入らないかと言う程の強者だ。

 

 もっと言えば、ここで逃してしまうと次いつ現れるか予測が付かない存在でもある。ここで不安の種は片付けて置きたい。

 

 

 私とシャルティアが持つ、あのスキルを使えば……。

 

 

 問題はそれをどうやって使わせるか……。

 

 

 もし居なかった場合の事も考えて……。

 

 

 ……。

 

 

 

 

 「……エレティカ?」

 

 「……ハッ、な、なんでしょう御主人様……?」

 

 「大丈夫?なんかさっきからボーっとしてるような気が……」

 

 「そ、そんな事は……あれ?」

 

 

 無い、と言おうとしたが、確かに改めて自分の現状を確認すると、少しだけ違和感があった。視界がほんの少し赤みがかって見えるのだ。それと同時に、御主人様への返事に普段より少し時間がかかって居る事から、脳の回転が遅くなっている事を自覚した。

 

 「……血の狂乱、か?」

 

 「恐らく……そうでしょうね、成程……自分ではあまり気付けないのですね」

 

 「流石に狂化状態に陥った二人を同時に相手にするのはちょっとキツイかな……どうだ?とりあえずこの任務が終わるまではいけそうか?」

 

 「……なるべく血を啜らないようにすれば、なんとか」

 

 

 ぐっと我慢すれば大丈夫、と言えるような代物では無かった。血の狂乱、厄介なスキルである。ただ敵陣に突っ込めばいいという任務であったなら楽だっただろうに。

 

 

 「本当に大丈夫か?」

 

 「ひゃっ!?」

 

 

 突然、ペロロンチーノが目線を会せるように屈み、顔を寄せて彼女の目をじっと見つめる。すると、エレティカらしくもない、見た目相応の少女のような声が漏れ、頬がカァッと赤くなる。

 

 「……!ちょっと赤くなってるじゃないか?本当に……」

 

 「だ、大丈夫、です!大丈夫ですから!私はこのまま盗賊達を殲滅してきます!それでは!!」

 

 「あっ、ちょっと!?」

 

 ビュン、と擬音でも付きそうなレベルの脱兎の如く、ものの数秒で姿が見えなくなってしまう。

 

 「な、なんだ……?」

 

 「あ、姉上~~~!ちょっと待ってくんなまし~~~!!」

 

 続いて、そんな可愛い姉の背中を追いかけてパタパタとシャルティアが走り出す。

 ドレスじゃなく鎧にすればよかったと若干の後悔を抱き、というかエレティカも同じようなスカートの筈なのに何故ああもミサイルの如く走行が出来るのかと思いながら……。

 

 

 

 ペロロンチーノとブレインは、二人がその場から走り去っていくのを呆然と見つめながら、目の前の超越者に話しかけた。

 

 

 「……貴方は、アレ、いや、彼女達よりも強いのですか」

 

 「……そうだね、立場的にはあの子達の主をやってるからね」

 

 「もし、もしも俺が、貴方のお役に立てたなら……」

 

 「……そうだなぁ……」

 

 

 ブレインの言いたい事は分かっている。言う事を聞くから、自分を強くしてほしい、とでも言うつもりなんだろう。教えを乞いたいというかもしれないが同じ事。

 

 こちらとしては一見何のメリットも無いように見えるが、武技という技能を持っている人間の中ではブレインはトップクラス。それにクレマンティーヌやカジットという例外が既に存在してしまっているので、二人も三人も変わらないだろうという気持ちもある。

 

 あとは、この世界の人間をレベリングに付き合わせた場合成長具合はどうなるのか、といった疑問の解決にも繋がるかもしれない。

 

 出来なければまぁ適当に魔法武具を渡すとかして納得させれば一応問題は無い。というか納得しないなら最悪殺せばいいのだから。

 

 結局、今後の対応は追々考えるにしても、むやみに殺すべきではないかと考えた結果、ペロロンチーノはブレインに答える事にした。

 

 

 「強くしてやるとも力をくれてやるとも確約はしない。今後お前がどうなるのかはお前次第だ、それでいいな?(まぁもとより選択肢なんて無いけど)」

 

 「はいっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(はぁ、顔が、身体が熱い……これも血の狂乱のせいなの?)」




きゅ、9786文字……!?あまりに長すぎました、次からはちょっとは削ります。
(削れるとは言ってないし、なんなら修正したら増えたし、削ろうと修正したら何故か増えてた)


法国とか六大神のとか八欲神とか十三英雄とかのうんたらかんたらについては実はヨクワカッテナイ


※先にこっちのサイドの話が書きあがったしまったので上げましたが、時系列的にはモモンガさんとぶくぶく茶釜さんの方が早いと思うので、後程この話の前に挿入する形であちらサイドの話を投稿したいと思います


……これこそ前書きに書くべき事では?(時すでに遅し)

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